目次
導入:なぜ今、「特定技能」が企業の最重要課題なのか
1. 特定技能外国人の「在留状況」と「採用ルート」の基礎知識
2. 企業の最重要責務:「義務的支援」の全体像と内製化の壁
3. 【最重要】通訳・翻訳の「専門性」と「必須書類」の詳細
4. 登録支援機関を選ぶ際の「実務的」チェックポイント
まとめ:特定技能制度の成功は「支援」の質で決まる
深刻な人手不足に直面する日本において、2019年に創設された特定技能制度は、企業が即戦力となる外国人材を確保するための重要な柱となっています。
しかし、この制度は単に外国人を雇用するだけでなく、受入れ企業に対して「特定技能外国人支援計画」に基づく手厚い支援義務を課しています。この支援義務、特に外国人とのコミュニケーションの核となる通訳・翻訳の確保は、コンプライアンス遵守と人材定着の鍵を握ります。
本記事では、特定技能外国人の採用ルートから、受入れ企業が満たすべき義務的な支援内容、そして見落とされがちな通訳・翻訳の具体的な必要性と必須書類について、実務的な視点から徹底的に解説します。
特定技能の在留資格を持つ外国人は、海外からの新規入国者と、すでに日本に滞在している在留資格変更者の二つのパターンがあります。
| 区分 | 対象となる外国人 | 特徴 |
| 新規入国 | 海外に居住しており、日本の技能試験と日本語試験に合格した者。 | 国外の送り出し機関を通じて採用されるケースが多く、日本での生活経験は基本的にゼロからスタート。 |
| 在留資格変更 | 技能実習2号を良好に修了した者、または日本の学校を卒業した留学生などで試験に合格した者。 | 日本での生活や就労の経験があるため、即戦力として期待されます。技能実習修了者は試験が免除されます。 |
特定技能制度は、特定の国籍に関わらず、特定の技能水準と日本語能力水準を満たせば取得できる在留資格です。
1-2. 受け入れ企業(特定技能所属機関)の決定方法
企業が特定技能外国人を受け入れるためには、どこかに事前に「登録」するのではなく、入国管理庁が定める厳しい要件を満たした上で、申請(届出)が許可されることが必要です。
要件確認: 労働法令、社会保険、税制を遵守し、過去に失踪者を出していないなど、厳格な企業要件を満たします。
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人材確保: 特定技能外国人との直接雇用契約を結びます。
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支援体制構築: 支援計画を作成し、登録支援機関に委託するか、自社で支援できる体制を構築します。
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申請・許可: 雇用契約と支援計画を添付した書類一式を出入国在留管理庁に提出し、許可を得ることで、「特定技能所属機関」として認められ、受け入れが決定します。
1-3. 企業と外国人材が「出会う(採用する)」主なルート
特定技能の要件を満たす人材を確保するためには、主に以下のルートが活用されます。
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① 登録支援機関・人材紹介会社:
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特徴: 特定技能制度に精通しており、人材紹介から入社後の支援までをワンストップで提供できるため、企業の負担が最も少ないルートです。
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② 海外の送り出し機関:
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特徴: 海外在住の試験合格者を紹介してもらえます。新規入国者の採用に利用されます。
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③ 国内での直接採用:
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特徴: 技能実習生からの切り替えや、留学生の採用など、すでに日本にいる人材を面接を通じて直接採用するルートです。人柄や日本語能力を直接確認できるメリットがあります。
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特定技能の受入れ企業が負う「支援義務」は、単なる業務指導ではなく、外国人が日本で円滑に生活するための包括的なサポートを指します。
2-1. 受入れ企業に義務付けられる10の支援項目
企業が作成する「1号特定技能外国人支援計画」には、以下の10項目が含まれ、①〜⑩までの義務的支援(必須)を確実に実施する責任があります。(※任意的支援は行うことが望ましいとされています)
| No. | 支援内容 | 義務的支援の主なポイント |
| ① | 事前ガイダンスの実施 | 業務内容、労働条件、日本の活動範囲などを1〜3時間(目安)かけて母国語で対面またはテレビ通話で説明。 |
| ② | 出入国送迎の支援 | 入国時・帰国時の空港・港への送迎と、帰国時の保安検査場前までの同行。 |
| ③ | 住宅確保や契約のサポート | 住居探しの情報提供、必要に応じた同行、適切な連帯保証人確保(または緊急連絡先となる)。 |
| ④ | 生活オリエンテーションの実施 | 医療、金融、交通ルール、生活習慣などについて8時間以上(経験者でも最低4時間)かけて母国語で実施。 |
| ⑤ | 公的手続きなどへの同行 | 役所での住居地、社会保障、税金などの手続きへの同行・補助。 |
| ⑥ | 日本語学習機会の提供 | 日本語教室やオンライン教材の情報提供、利用契約の締結補助。 |
| ⑦ | 相談・苦情対応 | 外国人が十分に理解できる言語で相談窓口を設け、適切に対応し、必要に応じて行政機関へ案内。 |
| ⑧ | 日本人との交流促進 | 地域住民との交流の場や地域の行事参加機会を提供。 |
| ⑨ | 転職支援 | 受入れ側の都合(倒産など)で雇用契約を解除した場合、次の受け入れ先探しを補助。 |
| ⑩ | 定期的面談・行政機関への通報 | 外国人本人と監督者(上司)と3カ月に1回以上の定期面談を実施し、労働関係法令違反などが疑われる場合は関係行政機関へ通報。 |
2-2. 「内製化」を阻む3つの壁と登録支援機関の価値
これらの支援をすべて自社で内製化(自社支援)するには、非常に高いハードルがあります。
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実績の壁: 直近2年間に外国人労働者の受け入れ実績がない企業は、内製化ができず、すべての支援を登録支援機関に委託しなければなりません。
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時間・労力の壁: 事前ガイダンスや生活オリエンテーションは合計10時間以上の実施時間が義務付けられており、通常業務と並行して行うには多大な労力がかかります。
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言語・法令の壁: 支援は外国人が理解できる言語(母国語)で行う必要があり、かつ最新の法令に準拠している必要があります。言語対応できる人材の確保と、制度理解が必須です。
これらの課題を踏まえると、多くの企業にとって登録支援機関に委託することが、コンプライアンス遵守と業務負担軽減の両面で現実的かつ安全な選択肢となります。
特定技能制度において、通訳・翻訳の確保は単なる便利ツールではなく、コンプライアンスを担保する企業の義務です。特に、言語の専門性が求められる場面と、翻訳が必須となる書類について解説します。
3-1. なぜ通訳・翻訳は「必須」なのか?
特定技能外国人の日本語能力が高い(N3以上など)場合でも、以下のような理由から、通訳・翻訳をいつでも手配できる体制を整えることが、入管庁により求められています。
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理解度の個人差: 日本語で話せても、契約書や専門用語が使われる書類の「読み込み」が苦手な外国人は多い。
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トラブル回避: 事前ガイダンスや生活オリエンテーション、相談・苦情対応といった重要な場面で、日本語の誤解が原因で不利益を被ることや、失踪などの重大なトラブルが発生するのを防ぐため。
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義務の履行: 義務的支援(事前ガイダンス、生活オリエンテーション、定期面談など)の実施は、「外国人が十分に理解できる言語」で行うことが運用要領で定められています。
3-2. 翻訳が必須となる具体的な書類と注意点
出入国在留管理庁は、下記の書類について、特定技能外国人が理解できるよう翻訳したものを準備し、申請時に提出するように求めています。
| 翻訳が求められる必須書類(主な参考様式) | 記載される主な内容 | 翻訳上の注意点 |
| 特定技能雇用契約書 | 雇用期間、業務内容、就業場所、労働時間、賃金など。 | 労働基準法に基づき、曖昧な表現を避けた正確な翻訳が必要。 |
| 雇用条件書 | 雇用契約書を補完する詳細な労働条件。 | 外国人が日本の労働環境を正しく理解できるよう、専門用語を分かりやすく訳す。 |
| 事前ガイダンスの確認書 | 外国人がガイダンス内容(活動内容、労働条件など)を理解したことを確認する書類。 | ガイダンスで説明された内容と翻訳が完全に一致している必要があり、形式的な翻訳は不可。 |
| 1号特定技能外国人支援計画書 | 企業が外国人に対して実施する10項目の支援内容。 | 外国人本人が、企業からどのような支援を受けられるかを具体的に理解するために必要。 |
| 報酬支払証明書 | 毎月の報酬額、控除額などの詳細。 | 金銭に関わる事項であり、正確な理解が求められるため、明瞭な翻訳が必要。 |
| 健康診断個人票 | 健康状態に関する情報。 | 医療用語や診断結果について、正確かつ客観的な翻訳が求められる。 |
💡 翻訳の注意点: これらの書類の多くは、出入国在留管理庁のウェブサイトで各言語に翻訳された参考様式が公開されているため、それらを活用することが最も安全かつ確実です。ただし、企業独自の規定や補足文書については、プロの翻訳が必要です。
3-3. 通訳・翻訳の手配方法
企業の状況や予算に応じて、通訳・翻訳は以下の方法で手配できます。
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社内での雇用: 正社員やパートとして通訳者を雇用する(コストは高いが、即時対応可能)。
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支援担当者の兼任: バイリンガルの支援担当者が通訳も担当する(コスト効率は良いが、対応言語が限定される)。
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外部委託: 通訳翻訳会社やフリーランスに必要に応じて依頼する(コスト削減が期待できるが、緊急時の対応リスクがある)。
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オンラインサービス: 多言語対応のオンライン通訳サービスを利用する(多言語対応に強いが、時間外の対応に注意が必要)。
支援業務を委託する場合、企業のリスクを最小限に抑え、外国人材の定着を最大化するために、登録支援機関を慎重に選ぶ必要があります。
| チェックポイント | 企業が確認すべき実務的視点 |
| ① 支援実績と体制 | 単に登録しているだけでなく、豊富な支援事例と、支援計画を滞りなく遂行できる人的体制があるか。 |
| ② 言語対応力 | 雇用する外国人の母国語に確実に、かつ専門的に対応できる通訳・翻訳体制を有しているか。(→貴社のような専門性の高い通訳・翻訳サービスが重要となる点です。) |
| ③ 費用と内訳 | 複数の機関に見積もりを依頼し、費用が適正か(目安は月額3万円以下が約9割)。総額だけでなく、支援項目ごとの内訳が明確になっているか。 |
| ④ サービスの質 | 義務的支援だけでなく、日本人との交流促進やキャリア相談など、定着につながる任意的支援や独自のサポートがあるか。 |
| ⑤ 法令遵守 | 入管の運用要領に則った正しい支援を実行しているか。誤った支援で企業に指摘が入るリスクがないか。 |
特定技能制度の成功は、単に外国人材を雇用する数ではなく、入社後の支援の「質」にかかっています。
特に、義務的支援の確実な実行と、その根幹を支える通訳・翻訳の専門的な手配は、コンプライアンスの遵守、そして外国人材の定着率向上に直結します。
自社のリソースやノウハウに不安がある場合は、専門知識と実績を持つ登録支援機関に委託することが、最もリスクの低い選択肢です。
貴社のグローバルな人材戦略を成功に導くために、この支援義務を「コスト」ではなく「未来への投資」と捉え、適切な体制構築を進めてください。
















Dec. 02, 2025