建築設計契約書 翻訳:海外設計プロジェクトを成功に導く要点と関係部門の役割
グローバルな都市開発や建築プロジェクトが活発化する中、日本の設計事務所や建設会社が海外の建築設計プロジェクトに参画する機会が増えています。このような国際的な設計業務において、最も基盤となるのが建築設計契約書(Architectural Services Agreement / Design Agreement)です。
この契約書は、設計業務の範囲、設計報酬、工期、知的財産権、設計変更、責任範囲、保険、紛争解決などを詳細に定める法的文書であり、その正確な翻訳は、プロジェクトの円滑な進行、コスト管理、そして潜在的なリスクの回避のために極めて重要です。翻訳のミスや内容の理解不足は、設計範囲の誤解、追加費用の発生、スケジュール遅延、知的財産権の侵害、さらには高額な法的紛争へと発展するリスクをはらんでいます。
特に、国ごとに建築関連法規(建築基準法、都市計画法など)、契約法、設計者のライセンス制度、専門家賠償責任、そして国際的に標準化された契約モデル(AIAなど)の解釈が大きく異なるため、単に言葉を置き換えるだけでなく、それぞれの法制度や商慣習を踏まえた上で契約内容を理解し、翻訳することが不可欠です。
本記事では、私どもが数多くの建築設計契約書の翻訳を支援してきた経験に基づき、翻訳における重要ポイントと、貴社の各部門がどのように翻訳された契約書を活用し、関与していくべきかを具体的なケーススタディを交えて解説します。
貴社の海外設計プロジェクトを成功させ、リスクを最小限に抑えるために、ぜひ本記事をお役立てください。
建築設計契約書とは何か?その目的と国際プロジェクトにおける重要性
建築設計契約書(Architectural Services Agreement / Design Agreement)とは、建築物の発注者(Owner / Client)が、特定の建築プロジェクト(ビルディング、商業施設、住宅、都市開発など)の設計業務を、設計事務所または建築家(Architect / Designer)に依頼する際に締結する、極めて重要な法的文書です。
この契約書は、以下の非常に多岐にわたる詳細な条項を含みます。
-
設計業務の範囲(Scope of Services): 基本計画、基本設計、実施設計、工事監理(Construction Administration)、引渡し後のサポートなど、設計者が提供する具体的な業務フェーズと内容。各フェーズでの成果物(図面、仕様書、レポートなど)の明確化。
-
設計報酬と支払い条件: 総設計報酬、支払いスケジュール(フェーズごと、マイルストーンごとなど)、支払い通貨、為替リスクの取り扱い、支払いの遅延利息。追加業務の報酬。
-
工期とスケジュール: 各設計フェーズの開始日と終了日、重要な中間目標、工期延長の条件。
-
知的財産権(Intellectual Property Rights): 設計図書、模型、デザインなどに含まれる著作権、意匠権などの知的財産権の帰属、使用許諾の範囲。
-
設計変更(Changes in Services / Additional Services): 設計内容や業務範囲の変更が発生した場合の承認プロセス、設計報酬への影響。
-
発注者の義務: 情報提供義務(敷地情報、要望、予算など)、承認義務、既存資料の提供。
-
設計者の責任と専門家賠償責任保険: 設計者の過失による損害に対する責任範囲、専門家賠償責任保険(Professional Liability Insurance / E&O Insurance)の加入義務。
-
再委託(Subconsultants): 設計者が他の専門家(構造設計者、設備設計者など)に業務を再委託する際の条件。
-
秘密保持(Confidentiality): プロジェクトに関する機密情報の取り扱い。
-
契約解除条件: 契約違反、不可抗力などによる契約解除の条件、通知期間、違約金。
-
準拠法と紛争解決: 契約に適用される法律、紛争が発生した場合の解決方法(裁判、仲裁、調停など)。
-
適用される設計基準・法規: 建築基準、都市計画法、環境規制など、設計に適用される現地の法規の遵守義務。
国際建築プロジェクトにおいて建築設計契約書が特に重要なのは、以下の理由からです。
-
クリエイティブと技術の融合: 設計業務は、創造性と高度な技術的専門知識が融合するものであり、その成果物(設計図書など)は、プロジェクトの品質と安全性に直結します。契約書は、これらの成果物の品質基準と責任を明確にする基盤となります。
-
多大な影響力と長期性: 設計はプロジェクトの初期段階で行われますが、その決定は建設コスト、工期、最終的な建物の機能性と維持管理費用に長期的に影響を与えます。正確な設計契約は、これらの影響を予測し管理するために不可欠です。
-
法制度と商慣習の違いへの対応: 各国で建築基準法、都市計画法、設計者のライセンス制度、知的財産権の取り扱い、そして専門家賠償責任の考え方などが大きく異なります。これらの違いを理解せずに契約を結ぶと、予期せぬ法的リスクや多額の費用負担が生じる可能性があります。
-
知的財産権の保護: 設計図書やデザインには設計者の知的財産が含まれます。契約書でこれらの権利の帰属と使用範囲を明確にすることで、将来的な紛争を防止します。
-
国際標準契約(AIAなど)の理解: 米国建築家協会(AIA)の契約約款など、国際的に広く参照される標準契約モデルがあります。これらの標準契約に対する深い理解と、個別のプロジェクトに合わせた修正点の翻訳は、国際的な慣行に則った取引のために不可欠です。
英文建築設計契約書の特徴と和文契約書との違い
国際的な建築設計取引では、多くの場合、英文で契約書が作成されます。その特徴は、日本の和文契約書とは異なる点がいくつかあります。特に、米国建築家協会(AIA)が発行する契約約款がベースとなることが多く、その構造と用語には独特の慣習があります。
-
AIA (American Institute of Architects) 契約約款の参照:
-
国際プロジェクトでは、AIA契約約款(B101, B103など)が広く用いられます。これらの約款は、設計業務のフェーズ、報酬体系、責任分担が詳細に定義されており、特に知的財産権の取り扱いが明確です。翻訳する際には、これらの標準約款の用語や概念に対する深い理解が不可欠です。
-
日本の契約書は、比較的定型的なものが多いですが、AIA契約は非常に詳細で網羅的です。
-
-
設計業務のフェーズと成果物(Phases of Services and Deliverables)の詳細な定義:
-
Schematic Design (SD: 基本計画)、Design Development (DD: 基本設計)、Construction Documents (CD: 実施設計)、Bidding or Negotiation (入札・交渉)、Construction Administration (CA: 工事監理) など、各設計フェーズで提供される具体的なサービス内容と成果物(図面、仕様書、模型、レポートなど)が詳細に定義されます。
-
-
設計報酬の体系と追加業務の報酬:
-
設計報酬は、プロジェクトの総建設費のパーセンテージ、定額、時間単価、あるいはこれらを組み合わせた形など、多様な体系が採用されます。
-
追加業務(Additional Services)の報酬についても詳細に規定されます。例えば、発注者都合による設計変更、特殊な許認可申請支援、複数回の入札支援など、当初の契約範囲外の業務に対する報酬の計算方法が明確にされます。
-
-
知的財産権(Intellectual Property Rights)の明確化:
-
設計図書やデザインの著作権、意匠権の帰属が非常に重要です。通常、著作権は設計者に帰属し、発注者には特定の条件下での使用許諾(License)が与えられる形が一般的です。使用目的、使用期間、譲渡の可否などが厳密に規定されます。
-
-
設計者の責任(Standard of Care)と専門家賠償責任保険(Professional Liability Insurance):
-
設計者が負う責任の範囲(通常は「合理的な専門家としての注意義務(Standard of Care)」)が規定されます。
-
設計者が加入すべき専門家賠償責任保険(E&O保険)の種類、補償範囲、保険金額、保険証券の提出義務が厳密に規定されます。
-
-
設計変更(Changes in Services)とクレーム(Claims):
-
設計内容の変更が発生した場合の変更命令(Change Order)のプロセス、設計報酬や工期への影響、そして追加報酬や工期延長を請求するためのクレームの提出要件、手続き、評価方法が詳細に記述されます。
-
-
発注者の義務(Owner's Responsibilities):
-
敷地情報、要望、予算、既存図面、既存設備の提供など、発注者が設計者に提供すべき情報や協力義務が詳細に規定されます。発注者の情報不足や遅延が設計に与える影響(工期延長、追加費用など)も明記されます。
-
-
契約解除(Termination)の事由と効果:
-
発注者または設計者からの契約解除の具体的な事由(契約違反、破産、不可抗力など)、通知期間、違約金、契約解除時の設計成果物の評価、支払い精算方法、知的財産権の取り扱いなどが詳細に規定されます。
-
-
準拠法と紛争解決(国際仲裁)条項:
-
契約に適用される法律、紛争が発生した場合の解決方法(国際仲裁、調停、裁判など)および管轄地が明確に指定されます。
-
日本の和文建築設計契約書は、建築士法や民法を背景とし、比較的定型的なものが多いですが、国際的な契約では、それぞれのプロジェクトの特殊性や国際的なリスク管理、特に知的財産権や専門家賠償責任の観点から、より詳細かつ厳密な条項が盛り込まれます。翻訳においては、これらの違いを理解し、国際的な建築設計プロジェクトにおける法的・商業的慣行を反映した表現を用いることが不可欠です。
建築設計契約書翻訳における重要ポイント
建築設計契約書の翻訳は、貴社の海外設計プロジェクトの成否、費用、スケジュール、知的財産権、そして法的リスクに直接影響するため、極めて高い精度と専門性、そして法務・技術・財務・プロジェクト管理に関する視点が求められます。以下のポイントを押さえることが、成功への鍵となります。
-
設計業務の範囲(Scope of Services)と成果物の厳密な翻訳
提供される具体的な設計業務のフェーズ(基本計画、基本設計、実施設計、工事監理など)、各フェーズでの成果物(図面、仕様書、レポートなど)の種類と提出形態、そして業務に含まれない除外事項を、技術的・法的に誤解の余地なく厳密に翻訳することが最も重要です。一点の誤訳が、サービス不足による追加費用、スケジュール遅延、品質問題に直結しかねません。
-
設計報酬の計算方法と支払い条件、追加業務報酬の明確化
総設計報酬、支払いスケジュール(フェーズごと、マイルストーンごと、または時間単価など)、支払い通貨、為替リスクの負担者、支払いの遅延利息を正確に翻訳することが不可欠です。特に、当初の契約範囲外の「追加業務(Additional Services)」の定義とその報酬計算方法、承認プロセスを厳密に翻訳し、予期せぬ費用発生を防ぐ必要があります。
-
知的財産権(Intellectual Property Rights)の帰属と使用許諾範囲
設計図書やデザインの著作権、意匠権の帰属先(通常は設計者)、発注者への使用許諾(License)の範囲(使用目的、期間、譲渡の可否)を厳密に翻訳することが極めて重要です。この条項の誤訳は、将来的な知的財産権侵害訴訟やライセンス料請求に繋がりかねません。
-
設計者の責任(Standard of Care)と専門家賠償責任保険
設計者が負う責任の範囲(通常は「合理的な専門家としての注意義務」)と、設計者が加入すべき専門家賠償責任保険(Professional Liability Insurance / E&O Insurance)の種類、補償範囲、保険金額、保険証券の提出義務を厳密に翻訳することが不可欠です。これにより、設計ミスや過失による損害発生時のリスクが明確になります。
-
設計変更(Changes in Services)とクレーム(Claims)の手続き
設計内容や業務範囲に変更が生じた場合の変更命令(Change Order)のプロセス、設計報酬や工期への影響、そして追加報酬や工期延長を請求するためのクレームの提出要件、手続き、評価方法を厳密に翻訳することが極めて重要です。国際プロジェクトでは、変更やクレーム処理が頻繁に発生するため、そのルールを正確に把握しておく必要があります。
-
発注者の義務(Owner's Responsibilities)の明確化
発注者が設計者に提供すべき情報(敷地情報、要望、予算など)、既存資料の提供、設計成果物に対する承認義務、そして発注者の情報不足や承認遅延が設計業務に与える影響(工期延長、追加費用など)を正確に翻訳することが重要ですし、これは設計業務の円滑な進行のために不可欠です。
-
契約解除(Termination)の事由と効果、未払い報酬の精算
発注者または設計者からの契約解除の具体的な事由、通知期間、違約金、契約解除時の設計成果物の評価、未払い報酬の精算方法、知的財産権の取り扱いを詳細に翻訳することが重要です。
-
準拠法と紛争解決条項(国際仲裁)
契約に適用される法律、そして紛争が発生した場合の解決方法(国際仲裁、調停、裁判など)、仲裁地の選定、仲裁規則、仲裁人の数などを正確に翻訳することが不可欠です。国際仲裁条項は、将来的な紛争解決のプロセスと費用に直接影響するため、専門的な知識が必要です。
-
AI翻訳の適切な活用と専門家による最終確認
AI翻訳技術は、初稿の作成や用語の統一に役立ちますが、建築設計契約書のような法的・専門的に極めて複雑な文書、特にAIA契約のような国際標準契約約款においては、法的ニュアンス、各国固有の建築法規、専門家賠償責任、知的財産権の考え方を完璧に理解することは困難です。AIを効率化ツールとして最大限活用しつつも、法務知識、国際建築設計プロジェクトの実務経験、当該国の法規制に関する知見を持つ専門の翻訳者による徹底的なレビューと校正が不可欠です。人間による精査が、潜在的なリスクを最小限に抑え、安全な国際設計プロジェクトの基盤となります。
-
強固な情報セキュリティ体制
建築設計契約書には、プロジェクトの機密情報、設計図面、技術仕様、財務情報、競争戦略、クライアント情報など、企業の競争力や個人のプライバシーに直結する極めて機密性の高い情報が含まれることが一般的です。これらの情報が外部に漏洩した場合、企業の競争力低下、信用失墜、法的な責任問題など、甚大な損害を被る可能性があります。そのため、翻訳を依頼する際には、翻訳会社が厳格な情報セキュリティポリシーを定め、技術的・物理的・人的な対策を徹底しているかを必ず確認すべきです。私どもは、お客様の機密情報を最高レベルで保護するため、徹底したセキュリティ管理を実践しています。
-
「総コスト」での評価と信頼できる翻訳会社の選定
翻訳にかかる費用は、単純な料金だけでなく、翻訳後の社内での確認・修正にかかる時間や労力、そして将来的な紛争リスクといった「総コスト」で評価すべきです。初期費用が安価でも、翻訳品質が低ければ、結果的に大きな損失に繋がりかねません。実績、専門性、セキュリティ体制、そして提供されるサービスの質を総合的に判断し、貴社の国際建築設計プロジェクトにおける戦略的パートナーとして信頼できる翻訳会社を選定することが重要ですし、私どもはこのような観点から、お客様に安心してご利用いただける最適なサービスを提案しています。
-
現地の弁護士・コンサルタントとの連携
翻訳された契約書をベースに、必ず現地の建築法、契約法、知的財産法に詳しい弁護士やコンサルタントと連携し、契約内容の法的妥当性、税務上の影響、そしてリスクを最終確認することが不可欠です。翻訳は「理解の橋渡し」であり、最終的な法的判断は現地の専門家が行うべきです。
建築設計契約書の翻訳は誰に必要なのか?ケーススタディで見る関係部門の役割
建築設計契約書は、海外設計プロジェクトの成否を左右するため、多岐にわたる部門や関係者がその内容を理解し、翻訳された情報に基づいて連携することが不可欠です。
ケーススタディ1:海外の大型商業施設設計プロジェクトの受注(設計事務所)
状況: 日本の大手建築設計事務所が、中東某国で大規模商業施設の設計プロジェクトを、AIA契約をベースとした英文建築設計契約で受注するケース。
-
国際事業部/プロジェクトマネジメント部:
-
必要性: 設計業務の範囲(各フェーズの成果物)、設計報酬、工期、設計変更手続き、クレーム対応、発注者の義務など、プロジェクトの商業的・スケジュール的条件を詳細に確認します。収益性、リスク、工期に直結するため、これらの内容を正確に反映した翻訳が不可欠です。
-
ケース: 契約書に記載された「設計業務の各フェーズにおける発注者の承認期限」や「追加業務が発生した場合の報酬計算方法」を和訳で確認し、プロジェクトのスケジュールとコストリスクを評価します。過去には、設計業務の範囲に関する翻訳が曖昧だったため、当初の予算以上の追加費用を請求された事例がありました。私どもは、このような業務範囲や報酬に関する条項の正確な翻訳を特に重視しています。
-
-
法務部:
-
必要性: 契約全体の法的妥当性、リスク管理、特に知的財産権の帰属と使用許諾、設計者の責任範囲、専門家賠償責任保険の義務、契約解除条件、準拠法、紛争解決(国際仲裁)条項の適切性を確認します。中東地域の法規制や商慣習への対応が求められます。
-
ケース: 契約書に記載された「設計図書の著作権帰属と、発注者への使用許諾範囲」や「設計ミスによる損害賠償責任の制限」を和訳で確認し、法的リスクと知的財産戦略を評価します。
-
-
設計部/技術部:
-
必要性: 設計業務の技術的要件、品質基準、適用される建築基準法規、構造・設備設計者との連携、設計変更の技術的影響などを確認します。
-
ケース: 契約書に記載された「プロジェクトに適用される特定の国際設計基準(例:IBC: International Building Code)」や「設計レビューのプロセス」を和訳で確認し、技術的要件への適合性を確保します。
-
-
経理部/財務部:
-
必要性: 設計報酬、支払いスケジュール、追加業務報酬、為替リスク、税金(源泉徴収税など)など、財務上の全てのフローを確認し、適切な会計処理、資金計画を行います。
-
ケース: 契約書に記載された「設計報酬の支払いマイルストーンとその達成基準」や「源泉徴収税の取り扱い」を和訳で確認し、キャッシュフローと税務申告を管理します。
-
ケーススタディ2:海外オフィスビル建設プロジェクトの発注(事業会社)
状況: 日本の製造業企業が、欧州に新たなオフィスビルを建設するため、現地の建築設計事務所と英文の建築設計契約を締結するケース。発注者(オーナー)の立場。
-
事業開発部/施設建設部:
-
必要性: 設計業務の範囲、スケジュール、設計報酬、設計変更プロセス、発注者の義務、知的財産権の使用許諾範囲など、プロジェクト全体と予算・工期に直結する条項を詳細に確認します。
-
ケース: 契約書に記載された「設計成果物の承認期限と、遅延した場合の設計者への影響」や「設計者が行うべき省エネ基準への適合性評価」を和訳で確認し、プロジェクトの管理体制を構築します。
-
-
法務部:
-
必要性: 発注者としてのリスク管理、特に設計図書の知的財産権の帰属と、自社での将来的な使用可能性、設計者の責任範囲、専門家賠償責任保険の義務、契約解除時の権利、準拠法、国際仲裁の適切性を確認します。欧州の建築法規や知財権に関する規制への対応が求められます。
-
ケース: 契約書に記載された「設計成果物を将来的に別のプロジェクトで利用する際の条件」や「設計者の過失により発生した追加工事費用に対する責任」を和訳で確認し、発注者としての権利とリスクを評価します。
-
-
調達部:
-
必要性: 設計成果物(仕様書など)が、その後の建設工事の調達要件を満たしているか、コスト最適化の観点から問題がないかを確認します。
-
ケース: 契約書に記載された「設計者が作成すべき仕様書の詳細レベル」を和訳で確認し、建設工事入札への影響を評価します。
-
よくある質問(FAQ)
建築設計契約書の翻訳に関して、お客様からよくいただくご質問とその回答をまとめました。
Q1: 建築設計契約書における「設計業務の範囲(Scope of Services)」の条項は、翻訳でどのように注意すべきですか?
A1: 設計業務の範囲は、設計者が何を行い、何を行わないかを明確にする最も重要な部分です。翻訳においては、基本計画(SD)、基本設計(DD)、実施設計(CD)、工事監理(CA)といった各フェーズの具体的な業務内容、それぞれのフェーズで提出される成果物(図面、仕様書、レポートなど)の種類と提出形式、そして契約範囲に含まれない「追加業務」や「除外業務」の明確な定義を、技術的・法的に誤解の余地なく表現することが重要です。これにより、サービスの不足や追加費用発生のトラブルを防ぎます。
Q2: 「知的財産権(Intellectual Property Rights)」に関する条項の翻訳で、特に注意すべき点は何ですか?
A2: 設計図書やデザインは知的財産として保護されます。翻訳においては、設計図書やデザインの著作権、意匠権が誰に帰属するのか(通常は設計者)、発注者がそれらの設計成果物をどの範囲で利用できるのか(使用目的、使用期間、譲渡の可否)、そして将来的な改修や増築の際に元の設計図書を再利用できる条件を明確に表現することが不可欠です。この条項の誤解は、将来的な知的財産権侵害訴訟やライセンス料請求に繋がりかねません。
Q3: 国際的な建築設計契約で、「設計者の責任(Standard of Care)と専門家賠償責任保険(Professional Liability Insurance)」はなぜ重要視されますか?
A3: 設計者の過失やミスによる損害は、建設コストの増大や建物の機能不全に直結するため、非常に大きな影響を及ぼします。翻訳においては、設計者が負う責任の基準(通常は「類似状況下における同業の合理的な専門家としての注意義務」)、責任の制限(責任上限額など)、そして設計者が加入すべき専門家賠償責任保険(E&O保険)の種類、補償範囲、保険金額、保険証券の提出義務を厳密に表現することが極めて重要です。これにより、万一の事故発生時のリスク分担が明確になります。
Q4: 契約期間中の「設計変更(Changes in Services)と追加業務(Additional Services)」に関する条項は、どのように注意して翻訳すべきですか?
A4: 設計プロジェクトでは、発注者の要望や状況の変化により設計内容が変更されることがよくあります。翻訳においては、設計変更を命じるプロセス(書面による命令)、変更が設計報酬や工期に与える影響の評価方法、そして当初の契約範囲外となる「追加業務」の定義、それに対する報酬の計算方法、承認プロセスを明確に表現することが重要です。これにより、予期せぬ費用や工期延長を防ぎ、適切な対価の支払いが行われることを保証します。
Q5: 建築設計契約書で「準拠法と紛争解決」の条項が非常に重要と言われるのはなぜですか?
A5: 準拠法(Governing Law)は、契約の解釈、有効性、義務の履行、そして違反時の法的効果を判断する際に適用される法律です。国によって建築法規、契約法、知的財産法、専門家賠償責任の考え方などが大きく異なります。準拠法を誤ると、契約条項の法的有効性が失われたり、予期せぬ義務が生じたり、あるいは紛争解決が著しく困難になったりする可能性があります。また、紛争解決方法として国際仲裁を選択する場合、その仲裁地、仲裁機関、仲裁規則、仲裁判断の拘束力も極めて重要であり、専門的な知識をもって正確に翻訳・理解する必要があります。
まとめ
建築設計契約書の翻訳は、単なる言語の変換に留まらず、企業が国際市場で複雑な建築設計プロジェクトを安全かつ円滑に進め、創造的なビジョンを実現するための極めて重要な戦略的要素です。英文と和文の契約書が持つそれぞれの特徴を深く理解し、国際事業、法務、設計、技術、経理といった各部門が連携しながら、専門知識を持つ翻訳者の力を借りることが不可欠ですし、これまでの経験から私どもはこれを強く認識しています。
特に、設計業務の範囲と成果物の厳密な翻訳、設計報酬と追加業務報酬の明確化、知的財産権の帰属と使用許諾範囲、設計者の責任と専門家賠償責任保険、設計変更とクレームの手続き、そして準拠法と紛争解決といった条項は、潜在的なリスクを最小限に抑え、国際建築設計プロジェクトにおける継続的な成功への鍵となります。
私どもは、このような複雑な建築設計契約書の翻訳において、貴社の各部門のニーズを理解し、最高品質の翻訳とサポートを提供することをお約束します。貴社の海外ビジネスにおける建築設計プロジェクトや投資に関してご不明な点やご相談がありましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。
WIPジャパンは、東京弁護士共同組合、神奈川県弁護士共同組合をはじめとする全国23の弁護士共同組合の特約店に認定されています。
ご相談は無料です。いつでもお気軽にご連絡ください。
【無料】PDFダウンロード
契約書の基本用語英訳50選
一言に契約書といっても、業務委託契約書(Services Agreement)、独立請負人契約書(Independent Contractor Agreement)、秘密保持契約書(Non-Disclosure Agreement)、業務提携契約書(Business Partnership Agreement)など、様々なものがあり、契約の種類も多様化しています。
契約内容を正しく理解し、法的リスクを回避するには、適切な英訳が不可欠です。本記事では、契約書における基本用語の英訳50選をご紹介します。 >>PDFダウンロード(無料)
「翻訳発注」に失敗しない10のポイント
翻訳の発注に失敗しないためには、どうすればいいのか。
翻訳外注コストを抑えるには、どうすればいいのか。
これらの課題の解決策をお教えします。
翻訳発注に失敗しないためには、知らないではすまされない重要なポイント!
優れた翻訳会社ほど多忙で引く手あまたです。価格が相場に比べて格段に低い翻訳会社は、良心的なのか、それとも単に制作プロセスを簡単に済ませているだけなのかをよく見極めましょう。また、同じ翻訳会社でも、制作プロセス次第で翻訳料金は大きく上下します。希望するレベルを詳細に伝えることで、翻訳会社は最適なプロセスをデザインすることができます。 >>PDFダウンロード(無料)
契約書翻訳に役立つリンク集
・法務省大臣官房司法法制部「法令翻訳の手引き」(PDF)
・日本法令外国語訳推進会議「法令用語日英標準対訳辞書」(PDF)
・Publiclegal(英文契約書のテンプレートや書式を無料で提供)
・日本法令外国語訳データベースシステム(法務省が開設した日本の法令の英訳サイト)
・weblio 英和辞典・和英辞典
・英辞郎 on the web
契約書翻訳に関連する記事
・【2024年版】ビジネスで欠かせない「契約書翻訳」におすすめの8つのポイント
・契約書翻訳を依頼する際に知っておいていただきたいこと
・契約書の翻訳を外注するとき、特に注意すべき3点
・翻訳会社のプロの法律系翻訳者が選ぶ!契約書の英訳におすすめの書籍12選
・法律文書:AI翻訳時代における人力翻訳の価値とは?