今日のグローバル経済において、企業が新たな事業機会を探る際、単独での進出や投資だけでなく、他社との共同事業(Joint Venture)や戦略的提携(Strategic Alliance)を選択するケースが増えています。特に、ベンチャー企業への投資、合弁会社の設立、少数株主としての出資など、複数の株主が存在する状況では、企業の成長と安定した経営を実現するために、株主間の権利義務関係を明確にする株主間契約書(Shareholders' Agreement / Stockholders' Agreement)が不可欠となります。
この契約書は、株式の譲渡制限、経営権の行使、取締役の選任、配当政策、資金調達、競業避止義務、紛争解決など、多岐にわたる重要な事項を詳細に定めます。
その正確な翻訳は、共同事業を成功させ、株主間の法的リスクを最小限に抑え、それぞれの期待値を一致させるために不可欠です。翻訳のミスや内容の理解不足は、予期せぬ株主間紛争、経営の停滞、事業価値の毀損、そして提携関係自体の破綻へと発展する重大なリスクをはらんでいます。
特に、国ごとに会社法、証券取引法、競争法(独占禁止法)、そして商慣習が大きく異なります。単に言葉を置き換えるだけでなく、それぞれの法制度や文化、商慣習に応じた法的・商業的なニュアンスを踏まえた上で契約内容を理解し、翻訳することが不可欠です。
本記事では、これまでの経験に基づき、株主間契約書翻訳における重要なポイントと、貴社の各部門がどのように翻訳された契約書を活用し、関与していくべきかを具体的なケーススタディを交えて解説します。
貴社のグローバル連携戦略において、株主間契約の適切な理解と運用を通じて、法的コンプライアンスの強化と共同事業の成功を実現するために、ぜひ本記事をお役立てください。
株主間契約書とは何か?その目的と国際取引における重要性
株主間契約書(Shareholders' Agreement / Stockholders' Agreement)は、複数の株主が特定の会社(多くの場合、共同で設立した合弁会社や投資先企業)に関して、株主としての権利義務、会社経営に関する取り決め、株式の取り扱いなどを合意する法的拘束力のある文書です。これは、会社の定款(Articles of Incorporation)とは異なり、株主間の内部的な合意であり、より詳細かつ柔軟な取り決めが可能です。
国際的な共同事業や投資において、この契約書は以下のような多岐にわたる場面で利用されます。
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合弁事業(Joint Venture, JV)の設立: 複数の企業が共同で新会社を設立し、特定の事業を行う際に、各株主の権利義務とJV会社の経営方針を定めるため。
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ベンチャー投資: 投資家(VC、事業会社など)がスタートアップ企業に出資する際、創業者株主との間で、将来の資金調達、株式の売却制限、経営の監視などを取り決めるため。
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少数株主保護: 少数株主が、多数株主による一方的な経営判断から自己の権利を保護するため(例:拒否権の確保)。
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事業承継・M&Aの準備: 将来的な株式売却やM&Aを円滑に進めるための取り決め(例:共同売却権、買主指定権など)。
この契約書は、以下の非常に多岐にわたる詳細な条項を含みます。
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株式の譲渡制限(Restrictions on Transfer of Shares): 株式の自由な譲渡を制限する条項。
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先買権(Right of First Refusal, ROFR): 他の株主が株式を第三者に売却しようとする場合、既存の株主が優先的に買い取る権利。
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共同売却権(Tag-Along Right): 多数株主が株式を売却する際、少数株主も同条件で売却に参加できる権利。
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買主指定権(Drag-Along Right): 多数株主が特定の条件で株式を売却する際、少数株主も売却に応じることを強制できる権利(M&Aを円滑に進めるために重要)。
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経営権の行使と意思決定(Governance and Decision-Making):
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取締役の選任: 各株主が選任できる取締役の人数、取締役会の構成。
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重要事項の決定: 株主総会や取締役会における重要事項(例:多額の借入、事業の変更、役員報酬、M&Aなど)の決議要件(特別な過半数、全会一致など)。少数株主の拒否権(Veto Right)の有無と範囲。
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経営体制: 代表取締役、CEOなどの選任方法、権限。
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資金調達(Funding / Capital Contributions):
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将来の増資の必要性、各株主の追加出資義務、または追加出資に応じない場合の希薄化(Dilution)に関する取り決め。
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借入による資金調達の場合の保証の有無など。
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配当政策(Dividend Policy): 利益の配当に関する方針、配当時期、配当率など。
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競業避止義務(Non-Compete): 各株主またはその関連会社が、対象会社と競合する事業を行わない義務。
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秘密保持義務(Confidentiality): 契約内容や対象会社の機密情報に関する秘密保持義務。
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紛争解決(Dispute Resolution): 株主間の紛争が発生した場合の解決方法(協議、調停、仲裁、裁判など)。
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デッドロック条項(Deadlock Provision): 株主間の意見対立により経営が停滞した場合の解決策(例:Buy-Sell Option / Russian Roulette、第三者評価による売却、会社清算など)。
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契約期間と解除(Term and Termination): 契約の有効期間、解除条件。
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準拠法(Governing Law): 契約に適用される法律。
国際的な共同事業や投資において株主間契約書が特に重要なのは、以下の理由からです。
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会社法との関係性: 会社の定款や株主総会決議だけではカバーしきれない、株主間の詳細な合意事項を規定するため。特に、国によって会社法上の株主の権利や経営に関する規定が異なるため、それらを補完し、当事者の意図を反映させる。
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意思決定の円滑化と少数株主保護: 株主間の意見対立を未然に防ぎ、スムーズな意思決定プロセスを確立するとともに、特に少数株主が多数株主による不利益な決定から保護されるためのメカニズムを提供する。
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M&A・Exit戦略の明確化: 将来的な株式の流動性や売却に関するルールを事前に定めることで、投資家や創業者株主のExit戦略を明確にし、M&Aを円滑に進める基盤となる。
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予期せぬ紛争の予防: 株式の譲渡、資金調達、経営判断など、株主間で意見が分かれやすい事項について事前にルールを定めることで、法的紛争や経営の混乱を回避する。
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多国籍間の商慣習と法的枠組みの調整: 異なる法文化や商慣習を持つ国の当事者間で、共通のルールを確立し、誤解を防ぐための調整弁として機能します。
英文株主間契約書の特徴と和文契約書との違い
国際的な共同事業や投資では、多くの場合、英文で株主間契約書が作成されます。その特徴は、日本の和文契約書とは異なる点がいくつかあります。
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Detailed Share Transfer Restrictions (Drag-Along, Tag-Along, ROFR):
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英文契約書では、株式の譲渡制限に関する条項が非常に詳細かつ厳密に規定されます。特に、ドラッグアロング権(Drag-Along Right)、タグアロング権(Tag-Along Right)、先買権(Right of First Refusal, ROFR)は、日本の株主間契約書でも見られますが、英文ではその行使条件、通知期間、評価方法などがより具体的に記述される傾向があります。これらは、将来のM&AやExit戦略において、株主間の利害調整と円滑な売却を実現するために不可欠です。
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Veto Rights and Reserved Matters(拒否権と留保事項):
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少数株主の保護のため、特定の重要事項(例:M&A、多額の借入、重要契約の締結、事業内容の変更、主要役員の選任・解任など)について、特定の株主(少数株主を含む)の同意または拒否権(Veto Right)が必要となる旨が明確に規定されます。これは、日本の定款や株主総会決議だけでは保護しきれない少数株主の権利を確保する上で重要な条項です。
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Deadlock Provisions(デッドロック条項):
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株主間の意見対立により、取締役会や株主総会で意思決定ができなくなる「デッドロック(Deadlock)」状態に陥った場合の解決策が、詳細に定められます。これには、交渉期間、第三者による調停・仲裁、Buy-Sell Option(一方の株主が相手に株式売却を提案し、相手は買うか売るかを強制される)、Russian Roulette(Buy-Sell Optionの一種で、提示された価格で買うか売るかを瞬時に決める)、第三者への売却、会社の清算などが含まれます。これは、事業の停滞を防ぎ、M&Aを円滑に進める上で極めて重要です。
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Funding / Capital Call Provisions(資金調達/追加出資要請条項):
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将来の資金不足や事業拡大のために追加資金が必要になった場合の、各株主の追加出資義務に関する条項です。追加出資に応じない株主の株式が**希薄化(Dilution)**されること、または株式を強制的に買い取られる可能性などが詳細に規定されます。
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Representations and Warranties and Indemnification(表明保証と補償):
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各株主が、自己の法的地位、株式の正当な保有、競業避止義務の遵守などについて表明保証し、違反があった場合の補償(Indemnification)に関する条項も盛り込まれることがあります。M&A契約書ほど詳細ではないものの、株主間の基本的な責任を明確にします。
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Confidentiality and Non-Compete / Non-Solicitation(秘密保持、競業避止、従業員引き抜き禁止):
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会社の機密情報に関する秘密保持義務に加え、株主またはその関連会社が対象会社と競合する事業を行わない競業避止義務(Non-Compete)、対象会社の従業員や顧客を引き抜かない**従業員引き抜き禁止(Non-Solicitation)**条項が、期間、地域、対象範囲を具体的に定めて規定されることが一般的です。
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Governing Law and Dispute Resolution(準拠法と紛争解決):
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国際的な株主間契約では、契約に適用される法律(例:ニューヨーク州法、英国法、シンガポール法、ケイマン諸島法など)が明確に指定されます。これは、特に共同事業体が設立された国の会社法だけでなく、株主間の関係を規律する別の法律を選定することが多いため、重要です。
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紛争解決手段としては、国際仲裁が指定されることが一般的です。仲裁地(例:ニューヨーク、ロンドン、シンガポール、香港)、仲裁機関(例:ICC、AAA、LCIA、SIAC、HKIAC)、仲裁規則、仲裁人の数などが詳細に規定されます。これは、機密保持、迅速性、専門性、強制執行の容易さなどの理由から選ばれます。
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日本の和文株主間契約書に比べ、英文契約書は、株式譲渡制限の多様なメカニズム、少数株主の拒否権と留保事項の詳細化、デッドロック解決条項の具体性、資金調達に関する規律、そして特定の法域(デラウェア州、ケイマン諸島など)と国際仲裁の指定に関して、より詳細かつ厳密な記述が求められる傾向が強いです。翻訳においては、これらの法的・商業的・税務的ニュアンスを正確に反映した表現を用いることが不可欠です。
株主間契約書翻訳における重要ポイント
株主間契約書の翻訳は、貴社のグローバル共同事業の成否、各国の法規制への準拠、潜在的な法的・商業的リスクの回避に直接影響するため、極めて高い精度と専門性、そして法務、事業、財務といった多岐にわたる部門の連携と視点が求められます。以下のポイントを押さえることが、成功への鍵となります。
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株式の譲渡制限(Share Transfer Restrictions)に関する詳細な翻訳:
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**先買権(ROFR)、共同売却権(Tag-Along Right)、買主指定権(Drag-Along Right)**といった株式の譲渡制限条項は、将来の株式売却やM&A戦略に直結します。これらの権利の行使条件、通知プロセス、株式の評価方法、例外規定などを、各国の会社法や証券取引慣行と照らし合わせて、極めて正確に翻訳することが不可欠です。一つの誤訳が、M&Aディールの破談や、株主間の不公平な結果につながる可能性がありますし、当社はこれを強く認識しています。
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経営権の行使と意思決定(Governance and Decision-Making)に関する明確な翻訳:
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取締役の選任方法、取締役会の構成、そして株主総会や取締役会における**重要事項の決議要件(特別な過半数、全会一致など)**を明確に翻訳することが不可欠です。特に、**少数株主の拒否権(Veto Right)**の範囲や行使条件は、経営のコントロールと密接に関わるため、曖昧さなく表現すべきです。
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デッドロック条項(Deadlock Provision)の具体的な翻訳:
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株主間の意見対立で経営が停滞した場合の解決策(Buy-Sell Option、Russian Roulette、第三者評価による売却、会社清算など)は、事業継続に直接影響します。これらの条項のトリガー条件、具体的な手続き、価格決定方法、期間などを、法的・商業的に有効な形で翻訳することが極めて重要です。
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資金調達(Funding)と希薄化(Dilution)に関する正確な翻訳:
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将来の増資の必要性、各株主の追加出資義務、または追加出資に応じない場合の**株式の希薄化(Dilution)**に関する取り決めを正確に翻訳することが不可欠です。これにより、株主間の資金負担の公平性や、将来的な持分比率の変化を明確にします。
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競業避止義務(Non-Compete)と秘密保持義務(Confidentiality)の厳密な翻訳:
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各株主またはその関連会社が対象会社と競合する事業を行わない義務(期間、地域、対象事業の範囲)、および契約内容や対象会社の機密情報に関する秘密保持義務を厳密に翻訳すべきです。これらの条項は、共同事業の健全な運営と、知的財産および顧客基盤の保護に不可欠です。
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準拠法(Governing Law)と紛争解決(Dispute Resolution)の正確な指定:
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契約に適用される法律、そして紛争が発生した場合の解決方法(裁判、国際仲裁、調停など)、裁判管轄、仲裁地の選定、仲裁機関、仲裁規則、仲裁人の数などを正確に翻訳することが不可欠です。株主間紛争は複雑化しやすいため、自社にとって有利な準拠法や紛争解決地を指定することが戦略上重要であり、その内容を正確に把握すべきです。
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当社は、このような複雑な準拠法と紛争解決に関する条項の正確な翻訳を特に重視しています。
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強固な情報セキュリティ体制:
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株主間契約書には、共同事業の経営戦略、財務情報、知的財産に関する情報、株主間の合意事項など、極めて機密性の高い情報が含まれます。これらの情報が外部に漏洩した場合、企業の法的責任問題、信用失墜、競合への情報漏洩、そして共同事業の破綻など、甚大な損害を被る可能性があります。そのため、翻訳を依頼する際には、翻訳会社が厳格な情報セキュリティポリシーを定め、技術的・物理的・人的な対策を徹底しているかを必ず確認すべきですし、当社はこれを徹底しています。
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AI翻訳の適切な活用と専門家による最終確認:
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AI翻訳技術は、初稿の作成や用語の統一に役立ちますが、株主間契約書のような法的・商業的に極めて複雑で、各国の会社法、商慣習、判例を深く理解する必要がある文書においては、その複雑なニュアンスや法的な効力を完全に理解することは困難です。AIを効率化ツールとして最大限活用しつつも、会社法務知識、国際取引の実務経験を持つ専門の翻訳者による徹底したレビューと校正が不可欠です。人間による精査が、潜在的なリスクを最小限に抑え、共同事業の安定的な運営の基盤となります。
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株主間契約書の翻訳は誰に必要なのか?ケーススタディで見る関係部門の役割
株主間契約書は、企業のグローバルな共同事業や投資戦略の鍵を握る文書であり、多岐にわたる部門や関係者がその内容を理解し、翻訳された情報に基づいて連携することが不可欠です。
ケーススタディ1:日本の大手企業がシンガポールでスタートアップ企業と合弁会社を設立
状況: 日本の大手企業A社が、東南アジア市場開拓のため、シンガポールのスタートアップ企業B社と共同でシンガポールに合弁会社C社を設立するケース。英語で株主間契約書が作成され、それを日本のA社側で日本語に翻訳する必要がある。
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法務部:
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必要性: 契約全体の法的妥当性、特にシンガポール会社法に基づく株主の権利義務、株式譲渡制限(Tag-Along, Drag-Along, ROFR)の適用可否、デッドロック条項の実行可能性、取締役の選任と取締役会の構成、重要事項の拒否権、競業避止義務、秘密保持義務、そして準拠法(シンガポール法)と紛争解決(シンガポールでの国際仲裁)条項の適切性を確認します。
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ケース: 翻訳された契約書に記載された「A社が持つ特定重要事項に対する拒否権の範囲(例:C社の事業内容変更、多額の借入)」、「デッドロック発生時の解決策として設定された『Russian Roulette』条項の具体的なプロセスと評価基準」、「シンガポール法を準拠法とし、シンガポール国際仲裁センター(SIAC)での仲裁を紛争解決手段とする条項」を和訳で確認し、法的リスクと企業統治の適切性を評価します。
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事業部/海外事業推進室:
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必要性: 合弁会社C社の事業目的、経営体制、製品・サービスの開発計画、市場戦略、将来の事業拡大に関する意思決定プロセス、将来的なExit戦略などを理解し、自社の事業戦略と合致するかを確認します。
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ケース: 翻訳された契約書に記載された「C社の主要事業分野と事業計画(例:AIを活用したデジタルマーケティングプラットフォームの開発・運営)」、「C社のCEOおよびCFOの選任方法と権限」、「C社が将来M&Aの対象となった場合の株式売却に関するDrag-Along RightとTag-Along Rightの行使条件」を和訳で確認し、共同事業の戦略的意義と事業運営の円滑性を評価します。
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財務部/経理部:
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必要性: 合弁会社C社への初期出資額、将来の追加出資義務、資金調達計画、配当政策、財務報告の頻度と形式、シンガポールと日本の税務上の影響(連結納税、移転価格税制など)などを確認します。
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ケース: 翻訳された契約書に記載された「A社およびB社のC社への初期出資比率と金額」、「C社が特定の期間内に追加資金を必要とする場合の各株主の追加出資義務と、応じない場合の希薄化条項」、「C社の利益配当方針と、配当時期、配当額の決定方法」を和訳で確認し、財務計画の策定と税務・会計コンプライアンスを評価します。
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ケーススタディ2:米国ベンチャーキャピタルが日本のAIスタートアップ企業に投資
状況: 米国のベンチャーキャピタル(VC)D社が、成長著しい日本のAIスタートアップ企業E社に投資を行うケース。日本語で株主間契約書が作成され、それを米国のD社側で英語に翻訳する必要がある。
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法務部:
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必要性: 契約全体の法的妥当性、特に日本の会社法に基づく少数株主の権利と保護、将来の資金調達ラウンドにおける希薄化防止策、株式譲渡制限(創業者株式のロックアップなど)、競業避止義務、秘密保持義務、重要事項の同意権、そして準拠法(日本法)と紛争解決(東京地方裁判所の専属管轄)条項の適切性を確認します。
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ケース: 翻訳された契約書に記載された「D社が持つE社の増資、事業売却、役員報酬変更などの特定重要事項に対する同意権(拒否権)」、「創業者株主が一定期間E社の株式を譲渡しない旨のロックアップ条項」、「E社が将来IPOする場合の株式売却に関する条項」、「日本法を準拠法とし、東京地方裁判所を専属管轄とする条項」を英訳で確認し、投資保護と法的リスクを評価します。
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投資担当部門/ポートフォリオ管理部門:
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必要性: 投資先のE社の経営戦略、技術ロードマップ、市場戦略、事業計画、そして将来のExit戦略(IPO、M&Aなど)を理解し、投資のROI(投資収益率)とリスクを評価します。
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ケース: 翻訳された契約書に記載された「E社の事業計画における主要KPI(例:ユーザー数、MRR)と、それに基づいた将来の資金調達ラウンドの評価基準」、「E社が将来M&Aの対象となった場合のD社のTag-Along Rightの行使条件」、「E社の取締役会におけるD社の取締役選任権とその役割」を英訳で確認し、投資戦略の整合性とポートフォリオ管理を評価します。
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財務部/経理部:
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必要性: E社への投資額、追加投資の可能性、将来のキャピタルゲイン、配当政策、財務報告の頻度と形式、日米双方の税務上の影響(投資回収時の課税など)などを確認します。
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ケース: 翻訳された契約書に記載された「D社のE社への投資額と持分比率」、「E社が将来、黒字となった場合の配当方針」、「D社が将来、E社の株式を売却した場合の税務処理(日本のキャピタルゲイン課税と米国の外国税額控除)」を英訳で確認し、財務計画の策定と税務・会計コンプライアンスを評価します。
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よくある質問(FAQ)
株主間契約書の翻訳に関して、お客様からよくいただくご質問とその回答をまとめました。
Q1: 株主間契約書で最も注意すべき法的リスクは何ですか?
A1: 株主間契約書は、複数の株主間の複雑な利害関係を調整するため、多くの法的リスクを内包していますが、特に注意すべきは以下の点です。
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1. デッドロック(Deadlock): 株主間の意見対立により、会社経営に関する重要事項の決定ができなくなり、事業が停滞するリスクです。デッドロック条項が不十分だと、会社の価値が毀損したり、最終的に清算に追い込まれたりする可能性があります。
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2. 株式譲渡制限の不備: 株式の自由な売却を制限する条項(先買権、共同売却権、買主指定権など)が不明確だったり、法的に有効でなかったりすると、意図しない第三者が株主になったり、将来のM&Aが阻害されたりするリスクがあります。
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3. 会社法との抵触: 株主間契約書の内容が、対象会社が設立された国の会社法や公序良俗に違反する場合、その条項が無効となる可能性があります。特に、日本の会社法と異なる外国法を準拠法とする場合は注意が必要です。
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4. 少数株主の保護不備: 少数株主が多数株主の一方的な決定によって不利益を被ることを防ぐための拒否権や重要事項の合意要件が不十分だと、投資の価値が損なわれるリスクがあります。
これらのリスクを回避するためには、翻訳だけでなく、現地の会社法、証券取引法、競争法、そしてM&A・投資実務に詳しい専門家との緊密な連携が不可欠ですし、当社はこれを強く認識しています。
Q2: デッドロック条項とは何ですか?なぜ重要ですか?
A2: デッドロック条項とは、株主間の意見対立(特に、株主総会や取締役会で重要事項が可決できない状態)により、会社の意思決定が停滞する「デッドロック」に陥った場合の解決策を定めた条項です。 重要性は以下の通りです。
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事業の継続性確保: デッドロック状態が続くと、会社の経営が麻痺し、事業の成長が阻害されたり、倒産につながったりする可能性があります。デッドロック条項は、このような事態を避けるための出口戦略を提供します。
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紛争の迅速な解決: 事前に解決策を定めておくことで、紛争が発生した場合でも、長期化することなく迅速な解決を目指すことができます。
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当事者の予見可能性: 各株主は、万が一の事態に備え、どのような解決策が適用されるかを事前に把握できます。
具体的なデッドロック解決策には、調停や仲裁による解決、一方の株主が相手方の株式を強制的に買い取る権利(Buy-Sell Option)または自己の株式を相手方に強制的に売却する権利、または第三者への会社売却、さらには会社の清算などが規定されます。翻訳においては、これらの解決策のトリガー条件、具体的な手続き、価格決定方法を正確に表現することが極めて重要です。
Q3: 共同売却権(Tag-Along Right)と買主指定権(Drag-Along Right)は、どのような場合に適用されますか?
A3: これらは、株式譲渡制限に関する重要な条項であり、特にベンチャー投資や合弁事業において利用されます。
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共同売却権(Tag-Along Right):
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適用される場合: 多数株主(または特定の創業者株主など)が、その保有株式を第三者に売却しようとする際に、少数株主も自身の保有株式を多数株主と同一の条件(同一の価格、同一の買主)で一緒に売却できる権利です。
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目的: 少数株主が、多数株主の一方的なExitによって取り残されたり、不利な条件での売却を強いられたりするのを防ぎ、少数株主の流動性を確保し、保護するために設けられます。
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買主指定権(Drag-Along Right):
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適用される場合: 多数株主(または特定の投資家株主など)が、その保有株式を第三者に売却しようとする際に、少数株主に対し、自身の保有株式も当該第三者に売却することを強制できる権利です。
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目的: 将来、会社全体を売却するM&Aの際に、少数株主が売却に反対することでM&Aが頓挫するのを防ぎ、主要株主が会社全体のExitを円滑に進めるために設けられます。これは、買い手側が100%の株式取得を希望する場合に特に重要です。
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翻訳においては、これらの権利の行使条件、通知プロセス、株式の評価方法、強制力などを、曖昧さなく明確に表現することが不可欠です。
Q4: AI翻訳を株主間契約書の翻訳に活用する際の注意点は何ですか?
A4: AI翻訳は、初稿の作成や用語の統一に非常に役立ち、翻訳プロセスを大幅に効率化できますが、株主間契約書のような法的・商業的に極めて複雑で、各国の会社法、証券取引慣行、商慣習を深く理解する必要がある文書に単独で使用することは強く推奨されません。
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法的概念の誤解: AIは各国の会社法、証券取引法、そして株主間契約特有の法的概念(例:デッドロック、Tag-Along/Drag-Along、拒否権の範囲)のニュアンスや法的効力を完全に理解できません。誤訳は、株主間の重大な紛争や、事業経営の停滞に直結します。
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文脈の理解不足: 複数の株主間の複雑な利害関係、交渉の経緯で盛り込まれた特定の文言の意図など、ビジネス上の繊細な文脈をAIが正確に把握できるとは限りません。
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専門用語の精度: 会社法務、M&A、投資、財務会計など、株主間契約に関わる多岐にわたる専門分野の用語の正確な対応は、AIだけでは困難な場合があります。
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秘密保持とセキュリティ: 株主間契約書は極めて機密性の高い情報を含むため、AI翻訳サービスへのアップロード方法や、データの取り扱いに関するセキュリティ体制を慎重に確認する必要があります。
したがって、AI翻訳を効率化ツールとして最大限活用しつつも、必ず会社法務知識、M&A・投資実務に関する高度な専門知識、および国際取引の実務経験を持つ専門の翻訳者による徹底したレビューと校正を行うことが不可欠です。当社は、AIと専門家の人力翻訳を組み合わせることで、高品質かつ効率的な翻訳を提供しています。
まとめ
株主間契約書の翻訳は、単なる言語の変換に留まらず、企業がグローバル市場で共同事業や投資を成功させ、複数の株主間の複雑な利害関係を調整し、同時に各国の複雑な会社法規制を遵守し、潜在的な法的・商業的リスクを回避するための極めて重要なプロセスです。
英文と和文の契約書が持つそれぞれの特徴を深く理解し、法務、事業、財務といった各部門が連携しながら、専門知識を持つ翻訳者の力を借りることが不可欠ですし、これまでの経験から当社はこれを強く認識しています。
特に、株式の譲渡制限に関する詳細な翻訳、経営権の行使と意思決定に関する明確な翻訳、デッドロック条項の具体的な翻訳、資金調達と希薄化に関する正確な翻訳、競業避止義務と秘密保持義務の厳密な翻訳、そして準拠法と紛争解決の正確な指定といった条項は、潜在的なリスクを最小限に抑え、共同事業を安定的に運営し、その後のExit戦略を円滑に進めるための鍵となります。
当社は、このような複雑な株主間契約書の翻訳において、貴社の各部門のニーズを理解し、最高品質の翻訳とサポートを提供することをお約束します。貴社の海外ビジネスにおける株主間契約に関してご不明な点やご相談がありましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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一言に契約書といっても、業務委託契約書(Services Agreement)、独立請負人契約書(Independent Contractor Agreement)、秘密保持契約書(Non-Disclosure Agreement)、業務提携契約書(Business Partnership Agreement)など、様々なものがあり、契約の種類も多様化しています。
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契約書翻訳に役立つリンク集
・法務省大臣官房司法法制部「法令翻訳の手引き」(PDF)
・日本法令外国語訳推進会議「法令用語日英標準対訳辞書」(PDF)
・Publiclegal(英文契約書のテンプレートや書式を無料で提供)
・日本法令外国語訳データベースシステム(法務省が開設した日本の法令の英訳サイト)
・weblio 英和辞典・和英辞典
・英辞郎 on the web
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