今回は、契約書の翻訳を依頼したい方におすすめの8つのポイントをご紹介します。
契約書翻訳の質に関するポイント
ポイント1:英文契約書の特徴を押さえる 【長く網羅的/ ローコンテクスト文化】
ポイント2:和文契約書の特徴を押さえる 【短く対応の余地が広い/ ハイコンテクスト文化】
ポイント3:契約書の特殊性を認識する
ポイント4:専門性の必要性を認識する
ポイント5:翻訳会社の実績・翻訳者の経歴を確認する
セキュリティやコストなど、実務的要素に関するポイント
ポイント6:セキュリティ対策を確認する
ポイント7:コストを確認する
ポイント8:翻訳会社が信頼できるかチェックする
契約書翻訳におけるAI翻訳の活用と課題
しかし、契約書は法的に拘束力のある文書であり、誤訳が生じると法的なトラブルを引き起こす可能性があります。AI翻訳でも、専門用語や固有名詞など、ある程度は正確に翻訳されるようになってきているのも事実ですが、AI特有の「出力の揺れ(毎回出力が異なる)」や「訳抜け(ある情報が欠落している)」、あるいは「湧き出し(本来ない情報が出力される)」といった課題が依然として存在します。また、わたしたち翻訳会社の日々業務では、「翻訳の元となる原文に、そもそも誤りがあった」ということをよく経験しています。仮にAIにインプットする内容に間違いがあれば、当然それはAI翻訳のアウトプットにも影響してきます。このように、作業のすべてをAIに任せてしまうことは実務上、まだまだ現実的ではないのかもしれません。
これらのAIのデメリットを補完するために、翻訳の専門家(契約書専門の翻訳者)が翻訳や確認を行うことが求められます。翻訳者は文脈(法的ニュアンス)を常に確認して作業を行っていますので、契約書の前後関係や全体の趣旨から逸脱するような記述(原文の誤植や間違い)を指摘し、本来意図された内容に修正することができます。最終的には、どのような文書をAIに任せるのか(あるいはAIに任せないのか)を個別に判断し、AIと人の両者の強みを活かした品質保証が重要となってくるでしょう。
主要な英文契約書の種類
- 秘密保持契約(Non-disclosure Agreement)
- 売買契約(Sales Agreement)
- 販売店契約(Distributorship Agreement)
- 販売代理店契約(Sales Agency Agreement)
- 技術提携契約(Technical Collaboration Agreement)
- 合弁事業契約(Joint Venture Agreement)
- サービス契約(Service Agreement)
- ライセンス契約(License Agreement)
- M&A 契約(Merger and Acquisition Agreement)
- 雇用契約(Employment Agreement)
- 法律、法令
- 内部統制資料
- 社内規定、行動規範
- 登記関係の文書
契約書翻訳の質に関するポイント
ここでは、英文・和文契約書の違いや、契約書翻訳の特殊性を考察します。そのうえで、契約書翻訳において重要な点や、契約書翻訳における翻訳会社の選び方を紹介します。
ポイント1:英文契約書の特徴を押さえる 【長く網羅的/ ローコンテクスト文化】

また、もうひとつの理由は、国際取引が基本的に「性悪説」に基づいて行われる点に求めることができます。そのため、曖昧な部分を一切排除し、文章として契約書の中に明確に記す必要があります。たとえ信頼できない相手であっても、契約書の言葉で相手を縛ることができると考えるため、問題があれば訴訟に持ち込むというようなことも稀ではありません。
ポイント2:和文契約書の特徴を押さえる 【短く対応の余地が広い/ ハイコンテクスト文化】
英文契約書とは対照的に、日本語で書かれた契約書は、多くの場合短く、柔軟に対応できる余地が残されています。和文契約書の特徴としては、性悪説に依拠する国際取引とは反対に、「相互信頼」を前提に成立していることが多いことから、「別途協議事項」や「円満協議事項」が設けられている点が挙げられます。したがって、仮に契約問題が起きたとしても、調停や仲裁を選ぶ傾向があります。以上のことから、英文契約書と和文契約書は、それぞれの依拠する法体系や商慣習が異なるために、契約書における前提条件も異なっていることがわかります。したがって、ただ日本語(英語)契約書を英文(和文)に訳しただけでは不十分であり、これらの違いを踏まえたうえで、国際取引において通用する英文(和文)契約書を作成する必要があるといえます。
ポイント3:契約書の特殊性を認識する
契約書は一般の翻訳文書とはその性質が大きく異なります。契約書は、当事者同士の権利・義務関係を明確にした、法的拘束力を持つものです。一般文書の翻訳であれば、流暢でこなれた文体が好まれるかもしれませんが、契約書においては、流暢さは必ずしも必要ではありません。それよりも、契約における権利・義務関係を正確に言語化し、当事者の主張を明確に写し出すことが重要になります。英文契約書の翻訳の場合には、単にそこに書かれた英語だけでなく、英米法の考え方や国際法を理解し、翻訳文に落とし込む必要があります。さらに、日英翻訳(和英翻訳)の場合には、正確に翻訳するだけでは不十分です。もともと日本語で書かれた契約書は、日本の法や商慣習に従って作られているため、そのまま翻訳しただけでは国際標準の文書にはなりません。そのまま訳してしまうと、相手方が理解できなかったり、大幅な修正が必要になったりと、交渉が長期化してしまう可能性があります。そのため、正確性を保持しつつも、国際標準にあわせた翻訳が必要になります。
もし契約書の翻訳に誤訳や訳漏れがあれば、当事者が大きな損失を受ける可能性もあります。契約書の翻訳においては、正しく翻訳することで契約上のリスクの可能性を最小限にし、本来の目的であるビジネスに安心して取り組めるようにすることが大切です。
ポイント4:専門性の必要性を認識する
上述のような誤訳や解釈ミスを防ぐためには、英米法や国際取引の知識が不可欠です。すでに言及していますが、契約書の翻訳においては、単に英語を翻訳するだけでなく、その背景となる法体系・商慣習や契約に関する法律特有の用語に深く精通している必要があります。また、英米法に限らず、ウィーン条約、インコタームズ、EUのTRIPS協定(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)など様々な国際条約・協定に関心を持つ必要があります。国際条例の中には頻繁に改正されるものもあるため、常に最新の情報に気を配り、学ぼうとする姿勢があるか否かが重要になります。十分な背景知識を有していないと、契約書に書かれたリスクを読み取ることができず、うまく翻訳に落とし込めなくなってしまいます。専門性の裏づけがあってこそ、厳密で正確な契約文書の翻訳が可能になるのです。
ポイント5:翻訳会社の実績・翻訳者の経歴を確認する
上記のポイントを踏まえたうえで、法体系や国際取引に関する知識を多く有する翻訳会社・翻訳者を探すためにはどうしたらよいでしょうか。最も手軽にできることは、その会社の実績を確認することです。その場合には、官公庁や大手企業と取引があるか否かのような表面的な事柄だけにとらわれるのではなく、「そのような大手企業にどの分野のどのような翻訳を提供したのか」まで確認する必要があります。たとえ大手企業との取引があったとしても、例えば社内文書の翻訳であった場合や、マニュアル翻訳であった場合、契約書の翻訳とは大きく異なるため参考にはなりません。もし実績がわからない場合には、遠慮せずその分野の実績や経験を尋ねてみましょう。良い翻訳会社であれば、そのような質問にも真摯に答えてくれますし、専門外の案件を安易に引き受けたりはしないはずです。
また、トライアル翻訳を提供している翻訳会社もあります。もし実績だけで判断がつかない場合には、トライアルを依頼してみると良いでしょう。
セキュリティやコストなど、実務的要素に関するポイント
ポイント6:セキュリティ対策を確認する

また、業務委託契約では、相手方に自社のノウハウなどの機密情報を提供しなければならない場合があります。このような情報が第三者へと流出してしまうと、その他ライバル社に自社のノウハウが知られてしまうだけでなく、情報管理に対する姿勢を問われ、信用を損ねてしまう可能性があります。
したがって、翻訳を依頼する際には、その会社が機密情報や個人情報を扱うにあたり、適正な管理体制を整備しているか確認することが重要です。
それらの基準として以下のような事項を確認するとよいでしょう。
ⅰ. 情報セキュリティポリシーが策定されているか
・セキュリティポリシーとは、秘密保持に関する方針、対策基準などを定めたものです。・自社のweb上でセキュリティポリシーを公表しているかどうか確認しましょう。
ⅱ. 技術的対策が行われているか
・顧客から預かった情報が、ファイアウォール等で保護されたサーバの下に置かれているか?・担当者以外が情報にアクセスできないようになっているか?
・エンドポイント対策としてウイルス対策ソフトを導入、定期的にアップデートしているか?
など
ⅲ. 物理的対策が行われているか
・社内で入退出管理が行われているか?・出力原稿はどのように処分されるか?
など
ⅳ. 人的対策が行われているか
・社員に対するセキュリティ教育を行っているか?・社員、契約社員、協力企業との間に秘密保持契約(NDA)を結んでいるか?
など
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ポイント7:コストを確認する

したがって、翻訳を発注する際には、翻訳料金だけでなく、その他のコストも総合的に判断する必要があります。翻訳料金が相場平均よりも高くても、チェック体制がしっかりしていて翻訳後の修正がほとんど必要ない場合には、総コストとしては安くなる場合があります。
反対に、相場よりも大幅に安い場合には、翻訳後のネイティブチェックや校正が含まれず、チェックや修正にかかるコストが発生してしまい、結果的に安物買いの銭失いとなってしまうことがあります。表面上の言葉に惑わされず、中身を精査し総合的に判断するようにしましょう。
ポイント8:翻訳会社が信頼できるかチェックする

ⅰ. 企業情報がweb上に公開されているか
企業情報の公開は基本中の基本です。これがなされていない翻訳会社も散見されますが、そのような企業はまず信用に値しません。ⅱ. 経営陣の写真・プロフィールが掲載されているか
経営陣の顔写真やプロフィールが公開されていることは、企業が情報開示や透明性を重視しているという1つの指標になります。また、何か問題が起きたときに、責任を取るべき人物が全世界に公開されているともいえます。欧米の大企業では、経営陣の顔写真をweb上に公表することは企業の信頼性向上の点からも基本的なことであり、そうでないと信用に値しないとみなされてしまうこともあります。ⅲ. 翻訳者・翻訳コーディネーターのプロフィールが掲載されているか
翻訳者のプロフィールから、どのようなバックグラウンドを持ち、どの分野に強い翻訳者が在籍しているのか確認することができます。翻訳者やコーディネーターのプロフィールを公開する翻訳会社は少ないですが、だからこそ企業を選別する基準となりえます。まとめ
契約書翻訳のポイントを「翻訳の質」と「実務的要素」の2つの観点から考察してきました。
契約書の翻訳は、一般文書の翻訳とは大きく異なる、法体系・商慣習の専門性が必要とされるものです。「契約」という側面から、トラブルのリスクを最小限にし、厳密に正確な翻訳をする必要もあります。情報公開があまりなされない翻訳業界において、数ある翻訳会社の中から最適な会社を選ぶことは時に難しいかもしれませんが、今回挙げた8つのポイントが参考になれば幸いです。
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契約書翻訳に役立つリンク集:
・法務省大臣官房司法法制部「法令翻訳の手引き」(PDF)
・日本法令外国語訳推進会議「法令用語日英標準対訳辞書」(PDF)
・Publiclegal(英文契約書のテンプレートや書式を無料で提供)
・日本法令外国語訳データベースシステム(法務省が開設した日本の法令の英訳サイト)
・weblio 英和辞典・和英辞典
・英辞郎 on the web
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