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Jul. 10, 2025

M&A契約書(Merger and Acquisition Agreement)翻訳:グローバル戦略成功の要

 

今日の競争が激しいグローバル市場において、企業の成長戦略としてM&A(Merger and Acquisition:合併買収)は不可欠な手段となっています。新たな市場への参入、技術獲得、事業規模の拡大、競争力の強化など、M&Aは企業に変革をもたらす大きな機会を提供します。このM&Aプロセスにおいて、最も重要かつ複雑な法的文書がM&A契約書(Merger and Acquisition Agreement)です。

この契約書は、買収の対象、対価、支払い条件、表明保証、誓約、前提条件、補償、解除条件、準拠法、紛争解決など、M&A取引の全側面を詳細かつ網羅的に定めます。

その正確な翻訳は、M&A取引を成功させ、法的リスクを最小限に抑え、双方の期待値を一致させるために不可欠です。翻訳のミスや内容の理解不足は、予期せぬ法的紛争、高額な賠償責任、事業価値の毀損、そしてM&Aプロジェクト自体の失敗へと発展する重大なリスクをはらんでいます。

特に、国ごとに会社法、競争法(独占禁止法)、税法、労働法、知的財産法、そして商慣習が大きく異なります。単に言葉を置き換えるだけでなく、それぞれの法制度や文化、商慣習に応じた法的・商業的なニュアンスを踏まえた上で契約内容を理解し、翻訳することが不可欠です。M&A契約書は、数百ページに及ぶことも珍しくなく、多岐にわたる専門分野の知識が要求されます。

本記事では、これまでの経験に基づき、M&A契約書翻訳における重要なポイントと、貴社の各部門がどのように翻訳された契約書を活用し、関与していくべきかを具体的なケーススタディを交えて解説します。

貴社のグローバルM&A戦略において、M&A契約書の適切な理解と運用を通じて、法的コンプライアンスの強化と事業成長の実現を図るために、ぜひ本記事をお役立てください。

 

M&A契約書とは何か?その目的と国際取引における重要性

M&A契約書(Merger and Acquisition Agreement)は、企業が他社の事業や資産、株式などを取得する際に、買い手と売り手の間で締結される法的拘束力のある合意文書です。合併(Merger)、買収(Acquisition)、株式取得(Share Purchase)、事業譲渡(Asset Purchase)など、M&Aの形態によって契約書の名称や内容は多少異なりますが、一般的にM&A契約書と呼ばれる総称で扱われます。

国際的なM&A取引において、この契約書は以下のような多岐にわたる場面で利用されます。

  • クロスボーダーM&A: 海外企業の買収や、海外事業の売却を行う際。

  • 戦略的提携: 提携の一環として資本参加や合弁事業(JV)を設立する際(JV契約と合わせて締結されることも)。

  • 事業ポートフォリオの再編: 不採算事業の売却や、成長分野への投資として他社を買収する際。

この契約書は、以下の非常に多岐にわたる詳細な条項を含みます。

  • 取引の目的と対象(Purpose and Subject Matter of Transaction): 株式譲渡、事業譲渡、合併など、M&Aの具体的な形態と、対象となる企業・事業・資産の明確な特定。

  • 対価と支払い条件(Consideration and Payment Terms): 買収対価(現金、株式交換、複合など)、支払い方法、支払い時期、エスクロー(第三者預託)の有無、アーンアウト(Earn-out:将来の業績連動報酬)の有無など。

  • 表明保証(Representations and Warranties): 売り手が対象会社の財政状態、事業、法的状況、契約関係、訴訟リスク、知的財産権、税務、労働関係などについて、特定の事実が真実かつ正確であることを表明し、買い手に対して保証する条項。この条項は、M&A取引におけるデューデリジェンスの結果を反映し、リスクを分配する上で最も重要です。

  • 誓約(Covenants): クロージング(M&A取引の実行)までの期間における売り手側の事業運営義務(例:通常の事業運営の継続、新規負債の禁止、重要契約の締結制限など)や、クロージング後の特定の行為に関する義務(例:競業避止義務、秘密保持義務など)。

  • 前提条件(Conditions Precedent): クロージングが実行されるために満たされなければならない条件(例:独占禁止法上の承認、第三者からの同意取得、表明保証の正確性の維持など)。

  • 補償(Indemnification): 表明保証違反や誓約違反、特定の開示事項(デューデリジェンスで判明した潜在的リスク)に起因する損害が発生した場合に、売り手が買い手に、またはその逆で補償する義務。補償の範囲、期間、上限額、免責額(De Minimis, Basket)など。

  • 解除条件(Termination): 特定の事由が発生した場合に、契約を解除できる条件(例:前提条件の不成就、重大な表明保証違反など)。解除に伴う違約金や解除料(Break-up Fee)の取り決め。

  • 準拠法と紛争解決(Governing Law and Dispute Resolution): 契約に適用される法律(例:ニューヨーク州法、英国法、日本法など)、紛争が発生した場合の解決方法(裁判、国際仲裁など)、裁判管轄、仲裁地、仲裁機関。

  • クロージング(Closing): M&A取引を最終的に実行するための手続き(株式の引き渡し、対価の支払いなど)。

  • 秘密保持義務(Confidentiality): 交渉プロセスや開示された機密情報に関する秘密保持義務。

  • 費用負担(Expenses): M&A取引に関連する費用の負担(弁護士費用、会計士費用、デューデリジェンス費用など)。

国際的なM&A取引においてM&A契約書が特に重要なのは、以下の理由からです。

  • 複雑な法規制への対応: 各国の会社法、税法、独占禁止法、労働法、知的財産法、環境法など、多岐にわたる法規制を遵守する必要があり、これらの法規制が契約内容に直接反映されます。

  • 異なる商慣習とリスク分配: 国ごとにM&A取引におけるリスクの考え方や商慣習が異なります。M&A契約書は、これらの違いを調整し、買い手と売り手の間でリスクをどのように分配するかを明確に定める唯一の文書です。

  • 大規模な資金移動と資産移転: 数億ドル、数十億ドル規模の資金が動くことが多く、株式や事業などの重要な資産が移転するため、そのプロセスと条件を厳密に規定する必要があります。

  • 潜在的リスクの顕在化と対応: デューデリジェンスによって発見された潜在的なリスク(未払いの税金、未解決の訴訟、環境汚染問題など)に対して、M&A契約書を通じて、補償条項や前提条件などで対応策を講じます。

  • 多文化間のコミュニケーション: 複数の国の当事者、弁護士、アドバイザーが関与するため、正確な契約書の翻訳は、誤解を避け、円滑なコミュニケーションを可能にする上で不可欠です。

英文M&A契約書の特徴と和文契約書との違い

国際的なM&A取引では、多くの場合、英文でM&A契約書が作成されます。その特徴は、日本の和文契約書とは異なる点がいくつかあります。

  • Extensive Representations and Warranties (R&Ws) and Indemnification Provisions(詳細な表明保証および補償条項):

    • M&A契約書の核心となるのが表明保証です。英文契約書では、対象会社の財務、法務、税務、労働、環境、知的財産など、あらゆる側面について極めて詳細かつ網羅的なR&Wsが置かれます。これらはデューデリジェンスの結果を反映し、情報の正確性を売り手が保証するものです。

    • R&Wsに違反があった場合の補償(Indemnification)条項も非常に詳細です。補償の対象となる損害、補償期間、補償の上限額(Caps)、免責額(Baskets/Thresholds)、エスクロー(Escrow)やR&W保険の活用などが細かく規定されます。この部分は、日英でのリスク分配の考え方の違いが最も顕著に表れる部分であり、翻訳においては法的・商業的な正確性が極めて重要です。

  • Covenants (Pre-Closing and Post-Closing)(誓約事項:クロージング前とクロージング後):

    • Pre-Closing Covenants: クロージングまでの期間、対象会社が通常の事業運営を維持し、重要事項(例:資産の売却、多額の借入、重要契約の締結・変更など)について買い手の同意を得ることを義務付ける条項が詳細に規定されます。

    • Post-Closing Covenants: クロージング後、売り手または買い手に課される義務(例:競業避止義務、秘密保持義務、特定の情報の提供、従業員の引き継ぎなど)が明確に記述されます。

  • Conditions Precedent to Closing(クロージングの前提条件):

    • クロージング実行のために満たされなければならない条件が詳細にリストアップされます。これには、表明保証の正確性の継続、誓約事項の遵守、第三者の同意(例:主要顧客、銀行)、規制当局の承認(例:独占禁止法、特定産業の許認可)、特定の訴訟の解決などが含まれます。これらの条件が満たされない場合、買い手は契約を解除できる権利を有します。

  • Termination Provisions with Break-up Fees(解除条項と解除料):

    • 契約解除の具体的な事由(例:前提条件の不成就、重大な違反、期限の到来など)が詳細に規定されます。また、特定の解除事由(例:売り手がより良い条件の買収提案を受け入れた場合など)において、一方の当事者が相手方に対して支払う「解除料(Break-up Fee / Termination Fee)」の規定が盛り込まれることがあります。これは、特に公開買付(TOB)が絡むM&Aでよく見られます。

  • Governing Law and Dispute Resolution(準拠法と紛争解決):

    • 米国M&Aでは、デラウェア州法が準拠法として選ばれることが非常に多いです。これは、デラウェア州の会社法が洗練されており、州衡平法裁判所(Court of Chancery)がM&Aに関する豊富な判例を持つため、予見可能性が高いとされているからです。

    • 紛争解決手段としては、国際仲裁が指定されることが一般的です。仲裁地(例:ニューヨーク、ロンドン、シンガポール)、仲裁機関(例:ICC、AAA、LCIA、SIAC)、仲裁規則、仲裁人の数などが詳細に規定されます。これは、機密保持、迅速性、専門性、強制執行の容易さなどの理由から選ばれます。

  • Schedules and Exhibits(別紙・添付資料):

    • M&A契約書本体は、条項の概要を定める一方、詳細な情報やリスト(例:表明保証の例外事項、重要契約の一覧、対象会社の組織図、知的財産一覧など)は、「Schedule(別紙)」や「Exhibit(添付資料)」として大量に添付されます。これらの別紙も契約の一部であり、正確な翻訳が不可欠です。

日本の和文M&A契約書に比べ、英文契約書は、表明保証と補償条項の網羅性と詳細性、クロージング前後の誓約事項、厳格な前提条件、解除料の取り決め、そして特定の州法(デラウェア州法など)と国際仲裁を指定する慣行に関して、より詳細かつ厳密な記述が求められる傾向が強いです。翻訳においては、これらの法的・商業的・税務的・会計的ニュアンスを正確に反映した表現を用いることが不可欠です。

 

M&A契約書翻訳における重要ポイント

M&A契約書の翻訳は、貴社のグローバルM&A戦略の成否、各国の法規制への準拠、潜在的な法的・商業的リスクの回避に直接影響するため、極めて高い精度と専門性、そして法務、財務、経理、事業、人事など多岐にわたる部門の連携と視点が求められます。以下のポイントを押さえることが、成功への鍵となります。

  1. 表明保証(Representations and Warranties)の極めて正確な翻訳:

    • M&A契約書の最も重要な部分であり、デューデリジェンスの結果が反映されます。対象会社の財務諸表の正確性、法的遵守状況、重要契約の有効性、知的財産権の有無と侵害リスク、訴訟の有無、環境問題、労働関係、税務状況など、あらゆる側面に関する表明保証を、法的・会計的に極めて正確に翻訳することが不可欠です。一つの誤訳が、将来高額な補償請求につながる可能性があるため、細心の注意を払うべきですし、当社はこれを強く認識しています。

  2. 補償(Indemnification)条項の厳密な翻訳:

    • 表明保証違反や特定の開示事項(デューデリジェンスで判明した潜在的リスク)に起因する損害が発生した場合の補償の範囲、期間、上限額(Caps)、免責額(Baskets/Thresholds)、および補償請求の手続きを厳密に翻訳することが不可欠です。この条項は、M&A取引におけるリスク分配の核心であり、その解釈のずれは重大な金銭的影響を及ぼします。また、R&W保険(表明保証保険)の活用有無も考慮すべきです。

  3. 対価(Consideration)と支払い条件の明確な翻訳:

    • 買収対価の金額、支払い方法(現金、株式交換、複合)、支払い時期、エスクロー(Escrow:第三者預託)の仕組み、アーンアウト(Earn-out:将来の業績連動報酬)の計算方法と条件、為替リスクなどを明確に翻訳することが不可欠です。特に、国際M&Aでは複数の通貨が絡むため、為替変動リスクの負担や換算レートの規定を正確に理解する必要があります。

  4. 前提条件(Conditions Precedent)の厳密な翻訳:

    • クロージングが実行されるために満たされなければならない条件(例:独占禁止法上の承認、第三者からの同意取得、表明保証の正確性の維持など)を厳密に翻訳することが不可欠です。これらの条件が満たされない場合の契約解除の権利や、その後のプロセスを正確に理解することが重要です。

  5. 税務(Tax)関連条項の専門的な翻訳:

    • M&A契約書には、対象会社の過去および将来の税務に関する表明保証、税務に関する補償、納税義務の承継、税務上の手続き、そして各国の税法や租税条約の適用に関する条項が詳細に盛り込まれます。これらの条項を税務の専門知識を持つ翻訳者が正確に翻訳することが不可欠です。誤訳は、予期せぬ追徴課税や税務リスクにつながります。

  6. 労働(Labor/Employment)関連条項の慎重な翻訳:

    • 対象会社の従業員の雇用継続、退職金、年金、労働協約、従業員代表との関係、過去の労働紛争などに関する表明保証や誓約は、M&A後の統合(PMI)において極めて重要です。各国の労働法や労働慣行、労働組合の有無と影響力を考慮し、慎重に翻訳すべきです。

  7. 準拠法(Governing Law)と紛争解決(Dispute Resolution)の正確な指定:

    • 契約に適用される法律、そして紛争が発生した場合の解決方法(裁判、国際仲裁、調停など)、裁判管轄、仲裁地の選定、仲裁機関、仲裁規則、仲裁人の数などを正確に翻訳することが不可欠です。国際M&A紛争は複雑化しやすいため、自社にとって有利な準拠法や紛争解決地を指定することが戦略上重要であり、その内容を正確に把握すべきです。

    • 当社は、このような複雑な準拠法と紛争解決に関する条項の正確な翻訳を特に重視しています。

  8. 強固な情報セキュリティ体制:

    • M&A契約書は、企業の経営戦略、財務情報、技術情報、顧客情報、人事情報など、極めて機密性の高い情報のかたまりです。これらの情報が外部に漏洩した場合、企業の法的責任問題、信用失墜、競合への情報漏洩、そしてM&Aディールの破談など、甚大な損害を被る可能性があります。そのため、翻訳を依頼する際には、翻訳会社が厳格な情報セキュリティポリシーを定め、技術的・物理的・人的な対策を徹底しているかを必ず確認すべきですし、当社はこれを徹底しています。

  9. AI翻訳の適切な活用と専門家による最終確認:

    • AI翻訳技術は、初稿の作成や用語の統一に役立ちますが、M&A契約書のような法的・商業的に極めて複雑で、多岐にわたる専門分野の知識を要する文書においては、各国の会社法、税法、会計慣行、商慣習、判例を完全に理解することは困難です。AIを効率化ツールとして最大限活用しつつも、法務知識、財務・会計知識、税務知識、および国際M&Aの実務経験を持つ専門の翻訳者による徹底したレビューと校正が不可欠です。人間による精査が、潜在的なリスクを最小限に抑え、安全なM&A取引の基盤となります。

M&A契約書の翻訳は誰に必要なのか?ケーススタディで見る関係部門の役割

M&A契約書は、企業のグローバルな成長戦略を左右する文書であり、多岐にわたる部門や関係者がその内容を理解し、翻訳された情報に基づいて連携することが不可欠です。

 

ケーススタディ1:日本のIT企業がシリコンバレーのスタートアップ企業を買収

 

状況: 日本のIT企業A社が、革新的な技術を持つシリコンバレーのスタートアップB社を買収するケース。英語でM&A契約書(株式譲渡契約書)が作成され、それを日本のA社側で日本語に翻訳する必要がある。

  • 法務部:

    • 必要性: 契約全体の法的妥当性、特に米国デラウェア州会社法に基づく表明保証(R&Ws)および補償(Indemnification)条項の詳細、クロージング前提条件、契約解除条件、知的財産権(特許、ソフトウェア著作権)の確実な取得、従業員の引き継ぎに関する労働法上のリスク、独占禁止法(米国CFIUS審査など)に関する承認、そして準拠法と紛争解決条項の適切性を確認します。

    • ケース: 翻訳された契約書に記載された「B社の知的財産権(特に取得した特許ポートフォリオ)に関する網羅的な表明保証と、その侵害に対する補償上限額」、「B社の従業員が持つストックオプションや制限付株式の取り扱い」、「米国デラウェア州法を準拠法とし、サンフランシスコでの国際仲裁を紛争解決手段とする条項」を和訳で確認し、知的財産権の確保と法的リスクを評価します。

  • 財務部/経理部:

    • 必要性: 買収対価(現金、A社株式、または複合)の計算方法、支払い条件、エスクローの仕組み、アーンアウト(Earn-out:将来のB社の業績連動報酬)の具体的な計算基準と支払い時期、税務上の影響(日米租税条約の適用)、統合後の財務報告、資金調達計画などを確認します。

    • ケース: 翻訳された契約書に記載された「買収対価のうち、アーンアウト部分の具体的な業績目標(例:年間売上高、純利益)と計算式」、「エスクロー口座に預託される金額と解除条件」、「米国でのキャピタルゲイン税の取り扱いと、日本の連結納税への影響」を和訳で確認し、費用管理と税務・会計コンプライアンスを評価します。

  • 事業部/R&D部門:

    • 必要性: 買収対象となるB社の技術内容、製品ロードマップ、顧客基盤、そしてM&A後の統合戦略(PMI)を理解します。特に、B社の技術が自社の既存事業とどのようにシナジーを生み出すか、また競合との差別化要因となるかを確認します。

    • ケース: 翻訳された契約書に記載された「B社の開発中の技術に関する詳細(特許出願状況、開発ステージ)」、「主要顧客との契約内容と継続性に関する表明保証」、「買収後1年間の主要技術者・経営陣の引き留めに関する誓約」を和訳で確認し、技術統合の実現可能性と事業戦略への影響を評価します。

  • 人事部(HR):

    • 必要性: B社の従業員の雇用継続、退職金、福利厚生、報酬体系、労働契約書、労働組合の有無、過去の労働紛争など、M&A後の組織統合における人事的なリスクと課題を把握します。

    • ケース: 翻訳された契約書に記載された「B社の全従業員をA社が引き継ぐ旨と、退職金の取り扱い」、「従業員に対する既存のストックオプションの処理方法」、「買収後1年間の従業員への不利益変更を行わない旨の誓約」を和訳で確認し、人事統合計画の策定と労務リスクを評価します。


 

ケーススタディ2:欧州の食品メーカーが日本の老舗食品メーカーを買収

 

状況: 欧州の食品メーカーC社が、日本の老舗食品メーカーD社を買収するケース。日本語でM&A契約書(事業譲渡契約書)が作成され、それを欧州の本社側で英語に翻訳する必要がある。

  • 法務部:

    • 必要性: 契約全体の法的妥当性、特に日本法に基づく表明保証(R&Ws)および補償(Indemnification)条項の詳細、譲渡対象資産(不動産、製造設備、商標、顧客リストなど)の範囲、契約承継、環境債務、法的規制(食品衛生法など)、そして準拠法と紛争解決条項の適切性を確認します。

    • ケース: 翻訳された契約書に記載された「D社の食品製造における法的規制遵守に関する表明保証と違反時の補償範囲」、「譲渡対象となる特定の商標権、レシピ、顧客情報のリスト」、「日本法を準拠法とし、東京地方裁判所を専属管轄とする条項」を英訳で確認し、知的財産権の確保と法的リスクを評価します。

  • 財務部/経理部:

    • 必要性: 事業譲渡対価の計算方法、支払い条件、資産評価、負債の承継、消費税や法人税の取り扱い、のれん(Goodwill)の評価、統合後の財務報告、資金調達計画などを確認します。

    • ケース: 翻訳された契約書に記載された「譲渡対象となる事業のバランスシートと損益計算書に基づく対価の算定根拠」、「D社の未払い税金や社会保険料に対する補償義務」、「日本での消費税の取り扱いと、C社の連結決算への影響」を英訳で確認し、費用管理と税務・会計コンプライアンスを評価します。

  • 事業部/生産部門:

    • 必要性: 買収対象となるD社の製造設備、生産プロセス、サプライチェーン、製品品質管理体制、そしてM&A後の統合戦略(PMI)を理解します。特に、D社の生産技術がC社の既存事業とどのようにシナジーを生み出すか、また新たな市場で競争優位性となるかを確認します。

    • ケース: 翻訳された契約書に記載された「D社の主要な製造設備(例:食品加工ライン)の現状とメンテナンス履歴に関する表明保証」、「主要サプライヤーとの契約継続に関する誓約」、「食品の品質管理基準とISO認証取得状況に関する情報」を英訳で確認し、生産統合の実現可能性と事業戦略への影響を評価します。

  • 人事部(HR):

    • 必要性: D社の従業員の引き継ぎ、労働契約書の継承、退職金、年金、労働協約、労働組合の有無、過去の労働紛争など、M&A後の組織統合における人事的なリスクと課題を把握します。特に、日本の労働法における事業譲渡時の労働者保護規定を理解します。

    • ケース: 翻訳された契約書に記載された「D社の従業員全員をC社が承継する旨と、承継後の労働条件(賃金、福利厚生など)に関する誓約」、「事業譲渡に伴う労働組合との協議事項」、「過去の従業員に関する訴訟の有無と補償義務」を英訳で確認し、人事統合計画の策定と労務リスクを評価します。

よくある質問(FAQ)

M&A契約書の翻訳に関して、お客様からよくいただくご質問とその回答をまとめました。

 


 

Q1: M&A契約書で最も注意すべき法的リスクは何ですか?

A1: M&A契約書は、多数の法的リスクを内包していますが、特に注意すべきは以下の点です。


  1. 1. 表明保証違反と補償責任
    : 売り手が表明保証した内容が虚偽または不正確であった場合、買い手は売り手に対して損害賠償(補償)を請求できます。この「補償」の範囲、期間、上限額、免責額の取り決めが適切でないと、予期せぬ巨額な損失を被る可能性があります。


  2. 2. 前提条件の不成就とディールブレイク
    : クロージングの前提条件が満たされない場合、M&Aディールが破談となるリスクがあります。前提条件の具体性、客観性、そして自社がコントロールできない要因(例:規制当局の承認)に関する規定は極めて重要です。


  3. 3. 法的・規制当局の承認
    : 独占禁止法、特定産業(金融、通信など)における規制当局の承認、外国投資規制(例:米国CFIUS、日本の外為法)など、M&A取引が複数の国の法規制に抵触しないかを厳しくチェックする必要があります。承認が得られない場合、M&Aは実行できません。

  4.  
  5. 4. 労働問題: 対象会社の従業員の引き継ぎ、退職金、年金、労働組合との関係など、各国の労働法規や慣行に適合しないと、M&A後に大規模な労働紛争や高額な人件費負担が生じるリスクがあります。


これらのリスクを回避するためには、翻訳だけでなく、現地のM&A法務、税務、会計、労働法に詳しい専門家との緊密な連携が不可欠ですし、当社はこれを強く認識しています。

 


 

Q2: 表明保証(Representations and Warranties)と補償(Indemnification)はなぜそんなに重要ですか?

A2:

  • 表明保証(R&Ws): M&A取引における情報の非対称性を解消するために不可欠です。買い手はデューデリジェンスを行いますが、それでもすべての潜在的リスクを発見できるわけではありません。R&Wsは、売り手が対象会社の特定の情報(財務状態、法務状況、契約関係、訴訟の有無など)が正確であることを法的に保証するものであり、これにより買い手は一定の安心感を得て取引を進めることができます。

  • 補償(Indemnification): R&Wsに違反があった場合、またはデューデリジェンスで特定された特定の偶発債務(例:未払いの税金、環境汚染の責任)が顕在化した場合に、売り手が買い手に対してその損害を賠償する義務を定めるものです。これにより、M&A取引後の予期せぬリスクが顕在化した際のリスク分配が明確になります。補償条項は、補償の対象、期間、上限額、免責額、請求手続きなどを詳細に定めることで、将来の紛争を予防します。

これらはM&A契約書の根幹をなす条項であり、その翻訳は、取引におけるリスクと責任を正確に理解し、管理するために極めて重要です。

 


 

Q3: クロスボーダーM&Aで、準拠法はどのように選ばれますか?

A3: クロスボーダーM&Aにおいて準拠法(Governing Law)を選ぶ際には、以下の要素が考慮されます。

  • 当事者の所在地: 買い手と売り手の主要な事業拠点や本社がある国の法律。

  • 取引対象の所在地: 買収対象となる会社や資産が所在する国の法律。

  • 法的安定性・予見可能性: その法律体系が十分に発展しており、判例が豊富で、法的解釈の予見性が高い国の法律(例:米国デラウェア州法、英国法、ニューヨーク州法など)が選ばれることが多いです。

  • 中立性: どちらかの当事者に有利すぎない、中立的な法律が選ばれることもあります。

  • 契約の慣習: 特定の業界や取引形態において慣習的に使用される準拠法。

英語で作成される国際的なM&A契約では、特に米国法(デラウェア州法やニューヨーク州法)が選ばれる傾向が強いです。これは、これらの法律がM&Aに関する洗練された法体系と豊富な判例を持つため、複雑な取引においても法的安定性を提供するためです。翻訳においては、指定された準拠法の法的概念を正確に理解し、翻訳に反映させる高度な専門知識が求められます。

 


 

Q4: AI翻訳をM&A契約書の翻訳に活用する際の注意点は何ですか?

A4: AI翻訳は、初稿の作成や用語の統一に非常に役立ち、翻訳プロセスを大幅に効率化できますが、M&A契約書のような法的・商業的に極めて複雑で、多岐にわたる専門分野の知識を要する文書に単独で使用することは強く推奨されません。

  • 法的概念の誤解: AIは各国の会社法、税法、会計慣行、労働法、そしてM&A取引特有の法的概念(例:「表明保証の例外」「補償のDe Minimis」など)のニュアンスや法的効力を完全に理解できません。誤訳は、M&Aディールの成否や、後の巨額な金銭的・法的リスクに直結します。

  • 文脈の理解不足: 長大な契約書全体における条項間の相互関係や、交渉の経緯で盛り込まれた特定の文言の意図など、複雑な文脈をAIが正確に把握できるとは限りません。

  • 専門用語の精度: 法律、財務、会計、税務、人事など、M&Aに関わる多岐にわたる専門分野の用語の正確な対応は、AIだけでは困難な場合があります。

  • 秘密保持とセキュリティ: M&A契約書は極めて機密性の高い情報を含むため、AI翻訳サービスへのアップロード方法や、データの取り扱いに関するセキュリティ体制を慎重に確認する必要があります。

したがって、AI翻訳を効率化ツールとして最大限活用しつつも、必ずM&A法務、財務・会計、税務、労働法などに関する高度な専門知識、および国際M&Aの実務経験を持つ専門の翻訳者による徹底したレビューと校正を行うことが不可欠です。当社は、AIと専門家の人力翻訳を組み合わせることで、高品質かつ効率的な翻訳を提供しています。

 

まとめ

M&A契約書の翻訳は、単なる言語の変換に留まらず、企業がグローバル市場で大規模な事業変革を成功させ、同時に各国の複雑な法規制を遵守し、潜在的な法的・商業的リスクを回避するための極めて重要なプロセスです。

英文と和文の契約書が持つそれぞれの特徴を深く理解し、法務、財務、経理、事業、人事といった各部門が連携しながら、専門知識を持つ翻訳者の力を借りることが不可欠ですし、これまでの経験から当社はこれを強く認識しています。

特に、表明保証と補償条項の極めて正確な翻訳、対価と支払い条件の明確な翻訳、前提条件の厳密な翻訳、税務・労働関連条項の専門的な翻訳、そして準拠法と紛争解決の正確な指定といった条項は、潜在的なリスクを最小限に抑え、M&A取引を成功させ、その後の統合を円滑に進めるための鍵となります。

当社は、このような複雑なM&A契約書の翻訳において、貴社の各部門のニーズを理解し、最高品質の翻訳とサポートを提供することをお約束します。貴社の海外ビジネスにおけるM&A契約に関してご不明な点やご相談がありましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。

 

契約書の翻訳-1WIPジャパンは、東京弁護士共同組合神奈川県弁護士共同組合をはじめとする全国23の弁護士共同組合の特約店に認定されています。
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契約書翻訳に役立つリンク集

法務省大臣官房司法法制部「法令翻訳の手引き」(PDF)
日本法令外国語訳推進会議「法令用語日英標準対訳辞書」(PDF)
Publiclegal(英文契約書のテンプレートや書式を無料で提供)
日本法令外国語訳データベースシステム(法務省が開設した日本の法令の英訳サイト)
weblio 英和辞典・和英辞典
英辞郎 on the web

 

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