今日の国際ビジネス環境において、企業が成長を加速し、イノベーションを創出するためには、国境を越えて多様な才能を持つ人材を惹きつけ、採用することが不可欠です。このグローバル人材戦略の根幹をなすのが、雇用契約書(Employment Agreement / Employment Contract)です。
雇用契約書は、企業と従業員の間で、職務内容、給与、労働時間、福利厚生、秘密保持義務、知的財産権の帰属、競業避止義務、解雇条件など、雇用関係に関するあらゆる条件を詳細に定めます。
その正確な翻訳は、企業と従業員双方の権利と義務の明確化、法的リスクの回避、そして円滑な雇用関係の構築のために不可欠です。翻訳のミスや内容の理解不足は、予期せぬ労働紛争、高額な賠償責任、企業の信用失墜、そして優秀な人材の離職へと発展するリスクをはらんでいます。
特に、国ごとに労働法、社会保障制度、税法、そして雇用慣行が大きく異なるため、単に言葉を置き換えるだけでなく、それぞれの法制度や文化、雇用形態に応じた法的・商業的なニュアンスを踏まえた上で契約内容を理解し、翻訳することが不可欠です。
本記事では、これまでの経験に基づき、雇用契約書の翻訳における重要なポイントと、貴社の各部門がどのように翻訳された契約書を活用し、関与していくべきかを具体的なケーススタディを交えて解説します。
貴社のグローバル人材戦略において、雇用契約の適切な理解と運用を通じて、コンプライアンスの強化と優秀な人材の確保を図るために、ぜひ本記事をお役立てください。
雇用契約書とは何か?その目的と国際雇用における重要性
雇用契約書(Employment Agreement / Employment Contract)は、使用者(企業)と被用者(従業員)の間で締結される、雇用に関する権利と義務を定めた法的文書です。労働基準法などの関連法令に基づいて作成され、両者が署名することで法的な効力を持ちます。
国際的な雇用において、雇用契約書は以下のような多岐にわたる場面で利用されます。
-
外国籍従業員の日本での雇用: 日本企業が、海外の優秀な人材を日本国内のオフィスや工場で直接雇用する場合。
-
海外子会社での現地スタッフ雇用: 日本企業が海外に設立した子会社が、現地の従業員を雇用する場合。
-
駐在員の海外派遣: 日本企業の従業員を海外子会社や支店に駐在員として派遣する際、海外勤務に関する条件を定める場合。
-
リモートワーク/越境雇用: 国境を越えてリモートで業務を行う従業員を雇用する場合。
この契約書は、以下の非常に多岐にわたる詳細な条項を含みます。
-
職務内容と責任(Job Title, Responsibilities, and Duties):従業員の役職、具体的な職務内容、報告系統、期待される成果。
-
雇用期間(Term of Employment):無期雇用か有期雇用か、試用期間の有無と期間。
-
給与と報酬(Salary and Compensation):基本給、インセンティブ、ボーナス、残業代の計算方法、支払いサイクル。
-
労働時間と休日(Working Hours and Holidays):所定労働時間、休憩時間、休日、休暇(年次有給休暇、病気休暇、育児休暇など)の付与条件。
-
福利厚生(Benefits):社会保険(健康保険、厚生年金など)、退職金制度、住宅手当、通勤手当、健康診断など。
-
秘密保持義務(Confidentiality / Non-Disclosure):企業秘密、顧客情報、技術情報などの秘密情報の範囲、秘密保持義務の期間、契約終了後の効力。
-
知的財産権の帰属(Intellectual Property Rights, IPR):従業員が職務上または職務に関連して生み出した発明、著作物などの知的財産権の企業への帰属、対価。
-
競業避止義務(Non-Compete):雇用期間中および契約終了後一定期間、競合他社での勤務や競合事業の立ち上げを禁止する義務。
-
引き抜き禁止義務(Non-Solicitation):契約終了後一定期間、企業の顧客や従業員を引き抜くことを禁止する義務。
-
解雇条件と退職手続き(Termination and Resignation Procedures):解雇事由、解雇予告期間、退職金(Severance Pay)、退職手続き、退職時の秘密保持義務の継続。
-
懲戒処分(Disciplinary Actions):就業規則違反などに対する懲戒の種類と手続き。
-
準拠法と紛争解決(Governing Law and Dispute Resolution):契約に適用される法律、紛争が発生した場合の解決方法(裁判、労働委員会、仲裁など)。
国際的な雇用において雇用契約書が特に重要なのは、以下の理由からです。
-
各国の労働法規の厳格さ: 労働法は国ごとに大きく異なり、非常に強行法規的な性格を持つことが多いため、現地の法律に準拠した契約書を作成・翻訳しないと、違法となり無効になったり、高額な賠償金を請求されたりするリスクがあります。例えば、解雇規制、残業代計算、最低賃金、有給休暇の付与日数などが国によって大きく異なります。
-
社会保障・税制の違い: 各国の社会保障制度(年金、健康保険、失業保険など)や所得税の計算方法は複雑であり、適切に契約書に反映しないと、従業員の手取り額や企業の費用負担に予期せぬ問題が生じます。
-
文化・商慣習の違い: 異なる文化を持つ従業員を雇用する場合、日本の常識が通用しないことがあります。例えば、就業規則への同意や秘密保持の認識などが異なるため、契約書で詳細なルールを定めることで、認識のずれを防ぎます。
-
知的財産権の保護: 海外で雇用した従業員が、職務上生み出した知的財産権の帰属を明確にしないと、技術流出や知財紛争のリスクが高まります。特に、発明者報奨制度や職務発明の概念が異なる国では、注意が必要です。
-
紛争解決の複雑さ: 国際的な労働紛争は、複数の国の法律が絡み、解決に時間と費用がかかる傾向にあります。準拠法や紛争解決手段を明確にしておくことで、リスクを低減できます。
英文雇用契約書の特徴と和文契約書との違い
国際的な雇用取引では、多くの場合、英文で雇用契約書が作成されます。その特徴は、日本の和文契約書とは異なる点がいくつかあります。
-
"At-Will Employment" Principle(随意雇用原則)の適用:
-
米国の一部の州では「At-Will Employment(随意雇用)」の原則が適用され、雇用者または従業員が理由を問わずいつでも雇用関係を終了できるとされます。ただし、実際には差別禁止法などの例外が存在します。この原則が適用されない国(日本を含む多くの国)では、解雇には正当な理由と手続きが必要です。英文契約書では、この原則の適用有無、または解雇事由("Just Cause")が明確に記述されます。
-
-
Comprehensive Compensation and Benefits Details(報酬と福利厚生の包括的な詳細):
-
基本給だけでなく、コミッション、ボーナス、ストックオプション、退職金(Severance Pay)の計算方法と支払い条件が非常に詳細に記述されます。また、健康保険、生命保険、退職年金制度(例:401(k))、有給休暇(Paid Time Off, PTO)、病気休暇(Sick Leave)、育児休暇(Maternity/Paternity Leave)など、各種福利厚生の具体的な内容と付与条件が詳細に明記されます。
-
-
Explicit Confidentiality and Non-Compete/Non-Solicitation Clauses(明確な秘密保持、競業避止、引き抜き禁止条項):
-
秘密情報(Confidential Information)の定義、秘密保持義務の期間、例外規定、目的外利用の禁止が厳格に定められます。また、競業避止(Non-Compete)、引き抜き禁止(Non-Solicitation)条項は、対象期間、地理的範囲、対象となる業務内容が非常に具体的に記述され、その法的有効性( enforceability)について各国の法令(特に独占禁止法や競争法)を考慮した記述がなされます。
-
-
Intellectual Property Assignment and Work-for-Hire (米国の場合)(知的財産権の譲渡と職務著作/職務発明):
-
従業員が職務上または職務に関連して生み出した発明、著作物("Work-for-Hire")に関する知的財産権(特許、著作権、営業秘密など)が、企業に自動的に帰属する旨、または従業員から企業へ譲渡される旨が明確に規定されます。日本の職務発明規定とは異なるため、特に詳細な確認が必要です。
-
-
Governing Law and Jurisdiction/Arbitration(準拠法と裁判管轄/仲裁):
-
国際的な雇用契約では、契約に適用される法律(例:デラウェア州法、英国法、シンガポール法、日本法など)が明確に指定されます。また、労働紛争が発生した場合の解決方法(裁判所の管轄、または仲裁条項)が詳細に定められます。国際仲裁を指定する場合、仲裁地、仲裁機関、仲裁規則なども明記されます。
-
-
Entire Agreement Clause(完全合意条項):
-
契約書に記載されている内容が、当事者間の最終的かつ完全な合意であることを明確にする条項。これにより、口頭での約束や事前の交渉内容が契約の解釈に影響を与えないようにします。
-
-
Severability Clause(分離可能性条項):
-
契約書の一部の条項が違法または無効と判断された場合でも、その無効な条項のみが切り離され、契約の残りの部分の有効性には影響しないことを定める条項。
-
日本の和文雇用契約書に比べ、英文雇用契約書は、報酬と福利厚生の詳細さ、秘密保持・競業避止・引き抜き禁止条項の具体性、知的財産権の帰属に関する厳格な規定、そして国際法務上の解雇・紛争解決に関する詳細な合意に関して、より詳細かつ厳密な記述が求められる傾向が強いです。翻訳においては、これらの法的・税務的・文化的ニュアンスを正確に反映した表現を用いることが不可欠です。
雇用契約書翻訳における重要ポイント
雇用契約書の翻訳は、貴社のグローバル人材戦略、コンプライアンス、リスク管理に直接影響するため、極めて高い精度と専門性、そして人事、法務、経理、知的財産部門など多岐にわたる視点が求められます。以下のポイントを押さえることが、成功への鍵となります。
-
各国の労働法規の厳格な反映
-
雇用する国の労働法規(労働時間、残業代、解雇規制、有給休暇、社会保障など)を正確に理解し、契約書に反映することが不可欠です。単に直訳するのではなく、対象国の労働法の強行規定に合致するよう、必要に応じて契約内容自体を調整し、その上で翻訳を行う必要があります。例えば、日本の「残業代」と米国の「Overtime Pay」では計算方法や適用範囲が異なるため、現地の法律専門家との連携が必須ですし、当社はこれを強く認識しています。
-
-
給与・報酬体系と福利厚生の正確な翻訳
-
基本給、インセンティブ、ボーナス、残業代の計算方法、支払いサイクルに加え、社会保険、退職金制度(Severance Pay)、税務上の取り扱いなど、従業員の手取り額と企業の人件費に直接影響する項目を正確に翻訳することが不可欠です。各国の税法や社会保障制度を考慮した翻訳が求められます。
-
-
秘密保持義務(Confidentiality)の厳格な翻訳
-
企業秘密、顧客情報、技術情報などの秘密情報の範囲、秘密保持義務の期間、契約終了後の効力、情報漏洩時の責任などを厳格に表現すべきです。特に、どの情報が秘密情報に該当するか、従業員がその情報をどのように扱うべきかを具体的に明記し、漏洩リスクを最小限に抑える必要があります。
-
-
知的財産権の帰属(Intellectual Property Assignment)の明確な翻訳
-
従業員が職務上または職務に関連して生み出した発明、著作物、ノウハウなどの知的財産権の企業への帰属、対価、および関連書類への署名義務などを明確に翻訳することが極めて重要です。特に、「職務発明(Employee Invention)」に関する各国法の違い(例:米国における"Work for Hire"原則、日本における特許法上の規定)を正確に理解し、企業が確実に知的財産権を取得できるような表現を用いることが不可欠です。この部分の誤訳は、将来の知財紛争や技術流出につながります。
-
-
競業避止義務(Non-Compete)と引き抜き禁止義務(Non-Solicitation)の法的有効性を考慮した翻訳
-
これらの条項は、対象期間、地理的範囲、対象となる業務内容が具体的に記述され、その法的有効性(enforceability)が各国法(特に独占禁止法や競争法)によって厳しく制限されることがあります。翻訳にあたっては、単に直訳するのではなく、その国で実際に有効となる範囲を理解し、必要に応じて現地の法律専門家と連携して調整すべきです。無効な条項は、かえって企業のリスクを高める可能性があります。
-
-
解雇条件(Termination)と退職手続きの明確な翻訳
-
解雇事由、解雇予告期間、退職金(Severance Pay)の計算方法、退職手続き、退職時の秘密保持義務の継続などを明確に翻訳することが不可欠です。各国の解雇規制は非常に厳しいため、現地の労働法に違反しないような表現にすることが極めて重要ですし、当社はこれを強く認識しています。この部分の不備は、不当解雇として訴訟に発展する大きなリスクとなります。
-
-
準拠法(Governing Law)と紛争解決(Dispute Resolution)の正確な指定
-
契約に適用される法律、そして紛争が発生した場合の解決方法(裁判、労働委員会、国際仲裁、調停など)、裁判管轄、仲裁地の選定、仲裁機関、仲裁規則、仲裁人の数などを正確に翻訳することが不可欠です。国際的な労働紛争は複雑化しやすいため、自社にとって有利な準拠法や紛争解決地を指定することが戦略上重要であり、その内容を正確に把握すべきです。
-
当社は、このような複雑な準拠法と紛争解決に関する条項の正確な翻訳を特に重視しています。
-
-
AI翻訳の適切な活用と専門家による最終確認
AI翻訳技術は、初稿の作成や用語の統一に役立ちますが、雇用契約書のような法的・文化的に極めて複雑な文書においては、各国の労働法、社会保障制度、税法、そして雇用慣行を完全に理解することは困難です。AIを効率化ツールとして最大限活用しつつも、労働法務知識、人事労務に関する専門知識、および国際取引の実務経験を持つ専門の翻訳者による徹底したレビューと校正が不可欠です。人間による精査が、潜在的なリスクを最小限に抑え、安全な国際雇用関係の基盤となります。
-
強固な情報セキュリティ体制
雇用契約書には、従業員の個人情報(氏名、住所、連絡先、銀行口座情報など)、給与情報、職務内容、評価情報など、極めて機密性の高い情報が含まれます。これらの情報が外部に漏洩した場合、企業の法的責任問題、信用失墜、従業員からの訴訟など、甚大な損害を被る可能性があります。そのため、翻訳を依頼する際には、翻訳会社が厳格な情報セキュリティポリシーを定め、技術的・物理的・人的な対策を徹底しているかを必ず確認すべきですし、当社はこれを徹底しています。
雇用契約書の翻訳は誰に必要なのか?ケーススタディで見る関係部門の役割
雇用契約書は、グローバル人材の採用と管理の根幹をなし、多岐にわたる部門や関係者がその内容を理解し、翻訳された情報に基づいて連携することが不可欠です。
ケーススタディ1:日本のIT企業がベトナムに開発拠点を設立し、現地エンジニアを雇用
状況: 日本のIT企業A社が、ベトナムにソフトウェア開発のための子会社を設立し、現地のベトナム人エンジニアを雇用するケース。ベトナムの労働法に準拠した雇用契約書を英語で作成し、それを日本語に翻訳する必要がある。
-
人事部(HR):
-
必要性: 現地の労働法規に基づく給与体系(最低賃金、残業代計算、社会保険料控除など)、有給休暇や病気休暇の付与日数、試用期間、解雇に関する規定を詳細に確認します。適切な雇用条件設定と労務管理に直結します。
-
ケース: 契約書に記載された「ベトナムの労働法に基づく労働時間と残業代の計算方法」、「年次有給休暇の法的付与日数と取得条件」、「社会保険料の企業負担分と従業員負担分の割合」を和訳で確認し、現地の法規制と実務に合致しているかを評価します。過去には、解雇条件の認識のずれから不当解雇訴訟に発展した事例がありました。当社は、このような解雇条件に関する正確な翻訳を特に重視しています。
-
-
法務部:
-
必要性: 契約全体の法的妥当性、秘密保持義務、知的財産権の帰属、競業避止義務、懲戒処分、準拠法(ベトナム法)、紛争解決条項の適切性を確認します。
-
ケース: 契約書に記載された「開発されたソフトウェアの著作権が企業に帰属する旨」、「従業員が職務上生み出した発明に関する対価の取り扱い(ベトナム法の要件)」、「ベトナムの労働仲裁委員会を紛争解決手段とする条項」を和訳で確認し、法的リスクとコンプライアンスを評価します。
-
-
経理部/財務部:
-
必要性: 給与計算、税務上の源泉徴収義務、社会保険料の企業負担、現地通貨での支払いに関する為替リスクなどを確認します。
-
ケース: 契約書に記載された「基本給と各種手当の内訳」、「ボーナスの算定基準と支払い時期」、「ベトナムにおける所得税の源泉徴収義務と、その計算方法」を和訳で確認し、費用管理と税務コンプライアンスを評価します。
-
-
事業部/開発部:
-
必要性: 職務内容と責任、評価制度、知的財産権の帰属(特に開発成果物の権利確保)を理解し、開発プロジェクトの効率性と成果物の品質に影響を与えないかを確認します。
-
ケース: 契約書に記載された「エンジニアの具体的な職務内容とパフォーマンス評価基準」、「開発中に生じるソースコードや設計ドキュメントの知的財産権が会社に帰属する旨」を和訳で確認し、業務遂行と成果物の権利確保を評価します。
-
ケーススタディ2:米国企業が日本の幹部人材を雇用
状況: 米国の多国籍企業B社が、日本の事業拡大のために、日本のマーケットに精通した日本人幹部人材C氏を日本国内で雇用するケース。米国法に基づいた英文の雇用契約書を、日本のC氏向けに日本語に翻訳する必要がある。
-
人事部(HR):
-
必要性: 米国本社の人事ポリシーと日本の労働法の整合性、報酬パッケージ(基本給、ボーナス、ストックオプション)の日本の慣行との比較、退職金(Severance Pay)の条件、日本の社会保険・税制への対応を詳細に確認します。優秀な幹部人材の確保と定着に直結します。
-
ケース: 契約書に記載された「米国本社基準のストックオプション付与条件とその日本の税務上の取り扱い」、「日本の労働基準法における解雇予告期間と退職金規定との整合性」、「日本の健康保険・厚生年金への加入義務と保険料負担」を和訳で確認し、報酬の魅力とコンプライアンスを評価します。
-
-
法務部:
-
必要性: 契約全体の法的妥当性、秘密保持義務(グローバル事業に関わる機密情報)、競業避止義務(特に日本の独占禁止法との関連)、知的財産権の帰属、準拠法(例:カリフォルニア州法と日本法の適用関係)、紛争解決条項(国際仲裁の有効性)の適切性を確認します。
-
ケース: 契約書に記載された「C氏の職務上知り得る米国本社のグローバル戦略に関する秘密保持義務」、「競業避止条項の期間と範囲が日本の独占禁止法に抵触しないか」、「米国カリフォルニア州法と日本法の間での準拠法の優先関係、および日本での国際仲裁の有効性」を和訳で確認し、法的リスクを評価します。
-
-
経理部/財務部:
-
必要性: 給与、ボーナス、ストックオプションなどの報酬計算、日本の所得税・住民税の源泉徴収、社会保険料の計算と納付、国際税務上の影響を確認します。
-
ケース: 契約書に記載された「ストックオプション行使益に関する日本の所得税・住民税の課税処理」、「通勤手当、住宅手当などの日本の福利厚生に関する税務上の非課税枠」を和訳で確認し、給与計算と税務コンプライアンスを評価します。
-
-
経営層/事業責任者:
-
必要性: 職務内容、報酬、成果目標が、事業戦略と幹部人材のパフォーマンスに合致しているかを確認します。
-
ケース: 契約書に記載された「C氏の具体的な職務内容と業績評価指標(KPI)」、「報酬が業界のベンチマークと競合他社の水準と比較して魅力的であるか」を和訳で確認し、人材戦略と事業目標達成への貢献を評価します。
-
よくある質問(FAQ)
雇用契約書の翻訳に関して、お客様からよくいただくご質問とその回答をまとめました。
Q1: 雇用契約書で最も注意すべき条項は何ですか?
A1: 雇用契約書は全体として重要ですが、特に注意すべきは以下の条項です。
-
1. 給与・報酬体系と福利厚生: 各国の労働法、社会保障制度、税法に厳格に準拠しているか。 -
2. 労働時間、休日、休暇: 法定労働時間、残業代の計算方法、有給休暇の付与・消化ルールが現地の法律に合致しているか。 -
3. 秘密保持義務: 企業秘密の範囲、秘密保持義務の期間、契約終了後の効力、そして違反時の罰則が明確か。 -
4. 知的財産権の帰属: 職務発明・職務著作の権利帰属と対価に関する条項が、現地の法律に基づいて企業に有利に定められているか。 -
5. 競業避止義務・引き抜き禁止義務: これらの条項が、現地の独占禁止法や競争法に違反せず、かつ有効性を保つ範囲で設定されているか。 -
6. 解雇条件と退職手続き: 解雇事由、解雇予告期間、退職金が現地の労働法規の強行規定を遵守しているか。 -
7. 準拠法と紛争解決: 労働紛争発生時に、どの国の法律が適用され、どの機関で解決するのかが明確か。
これらの条項は、企業の法的リスク、財務コスト、そして従業員との関係に直接的な影響を与えるため、翻訳だけでなく、現地の法律専門家によるリーガルチェックが不可欠ですし、当社はこれを強く認識しています。
Q2: 雇用契約書の翻訳において、特に文化的・法的ニュアンスの理解が求められる部分はどこですか?
A2: 特に、「解雇条件(Termination)」と「報酬体系(Compensation)」、そして「知的財産権の帰属(IP Assignment)」です。
-
解雇: 国によって解雇の自由度が大きく異なります。米国の一部の州では「At-Will Employment」が原則ですが、日本を含む多くの国では解雇に正当な理由と厳格な手続きが求められます。このニュアンスを正確に翻訳し、現地の法規制を考慮した文言にすることが重要です。
-
報酬: 「年俸制」一つとっても、基本給、インセンティブ、ボーナス、残業代の考え方、税務上の扱いが異なります。また、福利厚生(医療保険、年金、有給休暇など)も各国で制度が異なるため、現地の慣行と法律を踏まえた翻訳が必要です。
-
知的財産権: 職務発明・職務著作の概念は国によって異なり、発明者への報酬義務の有無やその計算方法も多様です。企業が確実に知的財産権を取得できるよう、現地の法制度に基づいた表現を選ぶ必要があります。
Q3: AI翻訳を雇用契約書の翻訳に活用する際の注意点は何ですか?
A3: AI翻訳は、初稿の作成や用語の統一に非常に役立ちますが、雇用契約書のような法的拘束力を持つ文書に単独で使用することは推奨されません。
-
法的正確性: AIは法律の解釈や各国の強行法規のニュアンスを完全に理解できません。誤訳は法的リスクに直結します。
-
専門用語の正確性: 労働法、社会保障、税務に関する専門用語の正確な対応は、AIだけでは困難な場合があります。
-
文化的背景: 各国の雇用慣行や文化的な背景を踏まえた表現は、AIには再現が難しいことがあります。
したがって、AI翻訳を効率化ツールとして活用しつつも、必ず現地の労働法務に詳しい専門家(弁護士、社会保険労務士など)と、翻訳の専門家による徹底したレビューと校正を行うことが不可欠です。当社は、AIと専門家の人力翻訳を組み合わせることで、高品質かつ効率的な翻訳を提供しています。
Q4: 雇用契約書翻訳の費用はどのように決まりますか?
A4: 翻訳の費用は、主に以下の要素で決まります。
-
原文の文字数/ワード数: 基本的な料金体系。
-
専門性: 労働法、知的財産法、税務などの専門知識が必要な場合、料金が高くなることがあります。
-
緊急度: 納期が短い場合、特急料金が発生することがあります。
-
翻訳の品質レベル: ネイティブチェック、専門家によるリーガルチェックなどのオプションを追加する場合、費用が加算されます。
-
言語の組み合わせ: 希少言語の組み合わせは、料金が高くなる傾向があります。
正確な見積もりには、原文の確認が必要です。当社では、無料見積もりサービスを提供しておりますので、お気軽にお問い合わせください。
まとめ
雇用契約書の翻訳は、単なる言語の変換に留まらず、企業がグローバルな競争力を強化し、優秀な人材を安定的に確保し、同時に潜在的な法的リスクを回避するための極めて重要なプロセスです。
英文と和文の契約書が持つそれぞれの特徴を深く理解し、人事、法務、経理、事業といった各部門が連携しながら、専門知識を持つ翻訳者の力を借りることが不可欠ですし、これまでの経験から当社はこれを強く認識しています。
特に、各国の労働法規の厳格な反映、給与・報酬体系と福利厚生の正確な翻訳、秘密保持義務、知的財産権の帰属、競業避止義務と引き抜き禁止義務の法的有効性、解雇条件と退職手続き、そして準拠法と紛争解決といった条項は、潜在的なリスクを最小限に抑え、グローバル人材戦略を成功させるための鍵となります。
当社は、このような複雑な雇用契約書の翻訳において、貴社の各部門のニーズを理解し、最高品質の翻訳とサポートを提供することをお約束します。貴社の海外ビジネスにおける雇用契約に関してご不明な点やご相談がありましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。
WIPジャパンは、東京弁護士共同組合、神奈川県弁護士共同組合をはじめとする全国23の弁護士共同組合の特約店に認定されています。
ご相談は無料です。いつでもお気軽にご連絡ください。
【無料】PDFダウンロード
契約書の基本用語英訳50選
一言に契約書といっても、業務委託契約書(Services Agreement)、独立請負人契約書(Independent Contractor Agreement)、秘密保持契約書(Non-Disclosure Agreement)、業務提携契約書(Business Partnership Agreement)など、様々なものがあり、契約の種類も多様化しています。
契約内容を正しく理解し、法的リスクを回避するには、適切な英訳が不可欠です。本記事では、契約書における基本用語の英訳50選をご紹介します。 >>PDFダウンロード(無料)
「翻訳発注」に失敗しない10のポイント
翻訳の発注に失敗しないためには、どうすればいいのか。
翻訳外注コストを抑えるには、どうすればいいのか。
これらの課題の解決策をお教えします。
翻訳発注に失敗しないためには、知らないではすまされない重要なポイント!
優れた翻訳会社ほど多忙で引く手あまたです。価格が相場に比べて格段に低い翻訳会社は、良心的なのか、それとも単に制作プロセスを簡単に済ませているだけなのかをよく見極めましょう。また、同じ翻訳会社でも、制作プロセス次第で翻訳料金は大きく上下します。希望するレベルを詳細に伝えることで、翻訳会社は最適なプロセスをデザインすることができます。 >>PDFダウンロード(無料)
契約書翻訳に役立つリンク集
・法務省大臣官房司法法制部「法令翻訳の手引き」(PDF)
・日本法令外国語訳推進会議「法令用語日英標準対訳辞書」(PDF)
・Publiclegal(英文契約書のテンプレートや書式を無料で提供)
・日本法令外国語訳データベースシステム(法務省が開設した日本の法令の英訳サイト)
・weblio 英和辞典・和英辞典
・英辞郎 on the web
契約書翻訳に関連する記事
・【2024年版】ビジネスで欠かせない「契約書翻訳」におすすめの8つのポイント
・契約書翻訳を依頼する際に知っておいていただきたいこと
・契約書の翻訳を外注するとき、特に注意すべき3点
・翻訳会社のプロの法律系翻訳者が選ぶ!契約書の英訳におすすめの書籍12選
・法律文書:AI翻訳時代における人力翻訳の価値とは?