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Nov. 18, 2025

【5000字解説】労働安全衛生法:化学物質規制見直しと多言語化必須の安全戦略

 


目次 


序章:日本の化学物質管理が「自律型」へ。問われる国際的な安全基準

2024年以降、労働安全衛生法に基づく化学物質管理体系は、従来の「国による規制主導型」から、「事業者が自らリスクを評価・低減する自律的管理型」へと大きく舵を切りました。このパラダイムシフトは、製造業、化学産業、研究開発機関など、化学物質を取り扱うすべての企業にとって、安全衛生管理体制の根幹を変えるものです。

しかし、この高度な管理体制への移行において、多くの企業が見落としがちな盲点があります。それが、「多言語化の徹底」です。

 

日本の労働現場で働く外国籍労働者の数が増加する中、彼らにリスクアセスメント(RA)の結果や、新たな作業手順を正確に理解させなければ、自律的な管理体制は機能しません。 誤解や情報不足は、労働災害や行政指導に直結する最大の要因となります。

本記事では、改正の要点から、企業が講ずべき具体的な措置、そして安全を確保するために不可欠な多言語文書戦略までを詳細に解説します。

 

 

第1章:改正の核心:なぜ「自律的管理」が求められるのか

1-1. 従来の「規制型」管理の限界

従来の化学物質管理は、国が指定した特定の物質について、濃度基準や設備基準を定めて規制する「濃度基準値規制」が中心でした。しかし、新たな有害性が判明する化学物質は日々増えており、規制が後追いになる限界がありました。

 

1-2. 🎯 「自律的管理」への転換が意味するもの

この改正の目的は、SDS(安全データシート)交付義務がある約2,900物質を対象に、企業が個々の事業場の実態に合わせて、以下のプロセスを自ら実施することを義務付ける点にあります。

 

  • リスクアセスメント(RA)の実施と記録: 使用する化学物質の危険性・有害性を特定し、リスクを評価。

  • 管理措置の決定と実施: RA結果に基づき、作業方法の改善、設備導入、保護具の選定など、最もリスクを低減できる措置を決定し実施。

  • 化学物質管理者の選任: 自律的管理を適切に行うための専門的な知識を持つ責任者を設置。

この変更により、安全管理文書は「法律で定められた項目を埋めるもの」から、「現場のリスクと対応を具体的に明文化したもの」へとその役割が変わります。

 

 

第2章:企業が講ずべき具体的措置と文書化の要求事項

改正法では、事業者が段階的かつ継続的に対応すべき事項が具体的に定められています。

 

2-1. 🔍 リスクアセスメント(RA)の実施と記録

要求事項 関連する文書と多言語化ニーズ
評価対象の拡大 SDS交付義務のある全ての物質についてRAを実施。
多言語化ニーズ RA実施結果をまとめた評価書、およびその結果を作業者に伝える掲示物の多言語化。特にリスクレベルや危険性を示す用語の統一訳が不可欠。
記録の保存 RAの実施時期、結果、および措置の内容を記録し、一定期間(例:30年間)保存。

 

2-2. 🛡️ 講ずべき措置の決定と実施

RAの結果、リスクが高いと評価された場合、事業者は以下の措置を優先順位に従って講じなければなりません。

 

  • 代替物への変更・分離: 有害性の低い化学物質への代替、作業工程の変更など(最も優先度が高い)。

  • 工学的対策: 局所排気装置、プッシュプル型換気装置の設置、密閉化、隔離など。

  • 管理的対策: 作業時間の短縮、立入禁止措置、作業手順の改善など。

  • 個人用保護具の使用: マスク、手袋、保護衣などの着用(最も優先度が低い)。

2-3. 📝 濃度基準値の設定と作業環境測定

  • 濃度基準値の導入: 従来よりも多くの物質に「濃度基準値」が設定されました。事業者は、作業環境中の化学物質濃度がこの基準値以下になるよう、工学的・管理的対策を講じることが義務付けられます。

  • 作業環境測定・特殊健康診断: 濃度基準値を超過した場合や、特定のリスクが高い物質を扱う場合、作業環境測定特殊健康診断の実施が義務付けられます。その結果の記録は、厳格な管理が求められます。

就業規則・規程への影響

これらの措置を確実に履行するため、安全衛生管理規程において、「RAの実施体制」「保護具の選定・着用・点検に関する義務」「特殊健康診断の受診義務」などを明確に規定する必要があります。規定が曖昧な場合、労働者との認識の齟齬を生み、リスク管理が機能しません。

 

 

第3章:多言語化が必須となる「3つのリスク管理文書」

自律的管理体制において、外国籍労働者が日本の労働現場で安全に作業するためには、以下の3つの文書の多言語化と理解促進が不可欠です。

 

3-1. 🆘 リスクアセスメント結果とSDSの統合マニュアル

SDS(安全データシート)の翻訳は当然ですが、改正法では、SDSの情報に加え、現場の作業環境RAの結果を統合した、より実践的なマニュアルが必要です。

  • 単なる翻訳からの脱却: 「SDSの警告文を翻訳しました」だけでは不十分です。例えば、SDSに「適切な排気設備を使用」と記載されていても、現場の排気装置の具体的な操作方法(スイッチの位置、点検方法)が分からなければ意味がありません。

  • 求められる翻訳: 「SDSの危険性情報」と「現場で講じられた工学的対策、管理ルール」を組み合わせたバイリンガル作業手順書の作成が必要です。

3-2. 🧑‍⚕️ 健康管理・特殊健康診断に関する通知文書

特殊健康診断の受診や、作業記録の保存は、労働者の健康管理と企業の法的義務に関わります。

  • 記録保存の義務: 特定の有害物質に関する作業記録は30年間など長期間の保存が義務付けられます。外国籍労働者が退職しても、正確な作業履歴を残すための多言語による同意・記録文書が必要です。

  • 健康診断結果の伝達: 特殊健康診断の受診勧奨や、結果に関する通知文書を、労働者が確実に理解できる言語で提供しなければ、健康被害のリスクが高まります。

3-3. 🎓 教育・訓練マニュアルと保護具の正しい使用方法

「保護具の使用」はリスク低減の最後の砦ですが、使用方法が誤っていれば効果はゼロです。

  • 保護具マニュアルの多言語化: マスク、手袋、保護衣の選定理由、適切な着用・脱衣方法、保管方法を、イラストや写真を多用した視覚的な多言語マニュアルで徹底させます。

  • 教育記録の保存: RA結果の伝達や保護具の使用訓練が実施されたことを証明するため、多言語の受講確認書教育記録を整備し、法令遵守を証明する必要があります。

 

第4章:多言語化戦略:安全を保証する「誤訳許容度ゼロ」の専門監修

化学物質管理における多言語化は、単なるコストではなく、安全への投資であり、法的リスクを回避する手段です。

 

4-1. 専門用語の統一と一貫性の確保

化学分野では、日本語の「管理濃度」と「濃度基準値」、あるいは「特定化学物質」といった法規制特有の用語が多岐にわたります。

  • 用語データベース(DB)の運用: 化学物質の名称、危険性を示すGHS分類用語、排気装置の名称、および法規制用語について、多言語での統一用語DBを構築し、全ての文書で一貫性を確保することが必須です。

  • 技術監修の導入: 翻訳者が化学工学や産業安全の専門知識を持たなければ、日本の法律で定める「適切な措置」が海外の技術用語で誤って解釈されるリスクがあります。現場の安全担当者による技術監修が不可欠です。

4-2. 現地語と文化的な伝達方法への配慮

単に言語を翻訳するだけでなく、伝達方法も重要です。

  • 視覚的コミュニケーション: 危険標識や緊急時対応手順など、緊急性が高い情報は、文字だけでなく、ISO規格に準拠した国際的なピクトグラムや、視覚的に分かりやすい多言語併記の掲示物を使用します。

  • 文化的背景の考慮: 労働者の出身国の文化や安全衛生に対する認識の差異を考慮し、「なぜこの保護具が必要なのか」という背景を丁寧に説明する翻訳・マニュアル作成が求められます。

 

結論:自律的安全管理は「全従業員の理解」から始まる

労働安全衛生法に基づく化学物質規制の見直しは、企業に安全管理の高度化を求めています。この高度な自律的管理体制は、そこで働くすべての従業員(外国籍労働者を含む)が、化学物質のリスクと、それに対する具体的な措置を完全に理解して初めて機能します。

安全衛生管理規程、RA結果の伝達文書、そして作業手順書は、誤訳が許されない「誤訳許容度ゼロ」の文書です。多言語化の徹底は、国際的な安全基準への適合を証明し、労働災害と法的リスクから企業を守るための、不可欠な安全戦略です。

 

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