グローバルな事業展開において、企業は国境を越えて多種多様なITシステム、ソフトウェア、機械設備、インフラなどを導入・運用しています。これらのシステムや設備が常に最適な状態で機能し続けることは、事業の継続性と生産性を維持する上で不可欠です。予期せぬ障害や故障は、業務の停止、機会損失、顧客からの信頼失墜など、計り知れない損害をもたらす可能性があります。このようなリスクを最小限に抑え、安定した運用を保証するために締結されるのが保守契約書(Maintenance and Support Agreement / Service Level Agreement (SLA))です。
この契約書は、保守サービスの範囲、対応時間、責任範囲、費用、アップデートやアップグレードの取り扱い、そして紛争解決など、非常に詳細な条件を定める法的文書であり、その正確な翻訳は、システム・設備の安定運用、コストの最適化、法的リスクの回避、そして将来的な紛争の防止のために不可欠です。翻訳のミスや内容の理解不足は、保守対応の遅延、システムの停止、セキュリティ脆弱性、追加費用の発生、責任の曖昧化、さらには高額な法的紛争へと発展するリスクをはらんでいます。
特に、国ごとに契約法、サイバーセキュリティ法、データ保護法、知的財産権法、技術標準、そして国際的な商慣習が大きく異なるため、単に言葉を置き換えるだけでなく、それぞれの法制度や保守の対象となるシステム・設備の特性に応じた法的・技術的・商業的ニュアンスを踏まえた上で契約内容を理解し、翻訳することが不可欠です。
本記事では、これまでの経験に基づき、保守契約書の翻訳における重要なポイントと、貴社の各部門がどのように翻訳された契約書を活用し、関与していくべきかを具体的なケーススタディを交えて解説します。
貴社の海外ビジネスにおいて、保守契約の適切な理解と運用を通じて、システム・設備の安定稼働を確保し、事業継続を支えるために、ぜひ本記事をお役立てください。
保守契約書とは何か?その目的と国際ビジネスにおける重要性
保守契約書(Maintenance and Support Agreement / Service Level Agreement (SLA))とは、システムや設備の所有者(Owner / Customer)が、そのシステムや設備の機能維持、障害対応、性能改善などの保守サービスを専門業者(Service Provider / Vendor)に委託する際に締結する、法的拘束力を持つ文書です。
「保守」と「メンテナンス」は類似した概念ですが、一般的に以下のようなニュアンスで使い分けられます。
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保守(Maintenance & Support): ソフトウェアのバグ修正、セキュリティパッチの適用、システム監視、技術サポートなど、主にITシステムやソフトウェアの維持管理に用いられることが多いです。障害発生時の迅速な復旧や、システムの安定稼働を重視します。
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メンテナンス(Maintenance): 機械設備、インフラ、建物などの物理的なものの点検、修理、部品交換、予防保全に用いられることが多いです。定期的な手入れや消耗品の交換を通じて、物理的な劣化を防ぎ、寿命を延ばすことを重視します。
本記事では、ITシステムやソフトウェア、および機械設備全般における「保守」という広い意味で解説します。
国際ビジネスにおいて、保守契約の対象となるのは多岐にわたります。
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ITシステム: 基幹業務システム(ERP、CRM)、ウェブサイト、モバイルアプリケーション、サーバー、ネットワーク機器
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ソフトウェア: OS、データベース、アプリケーション、セキュリティソフトウェア
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産業用機械: 生産ラインのロボット、CNC工作機械、検査装置
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医療機器: MRI、CTスキャン、手術支援ロボット
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インフラ設備: 発電設備、通信インフラ、上下水処理システム
この契約書は、以下の非常に多岐にわたる詳細な条項を含みます。
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保守サービスの範囲(Scope of Services):提供される具体的なサービス内容(障害対応、定期点検、アップデート、技術サポート、パッチ適用、監視など)、対象となるシステム・設備の範囲とバージョン。
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サービスレベル合意(SLA: Service Level Agreement):障害の深刻度に応じた目標復旧時間(RTO)、目標復旧時点(RPO)、稼働率、応答時間など、サービス品質に関する具体的な指標とその目標値、達成できなかった場合のペナルティ。
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期間と更新(Term and Renewal):契約期間、自動更新の有無、更新条件、通知期間。
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報酬と支払い条件(Fees and Payment Terms):保守費用(定額制、従量課金、チケット制など)、支払いスケジュール、支払い通貨、費用精算(出張費用など)、遅延利息。
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サポート体制(Support Channels and Hours):サポートの提供方法(電話、メール、オンライン)、対応時間(24/7、営業時間内など)、言語。
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アップデート・アップグレード(Updates and Upgrades):バージョンアップ、機能追加、セキュリティパッチの適用に関する取り扱い、費用負担。
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秘密保持義務とデータセキュリティ(Confidentiality and Data Security):保守作業中に知り得た委託者の機密情報やデータの保護義務、セキュリティ基準、データ侵害時の対応。
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責任制限と補償(Limitation of Liability and Indemnification):サービスプロバイダーの過失や契約違反によって生じた損害に対する責任範囲、責任上限額、相手方への補償義務。
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契約解除条件(Termination):契約違反、サービスの品質不良、経営状況の変化などによる契約解除の条件、通知期間、解除後のデータ返還や引き継ぎ。
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準拠法と紛争解決(Governing Law and Dispute Resolution):契約に適用される法律、紛争が発生した場合の解決方法(裁判、国際仲裁、調停など)。
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顧客の協力義務(Customer Responsibilities):適切な情報提供、アクセス権の付与、バックアップの実施など、保守を受ける側が果たすべき義務。
国際ビジネスにおいて保守契約書が特に重要なのは、以下の理由からです。
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遠隔地での迅速な対応: 海外に設置されたシステムや設備の障害は、国内と比較して迅速な対応が難しい場合があるため、SLAで明確な対応時間を設定し、適切なサポート体制を確保する必要があります。
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言語・文化・時間帯の壁: 海外のサービスプロバイダーとの連携では、言語、文化、時差の違いによる誤解やコミュニケーションの遅延が生じやすいため、サポート言語、対応時間、報告体制を契約書で明確にする必要があります。
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法規制とセキュリティ基準: 各国でデータ保護法(GDPRなど)、サイバーセキュリティ法、技術標準が異なるため、契約書でこれらの違いを考慮し、遵守体制を確立する必要があります。
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知的財産権とライセンス: ソフトウェア保守の場合、ライセンスの範囲や著作権に関する条項を明確にしないと、将来的な法的紛争のリスクが生じます。
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税務処理の複雑さ: 国境を越えた保守費用には、源泉徴収税やVAT/GST(付加価値税/サービス税)などの税務処理が伴うため、契約書でその責任を明確にする必要があります。
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紛争解決: 国際的な契約では、紛争が発生した場合の解決方法(準拠法、仲裁など)を事前に明確にしておくことが、リスク管理上非常に重要です。
英文保守契約書の特徴と和文契約書との違い
国際的な保守取引では、多くの場合、英文で契約書が作成されます。その特徴は、日本の和文契約書とは異なる点がいくつかあります。
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Service Level Agreement (SLA) の極めて詳細な規定:
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障害の深刻度に応じた目標復旧時間(RTO)、目標復旧時点(RPO)、稼働率、応答時間など、サービス品質に関する具体的な指標とその目標値が数値で明確に示されます。これらの目標が達成できなかった場合のペナルティ(サービス費用の一部返還、追加サービス提供など)も具体的に定められるのが一般的です。
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和文契約でもSLAは導入されますが、英文契約ではより厳密かつ測定可能な指標と具体的なペナルティを伴う傾向が強いです。
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Scope of Services(保守サービスの範囲)の明確化:
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提供される具体的なサービス内容(例:24時間365日の監視、リモートサポート、オンサイトサポート、バグ修正、セキュリティパッチ適用、バージョンアップ、データベース最適化など)、対象となるシステム・設備の範囲とバージョンが詳細に列挙されます。
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Data Security and Confidentiality(データセキュリティと秘密保持)の厳格な条項:
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保守作業中にサービスプロバイダーがアクセスする可能性のあるデータ(個人情報、機密情報など)の保護措置、セキュリティ基準(ISO 27001などの認証)、データ侵害時の通知義務と対応プロセスが詳細に規定されます。各国のデータ保護法(GDPR、CCPAなど)への準拠が明確にされる傾向があります。
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Software Licenses and Intellectual Property Rights(ソフトウェアライセンスと知的財産権):
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ソフトウェアの保守契約では、ライセンスの範囲、利用許諾、バージョンアップに伴うライセンスの取り扱い、著作権の帰属、第三者の知的財産権を侵害しないことの保証などが明確に規定されます。
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Limitation of Liability and Indemnification(責任制限と補償)の厳密な規定:
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サービスプロバイダーの過失や契約違反によって生じた損害に対する責任の上限額(例:年間保守費用の〇倍、〇ドルまで)が明確に規定されることが一般的です。また、特定の状況下で当事者が相手方を補償する義務(Indemnification)も詳細に定められます。
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Governing Law and Dispute Resolution(準拠法と紛争解決)の指定:
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国際的な保守契約では、国際仲裁を紛争解決手段として指定することが一般的であり、仲裁地、仲裁機関、仲裁規則、仲裁人の数、仲裁判断の拘束力などが明確に指定されます。
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Customer Responsibilities(顧客の協力義務)の詳細化:
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保守サービスを円滑に受けるために、顧客が果たすべき義務(例:適切な情報提供、システムへのアクセス権の付与、定期的なバックアップの実施、担当者のアサイン、ソフトウェア環境の維持など)が詳細に規定されます。
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日本の和文保守契約書に比べ、英文保守契約書は、SLAの具体性、データセキュリティ、知的財産権の取り扱い、責任制限、そして国際的な準拠法・紛争解決メカニズムに関して、より詳細かつ厳密な記述が求められる傾向が強いです。翻訳においては、これらの技術的・法的・商業的ニュアンスを正確に反映した表現を用いることが不可欠です。
保守契約書翻訳における重要ポイント
保守契約書の翻訳は、貴社の海外ビジネスにおけるシステム・設備の安定運用、コスト管理、そして法的リスクに直接影響するため、極めて高い精度と専門性、そして法務・IT部門・経理・運用部門など多岐にわたる視点が求められます。以下のポイントを押さえることが、成功への鍵となります。
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サービスレベル合意(SLA: Service Level Agreement)の厳密な翻訳
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障害の深刻度に応じた目標復旧時間(RTO)、目標復旧時点(RPO)、稼働率、応答時間などの数値目標とその評価方法、そして目標が達成できなかった場合のペナルティ(サービス費用の一部返還など)を、曖昧さなく厳密に翻訳することが不可欠です。SLAの誤訳は、サービス品質に関する認識のずれや紛争の最大の原因となります。
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保守サービスの範囲(Scope of Services)の明確な理解と翻訳
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提供される具体的なサービス内容(障害対応、定期点検、アップデート、技術サポート、監視など)、対象となるシステム・設備の範囲とバージョンを、詳細かつ正確に翻訳することが不可欠です。何が保守対象で、何が対象外か、費用に含まれるか含まれないかを明確にする必要があります。
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秘密保持義務とデータセキュリティに関する条項の徹底的な翻訳
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保守作業中に知り得る貴社の機密情報(事業戦略、顧客データ、技術情報など)の定義、秘密保持義務の範囲と期間、違反時の措置を正確に翻訳することが不可欠です。また、個人情報や機密データを扱う場合は、各国のデータ保護法規制(GDPR、CCPAなど)への対応、セキュリティ基準(暗号化、アクセス管理など)、データ侵害時の通知義務と対応プロセスが契約書に適切に盛り込まれているか、厳密に翻訳されているか確認することが極めて重要です。
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責任制限(Limitation of Liability)と補償(Indemnification)に関する条項の明確化
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サービスプロバイダーの過失や契約違反によって貴社に損害が生じた場合の、サービスプロバイダーの責任の上限額(例:年間保守費用の〇倍、特定の金額まで)、そして第三者からのクレームや訴訟が発生した場合にどちらの当事者が相手方を防御・補償するのかを厳密に翻訳することが不可欠です。この条項は、将来的な訴訟リスクと費用負担に直接影響するため、細心の注意を払う必要があります。
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アップデート・アップグレードの取り扱いに関する明確な翻訳
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ソフトウェアのバージョンアップ、機能追加、セキュリティパッチの適用が保守費用に含まれるのか別途費用が発生するのか、その頻度、適用義務などを正確に翻訳することが重要です。費用認識のずれや、セキュリティリスクの発生を防ぐため、この点は非常に重要です。
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準拠法と紛争解決(Governing Law and Dispute Resolution)
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契約に適用される法律、そして紛争が発生した場合の解決方法(国際仲裁、調停、裁判など)、仲裁地の選定、仲裁機関、仲裁規則、仲裁人の数、仲裁判断の拘束力などを正確に翻訳することが不可欠です。国際取引では、自社にとって有利な準拠法や紛争解決地を指定することが戦略上重要であり、その内容を正確に把握すべきです。
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AI翻訳の適切な活用と専門家による最終確認
AI翻訳技術は、初稿の作成や用語の統一に役立ちますが、保守契約書のような技術的・法的・専門的に極めて複雑な文書、特にSLAの数値、データセキュリティの要件、責任制限、ソフトウェアライセンスといった条項においては、法的ニュアンス、各国の法規制、業界特有の専門用語を完全に理解することは困難です。AIを効率化ツールとして最大限活用しつつも、法務知識、ITシステム・対象機器に関する技術的な専門知識、および国際商取引の実務経験を持つ専門の翻訳者による徹底したレビューと校正が不可欠です。人間による精査が、潜在的なリスクを最小限に抑え、安全な国際取引の基盤となります。
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強固な情報セキュリティ体制
保守契約書や関連文書には、貴社のシステム構成、運用データ、顧客情報、事業戦略など、企業の競争力や事業の成否に直結する極めて機密性の高い情報が含まれることが一般的です。これらの情報が外部に漏洩した場合、企業の競争力低下、信用失墜、法的な責任問題など、甚大な損害を被る可能性があります。そのため、翻訳を依頼する際には、翻訳会社が厳格な情報セキュリティポリシーを定め、技術的・物理的・人的な対策を徹底しているかを必ず確認すべきです。当社は、お客様の機密情報を最高レベルで保護するため、徹底したセキュリティ管理を実践しています。
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「総コスト」での評価と信頼できる翻訳会社の選定
翻訳にかかる費用は、単純な料金だけでなく、翻訳後の社内での確認・修正にかかる時間や労力、そして将来的な紛争リスクといった「総コスト」で評価すべきです。初期費用が安価でも、翻訳品質が低ければ、結果的に大きな損失に繋がりかねません。実績、専門性、セキュリティ体制、そして提供されるサービスの質を総合的に判断し、貴社の国際ビジネスにおける戦略的パートナーとして信頼できる翻訳会社を選定することが重要ですし、当社はこのような観点から、お客様に安心してご利用いただける最適なサービスを提案しています。
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現地の弁護士・IT専門家との連携
翻訳された契約書をベースに、必ず現地の契約法、サイバーセキュリティ法、データ保護法、知的財産権法、技術標準に詳しい弁護士や、対象となるシステム・設備に関する技術的な専門家と連携し、契約内容の法的妥当性、技術的な実現可能性、リスク、コンプライアンス状況を最終確認することが不可欠です。翻訳は「理解の橋渡し」であり、最終的な法的判断と技術的な評価は現地の専門家が行うべきです。
保守契約書の翻訳は誰に必要なのか?ケーススタディで見る関係部門の役割
保守契約書は、海外ビジネスにおけるシステム・設備の安定運用とリスク管理を左右するため、多岐にわたる部門や関係者がその内容を理解し、翻訳された情報に基づいて連携することが不可欠です。
ケーススタディ1:海外拠点における基幹ITシステムの保守委託(日本の製造業)
状況: 日本の製造業が、欧州の現地法人で利用する基幹ERPシステムの保守を、現地のITサービスプロバイダーと英文の保守契約で委託するケース。
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情報システム部/IT戦略部:
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必要性: 保守サービスの範囲(障害対応、パッチ適用、システム監視、技術サポートなど)、SLA(稼働率目標、応答時間、復旧時間)、アップデート・アップグレードの取り扱い、データセキュリティ基準、顧客の協力義務など、システムの安定運用に直結する技術的・運用上の条件を詳細に確認します。
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ケース: 契約書に記載された「障害発生時の対応レベルと目標復旧時間」、「システムの年間稼働率保証」、「セキュリティパッチの適用頻度と責任範囲」を和訳で確認し、事業継続計画への影響とリスクを評価します。過去には、SLAの翻訳が曖昧だったため、システム障害発生時の対応が遅れ、生産ラインが長時間停止し、大きな損失が出た事例がありました。当社は、このようなSLAや保守範囲に関する条項の正確な翻訳を特に重視しています。
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法務部:
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必要性: 契約全体の法的妥当性、リスク管理、特にSLA違反時のペナルティ、秘密保持義務とデータ保護(GDPR対応)、責任制限、契約解除条件、準拠法、紛争解決条項の適切性を確認します。欧州の契約法、データ保護法(GDPR)、サイバーセキュリティ法への対応が求められます。
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ケース: 契約書に記載された「GDPRに基づくデータ処理委託契約(DPA)の盛り込み」、「サービスプロバイダーの過失による損害賠償の上限額」、「データ侵害発生時の通知義務と対応」を和訳で確認し、法的リスクとコンプライアンス戦略を評価します。
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経理部/財務部:
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必要性: 保守費用、支払い条件、支払い通貨、源泉徴収税やVATの取り扱いなどを確認し、適切な資金計画と会計処理を行います。
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ケース: 契約書に記載された「月額保守費用の計算方法と支払いスケジュール」、「欧州におけるVATの適用と納税責任」を和訳で確認し、キャッシュフローと税務リスクを管理します。
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ケーススタディ2:海外顧客への自社製産業機械の保守サービス提供(日本の機械メーカー)
状況: 日本の産業機械メーカーが、米国の大手製造企業に自社製ロボットアームを販売し、その後の保守サービスを英文の保守契約で提供するケース。
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技術サービス部/カスタマーサポート部:
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必要性: 保守サービスの範囲(定期点検、修理、部品交換、リモート診断など)、SLA(対応時間、部品供給リードタイム)、サポート体制(24時間対応の有無、サポート言語)、報告義務、顧客の協力義務など、顧客へのサービス提供内容と運用の詳細を確認します。
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ケース: 契約書に記載された「緊急故障時のオンサイト対応目標時間」、「消耗部品の無償交換範囲」、「遠隔診断システムの利用規約」を和訳で確認し、サービス提供能力と顧客満足度への影響を評価します。
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法務部:
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必要性: 契約全体の法的妥当性、リスク管理、特にSLA違反時のペナルティ、部品保証、責任制限、知的財産権の取り扱い(診断ソフトウェアなど)、契約解除条件、準拠法(米国法)、紛争解決条項の適切性を確認します。米国の契約法、製造物責任法への対応が求められます。
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ケース: 契約書に記載された「保守サービス提供中に生じた事故に対する責任分担」、「交換部品の品質保証期間と責任」、「米国における知的財産権の保護」を和訳で確認し、法的リスクと対応戦略を評価します。
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営業部/海外事業部:
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必要性: 保守費用、契約期間、更新条件などを確認し、顧客との関係維持と収益性を評価します。顧客への提案内容とサービス競争力に直結します。
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ケース: 契約書に記載された「年間保守費用の設定と更新時の改定ルール」、「契約期間中の解約条件」を和訳で確認し、顧客への営業戦略と事業計画への影響を評価します。
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よくある質問(FAQ)
保守契約書の翻訳に関して、お客様からよくいただくご質問とその回答をまとめました。
Q1: 保守契約書における「サービスレベル合意(SLA: Service Level Agreement)」の条項は、翻訳でどのように注意すべきですか?
A1: SLAは保守契約の心臓部であり、最も厳密な翻訳が求められます。翻訳においては、障害の深刻度に応じた目標復旧時間(RTO)、目標復旧時点(RPO)、稼働率、応答時間などの数値目標を、曖昧さなく正確に表現することが不可欠です。さらに、これらの目標が達成できなかった場合の具体的なペナルティ(サービス費用の一部返還、追加サービスの提供など)も、誤解が生じないよう厳密に翻訳する必要があります。SLAの誤訳は、サービス品質に関する認識のずれや、高額な賠償請求に繋がりかねないため、細心の注意が必要です。
Q2: 「データセキュリティと秘密保持(Data Security and Confidentiality)」に関する条項の翻訳で、特に注意すべき点は何ですか?
A2: 保守作業では機密情報や個人情報へのアクセスが伴うため、この条項は極めて重要です。翻訳においては、秘密情報の定義、秘密保持義務の範囲と期間、違反時の措置を正確に表現することはもちろん、特に各国のデータ保護法規制(GDPR、CCPAなど)への準拠、適用されるセキュリティ基準(ISO 27001などの認証要件)、データ侵害時のサービスプロバイダーの通知義務と対応プロセスが明確に翻訳されているか、厳密に確認することが不可欠です。この部分の不備は、重大な法的責任や企業の信用失墜につながる可能性があります。
Q3: 国際的な保守契約で、「責任制限(Limitation of Liability)」の条項はなぜ重要視されますか?
A3: 責任制限条項は、万一のトラブル発生時にサービスプロバイダーが負う損害賠償の範囲と上限を定めるものです。翻訳においては、サービスプロバイダーの過失や契約違反によって貴社に生じた損害に対する責任の上限額(例:年間保守費用の〇倍、特定の金額まで)を正確に把握することが極めて重要です。また、いかなる種類の損害(直接損害、間接損害、逸失利益など)が責任制限の対象となるか、または対象外となるかも明確に翻訳されているか確認すべきです。この条項の解釈ミスは、将来の紛争時に予期せぬ巨額の損失を被るリスクがあるため、細心の注意が必要です。
Q4: 保守契約における「アップデート・アップグレード(Updates and Upgrades)」の取り扱いは、どのように注意して翻訳すべきですか?
A4: ソフトウェアやシステムの保守では、定期的なアップデートや機能のアップグレードが不可欠です。翻訳においては、これらのアップデートやアップグレードが保守費用に含まれるのか、別途費用が発生するのか、その頻度、適用義務(強制か任意か)、適用に伴うシステム停止時間の目安などを正確に翻訳することが重要ですし、当社はこれを強く認識しています。費用認識のずれや、セキュリティ脆弱性の放置、機能の陳腐化などを防ぐため、この点は非常に重要です。
Q5: 保守契約書で「準拠法と紛争解決(Governing Law and Dispute Resolution)」の条項が非常に重要と言われるのはなぜですか?
A5: 準拠法(Governing Law)は、契約の解釈・有効性・履行に適用される法律であり、紛争解決は問題発生時の解決プロセスを定めます。国際的な保守契約では、異なる国の法律や裁判制度が関わるため、どの国の法律が適用されるのか、紛争が生じた場合にどの国で、どのような方法(国際仲裁、調停、裁判など)で解決するのかを明確に合意しておくことが、予測可能性を高め、紛争解決のコストと時間を削減するために極めて重要ですし、自社にとって有利な条件を確保すべきです。翻訳においては、これらの条項を正確に理解し、現地の弁護士と連携して最終確認を行うことが不可欠です。
まとめ
保守契約書の翻訳は、単なる言語の変換に留まらず、企業が海外で導入・運用するITシステムや設備が常に安定稼働し、事業継続を確保するための極めて重要なプロセスです。英文と和文の契約書が持つそれぞれの特徴を深く理解し、IT部門、法務、経理、運用部門といった各部門が連携しながら、専門知識を持つ翻訳者の力を借りることが不可欠ですし、これまでの経験から当社はこれを強く認識しています。
特に、SLAの厳密な定義、データセキュリティと秘密保持、責任制限、アップデート・アップグレードの取り扱い、そして準拠法と紛争解決といった条項は、潜在的な法的・経済的リスクを最小限に抑え、海外ビジネスにおけるシステム・設備の安定運用を保証するための鍵となります。
当社は、このような複雑な保守契約書の翻訳において、貴社の各部門のニーズを理解し、最高品質の翻訳とサポートを提供することをお約束します。貴社の海外ビジネスにおける保守契約に関してご不明な点やご相談がありましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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契約書翻訳に役立つリンク集
・法務省大臣官房司法法制部「法令翻訳の手引き」(PDF)
・日本法令外国語訳推進会議「法令用語日英標準対訳辞書」(PDF)
・Publiclegal(英文契約書のテンプレートや書式を無料で提供)
・日本法令外国語訳データベースシステム(法務省が開設した日本の法令の英訳サイト)
・weblio 英和辞典・和英辞典
・英辞郎 on the web
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