翻訳対象は明確ですか?
翻訳の品質を左右するものは何でしょうか。いろいろな要素が考えられますが、最も影響するのは翻訳者のスキルになるでしょう。品質の8割を占めるといってもよいかもしれません。では、残り2割はどのようなものが考えられるでしょうか。
チェッカーのスキル、調査力、用語集や参考資料の引用、過去訳との整合、翻訳支援ツールの使用、原稿の明確性などが挙げられるでしょう。
今回はその中でも、最後に記載した、一見あまり品質とは関係ないように思われがちの原稿(翻訳対象)の明確性についてお伝えできればと思います。
明確性を向上させる方法とは?
お客様からご支給頂く原稿には、いろいろな種類があります。翻訳対象がはっきりとしているものもあれば、大変失礼ながら、複雑で翻訳対象が分かりにくいものもあります。
翻訳者やチェッカーがその力を最大限に発揮するためには、翻訳作業以外のことに気をとられないことが重要です。あちこち視点を移さなければならない原稿や、編集できないあるいは編集しづらい画像やグラフなどを多く含む原稿、細かい文字が不規則に記載されている原稿などはどうしても集中力を欠いてしまいます。
理想を言えば、Wordファイルにシンプルな形で原文が記載されている原稿が最も翻訳作業に集中しやすいのですが、業務の都合上、前述のような原稿になってしまうこともあるかと思います。ただ、そのような場合には、少しでも見やすく、編集しやすい原稿に変えて頂くだけで品質が下がるリスクを避けることが可能になります。
以下、典型的な原稿例をご紹介します。
列や行が非常に多いExcel原稿
例えば、調査結果などのExcel原稿で、列や行が非常に多いファイルを想定してみましょう。なかでも全てのセルが翻訳対象ではなく、特定のセルのみ翻訳対象の場合が危険です。
この原稿の形式はもちろん必要なものですから、最終的にはこの形式で翻訳言語に置き換えるべきですが、そのままの形で翻訳作業を始めると、翻訳者やチェッカーは非常に見づらく、本来しないようなミスをしてしまう可能性があります。
このような場合には、翻訳が必要なところだけを表示させるか、あるいは別途Wordファイルなどに翻訳対象を抜き出すだけでスタッフは翻訳に集中することができます。
取扱説明書の改訂版
取扱説明書の改訂版の翻訳も例にとってみましょう。
この翻訳では、前回から変更になった箇所を部分的に翻訳する必要があるのですが、単に参考資料として前回の原文と訳文を渡して翻訳を進めた場合、本来の翻訳作業に加えて、前回の原文と訳文を検索するというプラスαの作業が発生します。そのため集中力を欠き、こちらもミスが起きやすくなります。
このような場合には、翻訳が必要な箇所のみを抜き出した原稿を準備します。またその原文には前回からの変更履歴も記載します。そして前回の訳文も添えることで、翻訳者はその前回の訳文をベースしながら翻訳作業を集中して進めることができます。翻訳支援ツールを使用する手段もあるのですが、そちらはまた別の機会にお伝えします。
画像やグラフが多く含まれているレポート
レポートなどの画像やグラフが多く含まれている原稿も想定してみましょう。画像はそもそも容易に編集ができません。グラフはプロパティから変更する必要があるなど直接編集しづらいことが多いものです。
実は、この画像やグラフには、元データ(ExcelやPowerPointなど)が存在しているケースが多くあります。まずはこの元データがあるかどうかを確認し、もし入手可能であれば、原稿に加えてその元データも翻訳会社に支給することをオススメします。
その元データ上で翻訳作業を進めれば作業に集中することができ、翻訳が終わればその元データから原稿にコピーペーストするだけでよいのです。
元データを入手できない場合は、翻訳会社の方で画像やグラフに記載されている文字を起こし、別途対訳表を作成するなどして翻訳作業を進めることになるのですが、その文字起こしの時点でミスが起きる可能性があります。加えて、翻訳者やチェッカーも実際の画像やグラフと対訳表に視点を移す必要があるので元データを直接編集するよりも作業に負担がかかり翻訳品質が下がる危険性が生じます。
細かい文字が記載されている地図
最後に、パンフレットに記載されている地図など、非常に細かく記載されている文言を翻訳する場合を例にとりましょう。
このようなケースでは、文字が不規則に並んでいて、PDF形式になっているパターンが多いものです。なぜならWordやExcelなどではこのような細かい原稿を作成することが困難だからです。
このような翻訳では原稿がPDFのため直接編集することができません。画像やグラフのケースと同様、Wordなどに文字を起こし、対訳表にする必要があります。PDFにナンバリングをする方法もありますが、細かすぎてそれさえ難しい場合もあります。また、対訳表にするということは、前述と同じことが起きます。
実は、このようなケースではほとんどの場合、InDesign、FrameMaker、Illustratorのソフトで作成されていることが多くあります。InDesignやFrameMakerの元データがあれば、翻訳支援ツールを使用して、原文を読み込むことができます。わざわざ原文の文字を起こす必要がないのです。またプレビュー画面でどの部分を翻訳しているか確認しながら翻訳できるケースもあります。
残念ながら、翻訳支援ツールでは(執筆時点で)まだIllustrator上の原文を読み込むことはできないのですが、このような翻訳を依頼する場合は元データの有無も確認して頂くことで品質を保つことができます。
留意点・まとめ
以上、いかがでしたでしょうか。もちろん弊社ではどのような原稿であったとしても、翻訳者、チェッカーを含めより良い翻訳をご提供するために最大限の努力を重ねておりますが、お客様の方でも発注前にひと手間加えて頂くことで、より高い翻訳品質を実現できます。
また、そのように原稿を吟味して頂くことで、結果的に翻訳会社の作業も減り、金額や納期の面でもお客様にとってプラスにつながる可能性もあります。
もし上記のようなケースに当てはまる場合は御見積の段階で弊社からご提案を差し上げますので、その際はご検討頂ければ幸いです。このようなご提案ができる点も弊社のストロングポイントと自負しております。(中後)