東南アジアにおける圧倒的な人口と急速な経済成長を誇るインドネシアは、日本企業にとって計り知れない魅力を持つ市場です。製造業からデジタル経済まで多岐にわたる分野でビジネスチャンスが広がっています。しかし、この国での事業展開において、「英語契約書があれば問題ない」という認識は、しばしば大きな落とし穴に繋がります。なぜなら、インドネシアは、多民族・多文化が共存する複雑な社会構造を持ち、独自の法体系と商習慣、そして何よりもインドネシア語という公用語を持つからです。
特にインドネシア語契約書の翻訳は、単なる言語の置き換えに留まらず、インドネシア民法典(Kitab Undang-Undang Hukum Perdata)、会社法(Undang-Undang Perseroan Terbatas)、投資法(Undang-Undang Penanaman Modal)、労働法(Undang-Undang Ketenagakerjaan)といったインドネシアの法制度への深い理解が不可欠です。これらの要素を無視した翻訳は、契約の解釈、履行、そして将来的な紛争解決において深刻な問題を引き起こす可能性があります。
長年の国際契約書翻訳の経験に基づき、日本企業がインドネシア企業と契約を交わす際に直面する「インドネシア語契約書 翻訳」の重要性、その特有の法的背景、準拠法、紛争解決、そして言語戦略の観点から、具体的な対応策を深掘りして解説します。インドネシアでのビジネスを安全かつ確実に展開し、その潜在能力を最大限に引き出すための羅針盤となる情報を提供します。
1. 知っておくべきインドネシアの法体系:多様なルーツを持つ近代法
インドネシアの法体系を理解することは、インドネシア語契約書を取り扱う上で最も重要な前提となります。インドネシアの法は、オランダ植民地時代の大陸法(特にオランダ法)の影響を強く受けていますが、独立後はイスラム法(シャリーア)や慣習法(アダット法 / Hukum Adat)の要素も取り入れつつ、独自の発展を遂げてきました。
インドネシア民法典と主要な法律
インドネシアの法律の中心はインドネシア民法典(Kitab Undang-Undang Hukum Perdata)であり、契約法、物権法、家族法、相続法など広範な分野をカバーしています。契約書を作成・解釈する上で、この民法典の原則を理解することが不可欠です。
その他、ビジネスに大きな影響を与える主要な法律には以下のようなものがあります。
-
投資法(Undang-Undang Penanaman Modal): 外国企業の投資誘致と規制を定めています。ネガティブリスト(Daftar Negatif Investasi)により、特定の事業分野では外資規制(出資比率制限など)が適用されるため、事業の種類によってはJV設立が必須となる場合もあります。
-
会社法(Undang-Undang Perseroan Terbatas): 株式会社(PT)の設立、運営、ガバナンスに関する詳細なルールを定めています。合弁事業契約や株主間契約において特に重要です。
-
労働法(Undang-Undang Ketenagakerjaan): 労働者の権利保護が手厚く、解雇規制、労働時間、最低賃金、社会保険などに関する詳細な規定があります。雇用契約書や関連する合意は、この法律に厳密に準拠する必要があります。
-
独占禁止法(Undang-Undang Larangan Praktek Monopoli dan Persaingan Usaha Tidak Sehat): 不公正な競争慣行や独占行為を規制します。販売代理店契約や提携契約において留意が必要です。
-
個人情報保護法(Undang-Undang Pelindungan Data Pribadi / PDP Law): 比較的新しい法律で、個人情報の取得、利用、管理、移転に関する厳格なルールを定めています。データを取り扱う契約ではPDPLへの適合が必須です。
商習慣と文化的背景
法制度の違いに加えて、インドネシアの商習慣や文化的背景も、契約の交渉や履行に影響を与えます。
-
人間関係と「ゴトン・ロヨン」: インドネシアでは人間関係(Hubungan)が非常に重視されます。古くから根付く「ゴトン・ロヨン(Gotong Royong)」という相互扶助の精神は、ビジネスにおいても信頼関係や協力関係を重視する傾向に繋がります。
-
交渉と柔軟性: 交渉には時間をかける傾向があり、合意後も状況に応じて柔軟な対応を求めることがあります。急ぎすぎは禁物です。
-
書面主義の徹底: 口頭での約束も重要視される場面がありますが、最終的には書面化された契約書が法的効力を持つことを認識しておく必要があります。ただし、契約書の詳細な文言よりも、当事者間の良好な関係性がトラブル解決の鍵となることもあります。
2. 契約の「羅針盤」:準拠法(Hukum yang Berlaku / Applicable Law)の選び方
インドネシア語契約書の解釈、有効性、履行、そして違反時の法的効果などを決定するために適用される法律、それが準拠法です。日本企業とインドネシア企業間のインドネシア語契約書において、この準拠法の選択は、契約関係の方向性を決定づける最も重要な要素の一つです。
選択肢とそれぞれの特徴・留意点
-
日本法を準拠法とする場合
-
メリット: 日本企業にとって最も馴染み深く、自社の法務部門や顧問弁護士がインドネシア語契約書の日本語訳内容を容易に理解し、リスクを評価できます。予測可能性が高く、国内の法務リソースを最大限に活用できます。
-
デメリット: インドネシア企業にとっては外国法となるため、内容の理解に専門的なサポートが必要となり、交渉が難航する可能性があります。また、万が一紛争がインドネシアで発生し、現地の裁判所が関与する場合、外国法(日本法)の適用や強制執行には、時間とコスト、そして手続き上の複雑さが伴うことがあります。特に、インドネシアの強行法規(例えば、投資法、会社法、労働法)と矛盾する条項は、現地の裁判所によって無効と判断されるリスクがあります。
-
-
インドネシア法を準拠法とする場合
-
メリット: 相手方企業にとっては自国法であり、理解しやすいため、インドネシア語契約書として締結することで国内での法的執行が比較的スムーズに進む可能性があります。インドネシアでのビジネス展開を重視する場合や、相手方企業側の交渉力が強い場合に選択されることがあります。
-
デメリット: 日本企業にとっては、インドネシアの法律に関する専門知識が不可欠です。インドネシア民法典、会社法、労働法など、日本の法体系とは異なる部分が多く、現地の法務実務や商慣習を深く理解していなければ、予期せぬ落とし穴にはまるリスクがあります。特に、外資規制、労働法規制、投資奨励制度など、インドネシア法特有のルールを把握しておく必要があります。インドネシア語契約書の条文がインドネシア語であるため、より一層の専門知識と正確なインドネシア語契約書 翻訳が求められます。
-
-
第三国法を準拠法とする場合
-
メリット: 英国法(特にイングランド法)や米国ニューヨーク州法、またはシンガポール法など、国際商取引で広く受け入れられている法律を選択するパターンです。これらの法律は国際的な判例が豊富に蓄積されており、契約解釈の予測可能性が高いという大きなメリットがあります。どちらの当事者にとっても外国法であるため、中立性が保たれやすいと認識されることもあります。
-
デメリット: 当事者双方にとって外国法となるため、双方ともにその法律に精通した専門家(国際弁護士など)のサポートが必須となり、法務コストが増大する可能性があります。また、第三国法がインドネシアの強行法規と大きく異なる場合、インドネシアの裁判所での執行に課題が生じる可能性も考慮に入れる必要があります。
-
準拠法選択の経験的アドバイス
準拠法の選択は、取引の性質、当事者の交渉力、取引額、リスクの度合い、そして将来的な紛争発生時の執行の容易さなどを総合的に考慮して決定すべきです。インドネシアでの事業活動が主となる場合、インドネシア法を準拠法とするケースも多く見られますが、その際はインドネシア法に精通した弁護士によるリーガルチェックが必須です。また、中立性や国際的な執行可能性を重視し、国際仲裁と組み合わせる形で第三国法(例:シンガポール法)を選択するケースも多く見られます。
3. 万が一の「出口戦略」:紛争解決(Penyelesaian Sengketa / Dispute Resolution)の選択肢
どれだけ完璧なインドネシア語契約書を作成しても、予期せぬ事態や解釈の相違から紛争が発生する可能性はゼロではありません。そのため、契約締結時に、紛争が起きた際の解決方法を具体的に定めておく「出口戦略」は極めて重要です。
主要な紛争解決手段
-
友好的解決・調停(Musyawarah, Mediasi / Negotiation, Mediation)
-
インドネシアでは、紛争を裁判に持ち込む前に、当事者間の話し合いや調停(通常、中立な第三者機関や個人の仲介)による解決を試みることが一般的です。特に「ゴトン・ロヨン」の精神から、友好的な解決を重視する傾向があります。契約書においても、まずは友好的な解決を試みる旨の条項が設けられることがあります。
-
-
裁判(Pengadilan / Litigation)
-
日本の裁判所: 日本企業にとっては有利な立場ですが、インドネシア企業が判決に従わない場合、現地でその判決を強制執行するには、別途「外国判決の承認及び執行」という複雑な手続きが必要です。インドネシアにおける外国判決の承認・執行は、特定の条件が厳しく、時間とコスト、不確実性が伴うことが多いです。
-
インドネシアの裁判所: 現地での執行は比較的容易ですが、日本企業にとっては現地の司法制度に関する知識や、インドネシア語契約書の解釈において言語の壁が存在します。現地の法務知識と裁判実務に精通した弁護士の存在が不可欠であり、日本の常識が通用しない場面も想定されます。
-
-
国際仲裁(Arbitrase Internasional / International Arbitration)
-
国際商取引における紛争解決手段として、最も推奨される選択肢の一つです。特に日本とインドネシアのように法制度が異なる国同士の取引でその優位性が際立ちます。
-
メリット:
-
中立性: 特定の国の司法制度に依存せず、中立的な仲裁地(シンガポール、香港、ロンドンなど、そしてインドネシア国立仲裁委員会(Badan Arbitrase Nasional Indonesia / BANI)など)と国際的に信頼性の高い仲裁機関を選択できます。これにより、特定の国の裁判所での「ホームアドバンテージ」を避けることができます。
-
専門性: 複雑な商取引や技術的な紛争において、その分野の専門知識を持つ仲裁人を選任することが可能です。
-
執行可能性: 最も重要なメリットの一つです。日本もインドネシアもニューヨーク条約(外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約)の加盟国であるため、一国の仲裁機関で下された仲裁判断は、加盟国である相手国でも比較的容易に強制執行することができます。これにより、外国での判決執行の困難さを克服できます。
-
秘密保持: 仲裁手続きは原則非公開であり、ビジネス上の機密情報が守られやすいです。
-
迅速性: 原則として、仲裁判断は最終的なものであり、二審制や三審制のような上訴手続きがありません。これにより、迅速な紛争解決が期待できます。
-
-
注意点: 仲裁条項の作成には専門知識が必要です。仲裁機関、仲裁地、仲裁言語、仲裁人の数などを具体的に定める必要があります。
-
紛争解決条項設定の経験的アドバイス
日本企業とインドネシア企業間のインドネシア語契約書では、国際仲裁を選択することが最も実用的で安全な選択肢と言えます。特に、ニューヨーク条約の枠組みを利用することで、相互の執行可能性を高めることができます。仲裁地としては、中立性が高く、国際仲裁の実績が豊富なシンガポールや香港、またはインドネシア国内のインドネシア国立仲裁委員会(BANI)も有力な選択肢となります。
4. 言葉の壁を越える:インドネシア語契約書 翻訳の戦略と重要性
インドネシア語契約書がどの言語で作成され、どの言語が正文となるかは、契約内容の正確な理解と将来的な解釈の齟齬を防ぐ上で非常に重要です。「英語契約書があれば十分」という考えは、インドネシアとのビジネスにおいては特に大きなリスクを伴います。
主要な言語パターンとインドネシア語契約書 翻訳の役割
-
日本語とインドネシア語(いずれか、または双方が正文)
-
活用場面: 双方の母国語での詳細な理解を重視する場合に、インドネシア語契約書または日本語契約書が用いられます。
-
留意点: どちらかの言語(例:インドネシア語版)を正文とし、もう一方(例:日本語版)を参考訳とすることが一般的です。両言語を正文とする場合は、解釈の齟齬が生じた際の優先順位(例:「インドネシア語版が優先する」)を明確に定める「優先言語条項」を必ず盛り込む必要があります。インドネシア語契約書 翻訳の品質が直接、法的リスクに直結します。インドネシア法の概念を正確に日本語で表現できるかが重要です。
-
-
英語を正文とし、日本語・インドネシア語の参考訳を作成
-
活用場面: 国際ビジネスで一般的なパターンですが、インドネシアでは注意が必要です。英語が国際的な法的文書の標準語として広く認知されているため、専門家によるレビューもしやすく、将来的な国際訴訟や仲裁においても用いられます。
-
留意点: 英語が唯一の正文となる場合でも、インドネシア側の当事者がインドネシア語契約書の翻訳を求め、それを理解の基礎とするケースが多くあります。このインドネシア語契約書 翻訳の質が低いと、誤解や紛争の原因となり得ます。また、インドネシアでは、公証役場で認証を受ける契約書はインドネシア語で作成されることが義務付けられています(2009年法律第24号「国旗・国語・国章及び国歌に関する法律」)。このため、英語契約書とインドネシア語契約書の双方を正文とし、インドネシア語版が優先するという形式が採用されることが多く、その際の翻訳の正確性が極めて重要です。
-
-
インドネシア語のみを正文とする
-
活用場面: インドネシア国内での取引や、契約相手の交渉力が非常に強い場合に採用されます。
-
留意点: インドネシア語が唯一の正文である場合、日本企業はインドネシア語の法的文書を完全に理解できる体制を構築する必要があります。特に公証が必要な契約ではこの形式が必須となります。
-
インドネシア語契約書 翻訳における専門性
言語戦略の選択に関わらず、インドネシア語契約書の専門翻訳は極めて重要です。
-
法的・専門用語の正確性: インドネシア民法典などに由来する「Keadaan Kahar(不可抗力)」、「Kerugian(損害)」、「Daluwarsa(時効期間)」といった法律用語は、単なる直訳では法的意味合いを正確に伝えられません。インドネシア法の概念と日本の法概念、そして英語の概念を理解し、インドネシアの法律や商慣習に合致した適切な用語選択と表現が必要です。
-
ニュアンスの理解: インドネシア語は、その文脈や文化的な背景によって言葉のニュアンスが大きく変わることがあります。法律文書においては、曖昧さを避け、正確な意味を伝える翻訳が求められます。
-
書式と構造: インドネシア語の法律文書特有の表現や構成に精通している必要があります。
-
公証・登録要件への適合: 特にインドネシア語での契約書作成が義務付けられる場面(公証、土地登記など)では、その要件に合致した翻訳と書式が求められます。
-
E-E-A-T原則に基づいた翻訳: 経験、専門知識、権威性、信頼性(E-E-A-T)を重視し、翻訳者も法務や金融分野での実務経験を持つプロフェッショナルが担当します。AI翻訳を効率化ツールとして活用しつつも、最終的なレビューと校正は、人間の専門家が徹底して行い、法的リスクを最小限に抑えます。
5. 具体的な「実践」:ケーススタディで見るインドネシア語契約書の落とし穴と成功
実際のビジネスシーンでは、どのような契約戦略が採られるのでしょうか。具体的なケーススタディを通して、準拠法、紛争解決、言語選択の重要性を深掘りします。
ケーススタディ1:インドネシア企業との合弁事業契約
-
状況: 日本の製造業A社が、インドネシアの現地企業B社と共同で製造工場を設立・運営する合弁事業契約(Perjanjian Usaha Patungan / Joint Venture Agreement)を締結するケース。出資比率、役員構成、利益分配、知財管理、そしてインドネシアの投資法、会社法、労働法が主要な論点。
-
課題と検討ポイント:
-
準拠法: 合弁会社の設立・運営がインドネシア国内で行われるため、インドネシア法を準拠法とすることで合意。A社はインドネシア法に精通した弁護士を起用し、特に投資法における外資規制、会社法に基づく株主の権利義務、労働法に基づく従業員管理、そして利益分配に関する条項を詳細に交渉しました。
-
紛争解決: インドネシア国内での事業に関わるため、まずはインドネシア国立仲裁委員会(BANI)での仲裁を選択。BANIはインドネシア国内の仲裁機関であり、製造業に関する専門知識を持つ仲裁人も期待できるため、適切な選択でした。
-
言語: 法的拘束力とインドネシア国内での公証・執行を重視し、インドネシア語と英語の双方を正文とし、インドネシア語版が優先する旨を規定。特に会社設立、資金調達、ガバナンス、利益分配、知的財産権の帰属、契約解除条件に関する規定は、インドネシア法の概念と厳密なインドネシア語契約書 翻訳が求められました。
-
-
成功要因: インドネシア法の適用を受け入れつつ、公証義務や現地での執行を考慮し、インドネシア語正文・英語併記の形式を採用した点。また、重要なリスクポイント(外資規制、労働法順守、利益分配)については、インドネシア法の下で最大限自社の利益を保護できるよう専門家のアドバイスを受けながら交渉した点。インドネシア国内の仲裁機関を活用することで、紛争解決の効率性と執行可能性を高めました。
ケーススタディ2:インドネシア企業へのITシステムライセンス契約
-
状況: 日本のIT企業C社が、インドネシアの金融機関D社に対し、特定の業務システムをライセンス供与するシステムライセンス契約を締結するケース。著作権、機密保持、サービスレベル合意(SLA)、料金、責任制限、そしてインドネシアの個人情報保護法や金融サービス規制が主要な論点。
-
課題と検討ポイント:
-
準拠法: 国際的なIT契約の慣行と、インドネシアの金融サービス規制やデータ保護規制を考慮し、シンガポール法を準拠法とすることで合意。しかし、インドネシアの個人情報保護法(PDP Law)や金融庁(OJK)の規制は強行法規として適用される可能性があるため、これらへの遵守を契約条項に明記しました。C社はインドネシアのIT関連法規と金融規制に詳しい弁護士を起用し、特にデータ処理、SLA、責任制限に関する条項を詳細に交渉しました。
-
紛争解決: サービスの性質上、迅速な解決が求められる可能性があるため、中立性が高く、国際仲裁の実績が豊富なシンガポール国際仲裁センター(SIAC)での仲裁を選択。
-
言語: 国際的なITサービス取引の慣行に合わせ、英語を正文とし、D社のために高品質なインドネシア語契約書訳を参考として提供。特に、著作権の帰属、秘密保持、データ処理の同意、SLA、責任制限、そしてインドネシアの個人情報保護法および金融規制への遵守に関する規定は、厳密なインドネシア語契約書 翻訳が求められました。
-
-
成功要因: 中立的な第三国法(シンガポール法)を準拠法としてリスクを分散しつつ、インドネシアの強行法規であるPDP Lawや金融規制への遵守義務を明確に契約書に盛り込むことで、法的なリスクを最小限に抑えつつビジネスを進めた点。また、中立的な国際仲裁機関を選択することで、紛争解決の公平性と執行可能性を確保しました。
6. よくある質問(FAQ):インドネシア語契約書 翻訳に関する疑問を解消
日本企業のお客様からよくいただく、インドネシア語契約書に関するご質問とその回答をまとめました。
Q1: 「英語契約書があれば十分」という考えは、インドネシアとのビジネスにおいてなぜ危険なのですか?
A1: インドネシアでは、公証役場で認証を受ける契約書はインドネシア語で作成されることが義務付けられています(2009年法律第24号)。また、投資法、会社法、労働法、個人情報保護法など、当事者の合意よりも優先される強行法規が多数存在します。これらの強行法規に反する条項は無効となる可能性があります。
Q2: インドネシア語契約書を正文とするメリット・デメリットは何ですか?
A2:
-
メリット: インドネシア国内での法的実行力が最も高まります。公証役場での認証や、現地の裁判所・行政機関が関与する際に、言語の障壁がなくスムーズです。相手方への敬意を示し、信頼関係を深めることにも繋がります。
-
デメリット: 日本企業はインドネシア法の知識に加え、インドネシア語の法的表現を正確に理解する必要があります。このため、専門性の高いインドネシア語契約書 翻訳とリーガルチェックが不可欠となり、費用や時間がかかる場合があります。
Q3: 契約書のインドネシア語翻訳は、どのような点に注意が必要ですか?
A3: 最も重要なのは、法的概念の正確な対応です。インドネシア民法典などに由来する法律用語は、単なる直訳では法的意味合いを正確に伝えられません。インドネシア法の概念と日本の法概念、そして英語の概念を理解し、インドネシアの法律や商慣習に合致した適切な用語選択と表現が必要です。また、多民族国家としての文化的なニュアンスや、口語と文語の違いにも注意が必要です。
Q4: インドネシア語契約書の翻訳を依頼する際のポイントは何ですか?
A4:
-
1. 法律翻訳の専門性: 法律分野、特にインドネシア法に特化した翻訳会社や、弁護士資格を持つ翻訳者など、法律文書の翻訳経験が豊富なプロを選びましょう。 -
2. ネイティブチェック: インドネシア語のネイティブスピーカーによるチェックはもちろん、インドネシアの法務分野に詳しいネイティブによるチェックが行われるか確認しましょう。 -
3. 情報セキュリティ体制: 契約書は機密情報を含むため、情報セキュリティ管理が徹底されている翻訳会社を選びましょう。 -
4. リーガルチェックの連携: 翻訳だけでなく、必要に応じてインドネシア現地の弁護士によるリーガルチェックまで含めて依頼できるか、連携体制を確認しましょう。
Q5: インドネシアの強行法規とは具体的にどのようなものがありますか?
A5: 具体例としては、2009年法律第24号「国旗・国語・国章及び国歌に関する法律」(公証におけるインドネシア語の義務化)、投資法(外資規制、ネガティブリスト)、会社法(取締役・監査役の要件、株主総会など)、労働法(解雇規制、労働組合、社会保険など)、個人情報保護法(PDP Law)(個人情報の取り扱い)、競争法(独占禁止)などが挙げられます。これらの分野の契約では、当事者の合意内容がインドネシアの強行法規に反する場合、その条項が無効となるリスクがあります。
7. 日本とインドネシアの主要ビジネス分野と契約書の種類
日本とインドネシアは、製造業、自動車産業、鉱業、デジタル経済、インフラなど、多岐にわたる分野でビジネス交流を行っています。これらの取引を円滑に進める上で、専門的なインドネシア語契約書翻訳が不可欠となる主要な分野と、そこで頻繁に交わされる契約書の種類について解説します。
7.1. 日本とインドネシアで現在ビジネスが盛んな分野・業界・ジャンル
現在、日本とインドネシアで特に活発なビジネスが見られるのは以下の分野です。
-
1. 製造業: 日本の大手自動車メーカー、電子機器メーカーなどが多数進出し、生産拠点、販売拠点を構築しています。 -
2. デジタル経済・スタートアップ: インドネシアの若年層人口とデジタル化の進展を背景に、Eコマース、フィンテック、ライドシェアなどの分野で活発な投資と提携が見られます。
-
3. インフラ・建設: 高速鉄道、港湾、発電所、スマートシティ開発など、インドネシアのインフラ整備計画に日本の技術や資金が投入されています。 -
4. エネルギー・鉱業: 石炭、天然ガス、ニッケルなどの資源開発や、再生可能エネルギー分野での協力が進んでいます。 -
5. 小売・流通: 拡大する消費市場に対応するため、日本の小売チェーンや食品メーカーが進出しています。 -
6. 金融: 日本の銀行や証券会社がインドネシアでの事業を拡大しています。
-
7. 農業・食品: 高品質な農産物・水産物の供給、食品加工技術の移転など。
7.2. 翻訳が必要となる可能性が高い主要な契約書の種類
上記の活発なビジネス分野を踏まえると、以下のような契約書がインドネシア語への翻訳、またはインドネシア語からの翻訳を頻繁に必要とします。これらの契約書は、インドネシアの法規制や商習慣を考慮した専門的な翻訳が求められます。
-
1. 合弁事業契約書 (Perjanjian Usaha Patungan): 新たな事業体を共同で設立・運営する場合に必要です。投資法における外資規制が重要です。
-
2. 会社設立定款(Anggaran Dasar Perusahaan): 合弁会社の設立時に必須となる書類で、公証が必要です。 -
3. 株主間契約書 (Perjanjian Pemegang Saham): 合弁会社のガバナンス、利益分配、紛争解決などを規定します。 -
4. 製造委託契約書 (Perjanjian Manufaktur / Perjanjian Pengerjaan): 製品の製造をインドネシア企業に委託する際に必要です。 -
5. 供給契約書 (Perjanjian Pasokan): 原材料、部品、サービスなどの継続的な供給を規定します。 -
6. 売買契約書 (Perjanjian Jual Beli): 製品・商品の輸出入、原材料などの取引で必要となります。 -
7. 秘密保持契約書 (Perjanjian Kerahasiaan / NDA): 交渉や共同開発、M&Aの初期段階で情報共有を行う際に不可欠です。 -
8. 雇用契約書 (Perjanjian Kerja): インドネシアで従業員を雇用する際に必須です。インドネシア労働法に基づく厳格な規定(解雇保護、労働時間、社会保険など)が多数あります。 -
9. サービス提供契約書 (Perjanjian Penyediaan Layanan): ITサービス、コンサルティング、物流サービスなどで必要です。 -
10. ライセンス契約書 (Perjanjian Lisensi): 知的財産(特許、商標、著作権、ソフトウェアなど)の使用許諾を定めます。 -
11. 不動産賃貸借契約書 (Perjanjian Sewa Menyewa Properti / Tanah): 工場用地、オフィス、店舗などの賃貸借に必要です。外国人の土地所有は制限されているため、賃貸借が一般的です。
まとめ
日本企業がインドネシア企業と契約を交わす際には、「英語契約書があれば問題ない」という安易な判断は避け、 インドネシア語契約書の重要性を正しく認識することが成功への第一歩です。インドネシア独自の法体系、準拠法、紛争解決手段、そしてインドネシア語契約書の言語戦略といった契約の骨格を成す要素を、取引の具体的な内容、当事者の関係性、そしてインドネシアの最新の法規制や商習慣を踏まえて慎重に検討し、決定することが成功の鍵となります。
特に、文化や法制度が異なる国際間取引においては、インドネシア語契約書のわずかな文言の解釈の違いが、将来的に大きな法的・財務的リスクへと発展する可能性があります。そのため、国際契約に精通した弁護士のアドバイスを受けるとともに、法的・ビジネス的なニュアンスを完全に理解したインドネシア語の専門翻訳者のサポートが不可欠です。
長年にわたる国際契約書翻訳の経験と、日本、インドネシア、英語圏の法務・ビジネスに関する深い知見を活かし、貴社のインドネシアビジネスを法的な側面から強力にサポートいたします。あらゆる種類のインドネシア語契約書について、貴社のニーズに応じた最適な翻訳サービスを提供し、グローバルな取引を安全かつ円滑に進めるお手伝いをさせていただきます。
インドネシア語契約書に関して、ご不明な点や具体的なご相談がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。
WIPジャパンは、東京弁護士共同組合、神奈川県弁護士共同組合をはじめとする全国23の弁護士共同組合の特約店に認定されています。
ご相談は無料です。いつでもお気軽にご連絡ください。
【無料】PDFダウンロード
契約書の基本用語英訳50選
一言に契約書といっても、業務委託契約書(Services Agreement)、独立請負人契約書(Independent Contractor Agreement)、秘密保持契約書(Non-Disclosure Agreement)、業務提携契約書(Business Partnership Agreement)など、様々なものがあり、契約の種類も多様化しています。
契約内容を正しく理解し、法的リスクを回避するには、適切な英訳が不可欠です。本記事では、契約書における基本用語の英訳50選をご紹介します。 >>PDFダウンロード(無料)
「翻訳発注」に失敗しない10のポイント
翻訳の発注に失敗しないためには、どうすればいいのか。
翻訳外注コストを抑えるには、どうすればいいのか。
これらの課題の解決策をお教えします。
翻訳発注に失敗しないためには、知らないではすまされない重要なポイント!
優れた翻訳会社ほど多忙で引く手あまたです。価格が相場に比べて格段に低い翻訳会社は、良心的なのか、それとも単に制作プロセスを簡単に済ませているだけなのかをよく見極めましょう。また、同じ翻訳会社でも、制作プロセス次第で翻訳料金は大きく上下します。希望するレベルを詳細に伝えることで、翻訳会社は最適なプロセスをデザインすることができます。 >>PDFダウンロード(無料)
契約書翻訳に役立つリンク集
・法務省大臣官房司法法制部「法令翻訳の手引き」(PDF)
・日本法令外国語訳推進会議「法令用語日英標準対訳辞書」(PDF)
・Publiclegal(英文契約書のテンプレートや書式を無料で提供)
・日本法令外国語訳データベースシステム(法務省が開設した日本の法令の英訳サイト)
・weblio 英和辞典・和英辞典
・英辞郎 on the web
契約書翻訳に関連する記事
・【2024年版】ビジネスで欠かせない「契約書翻訳」におすすめの8つのポイント
・契約書翻訳を依頼する際に知っておいていただきたいこと
・契約書の翻訳を外注するとき、特に注意すべき3点
・翻訳会社のプロの法律系翻訳者が選ぶ!契約書の英訳におすすめの書籍12選
・法律文書:AI翻訳時代における人力翻訳の価値とは?