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2019.Oct.25

日英翻訳のための「世界共通語としての英語」

 

World Englishes ―世界共通言語としての英語―

World Englishes」という言葉を聞いたことがありますか?

 

現在、世界にはおおよそ19億人の英語話者がいるとされています。しかしながら、そのうち70%以上はノンネイティブスピーカーです(Statista, 2017)。ひとくちに英語といっても、それぞれの話者の母語や文化的背景の影響を受けた様々な英語が存在します。今回は、このような世界共通言語としての英語(World Englishes)について考えてみたいと思います。

World Englishesの3つの圏

言語学者であるBraj B. Kachruは、英語話者を3つの圏に分類しました(Kilickaya, 2009; 鳥飼, 2012)。

Inner Circle ―Inner Circleには、イギリスやアメリカのように母語として英語を使用する国々があたります。2017年現在おおよそ3.8億人がInner Circleに含まれますが、英語話者に占める割合は30%未満であるとされています。

Outer Circle ―ここにはインドやアフリカ、ナイジェリアのような主にかつてイギリスの植民地であった国々が該当します。これらの国は、その歴史的経緯により英語を母語または第2外国語として使用しています。

Expanding Circle ―Expanding Circleにあたる国々は、英語を国際語とし、ビジネスや教育等の必要性から英語を学んでいます。日本もここに該当します。英語話者に占める割合がもっとも大きい点が特徴です。

World Englishesとは?

「World Englishes」という言葉は、Braj B. Kachruという言語学者が1985年に使ったのがはじまりです。当時は、Outer Circleに属す人々であっても、ネイティブを基準にし、ネイティブのように英語を使うべきであるという考えがありました(Kilickaya, 2009)。

これに異を唱えたのがKachruで、そもそもネイティブスピーカーは英語話者の中において少数派であり、そのようなネイティブの基準は、Outer Circleの社会言語学にそぐわないとしました。そして、文化を超えた多言語の状況の中で、言語の創造性を理解するための新たな視点が必要であるとしました。

また、KachruはWorld Englishesに関して、「伝達手段としての英語」と「文化の多様性の担い手としての英語」の二つの側面があると述べています。つまり、英語は多様な文化の文脈に合わせて用いることが可能な伝達手段であると言えます。それぞれの母語や文化の影響を受けた多様なかたちの英語が話されますが、それを無理にネイティブの基準に合わせるのではなく、互いに理解しあう努力が必要であると述べているのです(大坪, 1999)。

Outer Circleの英語の例 -インド英語の場合-

では、「文化の多様性の担い手としての英語」とはどのようなものを指すのでしょうか。Outer Circleの国において、Inner Circle における英語の意味を離れ、その地域固有の文化的・社会的な意味を持った例を見てみましょう。今回は、インド英語における付加疑問文を例に取り上げてみたいと思います。 

 

通常、アメリカ英語やイギリス英語であれば、付加疑問文は主文に合わせ、以下のようになります。

a) You have taken my book, haven’t you?
b) You are soon going home, aren’t you?

しかし、インド英語における付加疑問文では以下のようになります。

a) You have taken my book, isn’t it?
b) You are soon going home, isn’t it?

文法的には間違っているように思われるかもしれませんが、インド英語においては上記の例のように時制や人称によって区別しない付加疑問文「isn’t it?」が重要な役割を担い、社会的な意味を有しています。インド英語の付加疑問文における「isn’t it?」は相手に対する敬意を表し、押しつけがましくない、柔らかい表現として使われています (Batt, 2005)

 

Kachruは、このようなOuter Circleの英語が本来の規範から「逸脱」しているとみなすことに対し批判的な意見を述べ、これらOuter Circleの現地におけるEnglishesや、社会的・文化的な文脈を考えるべきであるとしています。また、上述の例のような場合でも、現地では完全に受け入れられ、社会的な意義を持つことから、「誤り」であるとすることは避けるべきであると述べています(Batt, 2005; Kilickaya, 2009)

誰にでも伝わる英語とは?

このように、様々なバックグラウンドを持つ人々が使用し、多様なかたちが存在する英語ですが、世界の共通言語としての英語の重要性は高まり続けています。互いに理解しあう努力と同時に、様々な人が理解しやすい英語を使うことが大切であるといえそうです。世界のより多くの人々に伝わる英語とはどんなものでしょうか。

John R. Kohlは、「Global English Guidelines」 においてもっとも重要な10のポイントを述べています。

1. 短い文章を使う
2. 完全文を使う
3. 長い名詞句は明快に使用する
4. 名詞に続く過去分詞(-ed)は使用に注意
5. 名詞に続く現在分詞(-ing)の意味を明快にする
6. 接続詞「that」をできる限り省略しない
7. シンプルで明確な言葉を選ぶ
8. 用語を定義し標準化する
9. スラングやイディオム、口語的・比喩的な言葉は使わない
10. 「and 」や「or」で接続される部分を明確にする

今回は、The Top Ten Global English Guidelinesより引用し、いくつかを具体例とともに取りあげてみたいと思います。

3. 長い名詞句は明快に使用する

× The default column pointer location is column 1.
例文のように、長い名詞句の意味を見極めるのは難しい場合があります。
「The default column pointer location」が、「デフォルトコラムポインターの位置」なのか、「デフォルトコラムのポインターの位置」なのか、「コラムポインターのデフォルトの位置」であるのかが明確ではありません。
× The location of the default column pointer is column 1.
× The pointer location of the default column is column 1.
○ The default location of the column pointer is column 1.

7. シンプルで明確な言葉を選ぶ

× Encryption requires roughly the same amount of CPU resources as compression.
○ Encryption requires approximately the same amount of CPU resources as compression.
「roughly」は、「The guard treated the prisoner roughly.」のように、「乱暴に」という意味も持っているため、誤解を生む可能性があります。反対に、「approximately」は「おおよそ」という意味に限られます。

9. スラングやイディオム、口語的・比喩的な言葉は使わない

× Clarke's definition is on target, but it might not capture the full flavor of the important distinctions in approaches to usability engineering.
○ Clarke's definition is accurate, but it does not account for [or fully explain] important distinctions in approaches to usability engineering.
「on target」や「capture the full flavor of」のようなイディオム表現はノンネイティブにとってわかりにくいかもしれません。

10. 「and 」や「or」により接続される部分を明確にする

× SAS/DQ enables you to standardize your data by building schemes from your data and applying those schemes to your data.
○ SAS/DQ enables you to standardize your data by building schemes from your data and by applying those schemes to your data.
「by」が抜けてしまっているためにapplying以下がどこを修飾するのか不明瞭になっています。

まとめ

「英語」というと、ネイティブのように話したり、書いたりすることができなければならないと考えてしまうかもしれません。もちろんそれも大切ではありますが、最も重要なことは、英語はコミュニケーションのツールであるということです。

 

英語というツールを用いることで、人種や文化の異なる世界の様々な人に「想い」を「伝える」ことができます。相手が何を伝えようとしているのかを理解しようとする力、そして相手にわかりやすく自分の考えを伝える力が大切であると言えそうです。

 

日英翻訳する場合も、読者が誰なのか、どのような用途なのか、によってノンネイティブスピーカーでも理解できるような英語にする必要があります。

 

グローバル化が加速する現代ですが、言語のみにとどまらず、異なる他者を互いに理解しようとする姿勢が今後より一層大切になっていきます。

参考文献

Bhatt, R. M. (2005). Expert discourses, local practices, and hybridity: The case of Indian Englishes. In A. S. Canagarajah (Ed.), Reclaiming the local in language policy and practice(pp. 25-54). Lawrence Erlbaum.

 

Kilickaya, Ferit (2009). World Englishes, English as an International Language and Applied Linguistics. English Language Teaching. 2. 10.5539/elt.v2n3p35.

 

Kohl, John. R.(2005). The Top Ten Global English Guidelines, Cary NC: SAS Institute Inc.

 

International Association for World Englishes Inc. [ http://www.iaweworks.org/ ] <Accessed on 26 December 2017 >

 

鳥飼玖美子(2012)「国際共通語としての英語」とは?多文化社会における英語使用のビジョン」一般財団法人日本,78協会主催講演会記録.


大坪喜子(
1999) World Englishes : その概念と日本の英語教育へ意味するもの, 長崎大学教育学部紀要. 教科教育学. vol.33, p.69-77; 1999

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