グローバルビジネスの舞台では、企業は単に各国法を遵守するだけでなく、その国特有の労使関係(Labor-Management Relations)の特性を理解し、適切に対応することが求められます。特に、労働組合が強い影響力を持つ国では、労働協約(Collective Bargaining Agreement, CBA)が企業運営に与える影響は非常に大きく、その理解と正確な翻訳は、安定した労使関係を築き、ビジネスを円滑に進める上で不可欠です。
労働協約は、労働組合と使用者(企業)との間で締結される書面による合意であり、賃金、労働時間、福利厚生、人事制度、安全衛生、紛争解決手続きなど、多岐にわたる労働条件や労使関係のルールを定めます。
その翻訳のミスや内容の理解不足は、労使間の不不信、ストライキなどの労働争議、高額な賠償責任、そして事業運営の停滞へと発展する重大なリスクをはらんでいます。
各国の労働組合の組織率、団体交渉の慣行、労働争議の解決方法、そして労働者の権利保護に対する文化的な背景は大きく異なります。単に日本語の労働協約を直訳するだけでは、現地の法規制や慣行に適合しないばかりか、労使間の深刻な対立を生む可能性もあります。
本記事では、これまでの経験に基づき、労働協約翻訳における重要なポイントと、貴社の各部門がどのように翻訳された労働協約を活用し、関与していくべきかを具体的なケーススタディを交えて解説します。
貴社のグローバル人事戦略において、労働協約の適切な理解と運用を通じて、労使関係の安定と多様な人材の円滑な管理を図るために、ぜひ本記事をお役立てください。
労働協約とは何か?その目的と国際雇用における重要性
労働協約(Collective Bargaining Agreement, CBA)は、労働組合と使用者または使用者団体との間で締結される、書面による労働条件や労使関係に関する合意です。就業規則が使用者の一方的な決定であるのに対し、労働協約は労使双方の交渉と合意によって成立する点が大きな特徴です。日本では、労働組合法に基づき、その法的効力や規範的効力が定められています。
労働協約は、以下の多岐にわたる詳細な条項を含みます。
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労働条件に関する事項:
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賃金: 基本給、各種手当、昇給、賞与、退職金、賃金改定方法など。
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労働時間: 所定労働時間、休憩時間、休日、休暇(年次有給休暇、特別休暇、生理休暇など)、時間外労働・休日労働の制限、フレックスタイム制など。
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安全衛生: 労働安全衛生に関する企業の義務、安全委員会設置、健康診断、労働災害時の補償など。
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人事制度: 配置転換、異動、昇進・降格、人事評価、休職などに関する組合との協議事項。
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解雇・懲戒: 解雇事由、解雇手続き、解雇予告期間、懲戒の種類と事由、懲戒手続き、組合員に対する特則など。
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労使関係に関する事項:
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団体交渉: 交渉事項、交渉の進め方、協議機関の設置など。
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組合活動: 組合事務所の貸与、掲示板の使用、組合員の便宜供与、組合費のチェックオフ(賃金からの控除)など。
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争議行為: ストライキ、サボタージュなどの争議行為に関するルール、平和義務(一定期間の争議行為の禁止)など。
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苦情処理・紛争解決: 苦情処理手続き、労使紛争が発生した場合の解決プロセス(労使協議、調停、仲裁など)。
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協約の有効期間と改定: 協約の有効期間、改定手続き、失効後の取り扱いなど。
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国際的な雇用において労働協約が特に重要なのは、以下の理由からです。
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労働組合の強い影響力: ドイツ、フランス、北欧諸国、韓国など、一部の国では労働組合の組織率が高く、労働協約が事実上の労働基準として広く適用されています。これらの国々では、労働協約の内容が企業の経営戦略や日々の運営に直接的かつ大きな影響を与えます。
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労使関係の安定化: 労働協約は、労使間の合意事項を明確にすることで、将来の紛争を予防し、安定した労使関係を構築する基盤となります。これにより、ストライキなどの生産性阻害要因を最小限に抑え、企業の予見可能性を高めます。
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法的拘束力: 労働協約には法的拘束力があり、その内容に違反した場合、労働争議、損害賠償請求、企業の社会的信用の失墜といった重大な結果を招く可能性があります。
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事業買収・合併時のデューデリジェンス: 国際的なM&Aや事業再編の際、対象企業の労働協約は、買収の可否や買収後の統合戦略を判断する上で非常に重要な要素となります。潜在的な労務リスクやコストを評価するためには、労働協約の正確な翻訳が不可欠です。
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グローバルポリシーとの整合性: グローバル企業が各国で事業を展開する際、本社の人事ポリシーと現地の労働協約との整合性を図る必要があります。矛盾が生じると、混乱や不公平感を生み、ガバナンス上の問題につながります。
英文労働協約(Collective Bargaining Agreement)の特徴と和文労働協約との違い
国際的な企業において、英文で作成される労働協約は「Collective Bargaining Agreement (CBA)」と呼ばれ、日本の和文労働協約とは異なる特徴を持つことがあります。
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Detailed Grievance and Arbitration Procedures(詳細な苦情処理および仲裁手続き):
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米国やカナダなどの労働協約では、労働組合員からの苦情(Grievance)が発生した場合の段階的な処理プロセス(組合代表、管理職、経営層との協議、最終的には中立的な第三者による仲裁(Arbitration))が非常に詳細に定められます。このプロセスは、日本の労働協約よりも手続きが複雑で厳密な場合があります。
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Management Rights Clause(経営権条項):
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多くのCBAには、使用者が経営権を保持していることを明確にする条項が含まれます。これにより、経営上の意思決定(生産計画、技術導入、組織変更など)は原則として使用者の権限であることを明確にしつつ、労働組合との協議事項を限定します。
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Union Security Clauses(組合の安全保障条項):
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組合費のチェックオフ(Check-off:使用者が賃金から組合費を控除し、組合に払い込む)、ユニオンショップ制(Union Shop:採用後に一定期間内に組合員となることを義務付ける)など、労働組合の組織力や財政基盤を維持するための条項が盛り込まれることがあります。ただし、これらの条項は国や地域によって法的な許容範囲が異なります。
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No Strike/No Lockout Clauses(争議行為禁止条項):
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労働協約の有効期間中におけるストライキ(Strike)やロックアウト(Lockout:使用者による操業停止)などの争議行為を禁止する「平和義務」の条項が明記されることが多く、これにより労使関係の安定が図られます。
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Seniority Provisions(勤続年数に関する規定):
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昇進、配置転換、解雇(レイオフ)などにおいて、勤続年数(Seniority)が考慮される旨の条項が詳細に定められることがあります。これにより、人事上の決定が客観的な基準に基づいて行われることを担保します。
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Drug and Alcohol Testing Policies(薬物・アルコール検査ポリシー):
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特に安全が重視される産業(製造業、運輸業など)のCBAでは、従業員に対する薬物やアルコールの検査に関するポリシーが詳細に規定されることがあります。
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Training and Development Clauses(研修・能力開発条項):
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従業員の能力開発やスキルアップのための研修制度に関する労使間の合意が盛り込まれることがあります。これは、労働生産性の向上やキャリアパス支援を目的とします。
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Duration and Reopener Clauses(有効期間と再交渉条項):
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労働協約の有効期間が明確に定められ、期間満了後の再交渉(Reopener)に関する手続きや、特定の条件(例:経済情勢の急激な変化)において期間中に再交渉が可能となる「Reopener Clause」が盛り込まれることがあります。
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日本の和文労働協約に比べ、英文労働協約は、詳細な苦情処理・仲裁手続き、経営権の明確化、組合の安全保障、争議行為の禁止、勤続年数に基づく人事ルール、そして特定の分野(薬物検査、研修など)における詳細な合意に関して、より厳密かつ具体的な記述が求められる傾向が強いです。翻訳においては、これらの法的・労使関係的・文化的ニュアンスを正確に反映した表現を用いることが不可欠です。
労働協約翻訳における重要ポイント
労働協約の翻訳は、貴社の国際的な労使関係の安定、法規制への準拠、リスク管理に直接影響するため、極めて高い精度と専門性、そして人事、法務、事業部門、そして必要に応じて労務専門家など多岐にわたる視点が求められます。以下のポイントを押さえることが、成功への鍵となります。
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各国の労働法規・労使慣行への厳格な準拠とローカライズ
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翻訳対象となる国の労働組合法、労働関係調整法、労働基準法、社会保障法などを正確に理解し、労働協約に反映することが不可欠です。単に直訳するだけでなく、現地の法規制、労働組合の慣行、労働市場の状況に合わせて条項の内容を調整(ローカライズ)する必要があります。例えば、賃金改定の交渉プロセス、解雇規制、懲戒手続き、団体交渉の範囲などは国によって大きく異なるため、現地の制度や慣行を正確に盛り込む必要がありますし、当社はこれを強く認識しています。
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労働組合・従業員代表との関係性の明確化
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団体交渉のプロセス、苦情処理手続き、組合活動に関する企業の許容範囲、そして争議行為(ストライキなど)が発生した場合の対応ルールなど、労使間の関係性を規定する条項を明確に翻訳することが不可欠です。この部分は、労使間の信頼関係の構築と、将来の紛争予防に直接影響します。
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賃金規定の正確な翻訳と各国の税務・社会保障制度への対応
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基本給、各種手当、昇給、賞与、退職金、賃金改定方法などを正確に翻訳することが不可欠です。各国の最低賃金、賃金テーブル、残業代の割増率、社会保険料(企業負担分と従業員負担分)、所得税の源泉徴収義務、および税法上の取り扱いを考慮した表現が求められます。特に、賃金体系は労働協約の中心的な要素であり、その正確な理解は人件費管理と従業員のモチベーションに直接影響します。
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労働時間・休憩・休日・休暇規定の厳密な翻訳
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所定労働時間、法定労働時間、残業時間の計算方法、休憩時間、法定休日、年次有給休暇の付与日数と消化ルール、その他の法定・法定外休暇(病気休暇、慶弔休暇、育児介護休業など)の取得条件と期間を厳密に翻訳することが不可欠です。これらは従業員の権利に関わる重要事項であり、各国で制度が大きく異なるため、細心の注意が必要です。
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解雇・懲戒規定の明確な翻訳
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解雇事由、解雇手続き、解雇予告期間、懲戒の種類と事由、懲戒手続きなどを明確に翻訳することが不可欠です。各国の解雇規制は非常に厳しく、労働協約でさらに詳細な手続きが定められていることが多いため、現地の労働法と協約の双方に違反しないような表現にすることが極めて重要ですし、当社はこれを強く認識しています。この部分の不備は、不当解雇として訴訟に発展する大きなリスクとなります。
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争議行為に関する条項の厳密な翻訳
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ストライキやロックアウトなどの争議行為に関するルール、平和義務(有効期間中の争議行為の禁止)など、労使紛争発生時の対応を規定する条項を厳密に翻訳することが不可欠です。この部分の理解は、事業継続計画(BCP)にも関わる重要な側面です。
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強固な情報セキュリティ体制
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労働協約には、企業の労使関係に関する戦略、賃金体系、人事制度など、機密性の高い情報が含まれる場合があります。翻訳を依頼する際には、翻訳会社が厳格な情報セキュリティポリシーを定め、技術的・物理的・人的な対策を徹底しているかを必ず確認すべきですし、当社はこれを徹底しています。
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AI翻訳の適切な活用と専門家による最終確認
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AI翻訳技術は、初稿の作成や用語の統一に役立ちますが、労働協約のような法的・労使関係的に極めて複雑な文書においては、各国の労働組合法、労働慣行、判例、文化的な背景を完全に理解することは困難です。AIを効率化ツールとして最大限活用しつつも、労働法務知識、労使関係に関する専門知識、および国際取引の実務経験を持つ専門の翻訳者による徹底したレビューと校正が不可欠です。人間による精査が、潜在的なリスクを最小限に抑え、安定した国際労使関係の基盤となります。
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労働協約の翻訳は誰に必要なのか?ケーススタディで見る関係部門の役割
労働協約は、企業の国際的な労使関係を左右する文書であり、多岐にわたる部門や関係者がその内容を理解し、翻訳された情報に基づいて連携することが不可欠です。
ケーススタディ1:日本の自動車メーカーがドイツの既存工場を買収し、現地労働協約を理解する
状況: 日本の自動車メーカーA社が、ドイツの既存自動車部品工場を買収するケース。買収先の工場には強力な労働組合があり、複数の労働協約が適用されている。これらのドイツ語の労働協約を日本語に翻訳し、本社の人事・法務部門が内容を理解する必要がある。
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人事部(HR):
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必要性: ドイツの団体交渉制度、労働組合の組織構造、賃金テーブル(Tarifvertrag)、労働時間(Flexi-Arbeitszeitなど)、解雇保護(Kündigungsschutzgesetz)、企業の共同決定(Mitbestimmung)義務などを詳細に確認します。買収後の人事制度統合や労務管理に直結します。
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ケース: 翻訳された労働協約に記載された「年次賃金交渉のプロセスと時期」、「労働時間口座(Arbeitszeitkonto)の運用ルール」、「整理解雇における組合との協議義務と社会計画(Sozialplan)の作成」、「企業委員会(Betriebsrat)との協議事項」を和訳で確認し、現地の法規制、労使慣行、そして買収後の労務リスクを評価します。
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法務部:
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必要性: 労働協約全体の法的拘束力、解雇・懲戒条項の厳格性、争議行為に関するルール、平和義務、紛争解決手続き、そしてM&Aにおける労働協約の継承(Betriebsübergang)に関するドイツ法の適用を詳細に確認します。
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ケース: 翻訳された労働協約に記載された「ストライキ禁止の期間と条件」、「組合員の懲戒に関する特則」、「労働紛争が発生した場合の調停・仲裁手続き」、「労働協約の有効期間と改定手続き」を和訳で確認し、法的リスクとコンプライアンスを評価します。
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経理部/財務部:
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必要性: 労働協約に基づく賃金、賞与、退職金、各種手当、福利厚生費用、社会保障負担など、人件費と関連費用を正確に把握し、買収後の財務計画に組み込むために確認します。
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ケース: 翻訳された労働協約に記載された「基本給の段階的な引き上げスケジュール」、「賞与の算定基準と支払い時期」、「退職金の計算方法と積立状況」を和訳で確認し、費用管理と財務上の影響を評価します。
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事業部/工場管理職:
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必要性: 日常の労務管理、生産計画、シフト管理、規律順守指導など、工場運営に直接影響する労働協約のルールを理解します。
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ケース: 翻訳された労働協約に記載された「生産量に応じた時間外労働の柔軟な運用ルール」、「安全衛生委員会の設置と役割」、「従業員からの苦情処理の具体的な手順」を和訳で確認し、円滑な工場運営と生産性維持を評価します。
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ケーススタディ2:米国企業が日本法人に労働組合が設立され、労働協約を締結する
状況: 米国のIT企業B社が、日本に設立した子会社C社で、従業員が労働組合を結成し、C社との間で労働協約を締結するケース。日本語で作成された労働協約を、米国本社の人事・法務部門向けに英語に翻訳する必要がある。
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人事部(HR):
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必要性: 日本の労働組合法に基づく団体交渉義務、不当労働行為の禁止、チェックオフ制度、労働協約の法的効力、就業規則との関係などを把握します。米国本社の人事ポリシーとの整合性も考慮します。
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ケース: 翻訳された労働協約に記載された「組合員の組合活動に対する企業施設利用の範囲」、「団体交渉の対象事項と交渉頻度」、「ハラスメント発生時の労使合同調査」を英訳で確認し、日本の労使関係法規と米国本社のポリシーを比較評価します。
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法務部:
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必要性: 労働協約全体の法的妥当性、解雇・懲戒条項、争議行為に関するルール、労働協約の有効期間と失効後の取り扱いが日本の法規に準拠しているか、また米国本社における法的リスクと矛盾しないかを確認します。
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ケース: 翻訳された労働協約に記載された「懲戒解雇の前に労働組合との事前協議が義務付けられる旨」、「ストライキ実施時の事前通知義務と平和義務の範囲」、「労働協約の自動更新条項の有無」を英訳で確認し、法的リスクとコンプライアンスを評価します。
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経理部/財務部:
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必要性: 労働協約に基づく賃金、賞与、手当、退職金などの人件費、そして組合費のチェックオフ、福利厚生費など関連費用を正確に把握し、米国本社への費用報告を適切に行うために確認します。
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ケース: 翻訳された労働協約に記載された「基本給の改定率と適用開始日」、「組合費の控除と組合への送金方法」、「従業員健康診断費用に関する労使合意」を英訳で確認し、費用管理と税務コンプライアンスを評価します。
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各事業部管理職:
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必要性: 労働組合との協議事項、団体交渉で合意された労働条件、組合員の権利と義務など、日常の業務運営に直接影響する労働協約のルールを理解します。
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ケース: 翻訳された労働協約に記載された「部署内の配置転換を行う際の組合への事前通知義務」、「時間外労働を命じる際の組合との協議事項」、「苦情申し立てに対する管理職の初期対応手順」を英訳で確認し、円滑な事業運営と労使関係維持を評価します。
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よくある質問(FAQ)
労働協約の翻訳に関して、お客様からよくいただくご質問とその回答をまとめました。
Q1: 労働協約を翻訳する際に、最も注意すべき法的リスクは何ですか?
A1: 最も注意すべき法的リスクは、現地の労働組合法と労働慣行との不適合、および協約内容の解釈の誤りです。労働協約は、その国固有の労使関係の歴史と法体系に基づいており、単なる直訳では、以下のような重大なリスクを生じさせます。
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不当労働行為: 労働協約の規定に反する行為や、労働組合法で禁止されている行為(団結権の侵害、団体交渉拒否など)を行った場合。
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労働争議の激化: 協約内容の解釈を巡る労使間の認識のずれや、紛争解決手続きの不備が、ストライキやサボタージュなどの争議行為に発展する。
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高額な賠償責任: 労働協約違反による損害賠償請求や、不当解雇・懲戒による訴訟。 -
企業の信頼失墜: 労使関係の悪化や労働争議の発生は、企業の評判やブランドイメージに深刻な影響を与える。 -
経営の予見可能性の低下: 労働協約の内容を正確に理解していないと、人件費、生産計画、人員配置など、経営上の意思決定に大きな不確実性をもたらす。
これらのリスクを回避するためには、翻訳だけでなく、現地の労働法務・労使関係の専門家(弁護士、労務コンサルタントなど)との緊密な連携が不可欠ですし、当社はこれを強く認識しています。
Q2: 労働協約と就業規則は、どのように異なるのですか?また、どちらが優先されますか?
A2:
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就業規則: 使用者(企業)が一方的に作成し、労働基準監督署に届け出るものです。企業の組織・運営上のルールを定めます。
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労働協約: 労働組合と使用者(企業)との間の団体交渉によって合意され、書面で締結されるものです。労使双方の合意に基づいており、労働者の権利保護に重点が置かれます。
優先関係: 一般的に、労働協約の方が就業規則よりも優先されます。労働組合法において、労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する就業規則または労働契約は、その部分については無効となり、労働協約の基準が適用されると定められているためです。ただし、労働協約が、労働基準法などの強行法規を下回る労働条件を定めている場合は、その部分は無効となり、強行法規の基準が適用されます。翻訳においては、この優先関係を理解した上で、各文書の内容が矛盾しないか、あるいは矛盾する場合の法的解釈を考慮する必要があります。
Q3: 労働協約の「平和義務(No Strike/No Lockout)」条項とは何ですか?なぜ重要ですか?
A3: 平和義務条項とは、労働協約の有効期間中、労使双方が労働協約によって規定されている事項に関して、ストライキやロックアウトなどの争議行為を行わないことを約束する義務です。これは、労働協約を通じて安定した労使関係を維持し、企業活動の予見可能性を高めるために極めて重要な条項です。 重要性は以下の通りです。
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事業運営の安定: 争議行為が制限されることで、生産やサービス提供の停止リスクが低減し、安定した事業運営が可能になります。
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予見可能性の向上: 労働条件が協約によって固定され、争議行為の可能性が抑えられることで、企業は将来の人件費や事業計画をより正確に予測できます。
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信頼関係の構築: 労使双方が合意したルールを守ることで、信頼関係が醸成され、より建設的な対話が促進されます。
翻訳においては、この平和義務の適用範囲(対象となる事項、期間)、違反した場合の取り扱いなどを明確に表現することが不可欠です。
Q4: AI翻訳を労働協約の翻訳に活用する際の注意点は何ですか?
A4: AI翻訳は、初稿の作成や用語の統一に非常に役立ちますが、労働協約のような法的拘束力と複雑な労使関係の背景を持つ文書に単独で使用することは強く推奨されません。
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法的・慣行的ニュアンスの欠如: AIは各国の労働組合法、団体交渉の慣行、労働判例、そして労使間の力関係といった微妙なニュアンスを完全に理解できません。例えば、「協議(Consultation)」と「同意(Agreement)」では法的な重みが全く異なりますが、AIがその違いを正確に反映できるとは限りません。
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専門用語の正確性: 労働法務、労使関係、社会保障に関する専門用語の正確な対応は、AIだけでは困難な場合があります。
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文化的背景: 各国の労使関係の歴史や、労働組合に対する社会的な受容度は、AIには再現が難しいことがあります。
したがって、AI翻訳を効率化ツールとして活用しつつも、必ず現地の労働法務・労使関係に詳しい専門家(弁護士、労務コンサルタントなど)と、翻訳の専門家による徹底したレビューと校正を行うことが不可欠です。当社は、AIと専門家の人力翻訳を組み合わせることで、高品質かつ効率的な翻訳を提供しています。
まとめ
労働協約の翻訳は、単なる言語の変換に留まらず、企業がグローバル市場で安定した労使関係を築き、多様な人材を適切に管理し、同時に各国の厳格な労働組合法規や慣行を遵守し、潜在的な法的リスクを回避するための極めて重要なプロセスです。
英文と和文の労働協約が持つそれぞれの特徴を深く理解し、人事、法務、事業といった各部門が連携しながら、専門知識を持つ翻訳者の力を借りることが不可欠ですし、これまでの経験から当社はこれを強く認識しています。
特に、各国の労働法規・労使慣行への厳格な準拠とローカライズ、労働組合・従業員代表との関係性の明確化、賃金規定の正確な翻訳、労働時間・休暇規定の厳密な翻訳、解雇・懲戒規定の明確な翻訳、そして争議行為に関する条項の厳密な翻訳といった条項は、潜在的なリスクを最小限に抑え、労使間の健全な関係を築き、円滑な事業運営を成功させるための鍵となります。
当社は、このような複雑な労働協約の翻訳において、貴社の各部門のニーズを理解し、最高品質の翻訳とサポートを提供することをお約束します。貴社の海外ビジネスにおける労働協約に関してご不明な点やご相談がありましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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・日本法令外国語訳推進会議「法令用語日英標準対訳辞書」(PDF)
・Publiclegal(英文契約書のテンプレートや書式を無料で提供)
・日本法令外国語訳データベースシステム(法務省が開設した日本の法令の英訳サイト)
・weblio 英和辞典・和英辞典
・英辞郎 on the web
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