今日の国際ビジネスにおいて、企業が特定の専門スキルを持つ人材を短期間で確保したり、一時的な業務量の変動に対応したりする際に、派遣社員(Dispatched Employee / Agency Worker)の活用は不可欠な戦略となっています。派遣社員との雇用関係は、通常の直接雇用とは異なり、派遣元企業(人材派遣会社)と派遣先企業、そして派遣社員という三者間の複雑な関係性に基づいて成り立っています。
この複雑な関係を円滑にし、法的安定性を確保するための基盤となるのが、派遣元企業と派遣先企業の間で締結される労働者派遣契約書(Worker Dispatch Agreement)、および派遣社員と派遣元企業の間で締結される雇用契約書です。特
に、国際的な派遣においては、各国ごとの労働法、社会保障制度、税法、そして派遣労働に関する規制が大きく異なるため、これらの契約書の正確な翻訳と法的整合性の確保が極めて重要です。翻訳のミスや内容の理解不足は、予期せぬ労働紛争、高額な賠償責任、企業の信用失墜、そして重要なプロジェクトの遅延へと発展するリスクをはらんでいます。
単に言葉を置き換えるだけでなく、それぞれの法制度や文化、雇用形態に応じた法的・商業的なニュアンスを踏まえた上で契約内容を理解し、翻訳することが不可欠です。
本記事では、これまでの経験に基づき、国際的な派遣社員の活用における契約書翻訳の重要なポイントと、貴社の各部門がどのように翻訳された契約書を活用し、関与していくべきかを具体的なケーススタディを交えて解説します。
貴社のグローバル人材戦略において、派遣社員契約の適切な理解と運用を通じて、コンプライアンスの強化と柔軟な人材活用の実現を図るために、ぜひ本記事をお役立てください。
派遣社員契約書とは何か?その目的と国際雇用における重要性
派遣社員契約に関連する主な契約書は、以下の2種類です。
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労働者派遣契約書(Worker Dispatch Agreement / Staffing Services Agreement):
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派遣元企業(人材派遣会社)と派遣先企業の間で締結される契約です。これは、派遣社員を受け入れる際に、派遣される業務の内容、指揮命令者、派遣期間、派遣料金、秘密保持義務、知的財産権の取り扱い、派遣社員の安全衛生管理責任の分担などを定めます。
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この契約は、派遣法(日本では労働者派遣法)に厳格に準拠する必要があります。
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派遣社員と派遣元企業間の雇用契約書:
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派遣社員が派遣元企業と締結する雇用契約書です。この契約書では、派遣社員の給与、労働時間、休日、福利厚生、社会保険の適用、雇用期間、退職に関する条件などを定めます。派遣社員の労働条件を保証する法的基盤となります。
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本記事では、特に派遣先企業が関与する労働者派遣契約書の翻訳に焦点を当てて解説しますが、派遣社員の労働条件を理解する上で、派遣元企業と派遣社員間の雇用契約書の内容を理解することも重要です。
国際的な派遣社員の活用において、これらの契約書が特に重要なのは、以下の理由からです。
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各国派遣法の厳格な規制: 派遣労働に関する法規制は、国によって大きく異なります。派遣期間の制限、同一労働同一賃金原則の適用、派遣先の責任範囲、違法派遣時の罰則などが厳しく定められている場合があります。これらの規制に違反すると、高額な罰金、事業停止命令、または派遣社員を直接雇用する義務が生じるリスクがあります。
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責任範囲の明確化: 派遣社員に対する指揮命令権は派遣先企業にありますが、雇用主責任(給与支払い、社会保険加入など)は派遣元企業にあります。これらの責任の分担を契約書で明確にしないと、トラブル発生時に責任の所在が不明確になり、紛争に発展する可能性があります。
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社会保障・税制の違い: 派遣社員の社会保険(年金、健康保険、失業保険など)や所得税の取り扱いが、国ごとに異なります。適切な保険加入や税務処理がなされないと、予期せぬ費用負担や税務上の問題が生じます。
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知的財産権の保護: 派遣社員が派遣先企業で生み出した発明や著作物の知的財産権の帰属を明確にしないと、技術流出や知財紛争のリスクが高まります。
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紛争解決の複雑さ: 国際的な労働紛争は、複数の国の法律が絡み、解決に時間と費用がかかる傾向にあります。準拠法や紛争解決手段を明確にしておくことで、リスクを低減できます。
英文労働者派遣契約書の特徴と和文契約書との違い
国際的な派遣社員の活用においては、多くの場合、英文で労働者派遣契約書が作成されます。その特徴は、日本の和文契約書とは異なる点がいくつかあります。
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Clear Definition of "Dispatched Worker" and "Assignment"(「派遣労働者」と「派遣」の明確な定義):
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契約の冒頭で、「派遣労働者(Dispatched Worker / Agency Worker)」の定義と、彼らが従事する「派遣(Assignment)」の性質(例:一時的なプロジェクト、特定の技能が必要な業務)を明確に記述します。これにより、派遣元と派遣先の役割分担の基礎を確立します。
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Detailed Scope of Work and Responsibilities of Each Party(各当事者の業務範囲と責任の詳細):
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派遣される業務内容(Job Duties)、派遣社員の専門スキル、勤務場所、派遣期間、指揮命令系統が非常に具体的に記述されます。
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特に、派遣元企業と派遣先企業それぞれの責任範囲が詳細に定められます。例えば、派遣元企業は給与支払い、社会保険、雇用管理、研修などを、派遣先企業は指揮命令、安全衛生管理、ハラスメント防止などを担当する旨が明記されます。
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Compliance with Local Labor Laws and Regulations(現地の労働法規制への厳格な準拠):
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各国の派遣法(例:日本の労働者派遣法、EUのAgency Work Directive、米国の共同雇用主(Joint Employer)原則など)に厳格に準拠する旨の条項が盛り込まれます。派遣期間の制限、同一労働同一賃金(Equal Pay for Equal Work)の原則、派遣先による直接雇用の義務(特定の条件下の転換義務)など、現地法の重要規定が反映されます。
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Specific Indemnification and Liability Clauses(具体的な補償責任と免責条項):
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派遣社員の過失や故意によって発生した損害、あるいは違法派遣とみなされた場合の罰金や損害賠償などに関して、派遣元と派遣先のどちらが責任を負い、どのように補償するかが詳細に規定されます。これは、国際的な派遣においては非常に重要なリスク管理の側面です。
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Intellectual Property Rights and Confidentiality(知的財産権と秘密保持):
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派遣社員が派遣先企業で業務を行う過程で生み出した発明、著作物、ノウハウなどの知的財産権の帰属が明確に定められます。多くの場合、派遣元企業を通じて派遣先企業に権利が譲渡される旨が規定されます。また、派遣社員による秘密情報の漏洩防止に関する義務も明記されます。
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Termination and Renewal Provisions(契約終了および更新に関する規定):
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派遣期間の満了時の取り扱い、中途解約の条件(例:派遣社員の不適格、派遣先の事情変更)、解約通知期間、そして違約金(Liquidated Damages)などが詳細に定められます。
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Governing Law and Dispute Resolution(準拠法と裁判管轄/仲裁):
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国際的な派遣契約では、契約に適用される法律(例:デラウェア州法、英国法、シンガポール法、日本法など)が明確に指定されます。また、紛争が発生した場合の解決方法(裁判所の管轄、または仲裁条項)が詳細に定められますが、労働者保護の観点から現地の労働法が優先される場合があることに注意が必要です。
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日本の和文労働者派遣契約書に比べ、英文労働者派遣契約書は、各当事者の責任範囲の明確化、現地の労働法規制への厳格な準拠、補償責任の詳細、そして国際法務上の紛争解決に関する詳細な合意に関して、より詳細かつ厳密な記述が求められる傾向が強いです。翻訳においては、これらの法的・人事労務的・税務的ニュアンスを正確に反映した表現を用いることが不可欠です。
派遣社員契約書翻訳における重要ポイント
国際的な派遣社員の活用における契約書の翻訳は、貴社の柔軟な人材活用戦略、各国の労働法規制への準拠、リスク管理に直接影響するため、極めて高い精度と専門性、そして人事、法務、経理、事業部門など多岐にわたる視点が求められます。以下のポイントを押さえることが、成功への鍵となります。
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各国の派遣法規制の厳格な反映
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派遣を受け入れる国の労働者派遣法(派遣期間の制限、同一労働同一賃金原則、派遣先の責任範囲、違法派遣時の罰則など)を正確に理解し、契約書に反映することが不可欠です。単に直訳するのではなく、対象国の強行法規に合致するよう、必要に応じて契約内容自体を調整し、その上で翻訳を行う必要があります。例えば、欧州の多くの国では、派遣社員の労働条件が直接雇用の従業員と同等であることが求められるため、その点への言及が重要です。当社は、このような各国の法的要件を強く認識しています。
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責任範囲と指揮命令権の明確な翻訳
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派遣元企業と派遣先企業のそれぞれの責任範囲(給与支払い、社会保険加入、安全衛生管理、ハラスメント防止など)、そして派遣先企業が持つ指揮命令権の範囲を明確に翻訳することが不可欠です。責任の所在を曖昧にすると、トラブル発生時に紛争に発展する大きなリスクとなります。
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派遣期間と更新条件の正確な翻訳
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派遣期間の開始日と終了日、派遣期間の延長条件、そして各国の派遣法における派遣期間の制限を正確に翻訳することが重要です。特に、期間制限を超過した場合に、派遣先企業に直接雇用義務が生じる可能性など、法的リスクを明確に理解する必要があります。
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派遣料金と支払い条件の厳密な翻訳
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派遣料金の計算方法(時間単価、月額固定など)、支払いサイクル、支払い通貨、そして消費税や付加価値税(VAT/GST)の取り扱いを厳密に翻訳することが不可欠です。国際送金に関わる手数料や、税務上の源泉徴収義務についても言及がある場合は、それらを正確に反映すべきです。
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秘密保持義務(Confidentiality)と知的財産権の帰属(IP Assignment)の厳格な翻訳
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派遣社員が派遣先企業で知り得る企業秘密や技術情報に関する秘密保持義務の範囲、期間、違反時の責任を厳格に表現すべきです。また、派遣社員が業務上生み出した知的財産権(発明、著作物など)の派遣元企業を通じて派遣先企業に帰属する旨、または譲渡される旨を明確に翻訳し、企業の知財保護を確実にすべきです。
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補償責任(Indemnification)と免責(Limitation of Liability)の慎重な翻訳
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派遣社員の過失や故意による損害、あるいは違法派遣とみなされた場合の罰金や損害賠償に関して、派遣元と派遣先のどちらが、どの程度責任を負い、どのように補償するかを慎重に翻訳することが不可欠です。この条項は、将来の法的・金銭的リスクに直結するため、法務部門と連携して詳細を確認すべきです。
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準拠法(Governing Law)と紛争解決(Dispute Resolution)の正確な指定
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契約に適用される法律、そして紛争が発生した場合の解決方法(裁判、労働委員会、国際仲裁、調停など)、裁判管轄、仲裁地の選定、仲裁機関、仲裁規則、仲裁人の数などを正確に翻訳することが不可欠です。国際的な労働紛争は複雑化しやすいため、自社にとって有利な準拠法や紛争解決地を指定することが戦略上重要であり、その内容を正確に把握すべきです。
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当社は、このような複雑な準拠法と紛争解決に関する条項の正確な翻訳を特に重視しています。
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AI翻訳の適切な活用と専門家による最終確認
AI翻訳技術は、初稿の作成や用語の統一に役立ちますが、労働者派遣契約書のような法的・文化的に極めて複雑な文書においては、各国の労働者派遣法、社会保障制度、税法、そして雇用慣行を完全に理解することは困難です。AIを効率化ツールとして最大限活用しつつも、労働法務知識、人事労務に関する専門知識、および国際取引の実務経験を持つ専門の翻訳者による徹底したレビューと校正が不可欠です。人間による精査が、潜在的なリスクを最小限に抑え、安全な国際雇用関係の基盤となります。
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強固な情報セキュリティ体制
労働者派遣契約書には、派遣社員の個人情報、スキル情報、派遣料金、業務内容など、機密性の高い情報が含まれます。これらの情報が外部に漏洩した場合、企業の法的責任問題、信用失墜、従業員からの訴訟など、甚大な損害を被る可能性があります。そのため、翻訳を依頼する際には、翻訳会社が厳格な情報セキュリティポリシーを定め、技術的・物理的・人的な対策を徹底しているかを必ず確認すべきですし、当社はこれを徹底しています。
派遣社員契約書の翻訳は誰に必要なのか?ケーススタディで見る関係部門の役割
派遣社員契約書は、企業の柔軟な人材戦略とグローバル展開の鍵を握る文書であり、多岐にわたる部門や関係者がその内容を理解し、翻訳された情報に基づいて連携することが不可欠です。
ケーススタディ1:日本の製造業がドイツのIT企業から派遣エンジニアを受け入れ
状況: 日本の自動車部品メーカーA社が、ドイツの先進的なIT企業B社から、特定の期間(1年間)に限り、自動運転システムの開発プロジェクトのためにAIエンジニアを派遣社員として受け入れるケース。ドイツの労働者派遣法に準拠した労働者派遣契約書を英語で作成し、それを日本語に翻訳する必要がある。
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人事部(HR):
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必要性: ドイツの労働者派遣法における派遣期間の制限、同一労働同一賃金原則の適用(派遣社員の給与が直接雇用の従業員と同等か)、派遣社員の社会保険(健康保険、年金など)や有給休暇の取り扱いを詳細に確認します。派遣社員の受け入れが、現地の労務管理とコンプライアンスに適合しているかを評価します。
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ケース: 契約書に記載された「1年間の派遣期間と、期間制限を超えることによる法的リスクの明確化」、「派遣社員の安全衛生管理責任の分担(派遣先も責任を負う範囲)」、「派遣社員がドイツの社会保障制度に適切に加入しているか」を和訳で確認し、現地の法規制と実務に合致しているかを評価します。
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法務部:
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必要性: 契約全体の法的妥当性、派遣法違反のリスク(特に「偽装請負」とみなされる可能性)、秘密保持義務、知的財産権の帰属、補償責任、準拠法(ドイツ法)、紛争解決条項の適切性を確認します。
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ケース: 契約書に記載された「派遣エンジニアが開発したAIモデルの知的財産権がA社に帰属する旨」、「派遣元企業B社が派遣法違反による罰金や損害賠償を補償する旨の条項」、「ドイツ法を準拠法とし、フランクフルトの裁判所を管轄とする条項」を和訳で確認し、法的リスクとコンプライアンスを評価します。
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経理部/財務部:
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必要性: 派遣料金の計算方法、支払いサイクル、ドイツにおける付加価値税(VAT)の取り扱い、海外送金手数料、為替リスクなどを確認します。
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ケース: 契約書に記載された「時間単価に基づいた月次派遣料金の計算方法」、「ドイツのVAT適用と請求書への明記」、「ユーロ建てでの支払い条件」を和訳で確認し、費用管理と税務コンプライアンスを評価します。
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事業部/開発部:
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必要性: 派遣されるエンジニアの職務内容、スキルレベル、指揮命令系統、プロジェクトの成果物とスケジュールへの影響を理解します。
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ケース: 契約書に記載された「派遣エンジニアの具体的な職務内容(例:AIアルゴリズム開発、データ分析)」、「A社の社員が指揮命令を行う範囲」、「プロジェクトの具体的な成果物と進捗報告の頻度」を和訳で確認し、業務遂行と成果物の品質確保、そしてプロジェクトの進捗管理を評価します。
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ケーススタディ2:米国のITスタートアップが日本の現地法人を通じてデザイナーを派遣社員として受け入れ
状況: 米国のITスタートアップC社が、日本市場向けアプリ開発のため、日本に設立した現地法人D社を通じて、日本のデザイン会社E社からUI/UXデザイナーを派遣社員として受け入れるケース。日本の労働者派遣法に準拠した労働者派遣契約書を日本語で作成し、それを米国本社の人事・法務部門向けに英語に翻訳する必要がある。
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人事部(HR):
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必要性: 日本の労働者派遣法における派遣期間の制限(特に、同一業務で派遣期間が制限される場合)、派遣社員への均等待遇原則、派遣先でのハラスメント防止義務、労働安全衛生法上の責任分担を詳細に確認します。米国本社の人事ポリシーとの整合性も考慮します。
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ケース: 契約書に記載された「派遣期間(3ヶ月、延長の可能性あり)と、派遣期間制限への対応策」、「派遣社員がD社の社員食堂を利用できる旨」、「ハラスメント発生時のD社の責任範囲」を英訳で確認し、日本の法規制と米国本社のポリシーを比較評価します。
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法務部:
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必要性: 契約全体の法的妥当性、日本の労働者派遣法上の義務と責任分担、知的財産権の帰属、秘密保持義務、損害賠償責任、準拠法(日本法)、紛争解決条項の適切性を確認します。
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ケース: 契約書に記載された「派遣デザイナーが作成したUI/UXデザインの著作権がD社に帰属する旨(デザイン会社E社を通じて)」、「派遣社員の過失によるD社の損害に対するデザイン会社E社の賠償責任上限」、「日本法を準拠法とし、東京地方裁判所を管轄とする条項」を英訳で確認し、法的リスクとコンプライアンスを評価します。
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経理部/財務部:
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必要性: 派遣料金の計算方法、支払いサイクル、日本の消費税の取り扱い、支払い方法、米国本社への費用報告の形式と頻度を確認します。
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ケース: 契約書に記載された「時間単価に基づく月次派遣料金と、消費税の適用」、「日本円建てでの支払い条件」、「米国本社の会計基準に合わせた費用計上方法」を英訳で確認し、費用管理と税務コンプライアンスを評価します。
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事業部/開発部:
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必要性: 派遣されるデザイナーの職務内容、スキルレベル、指揮命令系統、プロジェクトの成果物とスケジュールへの影響を理解します。
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ケース: 契約書に記載された「派遣デザイナーの具体的な職務内容(例:アプリの画面デザイン、ユーザーフロー作成)」、「D社の社員が指揮命令を行う範囲と報告体制」、「プロジェクトの具体的な成果物と進捗報告の頻度」を英訳で確認し、業務遂行と成果物の品質確保、そしてプロジェクトの進捗管理を評価します。
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よくある質問(FAQ)
派遣社員契約書(特に労働者派遣契約書)の翻訳に関して、お客様からよくいただくご質問とその回答をまとめました。
Q1: 労働者派遣契約書で最も注意すべき法的リスクは何ですか?
A1: 最も注意すべきは、派遣法に違反することによる「違法派遣」のリスクです。これにより、派遣先企業が派遣社員を直接雇用する義務を負ったり、高額な罰金を科されたりする可能性があります。具体的なリスク要因としては以下の点が挙げられます。
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1. 派遣期間の制限超過: 各国の派遣法で定められた派遣期間の制限を超過した場合。
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2. 専門業務以外の一般業務への派遣: 専門業務以外への派遣が認められない国での違反、または、禁止されている業務への派遣。 -
3. 同一労働同一賃金原則への違反: 派遣社員の労働条件が、派遣先の直接雇用の従業員と同等でない場合。 -
4. 「偽装請負」とみなされるリスク: 労働者派遣契約ではなく、業務委託契約として締結されていても、実態が派遣とみなされる場合。 -
5. 安全衛生義務の不履行: 派遣先が負うべき安全衛生管理責任を怠った場合。
これらのリスクを回避するためには、翻訳だけでなく、現地の労働法務に詳しい専門家(弁護士、社会保険労務士など)との連携が不可欠ですし、当社はこれを強く認識しています。
Q2: 派遣社員が派遣先で生み出した知的財産権の帰属は、契約書でどのように規定すべきですか?
A2: 派遣社員が派遣先企業で職務上生み出した知的財産権(発明、著作物など)は、派遣元企業を通じて派遣先企業に帰属する旨を明確に規定することが不可欠です。具体的には、労働者派遣契約書の中で、派遣元企業が、派遣社員から生じた知的財産権を派遣先企業に譲渡することを約する条項を設けます。また、派遣社員と派遣元企業との間の雇用契約書においても、職務発明に関する規定を設ける必要があります。この三者間の知的財産権の移転フローを明確にすることで、技術流出や将来の知財紛争のリスクを最小限に抑えられます。翻訳においても、この複雑な権利移転を正確に表現する必要があります。
Q3: 「補償責任(Indemnification)」と「免責(Limitation of Liability)」に関する条項は、翻訳でなぜ重要ですか?
A3: これらの条項は、派遣社員の行為によって損害が発生した場合や、契約違反が生じた場合に、派遣元と派遣先のどちらが、どの程度の責任を負い、どのように損害を補償するかを定めるものです。国際的な派遣では、異なる国の法律が適用される可能性があり、責任の所在が複雑化しやすいため、非常に重要です。翻訳においては、損害賠償の範囲、責任の制限(例:賠償額の上限)、および補償の対象となる事由を、曖昧さなく、法的にも有効な表現にすることが不可欠です。この部分の誤訳は、予期せぬ高額な賠償責任につながるリスクがあります。
Q4: AI翻訳を労働者派遣契約書の翻訳に活用する際の注意点は何ですか?
A4: AI翻訳は、初稿の作成や用語の統一に非常に役立ちますが、労働者派遣契約書のような法的拘束力を持つ文書に単独で使用することは推奨されません。
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法的正確性: AIは各国の労働者派遣法、社会保障制度、税法、判例のニュアンスを完全に理解できません。誤訳は法的リスクに直結します。特に、派遣と請負の区別、同一労働同一賃金、期間制限など、複雑な法的概念の翻訳はAIだけでは困難です。
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専門用語の正確性: 労働法、人事労務、税務に関する専門用語の正確な対応は、AIだけでは困難な場合があります。
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文化的背景: 各国の派遣労働に対する社会的な受容度や慣行は、AIには再現が難しいことがあります。
したがって、AI翻訳を効率化ツールとして活用しつつも、必ず現地の労働法務に詳しい専門家(弁護士、社会保険労務士など)と、翻訳の専門家による徹底したレビューと校正を行うことが不可欠です。当社は、AIと専門家の人力翻訳を組み合わせることで、高品質かつ効率的な翻訳を提供しています。
まとめ
派遣社員契約書、特に労働者派遣契約書の翻訳は、単なる言語の変換に留まらず、企業がグローバル市場で柔軟な人材戦略を展開し、同時に各国の厳格な労働者派遣法規制を遵守し、潜在的な法的リスクを回避するための極めて重要なプロセスです。
英文と和文の契約書が持つそれぞれの特徴を深く理解し、人事、法務、経理、事業といった各部門が連携しながら、専門知識を持つ翻訳者の力を借りることが不可欠ですし、これまでの経験から当社はこれを強く認識しています。
特に、各国の派遣法規制の厳格な反映、責任範囲と指揮命令権の明確化、派遣期間と更新条件の正確な翻訳、秘密保持義務と知的財産権の帰属、そして補償責任と準拠法・紛争解決といった条項は、潜在的なリスクを最小限に抑え、派遣社員との良好な関係を築き、柔軟な人材活用を成功させるための鍵となります。
当社は、このような複雑な派遣社員契約書の翻訳において、貴社の各部門のニーズを理解し、最高品質の翻訳とサポートを提供することをお約束します。貴社の海外ビジネスにおける派遣社員契約に関してご不明な点やご相談がありましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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契約書翻訳に役立つリンク集
・法務省大臣官房司法法制部「法令翻訳の手引き」(PDF)
・日本法令外国語訳推進会議「法令用語日英標準対訳辞書」(PDF)
・Publiclegal(英文契約書のテンプレートや書式を無料で提供)
・日本法令外国語訳データベースシステム(法務省が開設した日本の法令の英訳サイト)
・weblio 英和辞典・和英辞典
・英辞郎 on the web
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