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Apr. 13, 2020

翻訳者に求められる日本語表現力とは?

 

2019年末に掲載した記事 『翻訳者に聞いてみた - 001「外国語が分かれば、翻訳なんて誰でもできるんじゃないの?」』 の中で、語学力と翻訳力は違うこと、そして翻訳力は主に英文読解力+日本語表現力+専門知識の3つのスキルで構成されていることについて書きました。

 

関連記事

https://japan.wipgroup.com/media/translation-ability

https://japan.wipgroup.com/media/reading_ability_in_English

 

*上記の記事では英語から日本語への翻訳を前提にしています。本記事においても同様です。

 

本記事では、この翻訳力を構成する3つのスキルのうち、日本語表現力について深く考えてみたいと思います。

 

翻訳文の3つのステージ

翻訳者や翻訳者を目指している方が翻訳会社から仕事を受注するには、翻訳会社に登録しなければなりません。 そして、登録するためには、トライアルを受験し合格しなければならない場合がほとんどです。 最近では、既にトライアルに合格し登録済みの翻訳者であっても、特定の翻訳プロジェクトに参加する際にトライアルの受験を求められる場合があります。

筆者は英日翻訳のトライアル評価を担当させていただくこともあります。 さまざまな訳文に触れる中で、訳文は次の3つのステージに分類できることに気づきました。]

 

  1.  1. 原文に照らし合わせて不正確な訳文
  2.  2. 正確だが読みにくい訳文
  3.  3. 正確で読みやすい訳文

 *ときとして、「原文に照らし合わせて不正確」で「読みやすい訳文」に出会うこともあります…(笑)。

 

ステージ1の訳文は、文法を間違って解釈したり、文意を取り違えたりすることによる誤訳のある訳文です。誤訳をなくして正確な訳文をつくり、1から2のステージに上がるためには、英文読解力を高める必要があります。

ステージ2は、原文に照らし合わせて正確だけど読みにくい訳文です。正確な訳文を作ることができるため、このステージの訳文であっても、定型文の多いマニュアルなど、分野によっては仕事を任せられる場合があるかもしれません。

そしてステージ3。このステージに上がるために必要なのが、日本語表現力です。

 

伝えるための日本語表現力

Marva Collinsというアメリカの有名な教育者がいます。この方は数々の名言を残しているのですが、そのうちの一つ、“Success doesn't come to you, you go to it.” の訳文について見てみます。

 

  1.  1. 成功はあなたに来ません、あなたはそれに行きます。【Google翻訳】
  2.  2. 成功はやって来ない。自分から向かっていかなければならない。【引用元 The Japan Times ST】
  3.  3. 成功は歩いては来ない。あなたがそこに行くのだ。
  4.  【引用元 「イングリッシュ・ドクター」西澤ロイ氏のブログ】
  5.  4. 成功がお前のところにくるんじゃねーんだ。お前が行くんだよ!【筆者訳】

 

1のGoogle翻訳を含め、これら4つの訳文はどれも誤訳ではありません。少なくともステージ2の訳文であると言えます。ステージ2では正確か不正確かの評価ですので、正確であれば○ですし、そうでなければ×です。

それに対し、ステージ3では正確であることを大前提にし、そのうえで最適な訳文をつくりだしていきます。

では、最適な訳文とはなんでしょうか?

冒頭にも挙げた『翻訳者に聞いてみた #001』の記事で、翻訳の目的について次のように書きました。

 

“翻訳”の目的は単なる字句の置き換えではありません。その目的は『伝える』ことです。
(中略)
…(原文から)読み取った内容を相手にきちんと伝えるためには、読み手に合った日本語を使う必要があります。その際に、書き手が伝えたい内容を漏らしたり歪めたりしてはいけません。

読み手が「読みにくい」と感じれば、結果として間違った解釈がはさまれる可能性があります。そもそも読み進めてもらえない場合もあるでしょう。そうなってしまうと、翻訳の目的『伝える』ことを達成することはできません。

最適な翻訳文とは、そういった可能性をできるだけなくした訳文です。そして、書き手が伝えたい内容を想定読者にもれなく伝えるための、最適な日本語で表現されている訳文であるといえます。

この観点から上の4つの訳文をみると、筆者であれば、少なくとも4の翻訳文は採用しません。Marva Collins氏は、幼少期に厳格な教育をうけて育った、教育に対して理想を高く持つ女性教師です。そんな彼女の言葉をこのような威勢のいい(乱暴な?)日本語を使って翻訳すれば、彼女の意図がきちんと伝わらない可能性があります。よって、最適な日本語で表現されているとはいえず、まさしく「拙訳」ということになりましょう。

これが仮に “Success doesn't come to you, you go to it.” の一文が、Marva Collinsの名言ではなかったとしたら。たとえば、若者に人気の男性ミュージシャンがインタビュー記事でファンに向けて発言した言葉であったなら、4の翻訳文が最適な翻訳文といえるかもしれません。

つまり、最適な翻訳文というのは、原文の字面を追うだけではつくることはできないのです。その原文を書いた意図、書き手の人物像、想定読者、掲載される媒体などの組み合わせの中で、つくられるものなのです。

最適な翻訳文をつくるのに日本語表現力が必要となること、お分かりいただけたでしょうか。

誤訳がない訳文であれば、翻訳者でなくても英語と日本語が読める人であればつくることができます。1のGoogle翻訳でもわかるように、今や機械でさえ、です。

それでもやはり、プロの翻訳者の需要が途絶えないのは、原文にある細かな背景、行間を加味することができるからであり、そのようなニュアンスを忠実に読み手に差し出すための、巧みな日本語表現力を身につけているからです。

読解力を駆使して、原文から、文化や習慣の違い、書き手の想いを細やかに感じとる。
表現力を駆使して、感じとったものを、読み手にもれなく届くように翻訳文を紡ぎだす。

これが翻訳をつくりあげるということであり、こうした翻訳をつくるために翻訳者は日々翻訳と向き合っています。

 

 

執筆:田村嘉朗
大手通信会社ロンドン支社勤務を経て、2013年より翻訳者として活動
専門は通信、マーケティング

参考URL

The Japan Times ST
http://st.japantimes.co.jp/native_english/phrases/phrases.htm?f=s&fn=ph_s_004

西澤ロイ氏のブログ
http://roy-nishizawa.cocolog-nifty.com/blog/2010/03/post-8df7.html

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