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2019.Oct.31

語学力と翻訳力はまったくの別物。語学力があるからといって、翻訳ができるとは限りません。

 

はじめまして。翻訳者の田村と申します。フリーランス翻訳者として約6年の経験があります。

 

先日、転職活動中の20代の男性と話す機会がありました。その方は幼少期に中国で育ち、高校と大学はアメリカの学校を卒業していました。中国語と英語が堪能な帰国子女です。その方に就職活動中の状況を聞いたときの返事はいまだに忘れられません。

 

「最近は売り手市場なんで、そんなに心配してないっすけどね。まー、どこの会社も拾ってくれなかったら、翻訳でもやろうかなって思ってます」

 

Tの心の声)

「なぬ?翻訳でもってどういうこと?外国語ができれば翻訳できるってか?そんな簡単に翻訳できるなんて思うなよー(怒)」

 

…思い出して熱くなってしまいました。スイマセン(汗)

 

この忘れられない思い出もそうですが、私が翻訳者として活動する中で、世間の人たちやお客様が“翻訳”に対して抱いているイメージに違和感を覚えることが多々あります。その違和感についてしばらく考えていました。気づいたことは、世の中には「語学力があれば翻訳はできる」と思っている人が意外に多い、ということです。

 

結論から言います。語学力があっても翻訳ができるとは限りません。むしろ、語学力と翻訳力は別のものと言ってもいいでしょう。

 

では、翻訳力とは一体なんなのでしょうか?

 

翻訳力について考える前に、まずは“翻訳”とは何かについて考えてみたいと思います。

 

私が駆け出しの翻訳者だった頃に読みこんだ、故山岡洋一氏の『翻訳とは何か:職業としての翻訳』に次の一文があります(この著書は英語から日本語への翻訳を前提にしています)。

 

翻訳とは、原文の表面をみて、訳文を作り上げていく作業ではない。(中略)翻訳とは、原文の意味を読み取り、読み取った意味を母語で表現する作業である。(中略)そして、翻訳は学び伝える仕事である。学んだ内容を伝え、伝えるために学ぶ(P.100)

私なりにこの文章を解釈すると、“翻訳”とは『書き手のメッセージを漏れなく把握し、それを増やすことも減らすこともせず、読み手に伝える作業』であるということです。

 

“翻訳”の目的は単なる字句の置き換えではありません。その目的は『伝える』ことです。英語から日本語への翻訳の場合、書き手が英語を通して伝えたいことを理解し、その伝えたいことを日本語を通して読み手に伝えるのです。

 

翻訳をこのように定義すると、翻訳力とは何かが見えてきます。翻訳に必要な力は、大きく分けて次の3つのスキルからなります。

 

翻訳力=英文読解力+日本語表現力+専門知識(と不足知識を補うリサーチ力)

 

それぞれ見ていきましょう。

 

*説明を分かりやすくするため、英語から日本語への翻訳を前提にしています。

 

1. 英文読解力

書き手が何を伝えようとしているのか読み取るためには、英文読解力が必要です。英文読解力は「正確な翻訳」の土台となります。「語学力があれば、その言語の読解力もあるんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、そうとは限りません。普段から日本語を使って会話している日本人でさえ、日本語読解力に差があるのと同じです。そして日本語読解力がない場合は英語読解力もない場合がほとんどです(母語を超えて第二外国語の読解力が身につくことはありません)。

 

英文読解力を身につけるためには、同様に日本語読解力、つまり日本語に対する理解力と日本語を使った論理的思考能力を身につけ、英文法をしっかりと学ぶ必要があります。

2. 日本語表現力

誰かから受け取ったものを、そのまま別の誰かに渡す場合を考えてみてください。もし相手の背が低ければ、かがんで渡さなければなりません。相手の手が小さければ、小分けにする必要があります。

 

翻訳においても同様です。読み取った内容を相手にきちんと伝えるためには、読み手に合った日本語を使う必要があります。その際に、書き手が伝えたい内容を漏らしたり歪めたりしてはいけません。

 

読み取った内容に合った日本語の文体はどうあるべきか。想定する読み手がきちんと理解するためには、どのような語彙を使ったらいいのか。翻訳者は様々な場面に最適な日本語表現力を身につけるために、普段の生活で出会う優れた日本語表現をストックしたり、ストックしたものをアウトプットする機会をつくったりと、日々研鑽を重ねています。

3. 専門知識(と不足知識を補うリサーチ力)

たとえ日本語で書かれていても、化学の知識がない人が化学論文を読んでも理解できないように、経済の知識がない人が経済新聞を読んでも理解を深めることができないように、書かれているものを理解するには読解力だけでなく、その分野の専門知識が必要です。

 

(翻訳の仕事をしているというと、あらゆる分野の英語を読めると思われるのですが、日本語と同様、少なくとも私はそんなことはありません…)

 

「伝える」という点から考えても、その分野における日本語の使い方を把握してなければ、不自然な日本語になってしまいます。

 

翻訳をするためには専門知識を持ち、また日々の進歩に合わせてその知識をアップデートし続けなければなりません。それでも分からないことや知らないことに出くわすことは多々あります。その際にリサーチする力は不可欠です。

以上の英文読解力、日本語表現力、専門知識が、翻訳力を構成する3つの必須スキルであると考えています。

 

WIPジャパンのような翻訳会社に登録している翻訳者は、これらのスキルを身につけています。翻訳会社に登録するためにはトライアルに通過する必要がありますが、これらのスキルを習得していなければ通過することができません。中でも翻訳会社から定期的に仕事を請けている翻訳者は、高い翻訳力を持ち向上させる努力を継続しています。

 

 

いかがでしたでしょうか。語学力と翻訳力はまったくの別物であること、そして外国語が分かったとしても翻訳ができるとは限らないことが、お分かり頂けたかと思います。翻訳とは、非常に高いスキルが要求される専門性の高い仕事なのです。

 

社内のメンバーにプロジェクトの目的をきちんと「伝えたい」、自社製品を買ってくれるお客様に製品にかけた想いを「伝えたい」、そんなときは翻訳会社や翻訳力を持った翻訳者に依頼することをおすすめします。

 

そして、間違っても、帰国子女だからという理由だけで、社内の同僚に翻訳を依頼するのはやめた方がよろしいかと思います(しつこい)。

 

執筆:田村嘉朗
大手通信会社ロンドン支社勤務を経て、2013年より翻訳者として活動
専門は通信、マーケティング

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