今日の競争が激しいグローバル市場において、企業が新たな技術や製品を開発し、イノベーションを創出するためには、他社や大学、研究機関との連携が不可欠です。この連携の法的基盤となるのが、共同研究契約書(Joint Research Agreement, JRA / Collaborative Research Agreement, CRA)です。
この契約書は、共同研究の目的、期間、役割分担、費用負担、研究成果の取扱い、知的財産権の帰属と活用、秘密保持、損害賠償、準拠法、紛争解決など、多岐にわたる内容を定めます。
その正確な翻訳は、円滑な研究推進、共同開発された技術の適切な管理、知的財産権の保護、そして将来的な紛争の防止のために不可欠です。翻訳のミスや内容の理解不足は、予期せぬ知財紛争、研究の停滞、追加費用の発生、国際的な信用失墜、さらには高額な法的紛争へと発展するリスクをはらんでいます。
特に、国ごとに知的財産法、会社法、独占禁止法、そして研究開発に関する商慣習が大きく異なるため、単に言葉を置き換えるだけでなく、それぞれの法制度や研究の性質に応じた法的・商業的なニュアンスを踏まえた上で契約内容を理解し、翻訳することが不可欠です。
本記事では、これまでの経験に基づき、共同研究契約書の翻訳における重要なポイントと、貴社の各部門がどのように翻訳された契約書を活用し、関与していくべきかを具体的なケーススタディを交えて解説します。
貴社のグローバルな共同研究において、共同研究契約の適切な理解と運用を通じて、イノベーション創出の成功と知財戦略の強化を図るために、ぜひ本記事をお役立てください。
共同研究契約書とは何か?その目的と国際共同研究における重要性
共同研究契約書(Joint Research Agreement, JRA / Collaborative Research Agreement, CRA)とは、複数の当事者(企業、大学、研究機関など)が、共通の目的を持って共同で研究開発を行う際に締結される法的拘束力のある文書です。この契約書は、各当事者の役割、費用負担、期間、そして最も重要な研究成果から生まれる知的財産権の取扱いについて詳細に定めます。
国際共同研究において、共同研究契約は以下のような多岐にわたる取引で利用されます。
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グローバル企業間の技術提携: 異なる国の企業が、新製品開発や新技術創出のために共同で研究を行う場合。
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企業と海外大学・研究機関との連携: 企業のR&D部門が、海外の先端技術を持つ大学や研究機関と共同で基礎研究や応用研究を行う場合。
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国際的なオープンイノベーションプロジェクト: 複数の国の企業や研究機関が参加する大規模な共同プロジェクト。
この契約書は、以下の非常に多岐にわたる詳細な条項を含みます。
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研究テーマと目的(Research Theme and Objective):共同研究の具体的な対象、最終目標、期待される成果。
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研究期間(Research Period):共同研究の開始日と終了日。
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参加者と役割分担(Participants and Roles):共同研究に参加する各当事者の氏名(名称)、住所(所在地)、そして具体的な役割、担当する研究項目、責任範囲。
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費用負担(Cost Allocation):共同研究にかかる費用(人件費、設備費、材料費、旅費など)の各当事者の負担割合、支払い方法、精算方法。
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研究計画と進捗管理(Research Plan and Progress Management):具体的な研究計画、マイルストーン、進捗報告の方法、会議の開催頻度など。
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研究成果の取扱い(Treatment of Research Results):
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定義(Definition of Research Results): 研究過程で得られたデータ、ノウハウ、プロトタイプ、論文、発明など、成果物の定義。
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帰属(Ownership): 研究成果として生み出された発明やノウハウの各当事者への帰属(単独帰属、共有帰属など)。
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活用(Utilization): 各当事者が研究成果をどのように利用できるか(実施権の付与、ライセンス供与の条件など)。
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知的財産権(Intellectual Property Rights, IPR):
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定義と範囲(Definition and Scope of IPR): 共同研究から生じる特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、営業秘密(ノウハウ)などの知的財産権の定義。
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出願と維持(Application and Maintenance): 発明の出願国、出願名義、出願費用と維持費用の負担、出願戦略。
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実施権(License): 共同発明の場合の各当事者の実施権(無償・有償、非独占的・独占的、地域制限など)。
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第三者へのライセンス供与(Licensing to Third Parties): 共同発明を第三者にライセンスする場合の条件、収益配分。
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既存知的財産権の取扱い(Background IPR): 共同研究に持ち込まれる既存の知的財産権の利用条件(ライセンスの要否、条件など)。
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秘密保持(Confidentiality):共同研究を通じて開示される技術情報、事業情報などの秘密情報の範囲、秘密保持義務、期間。
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広報活動(Publicity):共同研究に関するプレスリリースや外部発表に関するルール。
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損害賠償(Indemnification):契約違反や第三者への損害発生時の責任分担。
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契約の変更・終了(Amendment and Termination):契約の変更手続き、中途解約条件、期間満了時の処理。
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準拠法と紛争解決(Governing Law and Dispute Resolution):契約に適用される法律、紛争が発生した場合の解決方法(裁判、国際仲裁、調停など)。
国際共同研究において共同研究契約書が特に重要なのは、以下の理由からです。
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各国の知的財産法と税法: 知的財産権の帰属、出願、維持、活用に関するルールは国ごとに大きく異なります。例えば、共同発明の共有持分、各共有者の実施権、共有者の単独実施権の可否、第三者へのライセンス供与の同意要件などが国によって異なるため、契約書でこれらの点を明確に合意しておく必要があります。また、技術移転やライセンス供与に関する国際税務(移転価格税制など)も考慮する必要があります。
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技術流出と秘密保持: 国際共同研究では、自社の重要な技術やノウハウが海外に流出するリスクがあるため、厳格な秘密保持条項が不可欠です。
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独占禁止法上の配慮: 共同研究の内容や成果の利用方法によっては、独占禁止法や競争法に抵触する可能性があるため、注意が必要です。
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文化・商慣習の違い: 異なる文化を持つ当事者間では、意思疎通の齟齬や期待値のずれが生じやすいため、契約書で詳細なルールを定めることで、円滑なプロジェクト運営を可能にします。
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紛争解決: 国際共同研究に関する紛争は、高額かつ複雑化しやすいため、紛争が発生した場合の解決方法(準拠法、仲裁など)を事前に明確にしておくことが、リスク管理上非常に重要ですし、当社はこれを強く認識しています。
英文共同研究契約書の特徴と和文契約書との違い
国際的な共同研究取引では、多くの場合、英文で共同研究契約書が作成されます。その特徴は、日本の和文契約書とは異なる点がいくつかあります。
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Detailed Definition of Terms(用語の厳密な定義):
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「研究成果(Research Results)」「発明(Invention)」「共同発明(Joint Invention)」「背景知的財産(Background IPR)」「前景知的財産(Foreground IPR)」などの主要な用語が非常に厳密に定義されます。これにより、契約の解釈における曖昧さを排除し、特に知的財産権の帰属と活用に関する紛争を未然に防ぎます。
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Comprehensive IPR Ownership and Licensing Provisions(知的財産権の帰属とライセンスに関する包括的な規定):
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研究成果から生じる知的財産権の帰属(単独か共有か、共有の場合の持分)、各当事者の実施権(無償・有償、独占的・非独占的、地域制限の有無)、第三者へのライセンス供与の条件(同意要件、収益配分)が非常に詳細に規定されます。日本の共同研究契約書に比べ、単独実施権の規定や第三者ライセンスの同意プロセスが細かく定められる傾向が強いです。
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Foreground IPR and Background IPR Treatment(前景・背景知的財産権の明確な取り扱い):
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共同研究中に新たに生み出される知的財産権(前景知的財産権)と、共同研究開始前から各当事者が保有している知的財産権(背景知的財産権)が明確に区別され、それぞれの利用条件が詳細に規定されます。背景知的財産権の利用に関するライセンス条件(無償利用、限定的な利用など)は交渉の重要な焦点となります。
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Indemnification for IPR Infringement(知的財産権侵害に対する補償):
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共同研究の成果が第三者の知的財産権を侵害した場合の責任分担や、当事者の一方が契約違反により他方または第三者に損害を与えた場合の補償(Indemnification)に関する条項が詳細に規定されます。
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Confidentiality and Publication Controls(秘密保持と公表管理):
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開示される秘密情報の範囲、秘密保持義務の期間、例外規定、秘密情報の目的外利用の禁止が厳格に定められます。また、研究成果の公表(論文発表、学会発表、プレスリリースなど)に関する事前承認プロセスや、秘密情報の特定部分のマスキング義務なども詳細に規定されます。
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Limitation of Liability(責任制限):
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各当事者が負う損害賠償責任の範囲を制限する条項(例:特別損害や間接損害の除外、損害賠償額の上限設定)が、一般的に明記されます。これは国際取引におけるリスク管理の重要な要素です。
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Governing Law and Dispute Resolution(準拠法と紛争解決):
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国際共同研究では、特定の国の法律を準拠法とし(例:デラウェア州法、英国法、シンガポール法、日本法など)、国際仲裁を紛争解決手段として指定することが一般的です。仲裁地、仲裁機関、仲裁規則、仲裁人の数などが明確に定められ、紛争解決の予測可能性を高めます。
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Anti-Assignment Clause(譲渡禁止条項):
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共同研究契約上の権利義務を、相手方の書面による事前の同意なしに第三者に譲渡することを禁止する条項が通常含まれます。
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日本の和文共同研究契約書に比べ、英文共同研究契約書は、知的財産権の定義、帰属、活用に関する詳細な規定、前景・背景知的財産権の明確な区別、秘密保持と公表に関する厳格な管理、責任制限、そして準拠法と紛争解決に関する詳細な合意に関して、より詳細かつ厳密な記述が求められる傾向が強いです。翻訳においては、これらの法的・知的財産法上のニュアンスを正確に反映した表現を用いることが不可欠です。
共同研究契約書翻訳における重要ポイント
共同研究契約書の翻訳は、貴社のイノベーション戦略、知財戦略、リスク管理に直接影響するため、極めて高い精度と専門性、そして研究開発、知財、法務、経理部門など多岐にわたる視点が求められます。以下のポイントを押さえることが、成功への鍵となります。
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知的財産権の帰属(Ownership of IPR)と活用(Utilization)の厳密な翻訳
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共同研究から生じる発明やノウハウの帰属(単独か共有か、共有の場合の持分)、各当事者の実施権(無償・有償、独占的・非独占的、地域制限など)、第三者へのライセンス供与の条件(同意要件、収益配分)を、曖昧さなく厳密に翻訳することが不可欠です。特に、日本の「共有に係る特許権等の持分と実施」に関する規定と異なる国の法制度(例:米国における共同発明の取扱い)を正確に理解し、反映すべきです。この部分の誤訳は、将来の知財紛争や収益機会の逸失につながります。
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背景知的財産権(Background IPR)と前景知的財産権(Foreground IPR)の明確な区別と利用条件の翻訳
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共同研究開始前から各当事者が保有する背景知的財産権の共同研究における利用条件(ライセンスの要否、条件など)、および共同研究中に新たに生み出される前景知的財産権の帰属と活用方法を明確に区別し、翻訳することが極めて重要です。この区別が曖昧だと、将来の事業展開に大きな支障をきたす可能性があります。
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秘密保持(Confidentiality)と公表(Publication)に関する条項の慎重な翻訳
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開示される秘密情報の範囲、秘密保持義務の期間、例外規定、秘密情報の目的外利用の禁止、そして研究成果の公表(論文発表、学会発表、プレスリリースなど)に関する事前承認プロセス、秘密情報の特定部分のマスキング義務を慎重に翻訳することが不可欠です。適切な秘密保持は、企業の競争優位性を保つ上で不可欠であり、公表に関する規定は、研究者のアカデミックな活動と企業の利益とのバランスを考慮した翻訳が求められます。
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費用負担(Cost Allocation)と研究計画(Research Plan)の精緻な翻訳
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共同研究にかかる費用(人件費、設備費、材料費、旅費など)の各当事者の負担割合、支払い方法、精算方法を精緻に翻訳することが極めて重要です。また、具体的な研究計画、マイルストーン、進捗報告の方法、会議の開催頻度についても明確に翻訳し、プロジェクトの円滑な運営を可能にする必要があります。
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責任制限(Limitation of Liability)と損害賠償(Indemnification)の明確な翻訳
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各当事者が負う損害賠償責任の範囲を制限する条項(例:特別損害や間接損害の除外、損害賠償額の上限設定)を明確に翻訳することが不可欠です。また、契約違反や第三者への知的財産権侵害による損害発生時の責任分担についても正確に翻訳し、不測の事態に備えるべきです。
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準拠法(Governing Law)と紛争解決(Dispute Resolution)の正確な指定
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契約に適用される法律、そして紛争が発生した場合の解決方法(国際仲裁、調停、裁判など)、仲裁地の選定、仲裁機関、仲裁規則、仲裁人の数、仲裁判断の拘束力などを正確に翻訳することが不可欠です。国際共同研究では、自社にとって有利な準拠法や紛争解決地を指定することが戦略上重要であり、その内容を正確に把握すべきです。
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当社は、このような複雑な準拠法と紛争解決に関する条項の正確な翻訳を特に重視しています。
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AI翻訳の適切な活用と専門家による最終確認
AI翻訳技術は、初稿の作成や用語の統一に役立ちますが、共同研究契約書のような法的・技術的に極めて複雑な文書においては、知的財産法、独占禁止法、各国の研究開発慣習、そして専門的な技術用語を完全に理解することは困難です。AIを効率化ツールとして最大限活用しつつも、知的財産法務知識、研究開発に関する専門知識、および国際取引の実務経験を持つ専門の翻訳者による徹底したレビューと校正が不可欠です。人間による精査が、潜在的なリスクを最小限に抑え、安全な国際共同研究の基盤となります。
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強固な情報セキュリティ体制
共同研究契約書には、貴社のR&D戦略、未公開の技術情報、ノウハウ、将来の製品計画など、企業の競争力や事業の成否に直結する極めて機密性の高い情報が含まれることが一般的です。これらの情報が外部に漏洩した場合、企業の競争力低下、信用失墜、法的な責任問題など、甚大な損害を被る可能性があります。そのため、翻訳を依頼する際には、翻訳会社が厳格な情報セキュリティポリシーを定め、技術的・物理的・人的な対策を徹底しているかを必ず確認すべきですし、当社はこれを徹底しています。
共同研究契約書の翻訳は誰に必要なのか?ケーススタディで見る関係部門の役割
共同研究契約書は、グローバルなイノベーション創出と知財戦略を左右するため、多岐にわたる部門や関係者がその内容を理解し、翻訳された情報に基づいて連携することが不可欠です。
ケーススタディ1:日本の大手製薬企業と米国大学の共同研究
状況: 日本の大手製薬企業A社が、米国のトップ大学Bの医学部と、特定の疾患に対する新薬候補物質の共同研究開発を行うケース。英文の共同研究契約書を締結。
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研究開発部/R&D戦略部:
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必要性: 研究テーマと目的、期間、役割分担、具体的な研究計画、進捗管理方法、研究成果の定義を詳細に確認します。イノベーション創出と開発スケジュールに直結します。
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ケース: 契約書に記載された「新薬候補物質の探索と評価に関する具体的な研究計画とマイルストーン」、「各フェーズにおけるA社とB大学の担当範囲」、「研究期間の延長に関する条項」を和訳で確認し、研究の方向性と実行可能性を評価します。過去には、研究テーマの定義が曖昧だったため、研究成果の範囲で認識のずれが生じた事例がありました。当社は、このような研究テーマの正確な翻訳を特に重視しています。
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知的財産部:
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必要性: 研究成果から生じる知的財産権(特許、ノウハウ)の帰属(単独か共有か、共有の場合の持分)、出願・維持費用、各当事者の実施権、第三者へのライセンス供与の条件(ロイヤリティ配分など)を詳細に確認します。特に米国の大学との契約では、大学の知財ポリシーと整合しているかを検証します。
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ケース: 契約書に記載された「共同発明に関する特許出願の国と費用負担割合」、「A社とB大学それぞれの共同発明の実施権(例:A社は独占的、B大学は非独占的研究目的利用)」、「第三者へのライセンス供与時のロイヤリティ配分」を和訳で確認し、知財戦略と保護策を評価します。
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法務部:
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必要性: 契約全体の法的妥当性、背景知的財産権の取り扱い、秘密保持義務、広報活動の制限、損害賠償条項、責任制限、準拠法(デラウェア州法またはニューヨーク州法)、紛争解決条項の適切性を確認します。
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ケース: 契約書に記載された「研究成果に関する秘密情報の範囲と保持期間」、「論文発表に関する事前承認プロセス」、「デラウェア州法を準拠法とする紛争解決条項」を和訳で確認し、法的リスクとコンプライアンスを評価します。
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経理部/財務部:
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必要性: 共同研究費の負担割合、支払いスケジュール、精算方法、研究成果からの収益配分、国際税務上の影響などを確認します。
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ケース: 契約書に記載された「共同研究費用における人件費と設備費の負担割合」、「研究成果からのライセンス収益の配分率」を和訳で確認し、費用管理と収益予測を評価します。
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ケーススタディ2:欧州企業と日本企業によるIoT技術の共同開発
状況: ドイツの自動車部品メーカーC社と、日本のIoTソリューション企業D社が、次世代自動車向けコネクテッド技術の共同開発を行うケース。英文の共同研究契約書を締結。
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技術開発部/事業戦略部:
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必要性: 研究テーマと目的、期間、各社の役割分担、具体的な技術開発計画、評価基準を詳細に確認します。将来の製品開発と市場投入戦略に直結します。
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ケース: 契約書に記載された「コネクテッド技術におけるセンサー開発とデータ解析の各社の担当範囲」、「試作機の開発スケジュールとテスト基準」、「共同研究終了後の製品化に関するオプション(独占交渉権など)」を和訳で確認し、技術開発ロードマップと事業機会を評価します。
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知的財産部:
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必要性: 共同開発されるIoT技術の特許、ノウハウ、著作権の帰属、各国の出願戦略、維持費用負担、各社の実施権(クロスライセンスの有無)、第三者へのライセンス供与の条件を詳細に確認します。
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ケース: 契約書に記載された「共同発明に関する日本の特許法とドイツの特許法の比較と、それに合わせた共有持分と実施権の規定」、「バックグラウンドIP(既存のIoT技術)の共同研究での利用条件」、「共同開発されたソフトウェアの著作権の帰属と利用条件」を和訳で確認し、知財戦略と競合優位性を評価します。
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法務部:
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必要性: 契約全体の法的妥当性、独占禁止法(競争法)上の問題の有無、秘密保持義務、広報活動、損害賠償、責任制限、準拠法(英国法)、紛争解決条項の適切性を確認します。
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ケース: 契約書に記載された「共同研究成果の利用に関する独占禁止法上の制約の有無」、「研究成果の第三者への開示に関する厳格な制限」、「英国法を準拠法とする仲裁合意」を和訳で確認し、法的リスクとコンプライアンスを評価します。
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経理部/財務部:
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必要性: 共同研究費の負担割合、支払いスケジュール、研究成果からの将来的な収益配分、移転価格税制への影響などを確認します。
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ケース: 契約書に記載された「各社の開発費用負担の計算方法と精算タイミング」、「共同研究成果に基づく製品が販売された場合のロイヤリティ配分率」を和訳で確認し、費用管理と収益モデルを評価します。
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よくある質問(FAQ)
共同研究契約書の翻訳に関して、お客様からよくいただくご質問とその回答をまとめました。
Q1: 共同研究契約書における「知的財産権の帰属(Ownership of IPR)と活用(Utilization)」の条項は、翻訳でどのように注意すべきですか?
A1: この条項は共同研究契約の最も重要な核であり、将来の事業戦略に直結します。翻訳においては、共同研究から生じる発明やノウハウの帰属先(単独か共有か、共有の場合の持分)、各当事者がその発明をどのように実施できるか(無償・有償、独占的・非独占的、地域制限の有無)、そして第三者へのライセンス供与の条件(同意要件、ロイヤリティ配分)を、曖昧さなく厳密に表現することが不可欠です。特に、日本の特許法における共同発明の取り扱いと、米国などのCommon Law圏における共同発明の取り扱いには大きな違いがあるため、これらの法的ニュアンスを正確に捉え、日本の法務・知財部門が正確に理解できる表現にすることが極めて重要ですし、当社はこれを強く認識しています。
Q2: 「背景知的財産権(Background IPR)と前景知的財産権(Foreground IPR)」の区別と利用条件の翻訳で、特に注意すべき点は何ですか?
A2: 背景知的財産権は共同研究開始前から各当事者が保有している既存の技術やノウハウであり、前景知的財産権は共同研究によって新たに生み出される成果物です。翻訳においては、背景知的財産権を共同研究で利用する際のライセンス条件(無償利用、特定の範囲でのみ利用可能など)、および前景知的財産権の帰属と活用方法を明確に区別し、それぞれの利用条件を詳細に表現することが極めて重要です。この区別が曖昧だと、共同研究後の事業展開や知財戦略に大きな支障をきたす可能性があるため、細心の注意を払う必要があります。
Q3: 国際共同研究で、「秘密保持(Confidentiality)と公表(Publication)に関する条項」の取り扱いはなぜ重要視されますか?
A3: 秘密保持条項は、共同研究で開示される未公開の技術情報や事業計画などが外部に流出するのを防ぎ、企業の競争優位性を保つために不可欠です。翻訳においては、秘密情報の定義、保持義務の期間、例外規定、目的外利用の禁止を厳格に表現すべきです。また、共同研究の成果を論文やプレスリリースとして公表する際の事前承認プロセス、承認期間、秘密情報のマスキング義務に関する条項も重要です。研究者のアカデミックな活動と企業のビジネス上の利益とのバランスを考慮し、双方にとって実用的な内容となるよう、正確な翻訳と理解が求められます。
Q4: 共同研究契約における「責任制限(Limitation of Liability)と損害賠償(Indemnification)」の翻訳は、どのように注意すべきですか?
A4: これらの条項は、契約違反や第三者への損害発生時の各当事者の責任範囲を定めます。翻訳においては、特別損害や間接損害の除外(Exclusion of Consequential Damages)、損害賠償額の上限設定(Cap on Liability)といった責任制限の具体的内容を明確に表現することが不可欠です。また、共同研究の成果が第三者の知的財産権を侵害した場合や、当事者の過失により損害が発生した場合の責任分担、補償の範囲、通知義務についても正確に翻訳し、予期せぬリスクを回避するための条項の理解を深める必要があります。
Q5: 共同研究契約書で「準拠法(Governing Law)と紛争解決(Dispute Resolution)」の条項が非常に重要と言われるのはなぜですか?
A5: 準拠法は、契約の解釈・有効性・履行に適用される法律であり、紛争解決は問題発生時の解決プロセスを定めます。国際共同研究では、異なる国の知的財産法、独占禁止法、契約法などが絡むため、どの国の法律が契約全体に適用されるのか、特に知的財産権の帰属や侵害、秘密保持義務の違反に関する紛争が発生した場合にどの法律が適用されるのかを明確に合意しておくことが不可欠ですし、当社はこれを強く認識しています。また、紛争が生じた場合にどの国で、どのような方法(国際仲裁、調停、裁判など)で解決するのかを明確に合意しておくことが、予測可能性を高め、紛争解決のコストと時間を削減するために極めて重要ですし、自社にとって有利な条件を確保すべきです。翻訳においては、これらの条項を正確に理解し、必要に応じて現地の法律専門家と連携して最終確認を行うことが不可欠です。
まとめ
共同研究契約書の翻訳は、単なる言語の変換に留まらず、企業がグローバルなイノベーションを創出し、技術開発を推進し、同時に貴重な知的財産権を効果的に保護するための極めて重要なプロセスです。
英文と和文の契約書が持つそれぞれの特徴を深く理解し、研究開発、知財、法務、経理といった各部門が連携しながら、専門知識を持つ翻訳者の力を借りることが不可欠ですし、これまでの経験から当社はこれを強く認識しています。
特に、知的財産権の帰属と活用、前景・背景知的財産権の区別、秘密保持と公表管理、責任制限、そして準拠法と紛争解決といった条項は、潜在的な法的・知財リスクを最小限に抑え、グローバルな共同研究を成功させるための鍵となります。
当社は、このような複雑な共同研究契約書の翻訳において、貴社の各部門のニーズを理解し、最高品質の翻訳とサポートを提供することをお約束します。貴社の海外ビジネスにおける共同研究契約に関してご不明な点やご相談がありましたら、ぜひお気軽にお気軽にお問い合わせください。
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契約書翻訳に役立つリンク集
・法務省大臣官房司法法制部「法令翻訳の手引き」(PDF)
・日本法令外国語訳推進会議「法令用語日英標準対訳辞書」(PDF)
・Publiclegal(英文契約書のテンプレートや書式を無料で提供)
・日本法令外国語訳データベースシステム(法務省が開設した日本の法令の英訳サイト)
・weblio 英和辞典・和英辞典
・英辞郎 on the web
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