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2021 Apr. 01

訳しにくい英語・日本語|其の二

 

前回の記事「訳しにくい英語・日本語|其の一」では、私が訳しにくいと感じている4つの英単語をご紹介しました。

 

この記事では、訳しにくい日本語についていくつかご紹介します。

 

私はバイリンガル(=母語が日本語と英語)でも帰国子女でもなんでもなく、大人になってから英語の学習を始めています。そのため、当然ながら英語ネイティブと同じ感覚を持っていませんし、訳しにくいという感覚は推察の域を出ません。

 

よって、ここでご紹介する日本語は私自身が訳しにくいと感じているのものではありません。私が日英翻訳のチェック業務を通じて出会った、英語ネイティブが翻訳に苦労していた(であろう)日本語の一部です。

 

訳しにくい日本語

 

ものづくり

日本人の細部に対するこだわりやプライドを感じさせるこの言葉。英語にすると making things ですが、これではこだわりやプライドを伝えるにはシンプルすぎます。

 

たとえば craftmanship などを使って表現すると、意味は多少近づいてくるでしょう。ただし craftmanship には個人が手作業で少量のものをつくるイメージがあります。日本のものづくりは、大企業による大量生産にも使えるため、やはり一言ではカバーしきれないのかもしれません。

 

Wikipedia には ”Monozukuri” とあることからも1)、一言でシンプルに訳すのが難しい言葉と言えます。

 


風情がある

前にこの言葉の意味を英語ネイティブから聞かれ、答えに苦心したことがあります。

プログレッシブ和英中辞典で「風情がある」を調べると、elegant(優雅な)や tasteful(趣のある)、poetic(詩的な)という英語が当てられています。

確かに「風情がある」の訳語として必ずしも間違ってはいないと思いますが・・・何か物足りない気がしないでしょうか。

広辞苑 第六版で「風情」の意味を調べると次のようにあります。

 

1. おもむき。あじわい。情緒。
2. 表情。容姿。様子。
3. (~のような)具合

なにかあじわい深い様子を見て「風情がある」と思ったとき、自分の中になにかが呼び起こされた感覚を覚えます。呼び起こされているのは「なつかしい」体験や記憶であり、そうした体験や記憶が目の前の様子と触れ合ったとき、「風情がある」という感情を抱くのかもしれません。

 

呼び起こされるものが体験や記憶である限り、「風情がある」対象は人それぞれということになります。

 

よって、「風情がある」を英訳するならば、たとえば origin(起源)という英語を使って make someone feel his/her origin などと表現できる場合もあるのではないでしょうか。

 


筋を通す

「筋を通す」という言葉は一般的に、道理にかなうようにする、首尾一貫させる、しかるべき手続きをふむ、などと言う意味で使われていることが多いです。

 

広辞苑 第六版には次のようにあります。

 

道理を通す。ものごとの首尾を一貫させる。

 

この意味を英訳すると、make sense/be consistent in action/proceed in a logical manner(合理的に事を進める)/go through the proper channel(適切なやり方で行う)などが候補になるでしょう。

 

ただ・・・やはりなにか大事な意味が欠けている気がしませんか?こうした英訳が間違っていると言いたいのではなく、むしろ適切な場合もあると思います。

 

それでも、特に人間関係において「筋を通す」と言えば、「合理的に適切に進める」という意味ももちろんあるのかもしれませんが、もう少し情緒的・人情的なものが意味に加わっているとは考えられないでしょうか。

 

たとえば約束を躊躇なく撤回したり、考え方をコロコロと変えたり、なかなか決断しなかったりする「筋を通さない」人がいたとします。その人を別の言葉で形容するとすれば、「義理に欠ける」「信頼できない」「優柔不断」という言葉が当てはまります。

 

逆に考えれば「筋を通す」人は、「道理(人の行うべき正しい道)を重んじ」「信頼に足り」「貫き通す覚悟がある」人であり、一貫性と正義感を持つ人と言えるのではないでしょうか。

 

よって、特に人間関係における「筋を通す」を英訳するのであれば、principle(行動の原則、指針)を持ちそれに従って生きることと捉え、stick to one's principles などとするのもいいかもしれません。

よろしくお願いします

日本人が多用する言葉の一つであり、最も訳しにくい言葉の一つでしょう。

 

メールの文末にある「よろしくお願いします」はいわば型のようなもの。英訳するのであれば、送信相手との人間関係に応じて yours trulysincerelyregards、もっと簡単に thank you などがあります。

 

メール以外の状況では、一体何を「よろしく」しているのか、意味を理解しなければ訳すことはできません。

 

この「よろしく」は「物事がうまく運ぶように考えて処理すること=取り計らうこと」を意味し、「よろしくお願いします」は「取り計らってください」という意味です。

 

何かお願いするときの「よろしくお願いします」は、お願いしたことをうまく取り計らってください、という意味ですね。Thank you in advance がしっくりきます。

 

初めて会ったときに使う場合は、これからうまくやっていきましょうという意味です。Nice to meet you ですね。

 

誰かにアポイントをとって、会う時間をもらった時。時間をくれたことへの感謝とこの時間を有意義にしましょうという意味で、thank you for taking time to meet などでしょうか。

 

このように「よろしくお願いします」の奥にある「何を取り計らうことを望んでいるのか」を理解しない限り、良い英訳は望めません

 

余談ではありますが、自分でも何を望んでいるか明確に理解しないで「よろしくお願いします」と反射的に無意識に言ってしまうことはありませんか?少なくとも私はそういうことがあります。

 

そしてその相手からも「こちらこそ、よろしくお願いします」と返答されることも。

 

さまざまな場面で何気なく使うことが多いがゆえに、形骸化してしまいがちなのもこの「よろしくお願いします」。こういう「よろしくお願いします」に翻訳中に出会ってしまったら・・・厄介だろうな・・・。

 

 

御社/弊社

これは訳しにくいというよりは、むしろ訳せないと言った方がいいかもしれません。

 

日本社会では尊敬と敬意が大事で、それはビジネスでも同じですが、英語においては「御社」「弊社」などの相手に合わせて立場を上げ下げするシンプルな表現はありません。

 

長く説明すればできないことはないでしょうが、それはそれで原文である日本語の流れを損なってしまいます。

 

結局のところ「御社」は your company/you、弊社は our company/we となりますが、少なからず意味合いは違うでしょう。

 

 

さいごに

前回の記事と合わせて「訳しにくい英語・日本語」をご紹介しました。

 

ここに挙げたのはほんの一例で、まだまだたくさんあります。

 

ビジネスにおける翻訳だけでなく、日常会話や通訳の現場で出会う「訳しにくい言葉」も含めたら、それこそ膨大な数になるでしょう。

 

日頃、英語と日本語に向き合い「訳しにくい言葉」と向き合っていると、むしろすっきりと翻訳できる言葉の方が、例外的なのではないかと思うことさえあります。

 

言葉は文化であり、思想と感受性が反映されています。その言葉が表す考え方や感じ方を、そっくりそのまま意味を損なうことなく、ほかの国の言葉に移し替えるのは非常に難しい。

 

「訳しにくい」

 

それは当たり前のことなのかもしれません。

 

この記事と前回の記事で見てきたとおり、辞書に載っている訳語がその言葉のすべてを表しているわけないし、決して言葉と別の国の言葉は「一対一対応」しているものではない。

 

辞書に載っている訳語は、編纂した方々が苦労して集めた「そっくりさん」たち。

 

そういう前提で、辞書の言葉を鵜呑みにすることなく、書き手の伝えたいことと読み手に伝わりやすい言葉を必死で考えていくことが、翻訳をつくるということなのだと思います

 

そう考えると、「訳しにくい」言葉との出会いは、翻訳者の腕の見せ所なのかもしれません。

執筆:田村嘉朗
大手通信会社ロンドン支社勤務を経て、2013年より翻訳者として活動
専門は通信、マーケティング

  1. 参考URL

     

    1. 1. Monozukuri from Wikipedia

    https://en.wikipedia.org/wiki/Monozukuri

     

    参考書籍

     

    越前敏弥 『この英語、訳せない』 ジャパンタイムズ出版

    ノーアム・カッツ 『英語にない日本語 日本語にない英語』 宝島社

    大來尚順 『訳せない日本語 ~日本人の言葉と心~』 アルファポリス

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