近年、企業活動において「持続可能性」というキーワードが非常に重要視されています。SDGs、サステナビリティ、ESGといった言葉を耳にする機会も増えましたが、それぞれの意味や違いを正確に理解していますか?そして、それらの情報をグローバルに発信する際の「翻訳」においては、どのような点に注意すべきでしょうか?
今回は、これらの概念の明確な違いと、それぞれのレポートを翻訳する際に当社が特に重視するポイントについて詳しく解説します。
サステナビリティ、SDGs、ESGレポートの違い
項目 | サステナビリティ(持続可能性) | SDGs(持続可能な開発目標) | ESG(環境・社会・ガバナンス) |
---|---|---|---|
概念 | 広範で長期的な「持続可能」な社会の考え方 | 国際社会共通の具体的な目標(2030年まで) | 企業価値評価の非財務側面における3つの要素 |
範囲 | 環境、社会、経済を含む包括的な概念 | 貧困から気候変動まで17の具体的な目標 | 環境、社会、企業統治の3つの側面 |
目的 | 持続可能な社会・企業活動の実現 | 世界の課題解決への貢献 | 投資判断、企業価値向上、リスク管理 |
レポート | 企業全体の持続可能性に関する総合報告書 | SDGsへの貢献をまとめたもの(任意) | 特に投資家向けの非財務情報開示報告書 |
簡単に言うと、
- サステナビリティ は「持続可能であること」という大きな概念。
- SDGs はそのサステナビリティを実現するための「具体的な目標リスト」。
- ESG は企業がサステナビリティに取り組む際の「評価軸」であり、特に投資家が注目する非財務情報。
そして、これらの取り組みを外部に開示する報告書がサステナビリティレポートやESGレポートと呼ばれ、SDGsへの貢献内容はそれらのレポートの中に組み込まれる形で報告されることが一般的です。最近では、財務情報と非財務情報を統合した「統合報告書」として発行する企業も増えています。
1. 概念の違いを理解する:SDGs、サステナビリティ、ESG
まずは、これらの言葉が指す「概念」の基本的な違いから見ていきましょう。
SDGs (Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)
概念: 2015年に国連で採択された、2030年までに国際社会が達成すべき具体的な目標です。「誰一人取り残さない」を原則に、貧困、飢餓、健康、教育、ジェンダー平等、気候変動など、地球規模の社会・環境・経済課題を解決するための17の目標と169のターゲットで構成されています。
特徴:
- 国際共通目標: 全ての国や地域、企業、個人が取り組むべき普遍的な目標です。
- 期限と具体性: 2030年という明確な期限と、具体的な数値目標が設定されています。
- 目標達成への貢献: 企業は、自社の事業活動がどのSDGs目標に貢献しているかを特定し、その進捗を開示します。
サステナビリティ (Sustainability:持続可能性)
概念: 「現在世代のニーズを満たしつつ、将来世代のニーズを損なわない開発」という考え方に基づき、環境、社会、経済の3つの側面が健全な状態で長期的に存続できる社会を目指す、より広範で抽象的な概念です。企業の経営においては、事業活動を通じて社会全体の持続可能性に貢献しようとする姿勢や取り組み全般を指します。
特徴:
- 包括的な考え方: SDGsよりも広い意味を持ち、期限を設けない永続的な視点が含まれます。
- 企業の社会的責任(CSR)の進化形: 企業が社会や環境に対して負う責任を、より戦略的かつ経営の中心に据える考え方です。
- 多様なステークホルダーへの配慮: 従業員、顧客、取引先、地域社会、そして地球環境全体といった、幅広い関係者への影響を考慮します。
ESG (Environment, Social, Governance)
概念: 企業の長期的な成長のために考慮すべき非財務情報(財務諸表には表れない情報)の評価軸を表す言葉です。特に投資家が企業を評価する際の重要な基準として用いられます。
- E (Environment: 環境): 気候変動対策、資源効率化、汚染防止、生物多様性保全など、環境への配慮に関する取り組み。
- S (Social: 社会): 人権尊重、労働環境、サプライチェーン管理、地域社会への貢献、多様性と包摂性(D&I)など、社会的な責任に関する取り組み。
- G (Governance: ガバナンス): 透明性の高い企業統治、役員報酬、情報開示、贈収賄防止、コンプライアンスなど、健全な経営体制に関する取り組み。
特徴:
- 投資の評価軸: ESG投資の拡大に伴い、投資家が企業の持続可能性とリスクを評価するために不可欠な要素です。
- 財務との関連性: ESG要素への取り組みが、企業の長期的な収益性やリスクマネジメントにどう影響するかという視点が重視されます。
- データと指標: 各要素について、具体的なデータや指標を用いて企業の取り組みが評価されます。
2. レポートの種類とその主な目的
これらの概念に基づき、企業が外部に情報開示する際の報告書は、主に以下のように呼ばれます。
SDGsレポート
- 目的: 企業がSDGsの17目標に対して、具体的にどのような貢献をしているか、その進捗や成果を株主、顧客、従業員、地域社会などに示すことを目的とします。
- 特徴: サステナビリティレポートの一部として組み込まれることが多く、特定の国際的な形式は厳密にはありませんが、SDGsロゴの使用ルールなどがあります。
サステナビリティレポート
- 目的: 企業が「持続可能な社会の実現」に向けて、環境、社会、ガバナンス(ESG)の側面でどのような取り組みを行っているかを総合的に開示する報告書です。幅広いステークホルダーへのコミュニケーションを目的とします。
- 特徴: GRIスタンダード(Global Reporting Initiative Standards)などの国際的なガイドラインに沿って作成されることが多く、CSRレポートや環境報告書を統合する形でこの名称を用いる企業が増えています。
ESGレポート
- 目的: 主に国内外の投資家や金融市場の関係者に対し、企業のESGに関する取り組みとその成果、リスク・機会に関する情報を開示する報告書です。投資判断に資する情報提供が中心となります。
- 特徴: サステナビリティレポートとほぼ同義で使われることもありますが、より投資家目線での非財務情報開示に重点を置く傾向があります。TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言など、特定のフレームワークに準拠して作成されることが増えています。
3. 翻訳における異なる注意点と重視すべきポイント
これらのレポートはそれぞれ目的や読者層が異なるため、翻訳する際にはその特性を理解し、きめ細やかな対応が求められます。
SDGsレポートの翻訳で重視する点
SDGsレポートを翻訳する際は、国連が定める公式訳や推奨される用語の厳密な使用が最も重要です。
- 公定訳の遵守: SDGsの17目標、169ターゲット、および関連する主要なキーワード(例:「貧困」「飢餓」「気候変動対策」など)は、ターゲット言語において国連が定めた公式訳または広く普及している訳語に厳密に準拠します。これにより、国際的なコミュニケーションにおける誤解を防ぎ、メッセージの一貫性を保ちます。
- 普遍的な表現: 特定の国や地域の文化に偏りすぎず、世界中の誰もが理解できる普遍的で平易な言葉遣いを心がけます。「誰一人取り残さない」といったSDGsの核となるメッセージが、翻訳後もターゲット読者に共感を呼ぶように、ニュアンスを正確に伝えます。
- 目標への紐付けの明確化: 企業活動がどのSDGs目標に貢献しているかの説明は、その因果関係や具体例が翻訳後も明確かつ分かりやすく表現されているかを確認します。
サステナビリティレポートの翻訳で重視する点
サステナビリティレポートの翻訳では、広範な情報と多様なステークホルダーへの配慮が鍵となります。
- 包括的な専門性: 環境、社会、ガバナンスの各側面における多様な専門用語(例:サプライチェーン・デューデリジェンス、人権、労働安全衛生、環境マネジメント、廃棄物管理、企業倫理など)を正確に翻訳する知識が必要です。GRIスタンダードなどの国際的な報告フレームワークで推奨される用語や表現を理解し、適切に使用します。
- トーン&マナーの一貫性: 企業としての社会的責任やブランドイメージを損なわないよう、翻訳全体で一貫したトーンとマナーを保ちます。単なる情報開示だけでなく、企業の姿勢や理念がターゲット読者に伝わるように、表現の工夫も行います。
- 分かりやすさとのバランス: 専門用語を使用しつつも、投資家だけでなく、従業員、顧客、地域住民など、多様な読者層が理解しやすいよう、平易な表現とのバランスを取ります。
ESGレポートの翻訳で重視する点
ESGレポートの翻訳で最も重視されるのは、投資家目線での客観性、正確性、そして専門性です。
- 投資家への的確な情報提供: 主な読者である国内外の機関投資家やアナリストが、企業のESG情報を基に投資判断を行うため、情報が正確かつ客観的に伝わる翻訳が不可欠です。曖昧さや誤解を招く表現は厳禁です。
- 金融・サステナブルファイナンス用語の厳密性: 「マテリアリティ(重要課題)」「リスクと機会」「バリューチェーン」「TCFD」「SBT」など、投資およびサステナブルファイナンス分野の専門用語は、業界で一般的に用いられる厳密な定義と整合性のある訳語を選定します。
- 開示フレームワークへの準拠: TCFD提言やSASBスタンダードなど、特定の国際的な開示フレームワークに準拠している場合、それぞれのフレームワークが求める開示内容と形式に沿った翻訳が求められます。これらのフレームワークは、特定の表現を推奨しているため、それに従うことで国際的な比較可能性を確保します。
- 数値データと指標の正確な表示: 財務・非財務データ、KPI(重要業績評価指標)の翻訳は、単位や基準を含め、わずかな誤りも許されません。必要に応じて、国際的な表示慣習に合わせることも重要です。
まとめ:専門性と戦略的アプローチが鍵
SDGs、サステナビリティレポート、ESGレポートの翻訳は、単に言葉を別の言語に置き換える作業ではありません。それぞれのレポートが持つ目的、読者層、そして背景にある国際的な基準や概念を深く理解し、それに合わせた戦略的なアプローチが求められます。
当社では、各分野に精通した専門翻訳者が、貴社のメッセージがターゲット読者に正確かつ効果的に伝わるよう、細部にまでこだわった翻訳を提供しています。グローバルな情報開示の重要性が増す中で、翻訳の品質が企業の信頼性やブランドイメージに直結することを当社は深く認識しています。
これらのレポートの翻訳をご検討の際は、ぜひ一度当社にご相談ください。貴社のグローバルな情報開信を強力にサポートいたします。
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