日本で普段使っているスマホのアプリやWebサービスが、海外に行くと急に使えなくなる――そんな経験はありますか?特に中国本土では、この状況が当たり前のように起こります。
「Googleマップで道案内ができない!」
「LINEで連絡が取れない!」
「仕事のSlackが見られない!」
これは、中国が導入している独自のインターネット検閲システム「グレート・ファイアウォール(金盾)」が原因です。知らずに渡航すると、情報収集もコミュニケーションもままならず、大きな不便を強いられることになります。
今回は、中国で使えない主要なサービスとその理由、そして中国渡航時に知っておくべき対策と、中国で主流の代替サービスについて網羅的に解説します。
なぜ?中国独自のインターネット規制「グレート・ファイアウォール」とは
中国政府は、国内のインターネット環境を管理し、情報の流通を制限するために「グレート・ファイアウォール」と呼ばれる厳格な検閲システムを運用しています。これにより、政府が「不適切」と判断する特定のWebサイトやサービスへのアクセスが制限・遮断されています。
このシステムは、単に特定のサイトをブロックするだけでなく、通信内容の監視や速度制限なども行われるため、たとえ一部アクセスできても、非常に不安定になることがあります。
使えない!中国でブロックされている主要サービス
日本で日常的に使われている以下のようなサービスは、中国本土では基本的に利用できません。
1. Googleの全サービス
Googleは、そのサービスの思想や情報の扱いの違いから、中国政府の規制対象となっています。
- Google検索: ほとんどの検索クエリでアクセス不能。情報収集の要が使えません。
- Gmail: メール送受信ができず、ビジネスやプライベートの連絡に支障が出ます。
- YouTube: 動画コンテンツが視聴できません。Vlogのチェックや動画での情報収集が不可に。
- Google マップ: 地図情報やナビゲーションが利用できません。道に迷うリスクが高まります。
- Google ドライブ / ドキュメント / スプレッドシート: クラウド上のファイルにアクセスできず、共同作業も不可能です。
- Google Play ストア: Androidユーザーはアプリのダウンロードや更新ができません。
2. 主要SNSとメッセージアプリ
友人や家族との連絡、情報収集の命綱となるSNSも、ほとんどが使えません。
- Facebook / Instagram: 日常の投稿や写真のシェアができません。
- X (旧Twitter): リアルタイムの情報収集や発信ができません。
- LINE: 日本で最も使われるメッセージアプリですが、中国では通話・メッセージともに使えません。
- WhatsApp: アクセスできることもありますが、通信が不安定な場合が多いです。
3. ビジネスコミュニケーション・プロジェクト管理ツール
仕事で利用する主要なSaaSツールも、安定した利用が難しいことが多いです。
- Slack: アクセスが不安定で、メッセージの送受信やファイルの同期に遅延が発生しがちです。リアルタイムの連携が困難になります。
- Asana / Trello / Jira: プロジェクト管理ツールも同様に接続が不安定になることがあります。共有タスクの更新や確認がスムーズにできません。
- Zoom: かつて一時的にブロックされたこともありますが、現在は比較的利用できます。しかし、地域や時期によっては接続が不安定になるケースも報告されています。
使える?意外と知られていないMicrosoft製品の立ち位置
Googleサービスとは対照的に、Microsoftの一部の製品は中国本土で比較的利用しやすい傾向にあります。
- Windows OS: 中国のPC市場で圧倒的なシェアを持ち、問題なく利用可能。
- Microsoft Office (Word, Excel, PowerPoint): デスクトップ版はオフラインでも利用できるため、基本的に問題ありません。
- Office 365 (Microsoft 365): 中国国内にデータセンターを設置し、現地の規制に準拠した「Office 365 Operated by 21Vianet」というサービスが存在するため、クラウドサービスも比較的安定しています。
- Skype: 音声・ビデオ通話が利用できます。
- Edgeブラウザ / OneDrive: 利用可能です。
ただし、Bing検索は利用できるものの、中国政府の検閲基準に従った検索結果が表示されます。また、GitHubも、特定の政治的な内容を含むリポジトリはブロックされることがあります。
中国渡航前に知っておきたい「VPN」と代替サービス
これらの制限を回避し、中国でインターネットを快適に利用するためには、以下の対策が不可欠です。
1. VPN(仮想プライベートネットワーク)の準備
- ほぼ必須のツール: グレート・ファイアウォールを回避し、ブロックされたサービスにアクセスするための最も一般的な方法です。インターネット接続を暗号化し、中国国外のサーバーを経由することで、検閲をすり抜けます。
- 【超重要!】渡航前の設定: 中国に渡航してからVPNを契約・設定するのは非常に困難です。日本など中国国外で、信頼できるVPNサービスを契約し、スマホやPCにインストール、設定まで完了させておくことが絶対条件です。
- VPNの安定性: 全てのVPNが中国で安定して使えるわけではありません。中国政府による規制強化の動きによって、一時的に接続が切れたり、速度が低下したりすることもあります。
2. 中国で主流の代替サービスを把握する
現地でスムーズに活動するためには、中国独自の代替サービスを知り、場合によってはアカウントを作成しておくことが重要です。
- 連絡手段の要:WeChat (微信):
- 中国最大の「スーパーアプリ」。メッセージング、音声・ビデオ通話、ソーシャルフィード、そして**モバイル決済(WeChat Pay)**まで、日常のあらゆるシーンで使われます。訪日中国人観光客も日本でWeChat Payを利用することが多いため、事業者側も対応が必須です。
- 企業や店舗が情報発信する「公式アカウント」や、予約システムなどを構築できる「ミニプログラム」も重要です。
- 情報収集と動画:Douyin (抖音 - 中国版TikTok) と Weibo (微博):
- Douyin: ショート動画で商品やサービスを紹介し、口コミや購買意欲を刺激するのに非常に効果的です。若年層に圧倒的な人気。
- Weibo: 中国版X(旧Twitter)で、最新ニュースやトレンド、有名人の動向がリアルタイムで共有され、情報拡散の場として影響力が高いです。
- ライフスタイル・口コミ:Xiaohongshu (小紅書):
- 「中国版Instagram」とも呼ばれ、特に女性ユーザーに人気。旅行やグルメ、ファッションに関するリアルな口コミが重視されます。インバウンドでは、ユーザーに日本の体験を投稿してもらうことで、信頼性の高い口コミ拡散を狙えます。
- ビジネスコミュニケーション:
- WeChat Work (企业微信): WeChatの企業版で、多くのビジネス機能が統合されています。
- DingTalk (钉钉): Alibaba提供の多機能な企業向けコラボレーションツール。
- Feishu (飛書): ByteDance提供のオールインワンコラボレーションスイート(海外版はLark)。
- 検索・地図:
- Baidu (百度): 中国で最も使われている検索エンジン。
- Baidu Maps (百度地图): 中国国内の地図情報やナビゲーション。
まとめ:知っていれば怖くない!中国のインターネット環境
中国のインターネット環境は、日本とは大きく異なります。しかし、この特殊性を理解し、適切な準備と代替サービスの知識を持っていれば、大きな支障なく過ごすことができます。
特にインバウンドビジネスに携わる企業にとっては、訪日中国人観光客が普段使いしているSNSや決済ツールを把握し、それらに対応することが、顧客獲得と満足度向上に直結します。
「使えない」という壁を理解し、賢く対策することで、中国とのコミュニケーションもビジネスも、よりスムーズに進むはずです。
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