東南アジアにおける経済成長の牽引役であるタイは、日本企業にとって長年にわたる重要なビジネスパートナーです。製造業を中心に多くの日系企業が進出し、そのビジネスは多岐にわたります。
しかし、この国でのビジネスを円滑に進める上で、「英語契約書があれば十分」という認識は、しばしば予期せぬリスクに繋がります。なぜなら、タイは独自の法体系と商習慣を持つ国であり、その法制度が欧米諸国はもちろん、アジアの他国とも異なる特性を持つからです。
特にタイ語契約書の翻訳は、単なる言語の置き換えに留まらず、タイ民商法典(ประมวลกฎหมายแพ่งและพาณิชย์ / Civil and Commercial Code of Thailand)、外資規制(Foreign Business Act)、労働保護法(Labor Protection Act)といったタイの法制度への深い理解が不可欠です。これらの要素を無視した翻訳は、契約の解釈、履行、そして将来的な紛争解決において深刻な問題を引き起こす可能性があります。
長年の国際契約書翻訳の経験に基づき、日本企業がタイ企業と契約を交わす際に直面する「タイ語契約書 翻訳」の重要性、その特有の法的背景、準拠法、紛争解決、そして言語戦略の観点から、具体的な対応策を深掘りして解説します。タイでのビジネスを安全かつ確実に展開し、その潜在能力を最大限に引き出すための羅針盤となる情報を提供します。
1. 知っておくべきタイの法体系:大陸法をベースとしながらも独自の発展
タイの法体系を理解することは、タイ語契約書を取り扱う上で最も重要な前提となります。タイは大陸法系の国であり、特にドイツ法やフランス法の影響を受けていますが、独自の歴史的経緯と社会情勢の中で発展してきました。
タイ民商法典と主要な法律
タイの法律の中心はタイ民商法典(ประมวลกฎหมายแพ่งและพาณิชย์)であり、契約法、物権法、家族法、相続法など広範な分野をカバーしています。契約書を作成・解釈する上で、この民商法典の原則を理解することが不可欠です。
その他、ビジネスに大きな影響を与える主要な法律には以下のようなものがあります。
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外国人事業法(Foreign Business Act / FBA): 外国企業がタイ国内で事業を行う際の業種制限や資本規制を定めています。多くの事業で外国人事業ライセンス(FBL)の取得が必要となり、投資家の国籍によって異なる規制が適用される場合もあります。契約の有効性に直結するため、FBAの理解は必須です。
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労働保護法(Labor Protection Act): 労働者の権利保護が手厚く、解雇規制、労働時間、最低賃金などに関する詳細な規定があります。雇用契約書や関連する合意は、この法律に厳密に準拠する必要があります。
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競争法(Competition Act): 独占、カルテル、市場支配的地位の濫用などを規制します。販売代理店契約や合弁事業契約において特に留意が必要です。
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消費者保護法(Consumer Protection Act): 消費者の権利保護を目的とし、契約の不公正条項などが無効とされる可能性があります。
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個人情報保護法(Personal Data Protection Act / PDPA): EUのGDPRを参考に制定され、個人情報の取得、利用、管理、移転に関する厳格なルールを定めています。データを取り扱う契約ではPDPAへの適合が必須です。
商習慣と文化的背景
法制度の違いに加えて、タイの商習慣や文化的背景も、契約の交渉や履行に影響を与えます。
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人間関係と「クレングジャイ」: タイでは人間関係(คอนเนคชั่น / Connection)や相互の信頼が非常に重視されます。「クレングジャイ(เกรงใจ / Kreng Jai)」という概念(相手への遠慮や配慮)は、交渉や問題解決の場面で独特の文化として現れます。直接的な対立を避ける傾向があるため、契約書の文言だけでなく、当事者間の良好な関係構築が重要です。
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柔軟性と融通性: 状況に応じて契約内容に柔軟性を持たせることを好む傾向があります。細かすぎる規定は、時に窮屈に感じられることもあります。
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口頭合意の限界: 商習慣上、口頭での約束も重要視される場面がありますが、最終的には書面化された契約書が法的効力を持つことを認識しておく必要があります。
2. 契約の「羅針盤」:準拠法(กฎหมายที่ใช้บังคับ / Kotmai thi Chai Bangkhap)の選び方
タイ語契約書の解釈、有効性、履行、そして違反時の法的効果などを決定するために適用される法律、それが準拠法です。日本企業とタイ企業間のタイ語契約書において、この準拠法の選択は、契約関係の方向性を決定づける最も重要な要素の一つです。
選択肢とそれぞれの特徴・留意点
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日本法を準拠法とする場合
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メリット: 日本企業にとって最も馴染み深く、自社の法務部門や顧問弁護士がタイ語契約書の日本語訳内容を容易に理解し、リスクを評価できます。予測可能性が高く、国内の法務リソースを最大限に活用できます。
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デメリット: タイ企業にとっては外国法となるため、内容の理解に専門的なサポートが必要となり、交渉が難航する可能性があります。また、万が一紛争がタイで発生し、現地の裁判所が関与する場合、外国法(日本法)の適用や強制執行には、時間とコスト、そして手続き上の複雑さが伴うことがあります。特に、タイの強行法規(例えば、外国人事業法や労働保護法)と矛盾する条項は、現地の裁判所によって無効と判断されるリスクがあります。
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タイ法を準拠法とする場合
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メリット: 相手方企業にとっては自国法であり、理解しやすいため、タイ語契約書として締結することで国内での法的執行が比較的スムーズに進む可能性があります。タイでのビジネス展開を重視する場合や、相手方企業側の交渉力が強い場合に選択されることがあります。
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デメリット: 日本企業にとっては、タイの法律に関する専門知識が不可欠です。タイ民商法典、外国人事業法、労働保護法など、日本の法体系とは異なる部分が多く、現地の法務実務や商慣習を深く理解していなければ、予期せぬ落とし穴にはまるリスクがあります。特に、外資規制、労働法規制、投資奨励制度(BOI)など、タイ法特有のルールを把握しておく必要があります。タイ語契約書の条文がタイ語であるため、より一層の専門知識と正確なタイ語契約書 翻訳が求められます。
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第三国法を準拠法とする場合
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メリット: 英国法(特にイングランド法)や米国ニューヨーク州法など、国際商取引で広く受け入れられている法律を選択するパターンです。これらの法律は国際的な判例が豊富に蓄積されており、契約解釈の予測可能性が高いという大きなメリットがあります。どちらの当事者にとっても外国法であるため、中立性が保たれやすいと認識されることもあります。
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デメリット: 当事者双方にとって外国法となるため、双方ともにその法律に精通した専門家(国際弁護士など)のサポートが必須となり、法務コストが増大する可能性があります。また、第三国法がタイの強行法規と大きく異なる場合、タイの裁判所での執行に課題が生じる可能性も考慮に入れる必要があります。
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準拠法選択の経験的アドバイス
準拠法の選択は、取引の性質、当事者の交渉力、取引額、リスクの度合い、そして将来的な紛争発生時の執行の容易さなどを総合的に考慮して決定すべきです。タイでの事業活動が主となる場合、タイ法を準拠法とするケースも多く見られますが、その際はタイ法に精通した弁護士によるリーガルチェックが必須です。また、中立性や国際的な執行可能性を重視し、国際仲裁と組み合わせる形で第三国法(例:シンガポール法)を選択するケースも多く見られます。
3. 万が一の「出口戦略」:紛争解決(การระงับข้อพิพาท / Kan Rangap Kho Phiphat)の選択肢
どれだけ完璧なタイ語契約書を作成しても、予期せぬ事態や解釈の相違から紛争が発生する可能性はゼロではありません。そのため、契約締結時に、紛争が起きた際の解決方法を具体的に定めておく「出口戦略」は極めて重要です。
主要な紛争解決手段
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友好的解決・調停(การเจรจาและการไกล่เกลี่ย / Kan Jeraja Lae Kan Klai Klia)
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タイでは、紛争を裁判に持ち込む前に、当事者間の話し合いや調停(通常、中立な第三者機関や個人の仲介)による解決を試みることが一般的です。契約書においても、まずは友好的な解決を試みる旨の条項が設けられることがあります。
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裁判(ศาล / San)
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日本の裁判所: 日本企業にとっては有利な立場ですが、タイ企業が判決に従わない場合、現地でその判決を強制執行するには、別途「外国判決の承認及び執行」という複雑な手続きが必要です。タイにおける外国判決の承認・執行は、特定の条件が厳しく、時間とコスト、不確実性が伴うことが多いです。
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タイの裁判所: 現地での執行は比較的容易ですが、日本企業にとっては現地の司法制度に関する知識や、タイ語契約書の解釈において言語の壁が存在します。現地の法務知識と裁判実務に精通した弁護士の存在が不可欠であり、日本の常識が通用しない場面も想定されます。
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国際仲裁(อนุญาโตตุลาการระหว่างประเทศ / Anuyatotulakan Rawang Prathet)
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国際商取引における紛争解決手段として、最も推奨される選択肢の一つです。特に日本とタイのように法制度が異なる国同士の取引でその優位性が際立ちます。
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メリット:
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中立性: 特定の国の司法制度に依存せず、中立的な仲裁地(シンガポール、香港、ロンドンなど、そしてタイ仲裁センター(Thailand Arbitration Center / THAC)など)と国際的に信頼性の高い仲裁機関を選択できます。これにより、特定の国の裁判所での「ホームアドバンテージ」を避けることができます。
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専門性: 複雑な商取引や技術的な紛争において、その分野の専門知識を持つ仲裁人を選任することが可能です。
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執行可能性: 最も重要なメリットの一つです。日本もタイもニューヨーク条約(外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約)の加盟国であるため、一国の仲裁機関で下された仲裁判断は、加盟国である相手国でも比較的容易に強制執行することができます。これにより、外国での判決執行の困難さを克服できます。
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秘密保持: 仲裁手続きは原則非公開であり、ビジネス上の機密情報が守られやすいです。
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迅速性: 原則として、仲裁判断は最終的なものであり、二審制や三審制のような上訴手続きがありません。これにより、迅速な紛争解決が期待できます。
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注意点: 仲裁条項の作成には専門知識が必要です。仲裁機関、仲裁地、仲裁言語、仲裁人の数などを具体的に定める必要があります。
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紛争解決条項設定の経験的アドバイス
日本企業とタイ企業間のタイ語契約書では、国際仲裁を選択することが最も実用的で安全な選択肢と言えます。特に、ニューヨーク条約の枠組みを利用することで、相互の執行可能性を高めることができます。仲裁地としては、中立性が高く、国際仲裁の実績が豊富なシンガポールや香港、またはタイ国内のタイ仲裁センター(THAC)も有力な選択肢となります。
4. 言葉の壁を越える:タイ語契約書 翻訳の戦略と重要性
タイ語契約書がどの言語で作成され、どの言語が正文となるかは、契約内容の正確な理解と将来的な解釈の齟齬を防ぐ上で非常に重要です。「英語契約書があれば十分」という考えは、タイとのビジネスにおいては特に大きなリスクを伴います。
主要な言語パターンとタイ語契約書 翻訳の役割
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日本語とタイ語(いずれか、または双方が正文)
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活用場面: 双方の母国語での詳細な理解を重視する場合に、タイ語契約書または日本語契約書が用いられます。
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留意点: どちらかの言語(例:タイ語版)を正文とし、もう一方(例:日本語版)を参考訳とすることが一般的です。両言語を正文とする場合は、解釈の齟齬が生じた際の優先順位(例:「タイ語版が優先する」)を明確に定める「優先言語条項」を必ず盛り込む必要があります。タイ語契約書 翻訳の品質が直接、法的リスクに直結します。タイ法の概念を正確に日本語で表現できるかが重要です。
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英語を正文とし、日本語・タイ語の参考訳を作成
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活用場面: 国際ビジネスで一般的なパターンであり、タイとの取引でもよく用いられます。英語が国際的な法的文書の標準語として広く認知されているため、専門家によるレビューもしやすく、将来的な国際訴訟や仲裁においても用いられます。
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留意点: 英語が唯一の正文となる場合でも、タイ側の当事者がタイ語契約書の翻訳を求め、それを理解の基礎とするケースが多くあります。このタイ語契約書 翻訳の質が低いと、誤解や紛争の原因となり得ます。また、現地の強行法規の中には、タイ語での記載を求めるものや、タイ語の解釈を優先するものも存在し得るため、注意が必要です。例えば、タイの土地法や不動産法に関連する契約では、タイ語での正式な書類作成が必須となります。
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タイ語のみを正文とする
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活用場面: タイ国内での取引や、契約相手の交渉力が非常に強い場合に採用されます。
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留意点: タイ語が唯一の正文である場合、日本企業はタイ語の法的文書を完全に理解できる体制を構築する必要があります。後述の強行法規が適用される場合は、英語契約書のみでは不十分となる可能性も否めません。
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タイ語契約書 翻訳における専門性
言語戦略の選択に関わらず、タイ語契約書の専門翻訳は極めて重要です。
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法的・専門用語の正確性: タイ民商法典などに由来する「เหตุสุดวิสัย(不可抗力)」、「ค่าเสียหาย(損害)」、「อายุความ(時効期間)」といった法律用語は、単なる直訳では法的意味合いを正確に伝えられません。タイ法の概念と日本の法概念、そして英語の概念を理解し、タイの法律や商慣習に合致した適切な用語選択と表現が必要です。
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ニュアンスの理解: タイ語は、その文脈や文化的な背景によって言葉のニュアンスが大きく変わることがあります。また、敬語表現(ครู, ครับ/ค่ะ)なども存在し、これらが契約文には直接影響しないものの、全体のトーンや人間関係を考慮したコミュニケーションに重要です。法律文書においては、曖昧さを避け、正確な意味を伝える翻訳が求められます。
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書式と構造: タイ語の法律文書特有の表現や構成に精通している必要があります。
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強行法規に関する知識: 外国人事業法、労働保護法など、特定の強行法規への適合性を確認しながら翻訳を進める必要があります。
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E-E-A-T原則に基づいた翻訳: 経験、専門知識、権威性、信頼性(E-E-A-T)を重視し、翻訳者も法務や金融分野での実務経験を持つプロフェッショナルが担当します。AI翻訳を効率化ツールとして活用しつつも、最終的なレビューと校正は、人間の専門家が徹底して行い、法的リスクを最小限に抑えます。
5. 具体的な「実践」:ケーススタディで見るタイ語契約書の落とし穴と成功例
実際のビジネスシーンでは、どのような契約戦略が採られるのでしょうか。具体的なケーススタディを通して、準拠法、紛争解決、言語選択の重要性を深掘りします。
ケーススタディ1:タイ企業との販売代理店契約
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状況: 日本の消費財メーカーA社が、タイ国内での自社製品の販売をタイの販売代理店B社に委託する販売代理店契約を締結するケース。独占・非独占、販売テリトリー、販売目標、コミッション、知的財産権の保護、そしてタイの競争法や消費者保護法が主要な論点。
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課題と検討ポイント:
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準拠法: タイ国内での販売活動が主となるため、タイ法を準拠法とすることで合意。A社はタイ法に精通した弁護士を起用し、特に独占禁止法(タイ競争法)、消費者保護法、知的財産権の保護、販売目標達成時のコミッション、契約解除条件に関する条項を詳細に交渉しました。タイでは、販売代理店契約の解除が困難なケースもあるため、解除条項は特に重要です。
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紛争解決: タイ国内での事業に関わるため、まずはタイ仲裁センター(THAC)での仲裁を選択。THACはタイ国内の仲裁機関であり、迅速な解決が期待できるため、適切な選択でした。
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言語: 法的拘束力とタイ国内での執行を重視し、タイ語を正文とし、日本語と英語の参考訳を作成。特に販売テリトリー、販売目標、知的財産権の帰属、契約解除条件に関する規定は、タイ法の概念と厳密なタイ語契約書 翻訳が求められました。
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成功要因: タイ法の適用を受け入れる一方で、重要なリスクポイント(独占禁止法、知的財産権、契約解除)については、タイ法の下で最大限自社の利益を保護できるよう専門家のアドバイスを受けながら交渉した点。また、タイ国内の仲裁機関を活用することで、紛争解決の効率性と執行可能性を高めました。
ケーススタディ2:タイ企業とのITシステム開発・導入契約
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状況: 日本のIT企業C社が、タイの製造業D社に対し、生産管理システムの開発と導入を行うシステム開発・導入契約を締結するケース。著作権、機密保持、サービスレベル合意(SLA)、料金、責任制限、そしてタイの個人情報保護法やサイバーセキュリティ法が主要な論点。
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課題と検討ポイント:
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準拠法: 国際的なIT契約の慣行を考慮し、シンガポール法を準拠法とすることで合意。しかし、タイの個人情報保護法(PDPA)やサイバーセキュリティ法は強行法規として適用される可能性があるため、これらへの遵守を契約条項に明記しました。C社はタイのIT関連法規に詳しい弁護士を起用し、特にデータ処理、SLA、責任制限に関する条項を詳細に交渉しました。
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紛争解決: サービスの性質上、迅速な解決が求められる可能性があるため、中立性が高く、国際仲裁の実績が豊富なシンガポール国際仲裁センター(SIAC)での仲裁を選択。
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言語: 国際的なITサービス取引の慣行に合わせ、英語を正文とし、D社のために高品質なタイ語契約書訳を参考として提供。特に、著作権の帰属、秘密保持、データ処理の同意、SLA、責任制限、そしてタイの個人情報保護法およびサイバーセキュリティ法への遵守に関する規定は、厳密なタイ語契約書 翻訳が求められました。
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成功要因: 中立的な第三国法(シンガポール法)を準拠法としてリスクを分散しつつ、タイの強行法規であるPDPAやサイバーセキュリティ法への遵守義務を明確に契約書に盛り込むことで、法的なリスクを最小限に抑えつつビジネスを進めた点。また、中立的な国際仲裁機関を選択することで、紛争解決の公平性と執行可能性を確保しました。
6. よくある質問(FAQ):タイ語契約書 翻訳に関する疑問を解消
日本企業のお客様からよくいただく、タイ語契約書に関するご質問とその回答をまとめました。
Q1: 「英語契約書があれば十分」という考えは、タイとのビジネスにおいてなぜ危険なのですか?
A1: タイには、外国人事業法、労働保護法、個人情報保護法など、当事者の合意よりも優先される強行法規が多数存在します。これらの強行法規に反する条項は無効となる可能性があります。また、タイ語が公用語であり、行政機関への提出書類はタイ語が求められるため、英語契約書だけでは対応できない場面が多々あります。
Q2: タイ語契約書を正文とするメリット・デメリットは何ですか?
A2:
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メリット: タイ国内での法的実行力が最も高まります。現地の裁判所や行政機関が関与する際に、言語の障壁がなくスムーズです。相手方への敬意を示し、信頼関係を深めることにも繋がります。
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デメリット: 日本企業はタイ法の知識に加え、タイ語の法的表現を正確に理解する必要があります。このため、専門性の高いタイ語契約書 翻訳とリーガルチェックが不可欠となり、費用や時間がかかる場合があります。
Q3: 契約書のタイ語翻訳は、どのような点に注意が必要ですか?
A3: 最も重要なのは、法的概念の正確な対応です。タイ民商法典などに由来する法律用語は、単なる直訳では法的意味合いを正確に伝えられません。タイ法の概念と日本の法概念、そして英語の概念を理解し、タイの法律や商慣習に合致した適切な用語選択と表現が必要です。また、タイ語は声調言語であり、同じ発音でも声調が異なれば意味が変わる場合があるため、そのニュアンスを正確に捉えることも重要です。
Q4: タイ語契約書の翻訳を依頼する際のポイントは何ですか?
A4:
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1. 法律翻訳の専門性: 法律分野、特にタイ法に特化した翻訳会社や、弁護士資格を持つ翻訳者など、法律文書の翻訳経験が豊富なプロを選びましょう。
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2. ネイティブチェック: タイ語のネイティブスピーカーによるチェックはもちろん、タイの法務分野に詳しいネイティブによるチェックが行われるか確認しましょう。 -
3. 情報セキュリティ体制: 契約書は機密情報を含むため、情報セキュリティ管理が徹底されている翻訳会社を選びましょう。 -
4. リーガルチェックの連携: 翻訳だけでなく、必要に応じてタイ現地の弁護士によるリーガルチェックまで含めて依頼できるか、連携体制を確認しましょう。
Q5: タイの強行法規とは具体的にどのようなものがありますか?
A5: 具体例としては、外国人事業法(FBA)(外国人の事業活動制限)、労働保護法(解雇規制、労働時間、最低賃金、社会保険など)、土地法(外国人の土地所有権制限)、個人情報保護法(PDPA)(個人情報の取り扱い)、競争法(独占禁止)、消費者保護法などが挙げられます。これらの分野の契約では、当事者の合意内容がタイの強行法規に反する場合、その条項が無効となるリスクがあります。
7. 日本とタイの主要ビジネス分野と契約書の種類
日本とタイは、製造業、自動車産業、サービス業、ITなど、多岐にわたる分野でビジネス交流を行っています。これらの取引を円滑に進める上で、専門的なタイ語契約書翻訳が不可欠となる主要な分野と、そこで頻繁に交わされる契約書の種類について解説します。
7.1. 日本とタイで現在ビジネスが盛んな分野・業界・ジャンル
現在、日本とタイで特に活発なビジネスが見られるのは以下の分野です。
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1. 自動車産業: 日本の大手自動車メーカーが多数進出し、生産拠点、販売拠点、サプライチェーンを構築しています。
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2. 製造業: 電子機器、機械、部品、繊維製品など、幅広い製造業で投資が行われています。 -
3. 小売・流通: タイの消費市場の拡大に伴い、日本の小売チェーンや食品メーカーが進出しています。 -
4. サービス業: 観光、外食、ホテル、医療など、多様なサービス業で日系企業が事業を展開しています。 -
5. IT・デジタル分野: クラウドサービス、システム開発、Eコマース、フィンテックなど、デジタル化の進展に伴い協力が増加しています。 -
6. インフラ・建設: タイのインフラ整備計画に伴い、日本の技術や資金が投入されています。 -
7. 再生可能エネルギー: 太陽光発電、バイオマス発電など、環境関連分野での協力が見られます。
7.2. 翻訳が必要となる可能性が高い主要な契約書の種類
上記の活発なビジネス分野を踏まえると、以下のような契約書がタイ語への翻訳、またはタイ語からの翻訳を頻繁に必要とします。これらの契約書は、タイの法規制や商習慣を考慮した専門的な翻訳が求められます。
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1. 合弁事業契約書 (สัญญาการร่วมทุน / Sanya Kan Ruam Thun): 新たな事業体を共同で設立・運営する場合に必要です。外国人事業法(FBA)との関連が重要です。
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2. 株主間契約書 (สัญญาระหว่างผู้ถือหุ้น / Sanya Rawang Phu Thue Hun): 合弁会社の運営、ガバナンス、利益配分などを規定します。
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3. 販売代理店契約書 (สัญญาแต่งตั้งตัวแทนจำหน่าย / Sanya Taeng Tang Tua Thaen Chamnai): 製品・サービスの販売をタイの代理店に委託する際に必要です。
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4. 製造委託契約書 (สัญญาการรับจ้างผลิต / Sanya Kan Rap Chang Phalit): 製品の製造をタイ企業に委託する際に必要です。
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5. 供給契約書 (สัญญาการจัดซื้อจัดจ้าง / Sanya Kan Chat Sue Chat Chang): 部品、原材料、サービスなどの継続的な供給を規定します。
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6. ライセンス契約書 (สัญญาอนุญาตให้ใช้สิทธิ / Sanya Anuyat Hai Chai Sitthi): 知的財産(特許、商標、著作権、ソフトウェアなど)の使用許諾を定めます。
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7. 秘密保持契約書 (ข้อตกลงการรักษาความลับ / Khotoklong Kan Raksa Khwam Lap): 交渉や共同開発の初期段階で情報共有を行う際に不可欠です。
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8. 雇用契約書 (สัญญาจ้างแรงงาน / Sanya Chang Raeng Ngan): タイで従業員を雇用する際に必須です。タイ労働保護法に基づく厳格な規定(労働時間、解雇保護、社会保険など)が多数あります。
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9. 不動産賃貸借契約書 (สัญญาเช่าอสังหาริมทรัพย์ / Sanya Chao Asangharimmasap): 工場用地、オフィス、店舗などの賃貸借に必要です。外国人の土地所有は制限されているため、賃貸借が一般的です。
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10. ローン契約書 (สัญญาเงินกู้ / Sanya Ngoen Ku): 金融取引において必要です。
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11. M&A関連契約書: 株式譲渡契約(สัญญาซื้อขายหุ้น / Sanya Sue Khai Hun)、デューデリジェンス関連文書など。
まとめ
日本企業がタイ企業と契約を交わす際には、「英語契約書があれば十分」という安易な判断は避け、 タイ語契約書の重要性を正しく認識することが成功への第一歩です。タイ独自の法体系、準拠法、紛争解決手段、そしてタイ語契約書の言語戦略といった契約の骨格を成す要素を、取引の具体的な内容、当事者の関係性、そしてタイの最新の法規制や商習慣を踏まえて慎重に検討し、決定することが成功の鍵となります。
特に、文化や法制度が異なる国際間取引においては、タイ語契約書のわずかな文言の解釈の違いが、将来的に大きな法的・財務的リスクへと発展する可能性があります。そのため、国際契約に精通した弁護士のアドバイスを受けるとともに、法的・ビジネス的なニュアンスを完全に理解したタイ語の専門翻訳者のサポートが不可欠です。
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契約書の基本用語英訳50選
一言に契約書といっても、業務委託契約書(Services Agreement)、独立請負人契約書(Independent Contractor Agreement)、秘密保持契約書(Non-Disclosure Agreement)、業務提携契約書(Business Partnership Agreement)など、様々なものがあり、契約の種類も多様化しています。
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契約書翻訳に役立つリンク集
・法務省大臣官房司法法制部「法令翻訳の手引き」(PDF)
・日本法令外国語訳推進会議「法令用語日英標準対訳辞書」(PDF)
・Publiclegal(英文契約書のテンプレートや書式を無料で提供)
・日本法令外国語訳データベースシステム(法務省が開設した日本の法令の英訳サイト)
・weblio 英和辞典・和英辞典
・英辞郎 on the web
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