海外での展示会出展や商談、または撮影のために高額な機材や製品サンプルを持ち運ぶ際、「関税手続きが面倒だ」「一時的な持ち込みなのに税金がかかるのか?」といった問題に直面することがあります。
この悩みを解決し、通関手続きを劇的にスムーズにするのが、ATAカルネ(Carnet de Passages en Douanes)です。
ATAカルネは、国際的なビジネスを行う企業にとって、時間とコスト、そして労力を削減するための「パスポート」のようなものです。
この記事では、ATAカルネの目的とメリット、取得方法、そして海外展示会や商談で具体的にどう活用すべきかを、網羅的に解説します。
目次
1. ATAカルネとは?その目的と「税金のパスポート」と呼ばれる理由
2. ATAカルネを活用するメリット(海外展示会での効果)
3. ATAカルネの取得方法と費用(日本での手続き)
4. ATAカルネ活用の具体的な注意点と失敗しないためのポイント
5. まとめ:ATAカルネは国際ビジネスの「時間と信頼」を買う投資
1. ATAカルネとは?その目的と「税金のパスポート」と呼ばれる理由
ATAカルネは、加盟国間で一時的に貨物を輸入・輸出し、再度持ち出すことを前提とした「一時輸入通関手帳」の通称です。
① ATAカルネの目的:関税・消費税の免除と手続きの簡素化
海外に貨物(商品、機材など)を持ち込む際、通常は現地の税関で以下の手続きが必要になります。
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関税・輸入税の支払い:一時的な持ち込みであっても、原則として関税、消費税(VAT/GSTなど)を一時的に支払う必要があります。
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帰国時の還付手続き:帰国時に「この貨物は輸出される」ことを証明し、支払った税金の払い戻し(還付)手続きを行う必要があります。この手続きが非常に煩雑で時間がかかります。
ATAカルネを取得することで、これらの煩雑な手続きが不要になります。
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税金が免除される: 原則として関税や消費税(VATなど)の支払いが免除されます。
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通関書類が簡素化される: 輸出入申告書が不要になり、ATAカルネ自体がすべての通関書類の代わりを果たします。
② 活用できる用途(一時的な持ち込み)
ATAカルネの適用対象は、以下の3つの用途に限定されます。
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展示会、見本市、会議等に出品する貨物:海外展示会への出展サンプル、デモンストレーション用の機材など。
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職業用具:報道・撮影機材、測定器、修理工具など、仕事で使う機材一式。
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商業見本、広告用映画、スライド:商談や営業活動で顧客に見せるための商品サンプル、販促物など。
2. ATAカルネを活用するメリット(海外展示会での効果)
海外展示会への出展において、ATAカルネは時間とコストの両面で大きなメリットをもたらします。
メリット1:コスト(関税・税金)の節約
最も大きなメリットは、一時的に支払うべき関税、輸入税(VAT/消費税)が免除されることです。
高額な展示機材や大量のサンプルを海外に持ち込む場合、一時的に支払う税金も高額になります。ATAカルネがあれば、その資金を他に回すことができ、キャッシュフローへの負担を大幅に軽減できます。
メリット2:時間の節約と通関の迅速化
現地での複雑な通関手続きが不要になり、税関で迅速に手続きを完了できます。
展示会開催直前は準備で多忙を極めますが、スムーズな通関によって、機材の搬入やブース設営に遅れが生じるリスクを回避できます。ATAカルネがあれば、税関職員は手帳を確認するだけで済むため、手続きにかかる時間が大幅に短縮されます。
メリット3:海外での信頼性の担保
ATAカルネは世界的に認められた国際的な通関書類です。これを持っていることで、「この貨物は必ず自国に持ち帰る」という意思を国際的に証明でき、現地での信頼性につながります。
3. ATAカルネの取得方法と費用(日本での手続き)
日本では、一般社団法人日本商事仲裁協会(JCAA: The Japan Commercial Arbitration Association)がATAカルネの発給機関となっています。
Step 1: 申請書類の準備
ATAカルネの申請には、主に以下の書類が必要です。
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カルネ申請書: 所定の申請書。
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一般手数料:JCAAに支払う手数料。
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担保書類(保険):関税や輸入税の担保として、保険証券または供託書を提出します。
Step 2: 費用の内訳
ATAカルネの取得費用は、以下の費用で構成されます。
| 費用項目 | 概要 | 費用目安 |
| カルネ一般手数料 | JCAAへの申請・発給手数料 | 18,000円〜(商品の価格や重量によって変動) |
| 担保手数料(保険料) | 貨物が持ち帰られなかった場合に備えた保証金に相当する保険料 | 担保額(貨物価格の約50%)の数パーセント |
| その他 | 郵送費、申請代行費用など |
※注意点:ATAカルネは「パスポート」なので、失効したり、紛失したりすると、担保が執行され、高額な税金を徴収される可能性があります。
Step 3: 使用期間と有効期限
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有効期限: ATAカルネの有効期間は、発給日から原則1年間です。
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使用回数: 有効期間内であれば、何度でも(最大4カ国)使用可能です。
4. ATAカルネ活用の具体的な注意点と失敗しないためのポイント
ATAカルネは非常に便利ですが、その効力を維持するためには厳格な運用が求められます。
注意点1:使用中の「税関スタンプ」漏れは絶対にNG
ATAカルネの裏表紙には、「どの国に持ち込んだか(輸入)」と「どの国から持ち出したか(再輸出)」の証明として、必ず現地の税関スタンプを押してもらう欄があります。
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スタンプ漏れのリスク: このスタンプの押し忘れがあると、「貨物が再輸出されず、現地で売却された」と見なされ、高額な関税・輸入税を請求されます。
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対策: 通関の際、税関職員に必ずカルネを提出し、再輸出欄にスタンプが押されているかをその場で確認する必要があります。
注意点2:販売目的の貨物には使用できない
ATAカルネは、あくまで「一時的に持ち込み、必ず持ち帰る貨物」が対象です。
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現地での販売は禁止: 展示会でデモ機材として持ち込んだ商品を、現地でそのまま販売し、持ち帰らない場合は、ATAカルネの規約違反となり、ペナルティとして税金が徴収されます。
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カタログ・ノベルティ: 展示会で配布し、持ち帰らない消耗品(カタログ、ノベルティ、試供品など)は、ATAカルネの対象外です。これらは別途、通常の通関手続きで処理する必要があります。
注意点3:物品リストの厳格な一致
ATAカルネには、持ち込む貨物の詳細なリスト(数量、価格など)が添付されます。
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一致の徹底: このリストに記載された物品と、実際に持ち込む貨物が厳格に一致している必要があります。持ち込みの都度、税関で照合される可能性があるため、リストにない物品を持ち込まないよう徹底しなければなりません。
5. まとめ:ATAカルネは国際ビジネスの「時間と信頼」を買う投資
海外展示会への出展や、大規模な商談、撮影プロジェクトを行う企業にとって、ATAカルネの取得は単なる費用ではなく、「時間と信頼を買う戦略的な投資」です。
ATAカルネによって税関手続きをスムーズに完了させることで、ブース設営や商談といった本業に集中でき、海外でのビジネスチャンスを逃しません。
当社では、海外展示会出展のサポートの一環として、ATAカルネの申請やコンプライアンスに関するアドバイスも提供しています。最適な海外進出を実現するために、ぜひご相談ください。
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ご相談は無料です。いつでもお気軽にご連絡ください。
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Oct. 23, 2025