2023年10月、EUはCBAM(炭素国境調整メカニズム)の移行期間を開始しました。これは、鉄鋼やアルミニウム、セメント、肥料など、特定の品目の輸入品に対し、製造過程で排出される温室効果ガス量(埋込排出量)の報告を輸入者に義務付け、将来的にはCBAM証書の購入を求める制度です。
この制度は、単にEUの規制として生まれたわけではありません。それは、世界的な「脱炭素」という大きな潮流の中で、国際貿易のあり方を根本から変えようとするEUの戦略的な動きです。もはや、製品を輸出すればよい時代は終わり、自社製品の「カーボンフットプリント」を正確に把握し、戦略的に対応することが不可欠となりました。
WIPジャパンの海外リサーチ部門は、この複雑なCBAM規制を専門的に調査し、お客様の事業への影響を正確に評価・分析します。
目次
- 1. CBAMとは何か? なぜ今、対応が急務なのか?
- 2. 事業への具体的な影響と、見過ごされがちなリスク
- 3. CBAM影響評価サービス:御社製品への影響を徹底分析
- 4. オプションサービス:包括的なCBAM対応を支援
- 5. 調査の進め方とお客様にご準備いただくデータ
- 6. まとめ:CBAM対応は「義務」ではなく「戦略」
1. CBAMとは何か? なぜ今、対応が急務なのか?
CBAMは、EU域内企業が直面する炭素コストと、輸入製品が免れる炭素コストとの差を調整し、「カーボンの漏出(Carbon Leakage)」を防ぐことを目的としています。簡単に言えば、EUの厳しい環境基準をクリアしない製品には、追加のコストを課すということです。
CBAMを形成する3つの世界的潮流
この制度の背後には、3つの重要なトレンドが存在します。
- 1. 「脱炭素」への国際的な潮流
CBAMは、2015年のパリ協定以降加速している、世界的な脱炭素への動きを具体化したものです。EUは、2050年までにカーボンニュートラルを達成するという目標を掲げ、CBAMはその目標達成に向けた強力な手段となります。また、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の要素を考慮するESG投資が世界的に拡大しており、企業の脱炭素への取り組みは、投資判断の重要な基準となっています。 - 2. 「グリーンウォッシング」への懸念と「透明性」の要求 消費者の環境意識が高まる一方で、見せかけだけの環境配慮である「グリーンウォッシング」への懸念も広がっています。CBAMは、製品の製造から輸送までのサプライチェーン全体における排出量を把握し、透明性を高めることを企業に要求します。これにより、企業は真に環境に配慮していることを証明する必要に迫られます。
- 3. 「貿易政策」としての側面 CBAMは、環境政策でありながら、「貿易政策」としての側面も持っています。一部の国や産業からは、これがEUの産業を保護するための新たな「非関税障壁」であるとの批判も出ています。この制度は、国際貿易に新たなルールを課すものであり、EUのこの取り組みは、米国や日本など、他の国々が同様の制度を導入するきっかけとなる可能性を秘めています。
報告義務から証書購入へ:段階的な規制の強化
これらの潮流の中で、CBAMは以下の段階を経て本格的に導入されます。
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移行期間(2023年10月~2025年12月): 輸入者は、製品の埋込排出量を四半期ごとにEUのプラットフォームに報告する義務があります。この期間は金銭的負担は発生しませんが、正確なデータ収集と報告体制の構築が不可欠です。
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本格稼働(2026年1月~): 輸入者は、報告された排出量に応じて、CBAM証書を購入することが義務付けられます。この証書は、EU域内企業が排出権取引制度(ETS)で支払う炭素価格に連動します。
この制度は、サプライチェーン全体に影響を及ぼし、事業の収益性や競争力を大きく左右します。
2. 事業への具体的な影響と、見過ごされがちなリスク
CBAMは、単なる報告義務以上の、複数のリスクと機会を企業にもたらします。
リスク1:事業コストの増大と競争力の低下
本格稼働後は、製品の埋込排出量に応じてCBAM証書を購入しなければなりません。これにより、製品のコストが上昇し、EU市場における価格競争力が低下するリスクがあります。特に、鉄鋼やアルミニウムなどのエネルギー多消費型産業に大きな影響を与えます。
リスク2:通関の遅延とビジネス機会の喪失
正確な排出量データが報告されない場合、EUの税関で製品が差し止められる可能性があります。これにより、サプライチェーンが混乱し、顧客への納品遅延やビジネス機会の喪失につながります。
リスク3:HSコードの特定と埋込排出量の初期スクリーニング
CBAMの対象品目を正確に特定するためには、HSコード(品目分類番号)を正確に照合する必要があります。また、製品ごとの埋込排出量を初期的にスクリーニングし、事業への影響度を評価することも不可欠です。これらの作業には、専門的な知見が求められます。
3. CBAM影響評価サービス:御社製品への影響を徹底分析
WIPジャパンのCBAM影響評価サービスは、お客様の事業に特化した分析を行い、以下のケーススタディのように、CBAMがもたらす影響を正確に可視化します。
プレ調査:御社製品はCBAM対象か?
貴社の主力製品(ステンレス製タンク、圧送・攪拌ユニット、ディスペンサ等)は、「鉄鋼製品(CN 第73類の一部)」に該当する可能性があります。特に、ステンレス製タンクは、容量によりCN 7309(>300L)、CN 7310(≦300L)に分類されるケースが多く、これらはいずれもCBAM対象リストに含まれています。
本調査では、以下の業務範囲(スコープ)で、貴社製品への影響を徹底的に分析します。
業務範囲(スコープ):
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HSコード照合(CNコード候補の提示と根拠メモ): CN73類(7309/7310/7311/7318/7326等)を中心に、SKU(容量・材質・機能有無)からCNコード候補と注釈根拠を整理します。
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CBAM該当性判定(Y/N/Maybe): 該当性判定を行い、該当時の報告負担や価格転嫁の考え方を簡潔に注記します。
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埋込排出量の初期算定(簡易法): 直接排出(溶接等)+間接排出(電力)+上流(鋼材等)をテンプレートで概算します。一次データが不足する場合はデフォルト係数で代替し、感度分析を付与します。
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コスト影響の概算: 想定CBAM価格(€/tCO₂)×埋込排出量(tCO₂/台)→ €/台を試算し、具体的なコスト影響を可視化します。
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優先度マップと次アクション: 「該当性×コスト影響×数量」から対応優先SKUを抽出し、今後の対応方針を明確にします。
これらの分析結果を、ExcelテンプレートとPDFサマリーレポートとして納品します。
4. オプションサービス:包括的なCBAM対応を支援
お客様のニーズに合わせて、以下のオプションサービスも提供します。
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詳細算定支援: 電力・燃料・鋼材ミルシート/EPD反映、ライン別実測の取り込みなど、より精緻な排出量算定を支援します。
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EU輸入者コミュニケーション支援代行: CBAMに関するEU輸入者からの質問票作成、責任分界の覚書ドラフト、英訳一式を代行します。
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税関事前教示・通関実務連携(代行): 通関士・ブローカーとの連携窓口支援を代行し、スムーズな通関をサポートします。
5. 調査の進め方とお客様にご準備いただくデータ
調査スケジュール(仮案)
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初月:
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第1週: キックオフ、対象SKUリストの受領
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第2週: HSコード予備判定、不足情報の照会
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第3週: 初期算定(テンプレート更新)、コスト概算、感度分析
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第4週: 最終版納品(Excel+PDFサマリー)
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ご準備いただくデータ
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SKU仕様(容量・材質・機能有無・一体機能の有無)、BOM(主要材重量)、参考図面
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可能な範囲で工場電力使用量・燃料使用量(SKUあたり推定で可)、溶接・研磨工程の概算
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鋼材のミルシート/EPDや仕入先情報(判明分で可)
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過去の輸出申告HS、通関実績(あれば)
6. まとめ:CBAM対応は「義務」ではなく「戦略」
CBAMは、単なる報告義務ではありません。それは、事業のサプライチェーン全体を見直し、低炭素化を推進するための戦略的な機会でもあります。
いち早くCBAMに対応し、事業の透明性を高めることは、EU市場における企業の信頼性を高め、新たなビジネスチャンスを創出することにもつながります。
WIPジャパンのCBAM専門コンサルティングサービスは、お客様がこの新たな貿易環境を乗り越え、持続的な成長を遂げるための強力なパートナーとなります。
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