グローバル市場での事業展開において、自社の知的財産(技術、ブランド、ソフトウェアなど)を他者に利用許諾したり、他者の知的財産を利用したりすることは不可欠です。この際、権利の範囲、期間、対価、保証、責任などを詳細に定めるのがライセンス契約書(License Agreement)です。
ライセンス契約書は、企業の競争優位性を確立し、新たな収益源を確保し、あるいは必要な技術やブランドを円滑に利用するための極めて重要な法的文書であり、その正確な翻訳は、事業の成功、法的リスクの回避、そして将来的な紛争の防止のために不可欠です。翻訳のミスや内容の理解不足は、権利侵害、予期せぬ費用の発生、事業機会の損失、ブランドイメージの毀損、さらには高額な法的紛争へと発展するリスクをはらんでいます。
特に、国ごとに知的財産権に関する法規(特許法、著作権法、商標法など)、契約法、独占禁止法、税法、そして国際的な商慣習が大きく異なるため、単に言葉を置き換えるだけでなく、それぞれの法制度やビジネスモデル、知的財産の種類に応じた法的・商業的ニュアンスを踏まえた上で契約内容を理解し、翻訳することが不可欠です。
本記事では、私どもが数多くのライセンス契約書の翻訳を支援してきた経験に基づき、翻訳における重要なポイントと、貴社の各部門がどのように翻訳された契約書を活用し、関与していくべきかを具体的なケーススタディを交えて解説します。
貴社の海外事業展開において、ライセンス契約の適切な理解と運用を通じて、知的財産を最大限に活用し、リスクを最小限に抑えるために、ぜひ本記事をお役立てください。
ライセンス契約書とは何か?その目的と国際事業展開における重要性
ライセンス契約書(License Agreement)とは、知的財産の所有者であるライセンサー(Licensor)が、その知的財産を利用する権利をライセンシー(Licensee)に許諾する際に締結する、法的拘束力を持つ文書です。知的財産には、以下のような多様なものが含まれます。
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特許(Patents):製品の製造方法や技術
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商標(Trademarks):ブランド名、ロゴ、マーク
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著作権(Copyrights):ソフトウェア、コンテンツ、デザイン、出版物
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ノウハウ(Know-how)/企業秘密(Trade Secrets):製造技術、ビジネスプロセス、顧客リストなど秘匿性の高い情報
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営業秘密(Trade Secrets):上記に準じるもの
この契約書は、以下の非常に多岐にわたる詳細な条項を含みます。
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ライセンスの対象(Licensed IP): 許諾される特定の知的財産(特許番号、商標登録番号、ソフトウェアのバージョンなど)の明確な特定。
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ライセンスの種類と範囲(Type and Scope of License):
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排他的(Exclusive)か非排他的(Non-exclusive)か
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再許諾(Sublicense)の可否
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地理的範囲(Territory): 許諾される国や地域
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利用目的(Purpose of Use): 製造、販売、開発、使用など、許諾される具体的な利用形態
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利用期間(Term): ライセンスの有効期間
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ライセンス料と支払い条件(License Fees and Payment Terms):
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一時金(Upfront Payment)
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ロイヤリティ(Royalty): 売上高、生産量、利益などに応じた定期的な支払い
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最低保証ロイヤリティ(Minimum Royalty)
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支払い通貨、為替リスクの取り扱い、支払い報告義務
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保証と表明(Representations and Warranties): ライセンサーが知的財産の有効性や権利を有していることの保証、ライセンシーが契約義務を履行する能力があることの表明など。
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知的財産権の維持・保護(Maintenance and Protection of IP Rights):
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ライセンサーの義務: 特許の更新、商標の維持など
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ライセンシーの協力義務: 侵害行為の発見時の報告、訴訟への協力など
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侵害時の対応と費用負担
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品質管理と検査(Quality Control and Inspection): 特にブランドライセンスや技術ライセンスの場合、製品・サービスの品質がブランドイメージや技術水準を維持しているかを確認するための規定。
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情報開示と秘密保持(Disclosure and Confidentiality): 契約に関する情報や共有される技術情報などの秘密保持義務。
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責任の制限と補償(Limitation of Liability and Indemnification): 契約違反、知的財産権侵害、製品欠陥などによって生じた損害に対する責任範囲、相手方への補償義務。
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契約解除条件(Termination): 契約違反、破産、不可抗力などによる契約解除の条件、通知期間、解除後の措置(ライセンス製品の在庫処理、技術情報の返還など)。
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準拠法と紛争解決(Governing Law and Dispute Resolution): 契約に適用される法律、紛争が発生した場合の解決方法(裁判、国際仲裁、調停など)。
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税金(Taxes): ライセンス料に対する源泉徴収税などの税金負担に関する規定。
国際事業展開においてライセンス契約書が特に重要なのは、以下の理由からです。
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知的財産保護と活用: 国際的な知的財産権は複雑であり、ライセンス契約書を通じて自社の知的財産を法的に保護しつつ、海外市場での活用を促進できます。
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リスクの管理と回避: 各国の法規制、商慣習、税制の違いを契約で明確にすることで、将来的な法的紛争や予期せぬ費用発生のリスクを最小限に抑えます。
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収益機会の創出: 海外での直接投資が難しい場合でも、ライセンスを通じて新たな市場で収益を上げることが可能になります。
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技術やブランドへのアクセス: 他社の優れた技術や確立されたブランドを利用することで、自社の競争力を強化し、開発期間やマーケティングコストを削減できます。
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多様なビジネスモデルへの対応: 合弁事業、フランチャイズ、共同開発など、多様な国際ビジネスモデルにおいて、ライセンス契約は中核的な役割を果たします。
英文ライセンス契約書の特徴と和文契約書との違い
国際的なライセンス取引では、多くの場合、英文で契約書が作成されます。その特徴は、日本の和文契約書とは異なる点がいくつかあります。
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知的財産権の明確な定義と範囲(Clear Definition and Scope of IP Rights):
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ライセンスの対象となる特許、商標、著作権、ノウハウなどが具体的に識別され、排他的か非排他的か、再許諾の可否、地理的範囲、利用目的、期間が厳密に定義されます。曖昧な表現は将来の紛争の原因となるため、詳細な記述が求められます。
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和文契約でも重要ですが、英文契約ではより詳細かつ網羅的に記述される傾向があります。
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Representations and Warranties(表明と保証)の広範な適用:
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ライセンサーが許諾する知的財産が有効であり、ライセンサーがその権利を適切に保有していること、第三者の権利を侵害しないことなどを表明し保証する条項が重視されます。違反があった場合の責任も明確化されます。
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特に、特許ライセンスにおいては、ライセンス対象の特許の有効性、他社特許との抵触がないことなどが厳しく問われます。
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Indemnification(補償)条項の厳密な規定:
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ライセンサーが被許諾知的財産(例:特許)の瑕疵や第三者の権利侵害に起因する訴訟などからライセンシーを防御・補償する義務、あるいはその逆の義務が詳細に規定されます。これは、知的財産に関するリスク分担の核心部分です。
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Governing Law and Jurisdiction / Arbitration(準拠法と管轄/仲裁):
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契約に適用される法律、紛争が発生した場合の解決方法(国際仲裁が一般的)、仲裁地、仲裁機関、仲裁規則が詳細に指定されます。これは、各国の法制度やビジネス慣習が異なる国際取引において、法的安定性を確保するために極めて重要です。
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Confidentiality(秘密保持)条項の詳細化:
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ライセンス対象のノウハウや技術情報、契約内容自体など、共有される機密情報の定義、秘密保持義務の範囲と期間、違反時の措置が非常に詳細に規定されます。
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Royalties and Reporting(ロイヤリティと報告義務):
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ロイヤリティの計算方法(売上高、純利益、生産量などに基づく)、支払い頻度、支払い通貨、為替リスクの負担、そしてライセンシーによる売上・生産に関する詳細な報告義務(監査権含む)が厳密に規定されます。
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Termination and Post-Termination Obligations(契約解除と解除後の義務):
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契約違反、破産、知的財産権の無効化などによる契約解除の条件、通知期間、そして契約解除後にライセンシーがライセンス製品の在庫をどう処理するか、技術情報を返還するか、などの詳細な義務が定められます。
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Assignment and Sublicensing(譲渡と再許諾):
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契約上の権利・義務の第三者への譲渡の可否、およびライセンシーがさらに第三者にライセンスを再許諾する際の条件や承認プロセスが明確に規定されます。
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Export Control and Sanctions Compliance(輸出管理と制裁遵守):
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特定の技術や製品が輸出管理規制(例:米国のEAR、ITARなど)の対象となる場合、両当事者がそれらの規制を遵守する義務が明記されます。
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日本の和文契約書に比べ、英文ライセンス契約書は、知的財産権の国際的な保護と行使、ロイヤリティ計算の複雑性、そして国際紛争解決に特化した、より詳細かつ網羅的な記述が求められます。翻訳においては、これらの知的財産法、国際契約法、独占禁止法などの専門知識と、各国の商慣習を深く理解した表現を用いることが不可欠です。
ライセンス契約書翻訳における重要ポイント
ライセンス契約書の翻訳は、貴社の海外事業展開における知的財産保護、収益確保、法的リスクに直接影響するため、極めて高い精度と専門性、そして法務・知的財産・財務・事業戦略に関する視点が求められます。以下のポイントを押さえることが、成功への鍵となります。
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ライセンス対象知的財産の正確な特定と範囲の明確化
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許諾される特許(番号、クレーム範囲)、商標(登録番号、指定商品・役務)、著作権(対象コンテンツ)、ノウハウ(具体的定義)などを厳密に翻訳することが不可欠です。また、排他的か非排他的か、再許諾の可否、地理的範囲、利用目的、期間といったライセンスの範囲を誤解の余地なく表現すべきです。一点の誤訳が、権利侵害や意図しない利用許諾に直結しかねません。
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ライセンス料(ロイヤリティ)の計算方法と支払い条件の明確化
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ロイヤリティの計算基礎(例:純売上高、出荷量、利益など)、料率、支払い頻度、支払い通貨、為替リスクの負担者、最低保証ロイヤリティの有無を正確に翻訳することが不可欠です。ライセンシーによる報告義務と監査権に関する条項も詳細に確認し、収益の透明性を確保する必要があります。
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表明と保証(Representations and Warranties)および補償(Indemnification)条項の厳密な理解
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ライセンサーが知的財産権の有効性や正当な保有を保証する範囲、第三者の権利侵害が発生した場合の責任分担と補償義務を正確に翻訳することが極めて重要です。特に、第三者からの権利侵害訴訟に対する防御義務や費用負担に関する条項は、将来的な法的リスクを左右します。
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知的財産権の維持・保護義務と侵害時の対応
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ライセンサーが特許更新や商標維持のために負う義務、ライセンシーが侵害行為を発見した際の報告義務と協力義務、そして侵害時の訴訟対応と費用負担に関する規定を正確に翻訳することが重要です。これにより、知的財産の価値を維持し、共同で保護するための枠組みが確立されます。
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契約解除(Termination)の条件と解除後の義務
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契約違反、破産、知的財産権の無効化などによる契約解除の具体的な条件、通知期間、そして解除後にライセンシーがライセンス製品の在庫をどう処理するか、技術情報を返還するか、顧客情報やデータの取り扱い、競業避止義務の継続の有無などの詳細な義務を厳密に翻訳することが重要です。不正確な翻訳は、重大なビジネス中断や法的責任につながりかねません。
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準拠法と紛争解決(国際仲裁)条項
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契約に適用される法律、そして紛争が発生した場合の解決方法(国際仲裁、調停、裁判など)、仲裁地の選定、仲裁機関、仲裁規則、仲裁人の数、仲裁判断の拘束力などを正確に翻訳することが不可欠です。国際仲裁条項は、将来的な紛争解決のプロセスと費用に直接影響するため、専門的な知識が必要です。
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税金(Taxes)に関する規定
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ライセンス料に対する源泉徴収税などの税金負担者、関連する租税条約の適用に関する規定を正確に翻訳することが不可欠です。国際税務の知識が求められ、不正確な翻訳は予期せぬ税金負担につながります。
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AI翻訳の適切な活用と専門家による最終確認
AI翻訳技術は、初稿の作成や用語の統一に役立ちますが、ライセンス契約書のような法的・専門的に極めて複雑な文書、特に知的財産権、ロイヤリティ計算、表明保証、責任制限といった条項においては、法的ニュアンス、各国固有の知的財産法、独占禁止法、商慣行を完全に理解することは困難です。AIを効率化ツールとして最大限活用しつつも、法務知識、知的財産の実務経験、当該国の法規制に関する知見を持つ専門の翻訳者による徹底したレビューと校正が不可欠です。人間による精査が、潜在的なリスクを最小限に抑え、安全な国際事業展開の基盤となります。
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強固な情報セキュリティ体制
ライセンス契約書には、企業の核心的な知的財産情報、機密技術情報、財務情報、事業戦略など、企業の競争力やブランド価値に直結する極めて機密性の高い情報が含まれることが一般的です。これらの情報が外部に漏洩した場合、企業の競争力低下、信用失墜、法的な責任問題など、甚大な損害を被る可能性があります。そのため、翻訳を依頼する際には、翻訳会社が厳格な情報セキュリティポリシーを定め、技術的・物理的・人的な対策を徹底しているかを必ず確認すべきです。私どもは、お客様の機密情報を最高レベルで保護するため、徹底したセキュリティ管理を実践しています。
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「総コスト」での評価と信頼できる翻訳会社の選定
翻訳にかかる費用は、単純な料金だけでなく、翻訳後の社内での確認・修正にかかる時間や労力、そして将来的な紛争リスクといった「総コスト」で評価すべきです。初期費用が安価でも、翻訳品質が低ければ、結果的に大きな損失に繋がりかねません。実績、専門性、セキュリティ体制、そして提供されるサービスの質を総合的に判断し、貴社の国際事業展開における戦略的パートナーとして信頼できる翻訳会社を選定することが重要ですし、私どもはこのような観点から、お客様に安心してご利用いただける最適なサービスを提案しています。
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現地の弁護士・コンサルタントとの連携
翻訳された契約書をベースに、必ず現地の知的財産法、契約法、独占禁止法、税法に詳しい弁護士やコンサルタントと連携し、契約内容の法的妥当性、税務上の影響、そしてリスクを最終確認することが不可欠です。翻訳は「理解の橋渡し」であり、最終的な法的判断は現地の専門家が行うべきです。
ライセンス契約書の翻訳は誰に必要なのか?ケーススタディで見る関係部門の役割
ライセンス契約書は、海外事業展開における知的財産の活用とリスク管理を左右するため、多岐にわたる部門や関係者がその内容を理解し、翻訳された情報に基づいて連携することが不可欠です。
ケーススタディ1:海外企業への技術ライセンス供与(日本の製造業企業)
状況: 日本の化学メーカーが、米国企業に独自の製造技術(特許およびノウハウ)をライセンス供与する際に、英文のライセンス契約書を締結するケース。
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事業開発部/海外事業部:
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必要性: ライセンスの対象となる技術範囲、地理的範囲、期間、ロイヤリティの計算方法と支払い条件、競合条項、契約解除条件など、事業の収益性や戦略に直結する商業的条件を詳細に確認します。
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ケース: 契約書に記載された「米国における排他的ライセンスの範囲」や「売上高に対するロイヤリティ料率と最低保証ロイヤリティの有無」を和訳で確認し、収益予測と市場戦略への影響を評価します。過去には、ライセンス範囲の翻訳が曖昧だったため、意図しない市場での利用や競合他社への再許諾を許してしまう事態になった事例がありました。私どもは、このようなライセンス範囲やロイヤリティに関する条項の正確な翻訳を特に重視しています。
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法務部/知的財産部:
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必要性: 契約全体の法的妥当性、知的財産権の保護、リスク管理、特に表明保証、補償、秘密保持、侵害時の対応、責任制限、契約解除条件、準拠法、紛争解決(国際仲裁)条項、そして輸出管理規制の適切性を確認します。米国の特許法、独占禁止法、国際私法への対応が求められます。
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ケース: 契約書に記載された「第三者からの特許侵害訴訟が発生した場合の防御義務と費用負担」や「技術情報の秘密保持期間」を和訳で確認し、法的リスクと知的財産権保護戦略を評価します。
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経理部/財務部:
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必要性: ロイヤリティの計算、支払いスケジュール、税金(源泉徴収税)、為替リスクなど、財務上の全てのフローを確認し、適切な会計処理と資金計画を行います。
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ケース: 契約書に記載された「ロイヤリティ支払いに関する報告書の様式と監査権」や「源泉徴収税の取り扱い」を和訳で確認し、ロイヤリティ収入の管理と税務リスクを評価します。
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技術開発部:
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必要性: 供与する技術の範囲、ノウハウの定義、技術サポートの範囲、品質管理要件、改良技術の取り扱いなど、技術的な詳細を厳密に確認します。
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ケース: 契約書に記載された「ライセンス対象ノウハウの具体的な技術範囲」や「改良技術の帰属に関する規定」を和訳で確認し、技術移転の円滑化と将来の技術開発戦略への影響を評価します。
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ケーススタディ2:海外ブランドの日本国内利用ライセンス取得(日本の小売・サービス企業)
状況: 日本の小売企業が、フランスの有名ファッションブランドを日本国内で展開するため、英文のブランドライセンス契約書を締結するケース。
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ブランド事業部/マーケティング部:
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必要性: ライセンス対象となるブランド、利用可能な商品・サービスの種類、マーケティング活動の範囲、品質管理要件、プロモーションに関する規定、ライセンス期間、最低保証ロイヤリティなど、ブランド戦略と事業展開に直結する商業的条件を詳細に確認します。
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ケース: 契約書に記載された「日本国内におけるブランドの使用許諾範囲(例:アパレル製品のみか、雑貨も含むか)」や「最低保証ロイヤリティの金額と達成条件」を和訳で確認し、事業計画の妥当性を評価します。
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法務部/知的財産部:
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必要性: 契約全体の法的妥当性、ブランド保護、リスク管理、特に商標権の有効性、表明保証、補償、契約解除条件、準拠法、紛争解決条項の適切性を確認します。日本の商標法、独占禁止法、そしてフランスの知的財産法への対応が求められます。
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ケース: 契約書に記載された「ライセンサーが商標権の有効性を保証する範囲」や「ライセンスされた商標の模倣品発見時の対応義務」を和訳で確認し、法的リスクとブランド保護戦略を評価します。
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経理部/財務部:
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必要性: ロイヤリティの計算、支払いスケジュール、税金(源泉徴収税)、為替リスクなど、財務上の全てのフローを確認し、適切な会計処理と資金計画を行います。
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ケース: 契約書に記載された「売上高報告義務の頻度と形式」や「ロイヤリティ支払いの遅延利息」を和訳で確認し、キャッシュフローと税務リスクを管理します。
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よくある質問(FAQ)
ライセンス契約書の翻訳に関して、お客様からよくいただくご質問とその回答をまとめました。
Q1: ライセンス契約書における「ライセンスの対象と範囲」の条項は、翻訳でどのように注意すべきですか?
A1: ライセンスの対象と範囲は、契約の核心部分であり、将来の紛争を避けるために最も厳密な翻訳が求められます。翻訳においては、許諾される知的財産(特許番号、商標登録番号、ソフトウェアのバージョンなど)を正確に特定することに加え、排他的か非排他的か、再許諾の可否、地理的範囲(国・地域)、利用目的(製造、販売、開発、使用など)、そして利用期間を、誤解の余地なく明確に表現することが不可欠です。これにより、権利侵害や意図しない利用を未然に防ぎます。
Q2: 「ロイヤリティ(Royalty)と支払い条件」に関する条項の翻訳で、特に注意すべき点は何ですか?
A2: ロイヤリティは事業収益に直結するため、その計算方法と支払い条件は非常に重要です。翻訳においては、ロイヤリティの計算基礎(例:純売上高、出荷量、利益など)、料率、支払い頻度、支払い通貨、為替リスクの負担者、そして最低保証ロイヤリティの有無とその条件を正確に表現することが不可欠です。また、ライセンシーによる売上・生産に関する詳細な報告義務(監査権含む)に関する条項も厳密に確認し、収益の透明性と管理を確保すべきです。
Q3: 国際的なライセンス契約で、「表明と保証(Representations and Warranties)および補償(Indemnification)条項」はなぜ重要視されますか?
A3: これらの条項は、知的財産に関するリスク分担と責任を明確にするために不可欠です。翻訳においては、ライセンサーが知的財産権の有効性や正当な保有を保証する範囲、第三者からの権利侵害訴訟が発生した場合の防御義務と費用負担、製品欠陥などによって生じた損害に対する責任範囲、そして相手方への具体的な補償義務を厳密に表現することが極めて重要です。これにより、将来的な法的リスクを明確にし、予期せぬ法的責任を回避できます。
Q4: 契約期間中の「知的財産権の維持・保護」に関する条項は、どのように注意して翻訳すべきですか?
A4: 知的財産権の価値を維持し、侵害から守るための条項です。翻訳においては、ライセンサーが特許の更新や商標の維持のために負う具体的な義務、ライセンシーが侵害行為を発見した際の報告義務と協力義務、そして侵害時の訴訟対応(どちらが主導するか、費用負担など)に関する規定を正確に表現することが重要です。これにより、両当事者が協力して知的財産を保護するための枠組みが確立されます。
Q5: ライセンス契約書で「準拠法と紛争解決」の条項が非常に重要と言われるのはなぜですか?
A5: 準拠法(Governing Law)は、契約の解釈、有効性、義務の履行、そして違反時の法的効果を判断する際に適用される法律です。知的財産法や契約法は国によって大きく異なります。準拠法を誤ると、契約条項の法的有効性が失われたり、予期せぬ義務が生じたり、あるいは紛争解決が著しく困難になったりする可能性があります。また、紛争解決方法として国際仲裁が一般的であり、その仲裁地、仲裁機関、仲裁規則、仲裁人の選定方法、仲裁判断の拘束力も極めて重要であり、専門的な知識をもって正確に翻訳・理解する必要があります。これにより、将来的な紛争解決のプロセスと費用が明確になります。
まとめ
ライセンス契約書の翻訳は、単なる言語の変換に留まらず、企業が国際市場で知的財産を安全かつ効率的に活用し、収益を最大化するための極めて重要な戦略的要素です。英文と和文の契約書が持つそれぞれの特徴を深く理解し、事業開発、法務、知的財産、経理、技術といった各部門が連携しながら、専門知識を持つ翻訳者の力を借りることが不可欠ですし、これまでの経験から私どもはこれを強く認識しています。
特に、ライセンス対象の正確な特定と範囲、ロイヤリティの計算方法と支払い条件、表明保証と補償、知的財産権の維持・保護、契約解除後の義務、そして準拠法と紛争解決といった条項は、潜在的なリスクを最小限に抑え、国際事業展開における継続的な成功への鍵となります。
私どもは、このような複雑なライセンス契約書の翻訳において、貴社の各部門のニーズを理解し、最高品質の翻訳とサポートを提供することをお約束します。貴社の海外ビジネスにおけるライセンス契約に関してご不明な点やご相談がありましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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契約書翻訳に役立つリンク集
・法務省大臣官房司法法制部「法令翻訳の手引き」(PDF)
・日本法令外国語訳推進会議「法令用語日英標準対訳辞書」(PDF)
・Publiclegal(英文契約書のテンプレートや書式を無料で提供)
・日本法令外国語訳データベースシステム(法務省が開設した日本の法令の英訳サイト)
・weblio 英和辞典・和英辞典
・英辞郎 on the web
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