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Nov. 06, 2025

【海外滞納対応の罠】台湾・香港・中国在住の区分所有者から管理費を回収するプロの戦略:公示送達の危険性と国際法務の壁

 


目次 


 

序章:国内の常識が通用しない「海外滞納」の深刻な現実

マンション管理組合の皆様、理事会の皆様、こんにちは。

今回は、理事会や管理会社の皆様が最も頭を抱える問題の一つ、「海外に住む区分所有者による管理費の滞納」について、その法的リスクと具体的な回収戦略を徹底的に解説します。

「督促状が届かない」「日本の登記住所は空室だ」といった事態に直面したとき、日本の国内法務の知識だけでは解決できません。本件は、台湾、香港、中国(河北省)という異なる法制度を持つ3つの地域にまたがる、極めて専門的な「渉外法務事案」です。

単純な文書の翻訳や国際郵便の送付を超え、最終的な「回収」まで辿り着くためには、国内の常識を捨て、国際的な法的障壁を乗り越える戦略が必要です。

 

🚨 登記住所への送達不着が意味すること

 

滞納者が海外に居住している場合、日本の登記住所(該当住戸)に督促状や裁判所の書類を送っても、「あて所に尋ねあたりません」と不着(送達不能)になるのが一般的です。

この「送達不能」は、単に書類が届かないという実務上の問題ではなく、日本国内の標準的な法的手続き(支払督促、訴訟)を根底から破綻させます。なぜなら、日本の裁判はすべて、「相手方(滞納者)に法的に有効な形で訴状が届いていること(送達)」を大前提としているからです。

もしこの送達ができないまま国内の裁判を進めてしまうと、将来的に「回収不能」という致命的な結果を招きかねません。

第1章:海外滞納回収を阻む「二大障壁」と「公示送達」の罠

海外居住者からの債権回収には、日本の事案にはない、2つの巨大な法的障壁が立ちはだかります。そして、その障壁を安易に避けようとすると、さらなる罠に陥ります。

 

1. 第1の壁:訴状を届ける「送達」の壁

裁判を起こす際、訴状や裁判所の呼出状を相手に届けなければなりません。これを「送達」といいます。

海外の居住者に対して送達を行うには、単なる国際郵便(EMSなど)ではなく、「ハーグ送達条約」や二国間協定に基づく、国際司法共助という厳格な枠組みが必要です。もちろん、すべての文書は相手国・地域の公用語(中国語など)に翻訳されなければなりません。

 

このプロセスを省略すると、その裁判自体が国際的に「無効」と見なされるリスクが生じます。

 

2. 第2の壁:判決を換金する「承認と執行」の壁

仮に日本で勝訴判決(債務名義)を得られたとしても、滞納者が日本国内に資産(預金、不動産)を持っていなければ、その判決は単なる「紙切れ」です。

滞納者の海外にある資産(台湾の不動産など)を差し押さえるためには、日本の判決書を現地の裁判所に持ち込み、「この日本の判決を自国でも法的に有効なものとして承認し、強制執行を許可してください」という、現地の法律に基づいた別の訴訟(承認執行訴訟)を起こして勝訴しなければなりません。


この「承認」のステップこそが、海外回収の最大の難関です。

 

3. 最も危険な罠:「公示送達」の選択

国内の裁判で送達ができない場合、最終手段として「公示送達」が検討されることがあります。これは、裁判所の掲示板に一定期間掲示することで、法的に送達が完了したとみなす制度です。

しかし、渉外事案で公示送達を選択することは、絶対に避けるべきです。

なぜなら、外国の裁判所が「承認・執行」の審査をする際、「被告が適切に防御の機会を与えられていたか(=訴状の存在を知っていたか)」を最も厳しくチェックするからです。

公示送達のように、滞納者が訴訟の存在を知らないまま進められた日本の判決は、特に台湾などで、公序良俗違反として承認・執行を明確に拒否されてしまいます。これは、訴訟にかかった費用と時間がすべて無駄になることを意味します。

 

第2章:回収成功の鍵!「現地調査」と戦略の全体像

「公示送達」という罠を回避し、現地執行を実現するためには、戦略的な4つのフェーズが必要です。そのスタート地点となるのが「現地調査」です。

 

1. 回収プロセスの全体像(4つのフェーズ)

フェーズ 現地での対応 目的
フェーズ1:調査 現地対応①:居住確認と資産調査 送達先住所の確定、差押え対象資産の有無確認
フェーズ2:送達 現地対応②:正規ルートでの文書送達 ハーグ条約等に基づき訴状を法的に有効な形で届ける
フェーズ3:訴訟 日本国内で勝訴判決を取得 フェーズ2の有効な送達を根拠に裁判を進める
フェーズ4:承認・執行 現地対応③:資産差押え 日本の判決を現地で承認させ、強制執行を行う

 

2. なぜ「現地調査(フェーズ1)」が不可欠なのか?

現地調査は、単に滞納者の居場所を探すためだけではありません。

  • 送達先の確定:調査によって実居住地が判明すれば、公示送達ではなく、正規の国際送達(フェーズ2)を開始できます。

  • 費用対効果の判断:調査で差し押さえ可能な資産(不動産、勤務先)が発見されなければ、その後の高額な訴訟費用を投じる必要はない、という賢明な「回収断念」の判断が下せます。

  • 実行手段:この調査は、日本の弁護士では行えません。台湾、香港、中国で実績を持つ国際的な探偵・興信所や信用調査会社に委託する必要があります。

⚠️ 調査費用の目安: 滞納者1名につき、実居住地の特定と基礎的な資産調査で最低20万円から50万円程度の初期費用が発生すると見込む必要があります。滞納額がこの調査費用を下回る場合は、回収自体を断念することも合理的です。

 

第3章:【法域別】台湾・香港・中国での回収戦略

滞納者の居住地によって、取るべき戦略は根本的に異なります。特に「日本判決の執行可能性(第2の壁)」のクリアの可否が、戦略の分岐点となります。

 

A. 台湾(台北):最も困難な「執行不能」リスク

台湾の事案は、3法域の中で最も特殊で困難です。

項目 現実 戦略的推奨
送達 日本と国交がないため、正規の外交ルート(司法共助)が使えません。 現地弁護士による代替ルートの活用を検討。
執行 日本の「公示送達判決」は台湾で承認・執行が拒否されることが確立した判例で示されています。 絶対に公示送達を回避します。
推奨戦略 日本での訴訟自体を断念し、最初から台湾の裁判所へ直接「管理費支払訴訟」を提起することが最も安全で確実です。  


✅ アクション:
日本語対応可能な台湾の法律事務所(台北事務所のリストなどを活用)にコンタクトを取り、「日本の管理費債権を台湾で直接訴訟する場合」の費用見積もりを取得しましょう。

 

B. 香港:国際債権回収の「標準」ルート

香港はコモンロー(英米法)の法域であり、国際債権回収の標準的なプロセスが最も機能する可能性が高い地域です。

項目 現実 戦略的推奨
送達 ハーグ送達条約の締結地域であり、正規ルートでの送達が可能です。 フェーズ1で住所特定後、ハーグ条約ルートで送達を実施。
執行 「相互保証」の原則が不要なため、日本の判決も承認要件を満たせば高い確率で承認・執行されます。 「調査 → 送達 → 日本で訴訟 → 香港で執行」の王道アプローチを追求。
推奨戦略 費用対効果が見込める(滞納額が訴訟・執行の総費用を上回る)なら、積極的に法的手続きを進めるべきです。  


✅ アクション:
現地調査(フェーズ1)で資産の当て(現地不動産など)が確認できれば、国際訴訟経験のある日本側弁護士と契約し、標準プロセスを開始します。

 

C. 中国(河北省):相互保証の壁と流動的なリスク

中国本土の事案は、執行の予見可能性が最も低い、高リスクな法域です。

項目 現実 戦略的推奨
送達 日中間には司法共助条約があり、送達自体は可能ですが、半年~1年以上の遅延が予想されます。 粘り強く正規ルートでの送達を試みる必要があります。
執行 外国判決の承認に「相互保証(互恵の原則)」を厳格に要求。従来は日本の判決執行は不可能とされてきました。 2023年に倒産手続の承認事例が出たものの、管理費債権に適用される保証はありません。
推奨戦略 現地執行を当面(あるいは完全に)断念し、日本国内の資産(他の不動産、預金など)がないかを最優先で徹底調査します。国内資産発見時のみ国内で執行を完結させます。  


✅ アクション:
国内資産調査に全力を尽くしましょう。国内資産が皆無で滞納額が少額であれば、無理な訴訟費用を投下せず、回収を断念する(損失を最小化する)判断も必要です。

 

第4章:管理組合として今すぐ実行すべきこと

海外滞納事案を成功させるには、高度な法務戦略に加え、管理組合内部での準備と決断が不可欠です。

 

1. 訴訟準備と予算確保

  • 最重要:総会での訴訟提起決議:特定の滞納者に対する訴訟提起について、管理組合総会での決議(区分所有者および議決権の各1/2以上)が必要です。これが未了であれば、何一つ法的手続きは進められません。

  • 債権の確定:月ごとの正確な滞納額を確定し、5年の消滅時効にかかっている部分を明確に区別します。

  • 費用対効果の初期評価と予算確保:フェーズ1(調査)だけでも数十万円の費用が発生します。これらの費用支出について、理事会・総会で予算承認を得ておく必要があります。回収見込みのない事案に多額の組合財産を投下しないための、重要な経営判断です。

2. 専門家との連携体制の構築

本件は、国内の法律事務所や管理会社だけで対応できるレベルではありません。

  • 日本側窓口:国際法務に精通した弁護士

    「ハーグ送達条約」や「外国判決の承認執行」の実務経験が豊富な、渉外民事訴訟の専門家を選任します。

  • 現地調査担当:国際調査会社

    台湾・香港・中国の3法域すべてで信頼できる実績を持つ調査会社を選定し、フェーズ1(居住地・資産調査)の費用見積もりを取得します。

  • 現地法務担当:現地法律事務所

    特に台湾の事案(直接提訴戦略)を実行するために、日本語で連携が可能な現地法律事務所を選定し、協力を仰ぎます。

結論:戦略的判断が回収の成否を分ける

海外居住者による管理費滞納事案は、単なる督促業務の延長ではありません。台湾、香港、中国という個別の法制度を理解し、「公示送達の罠」を回避しつつ、「現地資産の有無」という費用対効果の根拠をまず突き止めることが成功の鍵です。

高額な初期費用が発生する可能性はありますが、戦略的な判断を下し、国際法務の専門家と連携することで、世界の市場(資産)への回収の道は開かれます。

ぜひ、このガイドを参考に、貴組合の海外滞納問題への対応を力強く進めてください。

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