今日のグローバル化したビジネス環境では、企業が国境を越えて事業を展開する中で、予期せぬ紛争に直面することは避けられない現実です。契約違反、知的財産権の侵害、ジョイントベンチャー(合弁事業)における意見の相違、国をまたぐ労働問題など、紛争の種類は多岐にわたります。
これらの紛争が長期化すると、企業は時間、費用、リソースを大量に消耗するだけでなく、ブランドイメージや市場での信用にも悪影響を及ぼしかねません。そこで重要になるのが、裁判や仲裁といった法廷での争いを避け、当事者間の合意によって紛争を円満に解決するための和解契約書(Settlement Agreement)です。
和解契約書は、紛争の内容、解決条件、将来の請求権放棄などを明確に定義し、当事者双方が新たな関係を築き、前に進むための確固たる基盤となります。
この文書の正確な翻訳は、関係者間の認識のずれを防ぎ、合意の法的有効性を確実にし、将来の再紛争リスクを最小限に抑える上で不可欠です。翻訳の誤りや内容の理解不足は、解決したはずの紛争が再燃したり、新たな法的問題を引き起こしたり、最悪の場合、企業の信用失墜につながる重大なリスクをはらんでいます。
特に、国際的な紛争解決においては、各国で異なる法律(契約法、民事訴訟法、仲裁法など)、管轄権、商慣習、そして文化的な交渉スタイルが複雑に絡み合います。そのため、単に言葉を置き換えるだけでなく、それぞれの法制度やビジネス上のニュアンスを深く理解した上で、内容を精確に翻訳することが不可欠です。
当社は、これまでの経験に基づき、和解契約書翻訳における重要なポイントと、貴社の各部門がどのように翻訳された和解契約書を活用し、関与していくべきかを具体的なケーススタディを交えて解説します。
貴社のグローバルビジネスにおいて、和解契約書の適切な理解と運用を通じて、迅速かつ円満な問題解決と将来の事業成長を実現するために、ぜひ本記事をお役立てください。
和解契約書(Settlement Agreement)とは何か?その目的と国際ビジネスにおける重要性
和解契約書(Settlement Agreement)は、当事者間で発生した紛争を、訴訟や仲裁といった法的手続きに訴えることなく、またはそれらの手続きの途中で、協議によって解決することに合意した内容を記載する文書です。
国際ビジネス環境において、この和解契約書は以下のような多様な場面で利用されます。
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契約紛争: 国際的な売買契約、ライセンス契約、業務委託契約などにおける義務不履行、品質問題、納期遅延などを巡る紛争の解決。
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知的財産権紛争: 国境を越えた商標権侵害、著作権侵害、特許権侵害などを巡る紛争の解決。
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合弁事業(JV)紛争: 合弁会社の経営方針、利益配分、出資比率変更などを巡るパートナー間の意見対立の解決。
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国際訴訟・仲裁の和解: 進行中の国際訴訟や国際仲裁手続きにおいて、判決や裁定を待たずに、当事者間の合意で解決を図る場合。
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労働紛争: 海外子会社における従業員との解雇、ハラスメント、賃金未払いなどを巡る紛争の解決。
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製造物責任・損害賠償: 海外での製品欠陥による事故や損害に対する賠償請求の解決。
和解契約書は、主に以下の重要な要素を含みます。
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当事者(Parties): 紛争の当事者となっている全ての企業、組織、または個人。
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紛争の背景と概要(Background of the Dispute): どのような紛争が発生し、その経緯がどうであったかの簡潔な説明。これにより、合意の対象となる紛争が特定されます。
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解決の条件(Settlement Terms):
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金銭的支払い: 損害賠償金、和解金、違約金などの金額、支払い方法、支払い期日。
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非金銭的義務: 製品の修正、契約の終了、特定の行為の停止、謝罪文の発表など。
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秘密保持義務: 合意書の存在、内容、交渉経緯に関する秘密保持義務。
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将来の請求権放棄(Release of Claims): 当事者が、当該紛争に関連して将来にわたって一切の請求権を放棄する旨の明確な宣言。これにより、同一紛争での再提訴を防ぎます。
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責任の不承認(No Admission of Liability): 合意が責任を認めるものではないことを明確にする条項。これにより、企業が法的責任を認めたと解釈されることを防ぎます。
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準拠法(Governing Law): 合意書の解釈と法的効力に適用される法律。
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紛争解決(Dispute Resolution): 合意書に関する紛争が発生した場合の解決方法(協議、調停、仲裁、裁判など)。
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費用負担(Expenses): 紛争解決にかかった弁護士費用などの負担について。
国際ビジネスにおける和解契約書の重要性は、以下の理由から非常に高いです。
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法的確実性の確保: 紛争解決の条件と効果を法的に拘束力のある形で文書化することで、当事者間の将来の行動に対する法的確実性を提供します。
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再紛争リスクの最小化: 「将来の請求権放棄」条項により、解決済みの紛争に関連する新たな訴訟や請求を効果的に防ぎます。
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時間とコストの節約: 長期化する訴訟や仲裁に比べ、合意による解決は一般的に迅速であり、弁護士費用や機会損失といったコストを大幅に削減できます。
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ブランドイメージの保護: 公開された訴訟手続きを避け、非公開で紛争を解決することで、企業のブランドイメージや信用が損なわれるのを防ぎます。
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ビジネス関係の維持: 円満な解決を図ることで、場合によっては紛争当事者間のビジネス関係を完全に断ち切ることなく、将来的な協業の可能性を残すことができます。
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多言語環境での明確な合意: 異なる言語や法文化を持つ当事者間で、複雑な解決条件を共通理解できる形で文書化するために、正確な翻訳が不可欠です。
英文和解契約書(Settlement Agreement)の特徴と和文合意書との違い
国際的な紛争解決では、多くの場合、英文で和解契約書(Settlement Agreement)が作成されます。その特徴は、日本の和文合意書とは異なる点がいくつかあります。
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包括的な「請求権放棄(Release)」条項: 英文の和解契約書で最も重要かつ特徴的なのが、"Release"条項です。「The Parties hereby release and forever discharge each other... from any and all claims, demands, actions, causes of action, suits, debts, sums of money, accounts, reckonings, bonds, bills, specialties, covenants, contracts, controversies, agreements, promises, damages, judgments, executions, and demands whatsoever, known or unknown, foreseen or unforeseen, which they ever had, now have, or hereafter can, shall, or may have...(両当事者は、既知か未知か、予見されたか否かに関わらず、これまで、現在、または将来において、相手方に対し、いかなる請求、要求、訴訟、訴因、債務、金額、計算、精算、債券、手形、特別約定、誓約、契約、論争、合意、約束、損害、判決、執行、およびいかなる要求をも、ここに放棄し、永続的に免責する。)」といった、非常に広範かつ網羅的な表現が用いられます。これにより、当該紛争に関連する将来のあらゆる請求を包括的に排除する意図が示されます。和文の「一切の請求権を放棄する」よりも、具体的な法律用語を列挙し、その網羅性を強調する傾向が強いです。
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責任の不承認(No Admission of Liability)の明記: 和解の性質上、金銭の支払いがあっても、それが責任を認めるものではないことを明確にするため、「This Agreement shall not be construed as an admission of liability or wrongdoing by any Party.(本合意は、いかなる当事者による責任または不正行為の承認として解釈されるものではない。)」といった条項が必ずと言っていいほど含まれます。これにより、企業のレピュテーションや将来の類似紛争への影響を防ぎます。
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準拠法(Governing Law)と管轄権/仲裁(Jurisdiction/Arbitration)の詳細な指定: 和解契約書自体の解釈、そして合意内容に違反した場合の紛争解決のために、明確な準拠法(例:ニューヨーク州法、英国法)と、紛争解決手段(例:裁判所の排他的管轄権、特定の国際仲裁機関(ICC, LCIA, AAAなど)による仲裁)、仲裁地などが詳細に指定されます。これは、国際的な和解においては、合意の執行可能性に直結するため極めて重要ですし、当社はこれを強く認識しています。
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秘密保持(Confidentiality)の厳格な規定: 和解の条件、合意の存在、そして交渉過程に関する秘密保持義務が、非常に厳格に規定されます。違反した場合の損害賠償や差止請求の可能性も明記されることがあります。 「The terms and conditions of this Agreement, the fact of its existence, and all negotiations leading to this Agreement shall be kept strictly confidential by the Parties.(本合意の条件、その存在の事実、および本合意に至る全ての交渉は、当事者によって厳格に秘密保持されるものとする。)」といった表現が一般的です。
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完全合意条項(Entire Agreement Clause): 「This Agreement constitutes the entire agreement between the Parties with respect to the subject matter hereof, and supersedes all prior and contemporaneous agreements, understandings, and negotiations...(本合意は、本件主題に関する当事者間の完全なる合意を構成し、全ての先行または同時の合意、了解、および交渉に優先する。)」といった条項が含まれることが多く、これにより、本和解契約書が紛争解決に関する唯一かつ最終的な合意であることを明確にし、将来の解釈のずれを防ぎます。
日本の和文和解契約書に比べ、英文和解契約書(Settlement Agreement)は、包括的な請求権放棄の表現、責任不承認の明記、準拠法および紛争解決の厳密な指定、厳格な秘密保持義務、そして完全合意条項に関して、より詳細かつ法的に厳密な記述が求められる傾向が強いです。翻訳においては、これらの法的・商業的なニュアンスを正確に反映した表現を用いることが不可欠です。
和解契約書(Settlement Agreement)翻訳における重要ポイント
和解契約書(Settlement Agreement)の翻訳は、貴社の国際ビジネスにおける法的リスクの管理、円満な問題解決、そして将来の再紛争回避に直接影響するため、極めて高い精度と専門性、そして法務、事業といった多様な部門の連携と視点が求められます。以下のポイントを押さえることが、成功への鍵となります。
「請求権放棄(Release of Claims)」条項の極めて厳密な翻訳
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和解契約書の核となる部分であり、当事者が「過去、現在、将来にわたる一切の請求権」を放棄する旨の広範な表現を、ターゲット言語の法的用語を用いて正確かつ網羅的に翻訳することが不可欠です。この条項の不備は、解決したはずの紛争が再燃する最大の原因となります。 「any and all claims, demands, actions, causes of action, suits... known or unknown, foreseen or unforeseen...」といった表現の全てを網羅的に訳し、法的効力を損なわないようにすることが重要ですし、当社はこれを強く認識しています。
金銭的支払い(Settlement Amount)および非金銭的義務の明確な翻訳
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和解金の金額、支払い方法、支払い期日、そして製品の修正、ライセンスの供与、契約の終了といった非金銭的な義務を、曖昧さなく具体的に翻訳することが不可欠です。これらは、合意の実効性と執行可能性に直結します。
秘密保持義務(Confidentiality)条項の厳格な翻訳
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合意の存在、その内容、交渉経緯に関する秘密保持の範囲、期間、違反した場合の措置などを厳格に翻訳することが不可欠です。機密情報の漏洩は、企業の評判や競争力に深刻な影響を与えます。
責任の不承認(No Admission of Liability)条項の正確な翻訳
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和解金の支払いがあっても、それが法的責任を認めるものではない旨を明確に翻訳することは、企業のレピュテーション保護と将来の類似紛争への影響を最小限に抑える上で重要ですし、当社はこれを強く認識しています。
準拠法(Governing Law)と紛争解決(Dispute Resolution)の正確な指定:
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和解契約書の解釈、そして合意内容に違反した場合の紛争解決のために、適用される法律(準拠法)と、紛争解決の手段(裁判、国際仲裁など)、裁判管轄、仲裁地などを正確に翻訳することが不可欠です。これは、合意の執行可能性に直結します。
"Entire Agreement"(完全合意)条項の翻訳:
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本和解契約書が紛争解決に関する当事者間の唯一かつ最終的な合意であり、それ以前の全ての合意や交渉に優先する旨を正確に翻訳することで、将来の解釈のずれを防ぎます。
強固な情報セキュリティ体制:
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和解契約書には、紛争の詳細、和解金額、企業の内部情報、戦略など、極めて機密性の高い情報が含まれます。これらの情報が外部に漏洩した場合、企業の法的責任問題、信用失墜、そして再度の紛争を誘発する可能性など、甚大な損害を被る可能性があります。そのため、翻訳を依頼する際には、翻訳会社が厳格な情報セキュリティポリシーを定め、技術的・物理的・人的な対策を徹底しているかを必ず確認すべきですし、当社はこれを徹底しています。
AI翻訳の適切な活用と専門家による最終確認:
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AI翻訳技術は、初稿の作成や定型表現の翻訳に役立ちますが、和解契約書のような法的拘束力、複雑な法務・事業上のニュアンス、訴訟リスク管理が極めて重要な文書においては、その複雑な意味合いを完全に理解することは困難です。AIを効率化ツールとして最大限活用しつつも、国際法務知識、訴訟・仲裁実務経験、当該ビジネス分野の専門知識を持つ専門の翻訳者による徹底したレビューと校正が不可欠です。人間による精査が、潜在的なリスクを最小限に抑え、紛争の円満な解決を確実なものとします。
和解契約書(Settlement Agreement)翻訳は誰に必要なのか?ケーススタディで見る関係部門の役割
和解契約書は、企業の国際的な法的リスク管理において中心的な文書であり、多岐にわたる部門や関係者がその内容を理解し、翻訳された情報に基づいて連携することが不可欠です。
ケーススタディ1:日本企業が米国企業との国際契約違反紛争を和解
状況: 日本の製造業A社が、米国の子会社を通じて、米国の部品サプライヤーB社との間で、国際売買契約における部品の品質問題と納期遅延を巡る紛争を抱えていた。両社は裁判外で協議を進め、英語で和解契約書(Settlement Agreement)を締結することに合意。この和解契約書を、日本のA社本社関係者(法務部、事業部、経営層、財務部)向けに日本語に翻訳する必要がある。
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法務部: 必要性: 和解契約書の法的拘束力、特に「請求権放棄」条項の範囲と効力、責任の不承認条項の適切性、そして準拠法(例:ニューヨーク州法)と紛争解決に関する条項の法的リスクを詳細に確認します。将来の再紛争リスクを排除し、法的確実性を確保するための最終確認を行います。 ケース: 翻訳された和解契約書に記載された「本件紛争に関する両当事者間の既知・未知の全ての請求権の放棄に関する包括的な文言」、「B社が和解金を支払うが、それが責任を認めるものではない旨の明確な記載」、「ニューヨーク州法を準拠法とし、ニューヨーク州の裁判所に排他的管轄権を付与する条項」を和訳で確認し、法的リスクとコンプライアンスを評価します。
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事業部/品質管理部門: 必要性: 紛争の背景となった部品の品質問題や納期遅延に関する原因、そして和解契約書に盛り込まれた再発防止策や新たな品質管理基準、代替サプライヤーへの切り替え計画などを正確に理解します。今後のサプライヤー管理や製品品質戦略に反映させます。 ケース: 翻訳された和解契約書に記載された「B社が将来提供する部品の品質基準に関する詳細な合意(例:〇〇規格への準拠義務)」、「納期遵守に関する新たな罰則規定の導入」、「本合意後も一定期間、品質改善に関する協議を行う旨」を和訳で確認し、事業への影響と今後のサプライチェーン管理を評価します。
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財務部/経理部: 必要性: B社から受け取る和解金の金額、受領時期、支払い方法、そしてそれに伴う税務処理(受取和解金の会計処理、課税関係など)を正確に理解します。和解金の入金確認と適切な会計処理に責任を持ちます。 ケース: 翻訳された和解契約書に記載された「B社がA社に対して〇〇万ドルの和解金を、和解契約書締結後30日以内に電信送金で支払う旨」、「当該和解金が将来のいかなる費用請求も免除するものである旨」を和訳で確認し、財務計画への影響と会計・税務コンプライアンスを評価します。
ケーススタディ2:欧州のテクノロジー企業が日本子会社における労働紛争を解決
状況: 欧州のテクノロジー企業C社(ドイツ本社)が、日本子会社D社において元従業員E氏との間で不当解雇を巡る労働紛争を抱えていた。両当事者は裁判外で協議し、日本語で和解契約書を締結。この和解契約書を、C社本社関係者(法務部、人事部、経営層)向けに英語に翻訳する必要がある。
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法務部(欧州側): 必要性: 和解契約書の法的拘束力、特にE氏による将来の請求権放棄の範囲、秘密保持義務の厳格性、そして準拠法(日本法)と紛争解決に関する条項の法的リスクを詳細に確認します。日本の労働法における和解の特性を理解し、今後の類似紛争発生時の対応方針に反映させます。 ケース: 翻訳された和解契約書に記載された「E氏が、不当解雇に関連する全ての請求権(賃金、退職金、慰謝料、復職要求など)を放棄する旨の明確な条項」、「和解の事実、和解条件、交渉経緯に関するE氏への秘密保持義務」、「日本法を準拠法とし、東京地方裁判所を紛争解決の管轄とする条項」を英訳で確認し、法的リスクとコンプライアンスを評価します。
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人事部(欧州側): 必要性: 元従業員E氏への和解金支払い、退職手続き、将来の再雇用禁止など、人事関連の取り決めを正確に理解します。今回の紛争解決の経験を、将来の海外拠点における人事ポリシーや紛争予防策の改善に活かします。 ケース: 翻訳された和解契約書に記載された「E氏への和解金の具体的な金額と支払いスケジュール」、「E氏の退職日と退職後の社会保険手続きに関する取り決め」、「E氏がC社およびD社に対して、将来一切の採用応募を行わない旨」を英訳で確認し、人事管理とリスク対応を評価します。
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経営層(欧州側): 必要性: 今回の労働紛争が企業全体に与える影響(レピュテーション、財務、従業員士気など)、そして紛争解決によって得られる利益(コスト削減、法的リスクの排除など)を評価します。今後の海外拠点におけるリスク管理体制の強化に役立てます。 ケース: 翻訳された和解契約書に記載された「本和解が、C社およびD社によるいかなる違法行為の承認でもない旨」、「本件紛争解決にかかった総費用と、今後のD社の経営戦略への影響」を英訳で確認し、企業統治と戦略への影響を評価します。
よくある質問(FAQ)
和解契約書(Settlement Agreement)の翻訳に関して、お客様からよくいただくご質問とその回答をまとめました。
Q1: 和解契約書(Settlement Agreement)の「請求権放棄(Release of Claims)」条項で特に注意すべき点は何ですか?
A1: 和解契約書における「請求権放棄(Release of Claims)」条項は、その和解契約書がカバーする紛争が将来にわたって再燃しないための最も重要な法的要素です。
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包括性: 単に「一切の請求権を放棄する」と記載するだけでなく、「既知か未知か、予見されたか否かに関わらず(known or unknown, foreseen or unforeseen)」といった広範な文言が含まれているかを確認すべきです。これにより、当事者が認識していなかった損害や請求も将来的に主張できなくなります。
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対象となる請求権の範囲: 紛争の主題となった請求権だけでなく、それに関連する可能性のある全ての種類の請求権(訴訟、仲裁、損害賠償、債務、利息、費用など)を網羅しているかを確認することが重要です。
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当事者の範囲: 請求権を放棄する主体と放棄される対象が、紛争に関わる全ての当事者(例:親会社、子会社、関連会社、役員、従業員など)を適切に含んでいるかを確認すべきです。
翻訳においては、これらの法的表現の網羅性と正確性が非常に重要であり、ターゲット言語の法律用語に忠実に、かつ漏れがないように訳す必要があります。誤訳は、解決したはずの紛争が別の形で再燃するリスクを高めます。
Q2: 「責任の不承認(No Admission of Liability)」条項はなぜ重要ですか?
A2: 「責任の不承認(No Admission of Liability)」条項は、和解契約において金銭の支払いなどが伴う場合であっても、支払いが法的責任を認めるものではないことを明確にするために極めて重要です。
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レピュテーションの保護: 企業が責任を認めたと解釈されると、公衆からの信頼を損なったり、将来的に他の紛争で不利な立場に置かれたりする可能性があります。この条項は、そのようなリスクから企業を守ります。
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将来の紛争への影響: 特定の紛争で責任を認めてしまうと、将来類似の紛争が発生した場合に、その事実が不利な証拠として利用される可能性があります。この条項は、そのような先例を作ることを防ぎます。
翻訳においては、「責任を認めるものではない」「いかなる過失も認めるものではない」といった文言を、法的かつ明確な表現で正確に伝える必要があります。
Q3: 和解契約書(Settlement Agreement)の翻訳を依頼する際、どのような情報を提供すれば、より良い翻訳が得られますか?
A3: より高品質な和解契約書翻訳のために、以下の情報を提供いただけると非常に役立ちます。
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紛争の背景と経緯: どのような紛争が発生し、どのような議論を経て和解に至ったのかを理解することで、翻訳者は文書の文脈とニュアンスをより正確に捉えられます。
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関連する契約や文書: 紛争の基礎となった契約書、これまでの訴訟・仲裁資料、証拠書類など。これらがあれば、用語の一貫性を保ち、法的な背景を深く理解するのに役立ちます。
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関与する当事者の情報: 企業名、事業内容、国籍、関係性などを知ることで、適切な固有名詞の使用や、ビジネス上の意味合いを理解する手助けになります。
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特定の専門用語集: 業界固有の専門用語、法務用語、社内略語など、事前に用語集があれば、翻訳の一貫性と正確性が向上します。
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翻訳の目的: 内部承認用なのか、相手方への提示用なのか、あるいは公証やアポスティーユが必要なのかなど、翻訳の最終的な用途を伝えることで、翻訳のスタイルやレベルを調整できます。
Q4: AI翻訳を和解契約書(Settlement Agreement)の翻訳に活用する際の注意点は何ですか?
A4: AI翻訳は、初稿の作成や定型表現の翻訳に非常に役立ち、翻訳プロセスを効率化できますが、和解契約書のような法的拘束力、複雑な法務・事業上のニュアンス、訴訟リスク管理が極めて重要な文書に単独で使用することは強く推奨されません。
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法的表現の正確性: AIは、「請求権放棄」や「責任の不承認」といった法的に厳密な表現の微妙なニュアンスや、その条項が持つ法的効力を完全に理解し、正確に表現できないリスクがあります。これが最も致命的な誤訳につながる可能性があります。
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文脈と意図の欠落: 紛争の背景にある複雑な事実関係、当事者間の交渉の経緯、微妙な力関係といったビジネス上の繊細な文脈をAIが正確に把握できるとは限りません。
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専門用語の精度: 法務、訴訟、特定の業界技術など、多岐にわたる専門分野の用語の正確な対応は、AIだけでは困難な場合があります。
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秘密保持とセキュリティ: 和解契約書には極めて機密性の高い情報が含まれるため、AI翻訳サービスへのアップロード方法や、データの取り扱いに関するセキュリティ体制を慎重に確認する必要があります。
したがって、AI翻訳を効率化ツールとして最大限活用しつつも、必ず国際法務知識、訴訟・仲裁実務経験、当該ビジネス分野の専門知識を持つ専門の翻訳者による徹底したレビューと校正を行うことが不可欠です。当社は、AIと専門家の人力翻訳を組み合わせることで、高品質かつ効率的な翻訳を提供しています。
まとめ
和解契約書(Settlement Agreement)の翻訳は、単なる言語の変換に留まらず、企業が国際ビジネスにおける紛争を迅速かつ円満に解決し、法的リスクを管理し、将来の再紛争を回避するための極めて重要なプロセスです。
英文と和文の和解契約書が持つそれぞれの特徴を深く理解し、法務、事業、財務といった各部門が連携しながら、専門知識を持つ翻訳者の力を借りることが不可欠ですし、これまでの経験から当社はこれを強く認識しています。
特に、「請求権放棄」条項の極めて厳密な翻訳、金銭的支払いおよび非金銭的義務の明確な翻訳、秘密保持義務条項の厳格な翻訳、そして強固な情報セキュリティ体制といったポイントは、潜在的なリスクを最小限に抑え、紛争の円満な解決と企業の未来の構築を確実なものとするための鍵となります。
当社は、このような複雑な和解契約書(Settlement Agreement)の翻訳において、貴社の各部門のニーズを理解し、最高品質の翻訳とサポートを提供することをお約束します。貴社の海外ビジネスにおける和解契約書に関してご不明な点やご相談がありましたら、ぜひお気軽にお気軽にお問い合わせください。
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契約書翻訳に役立つリンク集
・法務省大臣官房司法法制部「法令翻訳の手引き」(PDF)
・日本法令外国語訳推進会議「法令用語日英標準対訳辞書」(PDF)
・Publiclegal(英文契約書のテンプレートや書式を無料で提供)
・日本法令外国語訳データベースシステム(法務省が開設した日本の法令の英訳サイト)
・weblio 英和辞典・和英辞典
・英辞郎 on the web
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