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Mar. 09, 2021

法務関連に特化した国際翻訳規格:ISO20771とは

 

本記事では、現在発行されている翻訳関連の国際規格について説明します。「翻訳サービス一般についての国際規格ISO17100」と「ポストエディットについての国際規格ISO18587」については、それぞれ別の記事で説明をさせていただきました。

 

今回は、法務関連に特化した国際規格ISO20771についてみていきます。

 

ISO20771の適用範囲について

ISO20771は法務関連に特化した国際規格で、2020年4月に発行されています。ISO17100(翻訳サービス)が2015年、ISO18587(ポストエディット)が2017年にそれぞれ発行されており、近年の翻訳に関する国際規格の関心の高まりが伺えます。


ISO20771がISO17100やISO18587と大きく異なるのは、後者が主に翻訳サービス提供者(LSP)に適用される規格であるのに対し、前者は法務翻訳を行う個人の翻訳者に対する規格であるという点です。

 

ISO20771 では、ポストエディットと通訳は適用外としています。また、機械翻訳を参照しながらの翻訳作業は、ポストエディットに該当しないとしています(ISO20771:2020, 1)。

 

法務翻訳者の資格について

ISO20771では、法務翻訳者の資格についてどのように規定しているのでしょうか。一般の翻訳サービスを規定しているISO17100と比較しながら特徴をみていきます。

ISO17100では、以下の3つのカテゴリーに分けて翻訳者の資格を規定しています。翻訳者はいずれかの条件を満たす必要があります。

  1. a) 翻訳関連の高等教育機関の卒業資格
  2. b) 翻訳以外の高等教育機関の卒業資格 + 2年以上の翻訳実務経験
  3. c) 5年以上の翻訳実務経験

 

日本では高等教育機関が翻訳関連の学位を提供しているケースが少なく、b)あるいはc)に該当するかどうかが実質的な基準となるでしょう。ここで注意したいのは、翻訳者が資格条件を満たしているかどうかについては、翻訳サービス提供者(LSP)が記録を確認・保存する義務があるという点です。

 

一方ISO20771では、法務翻訳者の資格を5つのカテゴリーに分けて規定しています(ISO20771:2020, 5.2)。

  1. a) 翻訳関連の高等教育機関の卒業資格 + 法律関連の修士号 + 3年以上の法務分野での翻訳実務経験
  2. b) 法律関連の高等教育機関の卒業資格 + 3年以上の法務分野での翻訳実務経験
  3. c) 翻訳関連の高等教育機関の卒業資格 + 5年以上の法務分野での翻訳実務経験
  4. d) 高等教育機関の卒業資格 + 公認法務翻訳士の資格(公的な民間機関の公認)+ 3年以上の法務分野での翻訳実務経験
  5. e) 法務翻訳士の国家資格(国家機関の公認)

 

ISO17100の場合と同様に、日本では高等教育機関が翻訳関連の学位を提供しているケースが少ないのが現状です(つまり、a)と c)は非該当)。また、公認法務翻訳士を認定する公的な民間機関や国家機関も存在しないことから(つまり、d)と e)は非該当)、日本では b)が実質的な資格基準となるでしょう。(注:JIS規格「JIS Y 17100」では、翻訳関連のコースを含む学位であれば卒業資格として認定するとの解釈となっています。)

 

例えば、大学で法学部を卒業していて、かつ契約書や裁判書類等の翻訳経験が3年以上あれば、b)の条件を満たすことになります。ただし、ISO17100の場合と異なり、ISO20771はあくまでも翻訳者個人が申請して認定を受ける規格ですので、資格条件を満たす根拠となる書類については翻訳者自身が記録・保管していかなければなりません。

 

ISO20771の各国の対応について

ISO20771は2020年に発行されたこともあり、今後どのように各国で認定されていくかについては不透明な点もあります。例として、英国とドイツでの対応についてみてみましょう。

 

英国では国際規格の発行と同時に、英国規格協会(British Standards Institution)によって英国規格BS ISO20771:2020として制定されています。また、ISO認定サービスを提供している英国翻訳会社協会(Association of Translation Companies)では、今後関心が高まればISO20771の認定サービスの提供も視野に入れていくとしています。

将来的にISO20771が英国内において必須となることはないと思われます。ただ、日本と同様に法務翻訳士の国家資格や公的認証が存在していない英国では、個人の法務翻訳者が国際規格を根拠にして資格を証明できるという点では潜在的なメリットになりえるとしています(https://atc.org.uk/iso-20771-legal-translation/)。

 

英国でのポジティブな対応とは対照的に、ドイツ規格協会(Deutsches Institut für Normung、以下DIN)はISO20771を国内規格として採用しないとしています。通常、ドイツにおいてISO規格が国内で制定される場合はDINという符号がISOの頭に付与されます。例えば、翻訳サービスについての国際規格ISO17100であれば、ドイツ国内ではDIN EN ISO17100として規格化され採用されています。しかし、今回のISO20771にはDINを付与しないと判断がなされたのです。

 

主な理由としては、ドイツ国内における法制度に適合しない記述があるためとしています。それは、ドイツでは翻訳文書に署名できるのは裁判所によって認められた公認翻訳士のみとなっているからです。ISO20771が定めている法務翻訳者の資格区分では、翻訳文書に翻訳者が署名することが法的に許されないケースが発生してしまいます。このようなドイツ特有の法制度の事情から、DINではドイツ国内ではISO20771自体を使用しないようにという声明を出していますhttps://slator.com/industry-news/germany-rejects-iso-standard-for-legal-translation/ )。

 

ISO 20771のメリットについて

ISO20771は翻訳者個人が申請して認定を受ける規格であることや、認定にかかるコスト等もあることなどから、導入の判断も慎重になるかもしれません。ただ、国際規格としてはすでに発行されていますので、国内に認定機関がなくても「自己適合宣言」をしてISO20771準拠していることを顧客にアピールすることもできるでしょう。特に日本では英国と同様に法務翻訳者を認定する制度がありませんので、国際規格が制定されたことは大きなメリットといえるでしょう。

 

また、ISO20771は翻訳者個人に適用される規格であるわけですが、翻訳サービス提供者(LSP)は規格の一部を既存の法務翻訳のプロセスに取り入れることも可能でしょう。ISO17100では法務関連の翻訳はA分野として規定されていますが、ISO20771というさらに厳しい条件の規格を参考にすることで、今後は差別化したサービスの提供ということも考えられるでしょう。

 

まとめ

今回は、法務翻訳関連に特化したISO20771について簡単に説明をさせていただきました。ISO20771では法務翻訳者の資格以外にも、翻訳プロセス、翻訳者に必要とされる力量や法務分野の専門力の開発について規定がされています。詳しい内容については、また別の機会に紹介をさせていただければと思います。

 

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