プレスリリース
東京オリンピック・パラリンピック開催に向け、通訳・翻訳市場が活気づくことが期待されている。
これを機に好きな競技に関わる翻訳案件に携わりたいと考えている翻訳者も多いのではないだろうか。
そこでスポーツ翻訳の需要について専門部署を有する翻訳会社にお話をうかがった。
WIPジャパンは多言語翻訳・ローカライズを中心に、海外調査・マーケティング、多言語WEBサイト構築、海外EC支援なども行うグローバル企業。同社とスポーツとの縁は深く、代表取締役会長の上田輝彦さんは「1995年の創業時、最初に手がけた大きなプロジェクトが大阪でのオリンピック招致活動に伴う海外調査業務でした」と話す。海外調査には大量の翻訳が必要になるため、まもなく翻訳サービスを開始したという。
2003年にはスポーツ翻訳専門の部署を設置し、専門サイトもオープンした。翻訳受注全体に占める割合は小さいものの、スポーツは同社のサービスの特長のひとつなっている。調査部門においてスポーツ政策調査などの仕事を継続的に請け負っているほか、スポーツ留学支援を行う関連会社「アスリートブランドジャパン」も04年の設立以来、順調に実績を積み重ねている。
「関連会社であるアスリートブランドジャパンでは、野球やテニス、バスケットボールなどの留学のほか、トレーナーやコーチのインターンシップもサポートしています。錦織圭選手が所属するIMGアカデミーと提携していることもあり、最近ではテニスの人気がとても高いようです」(上田さん)
スポーツ翻訳のクライアントは、まず第一にスポーツ用品メーカーで、パンフレット、カタログ、WEBコンテンツ、プレスリリースなどの翻訳需要がある。また、大学や独立行政法人などから学会やシンポジウムの資料を依頼されることも多く、なかには論文のように学術的なドキュメントもあると翻訳事業部の楠山芙美さんは説明する。
「スポーツによる国際交流、地域振興などがテーマの文書もあります。最近はスポーツによって地域住民の健康増進を図るといった保健・予防医学的なテーマが増えているかもしれません。インバウンド需要に伴って、流鏑馬などの和のスポーツについて外国人に紹介するような文書がみられるのもトレンドだと思います」
言語はほとんどが英語。メーカーの海外展開に伴うビジネス需要は日英が中心、学会・シンポジウム等の資料翻訳は英日が中心で、日英が66~7割を占めている。
競技別に見ると、同社の場合はゴルフやランニングに関するものが多くなっているが、これはシューズメーカーが主要なクライアントのひとつであるため。「翻訳需要全体で考えると、特にこの競技の案件が多いという傾向はなく、いろいろなスポーツの案件があるのではないでしょうか」と楠山さんは話す。
「トレーニング、コーチングなどスポーツ全般に関わる内容もよく見られます。そのほか、大規模な世界大会が日本で開催されれば、それに伴う翻訳需要が生じます。例えば2007年に大阪で世界陸上が行われた際には、弊社にもさまざまなご依頼がありました」
東京オリンピックに関しても、スポンサーシップの提案書、パラリンピックについての資料など、招致活動の段階で多様な案件を請けた。
「開催決定後はあまりありませんが、これから2020年の開催に向けて増えていくだろうと期待しています。通訳・翻訳についてはボランティアを活用するという方向性も耳にしていますが、重要な資料やスポンサーシップに伴う民間需要はプロに依頼されると思います」(上田さん)
翻訳は他の分野で活躍中の登録翻訳者の中から、そのスポーツに詳しい人を選んで依頼している。ターゲット言語のネイティブ翻訳者による翻訳を基本としているため、日英は英語ネイティブに、英日は日本人翻訳者を選定することがほんとんどだ。
「翻訳者の方に『サッカーの経験が豊富』『ゴルフに詳しい』『野球の記事の翻訳経験がある』というように具体的にアピールしていただいて、その方のデータに『サッカー』『ゴルフ』などのキーワードを登録しておき、案件が生じたときにコーディネーターがキーワード検索をして最適の人材を選ぶという体制になっています。登録数自体はかなり多いですが、実際に稼動しているのは10名前後です。コンスタントに依頼できるほどのボリュームはなく、普段は別の分野の翻訳で活躍していただいている方がほとんどです」(楠山さん)
スポーツ分野の翻訳者は足りており、今後募集する可能性があるとすれば「スポーツに詳しい字幕翻訳者」と上田さん。
「CSとインターネットの普及で、動画コンテンツがどんどん増えています。映像翻訳はこれから強化していきたい分野なので、すぐには案件につながらないかもしれませんが、スポーツ翻訳に興味のある字幕翻訳者の方がいればアプローチしていただきたいと思います」
多彩な案件があるため、スポーツ翻訳の魅力は一言では語れないが、自分の大好きなスポーツについて新たなことを知る喜び、そのスポーツの発展に寄与できるやりがいは大きいだろう。東京オリンピック開催に向けて、需要が高まることを期待したいところである。
スポーツの翻訳者にはまず第一に、その競技に詳しいことが求められる。
「専門用語を熟知していることが重要です。カタカナが非常に多いのですが、英語をそのままカタカナにすべきときと、そうしてはならないときがある。WEBコンテンツやリリースであればキャッチコピー的なセンスが、学術的な文章であれば論理的な文章力が求められるというように、ドキュメントの種類によっても必要なスキルは異なりますが、どんな案件でも専門用語に詳しいことが前提になると思います」(楠山さん)
一方、上田さんは、「そのスポーツの歴史的背景や各国の組織・制度にも精通しているような人には、安心して依頼できる」と話す。
「例えば、ある国のスポーツ団体が出てきたときに、それが日本の何に相当するのか、省庁なのか外郭団体なのか協会なのかをきちんと把握した上で翻訳しないと、読者に内容がうまく伝わらなくなってしまう。背景知識、調査力も必要だと思います」
調査力や文章をまとめる力の高い翻訳者であれば、調査部門の翻訳者兼リサーチャーとして登録し、スポーツ政策や制度等に関する外国の文献を読み込み、要点をまとめ報告書を執筆するといった仕事を請けるチャンスもあるそうだ。
専門用語や各国のスポーツ事情は、インターネットや専門誌で勉強することが可能。他分野と同様、日頃からアンテナを高くして、インターネット等で関連の最新情報を収集する習慣もつけておきたい。
同社では、さまざまな分野のフリーランス翻訳者を常時募集中(詳細はサイト参照のこと)。トライアルに合格して登録する際に「○○のスポーツに詳しい」とアピールすれば、チャンスはあるとのことである。