「WARNING」と「CAUTION」を訳し違えると何が起きるか——単なる「言葉の問題」ではありません。安全警告レベルの誤訳は、使用者への危険を正確に伝えられなくなることを意味し、不適切な安全情報は製品安全上・製造物責任上のリスクにつながるおそれがあります。この記事では、製造業の翻訳で特に注意が必要なミスとその対策を解説します。
1. 想定ケース:WARNINGがCAUTIONに訳されたまま出荷された
安全警告レベルの取り違えによって起こり得る問題を、架空のケースでご紹介します。
(以下は、安全警告の翻訳リスクを説明するための架空のケースです)
ある機器メーカーの製品担当者が、輸出向け製品の取扱説明書を翻訳会社に発注した。コスト削減のためAI翻訳を使用し、簡単な確認を経て納品された。
現地での展開後、代理店から連絡が来た。「安全警告の表示が『WARNING(警告)』ではなく『CAUTION(注意)』になっている箇所がある。安全警告のレベルが現地向け仕様と一致していない。出荷済み製品への対応を含め、是正方法を検討する必要があ。」
安全警告のレベルを訳し違えたことで、使用者に伝えるべき危険度が下がって伝わっていた。修正・再印刷・現地への再配布のコストは当初の翻訳費用を大幅に超えた。
WARNINGとCAUTIONは、どちらも日本語では「警告」「注意」に近い表現に訳される。しかし安全規格上は危険度の異なる別のレベルを指し、混同したまま出荷されると使用者への危険度が間違って伝わってしまう。
2. 製造業の翻訳で重点的に確認すべき3つのミス
製品マニュアル・仕様書・安全文書には、ひとつの誤りが製品事故・製造物責任につながる箇所が存在します。特にリスクが高い3つのミス類型を整理します。
ミス① 安全警告レベルの訳し違い
ISO 3864-2では、製品安全ラベルに用いるDANGER・WARNING・CAUTIONを危害の程度に応じたシグナルワードとして区別しています。また、IEC/IEEE 82079-1では、製品の使用情報に含まれる警告メッセージを適切に設計するための原則が示されています。機械類については、ISO 20607およびその一致規格であるJIS B 9719が、取扱説明書の安全関連部分の構成・作成に関する要求事項を定めています。欧州でもISO 20607を採用したEN ISO 20607が使用されています。
| 英語表記 | 基本的な意味 | 区分 |
|---|---|---|
| DANGER(危険) | 回避しないと死亡または重傷を招く危険な状況。極度に危険な状況に限って使用する | 人身危害・最上位 |
| WARNING(警告) | 回避しないと死亡または重傷を招くおそれがある危険な状況 | 人身危害 |
| CAUTION(注意) | 回避しないと中程度の傷害または軽傷を招く、またはそのおそれがある危険な状況 | 人身危害 |
| NOTICE(通知) | 人身危害に関連しない物的損害を招く、またはそのおそれがある状況 | 物的損害 |
DANGER・WARNING・CAUTIONは規格上で意味が厳密に定義されており、WARNINGをCAUTIONに訳し違えると、使用者に伝える危険度が変わります。なお、NOTICEはIEC/IEEE 82079-1において人身危害の警告語とは別に区別されており、「危険度が最も低い人身危害レベル」ではなく、主に物的損害・製品損傷に関する事項に用いる語です。
規格実務上重要なのは、①WARNING・CAUTIONを別レベルとして保持しているか、②NOTICEに人身危害を示す一般注意図記号を付けていないか、の確認です。
「警告」「注意」は日常語としては近い意味で使われることがありますが、安全表示では危害の程度に応じて区別されています。そのため、一般的な語感ではなく、適用規格と製品のリスク評価に基づいて対応関係を確認する必要があります。
ミス② 否定・禁止表現の訳抜け
「〜してはならない(Do not〜 / must not〜)」という操作禁止・使用禁止の表現が訳文で抜け落ちたり、肯定文に変わったりするケースがあります。
安全文書の否定表現は「このような操作をすると危険」という警告の核心であり、これが欠落すると使用者がリスクを認識できなくなります。
否定や禁止が抜けると、危険な操作を許可するような意味へ反転するおそれがあります。そのため、「~してはならない」「~を禁止する」などの表現は、翻訳方式にかかわらず原文と個別に照合する必要があります。
ミス③ 数値・単位の誤り
寸法、電圧、温度、圧力、重量などは、数値だけでなく単位も原文と照合する必要があります。対象市場に合わせて単位換算を行う場合は、換算の要否、併記方法、丸め方を事前に決め、計算結果を別工程で検証します。
3. リスクの高い箇所だけ工程を厚くする設計
製品マニュアルは、リスクの高い箇所と低い箇所が混在しています。
当社では、製品リスクと使用目的を踏まえて重点確認箇所を特定し、安全への影響が大きい部分ほど確認工程を厚くする方法を推奨しています。
| 箇所 | 主な確認工程 |
|---|---|
| 安全警告・禁止事項 | 適用規格とリスク評価を確認し、原文と訳文を対照して、警告レベル、禁止事項、危害、回避方法の完全性を確認する |
| 操作手順・数値・単位 | 手順の順序、条件、数値、単位を原文および製品仕様と照合する。単位換算を行う場合は別工程で検算する |
| 製品概要・一般説明 | 用途と公開範囲に応じてAI翻訳を利用できるが、製品機能や安全性に関する記述は原文と照合する |
| 問い合わせ先・付録 | 内容を確認してリスクを判定する。連絡先、仕様、保守、法規、安全情報を含む場合は個別に照合する |
まとめ
安全文書の翻訳は「コストで工程を決める」のではなく「リスクで工程を決める」必要があります。安全警告レベルの訳し違い・否定表現の訳抜け・数値の誤りは、不適切な安全情報として製品安全上・製造物責任上のリスクにつながるおそれがあります。消費者庁資料では、製造物責任法上の欠陥は一般に、製造上・設計上・指示警告上の欠陥に分類されると説明されています。
全量を均一に翻訳するのではなく、リスクの高い箇所に工程を集中させる設計が、品質とコストを両立するための鍵です。
参考資料
・ISO「ISO 3864-2:2016 Graphical symbols — Safety colours and safety signs — Part 2: Design principles for product safety labels」(有償頒布)
・IEC・IEEE「IEC/IEEE 82079-1:2019 Preparation of information for use (instructions for use) of products」(有償頒布)
・日本規格協会「JIS B 9719:2022 機械類の安全性―使用上の情報の設計及び作成のための原則」(ISO 20607一致規格)(有償頒布)https://webdesk.jsa.or.jp/
・一般社団法人 日本電機工業会「重電機器の安全確保のための警告表示に関するガイドライン」(2019年)
・消費者庁「製造物責任法(PL法)について」https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/manufacturing/


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Jun. 15, 2026