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Aug. 04, 2026

外国人介護職員のコミュニケーション課題と介護マニュアル翻訳による改善策

外国人介護職員の受け入れを始めた施設では、現場での意思疎通に思わぬ課題が生じることがあります。「マニュアルを渡したのに、うまく動いてくれない」「申し送りが正確に伝わっていない気がする」——そうした課題が生じる場面があります。

 

こうした課題への対応として、介護マニュアルの多言語翻訳を検討する施設もあります。ただし、翻訳さえすれば解決するわけではありません。

 

本記事では、介護現場で起きやすいコミュニケーション課題の整理から、外国人職員に「伝わる」資料づくりのポイントまでをご説明します。

 

 

1. 介護現場で起きやすい5つのコミュニケーション課題

外国人介護職員が入職した際、以下のような場面で意思疎通の難しさが生じやすいとされています。

 

利用者の言葉や訴えが理解しにくい

高齢者の方は、不明瞭な発音や地域の方言、体の不調を間接的に訴えることがあります。日本語に慣れていない職員にとって、状況を正しく読み取ることは難易度が高くなります。JICWELSの調査報告でも、方言の聞き取りが難しいことや、標準語でコミュニケーション・申し送りを行う対応例が示されています。

申し送り・報連相が正確に伝わらない

「少し熱っぽかった」「いつもより食欲がなかった」——こうした微妙なニュアンスが伝わらないと、安全管理上のリスクにつながる可能性があります。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの全国調査では、引継ぎ・申し送りを「問題なく理解し行動できる」と回答した外国人介護職員は、EPA介護福祉士が69.5%、介護の在留資格者が54.9%でした。

介護記録の作成が難しい

記録に求められる日本語は日常会話とは異なります。同調査では、読む能力について「専門用語も含めて対応できる」と回答した外国人介護職員は、EPA介護福祉士で63.8%、介護の在留資格者では51.3%でした。書く能力については、EPA介護福祉士が61.0%、介護の在留資格者が40.7%にとどまっています。

専門用語・施設内用語が分かりにくい

「バイタル」「ADL」「ヒヤリハット」「NSコール」——外国人職員にとって馴染みのない略語や施設固有の用語が多く使われています。JICWELSの調査報告では、申し送りノートに記された略語が誤って伝わった事例が具体的に示されています。こうした課題に対し、厚生労働省は「外国人のための介護福祉専門用語集」を整備するなど、制度的な対応も進んでいます。

日本人職員の指示があいまいになりやすい

「適宜対応してください」「いつも通りで」——こうした表現は日本語ネイティブには伝わっても、外国人職員には具体的な行動が分かりにくい場合があります。

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2. こんな場面で起きている——ミスコミュニケーションの実例

こうした課題が実際にどのような問題につながるか、想定される場面と、調査報告に記録された事例を分けてご紹介します。

 

想定例① 「少し」のニュアンスが伝わらず、対応が遅れる

たとえば、夜勤明けの職員から「Aさん、夜間に少し熱っぽかったです」と申し送りを受けた外国人職員が、「少し」という表現の程度感をつかめず、通常通りの対応を続けてしまう、といった場面が考えられます。

 

背景にある課題:「少し」「やや」「ちょっと」といった程度を表す副詞は、日本語学習者には解釈が難しく、発熱・疼痛・食欲など体調に関わる申し送りでは特に注意が必要です。
想定例② 「こまめに」の意味が伝わらず、水分補給が不十分になる

たとえば、「Bさんは水分摂取が少ないので、こまめに飲み物を勧めてください」という指示を受けた外国人職員が、「こまめに」が具体的にどの頻度を指すのか分からず、食事の時間だけ水分を提供してしまう、といった場面が考えられます。

 

背景にある課題:「適宜」「こまめに」「必要に応じて」は、日本人同士なら文脈で補える表現です。外国人職員には「1時間ごと」「食事以外に3回」など、具体的な回数・時間で伝える必要がある場合があります。
事例③ 「はい。わかりました」と返事したのに、別の対応になった

JICWELSの調査報告に記録された事例です。職員から指示・申し送りを受けたEPA介護福祉士が「はい。わかりました」と返事をしたものの、実際の指示内容とは異なる行動をしたり、利用者へ誤った対応をしたりすることがあると報告されています。

 

背景にある課題:日本語の指示や依頼は文脈に依存することがあります。外国人職員には「〇〇を準備してください」のように、行動が分かる形で直接伝えることで、誤解を減らしやすくなります。

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3. マニュアルを翻訳するだけでは解決しにくい理由

こうした課題への対応策として、介護マニュアルの翻訳が検討されることがあります。しかし、既存のマニュアルをそのまま翻訳しても、期待通りの効果が出にくいケースがあります。

 

日本人職員向けの原文には暗黙知が多い ——「慣れれば分かる」「見て覚える」という前提で書かれた内容は、翻訳してもそのまま伝わりません。

「適宜」「こまめに」などの曖昧な表現は、翻訳後も曖昧さが残ります。

手順や判断基準が明文化されていない箇所は、翻訳のしようがありません。

結果として「読めるが、動けない」マニュアルになることがあります。

 

出入国在留管理庁・文化庁の「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」も、外国人に伝わる文書を作るにはまず「日本人にわかりやすい文章」に整理し、次に「外国人にもわかりやすい文章」に書き換えることを推奨しています。翻訳前の原文整理が、伝わるマニュアルづくりの出発点です。

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4. 「伝わる」介護マニュアルにするための7つのポイント

外国人職員に伝わる資料を作るために、以下の視点で原文を整理することが効果的です。

No. ポイント 内容
1 一文を短くする 1つの文に1つの情報を。長い文は読み飛ばされやすくなります。
2 手順をステップ化する 「①〜する、②〜する」という番号付き手順書にすることで、動作が明確になります。
3 主語と行動を明確にする 「職員は〇〇する」「利用者が〇〇の場合は△△する」という形にします。
4 報告基準を具体化する 「いつもと違う場合」ではなく「体温37.5℃以上の場合はナースに報告する」のように数値・条件で示します。
5 専門用語を統一する 施設内で使う用語を一覧化し、表現をそろえます。厚労省の介護福祉専門用語集も参考になります。
6 図・表・チェックリストを活用する 文字だけでなく、図・表・チェックリストなど、視覚的に確認しやすい形式も取り入れます。
7 やさしい日本語版も用意する 漢字にルビを振り、短文化した「やさしい日本語」版は、多言語翻訳と組み合わせて検討できる選択肢です。複数の国籍が混在する施設では、共通資料として使いやすい場合があります。

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5. 翻訳・資料整備の3つのアプローチ

外国人職員向けの資料整備には、いくつかの進め方があります。施設の状況や優先順位に応じて、以下の3つのアプローチを検討できます。

アプローチ 内容・向いているケース 注意点
まず翻訳から始める 既存の日本語マニュアルを翻訳し、多言語版を手元に用意する方法です。すぐに着手できます。 原文が曖昧な場合は翻訳後も伝わりにくい箇所が残ることがあります。補助的な資料から試すのに向いています。
原文整理から始める 日本語原稿を見直し、手順の明文化・曖昧表現の削除・用語の統一を行ってから翻訳します。翻訳の質が上がり、日本人職員にも分かりやすい資料が残ります。 安全管理・事故対応に関わるマニュアルに特に推奨されます。
総合的に整備する マニュアル翻訳に加え、用語集・申し送り文例集・多言語チェックリスト・掲示物・研修資料も合わせて整備します。 受け入れ体制を本格的に整えたい施設、複数言語に対応する必要がある施設に向いています。

対応言語について
介護現場で多く使われる言語をはじめ、幅広い言語に対応しています。複数国籍の職員が在籍する施設でも、一括してご相談いただけます。
ベトナム語 / インドネシア語 / フィリピン語(タガログ語)/ 中国語(簡体字・繁体字)/ ミャンマー語 / カンボジア語 / タイ語 / 英語 / その他多数

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6. 翻訳を依頼する前に確認したい5つのポイント

翻訳を外部に依頼する際は、次の点を事前に整理しておくとスムーズに進められます。

 

対象者の母語と日本語レベル ——翻訳言語の選定と、「やさしい日本語」版の要否に関わります。

どの業務で使う資料か ——日常ケア手順書・緊急対応マニュアル・研修資料など、用途によって優先度が変わります。

施設内で使う用語の一覧 ——固有の略語・呼称は事前にリスト化しておくと、翻訳の精度が上がります。

安全・事故対応に関わる箇所の確認 ——誤訳や誤解が事故につながるリスクがある箇所は、翻訳後に専門知識のある方が確認することを推奨します。

翻訳後の更新・運用体制 ——マニュアルは定期的に改訂されます。更新のたびに多言語版も更新できる体制を考えておくことが重要です。

安全・事故対応マニュアルの翻訳は慎重に
緊急時の対応手順や服薬管理など、誤りが重大な事故につながりうる箇所については、翻訳の正確性を入念に確認することが不可欠です。翻訳後は、介護の専門知識をお持ちの方に内容を確認いただくことをおすすめします。

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まとめ

  • 申し送りを「問題なく理解し行動できる」EPA介護福祉士は 69.5% 、介護の在留資格者 は54.9%(MURC調査)。申し送りや介護記録などで課題が見られる
  • 「少し」「こまめに」などの曖昧な表現や、文脈に依存する指示・依頼は、ミスコミュニケーションにつながることがある
  • 既存の日本語マニュアルをそのまま翻訳するだけでは「読めるが動けない」資料になることがある
  • 翻訳の効果を高めるには、翻訳前の原文整理・用語統一・手順の明文化が重要(文化庁ガイドラインも同様のアプローチを推奨)
  • 施設の状況に応じて「まず翻訳」「原文整理から」「総合的な資料整備」の3つのアプローチを選べる

 

 

参考資料
・三菱UFJリサーチ&コンサルティング「外国人介護人材の受入れ実態等に関する調査研究事業 【報告書概要版】」(2020年)https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2022/11/houkatsu_07_1-03.pdf
・公益社団法人 国際厚生事業団(JICWELS)「介護分野の技能実習生の日本語学習方法及び学習教材等のあり方に関する調査研究事業 報告書」https://jicwels.or.jp/files/H28_Suisinjigyou_Report.pdf
・出入国在留管理庁・文化庁「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」(2020年)https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kyoiku/pdf/92484001_01.pdf
・厚生労働省「外国人のための介護福祉専門用語集」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_28131.html
・厚生労働省「外国人介護人材の受入れについて」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/gaikokujin_kaigo/index.html
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