<img src="https://trc.taboola.com/1341089/log/3/unip?en=page_view" width="0" height="0" style="display:none">
  • Twitter
  • facebook
  • LINE
  • pocket
  • はてな
Jun. 15, 2026

ネイティブチェックしたのに問題が残った——受入品質診断が必要な理由

 

 

「ネイティブチェックをしたのに、後からHQや現地法人から指摘が来た」——そんな経験はありませんか。ネイティブチェックは品質保証の手段のひとつですが、翻訳物の品質が一定水準を下回っている場合、ネイティブチェックだけでは問題を解消できないことがあります。この記事では、ネイティブチェック前に品質診断が必要な理由と、その判断基準を解説します。

 

 

1. よくあるケース:ネイティブチェックしたのにHQから差し戻された

ネイティブチェックを経たにもかかわらず問題が残ったケースをご紹介します。
(以下は、ネイティブチェックの工程範囲によって起こり得る問題を説明するための架空のケースです)

ある企業の法務担当者が、海外サプライヤーとの業務委託契約書(日本語)を英語化するためにAI翻訳を使用し、社内のグローバル営業部にネイティブチェックを依頼した。英語に堪能な担当者が確認し「表現は問題ない」との回答を受け、HQの法務部門に承認のため送付した。

数日後、HQから差し戻しが来た。「賠償責任の上限条項に、故意・重大な過失の場合は上限を適用しないという規定がない。わが社のグローバル契約ポリシーでは、故意・重大な過失がある場合を責任上限の対象外とする必要がある。しかし、その例外規定が英訳から抜けている」。

確認すると、日本語原文には「故意または重大な過失がある場合を除き、500万円を上限として賠償責任を負う」と明記されていた。しかし英語訳は「the liability shall be limited to JPY 5,000,000」となっており、除外規定がそのまま消えていた。社内のネイティブチェックは英文の流暢さを確認していたが、日本語原文との対照照合は行っていなかった。


問題はグローバル営業部の担当者の能力ではなく、「どんな品質の翻訳物でもネイティブチェックすれば解決する」という前提にありました。

目次に戻る

 

2. ネイティブチェックが万能でない理由

本記事でいうネイティブチェックとは、主に訳文だけを読み、流暢さ・自然さ・文体・表現の適切さを確認する工程を指します。原文と訳文を照合し、誤訳や脱落まで確認するバイリンガルチェックとは区別して扱います。

翻訳サービスの国際規格ISO 17100では、原文と訳文を比較して正確性を確認する工程(revision)と、訳文を単独で確認し、目的や分野に照らした適切性を評価する工程(review)が別工程として区別されています。どちらの形であれ、以下のような問題は見落とされやすい傾向があります。

  • 数値・単位の誤り:訳文だけを確認するネイティブチェックでは、数値や単位が原文と一致しているかを確認できない
  • 条項・段落の脱落:原文がなければ、条項や段落が欠落しているかを確実には判断できない
  • 否定表現の訳し崩れ:訳文だけでは、原文にあった否定や条件が欠落しているかを判断できない
  • 致命的な誤訳が多数ある場合:修正工数が想定を超え、ネイティブチェックの範囲内では収まらなくなる

特に、AI翻訳の品質は、言語、分野、原文の特性、使用するシステムによって異なります。LLM(大規模言語モデル)型の翻訳についても、分野不一致や低頻度語などの課題が残ることが報告されています。また、法律翻訳の改訂を扱った研究では、改訂者の専門的な訓練や背景によって、品質と作業効率に差が生じることが報告されています。これらの文書では、着手前に適合性と必要工程を見極めることが有効です。

目次に戻る

 

3. 品質レベルを4段階で判定する「受入品質診断」

こうしたトラブルを防ぐために、当社ではネイティブチェック着手前に受入品質診断を実施しています。翻訳物をサンプリングし、致命的なミスの有無・密度を確認した上で、品質レベルを4段階で判定します。
※以下の4段階はISO 17100に定められた品質区分ではなく、当社がネイティブチェックの受入可否と必要工程を判断するために設けた独自基準です。判定では、ミスの件数だけでなく、重大度、サンプル内での密度、文書の用途、同種の誤りが全文に広がっている可能性を総合的に確認します。

レベル 判定内容 対応方針
Level A 致命的なミスなし 標準ネイティブチェックで着手
Level B 重大なミスが多め 追加工数・費用をご説明した上で着手
Level C 致命的なミスが1〜2件 PE(ポストエディット)+ネイティブチェックとして改めてお見積り
Level D 致命的なミスが多数 再翻訳をご提案

この診断により、着手前に「どのような工程が必要か」「追加費用はどのくらいか」を明確にできます。SO 17100(JIS Y 17100)でも、着手前にクライアントの要求事項や仕様を確認し、プロジェクトに必要な資源と工程を準備する考え方が示されています。当社の受入品質診断は、この考え方を既存訳のチェック案件に応用した独自の運用です。

目次に戻る

 

4. 診断なしに着手するとどうなるか

受入品質診断なしにネイティブチェックを開始した場合、以下のような問題が生じる可能性があります。

  • 想定外の工数が発生する:チェック中に致命的なミスが多数見つかり、実質的に再翻訳に近い作業になる
  • 費用の後出し増額:着手後に追加費用の交渉が必要になる
  • それでも問題が残る:工数を追加しても、ネイティブチェックの工程設計上、発見できないミスが残ることがある
  • 責任の所在が曖昧になる:「ネイティブチェックした」「問題が残った」という状況で、どちらの責任かが不明確になる

診断を着手条件にすることで、想定外の工数や工程不一致が生じるリスクを事前に抑えられます。

目次に戻る

 

まとめ

ネイティブチェックは訳文品質を改善するための手段の一つですが、翻訳物の品質が低い状態では効果に限界があります。着手前に品質レベルを診断し、必要な工程を明確にすることが、「ネイティブチェックしたのに問題が残った」というトラブルを減らすための重要な第一歩です。

追加費用、必要工数、確認範囲、責任分担を着手前に合意しておくことが、トラブルを避けるうえで重要です。

 

 

参考資料
・日本規格協会「JIS Y 17100:2021 翻訳サービス―翻訳サービスの要求事項」(ISO 17100:2015, Amendment 1:2017 一致規格)https://webdesk.jsa.or.jp/books/W11M0090/(有償頒布)
・Marco Zocca, Per Fallgren, and David Buffoni, “Experience Report: Implementing Machine Translation in a Regulated Industry,” EMNLP 2025 Industry Track(2025年)
・Pang et al.「Challenges in Large Language Model-Based Translation」Transactions of the ACL(2025年)
・Fernando Prieto Ramos and Diego Guzmán, “The impact of specialised translator training on legal translation revision quality and efficiency”(2024年)

 

  • Twitter
  • facebook
  • LINE
  • pocket
  • はてな

翻訳会社を選ぶおすすめの依頼方法:失敗しない10のキホン

WIPの翻訳をつくるサービスはこちら