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不動産関連契約書:グローバルな不動産取引を確実に進める主要契約の種類と翻訳のポイント

作成者: WIP japan|Jul. 11, 2025

 

今日のグローバル経済において、企業や個人による不動産の取得、賃貸、管理は、国境を越えて活発に行われています。オフィスや工場の海外拠点設立、投資目的での海外不動産購入、あるいは国際的な不動産開発プロジェクトへの参加など、その形態は多岐にわたります。これらの多種多様な不動産取引を法的に担保し、当事者の権利と義務を明確にするのが不動産関連契約書です。

不動産取引は、その性質上、巨額の資金が動くことが多く、法規制が複雑かつ多様です。特に異なる法域、商慣習、そして言語が交錯する国際的な不動産取引においては、契約書の一語一句が持つ意味合いを深く理解し、正確に翻訳することが極めて重要です。翻訳のミスや内容の理解不足は、権利の喪失、予期せぬ債務の発生、登記の不備、法的紛争、そして甚大な金銭的損失といった計り知れないリスクを孕んでいます。

当社は、これまでの豊富な経験に基づき、グローバルビジネスにおける主要な不動産関連契約書の種類を網羅的にご紹介し、それぞれの特徴、国際取引における重要性、そして翻訳における特有の注意点を解説します。貴社のグローバルな不動産取引を確実に成功に導き、リスクを適切に管理するために、ぜひ本記事をお役立てください。

主要な不動産関連契約書の種類と国際ビジネスにおける重要性

不動産関連契約は、土地や建物といった資産の特性上、非常に多岐にわたります。

 

1. 不動産売買契約書(Real Estate Purchase Agreement / Property Sales Agreement)

  • 目的: 土地や建物などの不動産を、売り手から買い手へ譲渡する条件を定める契約です。

  • 国際ビジネスにおける重要性:

    • 海外子会社の設立に伴うオフィスや工場用地の取得、海外での投資用不動産の購入など、企業のグローバル展開において基盤となる契約です。

    • クロスボーダーM&Aにおいて、不動産資産の売買が伴う場合にも不可欠です。

  • 翻訳のポイント:

    • 物件の正確な特定(Property Identification:所在地、地番、面積、種類など)売買価格と支払い条件(Purchase Price and Payment Terms)引き渡し時期(Closing Date / Handover Date)物件の状態(Property Condition)表明保証(Representations and Warranties)前提条件(Conditions Precedent)権利義務の承継(Assignment of Rights and Obligations)などを正確に訳す必要があります。

    • 登記・登録手続きに関する条項は、各国の不動産登記制度に沿って適切に訳す必要があります。

    • 隠れた瑕疵(Latent Defects)に関する規定や、リスクの移転時期(Transfer of Risk)は、法域によって解釈が異なる場合があるため、慎重な翻訳が求められます。

  • 関連する法域・考慮事項:

    • 不動産の所在地の不動産法、契約法、税法(不動産取得税、印紙税、譲渡所得税など)が適用されます。

    • 外国人の不動産取得を制限する法律が存在する国もあります。

  • 既存記事へのリンク: 不動産売買契約書

2. 不動産賃貸借契約書(Real Estate Lease Agreement / Property Rental Agreement)

  • 目的: 不動産(土地、建物、オフィス、店舗など)を、所有者(賃貸人)が利用者(賃借人)に一定期間貸し出し、賃借人がその対価として賃料を支払うことを定める契約です。

  • 国際ビジネスにおける重要性:

    • 海外拠点のオフィスや店舗、工場、倉庫の賃借など、グローバルな事業活動において最も一般的に利用されます。

    • 多国籍企業が複数の国で事業を展開する際に、各国の賃貸借契約を理解し、適切に管理することが不可欠です。

  • 翻訳のポイント:

    • 賃貸物件の特定(Property Identification)賃料と支払い条件(Rent and Payment Terms)契約期間(Lease Term)更新・解約条件(Renewal and Termination Clauses)敷金・保証金(Security Deposit / Guarantee Deposit)修繕義務(Maintenance Obligations)原状回復義務(Restoration Obligation)目的外使用の禁止(Prohibition of Unauthorized Use)などを明確に訳す必要があります。

    • 特に修繕義務原状回復義務は、各国の商慣習や法制度に大きな違いがあるため、現地の法律を考慮した翻訳が求められます。

  • 関連する法域・考慮事項:

    • 不動産の所在地の不動産法、借地借家法、税法(賃貸収入税、固定資産税など)が適用されます。

    • 国際会計基準(IFRS 16など)におけるリース会計処理も考慮に入れる必要があります。

  • 既存記事へのリンク: 不動産賃貸借契約書

3. 不動産管理委託契約書(Property Management Agreement)

  • 目的: 不動産の所有者(委託者)が、不動産管理会社(受託者)に対し、その不動産の管理運営業務(賃料徴収、入居者対応、修繕手配など)を委託する契約です。

  • 国際ビジネスにおける重要性:

    • 海外の投資用不動産を所有する場合や、海外子会社の不動産管理を外部に委託する際に利用されます。

    • 現地の法規制や商慣習に詳しい専門業者に管理を委託することで、効率的な運用とリスク軽減が図れます。

  • 翻訳のポイント:

    • 委託される管理業務の範囲と内容(Scope of Management Services)管理委託料と支払い条件(Management Fees and Payment Terms)報告義務(Reporting Obligations)委託者の指示権限(Authority of Principal)責任分担(Allocation of Responsibilities)契約期間と解除条件(Term and Termination)などを明確に訳す必要があります。

    • 入居者とのトラブル対応や緊急時の対応に関する条項も重要です。

  • 関連する法域・考慮事項:

    • 不動産の所在地の不動産法、代理法、委任法、消費者保護法などが適用されます。

    • 入居者情報などの個人情報保護に関する規制(GDPRなど)も考慮に入れる必要があります。

  • 既存記事へのリンク: 不動産管理委託契約書

4. 不動産仲介契約書(Real Estate Brokerage Agreement)

  • 目的: 不動産の売買、賃貸、交換などの取引において、不動産会社(仲介業者)が当事者間の仲介を行う際の条件(仲介手数料、仲介業務の範囲、独占性の有無など)を定める契約です。

  • 国際ビジネスにおける重要性:

    • 海外での不動産売買や賃貸物件探しにおいて、現地の不動産事情に詳しい仲介業者を活用する際に不可欠です。

    • 特に、海外市場に不慣れな企業や個人が安心して不動産取引を進めるための重要な契約です。

  • 翻訳のポイント:

    • 仲介業務の範囲と内容(Scope of Brokerage Services)仲介手数料の計算方法と支払い条件(Brokerage Fees and Payment Terms)独占仲介契約(Exclusive Brokerage Agreement)か否か契約期間(Term)情報提供義務(Information Provision Obligation)秘密保持義務(Confidentiality)などを明確に訳す必要があります。

    • 各国の不動産仲介業に関する規制や慣習を理解した翻訳が求められます。

  • 関連する法域・考慮事項:

    • 不動産の所在地の不動産法、宅地建物取引業法、消費者保護法、独占禁止法などが適用されます。

    • 仲介業者への免許・登録要件も国によって異なります。

  • 既存記事へのリンク: 不動産仲介契約書

分野横断的な重要ポイント:不動産関連契約書に共通する翻訳の注意点

不動産関連契約書は、その性質上、地域の法規制や慣習に大きく左右されるため、国際取引においては特に注意すべき翻訳のポイントがあります。

  1. 物件の特定と表示の正確性

    不動産は唯一無二の資産であり、所在地、地番、面積、種類、構造、用途などの物件情報は、契約の根幹をなします。これらの情報を、登記簿謄本や公的記録と照合し、一字一句正確に翻訳することが不可欠です。単位(平方メートル、エーカーなど)や測定基準の違いも明確に表記し、誤解が生じないようにすべきです。

  2. 法域特有の用語と概念の理解

    不動産に関する法制度は国によって大きく異なり、日本にはない独自の概念や用語が存在します。例えば、「エスクロー(Escrow)」「タイトル保険(Title Insurance)」「リースホールド(Leasehold)とフリーホールド(Freehold)」「ゾーニング(Zoning)」「地役権(Easement)」など、これらの専門用語は、単なる直訳ではなく、その法的な意味合いと当該法域での役割を正確に理解した上で、最も適切な表現に翻訳することが不可欠です。

  3. 登記・登録手続きと税務に関する知識

    不動産取引は、多くの場合、公的な登記や登録手続きが伴い、印紙税、取得税、固定資産税、譲渡所得税など、様々な税金が発生します。契約書には、これらの手続きや税金の負担者を規定する条項が含まれるため、各国の制度を踏まえた正確な翻訳が必要です。翻訳者は、現地の法律専門家や税理士と連携し、翻訳がこれらの要件と矛盾しないことを確認すべきです。

  4. 強固な情報セキュリティ体制

    不動産関連契約書には、貴社の事業計画、投資戦略、財務状況、あるいは個人の資産情報など、極めて機密性の高い情報が含まれます。これらの情報が外部に漏洩した場合、企業の競争力低下、法的責任問題、信用失墜、ビジネス上の損害など、甚大な影響を被る可能性があります。そのため、翻訳を依頼する際には、翻訳会社が厳格な情報セキュリティポリシーを定め、技術的・物理的・人的な対策を徹底しているかを必ず確認すべきですし、当社はこれを徹底しています。

  5. AI翻訳の適切な活用と専門家による最終確認

    AI翻訳技術は、初稿の作成や定型表現の翻訳に役立ち、翻訳プロセスを効率化できます。しかし、不動産関連契約書のように、法域特有の専門用語、複雑な法的概念、そして巨額の金銭的リスクが伴う文書においては、AIの単独使用は大きなリスクを伴います。AIを効率化ツールとして最大限活用しつつも、国際不動産法、当該国の商慣習、税務の専門知識を持つ翻訳者による徹底したレビューと校正が不可欠です。人間による精査が、潜在的なリスクを最小限に抑え、グローバル取引の法的確実性を確保します。

 

よくある質問(FAQ)

不動産関連契約書の翻訳に関して、お客様からよくいただくご質問とその回答をまとめました。

 

 

Q1: 海外の不動産売買契約書で「エスクロー(Escrow)」と「タイトル保険(Title Insurance)」の条項を翻訳する際、特に注意すべきことは何ですか?

A1: これらは特に米国や一部のコモンロー諸国で一般的な概念であり、日本の不動産取引には直接対応する制度がないため、正確な理解と翻訳が不可欠です。

  • エスクロー(Escrow): 不動産取引の完了までの間、売買代金や登記関連書類などの重要書類を第三者であるエスクロー会社が預かる制度です。翻訳では、「エスクロー」という言葉だけでなく、その役割(第三者による中立的な管理)、預かる対象、資金の引き出し条件、手数料負担などを明確に訳す必要があります。日本の読者には、「第三者預託」などの補足説明を加えることも有効です。

  • タイトル保険(Title Insurance): 不動産の所有権の有効性を保証し、過去の所有権に関する問題(担保権の存在、権利移転の瑕疵など)によって将来生じうる損害を補償する保険です。翻訳では、この保険の対象範囲、保険金支払いの条件、免責事項、保険会社と保険料負担者を明確に訳す必要があります。日本の「権利保全」とは異なる独自の概念であることを踏まえ、適切な説明を付加することが重要です。

 

 

Q2: 不動産賃貸借契約書で「修繕義務」や「原状回復義務」の翻訳は、なぜ各国の法制度を考慮する必要があるのですか?

A2: これらの義務は、賃貸期間中の物件維持管理と、契約終了時の物件返還時の費用負担に直結するため、非常に重要です。

  • 修繕義務: 日本では、通常、建物の構造上の修繕は貸主の義務ですが、海外、特に欧米では、賃借人が内部の修繕義務を負う「フル・メンテナンス・リース」のような形態も一般的です。翻訳では、どの範囲の修繕(例:構造、設備、内装、消耗品)をどちらの当事者が負担するのか、その責任の明確な境界線を正確に訳す必要があります。

  • 原状回復義務: 日本では「貸したときの状態に戻す」という意味合いが強いですが、海外では「通常の使用による損耗(Wear and Tear)」は考慮されるか否か、造作物の撤去義務の有無、特定の改修義務(例:環境規制対応)の有無など、より詳細な規定が含まれることがあります。これらの違いを理解せず直訳すると、予期せぬ多額の費用負担や紛争につながる可能性があります。現地の借地借家法や判例、商慣習に詳しい翻訳者が、その法的意味合いを正確に伝えることが不可欠です。

 

 

Q3: 不動産売買契約書における「表明保証(Representations and Warranties)」の翻訳で、特に注意すべき点は何ですか?

A3: 表明保証は、売り手が契約締結時点である事実が真実かつ正確であることを買い手に対し保証する条項であり、その違反があった場合には、買い手は損害賠償請求等の救済措置を講じることができます。国際的な不動産売買では、以下の点に注意が必要です。

  • 対象となる事実の網羅性: 対象不動産の法的有効性、権利関係、環境問題、過去の紛争履歴、賃貸借契約の有無、税務状況など、多岐にわたる事実に関する表明保証が含まれます。これら全ての事実を正確に翻訳し、漏れがないかを確認します。

  • 保証の存続期間(Survival Period): 表明保証が契約締結後どのくらいの期間有効であるか(例:クロージング後1年間)も明確に訳す必要があります。

  • 開示スケジュールの確認: 多くの場合、表明保証の例外事項や詳細を記載した「開示スケジュール(Disclosure Schedule)」が添付されます。翻訳時には、契約書本体と開示スケジュールの内容が矛盾しないか、その整合性も確認しながら進めます。

  • 損害賠償の上限と免責: 表明保証違反があった場合の損害賠償の上限額や、特定の損害に対する免責事項も重要です。これらの文言は、将来のリスクを左右するため、厳密な翻訳が求められます。 これらの翻訳には、不動産取引と関連法規に関する深い知識が不可欠であり、将来的な法的リスクを最小限に抑えるためには、専門家による慎重な作業が求められます。

まとめ

不動産関連契約書は、グローバルな不動産取引において、貴社の権利と利益を保護し、リスクを管理するための最も重要な法的ツールです。物件の正確な特定、法域特有の専門用語の理解、登記・税務への対応など、多岐にわたる専門知識が求められます。これらの契約書の翻訳においては、単に言葉を置き換えるだけでなく、対象国の不動産法、商慣習、そしてビジネス上の意味合いを正確に伝える翻訳が、企業の未来を左右します。

当社は、これまで培ってきた豊富な経験と、国際不動産法、当該国の商慣習、税務に精通した専門翻訳チームにより、貴社のグローバルな不動産取引を確実に成功に導くための高品質な翻訳サービスを提供いたします。強固な情報セキュリティ体制のもと、AI翻訳などの最新技術を駆使しながらも、最終的には人の目で丁寧に確認することで、貴社の不動産戦略を強力にサポートいたします。

海外での不動産売買、賃貸、管理、仲介など、不動産関連契約書の翻訳に関するご不明な点やご相談がありましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。

 

WIPジャパンは、東京弁護士共同組合神奈川県弁護士共同組合をはじめとする全国23の弁護士共同組合の特約店に認定されています。
ご相談は無料です。いつでもお気軽にご連絡ください。

 

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日本法令外国語訳推進会議「法令用語日英標準対訳辞書」(PDF)
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日本法令外国語訳データベースシステム(法務省が開設した日本の法令の英訳サイト)
weblio 英和辞典・和英辞典
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