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賃貸借契約書の翻訳:国際ビジネスにおけるオフィス・店舗選びの重要ポイントと関係部門の役割|翻訳会社WIPジャパン

作成者: WIP japan|Jul. 08, 2025

海外で事業を拡大する際、オフィスや店舗の確保はビジネスの基盤を築く上で不可欠です。その際に締結される賃貸借契約書(Lease Agreement / Rental Agreement)は、物件の使用条件、期間、賃料、修繕義務などを定める重要な法的文書であり、その翻訳の正確性は、海外ビジネスの安定と成長に大きく影響します。翻訳のミスや内容の理解不足は、予期せぬ費用負担、物件の使用制限、さらには法的な紛争へと発展するリスクをはらんでいます。

特に、日本と海外では、賃貸借に関する法制度や商慣習が大きく異なるため、単に言葉を置き換えるだけでなく、それぞれの制度や慣習を踏まえた上で契約内容を理解し、翻訳することが重要です。

本記事では、私どもが数多くの賃貸借契約書の翻訳を支援してきた経験に基づき、翻訳における重要ポイントと、企業の各部門がどのように翻訳された契約書を活用し、関与していくべきかを具体的なケーススタディを交えて解説します。

貴社の海外ビジネスにおけるオフィス・店舗選びを成功させ、安心して事業活動を行うために、ぜひ本記事をお役立てください。

賃貸借契約書とは何か?その目的と国際ビジネスにおける重要性

賃貸借契約書とは、貸主(Landlord)が借主(Tenant)に対し、特定の不動産(オフィス、店舗、倉庫、住宅など)を使用収益させることを約束し、借主がその対価として賃料を支払うことを約束する契約書です。

この契約書は、物件の所在地、面積、使用目的、契約期間、賃料、敷金・保証金、共益費、修繕義務、禁止事項、契約解除条件などを詳細に定めます。

国際ビジネスにおいて賃貸借契約書が特に重要なのは、以下の理由からです。

  • 事業活動の拠点確保: オフィスや店舗は、企業の事業活動を行う上で不可欠な物理的拠点となります。契約内容が、事業の円滑な運営に直接影響を与えます。

  • 多岐にわたる費用: 賃料だけでなく、敷金・保証金、共益費、税金、保険料など、賃貸借契約に伴う費用は多岐にわたります。契約内容を正確に理解することで、予期せぬ費用負担を防ぐことができます。

  • 法規制と商慣習の違い: 日本と海外では、賃借人の権利、契約解除の条件、修繕義務の範囲など、賃貸借に関する法制度や商慣習が大きく異なります。現地の制度や慣習を理解せずに契約を結ぶと、後々不利益を被る可能性があります。

  • 撤退時のリスク: 海外事業から撤退する際、賃貸借契約の解除条件や原状回復義務などが、撤退費用に大きな影響を与えることがあります。契約締結時に、将来的な撤退リスクも考慮しておく必要があります。

英文賃貸借契約書の特徴と和文契約書との違い

国際的なビジネスでは、多くの場合、英文で賃貸借契約書が作成されます。その特徴は、日本の和文契約書とは異なる点がいくつかあります。

  • 詳細な物件描述: 英文契約書では、物件の所在地だけでなく、面積、区画番号、共有部分の範囲、付帯設備(空調、照明など)の詳細なリストなどが記載されることが一般的です。図面が添付されることも多く、物件の範囲を明確にしようとする意図が伺えます。

  • 賃料と費用の明確な区分: 賃料に含まれるもの、共益費に含まれるもの、借主が別途負担する費用(固定資産税、保険料など)が明確に区分して記載されます。また、賃料の増減額に関する条項(エスカレーション条項)も詳細に規定されることがあります。

  • 修繕義務の範囲: 貸主と借主のどちらがどのような範囲の修繕を行う責任を負うかが詳細に定められます。和文契約書では「通常の使用による損耗は借主、大規模な修繕は貸主」といった一般的な規定が多いのに対し、英文契約書ではより具体的に修繕項目が列挙されることがあります。

  • 用途制限: どのような目的で物件を使用できるかが具体的に規定されます。例えば、「オフィス用途のみ」「小売店舗としてのみ」といった制限があり、違反した場合の契約解除条件なども定められることがあります。

  • 譲渡・転貸の制限: 借主が第三者に賃借権を譲渡したり、物件を転貸したりする場合の貸主の承諾条件などが規定されます。

  • 契約解除の条件と手続き: 契約期間中の解約に関する条件や、契約不履行(賃料不払いなど)があった場合の解除手続き、予告期間などが詳細に定められます。

  • 原状回復義務: 契約終了時に、借主が物件をどのような状態に戻す必要があるかが規定されます。英文契約書では、「wear and tear(通常の損耗)」の範囲や、借主が行うべき具体的な修繕内容などが詳細に定められることがあります。

一方、日本の和文賃貸借契約書は、比較的簡潔で、当事者間の「信頼」を前提とした曖昧な表現や「別途協議」条項が用いられることもあります。国際的なビジネスにおいては、このような曖昧さが大きなリスクとなるため、英文に翻訳する際は、その意図を明確にし、具体的な権利義務関係が読み取れるように現地の法制度や商慣習を踏まえた「再構築」する視点が不可欠です。例えば、日本の「善管注意義務」という概念を、英文契約書でどのように具体的に表現するかが重要になります。

 

賃貸借契約書翻訳における重要ポイント

賃貸借契約書の翻訳は、海外ビジネスの拠点運営に直接影響するため、極めて高い精度と専門性が求められます。以下のポイントを押さえることが成功への鍵となります。

  1. 物件の正確な特定

    物件の所在地、面積、図面との整合性、付帯設備リストなどを詳細に確認し、誤りのない翻訳を心がけることが重要です。特に面積の単位(平方メートル vs. 平方フィート)の換算ミスは、後々トラブルの原因となることがあります。

  2. 賃料と費用の内訳の明確化

    基本賃料、共益費、管理費、駐車場代、光熱費、税金、保険料など、賃貸借契約に関連する全ての費用項目を正確に把握し、それぞれの負担者を明確に翻訳することが重要です。また、賃料の支払い通貨、支払い方法、遅延損害金に関する条項も注意が必要です。

  3. 敷金・保証金の取り扱い

    敷金や保証金の金額、返還条件、利息の有無、貸主による充当範囲などを正確に理解し、翻訳することが重要です。海外では、日本の敷金とは異なる制度(例えば、保証会社による保証)が一般的である場合もあります。

  4. 修繕義務の範囲の明確化

    貸主と借主のどちらが、どのような範囲の修繕(内装、外装、設備の故障など)を行う責任を負うのかを明確に翻訳することが重要です。特に、事業活動に必要な特別な設備の設置や改修に関する取り決めは、事前にしっかりと確認しておく必要があります。

  5. 用途制限と禁止事項の確認

    契約で定められた物件の使用目的(オフィス、店舗、倉庫など)や、禁止されている行為(騒音、危険物の持ち込みなど)を正確に理解し、翻訳することが重要です。事業計画に合致した用途で契約できているかを確認する必要があります。

  6. 契約期間と更新・解除条件の把握

    契約の開始日と満了日、更新の手続き、中途解約の条件(違約金の有無、予告期間など)を正確に理解し、翻訳することが重要です。将来的な事業計画の変更に対応できるよう、解約条項は慎重に検討する必要があります。

  7. 原状回復義務の範囲の明確化

    契約終了時に、借主が物件をどのような状態に戻す必要があるのか(通常損耗の範囲、特別に修繕すべき箇所など)を具体的に翻訳することが重要です。原状回復にかかる費用は高額になることもあるため、契約締結前にしっかりと確認しておく必要があります。

  8. AI翻訳の適切な活用と専門家による最終確認

    AI翻訳技術は、初稿の作成や用語の統一に役立ちますが、賃貸借契約書のような法的拘束力の強い文書、特に費用、義務、責任に関する条項においては、法的ニュアンスや現地の不動産取引慣行を完璧に理解することは困難です。AIを効率化ツールとして最大限活用しつつも、法務知識と不動産取引の実務経験を持つ専門の翻訳者による徹底的なレビューと校正が不可欠です。人間による精査が、潜在的なリスクを最小限に抑え、安心して海外で事業活動を行うための基盤となります。

  9. 強固な情報セキュリティ体制

    賃貸借契約書には、物件の所在地、賃料、契約条件、企業の財務情報など、機密性の高い情報が含まれる可能性があります。これらの情報が外部に漏洩した場合、事業戦略上の不利益や交渉力の低下に繋がる可能性があります。そのため、翻訳を依頼する際には、翻訳会社が厳格な情報セキュリティポリシーを定め、技術的・物理的・人的な対策を徹底しているかを必ず確認すべきです。私どもは、お客様の機密情報を最高レベルで保護するため、徹底したセキュリティ管理を実践しています。

  10. 現地の不動産法制と商慣習への理解

    翻訳においては、単に言語を変換するだけでなく、物件所在地の不動産法制や賃貸借に関する商慣習を理解し、契約内容がそれに合致しているか、また自社にとって不利な条項が含まれていないかを確認することが非常に重要です。必要に応じて、現地の弁護士や不動産コンサルタントに相談することも検討すべきです。

 

賃貸借契約書の翻訳は誰に必要なのか?ケーススタディで見る関係部門の役割

賃貸借契約書は、海外ビジネスの物理的な拠点に関わるため、多岐にわたる部門がその内容を理解し、翻訳された情報に基づいて連携することが不可欠です。

 

ケーススタディ1:海外支店のオフィス賃貸契約

状況: 日本のIT企業が、海外に支店を開設するため、現地のオフィスビルの一区画を賃借する英文の賃貸借契約を締結するケース。

  • 総務部/海外事業部:

    • 必要性: オフィスの所在地、面積、賃料、共益費、契約期間、更新・解約条件、駐車場、付帯設備などを確認し、事業計画や予算に合致しているかを評価します。従業員の通勤の便やオフィス環境も考慮する必要があります。翻訳された契約書に基づいて、オフィス移転や開設の準備を進めます。

    • ケース: 契約書に記載された賃料に、共益費や駐車場代が含まれているか、別途費用が発生するかを和訳で確認し、予算策定を行います。過去には、賃貸借契約における共益費の範囲が翻訳によって曖昧だったため、予想外の高額な費用が発生した事例がありました。私どもは、費用の内訳や負担者を明確に翻訳することで、このようなトラブルを防ぐよう努めています。

  • 法務部:

    • 必要性: 契約全体の法的妥当性、リスク管理、特に現地の不動産法制における賃借人の権利、契約解除の条件、原状回復義務の範囲などを確認します。日本法との違いを理解し、自社にとって不利な条項がないかをチェックするため、法的な正確性に優れた翻訳が不可欠です。

    • ケース: 契約書に記載された契約解除の予告期間や、違約金の金額が、現地の法律や商慣習に照らして妥当かを和訳で確認し、必要に応じて貸主と交渉します。

  • 経理部/財務部:

    • 必要性: 賃料の支払い通貨、支払い期日、支払い方法、敷金・保証金の金額と返還条件などを確認し、海外送金の手続きや会計処理を行います。賃料の増減額に関する条項(エスカレーション条項)も把握しておく必要があります。

    • ケース: 契約書に記載された敷金の返還条件(例えば、契約終了後〇ヶ月以内)を和訳で確認し、返還時期を考慮した資金計画を立てます。

ケーススタディ2:海外での小売店舗の賃貸契約

状況: 日本のアパレルメーカーが、海外の商業施設に直営店舗を出店するため、現地の商業施設の運営会社と英文の賃貸借契約を締結するケース。

  • 店舗開発部/営業部:

    • 必要性: 店舗の所在地、面積、区画、他のテナントとの関係、営業時間、用途制限、内装工事に関するルール、共用部分の利用条件などを確認し、店舗の運営計画やブランドイメージに合致しているかを評価します。翻訳された契約書に基づいて、店舗のデザインや内装工事の準備を進めます。

    • ケース: 契約書に記載された用途制限(例:飲食店の禁止、同業種の出店制限など)を和訳で確認し、自社の事業計画に支障がないかを評価します。

  • 法務部:

    • 必要性: 契約全体の法的妥当性、リスク管理、特に**商業施設の運営に関する特別なルール(営業時間、清掃、警備など)**や、契約解除の条件(売上目標未達など)、原状回復義務の範囲などを確認します。

    • ケース: 契約書に記載された、商業施設全体の保険に関する条項や、火災などの事故発生時の責任範囲を和訳で確認し、自社で加入すべき保険の種類や補償額を検討します。

  • マーケティング部:

    • 必要性: 看板の設置場所やデザインに関する制限、共用スペースでのプロモーション活動の許可条件などを確認し、店舗の販促計画を立てます。翻訳された契約書に基づいて、広告物のデザインや申請手続きを行います。

    • ケース: 契約書に記載された、商業施設が実施する共同プロモーションへの参加義務や費用負担について和訳で確認し、マーケティング予算に反映させます。

よくある質問(FAQ)

賃貸借契約書の翻訳に関して、お客様からよくいただくご質問とその回答をまとめました。

Q1: 賃貸借契約書の翻訳で、特に注意すべき費用に関する条項は何ですか?
A1: 特に注意すべきは、基本賃料だけでなく、共益費、管理費、駐車場代、光熱費、固定資産税、保険料などの費用項目が、どちらの当事者が負担するのか明確に記載されているかです。また、賃料の改定(エスカレーション)に関する条項や、遅延損害金に関する規定も重要です。これらの費用項目は、事業の収益性に直接影響するため、正確な理解が必要です。

Q2: 海外の賃貸借契約でよく見られる「トリプルネット(NNN)リース」とは何ですか?翻訳でどのように注意すべきですか?
A2: トリプルネットリースとは、借主が基本賃料に加えて、物件にかかる固定資産税、保険料、修繕費の3つの費用を負担する契約形態です。翻訳の際には、これらの費用が借主の負担となることが明確に記載されているかを確認し、日本の一般的な賃貸借契約との違いを理解しておく必要があります。

Q3: 賃貸借契約書の「原状回復義務」に関する翻訳で、曖昧になりやすい点はありますか?
A3: 「通常の使用による損耗(wear and tear)」の範囲が曖昧になりやすいです。英文契約書では、この範囲をより具体的に定義しようとする傾向がありますが、それでも解釈の余地が残ることがあります。翻訳の際には、可能な限り具体的な修繕範囲や、免責される損耗の種類などを確認し、曖昧さを排除することが重要です。写真や物件の状態に関する記録を契約締結時に残しておくことも有効です。

Q4: 賃貸借契約の期間中に、物件に不具合が発生した場合、修繕義務はどちらにあるかを判断する上で、翻訳のどのような点に注目すべきですか?
A4: 契約書における「修繕義務(Repairs and Maintenance)」に関する条項に注目します。貸主が行うべき修繕(構造的な欠陥、大規模な設備故障など)と、借主が行うべき修繕(通常使用による損耗、軽微なメンテナンスなど)の範囲が明確に記載されているかを確認します。また、緊急時の対応や、修繕期間中の賃料の取り扱いなども規定されているか確認が必要です。

Q5: 海外で賃貸借契約を締結する前に、翻訳された契約書以外に確認すべきことはありますか?
A5: 翻訳された契約書の内容に加えて、現地の不動産法制、商慣習、物件の権利関係、過去のトラブル事例、周辺環境、将来の開発計画などを確認することが重要です。現地の不動産業者や弁護士に相談し、デューデリジェンス(Due Diligence:詳細な調査)を行うことを強くお勧めします。

 

まとめ

賃貸借契約書の翻訳は、海外ビジネスの成否を左右する重要な要素です。英文と和文の契約書が持つそれぞれの特徴を深く理解し、総務、法務、経理、店舗開発といった各部門が連携しながら、専門知識を持つ翻訳者の力を借りることが不可欠です。

特に、物件の正確な特定、費用の内訳の明確化、修繕義務と原状回復義務の範囲の確認、そして現地の不動産法制と商慣習への理解は、潜在的なリスクを最小限に抑え、安心して海外で事業活動を行うための鍵となります。

私どもは、このような複雑な賃貸借契約書の翻訳において、貴社の各部門のニーズを理解し、最高品質の翻訳とサポートを提供することをお約束します。

貴社の海外ビジネスにおけるオフィス・店舗選びや賃貸借契約に関してご不明な点やご相談がありましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。

 

WIPジャパンは、東京弁護士共同組合神奈川県弁護士共同組合をはじめとする全国23の弁護士共同組合の特約店に認定されています。
ご相談は無料です。いつでもお気軽にご連絡ください。

 

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契約書翻訳に役立つリンク集

法務省大臣官房司法法制部「法令翻訳の手引き」(PDF)
日本法令外国語訳推進会議「法令用語日英標準対訳辞書」(PDF)
Publiclegal(英文契約書のテンプレートや書式を無料で提供)
日本法令外国語訳データベースシステム(法務省が開設した日本の法令の英訳サイト)
weblio 英和辞典・和英辞典
英辞郎 on the web

 

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