今日の競争が激しいビジネス環境において、企業は市場の変化に迅速に対応するため、多様で柔軟な人材活用を求めています。その中で、契約社員(Contract Employee / Fixed-Term Employee)は、特定のプロジェクトや期間に限定された専門性の高い業務、あるいは一時的な業務量の増加に対応するための重要な選択肢となっています。彼らとの雇用関係を明確に定めるのが、契約社員契約書です。
この契約書は、雇用期間、職務内容、給与、労働時間、休日、福利厚生、秘密保持義務、知的財産権の帰属、契約更新の条件、そして解雇・契約終了に関する取り決めなど、雇用形態に応じた詳細な条件を定めます。
その正確な翻訳は、企業と従業員双方の権利と義務の明確化、法的リスクの回避、そして円滑な雇用関係の構築のために不可欠です。翻訳のミスや内容の理解不足は、予期せぬ労働紛争、高額な賠償責任、企業の信用失墜、そして重要なプロジェクトの遅延へと発展するリスクをはらんでいます。
特に、国ごとに労働法、社会保障制度、税法、そして雇用慣行が大きく異なり、有期雇用契約に対する規制が非常に厳しい場合も少なくありません。単に言葉を置き換えるだけでなく、それぞれの法制度や文化、雇用形態に応じた法的・商業的なニュアンスを踏まえた上で契約内容を理解し、翻訳することが不可欠です。
本記事では、これまでの経験に基づき、契約社員契約書の翻訳における重要なポイントと、貴社の各部門がどのように翻訳された契約書を活用し、関与していくべきかを具体的なケーススタディを交えて解説します。
貴社のグローバル人材戦略において、契約社員契約の適切な理解と運用を通じて、コンプライアンスの強化と柔軟な人材活用の実現を図るために、ぜひ本記事をお役立てください。
契約社員契約書とは何か?その目的と国際雇用における重要性
契約社員契約書(Contract Employee Agreement / Fixed-Term Employment Agreement)は、企業が特定の期間を定めて従業員を雇用する際に締結される契約書です。多くの場合、正社員とは異なる職務内容、勤務時間、または専門性を有するプロジェクト業務などに従事する従業員に適用されます。
国際的な雇用において、契約社員契約書は以下のような多岐にわたる場面で利用されます。
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特定のプロジェクト遂行のための専門人材雇用: 短期間で特定の技術開発、システム導入、コンサルティング業務などを完了させるために、国内外の専門家を一時的に雇用する場合。
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市場参入時の初期段階における人材確保: 新規市場への参入や海外子会社の立ち上げ初期段階で、現地の労働市場や事業環境を把握しつつ、リスクを抑えて人材を確保する場合。
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季節的または一時的な業務量の増加への対応: 繁忙期や特定のイベント開催時など、一時的に人員を増強する必要がある場合。
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新規事業のパイロットフェーズ: 新規事業の実現可能性を検証するパイロットフェーズにおいて、必要なスキルを持つ人材を短期間で確保し、リスクを低減する場合。
この契約書は、以下の非常に多岐にわたる詳細な条項を含みます。
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雇用期間(Term of Employment): 契約の開始日と終了日。これが最も重要な特徴であり、期間満了時の取り扱い(自動更新の有無、更新の裁量、更新回数の上限など)が詳細に定められます。
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職務内容と責任(Job Duties and Responsibilities):具体的な業務内容、勤務場所、報告系統、期待される成果物。
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労働時間と休日(Working Hours and Holidays):所定労働時間、休憩時間、休日、休暇(年次有給休暇、病気休暇など)の付与条件。
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給与と報酬(Salary and Compensation):基本給、時間給、各種手当、残業代の計算方法、支払いサイクル。
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福利厚生(Benefits):社会保険(健康保険、厚生年金、雇用保険など)、労災保険の適用、通勤手当など。正社員と比較して適用される福利厚生の範囲が異なる場合、その範囲を明確にします。
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秘密保持義務(Confidentiality / Non-Disclosure):企業秘密、顧客情報、技術情報などの秘密情報の範囲、秘密保持義務の期間、契約終了後の効力。
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知的財産権の帰属(Intellectual Property Rights, IPR):従業員が職務上または職務に関連して生み出した発明、著作物などの知的財産権の企業への帰属、対価。
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競業避止義務(Non-Compete): 雇用期間中および契約終了後一定期間、競合他社での勤務や競合事業の立ち上げを禁止する義務(適用される場合)。
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解雇・契約更新条件(Termination and Renewal Procedures):契約期間満了時の更新の有無、更新しない場合の条件、中途解雇事由、解雇予告期間、退職金(Severance Pay)。
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懲戒処分(Disciplinary Actions):就業規則違反などに対する懲戒の種類と手続き。
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準拠法と紛争解決(Governing Law and Dispute Resolution):契約に適用される法律、紛争が発生した場合の解決方法(裁判、労働委員会、仲裁など)。
国際的な契約社員雇用において契約社員契約書が特に重要なのは、以下の理由からです。
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各国の有期雇用規制の厳格さ: 有期雇用契約の締結・更新に関する規制は国によって大きく異なります。特に、有期雇用契約の反復更新による無期転換ルール(例えば、日本の「5年ルール」やEU各国の同様の規制)、または有期雇用が認められる事由が厳しく制限されている場合があります。これらの規制に違反すると、意図せず無期雇用とみなされたり、高額な賠償金を請求されたりするリスクがあります。
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正社員との均等待遇義務: 多くの国で、有期雇用社員であっても、職務内容や貢献度に応じた正社員との均等待遇(Equal Treatment)が求められることがあります。これにより、給与や福利厚生の設計に注意が必要です。
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社会保障・税制の違い: 各国の社会保障制度(年金、健康保険、失業保険など)や所得税の計算方法は複雑であり、契約社員への適用範囲や保険料の計算方法が正社員と異なる場合があります。適切に契約書に反映しないと、予期せぬ費用負担や税務上の問題が生じます。
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知的財産権の保護: 海外で雇用した契約社員が、職務上生み出した知的財産権の帰属を明確にしないと、技術流出や知財紛争のリスクが高まります。特に、発明者報奨制度や職務発明の概念が異なる国では、注意が必要です。
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紛争解決の複雑さ: 国際的な労働紛争は、複数の国の法律が絡み、解決に時間と費用がかかる傾向にあります。準拠法や紛争解決手段を明確にしておくことで、リスクを低減できます。
英文契約社員契約書の特徴と和文契約書との違い
国際的な契約社員雇用取引では、多くの場合、英文で契約社員契約書が作成されます。その特徴は、日本の和文契約書とは異なる点がいくつかあります。
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Explicit Fixed Term and No Expectation of Permanent Employment(明確な有期雇用と無期雇用への期待の排除):
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契約の開始日と終了日が厳密に記述され、「本契約は有期雇用であり、その期間満了をもって終了するものであり、更新を保証するものではないこと、また、本契約によって無期雇用への期待や権利が生じるものではないこと」といった旨の文言が明確に盛り込まれることが多いです。これは、特定の国々(特にEU圏や日本)における有期雇用から無期雇用への転換ルールを意識した記述です。
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Specific Conditions for Renewal and Non-Renewal(更新および非更新に関する具体的な条件):
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契約の更新が可能な場合でも、その条件(例:プロジェクトの継続、評価基準の達成、双方の合意など)、更新回数の上限、そして更新しない場合の通知期間と手続きが非常に詳細に定められます。これにより、期間満了時のトラブルを未然に防ぎます。
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Detailed Scope of Work and Deliverables(職務内容と成果物の詳細):
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契約社員は特定のプロジェクトや限定された職務に従事することが多いため、具体的な職務内容、目標、期待される成果物(Deliverables)、パフォーマンス評価基準が非常に詳細に記述されます。これにより、職務範囲外の業務を巡る紛争や期待値のずれを防ぎます。
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Compensation and Benefits Proportional to Term/Hours(期間・時間に応じた報酬と福利厚生):
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基本給、時間給に加え、プロジェクトの成功に応じたボーナスやインセンティブ、特定の福利厚生(医療保険、年金、有給休暇など)の適用範囲が、契約期間や労働時間に応じて比例的に適用される旨が明記されることがあります。特に、EUの均等待遇指令などを意識した記述がなされます。
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Stronger IP Assignment for Project-Specific Work(プロジェクト特化型業務における強力な知財譲渡):
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契約社員が職務上生み出した知的財産権(発明、著作物など)の企業への帰属が明確に規定されますが、その適用範囲が「本契約に基づいて遂行される特定のプロジェクトまたは業務範囲内で生み出されたものに限定される」といった形で、正社員契約よりも限定的な表現がなされることがあります。
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Explicit Termination Clauses for Cause and Convenience(正当な理由および便宜上の解雇に関する明確な条項):
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契約期間中の中途解雇事由("For Cause")が明確に定義される他、「事前の通知と退職金の支払いをもって、企業が便宜上("For Convenience")契約を終了できる」といった条項が含まれることがあります。ただし、これは各国の労働法によってその有効性が厳しく制限されるため、現地の法規制に準拠した表現が必要です。
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Governing Law and Jurisdiction/Arbitration(準拠法と裁判管轄/仲裁):
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国際的な契約社員契約では、契約に適用される法律(例:デラウェア州法、英国法、シンガポール法、日本法など)が明確に指定されます。また、労働紛争が発生した場合の解決方法(裁判所の管轄、または仲裁条項)が詳細に定められますが、労働者保護の観点から現地の労働法が優先される場合があることに注意が必要です。
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日本の和文契約社員契約書に比べ、英文契約社員契約書は、有期雇用の性質と無期雇用への期待の排除の明確化、契約更新および非更新に関する具体的な条件、職務内容と成果物の詳細、そして期間・時間に応じた報酬と福利厚生の規定に関して、より詳細かつ厳密な記述が求められる傾向が強いです。翻訳においては、これらの法的・人事労務的・文化的ニュアンスを正確に反映した表現を用いることが不可欠です。
契約社員契約書翻訳における重要ポイント
契約社員契約書の翻訳は、貴社の柔軟な人材活用戦略、各国の労働法規制への準拠、リスク管理に直接影響するため、極めて高い精度と専門性、そして人事、法務、経理、事業部門など多岐にわたる視点が求められます。以下のポイントを押さえることが、成功への鍵となります。
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雇用期間と契約更新・非更新条件の厳格な翻訳
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契約の開始日と終了日を明確にし、契約期間満了時の更新の有無、更新可能な場合の条件(例:評価、プロジェクトの継続性、双方の合意)、更新回数の上限、そして更新しない場合の通知期間と手続きを厳格に翻訳することが不可欠です。特に、日本の「無期転換ルール」やEU各国の有期雇用指令など、有期雇用契約の反復更新による無期雇用への転換に関する法規制を正確に理解し、契約書に適切に反映しているかを細心の注意を払って確認すべきですし、当社はこれを強く認識しています。
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職務内容と期待される成果物の明確な翻訳
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契約社員の具体的な職務内容、勤務場所、期待される成果物(Deliverables)、パフォーマンス評価基準を明確に翻訳することが不可欠です。これにより、職務範囲外の業務を巡る紛争や、成果物の品質に関する認識のずれを防ぎます。
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給与・報酬体系と福利厚生の正確な翻訳
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基本給、時間給、各種手当、残業代の計算方法、支払いサイクルに加え、社会保険の適用範囲、退職金制度、税務上の取り扱いなど、従業員の手取り額と企業の人件費に直接影響する項目を正確に翻訳することが不可欠です。各国の税法や社会保障制度を考慮した翻訳が求められ、特に正社員との間で不合理な待遇差がないか(同一労働同一賃金・均等待遇の原則)も考慮すべきです。
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秘密保持義務(Confidentiality)と知的財産権の帰属(IP Assignment)の厳格な翻訳
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契約社員であっても、企業秘密や技術情報にアクセスする場合があるため、秘密情報の範囲、秘密保持義務の期間、契約終了後の効力、違反時の罰則を厳格に表現すべきです。また、職務上生み出した知的財産権の企業への帰属についても、「本契約に基づく特定の業務範囲内で生み出されたものに限定する」など、雇用形態や業務内容に応じた適切な帰属条件を明確に翻訳し、企業の知財保護を確実にすべきです。
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解雇条件と退職手続きの明確な翻訳
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中途解雇事由、解雇予告期間、退職金(Severance Pay)の計算方法などを明確に翻訳することが不可欠です。契約期間中の解雇規制は国によって非常に厳しいため、現地の労働法に違反しないような表現にすることが極めて重要ですし、当社はこれを強く認識しています。この部分の不備は、不当解雇として訴訟に発展する大きなリスクとなります。
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準拠法(Governing Law)と紛争解決(Dispute Resolution)の正確な指定
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契約に適用される法律、そして紛争が発生した場合の解決方法(裁判、労働委員会、国際仲裁、調停など)、裁判管轄、仲裁地の選定、仲裁機関、仲裁規則、仲裁人の数などを正確に翻訳することが不可欠です。国際的な労働紛争は複雑化しやすいため、自社にとって有利な準拠法や紛争解決地を指定することが戦略上重要であり、その内容を正確に把握すべきです。
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当社は、このような複雑な準拠法と紛争解決に関する条項の正確な翻訳を特に重視しています。
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AI翻訳の適切な活用と専門家による最終確認
AI翻訳技術は、初稿の作成や用語の統一に役立ちますが、契約社員契約書のような法的・文化的に極めて複雑な文書においては、各国の労働法、社会保障制度、税法、そして雇用慣行を完全に理解することは困難です。AIを効率化ツールとして最大限活用しつつも、労働法務知識、人事労務に関する専門知識、および国際取引の実務経験を持つ専門の翻訳者による徹底したレビューと校正が不可欠です。人間による精査が、潜在的なリスクを最小限に抑え、安全な国際雇用関係の基盤となります。
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強固な情報セキュリティ体制
契約社員契約書には、従業員の個人情報(氏名、住所、連絡先、銀行口座情報など)、給与情報、職務内容、評価情報など、極めて機密性の高い情報が含まれます。これらの情報が外部に漏洩した場合、企業の法的責任問題、信用失墜、従業員からの訴訟など、甚大な損害を被る可能性があります。そのため、翻訳を依頼する際には、翻訳会社が厳格な情報セキュリティポリシーを定め、技術的・物理的・人的な対策を徹底しているかを必ず確認すべきですし、当社はこれを徹底しています。
契約社員契約書の翻訳は誰に必要なのか?ケーススタディで見る関係部門の役割
契約社員契約書は、企業の柔軟な人材戦略とグローバル展開の鍵を握る文書であり、多岐にわたる部門や関係者がその内容を理解し、翻訳された情報に基づいて連携することが不可欠です。
ケーススタディ1:日本のIT企業がシンガポールでプロジェクトマネージャーを契約社員として雇用
状況: 日本のIT企業A社が、シンガポールで新規ソフトウェア開発プロジェクトのため、現地のシンガポール人プロジェクトマネージャー(PM)を1年間の契約社員として雇用するケース。シンガポールの労働法に準拠した雇用契約書を英語で作成し、それを日本語に翻訳する必要がある。
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人事部(HR):
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必要性: シンガポールの雇用法(Employment Act)に基づく有期雇用契約の更新規制、最低賃金(該当する場合)、CPF(中央積立基金)などの社会保障制度、法定の年次有給休暇や病気休暇の付与日数、契約終了時の退職金(該当する場合)を詳細に確認します。適切な雇用条件設定と労務管理に直結します。
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ケース: 契約書に記載された「1年間の雇用期間と、プロジェクトの進捗に応じた更新の可能性に関する明確な文言」、「CPFの企業負担分と従業員負担分の割合」、「シンガポールの雇用法に準拠した解雇通知期間」を和訳で確認し、現地の法規制と実務に合致しているかを評価します。過去には、有期雇用契約の更新を巡って無期雇用への転換を主張された事例がありました。当社は、このような有期雇用契約の終了条件に関する正確な翻訳を特に重視しています。
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法務部:
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必要性: 契約全体の法的妥当性、秘密保持義務(特にプロジェクトの設計情報や顧客データに関する機密性)、知的財産権の帰属、競業避止義務、解雇・契約非更新条件、準拠法(シンガポール法)、紛争解決条項の適切性を確認します。
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ケース: 契約書に記載された「PMが開発プロセスで作成したドキュメントやプロトタイプの知的財産権がA社に帰属する旨」、「契約期間満了時の非更新の明確な条件と通知義務」、「シンガポールの労働裁判所または中小企業紛争解決センター(SMEC)を紛争解決手段とする条項」を和訳で確認し、法的リスクとコンプライアンスを評価します。
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経理部/財務部:
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必要性: 給与計算、シンガポールにおける所得税の源泉徴収義務、CPFの企業負担、現地通貨での支払いに関する為替リスクなどを確認します。
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ケース: 契約書に記載された「月額給与と、プロジェクトの成功に応じたボーナスの算定基準」、「シンガポールの所得税の源泉徴収義務と、その計算方法」を和訳で確認し、費用管理と税務コンプライアンスを評価します。
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事業部/プロジェクトマネジメント部:
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必要性: 職務内容と責任、プロジェクトの成果物、評価制度を理解し、プロジェクトの効率性と成果物の品質に影響を与えないかを確認します。
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ケース: 契約書に記載された「PMの具体的な職務内容とプロジェクトの成果物(例:プロジェクト計画書、進捗報告書)」、「パフォーマンス評価基準と契約更新の判断基準」を和訳で確認し、業務遂行と成果物の権利確保、そしてプロジェクトの進捗管理を評価します。
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ケーススタディ2:米国デザイン会社が日本のイラストレーターと有期業務委託契約を締結(実質的な雇用関係)
状況: 米国のデザイン会社B社が、日本のクライアントからのプロジェクトのため、特定の期間(6ヶ月)に限定して日本人イラストレーターC氏と「業務委託契約」を締結するケース。ただし、実態としてはB社の指揮命令下で業務を行うため、日本の労働法上は「雇用契約」とみなされるリスクがある。英語の業務委託契約書を日本語に翻訳する必要がある。
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人事部(HR):
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必要性: 業務委託契約であっても、実態として雇用関係とみなされるリスク(「偽装請負」)を理解し、日本の労働法(労働時間、残業代、解雇規制など)や社会保険(健康保険、厚生年金、雇用保険)が適用される可能性を評価します。契約書の文言と実態の乖離によるリスクを把握することが重要です。
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ケース: 翻訳された契約書に記載された「C氏への詳細な指揮命令権限」、「勤務時間や勤務場所の指定」、「C氏への専属義務」といった文言が、日本の労働法上「雇用契約」の判断要素となり得ることを和訳で確認し、偽装請負リスクを評価します。
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法務部:
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必要性: 契約全体の法的妥当性、特に「業務委託」と「雇用」の区別に関する法的解釈、知的財産権の帰属、秘密保持義務、損害賠償、準拠法(米国カリフォルニア州法と日本法の適用関係)、紛争解決条項の適切性を確認します。
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ケース: 契約書に記載された「イラストレーションの著作権がB社に帰属する旨」、「契約期間中の競業避止義務(日本の独占禁止法との関連)」、「米国カリフォルニア州法を準拠法とし、ロサンゼルスでの国際仲裁を紛争解決手段とする条項」を和訳で確認し、法的リスクとコンプライアンスを評価します。特に、業務委託契約書であっても、日本の労働法が適用される可能性を考慮し、そのリスクを和訳で明確にすべきです。
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経理部/財務部:
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必要性: 報酬の支払い方法、源泉徴収税(所得税)の取り扱い、社会保険料の負担義務(雇用とみなされた場合のリスク)、海外送金手数料などを確認します。
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ケース: 契約書に記載された「成果物(イラストレーション)の完成と承認に応じた報酬支払い」、「日本における所得税の源泉徴収(雇用とみなされた場合)の可能性」を和訳で確認し、費用管理と税務コンプライアンスを評価します。
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事業部/デザイン部:
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必要性: 業務内容、スケジュール、成果物の品質要件を理解し、プロジェクトの遂行可能性に影響を与えないかを確認します。
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ケース: 契約書に記載された「C氏が担当するイラストレーションの具体的な種類と枚数」、「納期と修正回数の上限」、「デザインの監修体制」を和訳で確認し、業務遂行と成果物の品質確保を評価します。
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よくある質問(FAQ)
契約社員契約書の翻訳に関して、お客様からよくいただくご質問とその回答をまとめました。
Q1: 契約社員契約書で最も注意すべき法的リスクは何ですか?
A1: 最も注意すべきは、有期雇用契約の反復更新による無期雇用への転換リスクです。日本やEU諸国では、有期雇用契約が一定期間(日本では原則5年)を超えて反復更新されると、従業員が無期雇用への転換を主張できる権利が発生します。この「無期転換ルール」を理解せず、不適切な契約更新を繰り返すと、意図せず無期雇用社員として扱わざるを得なくなり、解雇規制の適用を受けるなど、企業の柔軟な人材戦略が阻害される可能性があります。翻訳においては、このリスクを明確に伝える文言が含まれているか、または現地の法規制に合わせた調整が適切に行われているかを確認する必要があります。
Q2: 「無期雇用への期待の排除」に関する条項は、翻訳でどのように表現すべきですか?
A2: この条項は、有期雇用契約の反復更新によって従業員が無期雇用への期待を抱き、それが法的保護の対象となることを防ぐために重要です。翻訳においては、「本契約は特定の期間に限定された雇用であり、更新を保証するものではなく、また、本契約によって無期雇用への期待や権利が生じるものではないこと」を、曖昧さなく、かつ現地の労働法に抵触しない形で明確に表現する必要があります。ただし、この条項の法的有効性は国によって大きく異なるため、現地の法律専門家との緊密な連携が不可欠です。
Q3: 契約社員が職務上生み出した知的財産権の帰属は、正社員とどう異なりますか?
A3: 基本的には正社員と同様に、企業への帰属を明確に定めるべきですが、契約社員の場合、業務範囲が特定のプロジェクトや期間に限定されることを考慮し、より具体的な記述が求められる場合があります。例えば、「本契約に基づいて遂行される特定の職務範囲内で生み出された発明や著作物のみが企業に帰属する」といった形で、帰属の範囲を限定的に表現することがあります。翻訳においても、この限定的な範囲を正確に反映し、将来の知財紛争を防ぐことが重要です。
Q4: 業務委託契約書を翻訳する際に、「偽装請負」のリスクを避けるための注意点はありますか?
A4: 業務委託契約書であっても、実態として企業が指揮命令権を持ち、業務遂行方法が細かく指定されている場合などには、労働法上「雇用契約」とみなされ、「偽装請負」とされるリスクがあります。翻訳においては、以下の点に注意すべきです。
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指揮命令関係の排除: 契約書上の文言が、業務委託先の「独立性」を明確に示しているか。
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成果物に対する報酬: 労働時間ではなく、完成した成果物に対して報酬が支払われる形式になっているか。
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専属性の排除: 業務委託先が他の顧客の業務も自由に受けられるような表現になっているか。
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危険負担: 業務遂行に伴うリスクを業務委託先が負担する旨が明確か。
契約書の文言だけでなく、実際の業務運用がその文言と合致しているかが重要です。翻訳の際には、日本の労働法務の専門家と連携し、実態との乖離がないかを確認しながら進めることが不可欠です。
Q5: AI翻訳を契約社員契約書の翻訳に活用する際の注意点は何ですか?
A5: AI翻訳は、初稿の作成や用語の統一に非常に役立ちますが、契約社員契約書のような法的拘束力を持つ文書に単独で使用することは推奨されません。
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法的正確性: AIは各国の有期雇用規制、労働法、判例のニュアンスを完全に理解できません。誤訳は法的リスクに直結します。
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専門用語の正確性: 労働法、社会保障、税務に関する専門用語の正確な対応は、AIだけでは困難な場合があります。
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文化的背景: 各国の雇用慣行や文化的な背景、そして有期雇用に対する社会的な受容度は、AIには再現が難しいことがあります。
したがって、AI翻訳を効率化ツールとして活用しつつも、必ず現地の労働法務に詳しい専門家(弁護士、社会保険労務士など)と、翻訳の専門家による徹底したレビューと校正を行うことが不可欠です。当社は、AIと専門家の人力翻訳を組み合わせることで、高品質かつ効率的な翻訳を提供しています。
まとめ
契約社員契約書の翻訳は、単なる言語の変換に留まらず、企業が柔軟な人材活用戦略を展開し、グローバル市場で競争力を維持し、同時に潜在的な法的リスクを回避するための極めて重要なプロセスです。
英文と和文の契約書が持つそれぞれの特徴を深く理解し、人事、法務、経理、事業といった各部門が連携しながら、専門知識を持つ翻訳者の力を借りることが不可欠ですし、これまでの経験から当社はこれを強く認識しています。
特に、雇用期間と契約更新・非更新条件の厳格な反映、職務内容と期待される成果物の明確化、給与・報酬体系と福利厚生の正確な翻訳、秘密保持義務と知的財産権の帰属、そして解雇条件と退職手続きといった条項は、潜在的なリスクを最小限に抑え、契約社員との良好な関係を築き、柔軟な人材活用を成功させるための鍵となります。
当社は、このような複雑な契約社員契約書の翻訳において、貴社の各部門のニーズを理解し、最高品質の翻訳とサポートを提供することをお約束します。貴社の海外ビジネスにおける契約社員契約に関してご不明な点やご相談がありましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。
ご相談は無料です。いつでもお気軽にご連絡ください。
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一言に契約書といっても、業務委託契約書(Services Agreement)、独立請負人契約書(Independent Contractor Agreement)、秘密保持契約書(Non-Disclosure Agreement)、業務提携契約書(Business Partnership Agreement)など、様々なものがあり、契約の種類も多様化しています。
契約内容を正しく理解し、法的リスクを回避するには、適切な英訳が不可欠です。本記事では、契約書における基本用語の英訳50選をご紹介します。 >>PDFダウンロード(無料)
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契約書翻訳に役立つリンク集
・法務省大臣官房司法法制部「法令翻訳の手引き」(PDF)
・日本法令外国語訳推進会議「法令用語日英標準対訳辞書」(PDF)
・Publiclegal(英文契約書のテンプレートや書式を無料で提供)
・日本法令外国語訳データベースシステム(法務省が開設した日本の法令の英訳サイト)
・weblio 英和辞典・和英辞典
・英辞郎 on the web
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