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就業規則 翻訳:グローバル展開における人事労務コンプライアンスの要

作成者: WIP japan|Jul. 10, 2025

 

グローバル化が進む現代において、企業が海外に拠点を設立したり、多様な国籍の従業員を雇用したりする際、単に雇用契約書を締結するだけでは不十分です。各国の労働法規を遵守し、従業員との間に健全で明確な労働関係を築くためには、その国の実情に合わせた就業規則(Work Rules / Employee Handbook)の策定と運用が不可欠です。

就業規則は、給与、労働時間、休日・休暇、服務規律、懲戒、ハラスメント対策、退職など、従業員が働く上での基本的なルールを網羅的に定めたものです。

これは、企業と従業員双方にとっての「憲法」とも言える存在であり、その正確な翻訳と適切な運用は、国際的な人事労務コンプライアンスの要となります。翻訳のミスや内容の理解不足は、予期せぬ労働紛争、高額な賠償責任、企業の信用失墜、そして事業運営の停滞へと発展するリスクをはらんでいます。

特に、国ごとに労働基準、社会保障制度、解雇規制、ハラスメントに対する考え方、そして従業員代表(労働組合など)との関係性が大きく異なります。単に日本語の就業規則を直訳するだけでは、現地の法規制に適合しないばかりか、文化的な摩擦や従業員からの不信感を生む可能性もあります。

本記事では、これまでの経験に基づき、就業規則翻訳における重要なポイントと、貴社の各部門がどのように翻訳された就業規則を活用し、関与していくべきかを具体的なケーススタディを交えて解説します。

貴社のグローバル人事戦略において、就業規則の適切な理解と運用を通じて、コンプライアンスの強化と多様な人材の円滑な管理を図るために、ぜひ本記事をお役立てください。

 

就業規則とは何か?その目的と国際雇用における重要性

就業規則(Work Rules / Employee Handbook)は、企業が従業員を雇用する上で遵守すべき労働条件や服務規律などを具体的に定めた包括的な規則集です。日本では、常時10人以上の従業員を使用する事業場において作成・届出が義務付けられています。

就業規則は、以下の多岐にわたる詳細な条項を含みます。

  • 総則(General Provisions): 就業規則の目的、適用範囲(対象となる従業員の範囲)、定義など。

  • 採用・異動・退職(Hiring, Transfer, and Termination): 採用手続き、試用期間、配置転換・異動、出向、休職、退職、解雇、定年などに関する規定。

  • 服務規律(Code of Conduct / Disciplinary Rules): 従業員が遵守すべき行動規範、機密保持義務、個人情報保護、ハラスメントの禁止、兼業・副業の制限など。

  • 労働時間・休憩・休日・休暇(Working Hours, Breaks, Holidays, and Leaves): 所定労働時間、残業、休憩時間、法定休日、年次有給休暇、慶弔休暇、育児介護休業などに関する規定。

  • 賃金(Wages and Salaries): 賃金の構成(基本給、手当など)、計算方法、支払い方法、昇給、賞与などに関する規定。

  • 人事評価(Performance Evaluation): 人事評価の目的、評価基準、評価結果の活用方法など。

  • 安全衛生(Health and Safety): 労働安全衛生に関する企業の義務と従業員の遵守事項、健康診断、労働災害時の対応など。

  • 災害補償(Work-Related Accident Compensation): 業務上の負傷や疾病に対する企業の補償義務。

  • 懲戒(Disciplinary Actions): 懲戒の種類(戒告、減給、出勤停止、諭旨解雇、懲戒解雇など)、懲戒事由、懲戒手続き。

  • ハラスメント対策(Anti-Harassment Policy): セクハラ、パワハラなどの防止策、相談窓口、懲戒処分など。

  • 苦情処理(Grievance Procedures): 従業員からの苦情や相談の受付、解決プロセス。

国際的な雇用において就業規則が特に重要なのは、以下の理由からです。

  • 各国の労働法規への準拠: 各国の労働法は多岐にわたり、労働時間、最低賃金、解雇規制、有給休暇、社会保障、ハラスメント対策などに関する規制が非常に厳格な場合があります。これらの法規を遵守した就業規則を策定・翻訳しないと、違法行為とみなされ、罰則や訴訟のリスクを負うことになります。

  • 労働紛争の予防: 労働条件や服務規律が不明確であると、従業員との間で認識のずれが生じ、賃金、労働時間、懲戒、解雇などを巡る紛争が発生しやすくなります。明確な就業規則は、これらの紛争を未然に防ぎ、迅速に解決するための基準となります。

  • 従業員の保護とモチベーション向上: 明確なルールは、従業員に安心感を与え、公正な職場環境を保証します。これにより、従業員のエンゲージメントと生産性の向上にも繋がります。

  • 企業のガバナンス強化: 従業員に対する一貫したルールを適用することで、企業の内部統制を強化し、経営の透明性を高めます。

  • M&A・事業再編時におけるデューデリジェンス: 国際的なM&Aや事業再編の際、対象企業の就業規則は、買収の可否や買収後の統合戦略を判断する上で重要な要素となります。法的リスクを評価するためには、就業規則の正確な翻訳が不可欠です。

英文就業規則(Employee Handbook)の特徴と和文就業規則との違い

国際的な企業において、英文で作成される就業規則は「Employee Handbook」や「Company Policy」などと呼ばれ、日本の就業規則とは異なる特徴を持つことがあります。

  • "At-Will Employment" の原則の明記(米国の場合):

    • 米国の一部の州では、雇用主または従業員のいずれもが、理由を問わずいつでも雇用関係を終了できる「At-Will Employment(随意雇用)」の原則が適用されます。英文就業規則では、この原則を明確に記載し、解雇に関する従業員の期待を管理します。ただし、日本やEU諸国のように解雇規制が厳しい国では、この原則は適用されず、解雇に関する「正当な理由(Just Cause)」の必要性や、解雇予告期間が詳細に規定されます。

  • Disclaimers(免責条項)の充実:

    • 英文就業規則では、就業規則が雇用契約そのものではないこと、または就業規則の記載が「At-Will Employment」の原則を覆すものではないことなど、法的な拘束力に関する免責条項が明記されることがあります。これにより、将来的な法的紛争のリスクを軽減しようとします。

  • Anti-Discrimination and Anti-Harassment Policies(差別・ハラスメント防止ポリシー)の重視:

    • 多くの国、特に欧米諸国では、人種、性別、年齢、宗教、性的指向、障害などに基づく差別やハラスメントを厳しく禁止する法律が存在します。英文就業規則では、これらの差別・ハラスメント防止ポリシーが詳細に定められ、相談窓口、調査手続き、懲戒処分などが明確に規定されます。

  • Data Privacy and Information Security(データプライバシーと情報セキュリティ):

    • GDPR(EU一般データ保護規則)やCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)などのデータ保護法が施行されている国では、従業員の個人データの取り扱い、監視、情報セキュリティに関するポリシーが詳細に記載されます。これは、機密情報保護の観点からも重要です。

  • Social Media Policy(ソーシャルメディアポリシー)の包含:

    • 従業員のソーシャルメディア利用に関する規則が就業規則に盛り込まれることがあります。これにより、企業イメージの保護、機密情報の漏洩防止、ハラスメント対策などを図ります。

  • Whistleblower Policy(内部通報者保護ポリシー)の設置:

    • 企業の不正行為を内部通報した従業員を保護するためのポリシーが明記されることがあります。これは、企業の透明性とガバナンスを向上させる目的があります。

  • Governing Law and Jurisdiction/Arbitration(準拠法と裁判管轄/仲裁):

    • 就業規則に直接準拠法や紛争解決条項が明記されることは稀ですが、個別の雇用契約書においてこれらの条項が重要となります。しかし、就業規則の運用自体は、その国の労働法に厳格に準拠する必要があります。

日本の和文就業規則に比べ、英文就業規則は、各国固有の雇用原則(例:At-Will Employment)、免責条項、差別・ハラスメント防止に関する詳細なポリシー、データプライバシー、そしてソーシャルメディア利用に関する規則など、より広範なリスク管理とコンプライアンスの視点から記述される傾向が強いです。翻訳においては、これらの法的・人事労務的・文化的ニュアンスを正確に反映した表現を用いることが不可欠です。

 

就業規則翻訳における重要ポイント

就業規則の翻訳は、貴社の国際的な人事労務管理、法規制への準拠、リスク管理に直接影響するため、極めて高い精度と専門性、そして人事、法務、事業部門など多岐にわたる視点が求められます。以下のポイントを押さえることが、成功への鍵となります。

  1. 各国の労働法規への厳格な準拠とローカライズ

    • 翻訳対象となる国の労働基準法、労働契約法、最低賃金法、労働時間規制、解雇規制、年次有給休暇や各種休暇の規定、社会保障制度、ハラスメント防止法、個人情報保護法などを正確に理解し、就業規則に反映することが不可欠です。単に日本語の就業規則を直訳するだけでなく、現地の法規制に合わせて条項の内容を調整(ローカライズ)する必要があります。例えば、日本の「育児介護休業法」と他国の育児休業制度は大きく異なるため、現地の制度を正確に盛り込む必要がありますし、当社はこれを強く認識しています。

  2. 雇用契約書との整合性

    • 就業規則は、個別の雇用契約書と矛盾がないように作成・翻訳する必要があります。両者の内容が食い違う場合、どちらが優先されるかという問題が生じ、紛争の原因となる可能性があります。特に、給与、労働時間、福利厚生、解雇条件などの重要事項は、一貫性を持たせるべきです。

  3. 賃金規定の正確な翻訳と各国の税務・社会保障制度への対応

    • 基本給、手当、残業代、賞与、退職金などの賃金構成、計算方法、支払い方法を正確に翻訳することが不可欠です。各国の最低賃金、残業代の割増率、社会保険料(企業負担分と従業員負担分)、所得税の源泉徴収義務、および税法上の取り扱いを考慮した表現が求められます。

  4. 労働時間・休憩・休日・休暇規定の厳密な翻訳

    • 所定労働時間、法定労働時間、残業時間の計算方法、休憩時間、法定休日、年次有給休暇の付与日数と消化ルール、その他の法定・法定外休暇(病気休暇、慶弔休暇、育児介護休業など)の取得条件と期間を厳密に翻訳することが不可欠です。これらは従業員の権利に関わる重要事項であり、各国で制度が大きく異なるため、細心の注意が必要です。

  5. 懲戒規定と解雇条件の明確な翻訳

    • 懲戒の種類(戒告、減給、出勤停止、諭旨解雇、懲戒解雇など)、懲戒事由、懲戒手続き、そして解雇事由と解雇予告期間などを明確に翻訳することが不可欠です。各国の解雇規制は非常に厳しいため、現地の労働法に違反しないような表現にすることが極めて重要ですし、当社はこれを強く認識しています。この部分の不備は、不当解雇として訴訟に発展する大きなリスクとなります。

  6. ハラスメント対策・倫理規定の充実

    • セクハラ、パワハラ、人種差別、性差別など、あらゆるハラスメントの禁止、相談窓口、調査手続き、懲戒処分などを明確に翻訳することが不可欠です。多くの国でハラスメント対策は企業の義務であり、その遵守はリスク管理上極めて重要です。また、贈収賄、利益相反などの倫理規定も翻訳対象となる場合があります。

  7. 強固な情報セキュリティ体制

    • 就業規則には、企業の内部統制に関する情報や、従業員の個人情報保護に関するポリシーなど、機密性の高い情報が含まれる場合があります。翻訳を依頼する際には、翻訳会社が厳格な情報セキュリティポリシーを定め、技術的・物理的・人的な対策を徹底しているかを必ず確認すべきですし、当社はこれを徹底しています。

  8. AI翻訳の適切な活用と専門家による最終確認

    • AI翻訳技術は、初稿の作成や用語の統一に役立ちますが、就業規則のような法的・文化的に極めて複雑な文書においては、各国の労働法、社会保障制度、税法、そして雇用慣行を完全に理解することは困難です。AIを効率化ツールとして最大限活用しつつも、労働法務知識、人事労務に関する専門知識、および国際取引の実務経験を持つ専門の翻訳者による徹底したレビューと校正が不可欠です。人間による精査が、潜在的なリスクを最小限に抑え、安全な国際雇用関係の基盤となります。

就業規則の翻訳は誰に必要なのか?ケーススタディで見る関係部門の役割

就業規則は、企業の国際的な人事労務管理の根幹をなす文書であり、多岐にわたる部門や関係者がその内容を理解し、翻訳された情報に基づいて連携することが不可欠です。

 

ケーススタディ1:日本のIT企業がベトナムに子会社を設立し、現地従業員を雇用

 

状況: 日本のIT企業A社が、ベトナムにソフトウェア開発子会社を設立し、ベトナム人従業員を雇用するケース。日本の本社人事部が管理しやすいように、ベトナムの労働法に準拠した就業規則を日本語に翻訳する必要がある。

  • 人事部(HR):

    • 必要性: ベトナムの労働法典に基づく労働時間(週48時間、残業規制)、最低賃金、社会保険(社会保険、健康保険、失業保険)、有給休暇(年間12日以上)、解雇規制(解雇事由の制限、解雇通知期間、退職金)を詳細に確認します。適切な人事制度の構築と労務管理に直結します。

    • ケース: 翻訳された就業規則に記載された「ベトナムの法律で義務付けられた残業割増率の計算方法」、「ベトナムの国籍・性別などに基づく差別禁止規定」、「ハラスメントに対する厳格な懲戒規定」、「労働組合または従業員代表との協議義務」を和訳で確認し、現地の法規制と実務に合致しているかを評価します。

  • 法務部:

    • 必要性: 就業規則全体の法的妥当性、特に解雇条項、懲戒条項の厳格性、秘密保持義務、ハラスメント対策、苦情処理手続きがベトナムの法規に準拠しているかを確認します。

    • ケース: 翻訳された就業規則に記載された「正当な解雇事由の具体例(ベトナム法で認められる範囲)」、「懲戒処分を行う際の調査手続きと弁明機会の付与」、「企業秘密保護に関する罰則」を和訳で確認し、法的リスクとコンプライアンスを評価します。

  • 経理部/財務部:

    • 必要性: 給与計算、社会保険料の企業負担、所得税の源泉徴収義務など、人件費と関連費用を正確に把握し、適切な予算を組むために確認します。

    • ケース: 翻訳された就業規則に記載された「基本給の構成要素と各種手当」、「ベトナムの税法に基づく個人所得税の計算方法」、「社会保険料の企業負担分」を和訳で確認し、費用管理と税務コンプライアンスを評価します。

  • 事業部/現地管理職:

    • 必要性: 現地従業員に適用される規則を理解し、日常の業務指示、勤怠管理、パフォーマンス評価、規律順守指導を適切に行うために確認します。

    • ケース: 翻訳された就業規則に記載された「勤務時間と休憩時間の具体的な運用ルール」、「服務規律違反時の指導手順」、「人事評価の目的とフィードバック方法」を和訳で確認し、円滑な事業運営と従業員管理を評価します。

 

ケーススタディ2:米国企業が日本法人に就業規則を導入し、本社人事部向けに英訳が必要

 

状況: 米国の多国籍企業B社が、日本に設立した子会社C社で、日本の労働法に準拠した就業規則を導入するケース。日本の就業規則を日本語で作成し、米国本社の人事・法務部門向けに英語に翻訳する必要がある。

  • 人事部(HR):

    • 必要性: 日本の労働基準法、労働契約法、育児介護休業法、雇用均等法などに基づく労働時間(週40時間、36協定)、残業代計算、年次有給休暇の付与(5日取得義務など)、社会保険制度、解雇規制、ハラスメント対策、育児介護休業などの詳細を把握します。米国本社のグローバル人事ポリシーとの整合性も考慮します。

    • ケース: 翻訳された就業規則に記載された「時間外労働・休日労働に関する36協定の根拠と運用ルール」、「年次有給休暇の計画的付与と5日取得義務」、「育児休業・介護休業の取得条件と期間」、「ハラスメント相談窓口と懲戒処分」を英訳で確認し、日本の法規制と米国本社のポリシーを比較評価します。

  • 法務部:

    • 必要性: 就業規則全体の法的妥当性、特に解雇条項、懲戒条項、秘密保持義務、知的財産権の取り扱いが日本の法規に準拠しているか、また米国本社における法的リスクと矛盾しないかを確認します。

    • ケース: 翻訳された就業規則に記載された「普通解雇、懲戒解雇の具体的事由(日本法で認められる範囲)」、「懲戒処分に関する適正手続き(弁明機会付与など)」、「従業員の職務発明に関する特許法上の権利帰属と企業への譲渡」を英訳で確認し、法的リスクとコンプライアンスを評価します。

  • 経理部/財務部:

    • 必要性: 給与体系、各種手当、日本の所得税・住民税の源泉徴収、社会保険料(健康保険、厚生年金、雇用保険)の企業負担と従業員負担、労働保険料など、人件費と関連費用を正確に把握し、米国本社への費用報告を適切に行うために確認します。

    • ケース: 翻訳された就業規則に記載された「基本給と各種手当(通勤手当、住宅手当など)の構成」、「日本の社会保険料率と計算方法」、「米国本社の会計基準に合わせた費用計上方法」を英訳で確認し、費用管理と税務コンプライアンスを評価します。

  • 各事業部管理職:

    • 必要性: 日本の現地従業員に適用される規則を理解し、日常の業務指示、勤怠管理、パフォーマンス評価、規律順守指導を適切に行うために確認します。

    • ケース: 翻訳された就業規則に記載された「勤務時間中の私用携帯電話使用に関する規則」、「ハラスメント行為の具体例と報告義務」、「人事評価のプロセスと目標設定方法」を英訳で確認し、円滑な事業運営と従業員管理を評価します。

よくある質問(FAQ)

就業規則の翻訳に関して、お客様からよくいただくご質問とその回答をまとめました。

 

Q1: 就業規則を翻訳する際に、最も注意すべき法的リスクは何ですか?

A1: 最も注意すべき法的リスクは、現地の労働法規との不適合です。就業規則は、その国における労働基準法、労働契約法、最低賃金法、社会保障法などの強行法規に厳格に準拠している必要があります。単なる直訳では、現地の法改正や判例の動向、文化的な背景を捉えきれず、以下のようなリスクを生じさせます。

1. 違法な労働条件: 法定労働時間超過、最低賃金以下、不適切な残業代計算、不十分な有給休暇付与など。


  1. 2. 不当解雇・懲戒
    : 各国の解雇規制(解雇事由の制限、解雇予告期間、退職金)や懲戒手続き(弁明機会の付与、調査の実施)を遵守しないことによる訴訟リスク。


  2. 3. ハラスメント・差別問題
    : 各国のハラスメント防止義務や差別禁止法に適合しないことによる訴訟リスクや企業イメージの低下。


  3. 4. 社会保障・税務上の問題
    : 各国の社会保険制度や税法への不適合による追徴課税や罰則。

これらのリスクを回避するためには、翻訳だけでなく、現地の労働法務に詳しい専門家(弁護士、社会保険労務士など)との連携が不可欠ですし、当社はこれを強く認識しています。

 

Q2: 日本の就業規則を海外子会社に適用する際、注意すべき点はありますか?

A2: 基本的に、海外子会社に日本の就業規則をそのまま適用することはできません。各国の労働法規は、労働者の権利保護の観点から強行法規が多く、現地法が優先的に適用されます。 注意すべき点は以下の通りです。

  1. 1. 現地法の調査: まず、進出先の国の労働法規を詳細に調査し、就業規則に含めるべき必須事項や禁止事項を特定します。


  2. 2. 現地に合わせたローカライズ
    : 日本の就業規則をテンプレートとしつつも、現地の法規や慣行に合わせて内容を大幅に修正・加筆する必要があります。例えば、解雇規制、残業代計算、ハラスメントの定義、育児・介護休業制度などは国によって大きく異なります。


  3. 3. 労働組合・従業員代表との協議
    : 一部の国では、就業規則の策定や改定にあたり、労働組合や従業員代表との協議・合意が義務付けられている場合があります。


  4. 4. 承認・届出義務
    : 就業規則の作成・変更後に、政府機関への承認や届出が義務付けられている国もあります。


翻訳は、このローカライズ作業が完了した就業規則に対して行われるべきです。

 

Q3: 懲戒規定と解雇条件の翻訳で特に注意すべきことは何ですか? A3: この部分は最も法的リスクが高い条項の一つです。

  • 解雇事由: 各国では、解雇が認められる「正当な理由(Just Cause)」が限定されており、日本の「客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性」とは異なる場合があります。不適切な解雇事由の記載は、不当解雇として訴訟につながります。

  • 解雇予告期間と退職金: 法定の解雇予告期間や、勤続年数に応じた退職金(Severance Pay)の支払い義務も国によって大きく異なります。

  • 懲戒手続き: 懲戒処分を行う際の調査、弁明の機会の付与、処分内容の妥当性など、適正手続きの確保が求められます。

翻訳においては、これらの厳格な要件を正確に反映し、現地の労働法に違反しない表現にすることが極めて重要です。

 

Q4: AI翻訳を就業規則の翻訳に活用する際の注意点は何ですか? A4: AI翻訳は、初稿の作成や用語の統一に非常に役立ちますが、就業規則のような法的拘束力を持つ文書に単独で使用することは推奨されません。

  • 法的正確性: AIは各国の労働法規、判例、労働慣行のニュアンスを完全に理解できません。誤訳は法的リスクに直結します。

    • 特に、「解雇」や「懲戒」のような法的概念は、国によって厳密な定義や要件が異なるため、AIではその違いを正確に反映することが困難です。

  • 専門用語の正確性: 人事労務、労働法、社会保障に関する専門用語の正確な対応は、AIだけでは困難な場合があります。

  • 文化的背景: 各国の雇用慣行や文化的な背景、労働者保護の考え方は、AIには再現が難しいことがあります。

したがって、AI翻訳を効率化ツールとして活用しつつも、必ず現地の労働法務に詳しい専門家(弁護士、社会保険労務士など)と、翻訳の専門家による徹底したレビューと校正を行うことが不可欠です。当社は、AIと専門家の人力翻訳を組み合わせることで、高品質かつ効率的な翻訳を提供しています。

まとめ

就業規則の翻訳は、単なる言語の変換に留まらず、企業がグローバル市場で事業を展開し、多様な人材を適切に管理し、同時に各国の厳格な労働法規制を遵守し、潜在的な法的リスクを回避するための極めて重要なプロセスです。

英文と和文の就業規則が持つそれぞれの特徴を深く理解し、人事、法務、事業といった各部門が連携しながら、専門知識を持つ翻訳者の力を借りることが不可欠ですし、これまでの経験から当社はこれを強く認識しています。

特に、各国の労働法規への厳格な準拠とローカライズ、賃金規定の正確な翻訳と税務・社会保障制度への対応、労働時間・休暇規定の厳密な翻訳、懲戒規定と解雇条件の明確な翻訳、そしてハラスメント対策・倫理規定の充実といった条項は、潜在的なリスクを最小限に抑え、従業員との健全な関係を築き、円滑な事業運営を成功させるための鍵となります。

当社は、このような複雑な就業規則の翻訳において、貴社の各部門のニーズを理解し、最高品質の翻訳とサポートを提供することをお約束します。貴社の海外ビジネスにおける就業規則に関してご不明な点やご相談がありましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。

 

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契約書翻訳に役立つリンク集

法務省大臣官房司法法制部「法令翻訳の手引き」(PDF)
日本法令外国語訳推進会議「法令用語日英標準対訳辞書」(PDF)
Publiclegal(英文契約書のテンプレートや書式を無料で提供)
日本法令外国語訳データベースシステム(法務省が開設した日本の法令の英訳サイト)
weblio 英和辞典・和英辞典
英辞郎 on the web

 

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