国際的な建設プロジェクトは、発注者、元請業者(ゼネコン)、そして専門工事を担うサブコン(Subcontractor:下請業者)から成る多層的な契約構造を持つことが一般的です。この中で、元請業者とサブコンの間で締結されるのがサブコン契約書(Subcontract Agreement / Subcontract)です。
この契約書は、下請工事の範囲、工期、契約金額、支払い条件、品質基準、遅延損害金、不可抗力、安全管理、保険、元請業者との主契約(Main Contract)との整合性、紛争解決などを詳細に定める法的文書であり、その正確な翻訳は、プロジェクト全体の円滑な進行、コスト管理、品質・安全の確保、そして潜在的なリスクの回避のために極めて重要です。
翻訳のミスや内容の理解不足は、下請工事の範囲の誤解、追加費用の発生、スケジュール遅延、品質問題、責任の曖昧化、さらには元請業者とサブコン間の高額な法的紛争へと発展するリスクをはらんでいます。
特に、国ごとに建設関連法規(労働法、下請保護法など)、契約法、商慣習、そして元請業者と下請業者の関係性に関する規制が大きく異なるため、単に言葉を置き換えるだけでなく、それぞれの法制度や商慣習を踏まえた上で契約内容を理解し、翻訳することが不可欠です。
本記事では、私どもが数多くのサブコン契約書の翻訳を支援してきた経験に基づき、翻訳における重要ポイントと、貴社の各部門がどのように翻訳された契約書を活用し、関与していくべきかを具体的なケーススタディを交えて解説します。
貴社の海外建設プロジェクトにおいて、サブコン契約の適切な理解と運用を通じて、リスクを最小限に抑え、多層構造のプロジェクトを成功に導くために、ぜひ本記事をお役立てください。
サブコン契約書とは何か?その目的と国際プロジェクトにおける重要性
サブコン契約書(Subcontract Agreement)とは、元請業者(General Contractor / Main Contractor)が、特定の建設工事の一部(専門工事、特定工種など)を、下請業者(Subcontractor)に委託する際に締結する、重要な法的文書です。国際的な建設プロジェクトでは、元請業者が主契約(Main Contract / Head Contract)を発注者と締結した後、工事の大部分または一部を現地の専門業者や他の国際的なサブコンに再委託する形で進行することが一般的です。
この契約書は、以下の非常に多岐にわたる詳細な条項を含みます。
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下請工事の範囲(Scope of Subcontract Works): サブコンが実施する具体的な工事内容、設計図書、仕様書、品質基準。元請業者との主契約(Main Contract)における関連部分との整合性が重要です。
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工期とスケジュール: 下請工事の開始日と終了日、中間目標、工期延長の条件、遅延損害金(Liquidated Damages)。主契約の工期との連動。
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契約金額と支払い条件: 総契約金額、支払いスケジュール(出来高払い、マイルストーン払いなど)、支払い通貨、為替リスクの取り扱い、支払いの遅延利息。元請業者から発注者への支払いと連動する「Pay-if-Paid」や「Pay-when-Paid」条項の有無。
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品質保証と瑕疵担保責任(Warranties and Defects Liability): 完成した下請工事の品質基準、保証期間、瑕疵が発見された場合のサブコンの修補義務や賠償責任。主契約の品質保証期間との整合性。
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安全管理と環境規制: 工事現場の安全管理体制、労働安全衛生基準、環境関連法規の遵守義務。元請業者からの安全指示への従属。
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資材・設備の調達: 資材・設備の調達責任者、品質基準、検査、保管に関する規定。
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変更管理(Change Orders)とクレーム(Claims): 下請工事内容や工期、費用に影響を与える変更が発生した場合の承認プロセス、契約金額への影響、クレーム処理。主契約における変更・クレーム手続きとの整合性。
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保険: 工事保険、賠償責任保険など、下請工事に関連する保険の加入義務と費用負担。元請業者の保険との重複・不足の確認。
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責任の制限と補償(Indemnification): サブコンの過失や不作為によって生じた損害に対する責任範囲、元請業者への補償義務。主契約における元請業者の責任との関係。
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元請業者との主契約(Main Contract / Head Contract)との連動: サブコンが主契約の関連条項(適用される法律、紛争解決、責任、工期など)に拘束される旨の規定(Flow-Down Clause)。
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契約解除条件: 契約違反、不可抗力などによる契約解除の条件、通知期間、違約金。
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準拠法と紛争解決: 契約に適用される法律、紛争が発生した場合の解決方法(裁判、仲裁、調停など)。主契約の準拠法・紛争解決条項との整合性。
国際的な建設プロジェクトにおいてサブコン契約書が特に重要なのは、以下の理由からです。
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多層構造のリスク管理: 国際プロジェクトは複雑なサプライチェーンと多層的な契約関係を伴います。サブコン契約書は、元請業者とサブコン間のリスク分担を明確にし、プロジェクト全体のリスクを適切に管理するための重要なツールです。
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専門性と効率性: サブコンは特定の専門工事に特化しており、その専門知識と経験をプロジェクトに導入することで、効率性と品質の向上に貢献します。契約書は、その専門性を最大限に引き出すための基盤となります。
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法制度と商慣習の違いへの対応: 各国で下請に関する法規(労働法、建設業法など)、税制、支払いの慣習などが大きく異なります。これらの違いを理解せずに契約を結ぶと、予期せぬ法的リスクや多額の費用負担が生じる可能性があります。
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品質と安全の確保: サブコンが行う工事の品質と安全は、プロジェクト全体の品質と安全に直結します。契約書は、これらの基準を明確にし、監理・監督の枠組みを提供します。
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主契約との整合性: サブコン契約は、元請業者と発注者間の主契約に「従属」する形で締結されることが多いため、主契約の条項がサブコン契約にも適切に反映されているか(Flow-Down)を確認することが極めて重要です。
英文サブコン契約書の特徴と和文契約書との違い
国際的な建設プロジェクトにおけるサブコン取引では、多くの場合、英文で契約書が作成されます。その特徴は、日本の和文下請契約書とは異なる点がいくつかあります。
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Flow-Down Clause(主契約連動条項)の重要性:
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英文サブコン契約書で最も特徴的かつ重要なのは、この条項です。サブコンが元請業者と発注者の間の主契約(Main Contract)の特定の条項(例:工期、遅延損害金、品質、紛争解決、準拠法、保険など)に拘束されることを明確に規定します。これにより、元請業者が主契約で負う義務と責任の一部をサブコンにも負担させ、リスクを連動させます。
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日本の下請契約書では、主契約との連動が暗黙の了解や部分的な参照にとどまることが多いですが、英文契約では非常に明確かつ包括的に規定されます。
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Pay-if-Paid / Pay-when-Paid 条項:
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これは、元請業者が発注者から支払いを受けた場合にのみ、サブコンへの支払いが発生する(Pay-if-Paid)か、あるいは発注者からの支払い後、合理的な期間内にサブコンへ支払う(Pay-when-Paid)という条項です。元請業者のキャッシュフローを守る目的がありますが、サブコンにとっては支払いリスクが高まるため、各国の法規制(例:米国の一部州ではPay-if-Paidは無効)や慣習と照らし合わせて慎重な翻訳と理解が必要です。
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日本の下請法では、親事業者による下請代金の不当な減額や支払遅延が規制されており、このような条項は認められにくい傾向があります。
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Indemnification(補償)条項の広範な適用:
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サブコンの工事に起因する損害(例:第三者への損害、人身事故、他の下請業者への損害など)が発生した場合に、サブコンが元請業者を補償(Indemnify)する範囲が詳細に規定されます。元請業者が発注者に対して負う責任を、下請部分についてはサブコンに転嫁する意味合いが強いです。
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Force Majeure(不可抗力)の定義と効果:
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天災地変、戦争、ストライキなど、不可抗力事由の定義、その事由により下請工事が遅延・中断した場合の工期延長、費用の負担、通知義務などが詳細に規定されます。主契約の不可抗力条項との整合性が求められます。
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Site Management and Coordination(現場管理と調整):
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元請業者とサブコン間の現場での役割分担、調整、情報共有、指示系統などが規定されます。特に安全管理における責任分担は重要です。
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Insurance(保険)の義務:
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サブコンが加入すべき工事保険(CAR)、賠償責任保険などの種類、補償範囲、保険金額、保険金の受取人、保険証券の提出義務が厳密に規定されます。元請業者の保険との整合性も確認されます。
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Liquidated Damages for Delay(遅延損害金):
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下請工事の遅延が発生した場合にサブコンが元請業者に支払う具体的な損害金の計算方法や上限が規定されます。主契約の遅延損害金条項との連動が一般的です。
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Suspension and Termination(工事中断と契約解除):
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元請業者都合による工事中断の場合の補償、サブコンの契約違反や破産などによる契約解除の条件、通知期間、違約金、契約解除時の工事の評価、資材・設備の取り扱いなどが詳細に規定されます。
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Dispute Resolution(紛争解決):
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紛争解決の方法(交渉、調停、国際仲裁、裁判など)および管轄地が明確に指定されます。多くの場合、主契約の紛争解決条項に連動します。
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日本の和文下請契約書は、下請法や建設業法に基づく保護規定が多く、特に親事業者(元請)の義務が強調される傾向があります。一方、英文サブコン契約書は、元請業者が主契約で負う責任をサブコンに「Flow-Down」させることで、元請業者のリスクを軽減する構造が強く見られます。翻訳においては、これらの法的・商業的な背景を理解し、リスク分担や責任範囲に関する表現を極めて慎重に扱うことが不可欠です。
サブコン契約書翻訳における重要ポイント
サブコン契約書の翻訳は、貴社の海外建設プロジェクトにおける多層構造の管理、費用、工期、品質・安全、そして法的リスクに直接影響するため、極めて高い精度と専門性、そして法務・技術・財務・プロジェクト管理に関する視点が求められます。以下のポイントを押さえることが、成功への鍵となります。
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Flow-Down Clause(主契約連動条項)の厳密な理解と翻訳
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サブコンが元請業者と発注者の間の主契約(Main Contract)のどの条項に、どのように拘束されるのかを極めて厳密に翻訳することが最も重要です。工期、品質、責任、遅延損害金、紛争解決、準拠法など、プロジェクトの根幹に関わる条項が適切に連動しているかを確認し、サブコンが負うことになる義務やリスクを正確に把握する必要があります。この条項の誤解は、予期せぬ責任や紛争に直結しかねません。
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下請工事の範囲(Scope of Subcontract Works)と仕様の明確化
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サブコンが実施する具体的な工事内容、設計図書、仕様書、品質基準を、技術的・法的に誤解の余地なく厳密に翻訳することが不可欠です。主契約の関連部分との整合性も確認し、作業範囲の重複や抜け漏れがないようにすべきです。
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契約金額と支払い条件(特にPay-if-Paid / Pay-when-Paid)
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総契約金額、支払いスケジュール、支払い通貨、為替リスクの負担者を正確に翻訳するとともに、「Pay-if-Paid」や「Pay-when-Paid」条項の有無とその具体的な内容を厳密に翻訳することが不可欠です。これらの条項はサブコンのキャッシュフローに直接影響するため、法的有効性や現実的なリスクを理解する必要があります。
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工期、中間目標、遅延損害金(Liquidated Damages)の明確化
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下請工事の開始日と終了日、重要な中間目標、そして工期が遅延した場合にサブコンが元請業者に支払うべき遅延損害金の計算方法(日額、週額、上限など)を正確に翻訳することが不可欠です。主契約の工期や遅延損害金との連動も確認すべきです。
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安全管理と環境規制の遵守義務
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サブコンが遵守すべき労働安全衛生基準、環境関連法規、元請業者からの安全指示への従属、安全管理体制の構築義務を正確に翻訳することが重要です。海外プロジェクトでは、安全・環境規制が厳しく、違反すると多大な罰則やプロジェクト停止のリスクがあるため、細心の注意を払う必要があります。
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変更管理(Change Orders)とクレーム(Claims)の手続き
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下請工事内容や工期、費用に影響を与える変更が発生した場合の承認プロセス、契約金額への影響、そして追加費用や工期延長を請求するためのクレームの提出要件、手続き、評価方法を厳密に翻訳することが極めて重要です。主契約の変更・クレーム手続きとの整合性を確認すべきです。
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責任の制限と補償(Indemnification)条項
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サブコンの過失や不作為によって生じた損害に対する責任範囲、元請業者への補償義務、そして責任制限の上限を厳密に翻訳することが不可欠です。この条項は、将来的な訴訟リスクと費用負担に直接影響します。
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保険(Insurances)の義務と補償範囲
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サブコンが加入すべき工事保険、賠償責任保険などの種類、補償範囲、保険金額、保険金の受取人、保険証券の提出義務を厳密に翻訳すべきです。元請業者の保険との重複や不足がないかを確認し、適切な保険がかけられているかを確認する必要があります。
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AI翻訳の適切な活用と専門家による最終確認
AI翻訳技術は、初稿の作成や用語の統一に役立ちますが、サブコン契約書のような法的・専門的に極めて複雑な文書、特にFlow-Down Clause、Pay-if-Paid、Indemnificationといった条項においては、法的ニュアンス、各国固有の建設法規、労働法、商慣行を完璧に理解することは困難です。AIを効率化ツールとして最大限活用しつつも、法務知識、国際建設プロジェクトの実務経験、当該国の法規制に関する知見を持つ専門の翻訳者による徹底的なレビューと校正が不可欠です。人間による精査が、潜在的なリスクを最小限に抑え、安全な国際建設プロジェクトの基盤となります。
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強固な情報セキュリティ体制
サブコン契約書には、工事の具体的な内容、工期、費用、技術情報、そして下請業者の財務状況など、企業の競争力やプロジェクトの成否に直結する極めて機密性の高い情報が含まれることが一般的です。これらの情報が外部に漏洩した場合、企業の競争力低下、信用失墜、法的な責任問題など、甚大な損害を被る可能性があります。そのため、翻訳を依頼する際には、翻訳会社が厳格な情報セキュリティポリシーを定め、技術的・物理的・人的な対策を徹底しているかを必ず確認すべきです。私どもは、お客様の機密情報を最高レベルで保護するため、徹底したセキュリティ管理を実践しています。
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「総コスト」での評価と信頼できる翻訳会社の選定
翻訳にかかる費用は、単純な料金だけでなく、翻訳後の社内での確認・修正にかかる時間や労力、そして将来的な紛争リスクといった「総コスト」で評価すべきです。初期費用が安価でも、翻訳品質が低ければ、結果的に大きな損失に繋がりかねません。実績、専門性、セキュリティ体制、そして提供されるサービスの質を総合的に判断し、貴社の国際建設プロジェクトにおける戦略的パートナーとして信頼できる翻訳会社を選定することが重要ですし、私どもはこのような観点から、お客様に安心してご利用いただける最適なサービスを提案しています。
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現地の弁護士・コンサルタントとの連携
翻訳された契約書をベースに、必ず現地の建設法、労働法、契約法、税法に詳しい弁護士やコンサルタントと連携し、契約内容の法的妥当性、税務上の影響、そしてリスクを最終確認することが不可欠です。翻訳は「理解の橋渡し」であり、最終的な法的判断は現地の専門家が行うべきです。
サブコン契約書の翻訳は誰に必要なのか?ケーススタディで見る関係部門の役割
サブコン契約書は、海外建設プロジェクトの多層構造におけるリスク管理と円滑な実行のために不可欠であり、多岐にわたる部門や関係者がその内容を理解し、翻訳された情報に基づいて連携することが不可欠です。
ケーススタディ1:海外プラント建設プロジェクトの元請(ゼネコン)
状況: 日本の総合建設会社が、中東での大規模な石油精製プラント建設プロジェクトにおいて元請業者として受注し、現地の専門工事業者と英文のサブコン契約を締結するケース。
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プロジェクトマネジメント部/国際事業部:
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必要性: 下請工事の範囲、工期、契約金額、支払い条件、遅延損害金、変更管理、クレーム手続き、安全管理義務など、プロジェクト全体のスケジュールとコストに直結する商業的条件を詳細に確認します。特に主契約(Main Contract)とのFlow-Down Clauseを正確に把握し、リスクを適切に配分することが不可欠です。
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ケース: サブコン契約書に記載された「主契約の工期遅延ペナルティがサブコンにも適用される旨」や「Pay-if-Paid条項の具体的な適用条件」を和訳で確認し、プロジェクト全体の遅延リスクとキャッシュフローへの影響を評価します。過去には、Flow-Down Clauseの翻訳が不十分だったため、元請業者が主契約で負う責任がサブコンに適切に転嫁されず、元請が一方的にリスクを負う事態になった事例がありました。私どもは、このようなリスク配分に関する条項の正確な翻訳を特に重視しています。
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法務部:
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必要性: 契約全体の法的妥当性、リスク管理、特に責任制限、補償条項、保険、不可抗力、契約解除条件、準拠法、紛争解決条項の適切性を確認します。中東地域の建設関連法規、労働法、下請保護法への対応が求められます。
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ケース: サブコン契約書に記載された「サブコンの過失による損害に対する補償義務の範囲」や「国際仲裁の管轄地と仲裁規則」を和訳で確認し、法的リスクと紛争解決戦略を評価します。
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見積・積算部/購買部:
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必要性: 下請工事の範囲、資材・設備の調達責任、品質基準、検査要件、支払い条件など、下請費用と資材調達に影響する条項を詳細に確認します。
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ケース: サブコン契約書に記載された「サブコンが調達すべき資材のメーカー指定とその品質基準」や「支払いマイルストーンとその達成基準」を和訳で確認し、正確な見積もりと資材調達計画を立てます。
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工事部/現場管理部:
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必要性: 下請工事の範囲、工期、中間目標、品質基準、安全管理義務、環境規制、資材搬入に関する規定、変更管理プロセス、クレーム提出手順、元請との調整方法など、現場運営に関わる全ての条項を詳細に確認します。
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ケース: サブコン契約書に記載された「現場における安全衛生管理責任の分担」や「元請業者からの指示に対するサブコンの従属義務」を和訳で確認し、現場での円滑な連携と安全確保体制を構築します。
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ケーススタディ2:海外オフィスビル建設プロジェクトへの専門工事受注(サブコン)
状況: 日本の専門工事業者(例:電気設備工事、空調設備工事など)が、欧州のオフィスビル建設プロジェクトにおいて、現地の元請業者から英文のサブコン契約で専門工事を受注するケース。
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事業開発部/国際営業部:
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必要性: 下請工事の範囲、工期、契約金額、支払い条件(特にPay-if-Paid/Pay-when-Paid)、遅延損害金、変更管理、クレーム手続きなど、自社の収益性とリスクに直結する商業的条件を詳細に確認します。元請業者との主契約(Main Contract)とのFlow-Down Clauseを正確に把握し、自社が負うことになる義務とリスクを事前に評価することが不可欠です。
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ケース: サブコン契約書に記載された「元請業者が発注者から支払いを受けた場合にのみ、当社への支払いが発生する条項」や「当社の工事が遅延した場合の遅延損害金の具体的な計算方法」を和訳で確認し、支払いリスクと工期遅延リスクを評価します。
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法務部:
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必要性: 契約全体の法的妥当性、リスク管理、特に責任制限、補償条項、保険、不可抗力、契約解除条件、準拠法、紛争解決条項の適切性を確認します。欧州の建設関連法規、労働法、下請保護法への対応が求められます。
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ケース: サブコン契約書に記載された「当社の過失により発生した損害に対する賠償責任の上限額」や「契約解除時の未払い費用精算条件」を和訳で確認し、法的リスクと対応戦略を評価します。
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工事部/現場管理部:
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必要性: 下請工事の具体的な範囲、工期、品質基準、安全管理義務、元請業者との調整方法などを詳細に確認します。
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ケース: サブコン契約書に記載された「元請業者からの安全指示への遵守義務」や「工事完成後の品質保証期間とその対応義務」を和訳で確認し、現場での円滑な工事実施とリスク管理体制を構築します。
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よくある質問(FAQ)
サブコン契約書の翻訳に関して、お客様からよくいただくご質問とその回答をまとめました。
Q1: サブコン契約書における「Flow-Down Clause(主契約連動条項)」は、翻訳でどのように注意すべきですか?
A1: Flow-Down Clauseは、サブコン契約書の根幹をなす最も重要な条項です。翻訳においては、サブコンが元請業者と発注者の間の主契約(Main Contract)のどの条項に、どのように拘束されるのか(例:工期、遅延損害金、品質、紛争解決、準拠法、保険など)を極めて厳密に、誤解の余地なく表現することが不可欠です。これにより、サブコンが負うことになる義務やリスクを正確に把握し、予期せぬ責任を負うことを防ぎます。
Q2: 「Pay-if-Paid」や「Pay-when-Paid」条項の翻訳で、特に注意すべき点は何ですか?
A2: これらの支払い条件は、サブコンのキャッシュフローと支払いリスクに直接影響します。翻訳においては、元請業者が発注者から支払いを受けた場合にのみサブコンへの支払いが発生する(Pay-if-Paid)のか、あるいは発注者からの支払い後、合理的な期間内に支払う(Pay-when-Paid)のか、その具体的な条件、支払い遅延時の利息、そして各国の法規制(特にPay-if-Paidの有効性)を厳密に表現することが不可欠です。
Q3: 国際的なサブコン契約で、「Indemnification(補償)条項」はなぜ重要視されますか?
A3: Indemnification条項は、責任の所在と費用負担を明確にするために重要です。翻訳においては、サブコンの工事に起因する損害(例:第三者への損害、人身事故、他の下請業者への損害など)が発生した場合に、サブコンが元請業者を補償(Indemnify)する具体的な範囲、補償の対象となる損害の種類(弁護士費用含むかなど)、そして責任制限の上限を厳密に表現することが極めて重要です。これにより、将来的な訴訟リスクと費用負担が明確になります。
Q4: サブコン契約書における「安全管理と環境規制の遵守義務」の条項は、どのように注意して翻訳すべきですか?
A4: 海外の建設現場では、安全や環境に関する規制が厳しく、違反すると多大な罰則やプロジェクト停止のリスクがあります。翻訳においては、サブコンが遵守すべき現地の労働安全衛生基準、環境関連法規、元請業者からの安全指示への従属、安全管理体制の構築義務、そして違反があった場合の責任と罰則を正確に表現することが重要です。
Q5: サブコン契約書で「準拠法と紛争解決」の条項が非常に重要と言われるのはなぜですか?
A5: 準拠法(Governing Law)は、契約の解釈、有効性、義務の履行、そして違反時の法的効果を判断する際に適用される法律です。サブコン契約の準拠法は、通常、主契約の準拠法に連動することが多いため、主契約とサブコン契約の準拠法が整合しているかを翻訳時に確認することが重要です。また、紛争解決方法として国際仲裁を選択する場合、その仲裁地、仲裁機関、仲裁規則、仲裁判断の拘束力も極めて重要であり、専門的な知識をもって正確に翻訳・理解する必要があります。
まとめ
サブコン契約書の翻訳は、単なる言語の変換に留まらず、企業が国際市場で建設プロジェクトの多層構造を安全かつ円滑に管理し、目標を達成するための極めて重要な戦略的要素です。英文と和文の契約書が持つそれぞれの特徴を深く理解し、プロジェクトマネジメント、法務、見積・購買、現場管理といった各部門が連携しながら、専門知識を持つ翻訳者の力を借りることが不可欠ですし、これまでの経験から私どもはこれを強く認識しています。
特に、Flow-Down Clauseの厳密な理解と翻訳、支払い条件(Pay-if-Paid/Pay-when-Paid)、Indemnification条項、安全管理と環境規制の遵守義務、そして準拠法と紛争解決といった条項は、潜在的なリスクを最小限に抑え、国際建設プロジェクトにおける継続的な成功への鍵となります。
私どもは、このような複雑なサブコン契約書の翻訳において、貴社の各部門のニーズを理解し、最高品質の翻訳とサポートを提供することをお約束します。貴社の海外ビジネスにおけるサブコン契約や建設プロジェクトに関してご不明な点やご相談がありましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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契約書翻訳に役立つリンク集
・法務省大臣官房司法法制部「法令翻訳の手引き」(PDF)
・日本法令外国語訳推進会議「法令用語日英標準対訳辞書」(PDF)
・Publiclegal(英文契約書のテンプレートや書式を無料で提供)
・日本法令外国語訳データベースシステム(法務省が開設した日本の法令の英訳サイト)
・weblio 英和辞典・和英辞典
・英辞郎 on the web
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