今日のグローバル経済において、企業の成長と事業拡大には適切な資金調達が不可欠です。国内だけでなく、海外の金融機関から融資を受けたり、海外子会社への融資を行ったりする際には、融資契約書(Loan Agreement)の締結が不可欠となります。融資契約書は、貸付人(Lender)が借入人(Borrower)に対して、特定の条件のもとで資金を貸し付けることを合意する法的文書です。
この契約書は、融資の目的、金額、期間、金利、返済方法、担保・保証、期限の利益喪失条項、コベナンツ(財務制限条項など)、表明保証、クロスデフォルト条項、準拠法、紛争解決など、極めて詳細な条件を定めます。
その正確な翻訳は、円滑な資金調達、適切なリスク管理、法的義務の遵守、そして将来的な紛争の防止のために不可欠です。翻訳のミスや内容の理解不足は、予期せぬ債務不履行、追加費用の発生、国際的な信用失墜、さらには高額な法的紛争へと発展するリスクをはらんでいます。
特に、国ごとに金融規制、担保法、倒産法、税法、そして国際的な商慣習が大きく異なるため、単に言葉を置き換えるだけでなく、それぞれの法制度や融資の種類(証券化、シンジケートローンなど)に応じた法的・財務的・商業的なニュアンスを踏まえた上で契約内容を理解し、翻訳することが不可欠です。
本記事では、これまでの経験に基づき、融資契約書の翻訳における重要なポイントと、貴社の各部門がどのように翻訳された契約書を活用し、関与していくべきかを具体的なケーススタディを交えて解説します。
貴社の海外ビジネスにおいて、融資契約の適切な理解と運用を通じて、グローバルな資金調達を成功に導き、財務リスクを確実に管理するために、ぜひ本記事をお役立てください。
融資契約書とは何か?その目的と国際ビジネスにおける重要性
融資契約書(Loan Agreement)とは、金融機関などの貸付人(Lender)が、企業や個人などの借入人(Borrower)に対して、特定の金額の資金を、特定の金利および返済条件で貸し付けることを合意する法的拘束力のある文書です。
国際ビジネスにおいて、融資契約の対象となる取引は多岐にわたります。
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プロジェクトファイナンス: 海外での大規模プロジェクト(インフラ、エネルギーなど)向け融資
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買収ファイナンス: 海外企業のM&Aにおける資金調達
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貿易金融: 国際貿易取引における信用供与
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海外子会社への融資: 親会社から海外子会社への直接融資や保証
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シンジケートローン: 複数の金融機関による協調融資
この契約書は、以下の非常に多岐にわたる詳細な条項を含みます。
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融資の目的(Purpose of Loan):資金の使途の特定。
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融資金額と通貨(Loan Amount and Currency):貸付られる金額と使用される通貨。国際融資では複数の通貨が関わることもあります。
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金利(Interest Rate):固定金利か変動金利か、基準金利(例:SOFR, EURIBOR, TIBORなど)とスプレッド、金利計算方法。
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返済方法とスケジュール(Repayment Method and Schedule):元利均等返済、元金一括返済、分割返済など、返済の頻度と期日。
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手数料(Fees):アレンジメントフィー、コミットメントフィー、エージェントフィーなど。
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担保・保証(Security / Collateral and Guarantee):不動産、動産、債権、株式など提供される担保の種類、担保設定方法、連帯保証。
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表明保証(Representations and Warranties):借入人の財務状況、法的地位、事業に関する事実の表明と、それらが真実かつ正確であることの保証。
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コベナンツ(Covenants):借入人が契約期間中に遵守すべき義務や制限。
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財務コベナンツ(Financial Covenants): 特定の財務比率(例:DEレシオ、自己資本比率)の維持、借入金総額の上限など。
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アファマティブ・コベナンツ(Affirmative Covenants): 定期的な財務報告書の提出、保険の付保、許可の維持など。
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ネガティブ・コベナンツ(Negative Covenants): 追加担保設定の制限、M&Aの制限、配当制限、他社への融資制限など。
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期限の利益喪失条項(Events of Default / Acceleration Clause):借入人が契約上の義務を履行しない場合に、貸付人が残債の一括返済を求めることができる条件(例:返済遅延、コベナンツ違反、他の債務の不履行(クロスデフォルト)、破産手続開始など)。
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クロスデフォルト条項(Cross-Default Clause):借入人が他の融資契約で債務不履行となった場合に、本契約においても期限の利益が喪失される条項。
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クロスマテリアルアッドバンス条項(Cross-Material Adverse Change Clause): 借入人の財政状態、事業活動、営業実績、資産、または債務履行能力に「重大な悪影響」が生じた場合にも、貸付人が期限の利益を喪失させることができる条項。
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目的外使用の禁止(Prohibition of Misuse of Loan Proceeds): 融資資金を契約で定められた目的以外に使用することを禁止する条項。
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源泉徴収税(Withholding Tax):金利支払いにかかる源泉徴収税の取り扱い(グロスアップ条項など)。
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準拠法と紛争解決(Governing Law and Dispute Resolution):契約に適用される法律、紛争が発生した場合の解決方法(裁判、国際仲裁、調停など)。
国際ビジネスにおいて融資契約書が特に重要なのは、以下の理由からです。
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各国の金融規制と法制度: 国境を越えた融資では、貸付人、借入人それぞれの国の金融規制、担保法、倒産法、外為法などが適用される可能性があり、これらの法制度の差異を契約書で適切に調整する必要があります。
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為替リスク: 異なる通貨での融資は、為替変動リスクを伴います。契約書で為替リスクの負担者やヘッジ方法を定めることが重要です。
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税務処理: 国境を越えた金利支払いには、源泉徴収税やその他の税務処理が伴うため、契約書でその責任を明確にし、グロスアップ条項などを設けることがあります。
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コベナンツの重要性: 国際融資においては、財務コベナンツやネガティブコベナンツが厳しく設定される傾向があり、その違反が期限の利益喪失に直結するため、詳細な理解が不可欠です。
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複雑な担保設定: 不動産や株式などを海外で担保設定する場合、現地の担保法に基づく複雑な手続きが必要となり、契約書でその詳細を定める必要があります。
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国際的な紛争解決: 紛争が発生した場合、準拠法や裁判管轄、仲裁地を明確にしておくことが、解決の迅速性とコストに大きく影響します。
英文融資契約書の特徴と和文契約書との違い
国際的な融資取引では、多くの場合、英文で契約書が作成されます。その特徴は、日本の和文契約書とは異なる点がいくつかあります。
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Extensive Representations and Warranties(広範な表明保証):
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借入人の組織体制、事業、財務状況、訴訟の有無、法的許可の取得状況などについて、非常に広範かつ詳細な表明保証条項が設けられます。これは、貸付人が融資判断を行う上での重要な情報であり、表明保証違反は期限の利益喪失事由となり得ます。
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Detailed Covenants(詳細なコベナンツ):
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財務コベナンツ(Financial Covenants): D/Eレシオ、純資産額、借入金総額、自己資本比率など、特定の財務指標の維持義務が数値目標とともに厳格に規定されます。これらの違反は期限の利益喪失に直結するため、慎重な監視と対応が必要です。
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アファマティブ・コベナンツ(Affirmative Covenants): 財務報告書の定期提出、帳簿の監査容認、保険の付保、法的許可の維持、資産の維持管理などが細かく規定されます。
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ネガティブ・コベナンツ(Negative Covenants): 既存の借入に影響を与えるような追加担保設定の禁止、特定資産の処分制限、M&Aや事業譲渡の制限、配当制限、他の債務の優先的弁済の禁止などが厳しく規定されます。
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Comprehensive Events of Default(包括的な期限の利益喪失事由):
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返済遅延、コベナンツ違反、表明保証違反に加え、クロスデフォルト(他の債務の不履行)、クロスマテリアルアッドバンス(重大な悪影響)、破産手続開始、法的許可の失効、重要資産の差押えなど、多岐にわたる事由が期限の利益喪失のトリガーとして規定されます。
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Cross-Default and Cross-Material Adverse Change Clauses(クロスデフォルト・クロスマテリアルアッドバンス条項):
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クロスデフォルト: 借入人が他の債務で債務不履行に陥った場合、本融資契約も自動的に(または貸付人の裁量で)デフォルトとなる条項。
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クロスマテリアルアッドバンス: 借入人の財務状況や事業に「重大な悪影響」が生じた場合、貸付人が期限の利益を喪失させることができる条項。これらの条項は、貸付人にとってのリスクヘッジの重要な手段であり、和文契約書よりも厳しく規定される傾向があります。
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Indemnification and Governing Law for Multi-jurisdictional Issues(補償と複数法域にわたる準拠法):
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貸付人が被る可能性のある損害に対する借入人からの補償義務が詳細に定められます。また、複数の法域が関わる国際融資では、準拠法として特定の国の法律(例:ニューヨーク州法、英国法)が指定されることが一般的です。
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Withholding Tax and Gross-up Clauses(源泉徴収税とグロスアップ条項):
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金利支払いにかかる源泉徴収税が発生する場合、借入人が源泉徴収税を控除せずに支払う義務(グロスアップ条項)や、税務上の責任分担が詳細に規定されます。
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Conditions Precedent(前提条件)の明確化:
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融資実行前に借入人が満たすべき条件(例:担保設定手続の完了、法的意見書の提出、関係当局の許可取得など)が詳細にリストアップされます。
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日本の和文融資契約書に比べ、英文融資契約書は、表明保証、コベナンツ、期限の利益喪失事由、クロスデフォルト・クロスマテリアルアッドバンス、源泉徴収税に関する規定に関して、より詳細かつ厳密な記述が求められる傾向が強いです。翻訳においては、これらの法的・財務的ニュアンスを正確に反映した表現を用いることが不可欠です。
融資契約書翻訳における重要ポイント
融資契約書の翻訳は、貴社のグローバルな資金調達戦略、財務リスク管理、法的義務の遵守に直接影響するため、極めて高い精度と専門性、そして法務・財務・経理部門など多岐にわたる視点が求められます。以下のポイントを押さえることが、成功への鍵となります。
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金利(Interest Rate)、返済方法(Repayment Method)、手数料(Fees)の正確な翻訳:
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金利の種類(固定・変動)、基準金利(SOFR, EURIBORなど)とスプレッド、金利計算方法、返済期間、返済頻度、元利均等・元金一括などの返済方法、そして融資実行手数料やコミットメントフィーなどの各種手数料を、曖昧さなく正確に翻訳することが不可欠です。誤訳は、予期せぬ利息負担や返済スケジュールの混乱、追加費用の発生につながります。
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コベナンツ(Covenants)の徹底的な翻訳と理解:
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財務コベナンツ(Financial Covenants)における具体的な財務比率(D/Eレシオ、自己資本比率など)の数値目標、計算方法、そしてネガティブ・コベナンツ(Negative Covenants)におけるM&A制限、配当制限、担保設定制限などの具体的な制限内容を厳密に翻訳することが極めて重要です。コベナンツ違反は、期限の利益喪失に直結し、多額の債務の一括返済を求められるリスクがあるため、財務部門と法務部門が連携し、遵守可能性を詳細に評価すべきです。
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期限の利益喪失条項(Events of Default)とクロスデフォルト条項(Cross-Default Clause)の慎重な翻訳:
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返済遅延、コベナンツ違反、表明保証違反に加え、他の融資契約における債務不履行(クロスデフォルト)や、借入人の財務状況への「重大な悪影響」(クロスマテリアルアッドバンス)といった多岐にわたる期限の利益喪失事由を慎重に翻訳することが不可欠です。これらの条項は、融資の安定性や企業の存続に直接影響するため、法務部門と連携して内容を精査し、その影響範囲を正確に把握する必要があります。
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担保・保証(Security / Collateral and Guarantee)に関する条項の精緻な翻訳:
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提供される担保の種類(不動産、動産、債権、株式など)、担保設定方法、評価基準、保証の範囲、連帯保証人の特定などを精緻に翻訳することが極めて重要です。特に海外で担保を設定する場合、現地の担保法制に関する知識が不可欠であり、専門家との連携が重要です。
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源泉徴収税(Withholding Tax)とグロスアップ条項(Gross-up Clause)の明確化:
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国境を越えた金利支払いにかかる源泉徴収税の有無、税率、そして借入人が源泉徴収税を控除せずに支払う義務(グロスアップ条項)の有無と内容を正確に翻訳することが不可欠です。この部分の誤解は、予期せぬ税務コストや法的問題を引き起こす可能性があります。
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当社は、このような国際税務に関する条項の正確な翻訳を特に重視しています。
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表明保証(Representations and Warranties)の正確な翻訳:
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借入人の財務状況、法的地位、事業、訴訟の有無、法的許可の取得状況などに関する事実の表明と保証を正確に翻訳することが不可欠です。表明保証違反も期限の利益喪失につながる可能性があるため、内容を十分に理解する必要があります。
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監査権(Audit Rights)と報告義務の明確な翻訳:
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貸付人が借入人の財務状況や契約遵守状況を監査する権利の範囲、報告義務の頻度と内容を正確に翻訳することが重要です。
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準拠法と紛争解決(Governing Law and Dispute Resolution):
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契約に適用される法律、そして紛争が発生した場合の解決方法(国際仲裁、調停、裁判など)、仲裁地の選定、仲裁機関、仲裁規則、仲裁人の数、仲裁判断の拘束力などを正確に翻訳することが不可欠です。国際融資では、自社にとって有利な準拠法や紛争解決地を指定することが戦略上重要であり、その内容を正確に把握すべきです。
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AI翻訳の適切な活用と専門家による最終確認:
AI翻訳技術は、初稿の作成や用語の統一に役立ちますが、融資契約書のような法的・財務的に極めて複雑な文書においては、法的ニュアンス、各国の金融規制、税法、業界特有の専門用語を完全に理解することは困難です。AIを効率化ツールとして最大限活用しつつも、法務知識、財務・会計に関する専門知識、および国際金融の実務経験を持つ専門の翻訳者による徹底したレビューと校正が不可欠です。人間による精査が、潜在的なリスクを最小限に抑え、安全な国際取引の基盤となります。 -
強固な情報セキュリティ体制:
融資契約書には、貴社の財務情報、事業計画、担保資産に関する情報など、企業の信用や事業の成否に直結する極めて機密性の高い情報が含まれることが一般的です。これらの情報が外部に漏洩した場合、企業の信用失墜、資金調達への悪影響、法的な責任問題など、甚大な損害を被る可能性があります。そのため、翻訳を依頼する際には、翻訳会社が厳格な情報セキュリティポリシーを定め、技術的・物理的・人的な対策を徹底しているかを必ず確認すべきですし、当社はこれを徹底しています。
融資契約書の翻訳は誰に必要なのか?ケーススタディで見る関係部門の役割
融資契約書は、グローバルな資金調達と財務リスク管理を左右するため、多岐にわたる部門や関係者がその内容を理解し、翻訳された情報に基づいて連携することが不可欠です。
ケーススタディ1:海外子会社の設備投資向け融資(日本の製造業親会社)
状況: 日本の製造業親会社が、中国子会社の工場設備増強のため、現地の銀行から人民元建てで融資を受けるケース。親会社は保証人となり、英文の融資契約書を締結。
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財務部/経理部:
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必要性: 融資金額、金利、返済スケジュール、手数料、親会社の保証義務の範囲、財務コベナンツの数値目標などを詳細に確認します。資金計画、キャッシュフロー、連結決算への影響を評価します。
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ケース: 契約書に記載された「人民元建て融資の金利計算基準(中国のLPRなど)」、「親会社の連帯保証の範囲と期間」、「D/Eレシオの維持に関する財務コベナンツの数値」を和訳で確認し、財務リスクとコンプライアンスを評価します。過去には、グロスアップ条項の翻訳が不正確だったため、想定外の源泉徴収税負担が発生した事例がありました。当社は、このような税務に関する条項の正確な翻訳を特に重視しています。
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法務部:
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必要性: 契約全体の法的妥当性、親会社保証の法的拘束力、担保設定の可否、期限の利益喪失事由、クロスデフォルト条項、準拠法(中国法)、紛争解決条項の適切性を確認します。
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ケース: 契約書に記載された「親会社の連帯保証における責任の範囲と例外事由」、「中国における担保設定に関する規定」、「中国国内の裁判所を管轄とする紛争解決条項」を和訳で確認し、法的リスクと企業統治への影響を評価します。
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経営企画部:
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必要性: 融資の目的(設備投資)が事業計画と整合しているか、資金使途の制限が事業戦略に影響しないかを確認します。
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ケース: 契約書に記載された「融資資金の使途に関する制限(工場設備購入に限定)」、「融資契約が今後の事業戦略上のM&A等に与える影響」を和訳で確認し、事業計画への適合性を評価します。
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ケーススタディ2:海外スタートアップへの融資(日本のベンチャーキャピタル)
状況: 日本のベンチャーキャピタルが、米国シリコンバレーのAIスタートアップに、将来の株式取得を前提とした転換社債型融資を行うケース。英文の融資契約書を締結。
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投資部門/事業開発部:
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必要性: 融資金額、金利、返済方法、転換条件(転換価格、転換時期など)、将来の株式取得に関する権利などを詳細に確認します。投資のリターンとリスクに直結する内容です。
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ケース: 契約書に記載された「転換社債の金利と返済期限」、「次の資金調達ラウンドにおける株式への転換比率」、「スタートアップの将来的なExit(売却・IPO)に関する優先交渉権」を和訳で確認し、投資戦略とリターン予測を評価します。
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法務部:
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必要性: 契約全体の法的妥当性、転換社債の法的性質、担保・保証の有無、表明保証、コベナンツ、期限の利益喪失事由、クロスデフォルト条項、準拠法(デラウェア州法)、紛争解決条項の適切性を確認します。特にスタートアップ特有のリスク(例えば、資金枯渇リスク、キーパーソンの離脱など)への対応が求められます。
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ケース: 契約書に記載された「転換社債に関する米国の証券規制への準拠」、「スタートアップの事業に関する表明保証とコベナンツ(追加融資の制限など)」、「デラウェア州法を準拠法とする紛争解決条項」を和訳で確認し、法的リスクと投資の実行可能性を評価します。
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経理部/財務部:
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必要性: 融資の会計処理、利息の計上、将来の株式取得時の評価、税務上の取り扱いなどを確認します。
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ケース: 契約書に記載された「利息の計上方法」、「将来の株式転換時の評価基準と会計処理」を和訳で確認し、財務報告と税務戦略を管理します。
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よくある質問(FAQ)
融資契約書の翻訳に関して、お客様からよくいただくご質問とその回答をまとめました。
Q1: 融資契約書における「コベナンツ(Covenants)」の条項は、翻訳でどのように注意すべきですか?
A1: コベナンツは、借入人が契約期間中に遵守すべき義務や制限を定める極めて重要な条項です。翻訳においては、財務コベナンツ(Financial Covenants)における具体的な財務比率(D/Eレシオ、自己資本比率など)の数値目標や計算方法、そしてネガティブ・コベナンツ(Negative Covenants)におけるM&A制限、配当制限、担保設定制限、追加融資の制限などの具体的な制限内容を厳密に翻訳することが不可欠です。これらのコベナンツ違反は、期限の利益喪失に直結し、融資の一括返済を求められるリスクがあるため、貴社の財務状況や事業計画と照らし合わせながら、その遵守可能性を詳細に評価すべきです。曖isco理解や誤訳は、予期せぬ債務不履行や高額な法的紛争につながる可能性があります。
Q2: 「期限の利益喪失条項(Events of Default)」と「クロスデフォルト条項(Cross-Default Clause)」の翻訳で、特に注意すべき点は何ですか?
A2: これらの条項は、借入人が契約上の義務を履行しない場合に、貸付人が残債の一括返済を求めることができる条件を定めます。翻訳においては、返済遅延、コベナンツ違反、表明保証違反に加え、他の融資契約における債務不履行(クロスデフォルト)、借入人の財務状況や事業に「重大な悪影響」が生じた場合(クロスマテリアルアッドバンス)、破産手続開始、法的許可の失効など、多岐にわたる期限の利益喪失事由を慎重に翻訳することが不可欠です。特にクロスデフォルト条項は、他の債務の不履行が本契約にも影響を及ぼすため、その影響範囲を正確に把握し、細心の注意を払う必要があります。
Q3: 国際的な融資契約で、「源泉徴収税(Withholding Tax)」と「グロスアップ条項(Gross-up Clause)」の取り扱いはなぜ重要視されますか?
A3: 国境を越えた金利の支払いには、貸付人の居住国と借入人の居住国それぞれの税法に基づいて源泉徴収税が課される場合があります。翻訳においては、源泉徴収税の有無、税率、そして借入人が源泉徴収税を控除せずに金利全額を支払う義務(グロスアップ条項)の有無と内容を正確に表現することが不可欠です。グロスアップ条項がある場合、借入人の税負担が増加するため、契約締結前にその影響を十分に評価し、正確に翻訳されているか確認する必要があります。
Q4: 融資契約における「担保・保証(Security / Collateral and Guarantee)」の取り扱いは、どのように注意して翻訳すべきですか?
A4: 提供される担保の種類(不動産、動産、債権、株式など)、担保設定方法、担保の評価基準、設定手続き、そして保証の範囲、連帯保証人の特定などを精緻に翻訳することが極めて重要です。特に海外で担保を設定する場合、現地の担保法制や登記制度が大きく異なるため、その国の法律専門家と連携し、翻訳された内容が現地の法慣行と整合しているかを確認することが不可欠です。不正確な翻訳は、担保権の実行が困難になるなどのリスクにつながります。
Q5: 融資契約書で「準拠法と紛争解決(Governing Law and Dispute Resolution)」の条項が非常に重要と言われるのはなぜですか?
A5: 準拠法(Governing Law)は、契約の解釈・有効性・履行に適用される法律であり、紛争解決は問題発生時の解決プロセスを定めます。国際的な融資契約では、異なる国の金融規制、会社法、倒産法などが絡むため、どの国の法律が契約全体に適用されるのか、特に担保権の実行や倒産手続きの際にどの国の法律が適用されるのかを明確に合意しておくことが不可欠です。また、紛争が生じた場合にどの国で、どのような方法(国際仲裁、調停、裁判など)で解決するのかを明確に合意しておくことが、予測可能性を高め、紛争解決のコストと時間を削減するために極めて重要ですし、自社にとって有利な条件を確保すべきです。翻訳においては、これらの条項を正確に理解し、現地の法律専門家と連携して最終確認を行うことが不可欠です。
まとめ
融資契約書の翻訳は、単なる言語の変換に留まらず、企業がグローバル市場で資金を調達し、同時に財務リスクを確実に管理するための極めて重要なプロセスです。
英文と和文の契約書が持つそれぞれの特徴を深く理解し、財務、経理、法務といった各部門が連携しながら、専門知識を持つ翻訳者の力を借りることが不可欠ですし、これまでの経験から当社はこれを強く認識しています。
特に、金利と返済条件、コベナンツ、期限の利益喪失条項、クロスデフォルト条項、担保・保証、源泉徴収税、そして準拠法と紛争解決といった条項は、潜在的な法的・財務的リスクを最小限に抑え、グローバルな資金調達を成功させるための鍵となります。
当社は、このような複雑な融資契約書の翻訳において、貴社の各部門のニーズを理解し、最高品質の翻訳とサポートを提供することをお約束します。貴社の海外ビジネスにおける融資契約に関してご不明な点やご相談がありましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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契約書翻訳に役立つリンク集
・法務省大臣官房司法法制部「法令翻訳の手引き」(PDF)
・日本法令外国語訳推進会議「法令用語日英標準対訳辞書」(PDF)
・Publiclegal(英文契約書のテンプレートや書式を無料で提供)
・日本法令外国語訳データベースシステム(法務省が開設した日本の法令の英訳サイト)
・weblio 英和辞典・和英辞典
・英辞郎 on the web
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