今日の国際ビジネス環境において、企業がグループ会社間で資金を融通したり、サプライヤーや顧客に対して資金提供を行ったりする際には、貸付契約書(Loan Agreement / Lending Agreement)の締結が不可欠です。融資契約書と同様に、この貸付契約書は、資金の貸付人(Lender)と借入人(Borrower)との間で、貸付の目的、金額、期間、金利、返済方法、担保・保証、期限の利益喪失条項、財務制限条項(コベナンツ)、表明保証、準拠法、紛争解決など、詳細な条件を定めます。
特に国際間での貸付においては、その正確な翻訳が、資金の円滑な流れ、適切な財務ガバナンス、法的義務の遵守、そして将来的な紛争の防止のために不可欠です。翻訳のミスや内容の理解不足は、予期せぬ債務不履行、回収不能リスク、追加費用、国際的な信用失墜、さらには高額な法的紛争へと発展するリスクをはらんでいます。
特に、国ごとに金融規制、担保法、倒産法、税法(特に源泉徴収税)、外為法、そして国際的な商慣習が大きく異なるため、単に言葉を置き換えるだけでなく、それぞれの法制度や貸付の性質に応じた法的・財務的・商業的なニュアンスを踏まえた上で契約内容を理解し、翻訳することが不可欠です。
本記事では、これまでの経験に基づき、貸付契約書の翻訳における重要なポイントと、貴社の各部門がどのように翻訳された契約書を活用し、関与していくべきかを具体的なケーススタディを交えて解説します。
貴社の海外ビジネスにおいて、貸付契約の適切な理解と運用を通じて、グローバルな資金提供を成功に導き、財務リスクを確実に管理するために、ぜひ本記事をお役立てください。
貸付契約書とは何か?その目的と国際ビジネスにおける重要性
貸付契約書(Loan Agreement / Lending Agreement)は、特定の目的のために資金を提供する貸付人(Lender)と、その資金を受け取る借入人(Borrower)との間で締結される、法的拘束力のある文書です。多くの場合、融資契約書と同様の構造と条項を含みますが、企業間やグループ会社間での資金貸付、あるいはベンダーファイナンスのような特定のビジネス目的のために利用される点が特徴です。
国際ビジネスにおいて、貸付契約の対象となる取引は多岐にわたります。
-
グループ会社間融資(Intra-Group Loan): 親会社から海外子会社への資金貸付や、子会社間での資金融通。
-
株主貸付(Shareholder Loan): 株主が企業に資金を貸し付ける形態。
-
ベンダーファイナンス(Vendor Finance): 供給元が顧客に対して、自社製品・サービスの購入資金を貸し付ける。
-
プロジェクトへの資金提供: 特定の海外プロジェクトに対する直接的な資金提供。
この契約書は、以下の非常に多岐にわたる詳細な条項を含みます。
-
貸付の目的(Purpose of Loan):資金の具体的な使途の特定。
-
貸付金額と通貨(Loan Amount and Currency):貸付られる金額と使用される通貨。国際貸付では複数の通貨が関わることもあります。
-
金利(Interest Rate):固定金利か変動金利か、基準金利(例:SOFR, EURIBOR, TIBORなど)とスプレッド、金利計算方法。
-
返済方法とスケジュール(Repayment Method and Schedule):元利均等返済、元金一括返済、分割返済など、返済の頻度と期日。
-
手数料(Fees):貸付実行手数料、コミットメントフィーなど。
-
担保・保証(Security / Collateral and Guarantee):不動産、動産、債権、株式など提供される担保の種類、担保設定方法、連帯保証。
-
表明保証(Representations and Warranties):借入人の財務状況、法的地位、事業に関する事実の表明と、それらが真実かつ正確であることの保証。
-
コベナンツ(Covenants):借入人が契約期間中に遵守すべき義務や制限。
-
財務コベナンツ(Financial Covenants): 特定の財務比率(例:D/Eレシオ、自己資本比率)の維持、借入金総額の上限など。
-
アファマティブ・コベナンツ(Affirmative Covenants): 定期的な財務報告書の提出、保険の付保、許可の維持など。
-
ネガティブ・コベナンツ(Negative Covenants): 追加担保設定の制限、M&Aの制限、配当制限、他社への融資制限など。
-
-
期限の利益喪失条項(Events of Default / Acceleration Clause):借入人が契約上の義務を履行しない場合に、貸付人が残債の一括返済を求めることができる条件(例:返済遅延、コベナンツ違反、他の債務の不履行(クロスデフォルト)、破産手続開始など)。
-
クロスデフォルト条項(Cross-Default Clause):借入人が他の貸付契約や債務で債務不履行となった場合に、本契約においても期限の利益が喪失される条項。
-
源泉徴収税(Withholding Tax):金利支払いにかかる源泉徴収税の取り扱い(グロスアップ条項など)。
-
準拠法と紛争解決(Governing Law and Dispute Resolution):契約に適用される法律、紛争が発生した場合の解決方法(裁判、国際仲裁、調停など)。
国際ビジネスにおいて貸付契約書が特に重要なのは、以下の理由からです。
-
各国の金融規制と法制度: 国境を越えた貸付では、貸付人、借入人それぞれの国の金融規制、担保法、倒産法、外為法などが適用される可能性があり、これらの法制度の差異を契約書で適切に調整する必要があります。特に、グループ会社間貸付においては、移転価格税制(Transfer Pricing Taxation)や過少資本税制(Thin Capitalization Rule)といった税務上の規制が適用される可能性があり、これらの法的・税務的側面を契約書に反映させる必要があります。
-
為替リスク: 異なる通貨での貸付は、為替変動リスクを伴います。契約書で為替リスクの負担者やヘッジ方法を定めることが重要です。
-
税務処理: 国境を越えた金利支払いには、源泉徴収税やその他の税務処理が伴うため、契約書でその責任を明確にし、グロスアップ条項などを設けることがあります。特にグループ会社間貸付では、利息の損金算入の可否や源泉徴収税の扱いが、グループ全体の税負担に影響します。
-
コベナンツの重要性: 借入人の財務健全性を維持し、貸付人のリスクを低減するために、財務コベナンツなどが厳しく設定される傾向があり、その違反が期限の利益喪失に直結するため、詳細な理解が不可欠です。
-
国際的な紛争解決: 紛争が発生した場合、準拠法や裁判管轄、仲裁地を明確にしておくことが、解決の迅速性とコストに大きく影響します。
英文貸付契約書の特徴と和文契約書との違い
国際的な貸付取引では、多くの場合、英文で契約書が作成されます。その特徴は、日本の和文契約書とは異なる点がいくつかあります。
-
Detailed Purpose of Loan(貸付目的の明確化):
-
資金の使途が非常に具体的に記述されます。例えば、海外子会社の設備投資、運転資金、特定のプロジェクトファイナンスなど、貸付目的を厳密に定めることで、貸付人は資金の流用リスクを管理します。
-
-
Extensive Representations and Warranties(広範な表明保証):
-
借入人の組織体制、事業、財務状況、訴訟の有無、法的許可の取得状況などについて、非常に広範かつ詳細な表明保証条項が設けられます。これは、貸付人が貸付判断を行う上での重要な情報であり、表明保証違反は期限の利益喪失事由となり得ます。
-
-
Detailed Covenants(詳細なコベナンツ):
-
財務コベナンツ(Financial Covenants): D/Eレシオ、純資産額、借入金総額、自己資本比率など、特定の財務指標の維持義務が数値目標とともに厳格に規定されます。これらの違反は期限の利益喪失に直結するため、慎重な監視と対応が必要です。
-
ネガティブ・コベナンツ(Negative Covenants): 既存の借入に影響を与えるような追加担保設定の禁止、特定資産の処分制限、M&Aや事業譲渡の制限、配当制限、他社への融資制限などが厳しく規定されます。特にグループ会社間貸付では、借入人である子会社の経営の自由度を適切に制限するためのコベナンツが重要です。
-
-
Comprehensive Events of Default(包括的な期限の利益喪失事由):
-
返済遅延、コベナンツ違反、表明保証違反に加え、クロスデフォルト(他の債務の不履行)、破産手続開始、法的許可の失効、重要資産の差押えなど、多岐にわたる事由が期限の利益喪失のトリガーとして規定されます。
-
-
Cross-Default Clause(クロスデフォルト条項):
-
借入人が他の債務で債務不履行に陥った場合、本貸付契約も自動的に(または貸付人の裁量で)デフォルトとなる条項。貸付人にとってのリスクヘッジの重要な手段であり、和文契約書よりも厳しく規定される傾向があります。
-
-
Indemnification and Governing Law for Multi-jurisdictional Issues(補償と複数法域にわたる準拠法):
-
貸付人が被る可能性のある損害に対する借入人からの補償義務が詳細に定められます。また、複数の法域が関わる国際貸付では、準拠法として特定の国の法律(例:ニューヨーク州法、英国法、日本法)が指定されることが一般的です。
-
-
Withholding Tax and Gross-up Clauses(源泉徴収税とグロスアップ条項):
-
金利支払いにかかる源泉徴収税が発生する場合、借入人が源泉徴収税を控除せずに支払う義務(グロスアップ条項)や、税務上の責任分担が詳細に規定されます。特にグループ会社間貸付では、両国間の租税条約の適用なども考慮されます。
-
-
Conditions Precedent(前提条件)の明確化:
-
貸付実行前に借入人が満たすべき条件(例:担保設定手続の完了、法的意見書の提出、関係当局の許可取得など)が詳細にリストアップされます。
-
日本の和文貸付契約書に比べ、英文貸付契約書は、表明保証、コベナンツ、期限の利益喪失事由、クロスデフォルト、源泉徴収税に関する規定、そして国際税務(移転価格税制など)への配慮に関して、より詳細かつ厳密な記述が求められる傾向が強いです。翻訳においては、これらの法的・財務的・税務的ニュアンスを正確に反映した表現を用いることが不可欠です。
貸付契約書翻訳における重要ポイント
貸付契約書の翻訳は、貴社のグローバルな資金管理、財務ガバナンス、法的義務の遵守に直接影響するため、極めて高い精度と専門性、そして法務・財務・経理部門など多岐にわたる視点が求められます。以下のポイントを押さえることが、成功への鍵となります。
-
金利(Interest Rate)、返済方法(Repayment Method)、手数料(Fees)の正確な翻訳:
-
金利の種類(固定・変動)、基準金利とスプレッド、金利計算方法、返済期間、返済頻度、元利均等・元金一括などの返済方法、そして貸付実行手数料やコミットメントフィーなどの各種手数料を、曖昧さなく正確に翻訳することが不可欠です。誤訳は、予期せぬ利息負担や返済スケジュールの混乱、追加費用の発生につながります。
-
-
コベナンツ(Covenants)の徹底的な翻訳と理解:
-
財務コベナンツにおける具体的な財務比率の数値目標、計算方法、そしてネガティブ・コベナンツにおけるM&A制限、配当制限、担保設定制限などの具体的な制限内容を厳密に翻訳することが極めて重要です。コベナンツ違反は、期限の利益喪失に直結し、多額の債務の一括返済を求められるリスクがあるため、財務部門と法務部門が連携し、遵守可能性を詳細に評価すべきです。
-
-
期限の利益喪失条項(Events of Default)とクロスデフォルト条項(Cross-Default Clause)の慎重な翻訳:
-
返済遅延、コベナンツ違反、表明保証違反に加え、他の貸付契約における債務不履行(クロスデフォルト)や、借入人の破産手続開始、法的許可の失効など、多岐にわたる期限の利益喪失事由を慎重に翻訳することが不可欠です。これらの条項は、貸付の安定性や企業の財務健全性に直接影響するため、法務部門と連携して内容を精査し、その影響範囲を正確に把握する必要があります。
-
-
担保・保証(Security / Collateral and Guarantee)に関する条項の精緻な翻訳:
-
提供される担保の種類(不動産、動産、債権、株式など)、担保設定方法、評価基準、設定手続き、そして保証の範囲、連帯保証人の特定などを精緻に翻訳することが極めて重要です。特に海外で担保を設定する場合、現地の担保法制に関する知識が不可欠であり、専門家との連携が重要です。
-
-
源泉徴収税(Withholding Tax)とグロスアップ条項(Gross-up Clause)の明確化:
-
国境を越えた金利支払いにかかる源泉徴収税の有無、税率、そして借入人が源泉徴収税を控除せずに金利全額を支払う義務(グロスアップ条項)の有無と内容を正確に翻訳することが不可欠です。特にグループ会社間貸付においては、移転価格税制や過少資本税制の観点から金利の妥当性が問われることがあるため、税務部門と連携し、正確な翻訳と法的・税務的評価を行うべきです。この部分の誤解は、予期せぬ税務コストや法的問題を引き起こす可能性があります。
-
当社は、このような国際税務に関する条項の正確な翻訳を特に重視しています。
-
-
表明保証(Representations and Warranties)の正確な翻訳:
-
借入人の財務状況、法的地位、事業、訴訟の有無、法的許可の取得状況などに関する事実の表明と保証を正確に翻訳することが不可欠です。表明保証違反も期限の利益喪失につながる可能性があるため、内容を十分に理解する必要があります。
-
-
準拠法と紛争解決(Governing Law and Dispute Resolution):
-
契約に適用される法律、そして紛争が発生した場合の解決方法(国際仲裁、調停、裁判など)、仲裁地の選定、仲裁機関、仲裁規則、仲裁人の数、仲裁判断の拘束力などを正確に翻訳することが不可欠です。国際貸付では、自社にとって有利な準拠法や紛争解決地を指定することが戦略上重要であり、その内容を正確に把握すべきです。
-
-
AI翻訳の適切な活用と専門家による最終確認:
AI翻訳技術は、初稿の作成や用語の統一に役立ちますが、貸付契約書のような法的・財務的に極めて複雑な文書においては、法的ニュアンス、各国の金融規制、税法、業界特有の専門用語を完全に理解することは困難です。AIを効率化ツールとして最大限活用しつつも、法務知識、財務・会計に関する専門知識、および国際金融の実務経験を持つ専門の翻訳者による徹底したレビューと校正が不可欠です。人間による精査が、潜在的なリスクを最小限に抑え、安全な国際取引の基盤となります。 -
強固な情報セキュリティ体制:
貸付契約書には、貴社の財務情報、事業計画、担保資産に関する情報など、企業の信用や事業の成否に直結する極めて機密性の高い情報が含まれることが一般的です。これらの情報が外部に漏洩した場合、企業の信用失墜、資金調達への悪影響、法的な責任問題など、甚大な損害を被る可能性があります。そのため、翻訳を依頼する際には、翻訳会社が厳格な情報セキュリティポリシーを定め、技術的・物理的・人的な対策を徹底しているかを必ず確認すべきですし、当社はこれを徹底しています。
貸付契約書の翻訳は誰に必要なのか?ケーススタディで見る関係部門の役割
貸付契約書は、グローバルな資金管理と財務ガバナンスを左右するため、多岐にわたる部門や関係者がその内容を理解し、翻訳された情報に基づいて連携することが不可欠です。
ケーススタディ1:親会社から海外子会社への運転資金貸付(日本の商社)
状況: 日本の商社が、ベトナムにある製造子会社に対し、運転資金としてドル建てで直接貸付を行うケース。英文の貸付契約書を締結。
-
財務部/経理部:
-
必要性: 貸付金額、金利(市場金利との比較による移転価格税制への配慮)、返済スケジュール、外貨建て貸付の為替リスク、子会社の財務コベナンツの数値目標などを詳細に確認します。資金計画、連結決算への影響、税務上の影響を評価します。
-
ケース: 契約書に記載された「ドル建て貸付の金利(LIBOR/SOFR基準金利+スプレッド)」、「ベトナム子会社のD/Eレシオに関する財務コベナンツの数値」、「ベトナムでの源泉徴収税の有無と軽減税率の適用」を和訳で確認し、財務リスクとコンプライアンスを評価します。過去には、金利設定が市場実勢と乖離していたため、移転価格税制上の問題が生じた事例がありました。当社は、このような国際税務に関する条項の正確な翻訳を特に重視しています。
-
-
法務部:
-
必要性: 契約全体の法的妥当性、貸付目的の合法性、期限の利益喪失事由、クロスデフォルト条項、ベトナムにおける担保設定の可否、準拠法(ベトナム法または日本法)、紛争解決条項の適切性を確認します。
-
ケース: 契約書に記載された「ベトナム子会社が遵守すべきネガティブコベナンツ(追加借入の制限など)」、「ベトナムの法律に基づく担保設定の手続き」、「ベトナム国内の裁判所を管轄とする紛争解決条項」を和訳で確認し、法的リスクとグループガバナンスへの影響を評価します。
-
-
経営企画部:
-
必要性: 貸付が子会社の事業計画と整合しているか、資金使途の制限が子会社の事業運営に影響しないかを確認します。
-
ケース: 契約書に記載された「貸付資金の使途に関する具体的な制限(特定の運転資金に限定)」、「子会社の配当制限に関するコベナンツ」を和訳で確認し、事業計画への適合性を評価します。
-
ケーススタディ2:海外顧客へのベンダーファイナンス(日本の機械メーカー)
状況: 日本の産業機械メーカーが、インドネシアの顧客に対し、自社製品の購入資金としてルピア建てで直接貸付を行うケース。英文の貸付契約書を締結。
-
営業部/事業開発部:
-
必要性: 貸付金額、金利、返済条件が、顧客の購入意欲や売上促進にどのように影響するかを確認します。貸付条件が競争力のあるものであるかを評価します。
-
ケース: 契約書に記載された「機械購入代金の一部をカバーする貸付金額」、「ルピア建て貸付の金利と返済期間」、「顧客の債務不履行時の機械引き上げに関する条項」を和訳で確認し、売上目標達成への貢献度と貸付条件の魅力を評価します。
-
-
財務部/経理部:
-
必要性: 貸付金額、金利、返済スケジュール、回収リスク、貸倒引当金の設定、インドネシアでの源泉徴収税の取り扱いなどを確認します。キャッシュフローと収益性への影響を評価します。
-
ケース: 契約書に記載された「顧客からのルピア建て返済スケジュール」、「インドネシアにおける利息の源泉徴収税率とその会計処理」を和訳で確認し、貸付の財務的実行可能性とリスクを管理します。
-
-
法務部:
-
必要性: 契約全体の法的妥当性、貸付の実行可能性、担保設定の可否、期限の利益喪失事由、クロスデフォルト条項、準拠法(インドネシア法または日本法)、紛争解決条項の適切性を確認します。特に海外顧客の信用リスクや現地の債権回収制度に注意を払います。
-
ケース: 契約書に記載された「貸付の目的(自社製品購入に限定)」、「インドネシアでの担保設定に関する法的要件」、「インドネシアの裁判所または国際仲裁による紛争解決条項」を和訳で確認し、法的リスクと債権保全策を評価します。
-
よくある質問(FAQ)
貸付契約書の翻訳に関して、お客様からよくいただくご質問とその回答をまとめました。
Q1: 貸付契約書における「金利(Interest Rate)と源泉徴収税(Withholding Tax)」の条項は、翻訳でどのように注意すべきですか?
A1: 国際的な貸付では、金利の設定と税務上の取り扱いが複雑になります。翻訳においては、金利の種類(固定・変動)、基準金利とスプレッド、金利計算方法を正確に表現することはもちろん、源泉徴収税の有無、税率、そしてグロスアップ条項(借入人が源泉徴収税を控除せずに金利全額を支払う義務)の有無と内容を明確に翻訳することが不可欠です。特にグループ会社間貸付の場合、移転価格税制の観点から金利の妥当性が各国の税務当局から問われる可能性があるため、市場実勢金利との比較や租税条約の適用なども考慮し、税務部門と連携して正確な翻訳と法的・税務的評価を行うべきです。
Q2: 「コベナンツ(Covenants)」の条項は、融資契約書の場合と比べて、貸付契約書ではどのように注意点が異なりますか?
A2: 貸付契約書におけるコベナンツも融資契約書と同様に重要ですが、特にグループ会社間貸付の場合、親会社としてのグループガバナンスと子会社の経営の自由度のバランスを考慮する必要があります。翻訳においては、財務比率の維持義務、追加借入の制限、配当制限、資産処分制限といったネガティブコベナンツが、子会社の事業運営に過度な負担とならないか、またグループ全体の財務戦略と整合しているかを詳細に確認し、正確に翻訳すべきです。これらのコベナンツ違反は期限の利益喪失につながり、グループ全体の財務健全性に影響を及ぼす可能性があります。
Q3: 国際的な貸付契約で、「担保・保証(Security / Collateral and Guarantee)」の取り扱いはどのように注意して翻訳すべきですか?
A3: 担保・保証は、貸付人の債権保全に直結する重要な条項です。翻訳においては、提供される担保の種類(不動産、動産、債権、株式など)、担保設定方法、担保の評価基準、設定手続きを精緻に表現することが極めて重要です。特に海外子会社や海外顧客への貸付で現地資産を担保とする場合、現地の担保法制、登記制度、債権回収制度が大きく異なるため、その国の法律専門家と連携し、翻訳された内容が現地の法慣行と整合しており、担保権が適切に設定・実行可能であるかを確認することが不可欠ですし、当社はこれまでの経験からこれを強く認識しています。
Q4: 「期限の利益喪失条項(Events of Default)」と「クロスデフォルト条項(Cross-Default Clause)」の翻訳で、特に注意すべき点は何ですか?
A4: これらの条項は、借入人が債務不履行に陥った場合に、貸付人が残債の一括返済を求める権利を定めます。翻訳においては、返済遅延、コベナンツ違反、表明保証違反などの直接的な事由に加え、他の債務の不履行(クロスデフォルト)や、破産手続開始、法的許可の失効といった間接的な事由も含む、多岐にわたる期限の利益喪失事由を慎重に翻訳することが不可欠です。特にクロスデフォルト条項は、グループ会社全体の財務状況に波及効果をもたらす可能性があるため、その適用範囲と影響を正確に把握し、注意深く翻訳する必要があります。
Q5: 貸付契約書で「準拠法と紛争解決(Governing Law and Dispute Resolution)」の条項が非常に重要と言われるのはなぜですか?
A5: 準拠法(Governing Law)は、契約の解釈・有効性・履行に適用される法律であり、紛争解決は問題発生時の解決プロセスを定めます。国際的な貸付契約では、異なる国の金融規制、会社法、倒産法などが絡むため、どの国の法律が契約全体に適用されるのか、特に債権回収や倒産手続きの際にどの国の法律が適用されるのかを明確に合意しておくことが不可欠です。また、紛争が生じた場合にどの国で、どのような方法(国際仲裁、調停、裁判など)で解決するのかを明確に合意しておくことが、予測可能性を高め、紛争解決のコストと時間を削減するために極めて重要ですし、自社にとって有利な条件を確保すべきです。翻訳においては、これらの条項を正確に理解し、現地の法律専門家と連携して最終確認を行うことが不可欠です。
まとめ
貸付契約書の翻訳は、単なる言語の変換に留まらず、企業がグローバルな事業活動を支える資金提供を円滑に行い、同時にグループ全体の財務ガバナンスとリスク管理を確実に実施するための極めて重要なプロセスです。
英文と和文の契約書が持つそれぞれの特徴を深く理解し、財務、経理、法務といった各部門が連携しながら、専門知識を持つ翻訳者の力を借りることが不可欠ですし、これまでの経験から当社はこれを強く認識しています。
特に、金利と源泉徴収税、コベナンツ、期限の利益喪失条項、クロスデフォルト条項、担保・保証、そして準拠法と紛争解決といった条項は、潜在的な法的・財務的リスクを最小限に抑え、グローバルな資金提供を成功させるための鍵となります。
当社は、このような複雑な貸付契約書の翻訳において、貴社の各部門のニーズを理解し、最高品質の翻訳とサポートを提供することをお約束します。貴社の海外ビジネスにおける貸付契約に関してご不明な点やご相談がありましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。
ご相談は無料です。いつでもお気軽にご連絡ください。
【無料】PDFダウンロード
一言に契約書といっても、業務委託契約書(Services Agreement)、独立請負人契約書(Independent Contractor Agreement)、秘密保持契約書(Non-Disclosure Agreement)、業務提携契約書(Business Partnership Agreement)など、様々なものがあり、契約の種類も多様化しています。
契約内容を正しく理解し、法的リスクを回避するには、適切な英訳が不可欠です。本記事では、契約書における基本用語の英訳50選をご紹介します。 >>PDFダウンロード(無料)
翻訳の発注に失敗しないためには、どうすればいいのか。
翻訳外注コストを抑えるには、どうすればいいのか。
これらの課題の解決策をお教えします。
翻訳発注に失敗しないためには、知らないではすまされない重要なポイント!
優れた翻訳会社ほど多忙で引く手あまたです。価格が相場に比べて格段に低い翻訳会社は、良心的なのか、それとも単に制作プロセスを簡単に済ませているだけなのかをよく見極めましょう。また、同じ翻訳会社でも、制作プロセス次第で翻訳料金は大きく上下します。希望するレベルを詳細に伝えることで、翻訳会社は最適なプロセスをデザインすることができます。 >>PDFダウンロード(無料)
契約書翻訳に役立つリンク集
・法務省大臣官房司法法制部「法令翻訳の手引き」(PDF)
・日本法令外国語訳推進会議「法令用語日英標準対訳辞書」(PDF)
・Publiclegal(英文契約書のテンプレートや書式を無料で提供)
・日本法令外国語訳データベースシステム(法務省が開設した日本の法令の英訳サイト)
・weblio 英和辞典・和英辞典
・英辞郎 on the web
契約書翻訳に関連する記事
・【2024年版】ビジネスで欠かせない「契約書翻訳」におすすめの8つのポイント
・契約書翻訳を依頼する際に知っておいていただきたいこと
・契約書の翻訳を外注するとき、特に注意すべき3点
・翻訳会社のプロの法律系翻訳者が選ぶ!契約書の英訳におすすめの書籍12選
・法律文書:AI翻訳時代における人力翻訳の価値とは?