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合弁契約書 翻訳:グローバルな事業提携の成功とリスク管理の要点と関係部門の役割

作成者: WIP japan|Jul. 10, 2025

 

今日のグローバル経済において、企業が新たな市場に進出したり、特定の技術やノウハウを獲得したり、あるいは大規模なプロジェクトを共同で推進したりする際には、合弁事業(Joint Venture, JV)の設立が非常に有効な戦略となります。合弁事業の法的基盤となるのが合弁契約書(Joint Venture Agreement)です。

この契約書は、合弁会社を設立する当事者(パートナー)間で、合弁会社の目的、設立方法、出資比率、資金計画、経営体制(取締役会構成など)、株主間の権利義務、利益配分、事業運営に関する意思決定プロセス、デッドロック条項、株式譲渡制限、競業避止義務、秘密保持義務、期限の利益喪失条項、終了条件、清算時の取り扱い、準拠法、紛争解決など、極めて詳細な条件を定めます。

その正確な翻訳は、合弁事業の目的達成、円滑な経営、パートナー間の協力関係の維持、法的リスクの回避、そして将来的な紛争の防止のために不可欠です。翻訳のミスや内容の理解不足は、予期せぬ経営権に関する紛争、デッドロックによる事業停滞、パートナー間の信頼関係の喪失、追加費用の発生、国際的な信用失墜、さらには高額な法的紛争へと発展するリスクをはらんでいます。

特に、国ごとに会社法、独占禁止法、外為法、税法、労働法、そして国際的な商慣習が大きく異なるため、単に言葉を置き換えるだけでなく、それぞれの法制度や合弁事業の特性に応じた法的・財務的・商業的なニュアンスを踏まえた上で契約内容を理解し、翻訳することが不可欠です。

本記事では、これまでの経験に基づき、合弁契約書の翻訳における重要なポイントと、貴社の各部門がどのように翻訳された契約書を活用し、関与していくべきかを具体的なケーススタディを交えて解説します。

貴社のグローバルビジネスにおいて、合弁契約の適切な理解と運用を通じて、国際的な事業提携を成功に導き、潜在的なリスクを効果的に管理するために、ぜひ本記事をお役立てください。

 

合弁契約書とは何か?その目的と国際ビジネスにおける重要性

合弁契約書(Joint Venture Agreement, JVA)とは、2つ以上の企業が共同で特定の事業を行うために新たな法人(多くの場合、株式会社)を設立し、または既存の法人に共同で出資し、その運営と利益を共有することを合意する法的拘束力のある文書です。当事者はそれぞれが持つリソース(技術、資金、市場チャネル、ブランドなど)を出し合い、シナジー効果を狙います。

国際ビジネスにおいて、合弁契約の対象となる取引は多岐にわたります。

  • 新興市場への参入: 現地パートナーの市場知識や販売網を活用。

  • 大規模プロジェクトの共同遂行: 資金や技術リスクの分散(例:インフラ建設、エネルギー開発)。

  • 特定の技術やノウハウの活用: 相互の技術やノウハウを組み合わせた新製品・サービス開発。

  • 規制の厳しい市場への対応: 外資規制など、単独では進出が困難な市場での事業展開。

この契約書は、以下の非常に多岐にわたる詳細な条項を含みます。

  • 合弁会社の目的と事業内容(Purpose and Business Activities of JV Company):設立する合弁会社の具体的な事業領域、目的、期間の明確化。

  • 設立と出資(Formation and Capital Contribution):合弁会社の設立方法(新設、既存会社の活用)、各当事者の出資比率、出資の種類(現金、現物出資:知的財産権、設備、技術、ノウハウなど)、出資の時期と方法。

  • 経営体制(Management Structure)

    • 取締役会構成(Board Composition):各当事者からの取締役派遣人数、議長選任、取締役会の権限。

    • 代表取締役またはCEOの選任(Appointment of CEO/President):選任方法、権限。

    • 重要事項の意思決定(Reserved Matters / Material Decisions):特定の重要事項(例:定款変更、増資、大規模投資、M&A、主要事業の変更など)に関する特別決議要件や、各当事者の同意を要する事項。

  • 株主間の権利義務(Shareholders' Rights and Obligations)

    • 情報開示権(Information Rights):各当事者への財務情報、事業情報開示の義務。

    • 配当政策(Dividend Policy):利益配分の原則。

    • 株主総会に関する事項(Shareholder Meeting Provisions)

  • 資金計画と財務(Funding and Finance):初期投資後の追加資金調達の必要性とその方法(株主からの追加出資、外部からの借入など)。

  • デッドロック条項(Deadlock Provisions):重要事項の意思決定において当事者間で意見が対立し、膠着状態に陥った場合の解決策(例:買収オプション、第三者への売却、清算など)。

  • 株式譲渡制限(Restrictions on Share Transfer):合弁会社株式の自由な譲渡を制限する条項(例:優先交渉権、共同売却権、共同売却請求権など)。

  • 競業避止義務(Non-Compete Clause):各当事者が合弁会社の事業と競合する事業を行わない義務。

  • 秘密保持義務(Confidentiality):契約内容や開示された機密情報の保護義務、ノウハウの保護。

  • 表明保証(Representations and Warranties):各当事者(または合弁会社)の財務状況、法的地位、事業、知的財産権、訴訟の有無などに関する事実の表明と、それらが真実かつ正確であることの保証。

  • 責任の制限と補償(Limitation of Liability and Indemnification):契約違反によって生じた損害に対する責任範囲、責任上限額、相手方への補償義務。

  • 契約期間と終了(Term and Termination):合弁契約の期間、自動更新の有無、更新条件、契約解除条件(重大な契約違反、破産手続開始、目的達成不能など)、終了後の清算手続き。

  • 準拠法と紛争解決(Governing Law and Dispute Resolution):契約に適用される法律、紛争が発生した場合の解決方法(裁判、国際仲裁、調停など)。

国際ビジネスにおいて合弁契約書が特に重要なのは、以下の理由からです。

  • 異なる法制度と規制: 各国の会社法、独占禁止法(ジョイントベンチャー規制)、外為法(外資規制)、税法、労働法などが適用されるため、これらの法制度の差異を契約書で適切に調整し、コンプライアンスを確保する必要があります。

  • 異なる文化とビジネス慣習: パートナー企業が異なる国や文化圏に属する場合、経営哲学、意思決定プロセス、リスクに対する考え方が異なるため、これらを契約書で明確に規定し、将来の摩擦を避ける必要があります。

  • デッドロックのリスク: 合弁事業では、当事者間の意見の対立により経営が停滞する「デッドロック」のリスクが高く、これをどのように解決するかを事前に明確に定めておくことが不可欠です。

  • 知的財産権の共有と管理: 各当事者が提供する知的財産権(特許、ノウハウなど)の取り扱い、合弁会社で生み出される知的財産権の帰属、終了後の利用権などを明確にする必要があります。

  • 資金の調達と管理: 初期出資だけでなく、事業運営中の追加資金調達が必要となる場合があり、その際の各当事者の義務や負担を明確にする必要があります。

  • 税務上の課題: 国境を越えた合弁事業では、各国の税法に基づき、利益配分、配当、親会社へのロイヤリティ・サービスフィーなどの税務処理が複雑になり、移転価格税制の適用なども考慮する必要があります。

  • 紛争解決: 合弁事業に関する紛争は、高額かつ複雑化しやすいため、国際的な契約では、紛争が発生した場合の解決方法(準拠法、仲裁など)を事前に明確にしておくことが、リスク管理上非常に重要ですし、当社はこれを強く認識しています。

英文合弁契約書の特徴と和文契約書との違い

国際的な合弁事業の設立では、多くの場合、英文で契約書が作成されます。その特徴は、日本の和文契約書とは異なる点がいくつかあります。

  • Detailed Purpose and Scope(目的と事業範囲の詳細化):

    • 合弁会社の具体的な事業内容、地理的範囲、期間が非常に明確に定義されます。これは、当事者間の競業避止義務や将来の事業拡張の自由度に影響するため、詳細な記述が求められます。

  • Complex Capital Contribution and Funding Mechanisms(複雑な出資と資金調達メカニズム):

    • 現金出資だけでなく、現物出資(知的財産権、設備、ブランド、営業秘密など)の評価方法と帰属、そして初期投資後の追加資金調達(増資、株主貸付など)の義務、方法、条件が詳細に規定されます。これは、和文契約書では簡略化されがちな部分です。

  • Elaborate Management and Governance Structures(精緻な経営・ガバナンス構造):

    • 取締役会の構成、各当事者からの取締役派遣人数、議長選任、取締役会の議決権行使方法、そして特に「重要事項(Reserved Matters / Material Decisions)」に関する特別決議要件や、各当事者の同意を要する事項が厳密に規定されます。これは、経営のコントロール権に直結する最も重要な部分の一つです。

  • Comprehensive Deadlock Provisions(包括的なデッドロック条項):

    • 当事者間の意見対立による経営の膠着状態(デッドロック)が発生した場合の解決策が非常に詳細に規定されます。これには、買収オプション(Buy-Out Option)、ロシアンドール方式(Russian Roulette)、テキサスシュートアウト方式(Texas Shoot-Out)、清算(Liquidation)、第三者への売却(Sale to Third Party)、調停・仲裁など、具体的な解決メカニズムとその手順が明記されます。

  • Extensive Share Transfer Restrictions and Exit Mechanisms(広範な株式譲渡制限と出口戦略):

    • 合弁会社株式の自由な譲渡を制限し、パートナーの交代を防ぐための条項が詳細に規定されます。これには、優先交渉権(Right of First Refusal)、共同売却権(Tag-Along Right)、共同売却請求権(Drag-Along Right)などが含まれ、それぞれの発動条件や手続きが厳密に定められます。また、将来的な出口戦略(IPO、M&Aによる売却)についても、その条件やプロセスが議論され、契約書に反映されます。

  • Intellectual Property Rights and Technology Transfer(知的財産権と技術移転)の明確化:

    • 各当事者が合弁会社に提供する既存の知的財産権の利用許諾条件、合弁会社で開発される新たな知的財産権の帰属、および合弁契約終了後の取り扱い(ライセンスバックなど)が詳細に規定されます。

  • Indemnification and Limitation of Liability(補償と責任の制限)の適用:

    • 契約違反や特定の事由によって生じた損害に対する補償義務や、損害賠償責任の上限額が明確に規定されます。

  • Representations and Warranties(表明保証)の詳細な記述:

    • 各当事者の財務状況、法的地位、事業、コンプライアンスに関する表明保証が広範にわたって記述され、その違反が契約解除や損害賠償の根拠となり得ます。

  • Governing Law and Dispute Resolution(準拠法と紛争解決)の指定:

    • 国際的な合弁契約では、特定の国の法律を準拠法とし(例:英国法、シンガポール法、ニューヨーク州法など)、国際仲裁を紛争解決手段として指定することが一般的です。仲裁地、仲裁機関、仲裁規則、仲裁人の数などが明確に定められます。

  • Tax Provisions(税務条項)の配慮:

    • 利益配分、配当、マネジメントフィー、ロイヤリティなどに関する税務上の取り扱い、源泉徴収税、移転価格税制への配慮が盛り込まれることがあります。

日本の和文合弁契約書に比べ、英文合弁契約書は、出資と資金調達メカニズム、精緻な経営・ガバナンス構造、包括的なデッドロック条項、広範な株式譲渡制限と出口戦略、そして知的財産権の取り扱いに関して、より詳細かつ厳密な記述が求められる傾向が強いです。翻訳においては、これらの法的・財務的・商業的ニュアンスを正確に反映した表現を用いることが不可欠です。

合弁契約書翻訳における重要ポイント

合弁契約書の翻訳は、貴社のグローバルな事業提携戦略、円滑な経営、潜在的なリスクヘッジに直接影響するため、極めて高い精度と専門性、そして法務・財務・経営企画・事業開発部門など多岐にわたる視点が求められます。以下のポイントを押さえることが、成功への鍵となります。

  1. 出資と資金計画(Capital Contribution and Funding)の厳密な翻訳:

    • 各当事者の出資比率、出資の種類(現金、現物出資:知的財産権、設備、ノウハウなど)、現物出資の評価方法、そして初期投資後の追加資金調達の義務、方法、条件を、曖昧さなく厳密に翻訳することが不可欠です。特に現物出資の評価と知的財産権の帰属は、将来的なトラブルの原因となりやすいため、慎重な翻訳が必要です。

  2. 経営体制(Management Structure)と重要事項の意思決定(Reserved Matters)の徹底的な翻訳:

    • 取締役会の構成、各当事者からの取締役派遣人数、取締役会の権限、そして特定の重要事項(例:定款変更、増資、大規模投資、M&Aなど)に関する特別決議要件や、各当事者の同意を要する事項を厳密に翻訳することが極めて重要ですし、当社はこれを強く認識しています。この条項は、経営のコントロール権とガバナンスに直結するため、翻訳ミスや内容の理解不足は、経営権に関する深刻な紛争やデッドロックにつながる可能性があります。

  3. デッドロック条項(Deadlock Provisions)の慎重な翻訳と理解:

    • 当事者間の意見対立による経営の膠着状態(デッドロック)が発生した場合の解決策(買収オプション、ロシアンドール方式、テキサスシュートアウト方式、清算、第三者への売却など)を慎重に翻訳することが不可欠です。これらの条項は、事業の継続性や終了条件に直接影響するため、その発動条件、手順、および各当事者の権利義務を正確に把握し、最悪のシナリオに備えるための翻訳精度が求められます。

  4. 株式譲渡制限(Restrictions on Share Transfer)と出口戦略(Exit Strategy)に関する条項の精緻な翻訳:

    • 合弁会社株式の自由な譲渡を制限する条項(優先交渉権、共同売却権、共同売却請求権など)と、将来の出口戦略(IPO、M&Aによる売却)に関する条項を精緻に翻訳することが極めて重要です。これらの条項は、パートナーの選定と維持、投資回収の確実性、そして将来的な事業売却の自由度に大きく影響します。

  5. 知的財産権(Intellectual Property Rights)の取り扱いと競業避止義務(Non-Compete)の明確化:

    • 各当事者が提供する既存の知的財産権の利用許諾条件、合弁会社で開発される新たな知的財産権の帰属、および合弁契約終了後の利用権を詳細に翻訳することが不可欠です。また、各当事者が合弁会社の事業と競合する事業を行わない競業避止義務の範囲、期間、地理的制限を明確に翻訳すべきです。これらは、合弁事業の競争優位性と将来的な収益に直結する重要な条項です。

  6. 税務関連条項(Tax Provisions)の配慮と正確な翻訳:

    • 国際的な合弁事業では、利益配分、配当、マネジメントフィー、ロイヤリティなどに関する各国の税務上の取り扱い、源泉徴収税、移転価格税制が複雑に絡み合います。翻訳においては、これらの税務上の影響を考慮し、税務部門や外部の税務専門家と連携して、予期せぬ税務コストを回避するための正確な翻訳と法的・税務的評価を行うべきです。

    • 当社は、このような国際税務に関する条項の正確な翻訳を特に重視しています。

  7. 表明保証(Representations and Warranties)の正確な翻訳とリスク評価:

    • 各当事者の財務状況、法的地位、事業、コンプライアンスに関する表明保証条項を正確に翻訳することが極めて重要です。表明保証違反は、損害賠償請求や契約解除につながる可能性があるため、法務部門と連携し、リスクを正確に評価するための翻訳精度が求められます。

  8. 準拠法と紛争解決(Governing Law and Dispute Resolution):

    • 契約に適用される法律、そして紛争が発生した場合の解決方法(国際仲裁、調停、裁判など)、仲裁地の選定、仲裁機関、仲裁規則、仲裁人の数、仲裁判断の拘束力などを正確に翻訳することが不可欠です。国際的な合弁事業では、異なる国の法制度が複雑に絡むため、自社にとって有利な準拠法や紛争解決地を指定することが戦略上重要であり、その内容を正確に把握すべきです。

  9. AI翻訳の適切な活用と専門家による最終確認:
    AI翻訳技術は、初稿の作成や用語の統一に役立ちますが、合弁契約書のような法的・財務的に極めて複雑な文書においては、法的ニュアンス、各国の会社法・独占禁止法・税法、業界特有の専門用語を完全に理解することは困難です。AIを効率化ツールとして最大限活用しつつも、法務知識、財務・会計に関する専門知識、および国際事業開発の実務経験を持つ専門の翻訳者による徹底したレビューと校正が不可欠です。人間による精査が、潜在的なリスクを最小限に抑え、安全な国際取引の基盤となります。

  10. 強固な情報セキュリティ体制:
    合弁契約書には、貴社の事業戦略、技術情報、財務情報など、企業の競争力や事業の成否に直結する極めて機密性の高い情報が含まれることが一般的です。これらの情報が外部に漏洩した場合、企業の競争力低下、信用失墜、法的な責任問題など、甚大な損害を被る可能性があります。そのため、翻訳を依頼する際には、翻訳会社が厳格な情報セキュリティポリシーを定め、技術的・物理的・人的な対策を徹底しているかを必ず確認すべきですし、当社はこれを徹底しています。

 

合弁契約書の翻訳は誰に必要なのか?ケーススタディで見る関係部門の役割

合弁契約書は、グローバルな事業提携の成功とリスク管理を左右するため、多岐にわたる部門や関係者がその内容を理解し、翻訳された情報に基づいて連携することが不可欠です。

 

ケーススタディ1:日本の製造業と現地企業による海外市場進出のための合弁会社設立

 

状況: 日本の自動車部品メーカーが、インドネシア市場での生産・販売拡大のため、現地の有力企業と共同で合弁会社を設立するケース。英文の合弁契約書を締結。

  • 事業開発部/経営企画部:

    • 必要性: 合弁会社の目的(生産・販売)、各当事者の出資比率、資金計画、経営体制(取締役会構成、重要事項の意思決定プロセス)、事業計画の達成可能性を詳細に確認します。現地市場での競争力強化と収益貢献に直結する内容です。

    • ケース: 契約書に記載された「合弁会社の生産・販売目標と市場シェア」、「各当事者からの取締役派遣人数とその権限」、「工場設立に必要な追加資金調達の義務と方法」を和訳で確認し、事業戦略とパートナーシップの価値を評価します。過去には、意思決定プロセスに関する翻訳が曖昧だったため、重要な投資判断でデッドロックに陥った事例がありました。当社は、このような経営・ガバナンスに関する条項の正確な翻訳を特に重視しています。

  • 法務部/国際取引部:

    • 必要性: 契約全体の法的妥当性、各当事者の表明保証、コベナンツ、デッドロック条項、株式譲渡制限、競業避止義務、知的財産権の帰属と利用許諾、準拠法(インドネシア法またはシンガポール法)、紛争解決条項の適切性を確認します。インドネシアの外資規制、会社法、独占禁止法への対応が求められます。

    • ケース: 契約書に記載された「合弁会社で開発される新たな生産技術に関する知的財産権の帰属と利用権」、「当事者間の競業避止義務の範囲と期間」、「デッドロックが発生した場合のロシアンドール方式による解決手続き」を和訳で確認し、法的リスクと権利保護を評価します。

  • 財務部/経理部:

    • 必要性: 各当事者の出資額、資金計画、配当政策、貸付・保証の有無、インドネシアでの税務処理(法人税、源泉徴収税、移転価格税制など)を確認します。キャッシュフロー、連結決算、税務戦略への影響を評価します。

    • ケース: 契約書に記載された「各当事者の出資スケジュールと出資方法」、「合弁会社の利益配当に関する政策と税務上の取り扱い」、「親会社からの技術指導料に関する移転価格税制への配慮」を和訳で確認し、財務インパクトと税務リスクを管理します。

 

ケーススタディ2:日本のIT企業と欧米企業による新技術開発のための合弁事業設立

 

状況: 日本のソフトウェア開発企業が、米国のクラウドサービス企業、ドイツのAI技術企業と共同で、次世代のAIを活用したSaaSプロダクト開発のための合弁会社を設立するケース。英文の合弁契約書を締結。

  • 研究開発部/技術開発部:

    • 必要性: 各当事者が合弁会社に提供する既存技術やノウハウの範囲、合弁会社で開発される新たな技術の知的財産権の帰属、技術協力の範囲と責任分担を詳細に確認します。

    • ケース: 契約書に記載された「各当事者からの既存ソフトウェア、AIアルゴリズムの利用許諾条件」、「合弁会社で開発されるソースコードと特許の帰属」、「共同開発における各当事者の技術者派遣義務と貢献度に応じた知的財産権の共有」を和訳で確認し、技術戦略とR&D計画を評価します。

  • 法務部/知的財産部:

    • 必要性: 契約全体の法的妥当性、各当事者の表明保証、コベナンツ、デッドロック条項、特に知的財産権の創出・帰属・利用に関する条項、秘密保持義務、ソフトウェアのライセンス条項、準拠法(デラウェア州法またはシンガポール法)、紛争解決条項の適切性を確認します。複数国の知的財産法、独占禁止法への対応が求められます。

    • ケース: 契約書に記載された「合弁事業終了後の各当事者による共同開発技術の利用権」、「秘密保持義務の範囲と違反時のペナルティ」、「デッドロック発生時の株式売却オプションの適用」を和訳で確認し、法的リスクと知財戦略を評価します。

  • 経営企画部/事業開発部:

    • 必要性: 合弁会社の事業目的、市場戦略、競争環境、将来的な収益性、Exit戦略(IPO、M&A)が自社の企業戦略と合致しているかを確認します。

    • ケース: 契約書に記載された「合弁会社がターゲットとする市場とプロダクトの定義」、「将来のExitに関する共同売却権と共同売却請求権の発動条件」、「各当事者間の競業避止義務の範囲と期間」を和訳で確認し、事業シナジーとExitの可能性を評価します。

よくある質問(FAQ)

合弁契約書の翻訳に関して、お客様からよくいただくご質問とその回答をまとめました。

Q1: 合弁契約書における「経営体制(Management Structure)と重要事項の意思決定(Reserved Matters)」の条項は、翻訳でどのように注意すべきですか?

A1: これらの条項は、合弁会社の経営における当事者間のコントロール権と意思決定のプロセスを定める最も重要な部分です。翻訳においては、取締役会の構成、各当事者からの取締役派遣人数、議長選任、議決権行使方法を正確に表現することはもちろん、特定の重要事項(例:定款変更、増資、大規模投資、M&A、主要事業の変更など)に関する特別決議要件や、各当事者の同意を要する事項を詳細かつ厳密に翻訳することが不可欠です。これらの条項の翻訳ミスや内容の理解不足は、経営権に関する深刻な紛争や、事業運営の停滞(デッドロック)に直結するため、細心の注意が必要です。

 

Q2: 「デッドロック条項(Deadlock Provisions)」の翻訳で、特に注意すべき点は何ですか?

A2: デッドロック条項は、当事者間の意見対立により経営が膠着状態に陥った場合の解決策を定めます。翻訳においては、デッドロックの定義(どのような場合にデッドロックと見なされるか)、具体的な解決メカニズム(例:買収オプション、ロシアンドール方式、テキサスシュートアウト方式、清算、第三者への売却など)、その発動条件、手順、価格決定方法、そして各当事者の権利義務を正確に表現することが極めて重要です。これらの条項は、合弁事業の継続性や終了条件に直接影響し、当事者の経済的利益に重大な影響を与えるため、その複雑な法的・商業的ニュアンスを完全に捉えた翻訳が求められます。

 

Q3: 国際的な合弁契約で、「知的財産権(Intellectual Property Rights)の取り扱い」はなぜ重要視されますか?

A3: 合弁事業では、各当事者が自身の持つ技術やノウハウを提供し、また合弁会社を通じて新たな知的財産権が生み出されることが一般的です。翻訳においては、各当事者が提供する既存の知的財産権の利用許諾条件、合弁会社で開発される新たな知的財産権の帰属、および合弁契約終了後の利用権(ライセンスバックなど)を詳細かつ正確に表現することが不可欠です。不明確な記述は、将来の知的財産権に関する紛争や、事業終了後の技術利用制限につながる可能性があります。

 

Q4: 合弁契約における「株式譲渡制限(Restrictions on Share Transfer)と出口戦略(Exit Strategy)」の取り扱いは、どのように注意して翻訳すべきですか?

A4: これらの条項は、パートナーの選定と維持、そして将来の投資回収(Exit)に直結する重要な部分です。翻訳においては、合弁会社株式の自由な譲渡を制限する条項(例:優先交渉権、共同売却権、共同売却請求権など)の適用条件と手順、そして将来の出口戦略(IPO、M&Aによる売却)に関する具体的な条件、プロセス、および他の株主の義務(例:共同売却請求権の発動義務)を明確に表現することが重要ですし、当社はこれを強く認識しています。これらの条項の翻訳ミスや内容の理解不足は、パートナーシップの安定性、株式の流動性、または期待するExitの実現に重大な影響を与える可能性があります。

 

Q5: 合弁契約書で「準拠法と紛争解決(Governing Law and Dispute Resolution)」の条項が非常に重要と言われるのはなぜですか?

A5: 準拠法(Governing Law)は、契約の解釈・有効性・履行に適用される法律であり、紛争解決は問題発生時の解決プロセスを定めます。国際的な合弁事業では、異なる国の会社法、独占禁止法、税法などが絡むため、どの国の法律が契約全体に適用されるのか、特に合弁会社の設立・運営、株主間の権利義務、事業終了時の清算手続きにおいてどの国の法律が適用されるのかを明確に合意しておくことが不可欠です。また、紛争が生じた場合にどの国で、どのような方法(国際仲裁、調停、裁判など)で解決するのかを明確に合意しておくことが、予測可能性を高め、紛争解決のコストと時間を削減するために極めて重要ですし、自社にとって有利な条件を確保すべきです。翻訳においては、これらの条項を正確に理解し、必要に応じて現地の法律専門家と連携して最終確認を行うことが不可欠です。

 

まとめ

合弁契約書の翻訳は、単なる言語の変換に留まらず、企業がグローバルな事業提携を成功させ、新たな市場や技術を獲得し、同時にパートナー間の協力関係と事業の安定性を確保するための極めて重要なプロセスです。

英文と和文の契約書が持つそれぞれの特徴を深く理解し、経営企画、事業開発、法務、財務、研究開発といった各部門が連携しながら、専門知識を持つ翻訳者の力を借りることが不可欠ですし、これまでの経験から当社はこれを強く認識しています。

特に、出資と資金計画、経営体制と重要事項の意思決定、デッドロック条項、株式譲渡制限と出口戦略、知的財産権の取り扱い、そして準拠法と紛争解決といった条項は、潜在的な法的・財務的リスクを最小限に抑え、グローバルな合弁事業を成功させるための鍵となります。

 

当社は、このような複雑な合弁契約書の翻訳において、貴社の各部門のニーズを理解し、最高品質の翻訳とサポートを提供することをお約束します。貴社の海外ビジネスにおける合弁契約に関してご不明な点やご相談がありましたら、ぜひお気軽にお気軽にお問い合わせください。

 

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契約書翻訳に役立つリンク集

法務省大臣官房司法法制部「法令翻訳の手引き」(PDF)
日本法令外国語訳推進会議「法令用語日英標準対訳辞書」(PDF)
Publiclegal(英文契約書のテンプレートや書式を無料で提供)
日本法令外国語訳データベースシステム(法務省が開設した日本の法令の英訳サイト)
weblio 英和辞典・和英辞典
英辞郎 on the web

 

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