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共同開発契約書 翻訳:グローバルなイノベーションと知的財産権保護の要点と関係部門の役割|翻訳会社WIPジャパン

作成者: WIP japan|Jul. 09, 2025

 

今日の競争が激しいグローバル市場において、単独での研究開発には限界があり、複数の企業や組織がそれぞれの技術、知識、リソースを持ち寄って新たな製品、サービス、技術を創造する共同開発(Joint Development / Collaborative Development)は、イノベーションを加速させる強力な手段となっています。このような共同開発を円滑に進めるためには、開発の目的、役割分担、費用負担、成果物の取り扱い、そして最も重要な知的財産権の取り決めを明確に定めた共同開発契約書(Joint Development Agreement - JDA)の締結が不可欠です。

この契約書は、開発目標、プロジェクト計画、秘密保持、共同開発成果物(共同特許、共同著作物など)の権利帰属、利用条件、ロイヤリティ、保証と免責、準拠法、紛争解決など、極めて詳細な条件を定めます。その正確な翻訳は、プロジェクトの成功、知的財産権の確実な保護、収益の確保、法的リスクの回避、そして将来的な紛争の防止のために不可欠です。翻訳のミスや内容の理解不足は、知的財産権の帰属争い、無許諾利用、期待収益の喪失、追加費用の発生、国際的な信用失墜、さらには高額な法的紛争へと発展するリスクをはらんでいます。

特に、国ごとに知的財産権法(特許法、著作権法、不正競争防止法など)、競争法、輸出管理規制、税法、そして国際的な商慣習が大きく異なるため、単に言葉を置き換えるだけでなく、それぞれの法制度や共同開発の性質に応じた法的・技術的・商業的なニュアンスを踏まえた上で契約内容を理解し、翻訳することが不可欠です。

本記事では、これまでの経験に基づき、共同開発契約書(知的財産権の取り決めを含む場合)の翻訳における重要なポイントと、貴社の各部門がどのように翻訳された契約書を活用し、関与していくべきかを具体的なケーススタディを交えて解説します。

貴社の海外ビジネスにおいて、共同開発契約の適切な理解と運用を通じて、グローバルなイノベーションを成功に導き、大切な知的財産権を確実に保護するために、ぜひ本記事をお役立てください。

 

共同開発契約書とは何か?その目的と国際ビジネスにおける重要性

共同開発契約書(Joint Development Agreement - JDA)とは、2つ以上の当事者(企業、研究機関など)が、特定の目的のために協力して研究開発活動を行い、その成果や費用、知的財産権などを取り決める際に締結される契約です。

国際ビジネスにおいて、共同開発契約の対象となる分野は多岐にわたります。

  • 新技術開発: AI、IoT、バイオテクノロジー、新素材、クリーンエネルギーなど

  • 新製品・サービス開発: 自動車、医療機器、ソフトウェア、デジタルプラットフォームなど

  • 標準化技術の開発: 業界標準となる技術やプロトコル

この契約書は、特に知的財産権に関する非常に多岐にわたる詳細な条項を含みます。

  • 共同開発の目的と範囲(Purpose and Scope of Joint Development):開発する技術、製品、サービスの具体的な目標、プロジェクトの期間、段階。

  • 役割分担と責任(Roles and Responsibilities):各当事者の貢献(技術、人材、資金、設備など)、担当範囲、意思決定プロセス、プロジェクト管理体制。

  • 費用負担(Cost Sharing):開発にかかる費用の分担方法、支払いスケジュール、予期せぬ費用発生時の対応。

  • 背景技術(Background Intellectual Property - Background IP):共同開発開始前から各当事者が保有している知的財産権の特定、および共同開発におけるその利用許諾条件。

  • 共同開発成果物(Jointly Developed Intellectual Property - Foreground IP):共同開発の結果として新たに生み出される知的財産権(特許、著作権、ノウハウ、デザインなど)の特定。

  • 知的財産権の帰属(Ownership of Intellectual Property Rights):共同開発成果物の知的財産権が、単独で発生した場合(開発者が単独で生み出したもの)と共同で発生した場合(複数の開発者が協力して生み出したもの)に、それぞれ誰に帰属するのか(共有、どちらか一方への譲渡など)を明確に規定。

  • 知的財産権の利用とライセンス(Use and Licensing of Intellectual Property):共同開発成果物の知的財産権を、各当事者がどのように利用できるか(自社利用、第三者へのライセンス供与、独占的・非独占的利用など)、ライセンス供与の場合の条件(ロイヤリティ、サブライセンスの可否など)。

  • 秘密保持義務(Confidentiality):共同開発を通じて知り得た技術情報、ノウハウ、ビジネス情報などの機密情報の保護義務、開示範囲。

  • 保証と免責(Warranties and Disclaimers):開発成果物の機能、性能に関する保証、第三者の権利を侵害しないことの保証、利用に関する免責事項。

  • 輸出管理規制(Export Control Regulations):開発される技術や成果物が輸出管理規制の対象となる場合の遵守義務、再輸出の制限。

  • 責任の制限と補償(Limitation of Liability and Indemnification):契約違反や開発成果物の利用によって生じた損害に対する責任範囲、責任上限額、相手方への補償義務。

  • 契約期間と終了(Term and Termination):契約期間、自動更新の有無、更新条件、契約解除条件(違反、開発目標未達など)、解除後の知的財産権、秘密情報の取り扱い。

  • 準拠法と紛争解決(Governing Law and Dispute Resolution):契約に適用される法律、紛争が発生した場合の解決方法(裁判、国際仲裁、調停など)。

国際ビジネスにおいて共同開発契約書が特に重要なのは、以下の理由からです。

  • 知的財産権の属地主義と国際条約: 知的財産権は国ごとに独立して発生・保護される属地主義が原則です。特許、著作権、商標などは国際条約によって相互保護されるものの、具体的な権利内容や侵害判断は各国の法律に依存するため、契約書で共同開発成果物の権利帰属、利用地域、準拠法をどう定めるかが極めて重要です。

  • ノウハウの共有と保護: 共同開発では、当事者間の技術やノウハウが共有されます。これらが適切に保護されない場合、競争優位性の喪失につながるため、秘密保持義務の徹底と、ノウハウの利用範囲の明確化が不可欠です。

  • 競争法への配慮: 共同開発の形態や成果物の利用方法によっては、独占禁止法や競争法に抵触する可能性があります。特に市場支配的地位を持つ企業間の共同開発では、この点に留意し、法的リスクを評価する必要があります。

  • 輸出管理規制: 開発される技術や成果物が、国際的な輸出管理規制(軍事転用可能技術など)の対象となる場合があります。契約書でこれらの規制遵守を義務付け、再輸出の制限などを定める必要があります。

  • 税務処理の複雑さ: 国境を越えた共同開発費用の分担や、成果物の利用から生じるロイヤリティの支払いには、源泉徴収税やVAT/GSTなどの税務処理が伴うため、契約書でその責任を明確にする必要があります。

  • 紛争解決: 知的財産権に関する紛争は複雑化・長期化しやすいため、国際的な契約では、紛争が発生した場合の解決方法(準拠法、仲裁など)を事前に明確にしておくことが、リスク管理上非常に重要ですし、当社はこれを強く認識しています。

英文共同開発契約書の特徴と和文契約書との違い

国際的な共同開発プロジェクトでは、多くの場合、英文で契約書が作成されます。その特徴は、日本の和文契約書とは異なる点がいくつかあります。

  • Detailed Definitions of IP(知的財産権に関する詳細な定義):

    • Background IP(背景知的財産): 共同開発開始前から各当事者が保有する知的財産。その利用許諾範囲(共同開発目的のみ、非独占的、無償など)が厳密に定義されます。

    • Foreground IP / Jointly Developed IP(共同開発成果知的財産): 共同開発の結果として新たに生み出される知的財産。これらが、単独で発明されたもの(Sole IP)か共同で発明されたもの(Joint IP)かによって権利帰属や利用条件が異なります。

  • Clear Ownership and Licensing Scheme(明確な権利帰属とライセンススキーム):

    • 共同開発成果物の知的財産権が、共有(Joint Ownership)、またはどちらか一方への帰属(Sole Ownership)となるか、その割合や条件が非常に具体的に規定されます。特に共有の場合、各共有者が単独で利用・ライセンス供与できるか(または相手方の同意が必要か)、ロイヤリティの分配、第三者への侵害対応などが細かく定められます。

    • 日本の民法における共有規定とは異なる海外の概念(例えば、米国では共有特許権者は原則として相手の同意なしに利用・ライセンス可能)があるため、注意が必要です。

  • Comprehensive Representations and Warranties(包括的な表明と保証):

    • 各当事者が提供する背景IPが第三者の権利を侵害しないこと、開発能力を有すること、関連法令を遵守することなどが詳細に表明・保証されます。

  • Indemnification and Limitation of Liability(補償と責任の制限)の適用:

    • 知的財産権侵害、秘密保持義務違反、契約違反などによって生じた損害に対する補償義務や、損害賠償責任の上限額が明確に規定されます。特に知的財産権が絡む共同開発では、この条項が極めて重要です。

  • Confidentiality and Publication(秘密保持と公表)の厳格な規定:

    • 共同開発を通じて得られた技術情報、ノウハウ、ビジネス情報などの機密情報の保護義務、開示範囲、契約終了後の秘密保持期間が厳格に定められます。また、研究成果の公表(学術論文発表、プレスリリースなど)に関する事前承認プロセスも詳細に規定されます。

  • Export Control and Sanctions(輸出管理と経済制裁)の明記:

    • 開発される技術や成果物が輸出管理規制の対象となる場合、関連法規(米国のEARなど)の遵守義務、特定の国や団体への輸出・再輸出の制限、経済制裁対象者との取引禁止などが明記されます。

  • Dispute Resolution for IP Matters(知的財産権問題における紛争解決):

    • 知的財産権に関する紛争は、通常の契約紛争とは異なる専門的な知識を要するため、特定の仲裁機関(例:WIPO Arbitration and Mediation Center)や専門家による調停・仲裁を優先する条項が設けられることがあります。

  • Governing Law and Jurisdiction(準拠法と裁判管轄)の指定:

    • 国際的な共同開発契約では、特定の国の法律を準拠法とし、特定の裁判所を紛争解決の管轄裁判所とすることが明記されます。仲裁条項が設けられることもあります。

日本の和文共同開発契約書に比べ、英文共同開発契約書は、知的財産権の帰属と利用に関する詳細な定義とスキーム、品質保証、輸出管理、そして国際的な準拠法・紛争解決メカニズムに関して、より詳細かつ厳密な記述が求められる傾向が強いです。翻訳においては、これらの技術的・法的ニュアンスを正確に反映した表現を用いることが不可欠です。

 

共同開発契約書翻訳における重要ポイント(知的財産権の取り決めを含む)

共同開発契約書(知的財産権の取り決めを含む場合)の翻訳は、貴社のグローバルなイノベーション戦略、知的財産権保護、競争優位性の確保、そして法的リスク管理に直接影響するため、極めて高い精度と専門性、そして法務・研究開発・事業開発・知財部門・経理部門など多岐にわたる視点が求められます。以下のポイントを押さえることが、成功への鍵となります。

  1. 背景知的財産(Background IP)の明確な特定と利用許諾の厳密な翻訳

    • 共同開発開始前から各当事者が保有する知的財産(特許、ノウハウ、著作権など)を具体的に特定し、共同開発の目的のためにそれをどのように利用できるか(利用範囲、期間、無償・有償など)を正確に翻訳することが不可欠です。不正確な翻訳は、無許諾利用や権利侵害のリスクを生じさせます。

  2. 共同開発成果物(Foreground IP)の知的財産権帰属の明確化と利用条件の翻訳

    • 共同開発の結果として新たに生み出される特許、著作権、ノウハウ、デザインなどの知的財産権が、単独で発生した場合と共同で発生した場合に、それぞれ誰に帰属するのか(共有、どちらか一方への譲渡など)、その割合や条件を厳密に翻訳することが極めて重要です。特に、共有知的財産権の利用条件(各共有者が単独で利用・ライセンス供与できるか、相手方の同意が必要か、ロイヤリティの分配、第三者への侵害対応など)を詳細かつ正確に翻訳することが不可欠です。ここでの曖昧さは、将来的な権利帰属争いや収益喪失に直結します。

  3. 秘密保持義務(Confidentiality)と公表(Publication)に関する条項の徹底的な翻訳

    • 共同開発を通じて知り得た技術情報、ノウハウ、ビジネス情報などの機密情報の保護義務、開示範囲、契約終了後の秘密保持期間を厳格に翻訳することが不可欠です。また、研究成果の公表(学術論文発表、プレスリリースなど)に関する事前承認プロセスについても正確に翻訳し、自社のブランド戦略や知財戦略との整合性を図る必要があります。

  4. 保証と免責(Warranties and Disclaimers)、責任制限(Limitation of Liability)と補償(Indemnification)に関する条項の慎重な翻訳

    • 共同開発成果物の機能、性能に関する保証、第三者の知的財産権を侵害しないことの保証、そして利用に関する免責事項、契約違反や開発成果物の利用によって生じた損害に対する責任範囲と上限額を慎重に翻訳することが不可欠です。これらの条項は、将来的な訴訟リスクと費用負担に直接影響するため、法務部門と連携して内容を精査する必要があります。

  5. 輸出管理規制(Export Control Regulations)に関する条項の確認

    • 共同開発される技術や成果物が、国際的な輸出管理規制の対象となる場合、関連法規(米国のEAR、日本の外国為替及び外国貿易法など)の遵守義務、特定の国や団体への輸出・再輸出の制限などが明記されているか確認し、正確に翻訳する必要があります。違反した場合、罰則の対象となる可能性があるため、注意が必要です。

    • 当社は、このような国際法規に関する条項の正確な翻訳を特に重視しています。

  6. 費用負担(Cost Sharing)と税務処理の明確化

    • 共同開発にかかる費用の分担方法、支払いスケジュール、予期せぬ費用発生時の対応、そして国境を越えた支払いにおける源泉徴収税やVAT/GST(付加価値税/サービス税)などの税務上の取り扱いを正確に翻訳することが不可欠です。不正確な翻訳は、予期せぬコストや法的な問題を引き起こす可能性があります。

  7. 契約期間と終了(Term and Termination)、終了後の義務の明確な翻訳

    • 契約期間、自動更新の有無、更新条件、契約解除条件(違反、開発目標未達など)、通知期間を正確に翻訳します。特に、契約終了後の知的財産権の取り扱い、秘密情報の保護義務、成果物の利用に関する義務を明確に翻訳することが重要です。

  8. 準拠法と紛争解決(Governing Law and Dispute Resolution)

    • 契約に適用される法律、そして紛争が発生した場合の解決方法(国際仲裁、調停、裁判など)、仲裁地の選定、仲裁機関、仲裁規則、仲裁人の数、仲裁判断の拘束力などを正確に翻訳することが不可欠です。国際取引では、自社にとって有利な準拠法や紛争解決地を指定することが戦略上重要であり、その内容を正確に把握すべきです。

  9. AI翻訳の適切な活用と専門家による最終確認

    AI翻訳技術は、初稿の作成や用語の統一に役立ちますが、共同開発契約書のような技術的・法的・専門的に極めて複雑な文書、特に知的財産権の帰属、利用条件、輸出管理規制、責任制限といった条項においては、法的ニュアンス、各国の法規制、業界特有の専門用語を完全に理解することは困難です。AIを効率化ツールとして最大限活用しつつも、法務知識、知的財産権に関する専門知識、研究開発の実務経験、および国際商取引の実務経験を持つ専門の翻訳者による徹底したレビューと校正が不可欠です。人間による精査が、潜在的なリスクを最小限に抑え、安全な国際取引の基盤となります。

  10. 強固な情報セキュリティ体制

    共同開発契約書には、貴社の最先端技術、研究開発計画、ビジネス戦略など、企業の競争力や事業の成否に直結する極めて機密性の高い情報が含まれることが一般的です。これらの情報が外部に漏洩した場合、企業の競争力低下、信用失墜、法的な責任問題など、甚大な損害を被る可能性があります。そのため、翻訳を依頼する際には、翻訳会社が厳格な情報セキュリティポリシーを定め、技術的・物理的・人的な対策を徹底しているかを必ず確認すべきですし、当社はこれを徹底しています。

 

共同開発契約書(知的財産権の取り決めを含む場合)の翻訳は誰に必要なのか?ケーススタディで見る関係部門の役割

共同開発契約書は、グローバルなイノベーションと知的財産権保護を左右するため、多岐にわたる部門や関係者がその内容を理解し、翻訳された情報に基づいて連携することが不可欠です。

 

ケーススタディ1:次世代AI技術の共同開発(日本のテクノロジー企業と米国の大学)

 

状況: 日本のテクノロジー企業が、次世代AI技術の開発を目指し、米国の著名な大学と英文の共同開発契約を締結するケース。知的財産権の取り決めが焦点。

  • 研究開発部/技術開発部:

    • 必要性: 共同開発の目的、範囲、各当事者の役割分担、技術仕様、開発スケジュール、成果物の技術的要件などを詳細に確認します。開発の実行可能性と技術的目標達成に直結する内容です。

    • ケース: 契約書に記載された「開発対象となるAIアルゴリズムの機能と性能目標」、「各フェーズでの技術的なマイルストーン」、「企業が提供するデータセットの範囲と利用条件」を和訳で確認し、研究計画と資源配分を評価します。

  • 知的財産部/法務部:

    • 必要性: 契約全体の法的妥当性、リスク管理、特に背景知的財産の特定と利用許諾、共同開発成果物(共同特許、ノウハウなど)の権利帰属(共有割合、利用条件)、秘密保持義務、パブリケーションポリシー、輸出管理規制、責任制限、準拠法、紛争解決条項の適切性を確認します。知的財産戦略と密接に関わります。

    • ケース: 契約書に記載された「共同開発成果から生じる特許の共有持ち分と各当事者による単独実施・ライセンス供与の可否」、「ノウハウの帰属と秘密保持期間」、「米国の輸出管理規制(EAR)への遵守義務」を和訳で確認し、知財戦略と法的リスクを評価します。過去には、共同特許の利用条件に関する翻訳が曖昧だったため、相手方が無断で第三者にライセンス供与し、収益機会を喪失した事例がありました。当社は、このような知的財産権に関する条項の正確な翻訳を特に重視しています。

  • 事業開発部:

    • 必要性: 共同開発成果の商業化戦略、ライセンス供与の可能性、市場投入計画などを確認します。事業としての実現可能性と収益性評価に直結します。

    • ケース: 契約書に記載された「開発成果物の商業利用におけるロイヤリティ分配率」、「共同開発成果を活用した新製品の市場投入計画に関する協議義務」を和訳で確認し、事業計画と将来的な収益モデルを評価します。

 

ケーススタディ2:新薬開発における共同研究契約(日本の製薬企業と欧州の研究機関)

 

状況: 日本の製薬企業が、特定疾患の新薬開発のため、欧州の研究機関と英文の共同研究契約(共同開発契約の一種)を締結するケース。

  • 研究開発部/臨床開発部:

    • 必要性: 研究対象の化合物、研究プロトコル、各段階での成果目標、動物実験や臨床試験の実施計画、安全性評価などを詳細に確認します。研究の科学的妥当性と倫理的配慮に直結する内容です。

    • ケース: 契約書に記載された「共同研究のフェーズと評価項目」、「治験データ共有の範囲」、「各当事者が負担する研究費の内訳」を和訳で確認し、研究計画と進捗管理を評価します。

  • 知的財産部/法務部:

    • 必要性: 契約全体の法的妥当性、リスク管理、特に研究開始前の既存特許の取り扱い、共同研究から生じる新発明(特許、ノウハウ)の権利帰属、共同出願の条件、秘密保持義務、治験データの共有と利用、成果の公表方針、責任制限、準拠法(英国法)、紛争解決条項の適切性を確認します。

    • ケース: 契約書に記載された「新発明が共有特許となる場合の共有者間の権利関係」、「研究機関が研究成果を学術発表する際の事前承認プロセス」、「英国における紛争解決の仲裁条項」を和訳で確認し、知財戦略と法的リスクを評価します。

  • 経理部/財務部:

    • 必要性: 研究費の分担、支払いスケジュール、支払い通貨、海外への支払いにおける源泉徴収税の取り扱いなどを確認し、適切な会計処理と資金計画を行います。

    • ケース: 契約書に記載された「共同研究費用における企業と研究機関の分担比率」、「マイルストーン達成に応じた費用支払い」を和訳で確認し、キャッシュフローと予算管理を評価します。

よくある質問(FAQ)

共同開発契約書(知的財産権の取り決めを含む場合)の翻訳に関して、お客様からよくいただくご質問とその回答をまとめました。

Q1: 共同開発契約書における「知的財産権の帰属(Ownership of Intellectual Property Rights)」の条項は、翻訳でどのように注意すべきですか? A1: この条項は、共同開発契約の最も重要な核となる部分であり、極めて厳密な翻訳と理解が求められます。翻訳においては、共同開発開始前の「背景知的財産(Background IP)」の利用許諾範囲、そして共同開発の結果として新たに生み出される「共同開発成果物(Foreground IP)」の知的財産権(特許、著作権、ノウハウなど)が、単独で発生した場合と共同で発生した場合に、それぞれ誰に帰属するのか(共有、どちらか一方への譲渡など)、その割合や条件を曖昧さなく正確に表現することが不可欠です。特に、共有知的財産権の場合、各共有者が単独で利用・ライセンス供与できるか(または相手方の同意が必要か)、ロイヤリティの分配、第三者への侵害対応なども詳細に翻訳し、将来的な権利帰属争いや収益喪失のリスクを回避する必要があります。


Q2: 「秘密保持義務(Confidentiality)」と「公表(Publication)」に関する条項の翻訳で、特に注意すべき点は何ですか?


A2: 共同開発では、未公開の技術情報やノウハウが頻繁に交換されるため、秘密保持義務は極めて重要です。翻訳においては、機密情報の定義、保護義務の範囲(利用目的の限定、第三者への開示制限)、秘密保持期間、秘密情報の返還・廃棄義務などを厳格に表現することが不可欠です。また、研究成果を公表する際の事前承認プロセス、公表内容のレビュー期間、学術論文発表に関する特許出願の優先順位なども正確に翻訳し、自社の知財戦略やブランド戦略との整合性を図る必要があります。

Q3: 国際的な共同開発契約で、「輸出管理規制(Export Control Regulations)」の条項はなぜ重要視されますか?

A3: 共同開発される技術や成果物には、軍事転用可能な「デュアルユース」技術が含まれる場合があります。翻訳においては、開発される技術や成果物が該当する可能性のある各国の輸出管理規制(例:米国のEAR、日本の外国為替及び外国貿易法)の条項が明記されているか、各当事者がこれらの規制を遵守する義務が課せられているか、特定の国や団体への輸出・再輸出が制限されているかを詳細かつ正確に翻訳する必要があります。これらの規制に違反した場合、多額の罰金、事業停止命令、企業幹部への刑事罰など、甚大なリスクにつながる可能性があるため、極めて慎重な対応が求められます。

Q4: 共同開発契約における「責任の制限と補償(Limitation of Liability and Indemnification)」の取り扱いは、どのように注意して翻訳すべきですか?

A4: これらの条項は、共同開発の過程や成果物の利用によって損害が発生した場合の当事者の責任範囲を定めるものです。翻訳においては、共同開発成果物の機能、性能に関する保証、第三者の知的財産権を侵害しないことの保証、そして利用に関する免責事項、契約違反や開発成果物の利用によって生じた損害に対する責任範囲と上限額(例:支払われた共同開発費の〇倍、特定の金額まで)を厳密に翻訳することが不可欠です。特に、知的財産権侵害や秘密保持義務違反といった重大な事由に対する責任制限の適用有無についても、詳細に確認すべきです。この条項の解釈ミスは、将来の紛争時に予期せぬ巨額の損失を被るリスクがあるため、細心の注意が必要です。

Q5: 共同開発契約書で「準拠法と紛争解決(Governing Law and Dispute Resolution)」の条項が非常に重要と言われるのはなぜですか?

A5: 準拠法(Governing Law)は、契約の解釈・有効性・履行に適用される法律であり、紛争解決は問題発生時の解決プロセスを定めます。国際的な共同開発契約では、異なる国の法律や裁判制度が関わるため、どの国の法律が契約に適用されるのか、特に知的財産権に関する規定がどの国の法律によって解釈されるのかを明確に合意しておくことが不可めて重要です。また、紛争が生じた場合にどの国で、どのような方法(国際仲裁、調停、裁判など)で解決するのかを明確に合意しておくことが、予測可能性を高め、紛争解決のコストと時間を削減するために極めて重要ですし、自社にとって有利な条件を確保すべきです。翻訳においては、これらの条項を正確に理解し、現地の法律専門家と連携して最終確認を行うことが不可欠です。

 

まとめ

共同開発契約書(知的財産権の取り決めを含む場合)の翻訳は、単なる言語の変換に留まらず、企業がグローバルにイノベーションを推進し、新たな技術や製品を創出する上での法的基盤を確立し、同時に自社の知的財産権を確実に保護するための極めて重要なプロセスです。英文と和文の契約書が持つそれぞれの特徴を深く理解し、研究開発、知的財産、法務、事業開発、経理といった各部門が連携しながら、専門知識を持つ翻訳者の力を借りることが不可欠ですし、これまでの経験から当社はこれを強く認識しています。

特に、背景知的財産と共同開発成果物の権利帰属と利用条件、秘密保持義務と公表、輸出管理規制、責任制限と補償、そして準拠法と紛争解決といった条項は、潜在的な法的・技術的・経済的リスクを最小限に抑え、グローバルなイノベーションを成功させるための鍵となります。

 

当社は、このような複雑な共同開発契約書の翻訳において、貴社の各部門のニーズを理解し、最高品質の翻訳とサポートを提供することをお約束します。貴社の海外ビジネスにおける共同開発契約に関してご不明な点やご相談がありましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。

 

WIPジャパンは、東京弁護士共同組合神奈川県弁護士共同組合をはじめとする全国23の弁護士共同組合の特約店に認定されています。
ご相談は無料です。いつでもお気軽にご連絡ください。

 

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契約書翻訳に役立つリンク集

法務省大臣官房司法法制部「法令翻訳の手引き」(PDF)
日本法令外国語訳推進会議「法令用語日英標準対訳辞書」(PDF)
Publiclegal(英文契約書のテンプレートや書式を無料で提供)
日本法令外国語訳データベースシステム(法務省が開設した日本の法令の英訳サイト)
weblio 英和辞典・和英辞典
英辞郎 on the web

 

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