前回の記事「訳しにくい英語・日本語|其の一」では、私が訳しにくいと感じている4つの英単語をご紹介しました。
この記事では、訳しにくい日本語についていくつかご紹介します。
私はバイリンガル(=母語が日本語と英語)でも帰国子女でもなんでもなく、大人になってから英語の学習を始めています。そのため、当然ながら英語ネイティブと同じ感覚を持っていませんし、訳しにくいという感覚は推察の域を出ません。
よって、ここでご紹介する日本語は私自身が訳しにくいと感じているのものではありません。私が日英翻訳のチェック業務を通じて出会った、英語ネイティブが翻訳に苦労していた(であろう)日本語の一部です。
訳しにくい日本語
ものづくり
日本人の細部に対するこだわりやプライドを感じさせるこの言葉。英語にすると making things ですが、これではこだわりやプライドを伝えるにはシンプルすぎます。
たとえば craftmanship などを使って表現すると、意味は多少近づいてくるでしょう。ただし craftmanship には個人が手作業で少量のものをつくるイメージがあります。日本のものづくりは、大企業による大量生産にも使えるため、やはり一言ではカバーしきれないのかもしれません。
Wikipedia には ”Monozukuri” とあることからも1)、一言でシンプルに訳すのが難しい言葉と言えます。
風情がある
前にこの言葉の意味を英語ネイティブから聞かれ、答えに苦心したことがあります。プログレッシブ和英中辞典で「風情がある」を調べると、elegant(優雅な)や tasteful(趣のある)、poetic(詩的な)という英語が当てられています。
確かに「風情がある」の訳語として必ずしも間違ってはいないと思いますが・・・何か物足りない気がしないでしょうか。
広辞苑 第六版で「風情」の意味を調べると次のようにあります。
1. おもむき。あじわい。情緒。
2. 表情。容姿。様子。
3. (~のような)具合
なにかあじわい深い様子を見て「風情がある」と思ったとき、自分の中になにかが呼び起こされた感覚を覚えます。呼び起こされているのは「なつかしい」体験や記憶であり、そうした体験や記憶が目の前の様子と触れ合ったとき、「風情がある」という感情を抱くのかもしれません。
呼び起こされるものが体験や記憶である限り、「風情がある」対象は人それぞれということになります。
よって、「風情がある」を英訳するならば、たとえば origin(起源)という英語を使って make someone feel his/her origin などと表現できる場合もあるのではないでしょうか。
筋を通す
「筋を通す」という言葉は一般的に、道理にかなうようにする、首尾一貫させる、しかるべき手続きをふむ、などと言う意味で使われていることが多いです。
広辞苑 第六版には次のようにあります。
道理を通す。ものごとの首尾を一貫させる。
この意味を英訳すると、make sense/be consistent in action/proceed in a logical manner(合理的に事を進める)/go through the proper channel(適切なやり方で行う)などが候補になるでしょう。
ただ・・・やはりなにか大事な意味が欠けている気がしませんか?こうした英訳が間違っていると言いたいのではなく、むしろ適切な場合もあると思います。
それでも、特に人間関係において「筋を通す」と言えば、「合理的に適切に進める」という意味ももちろんあるのかもしれませんが、もう少し情緒的・人情的なものが意味に加わっているとは考えられないでしょうか。
たとえば約束を躊躇なく撤回したり、考え方をコロコロと変えたり、なかなか決断しなかったりする「筋を通さない」人がいたとします。その人を別の言葉で形容するとすれば、「義理に欠ける」「信頼できない」「優柔不断」という言葉が当てはまります。
逆に考えれば「筋を通す」人は、「道理(人の行うべき正しい道)を重んじ」「信頼に足り」「貫き通す覚悟がある」人であり、一貫性と正義感を持つ人と言えるのではないでしょうか。
よって、特に人間関係における「筋を通す」を英訳するのであれば、principle(行動の原則、指針)を持ちそれに従って生きることと捉え、stick to one's principles などとするのもいいかもしれません。