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共同開発契約書 翻訳:グローバルなイノベーションを成功に導く戦略的要点

作成者: WIP japan|Jul. 10, 2025

 

今日のビジネス環境において、新しい技術や製品、サービスを迅速に市場投入し、競争優位性を確立するためには、単独での開発では限界があります。そこで重要となるのが、複数の企業や組織が協力して行う共同開発です。この共同開発の基盤となるのが、共同開発契約書(Joint Development Agreement, JDA / Co-Development Agreement)です。

この契約書は、開発の目的、範囲、期間、役割分担、費用負担、成果物の取扱い、知的財産権の帰属と活用、秘密保持、保証、損害賠償、準拠法、紛争解決など、非常に多岐にわたる内容を詳細に定めます。

その正確な翻訳は、円滑な開発プロジェクトの推進、共同で生み出された技術の適切な管理、知的財産権の確実な保護、そして将来的な紛争の防止のために不可欠です。翻訳のミスや内容の理解不足は、予期せぬ知財紛争、開発の遅延、追加費用の発生、国際的な信用失墜、さらには高額な法的紛争へと発展するリスクをはらんでいます。

特に、国ごとに知的財産法、会社法、独占禁止法、そして開発に関する商慣習が大きく異なるため、単に言葉を置き換えるだけでなく、それぞれの法制度や開発の性質に応じた法的・商業的なニュアンスを踏まえた上で契約内容を理解し、翻訳することが不可欠です。

本記事では、これまでの経験に基づき、共同開発契約書の翻訳における重要なポイントと、貴社の各部門がどのように翻訳された契約書を活用し、関与していくべきかを具体的なケーススタディを交えて解説します。

貴社のグローバルな共同開発において、共同開発契約の適切な理解と運用を通じて、イノベーション創出の成功と知財戦略の強化を図るために、ぜひ本記事をお役立てください。

 

共同開発契約書とは何か?その目的と国際共同開発における重要性

共同開発契約書(Joint Development Agreement, JDA)は、複数の当事者(企業、または企業と大学・研究機関など)が協力して、特定の技術、製品、サービスなどを新しく開発する目的で締結される法的拘束力のある文書です。多くの場合、開発の費用やリスクを分担し、互いの強みを活かしてより効率的・効果的にイノベーションを生み出すことを目指します。

国際的な共同開発において、共同開発契約は以下のような多岐にわたる場面で利用されます。

  • グローバル企業間の新製品開発: 異なる国の企業が、自動車部品、家電製品、医療機器、ソフトウェアなどの新製品や新機能を共同で開発する場合。

  • 素材・部品メーカーと完成品メーカーの連携: 新しい素材や部品の性能を最大限に引き出すため、素材メーカーと完成品メーカーが共同で最適な開発プロセスを模索する場合。

  • IT・ソフトウェア分野での協業: 複数のIT企業が連携し、クラウドサービス、AI、ブロックチェーンなどの新しいプラットフォームやアプリケーションを開発する場合。

  • 研究機関との連携による実用化: 大学や研究機関が持つ基礎研究の成果を企業が引き継ぎ、共同で製品化・実用化を目指す場合。

この契約書は、以下の非常に多岐にわたる詳細な条項を含みます。

  • 開発の目的と範囲(Purpose and Scope of Development):開発する技術、製品、サービスの具体的な内容、期待される機能・性能、最終目標、対象市場など。ここが曖昧だと、将来の成果物の範囲を巡る紛争の原因となります。

  • 開発期間とスケジュール(Development Period and Schedule):開発の開始日、終了日、中間マイルストーン、各フェーズの完了予定。

  • 役割分担と責任(Roles and Responsibilities):共同開発に参加する各当事者が担当する具体的な開発項目、提供するリソース(人材、設備、情報など)、責任範囲。

  • 費用負担と支払い条件(Cost Allocation and Payment Terms):開発にかかる費用(開発費、人件費、設備費、材料費、旅費など)の各当事者の負担割合、支払い方法、支払いスケジュール、成功報酬の有無。

  • 成果物の定義と引渡し(Definition and Delivery of Deliverables):開発によって生み出される成果物(プロトタイプ、ソフトウェア、設計図、データ、報告書など)の定義、引渡し方法、検査・承認プロセス。

  • 知的財産権(Intellectual Property Rights, IPR)

    • 定義と範囲(Definition and Scope of IPR): 開発過程で生じる特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、営業秘密(ノウハウ)などの知的財産権の定義。

    • 帰属(Ownership): 開発によって生み出された発明やノウハウの各当事者への帰属(単独帰属、共有帰属など)。この点が最も重要で、交渉の焦点となることが多いです。

    • 実施権(License): 共同開発の場合の各当事者の実施権(無償・有償、非独占的・独占的、地域制限など)。

    • 第三者へのライセンス供与(Licensing to Third Parties): 共同発明を第三者にライセンスする場合の条件、収益配分。

    • 既存知的財産権の取扱い(Background IPR): 共同開発に持ち込まれる既存の知的財産権の利用条件(ライセンスの要否、条件など)。

  • 秘密保持(Confidentiality):共同開発を通じて開示される技術情報、事業情報などの秘密情報の範囲、秘密保持義務、期間。

  • 保証と免責(Warranties and Disclaimers):開発成果物の品質保証、瑕疵担保責任、第三者の知的財産権非侵害保証など。

  • 損害賠償(Indemnification):契約違反や第三者への損害発生時(例:知財侵害)の責任分担。

  • 契約の変更・終了(Amendment and Termination):契約の変更手続き、中途解約条件、期間満了時の処理。

  • 準拠法と紛争解決(Governing Law and Dispute Resolution):契約に適用される法律、紛争が発生した場合の解決方法(裁判、国際仲裁、調停など)。

国際共同開発において共同開発契約書が特に重要なのは、以下の理由からです。

  • 各国法制度の差異: 知的財産権の帰属、出願、維持、活用に関するルールは国ごとに大きく異なります。特に、共同発明の共有持分、各共有者の実施権、共有者の単独実施権の可否、第三者へのライセンス供与の同意要件などが国によって異なるため、契約書でこれらの点を明確に合意しておく必要があります。

  • 技術流出と秘密保持: 国際的な共同開発では、自社の重要な技術やノウハウが海外に流出するリスクがあるため、厳格な秘密保持条項が不可欠です。

  • 独占禁止法上の配慮: 共同開発の内容や成果の利用方法によっては、独占禁止法や競争法に抵触する可能性があるため、注意が必要です。

  • 成果物の品質確保と事業化: 開発される技術や製品の品質、性能、仕様が事前に合意された通りであるかを保証し、期待と異なる成果物が生じた場合の対応を明確にしておく必要があります。また、開発後の成果物の事業化戦略(製造、販売、ライセンス供与など)についても、契約段階で明確にしておくことが重要です。

  • 文化・商慣習の違い: 異なる文化を持つ当事者間では、意思疎通の齟齬や期待値のずれが生じやすいため、契約書で詳細なルールを定めることで、円滑なプロジェクト運営を可能にします。

  • 紛争解決: 国際的な共同開発に関する紛争は、高額かつ複雑化しやすいため、紛争が発生した場合の解決方法(準拠法、仲裁など)を事前に明確にしておくことが、リスク管理上非常に重要ですし、当社はこれを強く認識しています。

英文共同開発契約書の特徴と和文契約書との違い

国際的な共同開発取引では、多くの場合、英文で共同開発契約書が作成されます。その特徴は、日本の和文契約書とは異なる点がいくつかあります。

  • Specific and Measurable Scope of Work and Deliverables(作業範囲と成果物の具体的かつ測定可能な特定):

    • 開発する技術や製品の具体的な機能要件、性能仕様、技術的詳細が非常に厳密に記述されます。また、各フェーズで生み出される中間成果物(プロトタイプ、テストデータ、設計図、ソースコードなど)と最終成果物の定義、引渡し方法、検査・承認基準(Acceptance Criteria)が詳細に規定されます。これにより、開発の進行における認識のずれを防ぎ、成果物の品質を担保します。

  • Comprehensive IPR Ownership and Licensing Provisions(知的財産権の帰属とライセンスに関する包括的な規定):

    • 共同開発によって生み出される知的財産権(Foreground IPR)の帰属(単独か共有か、共有の場合の持分)各当事者の実施権(無償・有償、独占的・非独占的、地域制限の有無)第三者へのライセンス供与の条件(同意要件、収益配分)が非常に詳細に規定されます。日本の共同開発契約書に比べ、単独実施権の規定や第三者ライセンスの同意プロセスが細かく定められる傾向が強いです。

  • Background IPR Treatment(背景知的財産権の明確な取り扱い):

    • 共同開発開始前から各当事者が保有している知的財産権(Background IPR)が明確に特定され、それらを開発目的で利用するためのライセンス条件(無償利用、限定的な利用など)が詳細に規定されます。これは、開発成果物の円滑な活用に不可欠です。

  • Warranties and Disclaimers(保証と免責)の厳格な規定:

    • 開発成果物の品質保証、瑕疵担保責任、第三者の知的財産権非侵害保証などが厳格に規定される一方で、特定の機能の非保証(as-is basis)や、間接損害・逸失利益の免責(Exclusion of Consequential Damages)といった免責条項も詳細に定められます。これは国際取引におけるリスク配分の重要な要素です。

  • Confidentiality and Publication Controls(秘密保持と公表管理):

    • 開示される秘密情報の範囲、秘密保持義務の期間、例外規定、秘密情報の目的外利用の禁止が厳格に定められます。また、開発内容や成果に関するプレスリリース、論文発表、特許出願などの公表活動に関する事前承認プロセスや、秘密情報の特定部分のマスキング義務なども詳細に規定されます。

  • Indemnification(補償)の明確化:

    • 契約違反、過失、または開発成果物による第三者への損害(特に製造物責任や知的財産権侵害)が発生した場合の責任分担、補償の範囲、通知義務が詳細に規定されます。

  • Limitation of Liability(責任制限):

    • 各当事者が負う損害賠償責任の範囲を制限する条項(例:特別損害や間接損害の除外、損害賠償額の上限設定)が、一般的に明記されます。これは国際取引におけるリスク管理の重要な要素です。

  • Governing Law and Dispute Resolution(準拠法と紛争解決):

    • 国際的な共同開発では、特定の国の法律を準拠法とし(例:デラウェア州法、英国法、シンガポール法、日本法など)、国際仲裁を紛争解決手段として指定することが一般的ですし、仲裁地、仲裁機関、仲裁規則、仲裁人の数などが明確に定められ、紛争解決の予測可能性を高めます。

  • No Solicitation Clause(引き抜き禁止条項):

    • 開発期間中および契約終了後一定期間、相手方の従業員を引き抜くことを禁止する条項が含まれることがあります。

日本の和文共同開発契約書に比べ、英文共同開発契約書は、開発の目的と範囲の明確化、知的財産権の帰属と実施権に関する詳細な規定、背景知的財産権の取り扱い、保証と免責、秘密保持と公表に関する厳格な管理、責任制限、そして準拠法と紛争解決に関する詳細な合意に関して、より詳細かつ厳密な記述が求められる傾向が強いです。翻訳においては、これらの法的・技術的・知的財産法上のニュアンスを正確に反映した表現を用いることが不可欠です。

 

共同開発契約書翻訳における重要ポイント

共同開発契約書の翻訳は、貴社のイノベーション戦略、知財戦略、事業計画、リスク管理に直接影響するため、極めて高い精度と専門性、そして研究開発、知財、法務、経理部門など多岐にわたる視点が求められます。以下のポイントを押さえることが、成功への鍵となります。

知的財産権の帰属(Ownership of IPR)と活用(Utilization)の厳密な翻訳

    • 共同開発によって生み出される発明やノウハウの帰属先(単独か共有か、共有の場合の持分)各当事者がその発明をどのように実施できるか(無償・有償、独占的・非独占的、地域制限など)第三者へのライセンス供与の条件(同意要件、ロイヤリティ配分)を、曖昧さなく厳密に翻訳することが不可欠です。特に、日本の職務発明規定と米国などのCommon Law圏における発明者の権利帰属には大きな違いがあるため、これらの法的ニュアンスを正確に捉え、日本の法務・知財部門が正確に理解できる表現にすることが極めて重要ですし、当社はこれを強く認識しています。

  1. 背景知的財産権(Background IPR)の利用条件の明確な翻訳

    • 開発開始前から各当事者が保有する背景知的財産権の共同開発における利用条件(ライセンスの要否、条件、期間、対価など)を明確に表現することが極めて重要です。背景知的財産権の利用条件が不明確だと、開発成果物の事業化が困難になったり、将来ライセンス紛争が発生したりするリスクがあります。

  2. 成果物の定義(Definition of Deliverables)と検査・承認プロセス(Acceptance Procedure)の慎重な翻訳

    • 開発によって生み出される成果物(プロトタイプ、ソフトウェアのソースコード、設計図、データ、報告書など)の具体的定義、性能要件、品質基準を正確に翻訳することが不可欠です。また、成果物引渡し方法、検査期間、承認基準、不承認時の対応(修正義務、追加費用など)についても詳細に翻訳し、開発の進行と品質管理を確実にする必要があります。この部分が曖昧だと、成果物の受領を巡る紛争や、追加開発の費用負担を巡る問題に発展する可能性があります。

  3. 秘密保持(Confidentiality)と公表(Publication)に関する条項の厳格な翻訳

    • 開示される秘密情報の範囲、秘密保持義務の期間、例外規定、秘密情報の目的外利用の禁止を厳格に表現すべきです。また、開発内容や成果に関するプレスリリース、論文発表、特許出願などの公表活動に関する事前承認プロセス、承認期間、秘密情報のマスキング義務に関する条項も重要です。適切な秘密保持は、企業の競争優位性を保つ上で不可欠であり、公表に関する規定は、研究者のアカデミックな活動と企業の利益とのバランスを考慮した翻訳が求められます。

  4. 責任制限(Limitation of Liability)と損害賠償(Indemnification)の明確な翻訳

    • 各当事者が負う損害賠償責任の範囲を制限する条項(例:特別損害や間接損害の除外、損害賠償額の上限設定)を明確に翻訳することが不可欠です。また、契約違反、過失、または開発成果物による第三者への損害(特に製造物責任や知的財産権侵害)が発生した場合の責任分担、補償の範囲、通知義務についても正確に翻訳し、予期せぬリスクを回避するための条項の理解を深める必要があります。

  5. 準拠法(Governing Law)と紛争解決(Dispute Resolution)の正確な指定

    • 契約に適用される法律、そして紛争が発生した場合の解決方法(国際仲裁、調停、裁判など)、仲裁地の選定、仲裁機関、仲裁規則、仲裁人の数、仲裁判断の拘束力などを正確に翻訳することが不可欠です。国際的な共同開発では、自社にとって有利な準拠法や紛争解決地を指定することが戦略上重要であり、その内容を正確に把握すべきです。

    • 当社は、このような複雑な準拠法と紛争解決に関する条項の正確な翻訳を特に重視しています。

  6. AI翻訳の適切な活用と専門家による最終確認

    AI翻訳技術は、初稿の作成や用語の統一に役立ちますが、共同開発契約書のような法的・技術的に極めて複雑な文書においては、知的財産法、独占禁止法、各国の研究開発慣習、そして専門的な技術用語を完全に理解することは困難です。AIを効率化ツールとして最大限活用しつつも、知的財産法務知識、研究開発に関する専門知識、および国際取引の実務経験を持つ専門の翻訳者による徹底したレビューと校正が不可欠です。人間による精査が、潜在的なリスクを最小限に抑え、安全な国際的な共同開発の基盤となります。

  7. 強固な情報セキュリティ体制

    共同開発契約書には、貴社のR&D戦略、未公開の技術情報、ノウハウ、将来の製品計画、顧客情報など、企業の競争力や事業の成否に直結する極めて機密性の高い情報が含まれることが一般的です。これらの情報が外部に漏洩した場合、企業の競争力低下、信用失墜、法的な責任問題など、甚大な損害を被る可能性があります。そのため、翻訳を依頼する際には、翻訳会社が厳格な情報セキュリティポリシーを定め、技術的・物理的・人的な対策を徹底しているかを必ず確認すべきですし、当社はこれを徹底しています。

 

共同開発契約書の翻訳は誰に必要なのか?ケーススタディで見る関係部門の役割

共同開発契約書は、グローバルなイノベーション創出と知財戦略を左右するため、多岐にわたる部門や関係者がその内容を理解し、翻訳された情報に基づいて連携することが不可欠です。

 

ケーススタディ1:日本の自動車メーカーと海外のソフトウェア企業による自動運転システム開発

 

状況: 日本の大手自動車メーカーA社と、米国の自動運転ソフトウェア開発企業B社が、次世代自動運転システムの中核となるAIソフトウェアを共同で開発するケース。英文の共同開発契約書を締結。

  • R&D部門/製品開発部:

    • 必要性: 開発するAIソフトウェアの具体的な機能、性能要件、安全性基準、データセットの要件、開発期間、中間マイルストーン、引渡し物の定義(ソースコード、学習済みモデルなど)を詳細に確認します。自動車の製品開発スケジュールと安全性、性能に直結します。

    • ケース: 契約書に記載された「AIモデルの学習に使用するデータ形式とプライバシーに関する条項」、「運転シミュレーションにおけるAIの応答速度と判断精度に関するKPI」、「開発遅延時のペナルティ条項」を和訳で確認し、開発の方向性と実行可能性を評価します。過去には、成果物の性能要件の定義が曖昧だったため、期待通りの開発結果が得られなかった事例がありました。当社は、このような成果物に関する正確な翻訳を特に重視しています。

  • 知的財産部:

    • 必要性: 共同開発されるAIソフトウェアに関する知的財産権(特許、著作権、ノウハウ)の帰属(通常はA社とB社の共有)、各社の利用範囲(製品への組み込み、改良、第三者へのライセンス供与の可否など)、B社が開発に使用する既存技術(背景IP)のライセンス条件を詳細に確認します。

    • ケース: 契約書に記載された「共同開発されたAIソフトウェアの著作権がA社とB社に共有で帰属する旨」、「A社とB社がそれぞれ、共同開発成果を自社製品に組み込み、第三者に販売する際の条件とロイヤリティ配分」、「B社が保有する既存AIフレームワークのA社への非独占的・有償ライセンス」を和訳で確認し、知財戦略と保護策を評価します。

  • 法務部:

    • 必要性: 契約全体の法的妥当性、秘密保持義務(特に自動運転データに関する機密性)、保証と免責条項、責任制限、損害賠償、準拠法(デラウェア州法)、紛争解決条項の適切性を確認します。

    • ケース: 契約書に記載された「自動運転データの機密保持と目的外利用の禁止」、「開発されたAIソフトウェアの第三者の著作権非侵害保証」、「デラウェア州法を準拠法とし、ニューヨークでの国際仲裁を紛争解決手段とする条項」を和訳で確認し、法的リスクとコンプライアンスを評価します。

  • 経理部/財務部:

    • 必要性: 開発費用の支払いスケジュール、成功報酬の有無、マイルストーン達成時の支払い条件、国際税務上の影響(源泉徴収税など)を確認します。

    • ケース: 契約書に記載された「開発費用の分割払いと各マイルストーン達成時の支払い条件」、「将来の製品販売に応じた成功報酬の計算方法」を和訳で確認し、費用管理と収益予測を評価します。

 

ケーススタディ2:日本の素材メーカーと欧州の家電メーカーによる新素材開発と製品化

 

状況: 日本の化学素材メーカーC社と、ドイツの高級家電メーカーD社が、次世代家電向けの高機能新素材を共同で開発し、D社の製品に搭載するケース。英文の共同開発契約書を締結。

  • 開発・事業部門:

    • 必要性: 開発する新素材の具体的な物性(強度、耐熱性、軽量性など)、開発期間、試作サンプルの引渡しと評価プロセス、品質保証期間を詳細に確認します。最終製品の性能と市場競争力に直結します。

    • ケース: 契約書に記載された「新素材の性能基準と各種試験方法」、「試作サンプルの引渡し後のD社の検査期間と承認基準」、「新素材の量産供給に関するオプションと価格交渉条件」を和訳で確認し、技術要件と事業機会を評価します。

  • 知的財産部:

    • 必要性: 共同開発される新素材に関する知的財産権(特許、ノウハウ)の帰属(通常はC社とD社の共有、またはC社帰属でD社に独占ライセンス)、各社の利用範囲、第三者へのライセンス供与の条件を詳細に確認します。

    • ケース: 契約書に記載された「共同開発された新素材に関する特許の共有と、各社が単独で実施できる旨」、「C社が保有する既存の素材技術(背景IP)のD社への利用許諾範囲」、「共同開発成果を第三者にライセンスする場合のC社とD社の同意要件とロイヤリティ配分」を和訳で確認し、知財戦略と独占権を評価します。

  • 法務部:

    • 必要性: 契約全体の法的妥当性、製造物責任に関する保証と免責条項、責任制限、秘密保持義務、損害賠償、準拠法(ドイツ法)、紛争解決条項の適切性を確認します。

    • ケース: 契約書に記載された「新素材が搭載された製品に関するD社の製造物責任保証と免責の範囲」、「間接損害・逸失利益の賠償責任の除外」、「ドイツの裁判所を管轄とする紛争解決条項」を和訳で確認し、法的リスクとコンプライアンスを評価します。

  • 経理部/財務部:

    • 必要性: 開発費の支払い条件、将来の新素材供給価格に関するオプション、国際税務上の影響(移転価格税制など)を確認します。

    • ケース: 契約書に記載された「開発費の一括払い、またはマイルストーンに応じた分割払い」、「将来の量産単価に関する交渉義務と価格決定メカニズム」を和訳で確認し、費用管理と収益モデルを評価します。

よくある質問(FAQ)

共同開発契約書の翻訳に関して、お客様からよくいただくご質問とその回答をまとめました。

Q1: 共同開発契約書における「知的財産権の帰属(Ownership of IPR)と活用(Utilization)」の条項は、翻訳でどのように注意すべきですか?

A1: この条項は共同開発契約の最も重要な核であり、将来の事業戦略に直結します。翻訳においては、共同開発によって生み出される発明やノウハウの帰属先(単独か共有か、共有の場合の持分)各当事者がその発明をどのように実施できるか(無償・有償、独占的・非独占的、地域制限など)第三者へのライセンス供与の条件(同意要件、ロイヤリティ配分)を、曖昧さなく厳密に表現することが不可欠です。特に、日本の職務発明規定と米国などのCommon Law圏における発明者の権利帰属には大きな違いがあるため、これらの法的ニュアンスを正確に捉え、日本の法務・知財部門が正確に理解できる表現にすることが極めて重要ですし、当社はこれを強く認識しています。

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Q2: 「背景知的財産権(Background IPR)」の利用条件の翻訳で、特に注意すべき点は何ですか?

A2: 背景知的財産権は、開発開始前から各当事者が保有している既存の技術やノウハウであり、共同開発成果物の円滑な活用には、その利用条件の明確化が不可欠です。翻訳においては、背景知的財産権を共同開発目的で利用する際のライセンス条件(無償利用、特定の範囲でのみ利用可能、対価の有無、期間など)を明確に表現することが極めて重要です。この利用条件が不明確だと、開発成果物の事業化が困難になったり、将来ライセンス紛争が発生したりするリスクがあるため、細心の注意を払う必要があります。

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Q3: 国際的な共同開発契約で、「成果物の定義(Definition of Deliverables)と検査・承認プロセス(Acceptance Procedure)」の取り扱いはなぜ重要視されますか?

A3: これらの条項は、開発される技術や製品の品質と性能を保証し、期待と異なる成果物が生じた場合の対応を明確にするものです。翻訳においては、成果物の具体的定義、性能要件、品質基準、そして引渡し方法、検査期間、承認基準、不承認時の対応(修正義務、追加費用など)を正確に表現することが不可欠です。これにより、開発の進行における認識のずれを防ぎ、品質管理を確実にする必要があります。この部分が曖昧だと、成果物の受領を巡る紛争や、追加開発の費用負担を巡る問題に発展する可能性があります。

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Q4: 共同開発契約における「責任制限(Limitation of Liability)と損害賠償(Indemnification)」の翻訳は、どのように注意すべきですか?

A4: これらの条項は、契約違反や第三者への損害発生時の各当事者の責任範囲を定めます。翻訳においては、特別損害や間接損害の除外(Exclusion of Consequential Damages)、損害賠償額の上限設定(Cap on Liability)といった責任制限の具体的内容を明確に表現することが不可欠です。また、契約違反、過失、または開発成果物による第三者への損害(特に製造物責任や知的財産権侵害)が発生した場合の責任分担、補償の範囲、通知義務についても正確に翻訳し、予期せぬリスクを回避するための条項の理解を深める必要があります。

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Q5: 共同開発契約書で「準拠法(Governing Law)と紛争解決(Dispute Resolution)」の条項が非常に重要と言われるのはなぜですか?

A5: 準拠法は、契約の解釈・有効性・履行に適用される法律であり、紛争解決は問題発生時の解決プロセスを定めます。国際的な共同開発では、異なる国の知的財産法、独占禁止法、契約法などが絡むため、どの国の法律が契約全体に適用されるのか、特に知的財産権の帰属や侵害、秘密保持義務の違反に関する紛争が発生した場合にどの法律が適用されるのかを明確に合意しておくことが不可欠ですし、当社はこれを強く認識しています。また、紛争が生じた場合にどの国で、どのような方法(国際仲裁、調停、裁判など)で解決するのかを明確に合意しておくことが、予測可能性を高め、紛争解決のコストと時間を削減するために極めて重要ですし、自社にとって有利な条件を確保すべきです。翻訳においては、これらの条項を正確に理解し、必要に応じて現地の法律専門家と連携して最終確認を行うことが不可欠です。

 

まとめ

共同開発契約書の翻訳は、単なる言語の変換に留まらず、企業がグローバルなイノベーションを創出し、新しい技術や製品を効果的に開発・活用し、同時に貴重な知的財産権を保護するための極めて重要なプロセスです。英文と和文の契約書が持つそれぞれの特徴を深く理解し、研究開発、知財、法務、経理といった各部門が連携しながら、専門知識を持つ翻訳者の力を借りることが不可欠ですし、これまでの経験から当社はこれを強く認識しています。

特に、知的財産権の帰属と活用、背景知的財産権の利用条件、成果物の定義と検査・承認プロセス、秘密保持と公表管理、責任制限、そして準拠法と紛争解決といった条項は、潜在的な法的・技術的・知財リスクを最小限に抑え、グローバルな共同開発を成功させるための鍵となります。

当社は、このような複雑な共同開発契約書の翻訳において、貴社の各部門のニーズを理解し、最高品質の翻訳とサポートを提供することをお約束します。貴社の海外ビジネスにおける共同開発契約に関してご不明な点やご相談がありましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。

 

WIPジャパンは、東京弁護士共同組合神奈川県弁護士共同組合をはじめとする全国23の弁護士共同組合の特約店に認定されています。
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契約書翻訳に役立つリンク集

法務省大臣官房司法法制部「法令翻訳の手引き」(PDF)
日本法令外国語訳推進会議「法令用語日英標準対訳辞書」(PDF)
Publiclegal(英文契約書のテンプレートや書式を無料で提供)
日本法令外国語訳データベースシステム(法務省が開設した日本の法令の英訳サイト)
weblio 英和辞典・和英辞典
英辞郎 on the web

 

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