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設計・施工一括請負契約書 翻訳:海外EPC/DBプロジェクトを成功に導く要点と関係部門の役割|翻訳会社WIPジャパン

作成者: WIP japan|Jul. 08, 2025

 

グローバル市場での競争が激化する中、大規模なプラント、工場、インフラ、商業施設などの建設プロジェクトにおいて、発注者と請負業者が協力し、設計から施工までを一貫して担当する設計・施工一括請負(EPC: Engineering, Procurement, Construction / DB: Design-Build)方式が主流となっています。この方式を採用する際に締結されるのが、設計・施工一括請負契約書(EPC Contract / Design-Build Contract / Turnkey Contract)です。

この契約書は、プロジェクトの全範囲、工期、契約金額、支払い条件、性能保証、品質管理、安全管理、リスク分担、引渡し、そして紛争解決などを詳細に定める極めて複雑かつ重要な法的文書であり、その正確な翻訳は、プロジェクト全体の成功、コスト管理、スケジュール遵守、そして潜在的なリスクの回避のために不可欠です。

翻訳のミスや内容の理解不足は、設計・施工範囲の誤解、追加費用の発生、スケジュールの大幅な遅延、品質問題、責任の曖昧化、さらには高額かつ長期にわたる法的紛争へと発展するリスクをはらんでいます。

特に、国ごとに建設関連法規(建築基準法、労働安全衛生法など)、契約法、環境規制、税法、そして国際的に標準化された契約モデル(FIDICなど)の解釈が大きく異なるため、単に言葉を置き換えるだけでなく、それぞれの法制度や商慣習、技術的要件を踏まえた上で契約内容を理解し、翻訳することが不可欠です。

本記事では、私どもが数多くの設計・施工一括請負契約書の翻訳を支援してきた経験に基づき、翻訳における重要ポイントと、貴社の各部門がどのように翻訳された契約書を活用し、関与していくべきかを具体的なケーススタディを交えて解説します。

貴社の海外EPC/DBプロジェクトを成功させ、リスクを最小限に抑えるために、ぜひ本記事をお役立てください。

設計・施工一括請負契約書とは何か?その目的と国際プロジェクトにおける重要性

設計・施工一括請負契約書(EPC Contract / Design-Build Contract / Turnkey Contract)とは、発注者(Owner / Employer)が、特定の建設プロジェクト(プラント、工場、発電所、インフラ、商業施設など)の設計(Engineering / Design)、資材調達(Procurement)、建設・施工(Construction / Building)の全プロセスを一貫して単一の請負業者(Contractor)に委託する際に締結する、極めて重要な法的文書です。

この契約方式は「ターンキー(Turnkey)」とも呼ばれ、発注者は基本的に「鍵を回せば稼働する状態」でプロジェクトを引き渡してもらうことを期待します。そのため、請負業者は設計から施工、さらには試運転まで、プロジェクトの全責任を負うことになります。

この契約書は、以下の非常に多岐にわたる詳細な条項を含みます。

  • プロジェクトの全範囲(Scope of Works): 請負業者が実施する設計、調達、建設の具体的な範囲、完成物の機能、性能、品質基準。詳細な技術仕様や図面の参照。

  • 工期とスケジュール: プロジェクト全体の開始日と完了日、重要な中間目標、工期延長の条件、遅延損害金(Liquidated Damages for Delay)

  • 契約金額と支払い条件: 総契約金額、支払いスケジュール(マイルストーン払い、出来高払いなど)、支払い通貨、為替リスクの取り扱い、支払いの遅延利息。

  • 性能保証と性能試験(Performance Guarantees and Tests): 完成したプラントや設備が期待される性能(生産能力、効率、稼働率、排出基準など)を達成することの保証、性能試験の実施要件、性能不達成時の補償・ペナルティ。

  • 品質管理と検査(Quality Control and Inspection): 設計、資材調達、施工の各段階での品質基準、検査、試験、第三者検査機関の指定。

  • 安全管理と環境規制: プロジェクト全般にわたる労働安全衛生基準、環境関連法規の遵守義務、危険物取り扱い規定。

  • 変更管理(Variations / Change Orders)とクレーム(Claims): 設計や工事内容の変更が発生した場合の承認プロセス、契約金額や工期への影響、クレーム処理手続き。

  • 保険: 工事保険(CAR)、賠償責任保険など、プロジェクトに関連する各種保険の加入義務と費用負担。

  • 責任の制限と補償(Limitation of Liability and Indemnification): 請負業者の過失や不作為によって生じた損害に対する責任範囲、発注者への補償義務。

  • 引渡しと引渡し後の責任(Completion, Handover and Post-Completion Responsibilities): プロジェクトの完了証明書発行、引渡し条件、瑕疵担保責任(Defects Liability Period)、予備品供給、メンテナンスサポート。

  • 秘密保持(Confidentiality): プロジェクトに関する機密情報の取り扱い。

  • 契約解除条件: 契約違反、不可抗力などによる契約解除の条件、通知期間、違約金。

  • 準拠法と紛争解決: 契約に適用される法律、紛争が発生した場合の解決方法(裁判、国際仲裁、調停など)。

  • 税金、関税、許認可: プロジェクトに関連する税金、関税、輸出入規制、各種許認可の取得責任と費用負担。

国際プロジェクトにおいて設計・施工一括請負契約書が特に重要なのは、以下の理由からです。

  • 単一責任の原則: 発注者は、プロジェクトの設計から建設までを一貫して単一の請負業者に委託することで、責任の所在を明確にし、複数の設計者や施工業者を調整する負担から解放されます。契約書は、この単一責任の範囲と限界を明確にします。

  • リスクの請負業者への移転: EPC/DB方式では、設計ミスや施工不良、工期遅延などのリスクの多くが請負業者に移転されます。契約書は、このリスク分担を法的に裏付けるものです。

  • 複雑な技術的・商業的要素の統合: 大規模プロジェクトでは、高度な技術要件、複雑なサプライチェーン、多額の投資が伴います。契約書は、これらの要素を統合し、プロジェクトの全ての側面を管理するための法的枠組みを提供します。

  • コストとスケジュールの確実性: ターンキー契約では、通常、総額請負(Lump-Sum)方式が採用されるため、発注者は当初から総コストと完了時期を比較的確実に見積もることができます。契約書は、これらの金額と期日を法的に固定します。

  • 国際標準契約(FIDICなど)の理解: FIDICの「シルバーブック」など、国際的に広く参照される標準契約モデルがあります。これらの標準契約に対する深い理解と、個別のプロジェクトに合わせた修正点の翻訳は、国際的な慣行に則った取引のために不可欠です。

英文設計・施工一括請負契約書の特徴と和文契約書との違い

国際的なEPC/DBプロジェクトでは、多くの場合、英文で契約書が作成されます。その特徴は、日本の和文契約書とは異なる点がいくつかあります。特に、FIDIC(国際建設コンサルタント連盟)の「シルバーブック」(FIDIC EPC/Turnkey Projects Contract)がベースとなることが多く、その構造と用語には独特の慣習があります。

  • 請負業者の包括的責任(Single Point Responsibility):

    • 発注者は設計と施工の両方を請負業者に一括して委託するため、プロジェクト全体の成功に対する請負業者の責任が非常に広範かつ包括的です。設計ミス、資材の遅延、施工不良など、全てのリスクが請負業者に集約される傾向にあります。

    • 日本国内の契約では、設計と施工が分離発注されることが多く、それぞれの責任範囲が比較的明確です。

  • Lump-Sum Price(総額請負)とFixed Completion Date(固定完了日):

    • 通常、契約金額はプロジェクト全体の総額(Lump-Sum)で固定され、特定の完了日も固定されます。これにより、発注者はコストとスケジュールの予測可能性を高めます。請負業者は、コスト超過や工期遅延のリスクを負うことになります。

    • 日本の契約では、出来高払いなど、段階的な支払いが多い傾向があります。

  • Performance Guarantees(性能保証)の厳格さ:

    • 完成したプラントや施設が特定の性能基準(例:生産量、効率、稼働率、排出基準など)を達成することを厳しく保証する条項が含まれます。性能試験(Performance Tests)の具体的な手順、合格基準、そして性能が達成されない場合の違約金(Performance Liquidated Damages)や、最悪の場合の契約解除権なども詳細に規定されます。

  • Force Majeure(不可抗力)の定義と効果:

    • 天災地変、戦争、ストライキなど、不可抗力事由の定義、その事由によりプロジェクトが遅延・中断した場合の工期延長、費用の負担、通知義務などが詳細に規定されます。

  • Liquidated Damages(遅延損害金)の厳密な規定:

    • 工期遅延が発生した場合、または性能保証が達成されなかった場合に、請負業者が発注者に支払う具体的な損害金の計算方法や上限が、日額、週額、または特定の金額で明確に規定されます。これは発注者の損害をカバーするためのもので、紛争の際に重要となります。

  • Variation / Change Order(変更命令)の厳格な手続き:

    • プロジェクトの規模が大きいため、設計や工事内容の変更は多大な影響を及ぼします。変更が発生した場合の承認プロセス、契約金額や工期への影響、変更命令の書面化、費用の評価方法などが厳密に規定されます。

  • Indemnification(補償)条項の広範な適用:

    • 請負業者の工事に起因する損害(例:第三者への損害、人身事故、環境汚染など)が発生した場合に、請負業者が発注者を補償(Indemnify)する範囲が詳細に規定されます。

  • Testing and Completion / Handover(試験と完了・引渡し)のプロセス詳細化:

    • 設備の単体試運転(Pre-Commissioning)、総合試運転(Commissioning)、性能試験(Performance Test)、そして最終的な引渡し(Handover)までの手順、合格基準、引渡し条件、完了証明書の発行が非常に詳細に規定されます。

  • Defects Liability Period(瑕疵担保責任期間)とWarranty(保証):

    • 引渡し後の一定期間(通常12ヶ月~24ヶ月)における完成物の故障や欠陥に対する請負業者の修補義務、保証の範囲、通知要件が詳細に定められます。

  • Suspension and Termination(工事中断と契約解除):

    • 発注者都合による工事中断の場合の補償、請負業者の契約違反や破産などによる契約解除の条件、通知期間、違約金、契約解除時の工事の評価、資材・設備の取り扱いなどが詳細に規定されます。

  • Dispute Resolution(紛争解決):

    • 国際的な取引では、国際仲裁が一般的な紛争解決手段として選択されます。仲裁地、仲裁機関、仲裁規則、仲裁人の選定方法が明記されます。

日本の和文契約書に比べ、英文の設計・施工一括請負契約書は、請負業者の包括的な責任、性能保証の厳格性、そして複雑なリスク分担を細部にわたって規定する傾向が強いです。翻訳においては、これらの技術的・法的ニュアンス、および国際的な産業慣行を正確に反映した表現を用いることが不可欠です。

設計・施工一括請負契約書翻訳における重要ポイント

設計・施工一括請負契約書の翻訳は、貴社の海外EPC/DBプロジェクトの成功、費用、工期、品質、安全性、そして法的リスクに直接影響するため、極めて高い精度と専門性、そして法務・技術・財務・プロジェクト管理に関する視点が求められます。以下のポイントを押さえることが、成功への鍵となります。

  1. プロジェクトの全範囲(Scope of Works)と技術仕様の厳密な翻訳

    • 請負業者が実施する設計、調達、建設の具体的な範囲、完成物の機能、性能、品質基準を、技術的・法的に誤解の余地なく厳密に翻訳することが不可欠です。参照される詳細な技術仕様書や図面との整合性も確認し、作業範囲の抜け漏れがないようにすべきです。一点の誤訳が、プロジェクトの根幹に関わる機能不全や大幅な追加費用に直結しかねません。

  2. 性能保証(Performance Guarantees)と性能不達成時のペナルティ(Liquidated Damages for Performance)の明確化

    • 完成したプラントや設備が契約で定められた特定の性能(生産能力、効率、稼働率、排出基準など)を達成することの保証、性能試験の具体的な実施要件、合格基準、そして性能が達成されなかった場合に適用される違約金や契約解除条件を正確に翻訳することが極めて重要です。これは、プロジェクトの投資回収率や事業継続性に直接影響します。

  3. 工期、中間目標、遅延損害金(Liquidated Damages for Delay)の厳密な翻訳

    • プロジェクト全体の開始日と完了日、重要な中間目標、そして工期が遅延した場合に請負業者が支払うべき遅延損害金の計算方法(日額、週額、上限など)を正確に翻訳することが不可欠です。これは、発注者の機会損失や追加コストに直結するため、非常に重要です。

  4. 契約金額と支払い条件、為替リスクの取り扱い

    • 総契約金額(Lump-Sumの場合が多い)、支払いスケジュール(マイルストーン払い、出来高払いなど)、支払い通貨、為替リスクの負担者、支払いの遅延利息を正確に翻訳することが不可欠です。大規模なプロジェクトでは、為替変動リスクも大きいため、その取り決めを正確に理解する必要があります。

  5. 変更管理(Variations / Change Orders)とクレーム(Claims)の手続き

    • 設計や工事内容の変更が発生した場合の承認プロセス、契約金額や工期への影響、変更命令の書面化、費用の評価方法、そして追加費用や工期延長を請求するためのクレームの提出要件、手続き、評価方法を厳密に翻訳することが極めて重要です。国際プロジェクトでは、変更やクレーム処理が頻繁に発生するため、そのルールを正確に把握しておく必要があります。

  6. 責任の制限(Limitation of Liability)と補償(Indemnification)条項

    • 請負業者の過失や不作為によって生じた損害に対する責任範囲、責任上限額(Cap on Liability)、補償義務の範囲(例:直接損害のみか、間接損害も含むか、弁護士費用含むかなど)を厳密に翻訳することが不可欠です。この条項は、将来的な訴訟リスクと費用負担に直接影響するため、細心の注意を払う必要があります。

  7. 引渡しと引渡し後の責任(Completion, Handover and Post-Completion Responsibilities)

    • プロジェクトの完了証明書発行、引渡し条件、瑕疵担保責任(Defects Liability Period)の期間と範囲、予備品供給、メンテナンスサポート、技術トレーニングの提供に関する条項を正確に翻訳することが重要です。これにより、完成物の円滑な稼働開始と長期的な運用が保証されます。

  8. 税金、関税、許認可の取得責任

    • プロジェクトに関連する税金、関税、輸出入規制、各種許認可の取得責任と費用負担を明確に翻訳することが不可欠です。これらの費用や手続きは国によって大きく異なり、プロジェクトコストやスケジュールに影響を与えます。

  9. AI翻訳の適切な活用と専門家による最終確認

    AI翻訳技術は、初稿の作成や用語の統一に役立ちますが、設計・施工一括請負契約書のような法的・専門的に極めて複雑な文書、特に性能保証、遅延損害金、責任制限といった条項においては、法的ニュアンス、特定の産業分野の専門用語、国際的な技術基準、そして現地法規を完璧に理解することは困難です。AIを効率化ツールとして最大限活用しつつも、法務知識、国際EPC/DBプロジェクトの実務経験、当該国の法規制に関する知見を持つ専門の翻訳者による徹底的なレビューと校正が不可欠です。人間による精査が、潜在的なリスクを最小限に抑え、安全な国際プロジェクトの基盤となります。

  10. 強固な情報セキュリティ体制

    設計・施工一括請負契約書には、独自の技術情報、設計図面、性能データ、プロジェクトの予算、スケジュール、サプライチェーン情報など、企業の競争力や国家のインフラに直結する極めて機密性の高い情報が含まれることが一般的です。これらの情報が外部に漏洩した場合、企業の競争力低下、信用失墜、法的な責任問題など、甚大な損害を被る可能性があります。そのため、翻訳を依頼する際には、翻訳会社が厳格な情報セキュリティポリシーを定め、技術的・物理的・人的な対策を徹底しているかを必ず確認すべきです。私どもは、お客様の機密情報を最高レベルで保護するため、徹底したセキュリティ管理を実践しています。

  11. 「総コスト」での評価と信頼できる翻訳会社の選定

    翻訳にかかる費用は、単純な料金だけでなく、翻訳後の社内での確認・修正にかかる時間や労力、そして将来的な紛争リスクといった「総コスト」で評価すべきです。初期費用が安価でも、翻訳品質が低ければ、結果的に大きな損失に繋がりかねません。実績、専門性、セキュリティ体制、そして提供されるサービスの質を総合的に判断し、貴社の国際プロジェクトにおける戦略的パートナーとして信頼できる翻訳会社を選定することが重要ですし、私どもはこのような観点から、お客様に安心してご利用いただける最適なサービスを提案しています。

  12. 現地の弁護士・コンサルタントとの連携

    翻訳された契約書をベースに、必ず現地の建設法、契約法、税法、特定の産業規制に詳しい弁護士やコンサルタントと連携し、契約内容の法的妥当性、税務上の影響、そしてリスクを最終確認することが不可欠です。翻訳は「理解の橋渡し」であり、最終的な法的判断は現地の専門家が行うべきです。

 

設計・施工一括請負契約書の翻訳は誰に必要なのか?ケーススタディで見る関係部門の役割

設計・施工一括請負契約書は、海外EPC/DBプロジェクトの成功を左右するため、多岐にわたる部門や関係者がその内容を理解し、翻訳された情報に基づいて連携することが不可欠です。

 

ケーススタディ1:海外大型プラント建設プロジェクトの発注(石油・ガス企業)

状況: 日本の石油・ガス企業が、東南アジアに新たなLNG(液化天然ガス)プラントを建設するため、国際的なEPCコントラクターと英文のEPC契約を締結するケース。

  • プロジェクトマネジメント部/海外事業部:

    • 必要性: プロジェクト全体の範囲、工期、契約金額、支払い条件、性能保証、遅延損害金、変更管理、リスク分担、引渡し要件など、プロジェクトの商業的・スケジュール的条件を詳細に確認します。プロジェクト全体の収益性、リスク、工期に直結するため、これらの内容を正確に反映した翻訳が不可欠です。

    • ケース: 契約書に記載された「LNGプラントの生産能力保証と、未達成の場合の違約金計算方法」や「工期遅延による遅延損害金の上限額」を和訳で確認し、プロジェクトの収益性評価とリスク管理を行います。過去には、性能保証に関する翻訳が不十分だったため、プラントが計画通りの生産性を達成せず、巨額の損害を被った事例がありました。私どもは、このような性能保証や遅延損害金に関する条項の正確な翻訳を特に重視しています。

  • 法務部:

    • 必要性: 契約全体の法的妥当性、リスク管理、特に責任の制限、補償条項、不可抗力、保険、契約解除条件、準拠法、紛争解決(国際仲裁)条項、税金・許認可の責任分担の適切性を確認します。東南アジアの建設関連法規、環境法、投資法、国際取引法規への対応が求められます。

    • ケース: 契約書に記載された「請負業者の間接損害に対する責任制限の範囲」や「国際仲裁の管轄地と仲裁規則」を和訳で確認し、法的リスクと紛争解決戦略を評価します。

  • エンジニアリング部/技術部:

    • 必要性: プラントの技術仕様、設計基準、品質管理基準、試運転手順、性能試験要件、引渡し後のメンテナンス要件など、技術的な詳細を厳密に確認します。

    • ケース: 契約書に記載された「適用される国際的な産業規格(例:ASME、API)」や「試運転中のプラント稼働率に関する規定」を和訳で確認し、技術的適合性と将来の運用・保守体制を確保します。

  • 経理部/財務部:

    • 必要性: 契約金額、支払いスケジュール、為替リスク、税金、関税など、財務上の全てのフローを確認し、適切な会計処理、資金計画、税務申告を行います。

    • ケース: 契約書に記載された「支払いマイルストーンとその達成基準」や「現地での税金負担の取り決め」を和訳で確認し、キャッシュフローと税務リスクを管理します。

ケーススタディ2:海外インフラ整備プロジェクトの受注(総合建設・エンジニアリング企業)

状況: 日本の総合建設・エンジニアリング企業が、アフリカ某国での大規模な道路・橋梁建設プロジェクトを、FIDICシルバーブックをベースとした英文の設計・施工一括請負契約で受注するケース。

  • 国際事業部/プロジェクトマネジメント部:

    • 必要性: プロジェクト全体の範囲、工期、契約金額、支払い条件、遅延損害金、変更管理、クレーム手続き、保険、税金・許認可の責任など、プロジェクトの商業的・スケジュール的条件を詳細に確認します。特に包括的な請負責任を理解し、リスクを適切に管理することが不可欠です。

    • ケース: 契約書に記載された「FIDICシルバーブックにおける請負業者の責任範囲」や「設計変更が発生した場合のコストと工期への影響評価方法」を和訳で確認し、プロジェクトの収益性とリスクを評価します。

  • 法務部:

    • 必要性: 契約全体の法的妥当性、リスク管理、特に責任の制限、補償条項、不可抗力、保険、契約解除条件、準拠法、紛争解決条項の適切性を確認します。アフリカ諸国の建設法規、労働法、環境法、投資法、そして国際プロジェクトの慣習への対応が求められます。

    • ケース: 契約書に記載された「工事中の第三者への損害に対する補償義務の範囲」や「紛争解決における国際仲裁の選択とその規則」を和訳で確認し、法的リスクと対応戦略を評価します。

  • 土木設計部/建設部:

    • 必要性: 道路・橋梁の設計基準、施工方法、品質管理基準、安全管理計画、地盤調査に関する規定、引渡し基準などを詳細に確認し、設計・施工計画を策定します。

    • ケース: 契約書に記載された「適用される国際土木基準(例:AASHTO)」や「橋梁の耐震設計基準」を和訳で確認し、技術的要件への適合性を確保します。

よくある質問(FAQ)

設計・施工一括請負契約書の翻訳に関して、お客様からよくいただくご質問とその回答をまとめました。

Q1: 設計・施工一括請負契約書における「性能保証(Performance Guarantees)」の条項は、翻訳でどのように注意すべきですか? 

A1: 性能保証は、完成したプラントや施設が発注者の期待する機能を果たすかを担保する、EPC/DB契約の核となる条項です。翻訳においては、保証される具体的な性能数値(例:生産量、効率、稼働率、排出基準など)、性能試験の実施方法、合格基準、そして性能が達成されなかった場合の具体的なペナルティ(例:性能不達成ペナルティ、違約金)、または最悪の場合の契約解除権を、技術的・法的に誤解の余地なく厳密に表現することが不可欠です。これにより、事業の投資回収率やプロジェクトの将来的な成功へのリスクを正確に把握できます。

Q2: 「遅延損害金(Liquidated Damages)for Delay」と「遅延損害金(Liquidated Damages)for Performance」の違いと翻訳の注意点は? 

A2: 「for Delay」は、工期遅延が発生した場合に請負業者が支払う損害金です。一方、「for Performance」は、完成物の性能が保証された基準を満たさなかった場合に請負業者が支払う損害金です。これらは異なる種類の損害に対するペナルティであり、翻訳時にはそれぞれの計算方法、適用条件、上限額を明確に区別して表現することが重要です。両者の混合や誤訳は、巨額の追加費用や紛争に繋がりかねません。

Q3: 国際的なEPC/DB契約で、「責任の制限(Limitation of Liability)と補償(Indemnification)条項」はなぜ重要視されますか? 

A3: EPC/DBプロジェクトは規模が大きく、発生しうる損害額も甚大です。翻訳においては、請負業者の過失や不作為によって生じた損害に対する責任範囲、責任上限額(Cap on Liability)、補償義務の範囲(例:直接損害のみか、間接損害も含むか、弁護士費用含むかなど)、そして発注者への補償義務の具体的な内容を厳密に表現することが極めて重要です。これにより、将来的な訴訟リスクと費用負担が明確になり、両当事者のリスクエクスポージャーが管理されます。

Q4: 契約期間中の「変更管理(Variations / Change Orders)」に関する条項は、どのように注意して翻訳すべきですか? 

A4: 大規模なプロジェクトでは、契約期間中に設計や工事内容の変更が発生することは避けられません。翻訳においては、変更を要求する・承認するプロセス、変更が契約金額や工期に与える影響の評価方法、変更命令の書面化義務、費用の評価方法、そして請負業者が追加費用や工期延長を請求するためのクレームの提出要件、手続きを厳密に表現することが重要です。不正確な翻訳は、追加費用を巡る紛争やプロジェクトの長期化を招く可能性があります。

Q5: 設計・施工一括請負契約書で「準拠法と紛争解決」の条項が非常に重要と言われるのはなぜですか? 

A5: 準拠法(Governing Law)は、契約の解釈、有効性、義務の履行、そして違反時の法的効果を判断する際に適用される法律です。EPC/DBプロジェクトは多国籍企業が関与し、様々な国の法制度が関連するため、契約に適用される法律の選定とその影響を正確に理解することが不可欠です。また、紛争解決方法として国際仲裁が一般的であり、その仲裁地、仲裁機関、仲裁規則、仲裁人の選定方法、仲裁判断の拘束力も極めて重要であり、専門的な知識をもって正確に翻訳・理解する必要があります。これにより、将来的な紛争解決のプロセスと費用が明確になります。

 

まとめ

設計・施工一括請負契約書の翻訳は、単なる言語の変換に留まらず、企業が国際市場で大規模なEPC/DBプロジェクトを安全かつ効率的に推進し、投資目標を達成するための極めて重要な戦略的要素です。英文と和文の契約書が持つそれぞれの特徴を深く理解し、プロジェクトマネジメント、法務、エンジニアリング、経理といった各部門が連携しながら、専門知識を持つ翻訳者の力を借りることが不可欠ですし、これまでの経験から私どもはこれを強く認識しています。

特に、プロジェクトの全範囲、性能保証とペナルティ、遅延損害金、責任の制限と補償、変更管理、そして準拠法と紛争解決といった条項は、潜在的なリスクを最小限に抑え、国際EPC/DBプロジェクトにおける継続的な成功への鍵となります。

 

私どもは、このような複雑な設計・施工一括請負契約書の翻訳において、貴社の各部門のニーズを理解し、最高品質の翻訳とサポートを提供することをお約束します。貴社の海外ビジネスにおけるEPC/DB契約や大規模プロジェクトに関してご不明な点やご相談がありましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。

 

WIPジャパンは、東京弁護士共同組合神奈川県弁護士共同組合をはじめとする全国23の弁護士共同組合の特約店に認定されています。
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契約書翻訳に役立つリンク集

法務省大臣官房司法法制部「法令翻訳の手引き」(PDF)
日本法令外国語訳推進会議「法令用語日英標準対訳辞書」(PDF)
Publiclegal(英文契約書のテンプレートや書式を無料で提供)
日本法令外国語訳データベースシステム(法務省が開設した日本の法令の英訳サイト)
weblio 英和辞典・和英辞典
英辞郎 on the web

 

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