今日のグローバルビジネスにおいて、企業買収(M&A)、事業譲渡、またはグループ内再編といった重要な取引では、単に資産を移転するだけでなく、関連する債務の取り扱いが極めて重要になります。ここで登場するのが債務引受契約書(Deed of Assumption of Liabilities / Debt Assumption Agreement)です。
この契約書は、ある当事者(債務者)が負っている債務を、別の当事者(引受人)が引き受けることを明確に合意するための法的な文書です。その正確な翻訳は、関係者間の認識齟齬を防ぎ、債務引受の法的有効性を確保し、将来の紛争リスクを最小限に抑えるために不可欠です。翻訳のミスや内容の理解不足は、引受人が意図しない債務を負う、債務者が免責されない、予期せぬ法的紛争、そして企業の信用失墜へと発展する重大なリスクをはらんでいます。
特に、国際的な債務引受においては、各国で異なる会社法、債権法、破産法、そして税法などが複雑に絡み合います。単に言葉を置き換えるだけでなく、それぞれの法制度や商慣習、そしてビジネス上のニュアンスを踏まえた上で内容を理解し、翻訳することが不可欠です。
当社は、これまでの経験に基づき、債務引受契約書翻訳における重要なポイントと、貴社の各部門がどのように翻訳された契約書を活用し、関与していくべきかを具体的なケーススタディを交えて解説します。
貴社のグローバル取引において、債務引受契約書の適切な理解と運用を通じて、リスクを正確に管理し、円滑な事業承継を実現するために、ぜひ本記事をお役立てください。
債務引受契約書とは何か?その目的と国際ビジネスにおける重要性
債務引受契約書(Deed of Assumption of Liabilities / Debt Assumption Agreement)は、ある債務者(原債務者:Original Debtor)が負っている債務を、第三者(引受人:Assignee / Assuming Party)が引き受けることを合意する文書です。
債務引受には主に二つの形態があります。
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免責的債務引受(Novation / Assumption of Liabilities with Release of Original Debtor): 原債務者が債務を免れ、引受人が新たに債務者となる形態。この場合、債権者の承諾が不可欠です。
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併存的債務引受(Concurring / Joint Assumption of Liabilities): 原債務者も引き続き債務を負い、引受人も債務者となる形態。債権者は原債務者と引受人の双方に債務の履行を請求できます。この場合、債権者の承諾は通常不要ですが、債権者にとって有利なため実務上問題となることは少ないです。
国際ビジネス環境において、この債務引受契約書は以下のような多岐にわたる場面で利用されます。
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M&A・事業譲渡: 企業買収や事業譲渡の際に、譲渡会社(または譲渡事業)が保有する特定の債務を、譲受会社が引き受ける場合。
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グループ内再編: 親会社が子会社の債務を引き受ける、または子会社間で債務を移転するなど、グループ全体の財務構造を最適化する目的。
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プロジェクトファイナンス: 特定のプロジェクトに関連する債務を、SPC(特別目的会社)や別の関連会社が引き受ける場合。
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企業の清算・再生: 企業の清算や事業再生の過程で、特定の債務を他の企業が引き受けることで、事業の継続性や債権者保護を図る場合。
債務引受契約書は、主に以下の重要な要素を含みます。
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当事者(Parties): 原債務者(Original Debtor)、引受人(Assuming Party)、そして免責的債務引受の場合は債権者(Creditor)。
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債務の特定(Identification of Liabilities / Assumed Debts): 引き受けられる債務の種類(貸付金、未払金、リース債務、保証債務など)、金額、債権者名、発生原因、関連契約書名、日付など、具体的に特定できる情報。将来発生しうる偶発債務の引受を定める場合もあります。
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債務引受の意思表示(Assumption of Liabilities): 引受人が特定された債務を引き受ける旨の明確な意思表示。
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債務引受の形態(Form of Assumption): 免責的債務引受(Novation)か併存的債務引受(Concurring Assumption)かを明確に記載。免責的債務引受の場合、原債務者の免責に関する債権者の同意が極めて重要です。
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対価(Consideration): 債務引受に対する対価(無償の場合もその旨を明記)。
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表明保証(Representations and Warranties): 原債務者が、引き受けられる債務の存在、有効性、金額などに関する保証。引受人が、債務を引き受ける権限、財務状況などに関する保証。
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債権者の同意(Creditor's Consent): 免責的債務引受の場合、債権者の承諾が必要である旨と、その承諾取得の責任。
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準拠法(Governing Law): 契約書の解釈と法的効力に適用される法律。特に国際取引では、引受債務の準拠法と引受契約書の準拠法を区別して検討する必要があります。
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紛争解決(Dispute Resolution): 契約書に関する紛争が発生した場合の解決方法(協議、調停、仲裁、裁判など)。
国際ビジネスにおける債務引受契約書の重要性は、以下の理由から非常に高いです。
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リスクと責任の明確化: 取引に関わる債務の所在を明確にし、誰がどの債務の履行責任を負うのかを法的に確定させます。
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事業譲渡・M&Aの円滑化: 債務の移転プロセスを法的かつ透明に進めることで、M&Aや事業譲渡のクロージングを円滑化し、取引後の混乱を避けます。
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財務健全性の確保: 不必要な債務を抱え込むことを防ぎ、企業のバランスシートを健全に保つための重要なツールとなります。
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法的確実性の確保: 異なる法制度下で、債務引受の有効性、対抗要件、当事者の権利義務を明確にすることで、法的紛争を回避します。
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債権者保護: 免責的債務引受においては、債権者の同意を必要とすることで、債権者の権利を保護します。
英文債務引受契約書(Assumption Agreement)の特徴と和文契約書との違い
国際的な債務引受取引では、多くの場合、英文で債務引受契約書(Assumption Agreement)が作成されます。その特徴は、日本の和文契約書とは異なる点がいくつかあります。
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Clear Distinction between "Novation" and "Assumption" (免責的債務引受と併存的債務引受の明確な区別): 英文契約では、債務引受が「Novation」(更改、免責的債務引受)であるか、それとも単なる「Assumption」(引受、併存的債務引受)であるかを極めて明確に区別し、それぞれの法的効果を具体的に記述します。Novationの場合は、債権者の明示的かつ書面による同意(express written consent)が必須であることが厳密に規定され、それがなければ原債務者は免責されないことが強調されます。これは日本の実務と共通する部分ですが、表現の厳密性が際立ちます。
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Precise Identification of Assumed Liabilities(引き受けられる債務の厳密な特定): 英文のAssumption Agreementでは、引き受けられる債務を極めて厳密かつ詳細に特定する努力がなされます。単に「一切の債務」と記載するだけでなく、債権者の名称、債務の種類(貸付金、リース債務、契約上の義務など)、金額、発生原因、関連契約書名、日付、保証の有無など、具体的に特定可能な情報を網羅的にリストアップするSchedule(別添)が用いられることが一般的です。偶発債務(Contingent Liabilities)の引受を定める場合も、その発生条件や範囲を具体的に記述します。
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Covenants (誓約事項) の具体性: 債務引受後の引受人の義務(債務の履行、債権者とのコミュニケーション、担保の維持など)や、原債務者の義務(引受人への情報提供協力など)が具体的に列挙されます。特に、債権者への通知(Notice)や承諾(Acknowledgement / Consent)に関する条項は、債務引受の対抗要件や法的有効性を確保するために厳密に記述されます。
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Indemnification (補償) Clause: 原債務者が、引き受けられた債務に関連して引受人に生じた損害や費用について補償する義務、または引受人が原債務者に生じた損害を補償する義務が、詳細に規定されることがあります。これは、債務引受に伴うリスクを当事者間で適切に配分する目的があります。
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Governing Law and Dispute Resolution (準拠法と紛争解決) の厳密な選択: 国際的な債務引受では、引受契約自体の準拠法と、引き受けられる原債務(Underlying Debt)の準拠法が異なる場合があるため、両者を明確に区別して指定します。また、契約に関する紛争が発生した場合に備え、準拠法と紛争解決のメカニズム(例:国際仲裁)が明確に指定されます。これは、債務引受の有効性や執行可能性に直結するため、極めて重要な要素です。
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Representations and Warranties (表明保証) の詳細な記述: 原債務者が、引き受けられる債務の存在、有効性、金額、債務不履行の有無などについて行う表明保証の範囲が非常に詳細に記述されます。また、引受人が、債務を引き受ける権限、財務状況、関連する法的承認の取得状況などについて表明保証することもあります。
日本の和文債務引受契約書に比べ、英文Assumption Agreementは、債務引受の形態(免責か併存か)の明確化、引き受けられる債務の厳密な特定、表明保証と誓約事項の詳細な記述、そして原債務と引受契約双方の準拠法の厳密な選択に関して、より厳密かつ戦略的な記述が求められる傾向が強いです。翻訳においては、これらの法的・商業的なニュアンスを正確に反映した表現を用いることが不可欠です。
債務引受契約書翻訳における重要ポイント
債務引受契約書(Debt Assumption Agreement)の翻訳は、貴社のグローバル取引におけるリスク管理、財務の明確化、そして法的確実性の確保に直接影響するため、極めて高い精度と専門性、そして法務、財務、事業といった多様な部門の連携と視点が求められます。以下のポイントを押さえることが、成功への鍵となります。
債務引受の形態(免責的か併存的か)の極めて明確な翻訳
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これが債務引受契約書の最も重要な法的要素です。原債務者が債務を免れる「免責的債務引受(Novation)」なのか、それとも原債務者も引き続き債務を負う「併存的債務引受(Concurring Assumption)」なのかを、一言一句誤りなく、法的効果が明確に伝わるように翻訳することが不可欠です。特に免責的債務引受の場合、債権者の同意が必須である旨が明確に訳されているかを確認し、当社はこれを強く認識しています。この部分の誤訳は、予期せぬ債務リスクや法的紛争につながります。
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引き受けられる債務の正確かつ網羅的な特定
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引き受けられる債務が、金額、債権者名、発生原因、関連する契約書や請求書番号、発生日、支払期日、保証の有無など、一意に特定できる情報で漏れなく記載されているかを厳密に翻訳することが不可欠です。将来発生しうる偶発債務(Contingent Liabilities)の引受を定める場合は、その発生条件や範囲を明確に訳す必要があります。特に別添(Schedule)で詳細がリストアップされている場合は、その内容も正確に反映します。
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債権者の同意(Creditor's Consent)に関する条項の厳密な翻訳
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免責的債務引受の場合、債権者の同意の要件(書面による明示的な同意など)と、その同意が取得されない場合の法的効果について、正確に翻訳することが極めて重要です。債権者の同意なしに原債務者が免責されることはありません。
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表明保証(Representations and Warranties)条項の厳密な翻訳
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原債務者が債務の存在や有効性について行う保証の内容、および引受人が債務引受の権限や財務状況について行う保証の内容を、一言一句正確に翻訳することが不可欠です。これらの表明保証違反は、当事者が損害賠償責任を負う原因となるため、その範囲を正確に理解できるよう訳します。
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準拠法(Governing Law)と紛争解決(Dispute Resolution)の正確な指定
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債務引受契約書自体の準拠法と、引き受けられる原債務の準拠法を明確に区別し、それぞれの指定が正確に翻訳されているかを確認します。また、契約に関する紛争が発生した場合に備え、適用される法律と紛争解決の手段(裁判、国際仲裁など)、裁判管轄、仲裁地などを正確に翻訳することが不可欠です。
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強固な情報セキュリティ体制
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債務引受契約書には、企業の財務情報、取引先情報、債務者の個人情報など、極めて機密性の高い情報が含まれます。これらの情報が外部に漏洩した場合、企業の法的責任問題、信用失墜、ビジネス上の損害など、甚大な影響を被る可能性があります。そのため、翻訳を依頼する際には、翻訳会社が厳格な情報セキュリティポリシーを定め、技術的・物理的・人的な対策を徹底しているかを必ず確認すべきですし、当社はこれを徹底しています。
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AI翻訳の適切な活用と専門家による最終確認
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AI翻訳技術は、初稿の作成や定型表現の翻訳に役立ち、翻訳プロセスを効率化できますが、債務引受契約書のような法的拘束力、複雑な法務・財務上のニュアンス、各国法制度の違いが極めて重要な文書においては、その複雑な意味合いを完全に理解することは困難です。AIを効率化ツールとして最大限活用しつつも、国際契約法務、財務、当該ビジネス分野の専門知識を持つ専門の翻訳者による徹底したレビューと校正が不可欠です。人間による精査が、潜在的なリスクを最小限に抑え、グローバル取引の法的確実性を確保します。
債務引受契約書翻訳は誰に必要なのか?ケーススタディで見る関係部門の役割
債務引受契約書は、企業の財務、法務、事業戦略に深く関わる文書であり、多岐にわたる部門や関係者がその内容を理解し、翻訳された情報に基づいて連携することが不可欠です。
ケーススタディ1:日本企業が米国子会社の債務を免責的に引き受ける
状況: 日本の親会社A社が、経営再編の一環として、米国の完全子会社B社が負っている米国銀行からの借入金債務を免責的に引き受ける。債権者である米国銀行の同意も得て、英語で債務引受契約書(Deed of Assumption of Liabilities)を締結。この契約書を、日本のA社本社関係者(法務部、財務部、経営層)向けに日本語に翻訳する必要がある。
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法務部: 必要性: 債務引受の法的有効性(米国法と日本法における手続き)、特に「免責的債務引受」であることを明確に確認し、B社が確実に債務から解放されるか、A社が債務を正確に引き継ぐかを確認します。債権者である米国銀行の同意の形式と有効性、表明保証の範囲、準拠法(米国ニューヨーク州法)と紛争解決条項の適切性を詳細に確認します。 ケース: 翻訳された契約書に記載された「本契約が「Novation」であり、B社の債務が完全に免責される旨の明確な記述」、「米国銀行からの書面による同意が添付されているか、または本契約中にその同意が明記されているか」、「A社が引き受ける借入金債務の金額、元本、利息、期限、および関連するローン契約書の特定」を和訳で確認し、法的リスクとコンプライアンスを評価します。
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財務部/経理部: 必要性: 引き受ける債務の金額、返済スケジュール、金利条件、為替リスク、そしてそれに伴う財務処理(連結決算への影響、税務上の取り扱いなど)を正確に理解します。資金計画への影響と適切な会計処理に責任を持ちます。 ケース: 翻訳された契約書に記載された「引き受けられる借入金の具体的な金額(例:500万ドル)と償還スケジュール」、「金利(例:SOFR + 〇%)」、「A社が債務引受によって計上する財務上のインパクト(負債の増加、利息費用など)」を和訳で確認し、財務計画への影響と会計・税務コンプライアンスを評価します。
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経営層: 必要性: 今回の債務引受が、グループ全体の財務健全性、効率化、そして将来の事業戦略にどのように貢献するかを評価します。子会社B社の再編計画と連携し、リスクとメリットを総合的に判断します。 ケース: 翻訳された契約書に記載された「本債務引受がB社の事業再編計画の一環である旨」、「グループ全体の資金管理効率化への貢献」、「債務引受に伴う新たな財務リスクと、それに対するA社の対応方針」を和訳で確認し、企業統治と戦略への影響を評価します。
ケーススタディ2:企業買収において、買い手企業が売り手企業の一部債務を併存的に引き受ける
状況: 日本の中堅企業C社が、タイのソフトウェア開発企業D社の事業の一部を譲り受ける事業譲渡契約を締結。同時に、D社がタイの銀行から受けていた特定の設備ローン債務をC社が併存的に引き受けることになった。タイ語で債務引受契約書(Assumption Agreement)を締結。この契約書を、日本のC社本社関係者(法務部、財務部、M&A推進チーム)向けに日本語に翻訳する必要がある。
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法務部: 必要性: 債務引受が「併存的」であることを明確に確認し、D社の債務が免責されないこと、C社とD社が連帯して債務を負うことの法的意味合いを正確に把握します。タイの債務引受に関する法制度(債権者の同意の要否など)を理解し、準拠法(タイ法)と紛争解決条項の適切性を確認します。 ケース: 翻訳された契約書に記載された「本契約が「併存的債務引受」である旨の明確な記述」、「C社が引き受ける設備ローン債務の具体的特定(債権者、金額、期限、関連契約など)」、「タイ法が準拠法であり、タイの裁判所が紛争解決の管轄となる条項」を和訳で確認し、法的リスクとコンプライアンスを評価します。
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財務部/M&A推進チーム: 必要性: 引き受ける債務の金額、返済スケジュール、金利、そして事業譲渡全体の対価との関連性、税務上の影響を正確に理解します。事業譲渡後の事業計画における財務負担を評価します。 ケース: 翻訳された契約書に記載された「引き受けられる設備ローン債務の残高と、今後の返済計画」、「C社が引き受ける債務が、事業譲渡対価にどのように影響するか」、「債務引受に伴う新たな財務上の負債と、そのキャッシュフローへの影響」を和訳で確認し、M&A後の財務計画とリスクを評価します。
よくある質問(FAQ)
債務引受契約書(Debt Assumption Agreement)の翻訳に関して、お客様からよくいただくご質問とその回答をまとめました。
Q1: 「免責的債務引受(Novation)」と「併存的債務引受(Concurring Assumption)」の翻訳上の違いと、それぞれで最も注意すべき点は何ですか?
A1: この二つの債務引受の形態は、法的な効果が大きく異なるため、翻訳においては極めて慎重な表現が求められます。
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免責的債務引受(Novation):
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法的効果: 原債務者が債務から完全に解放され、引受人が新たな債務者となります。債権者の明確な同意が必須であり、これがなければNovationは成立しません。
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翻訳上の注意点: 「release and discharge(免責し、解除する)」「substitute(代替する)」「consent of creditor is required(債権者の同意が必要である)」といった表現を、その法的効果を正確に伝えるように訳します。特に債権者の同意が書面で明示されているか、その旨が本契約書に明記されているかを厳密に確認し、訳出することが重要です。
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併存的債務引受(Concurring Assumption / Joint Assumption):
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法的効果: 原債務者も引き続き債務を負い、引受人も連帯して債務を負います。債権者は原債務者と引受人の双方に債務の履行を請求できます。通常、債権者の同意は不要です。
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翻訳上の注意点: 「assume jointly and severally(連帯して引き受ける)」「without releasing the Original Debtor(原債務者を免責することなく)」といった表現を、連帯責任の概念を明確に伝えるように訳します。
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この区別を誤ると、原債務者が意図せず債務から免れない、あるいは引受人が本来負うべきでない債務を負うといった重大な結果を招く可能性があります。
Q2: 引き受けられる「債務の特定」において注意すべき点は何ですか?
A2: 引き受けられる債務は、後日の紛争を避けるためにも、極めて具体的かつ明確に特定される必要があります。
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個別特定: 「一切の債務」のような包括的な表現は避けるべきです。債権者の名称、債務の種類(例:銀行からの貸付金、仕入先への買掛金、リース債務、従業員への未払賃金)、金額、発生原因、関連する契約書名、契約日、期日、担保設定の有無、保証の有無など、具体的な情報を漏れなく記載し、訳出します。
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偶発債務(Contingent Liabilities): 将来発生する可能性のある債務(例:訴訟中の損害賠償債務、製品保証責任)を引き受ける場合は、その発生条件、範囲、金額の上限などを明確に特定し、訳出します。これにより、引受人が予期せぬ巨額の債務を負うリスクを軽減します。
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別添(Schedule)の活用: 多数の債務を引き受ける場合は、契約書本文で包括的に引受意思を表明し、詳細なリストを別添として添付するのが一般的です。この別添も、翻訳の対象であり、番号や金額の誤記がないよう、細心の注意を払う必要があります。
翻訳においては、これらの特定要件をターゲット言語の法的要件に合致する形で、厳密かつ正確に表現することが不可欠です。
Q3: 債務引受契約書(Debt Assumption Agreement)の翻訳を依頼する際、どのような情報を提供すれば、より良い翻訳が得られますか?
A3: より高品質な債務引受契約書翻訳のために、以下の情報を提供いただけると非常に役立ちます。
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取引の背景と目的: なぜこの債務引受を行うのか(M&A、事業譲渡、グループ再編など)を理解することで、翻訳者は文書のニュアンスをより正確に捉えられます。
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引き受ける債務の具体的内容: 債権者情報、原債務が発生した契約書(例:ローン契約、リース契約)、債務残高、返済スケジュールなどの詳細情報があれば、債務の特定がより正確になります。
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関与する当事者の情報: 原債務者、引受人、債権者の企業名、事業内容、国籍、関係性などを知ることで、適切な固有名詞の使用や、ビジネス上の意味合いを理解する手助けになります。
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関連する契約や文書: 原債務が発生した契約書、関連する事業譲渡契約書、M&A契約書などがあれば、用語の一貫性を保ち、法的な背景を深く理解するのに役立ちます。
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特定の専門用語集: 業界固有の財務用語、法務用語、社内略語など、事前に用語集があれば、翻訳の一貫性と正確性が向上します。
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翻訳の目的: 内部承認用なのか、債権者への提示用なのか、あるいは公証が必要なのかなど、翻訳の最終的な用途を伝えることで、翻訳のスタイルやレベルを調整できます。
Q4: AI翻訳を債務引受契約書(Debt Assumption Agreement)の翻訳に活用する際の注意点は何ですか?
A4: AI翻訳は、初稿の作成や定型表現の翻訳に非常に役立ち、翻訳プロセスを効率化できますが、債務引受契約書のような法的拘束力、複雑な法務・財務上のニュアンス、各国法制度の違いが極めて重要な文書に単独で使用することは強く推奨されません。
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法的表現の正確性: AIは、「免責的」と「併存的」といった債務引受の法的性質の違い、債務の特定、債権者の同意に関する各国の法的要件の複雑なニュアンスを完全に理解し、正確に表現できないリスクがあります。これが最も致命的な誤訳につながる可能性があります。
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財務・会計用語の精度: 引き受ける債務の金額、返済スケジュール、金利、為替リスク、税務上の取り扱いなど、複雑な財務・会計用語や概念をAIが正確に翻訳できないことがあります。
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文脈と意図の欠落: 債務引受の背景にある具体的なビジネス上の目的、当事者間の交渉の経緯といった繊細な文脈をAIが正確に把握できるとは限りません。
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秘密保持とセキュリティ: 債務引受契約書には極めて機密性の高い財務情報や取引先情報が含まれるため、AI翻訳サービスへのアップロード方法や、データの取り扱いに関するセキュリティ体制を慎重に確認する必要があります。
したがって、AI翻訳を効率化ツールとして最大限活用しつつも、必ず国際契約法務、財務、当該ビジネス分野の専門知識を持つ専門の翻訳者による徹底したレビューと校正を行うことが不可欠です。当社は、AIと専門家の人力翻訳を組み合わせることで、高品質かつ効率的な翻訳を提供しています。
まとめ
債務引受契約書(Debt Assumption Agreement)の翻訳は、単なる言語の変換に留まらず、企業がグローバルなM&A、事業譲渡、グループ内再編を円滑に進める上で、リスクを正確に管理し、法的確実性を確保するための極めて重要なプロセスです。
英文と和文の債務引受契約書が持つそれぞれの特徴を深く理解し、法務、財務、事業といった各部門が連携しながら、専門知識を持つ翻訳者の力を借りることが不可欠ですし、これまでの経験から当社はこれを強く認識しています。
特に、債務引受の形態(免責的か併存的か)の極めて明確な翻訳、引き受けられる債務の正確かつ網羅的な特定、債権者の同意に関する条項の厳密な翻訳、そして強固な情報セキュリティ体制といったポイントは、潜在的なリスクを最小限に抑え、グローバル取引におけるリスクと責任を正確に引き継ぎ、健全な事業運営を確実なものとするための鍵となります。
当社は、このような複雑な債務引受契約書(Debt Assumption Agreement)の翻訳において、貴社の各部門のニーズを理解し、最高品質の翻訳とサポートを提供することをお約束します。貴社の海外ビジネスにおける債務引受契約書に関してご不明な点やご相談がありましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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契約書翻訳に役立つリンク集
・法務省大臣官房司法法制部「法令翻訳の手引き」(PDF)
・日本法令外国語訳推進会議「法令用語日英標準対訳辞書」(PDF)
・Publiclegal(英文契約書のテンプレートや書式を無料で提供)
・日本法令外国語訳データベースシステム(法務省が開設した日本の法令の英訳サイト)
・weblio 英和辞典・和英辞典
・英辞郎 on the web
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