グローバルビジネスの舞台で、中東・北アフリカ(MENA)地域は目覚ましい成長を遂げており、多くの日本企業にとって魅力的な市場となっています。しかし、この地域とのビジネス展開において、「英語契約書があれば大丈夫」という考えは非常に危険です。なぜなら、アラブ諸国はイスラム法(シャリーア)の影響を強く受けた独自の法体系と、ヨーロッパのそれとは大きく異なる商習慣、そして何よりもアラビア語という特有の言語を持つからです。
特にアラビア語契約書の翻訳は、単なる言語の置き換えに留まらず、イスラム法原則、各国の民法典(多くは大陸法系をベースとしつつシャリーアの要素を組み込んでいる)、商法典、そして現地のビジネス慣習への深い理解が不可欠です。これらの要素を無視した翻訳は、契約の解釈、履行、そして紛争解決において深刻な問題を引き起こす可能性があります。
長年の国際契約書翻訳の経験に基づき、日本企業がアラブ諸国の企業と契約を交わす際に直面する「アラビア語契約書 翻訳」の重要性、その特有の法的背景、準拠法、紛争解決、そして言語戦略の観点から、具体的な対応策を深掘りして解説します。ヨーロッパの法制度とは一線を画すアラブ諸国の法と文化を理解し、ビジネスを成功に導くための羅針盤となる情報を提供します。
1. 知っておくべきアラブの法体系:ヨーロッパとの根本的な違い
アラブ諸国の法体系を理解することは、アラビア語契約書を取り扱う上で最も重要な前提となります。ヨーロッパの多くの国が採用する大陸法や英米法とは異なり、アラブ諸国の法制度は、多くの場合、イスラム法(シャリーア)を根幹としています。
イスラム法(シャリーア)の影響
シャリーアは、単なる宗教法規ではなく、イスラム教徒の生活全般を律する規範体系です。契約法においても、以下の点でヨーロッパの法制度とは明確な違いが見られます。
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リバー(Riba / 利息の禁止): イスラム法では、利息(リバー)を取ること、または支払うことが原則として禁止されています。この原則は、金融取引、ローン契約、遅延損害金などに大きな影響を与えます。アラビア語契約書においては、利息に相当する規定をどのように代替するかが重要な検討事項となります。
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ガラール(Gharar / 不確実性の禁止): あまりにも不確実性の高い契約は無効とされることがあります。例えば、目的物が特定されていない、将来の不確実な事象に過度に依存するような契約は、ガラールに該当する可能性があります。
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マイスィル(Maysir / 射倖的取引の禁止): ギャンブルや投機的な要素の強い取引は禁じられています。
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誠実義務の強調: 契約当事者双方の誠実な行動が強く求められます。
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神の意思への服従: 最終的な判断は神の意思に委ねられるという考え方があり、不可抗力(Force Majeure)の解釈などに影響を与えることがあります。
各国の法典とシャリーアの統合
現代のアラブ諸国では、多くの場合、近代的な民法典や商法典が整備されています。これらの法典は、エジプト法やフランス法など、大陸法系の影響を受けていることが多いですが、シャリーアの原則が重要な規範として組み込まれています。そのため、アラビア語契約書の解釈においては、成文法だけでなく、シャリーアの解釈に通じた専門家の知識が不可欠となる場合があります。また、国によってシャリーアの適用度合いや法典の内容が異なるため、契約相手国の法制度を正確に把握することが極めて重要です。
商習慣と文化的背景
法制度の違いに加えて、アラブ諸国の商習慣や文化的背景も、契約の交渉や履行に大きな影響を与えます。例えば、口頭での合意が重視される、人間関係や信頼が契約以上に重要視される、交渉に時間がかかる、といった特徴が見られます。アラビア語契約書の翻訳においても、これらの文化的ニュアンスを理解し、適切な表現を用いることが、円滑なビジネス関係構築に繋がります。
2. 契約の「羅針盤」:準拠法(القانون الواجب التطبيق / Al-Qanun al-Wajib al-Tatbiq)の選び方
アラビア語契約書の解釈、有効性、履行、そして違反時の法的効果などを決定するために適用される法律、それが準拠法です。日本企業とアラブ諸国の企業間のアラビア語契約書において、この準拠法の選択は、契約関係の方向性を決定づける最も重要な要素の一つです。ただし、上記のような法体系の違いから、ヨーロッパとの契約以上に慎重な検討が必要です。
選択肢とそれぞれの特徴・留意点
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日本法を準拠法とする場合
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メリット: 日本企業にとって最も馴染み深く、自社の法務部門や顧問弁護士がアラビア語契約書の日本語訳内容を容易に理解し、リスクを評価できます。予測可能性が高く、国内の法務リソースを最大限に活用できます。
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デメリット: アラブ諸国の企業にとっては外国法となるため、内容の理解に専門的なサポートが必要となり、交渉が難航する可能性があります。また、万が一紛争がアラブ諸国で発生し、現地の裁判所が関与する場合、外国法(日本法)の適用や強制執行には、時間とコスト、そして手続き上の複雑さが伴うことがあります。特に、シャリーアの原則と矛盾する条項は、現地の裁判所によって無効と判断されるリスクがあります。
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契約相手国法を準拠法とする場合
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メリット: 相手方企業にとっては自国法であり、理解しやすいため、アラビア語契約書として締結することで国内での法的執行が比較的スムーズに進む可能性があります。その国でのビジネス展開を重視する場合や、相手方企業側の交渉力が強い場合に選択されることがあります。
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デメリット: 日本企業にとっては、契約相手国の法律に関する専門知識が不可欠です。シャリーアの原則、各国の民法典・商法典、そして特有のビジネス慣習を深く理解していなければ、予期せぬ落とし穴にはまるリスクがあります。特に、利息の禁止、不確実性の禁止など、イスラム法に由来する原則は、ヨーロッパの法制度とは大きく異なるため注意が必要です。アラビア語契約書の条文がアラビア語であるため、より一層の専門知識と正確なアラビア語契約書 翻訳が求められます。
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第三国法を準拠法とする場合
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メリット: 英国法(特にイングランド法)や米国ニューヨーク州法など、国際商取引で広く受け入れられている法律を選択するパターンです。これらの法律は国際的な判例が豊富に蓄積されており、契約解釈の予測可能性が高いという大きなメリットがあります。どちらの当事者にとっても外国法であるため、中立性が保たれやすいと認識されることもあります。
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デメリット: 当事者双方にとって外国法となるため、双方ともにその法律に精通した専門家(国際弁護士など)のサポートが必須となり、法務コストが増大する可能性があります。また、第三国法がシャリーアの原則と大きく異なる場合、アラブ諸国の裁判所での執行に課題が生じる可能性も考慮に入れる必要があります。
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準拠法選択の経験的アドバイス
アラブ諸国とのアラビア語契約書における準拠法の選択は、取引の性質、当事者の交渉力、取引額、リスクの度合いに加えて、シャリーアの原則との整合性、将来的な紛争発生時の執行の容易さなどを総合的に考慮して決定すべきです。中立性や国際的な執行可能性を重視し、国際仲裁と組み合わせる形で第三国法(例:英国法)を選択するケースも見られますが、その場合でもシャリーアの原則を尊重する条項を入れるなどの工夫が必要となることがあります。
3. 万が一の「出口戦略」:紛争解決(تسوية المنازعات / Taswiyat al-Munaza'at)の選択肢
どれだけ完璧なアラビア語契約書を作成しても、予期せぬ事態や解釈の相違から紛争が発生する可能性はゼロではありません。そのため、契約締結時に、紛争が起きた際の解決方法を具体的に定めておく「出口戦略」は極めて重要です。ヨーロッパとの取引と比較して、アラブ諸国では伝統的な解決方法も根強く残っています。
主要な紛争解決手段
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友好的解決・調停(تسوية ودية / Taswiyat Wudiyyah、وساطة / Wasatah)
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アラブ社会では、紛争を裁判沙汰にすることを避け、当事者間の話し合いや第三者(信頼できる長老や宗教指導者など)の仲介による友好的な解決を重視する傾向が強くあります。アラビア語契約書においても、まずは友好的な解決を試みる旨の条項が設けられることがあります。
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裁判(التقاضي / Al-Taqadhi)
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日本の裁判所: 日本企業にとっては有利な立場ですが、アラブ諸国の企業が判決に従わない場合、現地でその判決を強制執行するには、別途「外国判決の承認及び執行」という複雑な手続きが必要です。アラブ諸国での外国判決の承認・執行は、国の法制度や国際条約の状況によって大きく異なり、一般的にハードルが高いと言えます。特に、シャリーアの原則に反する判決は執行が難しい場合があります。
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契約相手国の裁判所: 現地での執行は比較的容易ですが、日本企業にとっては現地の司法制度に関する知識や、アラビア語契約書の解釈において言語の壁が存在します。現地の法務知識と裁判実務に精通した弁護士の存在が不可欠であり、日本の常識が通用しない場面も想定されます。また、司法制度の透明性や予測可能性は国によって差がある点も考慮すべきです。
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国際仲裁(التحكيم الدولي / Al-Tahkim al-Duwali)
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国際商取引における紛争解決手段として、推奨される選択肢の一つです。特に日本とアラブ諸国のように法制度が大きく異なる国同士の取引でその優位性が際立ちます。
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メリット:
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中立性: 特定の国の司法制度に依存せず、中立的な仲裁地(ロンドン、パリ、シンガポール、香港、そしてドバイ国際金融センター(DIFC)、アブダビ国際金融センター(ADGM)、バーレーン商工会議所仲裁センター(BACIIC)など)と国際的に信頼性の高い仲裁機関を選択できます。これにより、特定の国の裁判所での「ホームアドバンテージ」を避けることができます。
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専門性: 複雑な商取引や技術的な紛争において、その分野の専門知識を持つ仲裁人を選任することが可能です。
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執行可能性: 多くの国がニューヨーク条約(外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約)に加盟しており、日本と多くのアラブ諸国も加盟しています。これにより、一国の仲裁機関で下された仲裁判断は、加盟国である相手国でも比較的容易に強制執行することができます。
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秘密保持: 仲裁手続きは原則非公開であり、ビジネス上の機密情報が守られやすいです。
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注意点: 仲裁条項の作成には専門知識が必要です。仲裁機関、仲裁地、仲裁言語(アラビア語を選択することも可能ですが、英語が一般的です)、仲裁人の数などを具体的に定める必要があります。仲裁判断がシャリーアの原則と大きく矛盾する場合、執行に課題が生じる可能性もゼロではありません。
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紛争解決条項設定の経験的アドバイス
日本企業とアラブ諸国の企業間のアラビア語契約書では、国際仲裁を選択することが現実的で安全な選択肢の一つと言えます。特に、ニューヨーク条約の枠組みを利用することで、相互の執行可能性を高めることができます。仲裁地としては、中立性が高く、国際仲裁の実績が豊富なドバイ国際金融センター(DIFC)やアブダビ国際金融センター(ADGM)などが有力な選択肢となります。
4. 言葉の壁を越える:アラビア語契約書 翻訳の戦略と重要性
アラビア語契約書がどの言語で作成され、どの言語が正文となるかは、契約内容の正確な理解と将来的な解釈の齟齬を防ぐ上で非常に重要です。「英語契約書があれば十分」という考えは、アラブ諸国とのビジネスにおいては特に大きなリスクを伴います。
主要な言語パターンとアラビア語契約書 翻訳の役割
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日本語とアラビア語(いずれか、または双方が正文)
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活用場面: 双方の母国語での詳細な理解を重視する場合に、アラビア語契約書または日本語契約書が用いられます。
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留意点: どちらかの言語(例:アラビア語版)を正文とし、もう一方(例:日本語版)を参考訳とすることが一般的です。両言語を正文とする場合は、解釈の齟齬が生じた際の優先順位(例:「アラビア語版が優先する」)を明確に定める「優先言語条項」を必ず盛り込む必要があります。アラビア語契約書 翻訳の品質が直接、法的リスクに直結します。アラブ諸国の法の概念、特にシャリーアの原則を正確に日本語で表現できるかが重要です。また、アラビア語は方言が非常に多様ですが、契約書においては通常、標準アラビア語(MSA - Modern Standard Arabic / اللغة العربية الفصحى المعاصرة)が用いられます。
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英語を正文とし、日本語・アラビア語の参考訳を作成
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活用場面: 国際ビジネスで一般的なパターンですが、アラブ諸国では注意が必要です。英語が国際的な法的文書の標準語として広く認知されているため、専門家によるレビューもしやすく、将来的な国際訴訟や仲裁においても用いられます。
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留意点: 英語が唯一の正文となる場合でも、アラブ側の当事者がアラビア語契約書の翻訳を求め、それを理解の基礎とするケースが多くあります。このアラビア語契約書 翻訳の質が低いと、誤解や紛争の原因となり得ます。また、強行法規の中には、アラビア語での記載を求めるものや、アラビア語の解釈を優先するものも存在し得るため、注意が必要です。
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アラビア語のみを正文とする
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活用場面: アラブ諸国内での取引や、契約相手の交渉力が非常に強い場合に採用されます。
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留意点: アラビア語が唯一の正文である場合、日本企業はアラビア語の法的文書を完全に理解できる体制を構築する必要があります。後述の強行法規が適用される場合は、英語契約書のみでは不十分となる可能性も否めません。
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アラビア語契約書 翻訳における専門性
言語戦略の選択に関わらず、アラビア語契約書の専門翻訳は極めて重要です。ヨーロッパ言語間の翻訳とは異なる、以下のような特別な注意が必要です。
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法的・専門用語の正確性: シャリーアに由来する用語(例:Murabaha、Ijara、Takafulなど)、各国の民法典・商法典に特有の用語は、単なる直訳では法的意味合いを正確に伝えられません。アラブ諸国の法の概念と日本の法概念、そして英語の概念を理解し、その国の法律や商慣習に合致した適切な用語選択と表現が必要です。
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ニュアンスの理解: アラビア語は、文脈や宗教的・文化的な背景によって言葉のニュアンスが大きく変わることがあります。法律文書においては、曖昧さを避け、正確な意味を伝える翻訳が求められます。
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書式と構造: アラビア語は右から左へ記述するため、契約書の書式や構造がヨーロッパの言語とは異なる場合があります。専門の翻訳者は、これらの書式にも精通している必要があります。
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認証と公証: アラブ諸国では、契約書の認証や公証の手続きがヨーロッパとは異なる場合があります。翻訳された契約書が法的に有効となるためには、これらの手続きに関する知識も必要となります。
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E-E-A-T原則に基づいた翻訳: 経験、専門知識、権威性、信頼性(E-E-A-T)を重視し、翻訳者も法務や金融分野での実務経験を持つプロフェッショナルが担当します。特に、イスラム金融や投資に関する契約では、シャリーアの知識を持つ翻訳者が不可欠です。
5. 具体的な「実践」:ケーススタディで見るアラビア語契約書の落とし穴と成功例
アラブ諸国とのビジネスにおける契約戦略は、ヨーロッパとの取引とは異なる視点が必要です。具体的なケーススタディを通して、準拠法、紛争解決、言語選択の重要性を深掘りします。
ケーススタディ1:UAE企業との不動産開発契約
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状況: 日本の建設会社A社が、UAEの不動産開発会社B社と共同で大規模な商業施設を建設する合弁事業契約を締結するケース。土地所有権、建設許可、資金調達(イスラム金融を含む可能性)、利益分配、紛争解決、そしてUAEの不動産法規やイスラム法原則が主要な論点。
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課題と検討ポイント:
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準拠法: UAEの不動産法規とイスラム法原則を考慮し、UAE法を準拠法とすることで合意。A社はUAE法、特に不動産法とイスラム金融に精通した国際弁護士を起用し、契約条項を詳細に交渉しました。リバー禁止の原則に抵触しない資金調達方法、ガラールやマイスィルを排除した利益分配条項などが重要となります。
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紛争解決: 専門的な紛争が予想されるため、ドバイ国際金融センター(DIFC)の仲裁を選択。DIFCは国際的な仲裁機関としての信頼性が高く、英語を仲裁言語として選択できるため、A社にとって有利な選択肢となります。
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言語: 法的拘束力とUAE国内での執行を重視し、アラビア語を正文とし、日本語と英語の参考訳を作成。特に土地所有権、建設許可、資金調達、利益分配に関する規定は、UAEの法制度とイスラム法原則に合致した厳密なアラビア語契約書 翻訳が求められました。
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成功要因: UAE法とイスラム法原則の適用を受け入れる一方で、重要なリスクポイントについては、UAE法の下で最大限自社の利益を保護できるよう専門家のアドバイスを受けながら交渉した点。また、国際的な仲裁機関を選択することで、紛争解決の効率性と執行可能性を高めました。
ケーススタディ2:サウジアラビア企業への技術ライセンス契約
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状況: 日本のIT企業C社が、サウジアラビアの通信会社D社に対し、特定のAI技術を通信インフラに利用するための技術ライセンス契約を締結するケース。知的財産権の保護、ライセンス範囲、ロイヤリティ計算、データ保護(サウジアラビアのデータ保護法)、紛争解決、そしてサウジアラビアの知的財産法規やイスラム法原則が主要な論点。
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課題と検討ポイント:
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準拠法: サウジアラビアの知的財産法規とイスラム法原則を考慮し、サウジアラビア法を準拠法とすることで合意。C社はサウジアラビア法に精通した弁護士を起用し、特に知的財産権の保護、ライセンス範囲、責任制限、データ保護に関する条項を詳細に交渉しました。
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紛争解決: サウジアラビア国内での執行を考慮し、まずはサウジアラビアの裁判所を紛争解決の第一審としつつ、執行可能性を高めるために国際仲裁を最終的な解決手段として定める条項を盛り込みました。
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言語: 法的拘束力とサウジアラビア国内での執行を重視し、アラビア語を正文とし、日本語と英語の参考訳を作成。特にライセンス範囲、ロイヤリティ計算、知的財産権の保護に関する規定は、サウジアラビアの法制度とイスラム法原則に合致した厳密なアラビア語契約書 翻訳が求められました。
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成功要因: サウジアラビア法とイスラム法原則の適用を受け入れる一方で、重要なリスクポイントについては、サウジアラビア法の下で最大限自社の利益を保護できるよう専門家のアドバイスを受けながら交渉した点。また、段階的な紛争解決条項を設けることで、柔軟な対応を可能にしました。
6. よくある質問(FAQ):アラビア語契約書 翻訳に関する疑問を解消
日本企業のお客様からよくいただく、アラビア語契約書に関するご質問とその回答をまとめました。
Q1: 「英語契約書があれば十分」という考えは、アラブ諸国とのビジネスにおいてなぜ危険なのですか?
A1: アラブ諸国では、イスラム法(シャリーア)の影響を受けた独自の法体系が存在し、ヨーロッパの法制度とは大きく異なります。利息の禁止(リバー)、不確実性の禁止(ガラール)など、シャリーアの原則に反する条項は無効とされる可能性があります。また、現地の強行法規や商習慣も英語契約書だけではカバーできません。アラビア語契約書とその正確な理解が不可欠です。
Q2: アラビア語契約書を正文とするメリット・デメリットは何ですか?
A2:
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メリット: 現地での法的実行力が最も高まります。現地の裁判所や行政機関が関与する際に、言語の障壁がなくスムーズです。相手方への敬意を示し、信頼関係を深めることにも繋がります。
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デメリット: 日本企業はアラブ諸国の法(特にシャリーア)の知識に加え、アラビア語の法的表現を正確に理解する必要があります。このため、専門性の高いアラビア語契約書 翻訳とリーガルチェックが不可欠となり、費用や時間がかかる場合があります。
Q3: 契約書のアラビア語翻訳は、どのような点に注意が必要ですか?
A3: 最も重要なのは、法的概念の正確な対応です。シャリーアに由来する用語や、各国の民法典・商法典に特有の用語は、単なる直訳では法的意味合いを正確に伝えられません。また、アラビア語は文脈によって意味合いが大きく変わるため、文化的背景を理解した翻訳が求められます。右から左への記述方式や書式にも注意が必要です。
Q4: アラビア語契約書の翻訳を依頼する際のポイントは何ですか?
A4:
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法律翻訳の専門性: 法律分野、特にイスラム法や中東法に特化した翻訳会社や、弁護士資格を持つ翻訳者など、法律文書の翻訳経験が豊富なプロを選びましょう。
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ネイティブチェック: 標準アラビア語(MSA)のネイティブスピーカーによるチェックはもちろん、対象国(UAE、サウジアラビア、エジプトなど)の法務分野に詳しいネイティブによるチェックが行われるか確認しましょう。
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情報セキュリティ体制: 契約書は機密情報を含むため、情報セキュリティ管理が徹底されている翻訳会社を選びましょう。
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リーガルチェックの連携: 翻訳だけでなく、必要に応じてアラブ諸国現地の弁護士によるリーガルチェックまで含めて依頼できるか、連携体制を確認しましょう。
Q5: アラブ諸国の強行法規とは具体的にどのようなものがありますか?
A5: 具体例としては、リバー(利息)の禁止に関連する金融規制、ガラール(不確実性)やマイスィル(射倖的取引)の禁止、代理店契約における代理人保護の規定(多くの国で一方的な解除が制限されています)、労働法(解雇規制、労働時間、最低賃金など)、商法における特定の規定などが挙げられます。これらの分野の契約では、当事者の合意内容が現地の強行法規に反する場合、その条項が無効となるリスクがあります。
7. 日本とアラブ諸国の主要ビジネス分野と契約書の種類
日本とアラブ諸国は、エネルギー、インフラ、製造業、テクノロジー、観光など、多岐にわたる分野でビジネス交流が行われています。これらの取引を円滑に進める上で、専門的なアラビア語契約書翻訳が不可欠となる主要な分野と、そこで頻繁に交わされる契約書の種類について解説します。
7.1. 日本とアラブ諸国で現在ビジネスが盛んな分野・業界・ジャンル
現在、日本とアラブ諸国で特に活発なビジネスが見られるのは以下の分野です。
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エネルギー(石油・天然ガス): 日本は主要なエネルギー輸入国であり、サウジアラビア、UAE、カタールなどは主要な供給国です。長期供給契約、共同開発などが活発です。
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インフラ・建設: 日本の建設技術は高く評価されており、道路、鉄道、空港、プラントなどの建設プロジェクトに参画しています。 -
自動車・機械: 日本の自動車メーカーはアラブ諸国で高いシェアを持ち、販売代理店契約、部品供給契約、現地生産などが展開されています。建設機械などの輸出も盛んです。 -
テクノロジー: スマートシティ開発、AI、IoTなどの分野で協力が進んでいます。 -
観光: 日本への観光客増加を目指す動きがあり、ホテルや旅行代理店との提携が見られます。 -
金融(イスラム金融を含む): イスラム金融は成長分野であり、日本企業も関心を寄せています。 -
再生可能エネルギー: 脱炭素化の流れの中で、太陽光発電などの分野で協力の可能性が広がっています。
7.2. 翻訳が必要となる可能性が高い主要な契約書の種類
上記の活発なビジネス分野を踏まえると、以下のような契約書がアラビア語への翻訳、またはアラビア語からの翻訳を頻繁に必要とします。これらの契約書は、シャリーアの原則や現地の法規制、商習慣を考慮した専門的な翻訳が求められます。
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売買契約書 (عقد البيع / 'Aqd al-Bay'): 石油、自動車、機械製品、食料品など、様々な商品の輸出入で必要となります。
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供給契約書 (عقد التوريد / 'Aqd al-Tawrid): 部品、原材料、エネルギーなどの継続的な供給を規定します。
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販売代理店契約書 (عقد الوكالة التجارية / 'Aqd al-Wikalah al-Tijariyyah): 自動車、家電製品などの販売を現地の代理店に委託する際に必要です。代理人保護の規定が強い国が多いことに注意が必要です。 -
ライセンス契約書 (عقد الترخيص / 'Aqd al-Tarkhis): 技術、商標、特許などの使用許諾を定めます。 -
共同研究開発契約書 (عقد البحث والتطوير المشترك / 'Aqd al-Bahth wal-Tatwir al-Mushtarak): 新技術や新製品の共同開発を規定します。 -
製造委託契約書 (عقد التصنيع / 'Aqd al-Tasni' أو عقد المقاولة / 'Aqd al-Muqawalah): 製品の製造を現地の企業に委託する際に必要です。 -
秘密保持契約書 (اتفاقية عدم الإفصاح / Ittifaqiyyah 'Adam al-'Ifsah): 交渉や共同開発の初期段階で情報共有を行う際に不可欠です。 -
業務提携契約書 (عقد التعاون / 'Aqd al-Ta'awun): 特定のプロジェクトや事業における協力関係を規定します。 -
合弁事業契約書 (عقد تأسيس شركة مشتركة / 'Aqd Ta'sis Sharikah Mushtarakah): 新たな事業体を共同で設立・運営する場合に必要です。イスラム法に適合した契約構造が求められる場合があります。 -
建設工事請負契約書 (عقد المقاولة على الأعمال الإنشائية / 'Aqd al-Muqawalah 'ala al-'A'mal al-'Inshaiyyah): インフラ整備や建築プロジェクトで必要となります。 -
金融契約書 (عقود التمويل / 'Uqud al-Tamwil): ローン契約、投資契約など。リバー(利息)禁止の原則に基づいた契約構造(例:ムラバハ、イジャラ)が用いられることがあります。
まとめ
アラブ諸国とのビジネスにおける契約は、ヨーロッパのそれとは異なる法制度、商習慣、そして言語的特性を理解することが不可欠です。「英語契約書があれば十分」という考えは捨て、アラビア語契約書の重要性を認識し、専門的な知識と経験を持つ翻訳者のサポートを得ることが、ビジネスの成功への鍵となります。特に、イスラム法(シャリーア)の原則を理解し、それに合致した契約書を作成・翻訳することが、将来的な紛争リスクを回避し、円滑なビジネス関係を築く上で最も重要な要素と言えるでしょう。
弊社は、長年にわたる国際契約書翻訳の経験と、アラブ諸国の法制度、商習慣、そしてアラビア語に精通した専門家チームを有しており、貴社のアラビア語契約書翻訳に関するあらゆるニーズに対応いたします。文化と法律の壁を越え、貴社のビジネスを成功へと導くお手伝いをさせていただきます。
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契約書翻訳に役立つリンク集
・法務省大臣官房司法法制部「法令翻訳の手引き」(PDF)
・日本法令外国語訳推進会議「法令用語日英標準対訳辞書」(PDF)
・Publiclegal(英文契約書のテンプレートや書式を無料で提供)
・日本法令外国語訳データベースシステム(法務省が開設した日本の法令の英訳サイト)
・weblio 英和辞典・和英辞典
・英辞郎 on the web
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