2023年度の日本映画の公開本数は約676、外国映画は約556であったといわれています。ここではその「映画」の翻訳について、ご紹介していきます。
ところで、「映画翻訳」には「字幕」と「吹き替え」があります。映画館などで外国映画を観る際、字幕と吹き替えのどちらかを選択しているのではないでしょうか。字幕と吹き替えには、以下の違いがあります。そして、国ごとで字幕と吹き替えのどちらが好まれるかも異なります。
「字幕」と「吹き替え」はどう違う?
<字幕>・・・翻訳先の言語が日本語の場合
・メリット: 原語版のセリフや言い回し、俳優の生の声をそのまま楽しめる
・デメリット: 字幕に文字数制限や行数制限がかかっている、字幕を読んでいる間に他の視覚情報やジョークで笑うタイミングを見逃すことがある
・翻訳ルール: セリフ1秒に対し日本語は4文字、1行あたりの文字数は最大で13文字、1画面に2行まで、表示時間は最大6.5秒、読点は半角で句点は全角スペースで表示
<吹き替え>・・・全言語対象
・メリット: 作品本来の視覚情報に集中できる
・デメリット: 俳優の生の声が聴けない、俳優と声優のセリフのタイミングが合わない場合は違和感がある
・翻訳ルール: 俳優と声優のセリフのタイミング、言葉と唇の動き(リップ・シンク)を合わせる
「字幕」と「吹き替え」翻訳するとどう違う?
以下が字幕と吹き替えの翻訳の一例です。
<英語→日本語>
ダ・ヴィンチ・コード
英語・・・The Fibonacci numbers only make sense when they’re in order.
(AI翻訳: フィボナッチ数は順番に並んで初めて意味を成す。)
日本語字幕・・・このフィボナッチ数列は順序が正しくない 乱れている
日本語吹き替え・・・フィボナッチ数列はその順番に意味があるが、順番が乱れている
<日本語→英語>
千と千尋の神隠し
日本語・・・怖がるな。私はそなたの味方だ。
(AI翻訳: Do not be afraid. I am on your side.)
英語字幕・・・Don’t be afraid. I’m your friend.
英語吹き替え・・・Don’t be afraid. I just want to help you.
国別に見る「字幕派」「吹き替え派」
<国別「字幕派」「吹き替え派」>
・字幕派の国: アメリカ、日本、中国、インドネシア、インド、イラン、トルコ、ナイジェリアなど
・吹き替え派の国: メキシコ、ブラジル、フィリピン、ベトナム、パキスタン、ロシア、ドイツ、フランスなど
アメリカでは約80%が字幕を好むといわれています。字幕では俳優の生の声が聴けて文化的真実性も保たれる、吹き替えは唇の動きが合わないと不自然である、などの理由があげられています。
一方、フランスでは吹き替えの方が好まれます。字幕は読んでいる間に視覚的効果を見逃す、ジョークなどに対する反応が遅れるなどの理由があるといわれています。若い世代には語学学習となることから、字幕の人気もあるようです。
字幕・吹き替えの好みは、文化ごとで重視する点や語学教育の違いがあげられますが、字幕と吹き替えは制作過程も異なります。吹き替えは、翻訳に加えて、声優やスタジオなどの手配が必要となります。
世界で映画賞を受賞した日本の作品
映画といえば、毎年世界中で映画祭の受賞作品が発表されています。日本映画はどのくらい獲得しているのでしょうか?
以下が世界的な映画祭で、2000年以降に最高賞や国際映画賞を受賞した日本作品です。
・カンヌ国際映画祭(パルム・ドール賞): 万引き家族(2018)
・ベルリン国際映画祭(金熊賞): 千と千尋の神隠し(2002)
・ベネチア国際映画祭(金獅子賞): なし
・モスクワ国際映画祭(最優秀作品賞): 私の男(2015)
・アカデミー賞(国際映画賞): ドライブ・マイ・カー(2022)、おくりびと(2009)
(長編アニメ賞): 君たちはどう生きる(2024)、千と千尋の神隠し(2003)
(短編アニメ賞): つみきのいえ(2009)
カンヌ国際映画祭(パルム・ドール賞)を受賞した「万引き家族」は、世界約187カ国で上映および販売されています。また、千と千尋の神隠しはベルリン国際映画祭(金熊賞)とアカデミー賞(長編アニメ賞)を受賞していますが、「千と千尋の神隠し」は現在約44ヶ国語に翻訳されているといわれています。
世界で最も翻訳されたといわれる映画ランキング
以下は、世界で最も翻訳されたといわれる映画のランキングです。
・ジーザス: 約817言語
・スターウォーズ(シリーズ全体): 約50言語
・ライオンキング(初版&IMAX版): 約45言語
・千と千尋の神隠し: 約44言語
・アナと雪の女王: 約42言語
「ジーザス」は新約聖書にある「ルカによる福音書」を映画化したもので、最も翻訳された映画のギネス記録に認定されました。
ディズニー映画「ライオンキング」の約45言語や「アナと雪の女王」の約42言語は、吹き替え言語数とされていますが、これは視聴者に子どもが多いことも影響していると考えられます。
映画の字幕や吹き替えの制作は、どの国で上映/配信するか、視聴者の年齢層はどうかなど、マーケティングも重要であるといえるでしょう。
翻訳家が主人公の映画
映画の翻訳についてお話してきましたが、最後に翻訳家が主人公の映画をご紹介します。
<主人公が翻訳家の映画>
・9人の翻訳家 囚われたベストセラー(2019):
流出防止のため9人の翻訳家たちが、フランスの人里離れた洋館の地下室に集められた。ある日、出版社の社長のもとに脅迫メールが届く。
・アースクエイクバード(2019):
都内で翻訳の仕事をしているスウェーデン人女性が、日本人写真家の青年と恋に落ちる。アメリカ人女性を交えた恋愛のもつれの果てに、殺人容疑者となってしまう。
・ドリーミング村上春樹(2017):
村上春樹の作品を手がけるデンマーク人翻訳家のドキュメンタリー。村上春樹の故郷や小説の舞台を巡りながら、自らも村上の世界に浸っていく。
・宇宙人王(ワン)さんとの遭遇(2011):
ローマにかわいく友好的で、中国語を話す宇宙人が現れる。警察に拘束された宇宙人は、中国語の翻訳家を募集。破格の報酬で雇われた翻訳家は宇宙人と対面する。
映画翻訳は、作品の感動だけでなく、文化を伝える役目もあります。映画を「翻訳」の視点で観てみると、新たな発見があるかもしれません。