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似たような過去訳がある場合の翻訳メモリの作り方|翻訳会社WIPジャパン

作成者: WIP japan|Aug. 25, 2020

 

翻訳の品質を左右するものとして、8割は翻訳者のスキル、残りの2割はチェッカーのスキル、調査力、用語集や参考資料の引用、過去訳との整合、翻訳支援ツールの使用、原稿の明確性などが挙げられると先日お伝えしました。

 

今回はその中でも、過去訳との整合、翻訳支援ツールの使用についてお伝えできればと思います。

 

過去訳との整合をどうとるか(翻訳支援ツールの使用)

たとえばマニュアルや契約書の更新版を翻訳する場合、過去の内容から変更になった箇所を翻訳するため、過去の原文と全く同じ文章については過去訳をそのまま引用し、一部だけ異なる文章については、過去訳をベースに変わった箇所だけを修正する必要があります。

 

このように似たような過去訳がある翻訳では、お客様から過去の原文と訳文を支給して頂くのですが、ご支給頂く方法は以下の2パターンに分かれます。

 

1. 過去の原文と訳文ファイルのみをそのままご支給頂く場合

 

2. 前述に加えて過去の原文と訳文の翻訳メモリ(TMTranslation Memory)もご支給頂く場合

 

この2つのパターンですが、同じ翻訳でも品質を左右しかねないぐらいの違いがあります。

 

 

1. 過去の原文と訳文ファイルのみをそのままご支給頂く場合

それではまず前者のパターンから見ていきましょう。この場合、翻訳者としてはどのような作業が必要になってくるでしょうか。

 

まず過去の原文と今回の原文の違いを把握するために、ファイルを比較する必要があります。

 

例えばWord原稿の場合でしたら、Wordに比較機能(過去の原文から変わったところだけに変更履歴が付く機能)がありますので、こちらの処理を実行して目で確認します。そして、変更履歴が付いている箇所の過去訳を探して、そちらの訳文をベースに、原文の変更履歴に従いながら翻訳の修正をかけていくわけです。

 

この場合、通常の翻訳作業に加えて、過去訳を検索するというプラスαの作業が発生するために、作業の負担もかかり集中力が落ちて、通常しないようなミスが発生する可能性があります。

 

 

2. 過去の原文と訳文の翻訳メモリ(TM)もご支給頂く場合

一方、後者のパターンを見てみましょう。

 

まず、翻訳メモリ(TM)というのは、一文単位で原文とそれに対応する訳文が入っているデータになります。ExcelA列とB列に、原文と訳文が一文単位でずらりと何行分も入力されているような形をイメージして頂ければと思います。

 

このTMがあれば、翻訳者はいちいち過去の原文と今回の原文を比較して、過去訳を見つけ出す必要がありません。翻訳支援ツールを使って、今回の原文とTMを読み込めば、翻訳する原文をクリックすると同時に、過去の原文と完全に一致しているか、あるいはよく似ているものがあれば、その過去の原文と訳文が自動的に表示されるような仕組みになっています。

 

また、その原文のどの部分が過去のものと今回のものとで異なるのか、分かりやすく示してくれます。したがって、翻訳者は翻訳作業に集中することができ、本来の力を発揮することができます。

 

 

過去訳からの翻訳メモリの作り方

では、この翻訳メモリ(TM)ですが、どのように作成するのでしょうか。

 

もちろん翻訳会社にTM作成を依頼することが一つの手段でしょう。あるいはご自分で作成されるのも一つの手です。

 

作成方法は非常にシンプルです。前述のように、一文単位で過去の原文とそれに対応する訳文をExcelファイルのA列とB列にまとめていくだけです。ただ、ご自分で作成される場合には問題点が2つあります。

 

1つはTM化するファイルの分量です。たいていすぐにできるようなボリュームではないはずです。

 

もう1つは、原文と訳文の両方を理解できないとまとめられないということです。

 

例えば、原文は2文で構成されているのですが、自然な翻訳になるように訳文では1文にまとめられているということも多くあります。もちろんその逆のケースもあります。したがって、正しいTMを作成するには、原文と訳文を注意深く読み込む必要があるのです。

 

ご予算に余裕があれば翻訳会社に依頼されるのが一番よいかと思います。ただ、裏技として、世の中には機械の力を借りながらTMを作成する有料ソフトも存在していますので、こちらを購入してご自分で準備されるのもよいかと思います。

 

 

TMをご準備頂くことでお客様にプラスになること

TMをご準備頂くことでもう一つお客様にとってプラスになることは、納期と金額においても有利に働くということです。

 

例えば、過去の原文と全く同じ箇所については、翻訳者やチェッカーは今回の翻訳にその過去訳を引用しても問題がないか軽く確認するだけでよいため、作業の負担が大幅に軽減され、その分、納期も短縮されて金額の面でも減額が可能になります。

 

また、関連のある過去訳のTMを一度作成してしまえば、あとは翻訳支援ツールを使用して翻訳作業を進めることで、自動的にそのTMは更新され、データも蓄積されていきます。そのため、関連する案件を重ねれば重ねるほど過去訳とマッチするケースもより多くなります。

 

いかがでしたでしょうか。

 

最初にTMを作成するのは、面倒ではありますが、このように似たような過去訳がある場合は、翻訳を依頼される前にTMをご準備頂ければ、品質が下がるリスクを回避でき、納期や金額面でもお客様にとってプラスになりますので、ぜひご検討頂ければと思います。

 

なお、お客様によるTMの更新方法についてはまた別の機会にお伝えできればと思います。もし不明な点がありましたら遠慮なくご相談ください。(中後)