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契約書を生成AIで翻訳するリスク|NDA・機密情報の取り扱いを解説|翻訳会社WIPジャパン

作成者: 芳澤理|Jun. 15, 2026


契約書の英訳や和訳が必要になったとき、ChatGPT・DeepL・Claudeといった生成AIツールを使いたいと思うことは自然なことです。翻訳会社に依頼するより早く、コストも抑えられます。

しかし法務・契約部門の担当者の方から、「NDAに署名している取引先との契約書をAIに入力しても問題ないか」「どこまでの文書なら生成AIを使ってよいか」という相談をいただくことがあります。

本記事では、契約書翻訳に生成AIを使う際に生じる2種類のリスク——①情報管理上のリスク②翻訳精度上のリスク——を整理し、法務担当者として事前に確認すべきポイントを解説します。

※本記事は一般的な実務上の参考情報を提供するものです。個別案件への適用可否・法的判断については、社内法務部門や専門家にご確認ください。

 

 

1. 契約書翻訳で生じる2種類のリスク

契約書を生成AIで翻訳する際のリスクは、大きく2つに分けられます。

リスクの種類 具体的な問題 特に注意が必要な文書
①情報管理リスク 入力した契約書の内容がサービス側に保存・学習利用される可能性がある。また、NDA締結済みの文書を外部サービスに入力することが契約違反となる場合がある NDA・機密保持契約、M&A関連文書、未公開情報を含む契約書
②翻訳精度リスク 法的モダリティ(shall / may / must)の訳し分けミス、数値・期間・条件節の誤訳、ハルシネーション(存在しない条項の生成)などが起きる可能性がある 損害賠償条項、解除条件、準拠法・管轄条項、保証・免責条項

この2つのリスクは独立しており、「法人向けAIプランを使えば情報管理リスクは下がるが、翻訳精度リスクは残る」という点に注意が必要です。

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2. リスク①:情報管理——何を「入力した」ことになるか

生成AIツールに契約書のテキストを貼り付けることは、その内容を外部のクラウドサーバーに送信することと同義です。ここで問題になるのは、2つの観点です。

サービス側のデータポリシー

前記事(AI翻訳ツールと情報漏洩リスク)でも解説したとおり、個人向け無料版と法人向けサービスではデータの取り扱いが大きく異なります。契約書翻訳で特に確認が必要な点を再掲します。

使用するサービスは法人向けプラン・APIか(個人向け無料版ではないか)

入力データが学習に利用されないことが規約上で明記されているか

保存データへのアクセス範囲や、人間による確認が行われ得る条件が規約上で明記されているか

DPA(データ処理契約)を締結しているか

NDA・契約上の制限

情報管理リスクの中でも、特に見落とされやすいのが既存のNDA・秘密保持契約との関係です。

総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」は、AI利用者にも提供された文書や規約の遵守、個人情報の不適切入力への対策などが求められることを整理しています。

具体的なケース

取引先とNDAを締結している場合、そのNDAに「第三者への開示禁止」「外部サービスへの提供禁止」が含まれていれば、契約書の内容を生成AIサービス(外部クラウド)に入力することは、NDA違反に当たる可能性があります。NDAの適用範囲が「電子的処理のための外部委託」を含むかどうかを事前に確認することが重要です。

また、顧客・委託元から受領した文書に「部外秘」「Confidential」等の表記がある場合も同様の判断が必要です。

注意:法人向けAIサービスを使っても「第三者への提供」に該当する可能性があります
ChatGPT Enterpriseなど法人向けサービスはデータを学習に使わないと明記していますが、「外部サービスへの送信」自体がNDA上の「第三者提供」に該当するかは、個別のNDAの文言次第です。機密性の高い契約書の翻訳については、法人向けプランへの切り替えだけで解決するとは限らない点にご注意ください。

 

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3. リスク②:翻訳精度——契約書特有の誤訳が起きやすい箇所

情報管理リスクとは別に、生成AIによる契約書翻訳には精度上の課題があります。日常文書とは異なり、契約書では1単語の訳し方が義務内容や責任範囲の解釈に影響することがあるためです。

法的モダリティの訳し分け

英文契約書では、shall / may / must / should の使い分けが法的に重要な意味を持ちます。生成AIはこれらを文脈に応じて訳しますが、一貫性の確保や法的含意の正確な反映が難しい場合があります。

英語 法的な意味 正確な訳語 生成AIで起きやすい問題
shall 義務(〜しなければならない) 「〜するものとする」「〜しなければならない」 「〜する」「〜します」など義務の強さが曖昧になる訳が出ることがある
may 権限・裁量(〜できる) 「〜することができる」 「〜してもよい」「〜かもしれない」など可能性の意味に引っ張られる場合がある
must not 禁止(〜してはならない) 「〜してはならない」 否定が弱まり「〜しない方がよい」程度の訳になる場合がある

数値・期間・条件節の誤訳

arXivに掲載された機械翻訳の品質研究では、Google翻訳・Bing翻訳を対象に、過少訳・過剰訳、語句の誤訳、論理の不明瞭化など複数のエラーパターンが報告されています。生成AI翻訳についても、契約書では同種の誤りが残り得るものとして、人間による確認が必要です。

契約書で特に注意が必要な箇所

  • 損害賠償の上限額・計算式
  • 契約期間・更新条件・解除通知期間
  • 「AかつB」と「AまたはB」の区別(and / or)
  • 準拠法・管轄裁判所の条項
  • 保証の範囲(express warranty / implied warranty)
  • 知的財産の帰属・ライセンス条件

ハルシネーション(存在しない内容の生成)

生成AIは、確認できない情報を補完して出力する「ハルシネーション」と呼ばれる現象を起こすことがあります。契約書の翻訳では、原文にない条件・数値・例外規定が訳文に混入するリスクがあります。法律・コンプライアンス分野ではAIをあくまで参考情報として位置づけ、最終的な判断を人間が行う体制が重要とされています。

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4. 文書の種類別リスク判断

契約書といっても種類はさまざまです。文書の性質に応じてリスクの高さが異なります。

文書の種類 情報管理
リスク
翻訳精度
リスク
判断の目安
NDA・秘密保持契約 非常に高い 高い 入力自体がNDA違反となる可能性がある。人間翻訳を推奨
M&A・株式譲渡契約 非常に高い 非常に高い 未公開情報・インサイダー情報を含む。専門翻訳者による対応が基本
訴訟関連文書 高い 非常に高い 法的主張・証拠の誤訳が訴訟結果に影響する可能性がある
業務委託・サービス契約 中〜高い 高い 取引条件・知財帰属・損害賠償条項の誤訳に注意。法人向けプランでの確認が最低限必要
一般的な利用規約・覚書 比較的低い 中程度 法人向けプランかつ人間確認ありで、内部参考用途なら検討できる場合がある

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5. 対応策の3つの方向性

方向性 内容・向いているケース 注意点
生成AIを使わない
(人間翻訳)
NDA・M&A・訴訟など機密性・重要性が高い文書。ISO 17100認証・NDA対応・法律専門翻訳者の実績を持つ翻訳会社に依頼する コスト・納期は生成AIより高くなる。ただし情報管理リスクと翻訳精度リスクの両方を一括して低減できる
法人向けプラン+
人間レビュー
業務委託・覚書など機密性が中程度の文書。法人向けAIプランで一次翻訳を行い、法務担当者または専門翻訳者が必ず内容を確認する NDAとの整合確認が必要。人間レビューを省略すると精度リスクは残る。「AI翻訳+軽いチェック」では重大な誤訳を見落とす可能性がある
匿名化してから
生成AIを使う
固有名称・金額・日付など機密性の高い情報を仮の値に置き換えてからAI翻訳し、訳出後に元の情報に戻す手順をとる 置き換えミスや戻し漏れのリスクがある。作業工数が増えるため、文書量が多い場合は費用対効果を慎重に検討する

ISO 17100 について

翻訳サービスの国際規格 ISO 17100:2015 は、機械翻訳の生出力にポストエディットを加えた翻訳は同規格の対象外と明記しています。法的文書の翻訳品質を担保する際の判断基準として、翻訳会社がISO 17100認証を取得しているかどうかを確認することをおすすめします。

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まとめ

  • 契約書を生成AIで翻訳する際のリスクは、①情報管理リスク(データポリシー・NDA違反)と②翻訳精度リスク(誤訳・ハルシネーション)の2種類がある
  • NDAを締結している取引先の文書を外部生成AIに入力することは、NDAの文言によっては契約違反となる可能性がある(AI事業者ガイドライン参照)
  • 法人向けAIプランに切り替えても、翻訳精度リスクは残る。法的モダリティ・数値・条件節の誤訳は人間によるレビューで確認する必要がある
  • NDA・M&A・訴訟関連など機密性・重要性の高い文書は、生成AIへの入力可否を慎重に判断し、必要に応じてISO 17100認証・NDA対応の専門翻訳会社に依頼することが望ましい
  • 「AI翻訳+軽いチェック」は、契約書の重大な誤訳を見落とすリスクがある。人間翻訳との使い分け基準を社内で明確にしておくことが重要

契約書の翻訳方法について判断に迷う場合や、機密性の高い法務文書の翻訳が必要な場合は、専門翻訳会社へのご相談をご検討ください。生成AIサービスへの入力を行わない人間翻訳で、NDA対応・ISO 17100準拠の翻訳サービスをご提供しています。

 

 

参考資料
・総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン第1.2版」https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/ai_shakai_jisso/pdf/20260331_1.pdf
・ISO「ISO 17100:2015 Translation services — Requirements for translation services」https://www.iso.org/standard/59149.html
・OpenAI「Enterprise privacy at OpenAI」https://openai.com/enterprise-privacy/
・arXiv「Structure-Invariant Testing for Machine Translation」https://arxiv.org/abs/1907.08710
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