翻訳をつくるメディア

サプライチェーン・デューデリジェンスは「翻訳」なしに語れない

作成者: WIP japan|Sep. 18, 2025

 

近年、グローバルビジネスにおける企業の責任は、単に自社の事業活動に留まらなくなりました。特に欧米を中心に、自社のサプライチェーン全体における人権侵害や環境汚染を防ぐことを目的とした「サプライチェーン・デューデリジェンス法」が次々と施行されています。

これは、取引先企業がどこで、どのように製品を製造しているかまで、詳細に調査・評価することを企業に法的な義務として課すものです。この義務を果たすためには、サプライヤーとの間で、膨大で多岐にわたる書類のやり取りが不可欠となります。

しかし、サプライヤーの拠点は世界中に散らばっており、これらの書類は現地の言語で作成されています。ここに、サプライチェーン・デューデンスにおける翻訳の重要性が浮き彫りになります。正確な翻訳なくして、デューデリジェンスは成り立たず、ひいてはコンプライアンス違反という重大なリスクを負うことになります。

この記事では、サプライチェーン・デューデリジェンス法の背景から、その実務で発生する翻訳の具体的な内容、そしてスムーズなプロセスを実現するためのポイントまでを網羅的に解説します。

目次


1. サプライチェーン・デューデリジェンス法の台頭とその背景

「デューデリジェンス」と聞くと、M&Aの文脈を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、ここで述べるデューデリジェンスは、その意味合いが大きく異なります。

 

法律が課す「注意義務」

ドイツのサプライチェーン・デューデリジェンス法(LkSG)や、EUで検討されている企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CSDDD)は、人権と環境の保護を目的としています。これらの法律は、企業に対し、サプライチェーン全体を対象に、人権侵害や環境破壊のリスクを特定し、防止・是正策を講じることを法的な義務として課します。

これは、以下のような背景から台頭してきました。

  • 消費者意識の高まり: 強制労働や児童労働、環境汚染といった問題に関し、消費者の意識が非常に高まっています。

  • ブランドリスクの回避: 企業は、サプライチェーン上の問題が自社のブランドイメージを大きく損なうリスクを回避するため、自主的に透明性を高める必要に迫られています。

  • 国際的な法規制の潮流: 国際機関や各国政府が連携し、企業の責任をサプライチェーン全体に拡大する動きが加速しています。

 

2. サプライチェーン・デューデリジェンスで翻訳が不可欠な理由

デューデリジェンスのプロセスは、主に「リスク分析」「是正措置」「報告」の3つのステップで構成されます。これらのステップ全てにおいて、翻訳は必要不可欠な役割を果たします。

 

理由1: リスクの正確な特定

デューデリジェンスの第一歩は、サプライチェーン上の潜在的なリスク(例:強制労働、環境規制違反など)を特定することです。このプロセスでは、サプライヤーの多言語で書かれた様々な文書を読み解く必要があります。

  • 例: サプライヤーの監査報告書 サプライヤーの工場監査報告書がベトナム語で書かれている場合、そこに記載された「労働時間管理の問題」や「廃棄物処理の不備」といった内容を正確に理解できなければ、リスクを見落とすことになります。不正確な翻訳は、リスクの特定プロセスを無効化しかねません。

理由2: コンプライアンスの遵守

デューデリジェンス法を遵守するためには、当局や関連機関に対して、義務を履行していることを証明する文書を提出する必要があります。これらの報告書は、現地の言語や国際機関が定める形式で作成されるため、正確な翻訳が不可欠です。

  • 例: 内部・外部監査報告書 ドイツのLkSGでは、監査法人による監査報告書をドイツ語で提出することが求められます。日本語で作成された監査報告書は、現地の法務担当者や当局が理解できる形式に正確に翻訳されなければ、法的義務を果たしたことになりません。

理由3: 関係性の強化と連携

デューデリジェンスは、サプライヤーとの協力関係なしには成功しません。翻訳は、その協力関係を築くための重要なツールです。

  • 例: サプライヤー行動規範 自社の行動規範(サプライヤーに守ってほしいルール)を現地の言語に翻訳し、正確な意図を伝えることで、サプライヤーの理解と協力を得やすくなります。曖昧な表現や誤解を招く翻訳は、関係性を損ないかねません。

 

3. サプライチェーン・デューデリジェンスで翻訳が発生する書類

このプロセスで翻訳が必要となる文書は、多岐にわたります。ここでは、主要な書類をインデックス的に解説します。

 

サプライヤー評価・選定段階

  • サプライヤー調査票: サプライヤーの事業概要、品質管理体制、労働環境、環境保護への取り組みなどを尋ねるアンケートや質問票。

  • 自己申告書: サプライヤーがデューデリジェンスの基準を満たしていることを自ら宣言する文書。

  • 第三者認証書: ISO認証、SA8000(社会規範)認証、フェアトレード認証など、第三者機関による認証書のコピー。

リスク分析・監査段階

  • 監査・検査報告書: サプライヤーの工場や事業所を訪問し、監査した際に作成される報告書。現地の言語で作成されることが一般的です。

  • 労働者・住民へのインタビュー記録: 強制労働や環境汚染のリスクを把握するため、労働者や地域住民からヒアリングした際の記録。

  • 契約書・労働協約: サプライヤーとサプライヤーの従業員との間の雇用契約書や、労働組合との協約書。

是正措置・報告段階

  • 是正計画書: 監査で発見された問題点について、サプライヤーが提出する改善計画書。

  • 進捗報告書: 是正計画の実行状況を報告する文書。

  • 内部・外部監査報告書: デューデリジェンス法の遵守状況を証明するために、自社が作成・提出する報告書。

 

4. サプライチェーン・デューデリジェンス翻訳の特殊性と難しさ

デューデリジェンス関連文書の翻訳は、M&Aのそれと同様に高度な専門性が求められますが、さらに特有の難しさがあります。

 

特殊性1: 継続的な翻訳プロセス

M&Aのデューデリジェンスが一時的なものであるのに対し、サプライチェーン・デューデリジェンスは継続的なプロセスです。サプライヤーの監査は定期的に行われ、そのたびに新しい報告書や是正計画書が発生します。このため、単発の翻訳ではなく、長期的なパートナーシップを築ける翻訳会社との連携が重要となります。

 

特殊性2: 文化・慣習の理解

サプライヤーの国によっては、労働習慣や商慣習、法律が大きく異なります。単なる直訳では、文書の持つ真の意味合いや背景にあるリスクを正確に捉えられません。例えば、「終身雇用」や「年功序列」といった日本独自の慣習は、そのまま翻訳しても理解されない可能性があります。各国の文化や商慣習を深く理解した翻訳者が不可欠です。

 

特殊性3: 用語の一貫性

サプライチェーン・デューデリジェンスは、様々なサプライヤーから多岐にわたる書類が集められます。これら全ての文書で、人権、環境、労働基準に関する専門用語やキーワードの表記を統一することは、非常に重要です。用語の揺れは、報告書の信頼性を損ない、法的リスクを増大させかねません。

 

5. サプライチェーン・デューデリジェンス翻訳を成功させるためのポイント

これらの難しさを乗り越え、デューデリジェンスを成功させるためには、以下のポイントを抑えることが不可欠です。

 

ポイント1: 専門知識と法規制の理解

翻訳を依頼する際には、単なる語学力だけでなく、サプライチェーン、環境、人権、労働法といった各分野の専門知識と、関連する法規制を深く理解している翻訳者を選定することが不可欠です。

 

ポイント2: 継続的なパートナーシップ

デューデリジェンスは継続的なプロセスであるため、毎回異なる翻訳会社に依頼するのではなく、信頼できる翻訳会社と長期的なパートナーシップを築くことが理想的です。共通の用語集を構築・共有することで、翻訳の品質とスピードを向上させることができます。

 

ポイント3: 厳格な情報セキュリティ体制

サプライヤーの監査報告書や従業員の個人情報といった機密情報が外部に漏洩することは、企業の信用を失墜させるだけでなく、法的問題にも発展しかねません。そのため、厳格な情報セキュリティ体制を持つ翻訳会社を選ぶことが、最も重要です。

 

まとめ:コンプライアンス遵守のための羅針盤

サプライチェーン・デューデリジェンスは、今後さらに多くのグローバル企業に求められる義務となります。そして、その義務を果たす上で、専門的な翻訳はコンプライアンス遵守のための羅針盤となります。

精度の低い翻訳は、リスクの見落とし、コンプライアンス違反、そしてサプライヤーとの関係悪化といった計り知れないリスクを企業にもたらします。

WIPジャパンの翻訳サービスは、サプライチェーンマネジメントの専門知識を持つ翻訳者と、最新の法規制動向を追跡するリサーチチームが連携することで、お客様のサプライチェーン・デューデリジェンスを力強くサポートします。


翻訳に関する無料個別相談や無料見積もりも行っております。
まずは貴社のニーズや課題感など、簡単なお問い合せから始めてみませんか?
ご相談は無料です。いつでもお気軽にご連絡ください。

 

海外取引先の書類翻訳に関連する記事