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M&Aの成否を分ける「デューデリジェンス翻訳」のすべて

作成者: WIP japan|Sep. 18, 2025

 

グローバルなM&A(合併・買収)は、企業の成長を飛躍的に加速させる戦略として、今や多くの企業にとって身近なものになりました。しかし、その華やかな契約の裏側には、緻密で膨大な作業が隠されています。それが、買収対象企業の実態を徹底的に調査するデューデリジェンス(Due Diligence、略してDD)です。

デューデリジェンスは、単なる形式的な手続きではありません。それは、取引後に発覚するかもしれない隠れたリスク(例:簿外債務、訴訟、知的財産権の問題など)を事前に洗い出し、M&Aの成否を分ける最も重要なプロセスです。特に、海外企業が対象となる場合、膨大な量の多言語文書を正確に読み解く必要があり、ここに「デューデリジェンス翻訳」が不可欠となります。

この記事では、「デューデリジェンス報告書翻訳」だけでなく、デューデリジェンスの各プロセスで翻訳が必要となる多岐にわたる書類と、その翻訳がなぜM&Aの成功に直結するのかを、徹底的に解説します。

 

目次

 

1. デューデリジェンスにおける翻訳の重要性

デューデリジェンスにおいて、翻訳は単なる言語の置き換えではありません。それは、リスク管理と企業価値評価という二つの重要な役割を担います。

 

リスクの可視化

買収対象企業が持つ潜在的な法的リスク、財務上の問題、そして技術的な課題は、通常、契約書や財務諸表、技術文書といった形で表面化します。これらの文書のニュアンスや専門用語を誤って解釈すれば、将来的に多額の損失や法的トラブルにつながる可能性があります。正確な翻訳は、これらのリスクを事前に可視化し、適切な対策を講じるための唯一の手段です。

 

企業価値の適正評価

買収価格は、デューデリジェンスで得られた情報に基づいて最終的に決定されます。ビジネスプランや技術開発計画、市場調査報告書といった文書の翻訳が不正確であれば、対象企業の真の価値を見誤り、過大な買収額を支払うことになりかねません。正確な翻訳は、企業価値を適正に評価するための根拠となります。

2. デューデリジェンスで翻訳が必要となる主要な書類

デューデリジェンスのプロセスは、財務、法務、ビジネス、人事など、多岐にわたる分野で同時に進められます。それぞれの分野で、膨大な量の多言語文書の翻訳が必要となります。

 

財務デューデリジェンス

買収対象企業の財務状況を詳細に分析するプロセスです。翻訳の正確性が、企業価値の評価に直結します。

  • 提出資料: 財務諸表(損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書)、監査報告書、税務関連書類、事業計画書。

  • 翻訳の注意点:

    • 会計基準の差異: IFRS、US GAAP、日本基準など、国によって会計基準が異なります。勘定科目や会計用語を、現地の基準に合わせて正確に翻訳しなければなりません。

    • 数値の整合性: 財務諸表の数値は、一桁の誤りも許されません。原文と翻訳後の数値にずれがないか、厳密なチェックが不可欠です。

法務デューデリジェンス

買収対象企業の潜在的な法的リスクを洗い出すプロセスです。訴訟リスクや契約上の問題などを事前に把握するために、翻訳は極めて重要です。

  • 提出資料: 商業登記簿、各種契約書(取引、雇用、ライセンス、不動産)、訴訟関連書類、知的財産権関連書類(特許・商標登録証など)。

  • 翻訳の注意点:

    • 法的用語の厳密性: 契約書には、独自の法的用語や言い回しが多用されます。これらの用語は、一語一句の解釈が法的効力に影響するため、正確かつ厳密な翻訳が求められます。

    • 訴訟関連文書の機密性: 訴訟記録や判決文は、高度な機密情報であり、情報漏洩を防ぐための厳格なセキュリティ管理が必要です。

ビジネスデューデリジェンス

買収対象企業のビジネスモデル、市場、競争環境、顧客基盤などを評価するプロセスです。

  • 提出資料: 事業概要書、市場調査報告書、顧客・サプライヤーリスト、マーケティング資料。

  • 翻訳の注意点:

    • 市場特有の表現: 市場調査報告書には、現地の業界動向や消費者行動に関する独特な表現が含まれます。これらを日本の読者が理解しやすいように、文化的・市場的な背景を踏まえて翻訳する必要があります。

    • 説得力のあるトーン: マーケティング資料や事業計画書は、読み手の共感や理解を得るための説得力が重要です。単なる直訳ではなく、原文の意図を汲み取った上で、現地の文化に合わせた説得力のある表現に調整することが求められます。

人事デューデリジェンス

買収対象企業の従業員構成、労働条件、組織文化などを評価するプロセスです。M&A後の統合(PMI)を円滑に進めるために重要です。

  • 提出資料: 就業規則、雇用契約書、従業員リスト、労働組合との協定書。

  • 翻訳の注意点:

    • 労働法の理解: 各国の労働法は大きく異なります。就業規則や雇用契約書の翻訳には、現地の労働法を深く理解した翻訳者が必要です。

    • 機密情報の保護: 従業員の個人情報や給与情報は、高度な機密情報です。情報漏洩リスクを最小限に抑えるための厳格な管理体制が必須です。

ITデューデリジェンス

買収対象企業のITインフラ、システム、セキュリティ体制を評価するプロセスです。

  • 提出資料: システム構成図、情報セキュリティポリシー、ソフトウェアライセンス契約書。

  • 翻訳の注意点:

    • 専門用語の一貫性: ネットワーク、サーバー、セキュリティといった技術用語は、複数の文書間で表記が統一されていなければ、混乱を招きます。用語集の作成と徹底的な活用が不可欠です。

    • GDPRなどの規制準拠: EUの企業が対象となる場合、GDPR(一般データ保護規則)に準拠していることを示す文書の翻訳が求められます。

技術デューデリジェンス

買収対象企業の中核となる技術や知的財産を評価するプロセスです。

  • 提出資料: 特許・商標関連書類、技術仕様書、開発計画書、研究開発報告書。

  • 翻訳の注意点:

    • 高度な技術知識: 翻訳者は、その技術分野に関する深い知識を持っていなければ、原文の技術的意図を正確に捉えることができません。

    • 特許明細書の厳密な翻訳: 特許関連文書は、一言一句が法的効力に影響します。専門的な特許翻訳のスキルと経験が不可欠です。

3. 「デューデリジェンス報告書」の翻訳

上記のような膨大な資料を基に作成されるのが「デューデリジェンス報告書」です。これは、各専門分野(財務、法務など)の調査結果とリスク評価、そして買収価格に与える影響などを包括的にまとめた、M&Aにおける最終的な意思決定の羅針盤となる文書です。

 

デューデリジェンス報告書翻訳の特性

  • 高い機密性: M&Aの成否に関わる極めて機密性の高い文書です。厳格な情報管理体制を持つ翻訳会社に依頼する必要があります。

  • 包括的な専門性: 財務、法務、技術など、複数の専門分野にまたがる内容が凝縮されています。それぞれの分野に精通した翻訳者がチームを組んで対応することが理想的です。

  • 明確性と説得力: 投資家や経営層が最終的な判断を下すための資料であるため、正確であることはもちろん、内容が明確で説得力のある日本語(または対象言語)に訳されることが重要です。

4. デューデリジェンス翻訳を成功させるためのポイント

M&Aデューデリジェンスを成功させるためには、以下のポイントを抑えることが不可欠です。

  • 専門知識を持つ翻訳者の選定: 単なる語学力だけでなく、財務、法務、技術などの各専門分野に深い知識と経験を持つ翻訳者を選定することが不可欠です。

  • チーム体制と一貫性: 複数の分野にわたる膨大な文書を効率的かつ高品質に翻訳するためには、専門翻訳者とプロジェクトマネージャーが連携するチーム体制が必要です。これにより、専門用語の統一や品質管理を徹底できます。

  • 厳格な情報セキュリティ: デューデリジェンス文書は、外部に漏れるとM&A自体が頓挫するほどの機密情報です。情報セキュリティ体制が確立された翻訳会社を選ぶことが、最も重要です。

デューデリジェンス翻訳に関してよくある質問(FAQ)


Q1: 専門的な知識がないのですが、自分で翻訳ツールを使っても大丈夫ですか?

 

A1: デューデリジェンス関連文書の翻訳には、専門的な知識が不可欠です。翻訳ツールは便利ですが、法務・財務・技術分野の専門用語や独特な言い回しを正確に翻訳することは困難です。誤訳がリスクの見落としや、M&A交渉の決裂につながる可能性があるため、プロの翻訳サービスを利用することを強く推奨します。

 

 

Q2: デューデリジェンスの資料は量が非常に多いのですが、短期間で対応してもらえますか?

 

A2: はい、可能です。専門の翻訳会社では、複数の翻訳者がチームを組んで作業を進めることで、大量の資料にも短期間で対応できます。お客様のスケジュールに合わせて、重要度の高い文書から優先的に翻訳するといった柔軟な対応も可能です。

 

 

Q3: 翻訳を依頼する際、機密情報が漏れることはありませんか?

 

A3: 信頼できる翻訳会社は、厳格な情報セキュリティ体制を構築しています。専用のセキュアな環境で作業を行ったり、翻訳者との間で機密保持契約を締結したりするなど、万全の対策を講じています。依頼する前に、その会社のセキュリティ体制を必ず確認することが重要です。

 

 

Q4: 翻訳料金はどのように決まりますか?

 

A4: 翻訳料金は、一般的に「原文の文字数(または単語数)」、「専門性の高さ」、「納期」によって決まります。デューデリジェンス関連の文書は、専門性が高いため、通常のビジネス文書よりも料金が割高になる傾向があります。正確な見積もりは、翻訳を希望される文書の内容と量、希望納期を伝えることで算出してもらえます。

 

 

Q5: 翻訳を依頼する前に、準備しておくべきことはありますか?

 

A5: 翻訳を依頼する際は、以下の情報を提供するとスムーズです。

  • 翻訳する文書の種類: 財務諸表、契約書、事業計画書など。

  • 希望する言語: 翻訳元と翻訳先の言語。

  • 希望納期: 最終的な締め切り日。

  • 関連資料: 用語集や過去に翻訳した関連文書があれば、翻訳の品質向上に役立ちます。

まとめ:翻訳はM&Aの「羅針盤」

デューデリジェンスにおける翻訳は、M&Aという複雑な航海において、未来のリスクを回避し、正しい道へと導く「羅針盤」の役割を果たします。

精度の低い翻訳は、隠れたリスクを見逃し、企業価値を誤った方向に導く可能性があります。だからこそ、M&Aを成功させるためには、デューデリジェンス翻訳のプロフェッショナルによるサポートが不可欠なのです。

私たちの翻訳サービスは、専門知識を持つ翻訳者と、厳格な情報セキュリティ体制を組み合わせることで、お客様のグローバルM&Aを力強くサポートします。

 

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