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そのブランド名は、国境を越えられるか?——海外進出で「ネーミング」が事業の命運を分ける理由

作成者: WIP japan|Feb. 06, 2026


日本国内で確固たる地位を築いたブランドが、満を持して海外市場へ打って出る。その際、多くの経営者やマーケティング担当者が「ロゴやパッケージはそのままに、まずは認知を広めよう」と考えます。しかし、そこに潜むのが「言葉の罠」です。


アルファベット表記のブランド名は、世界共通の「記号」に見えて、その実、国や地域によって全く異なる「意味」や「響き」として受容されます。本稿では、非英語圏、特にアジア市場を中心としたブランド名の現地化(ローカライズ)における論点を、専門的な視点から深掘りします。

1. 翻訳では解決できない「音(Sound)」の心理学

言語学には「音象徴」という概念があります。特定の音が、人間に特定のイメージ(大きい、小さい、鋭い、柔らかいなど)を抱かせる現象です。

「心地よい音」は国ごとに異なる

例えば、日本語で「ふわふわ」「もこもこ」といった響きは柔らかさや安心感を与えますが、これをそのまま海外で音写しても、同じ感情を呼び起こすとは限りません。ある国では「力強い」と聞こえる音が、別の国では「弱々しい」あるいは「滑稽だ」と受け取られることがあります。

ブランド名が現地語でどのように発音され、その「響き」がターゲット層(例えば高所得層、あるいはZ世代など)の感性に合致しているかを検証することは、マーケティングの第一歩です。

「読みやすさ」が検索性を左右する

現代の消費行動において、ブランド名は「SNSでハッシュタグ化されるもの」です。現地の消費者が初見で読み方が分からず、キーボードで入力しにくい名称は、それだけでシェアの対象から外れてしまいます。特に韓国のように独自の文字体系(ハングル)を持つ国では、公式な表記を定めないまま放置することは、デジタルマーケティング上の機会損失に直結します。

2. 漢字圏における「音」と「意」の二重構造

台湾、香港、中国などの漢字圏への進出において、ブランド名は単なる「音」ではなく「意味」を伴う強烈なメッセージとなります。

「音訳」か「意訳」か、あるいは「合体」か

漢字を当てる手法には、主に3つのパターンがあります。

 

  • 音訳(トランスリテレーション): 原音に近い漢字を当てる。
  • 意訳(トランスレーション): ブランドのコンセプトを意味する漢字を当てる。
  • 音意兼顧(ハイブリッド): 音を似せつつ、ブランドイメージに合致した意味を持つ漢字を選ぶ。

最も成功率が高いのは3の「音意兼顧」ですが、これは至難の業です。例えば、ある世界的飲料メーカーは「コカ・コーラ」に対し、「可口可楽(口にすべく、楽しむべし)」という、音と意味が完璧に調和した漢字を当てたことで、中国市場での不動の地位を築きました。

逆に、音だけを優先して「意味」を疎かにすると、育児用品なのに「冷たい」「硬い」印象の漢字が当たってしまったり、高級ブランドなのに「安っぽい」漢字が定着してしまったりするリスクがあります。

3. ネガティブ・チェックの重要性——潜伏する「忌み言葉」

ブランド名が、現地の俗語(スラング)や宗教的にタブーとされる言葉、あるいは不吉な歴史を想起させる言葉と似ていないか。この「ネガティブ・チェック」こそ、最も慎重を期すべきプロセスです。

意外な落とし穴

  • 同音異義語のリスク: 日本語では高潔な意味を持つ言葉が、現地の特定の地方の方言では「恥ずべき行為」を指す言葉だった、という事例は枚挙に暇がありません。
  • 宗教・文化的文脈: 多民族国家であるシンガポールやマレーシアでは、一つの言語で問題なくても、別のコミュニティの言語では不快感を与えるケースがあります。

これらは、AIによる自動翻訳や辞書的な調査では決して辿り着けない領域です。現地の文化に根ざしたネイティブによる「感性調査」が必要不可欠となる理由がここにあります。

4. 知財戦略としての「防衛的ネーミング」

ブランド名は、マーケティングの武器であると同時に、法的に守るべき「資産」です。

越境EC段階からの備え

「まずは越境ECからスモールスタートするから、商標は後回しでいい」という考えは、グローバル市場では通用しません。特に中国や東南アジアの一部では、日本で話題になり始めたブランド名を先回りして登録する「商標ブローカー」が組織的に活動しています。

たとえ現時点で進出予定がない地域であっても、将来の展開可能性を見据え、以下の2点をセットで保護しておくことが「防衛」の鉄則です。

 

  • アルファベット表記の原名
  • 将来使用する可能性が高い現地語表記(漢字など)

これを怠ると、いざ現地展開を決めた時に、自社のブランド名を使うために数千万円の「買い取り交渉」を強いられることになりかねません。

5. 結論:ネーミングは「市場への敬意」である

海外進出におけるネーミングの検討は、単なる「名前決め」ではありません。それは、その国の文化、歴史、そして消費者の感情を深く理解しようとする「市場への敬意」の表明です。

自社のブランドが、現地の家庭で、街角で、あるいはスマートフォンの画面上で、どのような温度感を持って呼ばれるのか。その一歩先まで想像を巡らせることが、グローバルブランドとしての第一歩となります。

貴社のブランドを「世界の共通言語」にするために

当社では、日本企業の海外進出におけるブランド戦略を、言語・文化・法務の三位一体でサポートしております。

  • 世界各国のネイティブによる「多角的な言語・感性調査」
  • 現地市場に刺さり、かつ権利保護が可能な「現地語ネーミング案」の創出
  • グローバル商標調査と連携したリスクマネジメント

「日本で成功した名前」を「世界で勝てる名前」へ。私たちは、言葉の壁を越え、貴社のブランドに込められた想いを現地の消費者の心へと届ける架け橋となります。

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